テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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生かし嘲笑い幸福を呼ぶ

 オレがオカリナを、楽器を演奏するのに集中しているのでアリーシャにもベルベットにも力を貸すことは出来ない。

 かつてのエレノアとマオテラスの様な関係性になりこの時代で完成された神依を用いて撃った風属性の虚空閃はアイゼンから溢れ出す穢れを断ち切ると更にアイゼンから穢れが溢れ出る。コレはあくまでもオレの推測だがドラゴンは浄化出来ないんじゃなく、浄化のやり方が間違っているんだと思う。浄化の力は一方的に押し付けるものじゃない。ドラゴン化は憑魔化とはまた違う感じだ。溢れ出る穢れを浄化するんじゃなく穢れを喰らい尽くす、すっからかんになるまで吸い取るのが正しいんだと思う。

 

「コレが最後のチャンスだ!」

 

 アイゼンから溢れ出す穢れを喰らい尽くす。

 それが出来るのはベルベットだけでベルベットは左腕を喰魔に変化させるとアイゼンから溢れ出した穢れを喰らいにいく……どうする。

 ベルベットもベルベットで出せる力を出している……4人に分身しているから人間のオレが残り3人のオレを放置してアイゼンの穢れを喰らうか?

 

「ちょっと待ってなさい……私の腕が変わってないなら喰らった穢れを撃ち出す事も出来るわ」

 

「邪王炎殺黒龍波でも撃つのか!?」

 

「それを更には進化させる……邪帝煉獄滅龍陣よ!!」

 

 黒いあらゆる物を喰らい尽くす、光すらも飲み込んでしまう闇の炎をベルベットは生み出す。

 闇の炎は龍の頭に変化すると螺旋状の渦を描いて一種の結界もしくは領域の様な物を展開するとアイゼンから溢れ出す穢れを全て飲み込み焼き尽くす。ドラゴンの姿をしていたアイゼンは徐々に徐々に形状を変えていき光る球に姿を変えていく。

 

「……オレはあの時の約束を果たさなければならない」

 

 光る球はアイゼンの声を発した。

 アイゼンはあの時の約束を、ザビーダと交わしたザビーダに殺される事を望む……はぁ

 

「お前、ええ加減にせえや」

 

 死のうとしているアイゼン。あんな事があったのだから後悔はしていないだろうがそれでもだ。

 

「たった1人のお前の家族がお前を助ける方法を探そうとしてんねんぞ。なのにお前が諦めてどうすんねん」

 

 思わず素の口調が出てしまうがそれを気にせずにアイゼンを睨む。

 エドナは今こうしてオレ達が戦っている中でもドラゴン化をどうにかしようとしている。それなのにアイゼン自身が生きる事を諦めてしまってどうする。自分の旅路の果ては、旅の終わりは自分で決めると舵を取るのを諦めてどうするんや

 

「エドナ……」

 

「エドナちゃんはお前をどうにかしてやりたいと思ってる……あん時の約束を気にしてるんだったらよ、お前が生き抜いてくれよ」

 

「あんたにとって大事な人が待って居るんでしょ?」

 

 あの時の約束をアイゼンは気にしているがザビーダは気にするなと言う。

 

「お前が生き抜いてくれたら俺はお前を嘲笑う事が出来るんだ……あん時は諦めるしかなかったかもしんねえけど、今は違う……生きろ、アイゼン!!最後にコイツをくれてやる!」

 

 ザビーダはアリーシャの体を使ってジークフリートを取り出すと光る球を撃ち抜いた。

 光る球は波紋を広げると徐々に徐々に形を変えていき……アイゼン本来の姿になった

 

「エバラエバラエバラエバラエバラエバラエバラ…………ごまだれ〜!!」

 

「なにやってんだあいつ?」

 

「謎とか解いたりアイテムを見つけたりするとああするのです」

 

 元に戻ったアイゼンの足元にドラゴンの顔の面があったので手に取り叫ぶ。

 穢れの塊がドラゴンの面を作り出した……そしてアイゼンを元に戻すことが成功した。

 

「元に……元に戻った、です、の……」

 

「アリーシャ!」

 

 神依が解除されるとアリーシャは足がふらつき、ゆっくりと倒れる。

 緊張の糸が途切れたのかと思うとアリーシャの体温が普段より高く額に手を当てると熱かった。アリーシャは熱を出していた。

 

「俺の器になっちまったせいだ」

 

「エレノアの時と同じなわけね……ふぅ……」

 

 エレノアの時もスレイの時も人間が天族を器にした際に高熱を出してぶっ倒れた。

 似たような現象を今まで何度も見ているのでベルベットはホッとしているとドッと汗を掻いた。

 

「悪いんだけど、何処かで休ませて……私も無理っぽい」

 

「あ、おい!」

 

 フラフラとオレ目掛けてベルベットは倒れる。

 ベルベットも邪王炎殺黒龍波よりも上の力を使って相当な無茶をしてしまった様で限界を越えてオーバーヒートを起こした。

 倒れるベルベットとアリーシャを抱えてアイゼンとザビーダを見つめる。何処かに休まる場所があるはずだ。

 

「ついてこい、こっちにオレとエドナが住んでいた家がある」

 

「ああ、助かるわ……流石にこの状態の2人をレディレイクに連れて帰るのは……色々と厄介な事になる」

 

 こっちだとアイゼンはレイフォルクの奥へと突き進むと一軒の小屋があった。

 アイゼンとエドナが嘗て住んでいた家であり何処か風格の様なモノが漂っており中に入ると何時かだったかアイゼンがエドナに向けて送った骨董品の壺が置いてあった。価値の分かる人にしか分からない逸品でそうでなければゴミ扱いなのだが……エドナは兄からの贈り物だからとちゃんと受け取ったみたいだな。

 

「……」

 

「……」

 

 ベルベットとアリーシャを布団に叩き込むとアイゼンとザビーダは見つめ合っていた。

 ガンを飛ばしてるとかそんなんじゃなく、ただただ無言で見つめあっておりなにか言わないのかとオレも無言になっている。

 なにか言えよと言いたいのだが敢えてなにも言わない

 

「……やってやったぞ」

 

 どちらが均衡を崩すのかと思っていると先に口を開いたのはザビーダだった。

 ザビーダは自慢げな顔になり、ポケットからコインを取り出してアイゼンに投げた。

 

「お前はあん時、殺すことで救われる奴が居るって言ってたな。そんな奴は何処にも居ねえんだよ。こうやって生きてもう一度憎たらしい顔を見てこそ、バカみたいに笑い合ってこそ救われるんだよ……俺もお前も」

 

「……オレは自分で自分の舵を握っていた。あの時の約束を果たす覚悟は決めていたのに邪魔しやがって」

 

「文句なら俺じゃなくてそこにいる奴に言ってくれよ。俺は元々は殺すつもりでいたんだ……あん時と同じ様に足掻く権利を与えてやった。その結果がこうなっちまったんだ。文句を言うんじゃねえ」

 

「……ゴンベエ、アメッカ、礼は言わんぞ。人の舵を勝手に切り替えた事は恨んでおく」

 

「おいおい、助けてもらってありがとうございますもないのか……まぁ、そっちの方がお前らしくていいけどよ」

 

 元々死ぬつもりでいたアイゼンをアリーシャとオレの最後の足掻く権利を行使して元に戻した。

 覚悟ガンギマリのアイゼンを元に戻せたからそれは良しとする……あんまり深く物事を考えるとメルキオルのクソジジイみたいに含蓄垂れるクソッタレになる。余計な事は考えない様にしておこう。

 

「ああ、1つだけ言っておく。マオクス=アメッカは偽名だ。アリーシャの本名はアリーシャ・ディフダで、マオクス=アメッカは今の導師が名付けた真名だ」

 

「……待て……真名をオレ達に偽名として使っていたのか!?」

 

「まぁ、そうなるな」

 

「お前、真名がどれだけ大事な物なのかを知っているだろう!マオテラスがマオテラスだと言うのを躊躇っているのを見ていなかったのか!」

 

 予想していた事だがアリーシャに真名を騙らせた事をアイゼンは怒る。

 それだけ真名というものが大事なものであり、アリーシャはそこかしこにどころか下手したら歴史に真名を残してしまっている。

 

「その件に関してはホントに申し訳ないとは思っている。本名を名乗るわけにもいかないし偽名として使うには丁度いいと使ってた」

 

「お前、ホントに分かってるんだろうな?アメッカ……いや、アリーシャに対して責任を取らないといけないぞ」

 

「ちゃんと責任を取ってアリーシャの旅に付き添うよ」

 

 アリーシャは平穏で平和な世の中を、穢れの無い世界を作りたいと思っている。

 その為にはローランス帝国に行って戦争を反対している人を味方になってもらって和平を結んでもらったりしなければならない。乗りかかった船だ。ベルベットとの生活もあるが、アリーシャの事も気にかけておかないといけない。

 

「それで責任を取ったと言えるのか?」

 

「いやいやいや……あの、アレだから。色々とあってベルベットと同棲する事になったから」

 

「ベルベットを幸せにする横でアリーシャちゃんも幸せにするか……お前それ二股じゃねえか」

 

「待って!話が飛躍しすぎている!!ベルベットとは同棲しているだけでアリーシャともそういう関係じゃない」

 

 責任を取らないといけないけれども、それはそういう意味での責任を取るというわけではない。

 

「お前、この期に及んで逃げるつもりなのか?」

 

「アリーシャちゃんもベルベットも地獄の果てまで追い掛けてきそうだぜ」

 

「地獄の果てって、あそこまで来るか?」

 

 一度足を運んだ事はあるけれども2人ならば逃げた場合地獄の果てまでホントに追い掛けてきそうで怖い。

 あの二人ならばありえると血の気が引いているとアイゼンはコップに酒を注いで口にする。

 

「ドラゴンになってからは薄らぼんやりとしか意識はなかった……アレから何年経った?」

 

「200年だ……今もまた災厄の時代だ」

 

「今もまた(・・)か……まだでないだけまだマシと言うわけか」

 

「どうだろうな……アレからホントに色々とあってな。今の導師もライラちゃんと上手くやれてるにはやれてるけど……結局は同じ事の繰り返しだ」

 

 天族を信仰する事を忘れ、天族に見放されて、加護領域が無くなる。

 そこから良くない災厄が巻き起こる。人々の心は淀んで穢れを生み出す。霊応力が高い人間が浄化の力を持った天族を器にして導師となって世界を救う。

 この1000年の間にそれが何度も何度も繰り返してきた……そして今回もそうなろうとしている。豚が言っていたが天族が見える人間は激減しているとかで……スレイが死んだら見える奴は居なくなって大変な事になるだろうな。

 

「今の時代の災禍の顕主に会った……なんか偉そうにしててな。一回封印して海の底に沈めてやったがあの後どうなったのかは知らん」

 

「仕留めなかったのか?」

 

「ライラに邪魔者扱いされたから止めた……今となってはそれで良かったと思っている。どうやってるかは知らないが、ヘルダルフの手中にマオテラスがある。ヘルダルフを殺せば連鎖的に死ぬ可能性があった」

 

 スレイがなんやかんや上手くやってくれるだろうが、あの時に殺さなくて良かったと言える。

 マオテラスは自分の身よりも眠りについているベルベットを守れなかった事を謝ったりしていた。

 

「マオ坊は長い間、浄化活動や布教に頑張ってたけど限界が来ちまった。憑魔化してる可能性がある」

 

「殺すつもりか?言っておくがそんな事をすれば初代災禍の顕主様がブチギレて今度は甥っ子の為に復讐鬼に変わるぞ」

 

「わぁってるよ、それぐらい……殺さねえで救う方法があるんだったらそれに越したことはねえ……それを今日、お前達が証明してくれた。救えねえ筈の命を救う事が出来た。お前には感謝しても感謝しきれねえ」

 

「礼はアリーシャに言えよ。オレは別にアイゼンを殺しても構わなかったんだからよ」

 

 殺しを救いなんて言うつもりは無いがアイゼンはアイゼンで覚悟を決めていてドラゴンになったんだ。

 介錯を手伝うのも1つの手だったがアリーシャが嫌がってたから介錯を手伝う事をやめたんだ。

 

「そうだな、アリーシャちゃんには感謝してもしきれねえ……穢れの無い世の中を作り上げたいんだってな。だったらザビーダお兄さんが一肌脱いでやるか」

 

「義理と人情で動くつもりか?」

 

「悪いか?……アリーシャちゃんは覚悟を決めるだけじゃなく結果も残したんだ。この大陸には1000年前のマオクス=アメッカにお礼を言いたいと言っている天族は結構居る。アリーシャちゃんは子孫って設定を盛れば力を貸してくれる」

 

 救って良かった天族達、といったところか。

 今までやってたことがなんだかんだで繋がっている……改めてこの時代が未来であり現代でもあるというのがよく分かる。

 

「アイゼンはどうするつもりだ?」

 

「自分の舵は自分で取る……だが、お前達に助けてもらったのもまた事実だ。今の世の中がどうなっているのかは知らんがアリーシャの言う平和で穢れの無い世の中を作るのには協力してやる」

 

「そう言ってくれるだけありがたい……って言っても、元々はアイゼンの協力を得る為に此処までやってきたんだ。嫌だと言ってもアイゼンを連れて行くつもりだ」

 

 まさかザビーダがちゃんとした仲間になるとは思いもしなかった。

 ドラゴン化したアイゼンを元に戻す事になるとは思いもしなかったし…………大丈夫なんだろうか。一応はこの世界、テイルズオブゼスティリアとかいうゲームの世界で、もしかしたらスレイがアイゼンを救ったりする運命だったのにオレが勝手に救って良かった……のだろうか。

 ブラッククローバーとか一部の転生先では自分だけじゃなく主人公達をある程度は鍛え上げとかないと原作で詰むみたいな世界も一応は存在している……マズいな。原作知識無いから今自分がやってる事が正しいのかどうかが分からない。虚淵作品じゃないからバッドエンドには行かないだろうが……困ったもんだ。

 

「そういや、お前を元に戻した時になんか拾ってたけどなんだありゃあ?」

 

「ああ、ドラゴンの面ね……ちょっと外に出るぞ」

 

 此処でやれば確実に面倒な事になる。

 一度アイゼンの家を出てからドラゴンの顔をした面を見つめる……癒やしの歌で出てきた面という事はそういう事なのだろう

 

「グッ、ムワァアアアアアアアアア!!」

 

「お、おい!」

 

「穢れを放ち始めたぞ!!」

 

 ドラゴンの顔をした面を顔に付けるとオレの体から膨大なまでの穢れが溢れる。

 それだけでなくオレの体が穢れに包まれるとオレの体は段々と変化していき……つい先程まで死闘を繰り広げていたアイゼンに似た姿のドラゴンに変貌していた。

 

「嘘だろ、今度はお前がドラゴンになっちまったのか!」

 

「いや、待て……暴走していないぞ」

 

「聞こえるか、お前等」

 

「普通に喋りやがった!どうなってんだ!!」

 

 オレ自身、今、自分がどうなっているのか滅茶苦茶気になる。

 手を見てみると蜥蜴の様に鱗に包まれており、紛れもなくオレは巨大なドラゴンに変身していた。

 

「癒やしの歌の影響だな。あの歌で救われない魂を癒やしたらお面になる……本来ならばアイゼンがお面になる代わりにドラゴンのお面が出来たと言ったところか」

 

「んだよ、それ……意味分かんねえぞ」

 

 安心しろ、オレもイマイチ理解出来ていない。

 とりあえずお面を外す時と同じ要領で手を顔に触れさせて引っ張るとドラゴンから元の人間に戻った。もう一度お面を付けてみると穢れに溢れて再びドラゴンに変身した……どうやらドラゴンに自由に変身する事が出来る様になったみたいだな。無駄にデカいから使い所がイマイチ分からないがとりあえずは便利な能力を手に入れた。

 

「……!」

 

「目が覚めたか」

 

「アイゼン様……そうか……私達はやったのか」

 

 ドラゴンになる事が出来るようになったと喜びアイゼンの家の中に入るとアリーシャがタイミング良く目を覚ました。

 アイゼンを見てあの後どうなったのかを思い出す。不可能だと思われたドラゴンを元の天族に戻す事が出来たのだと喜びを見せる。

 

「お前達に助けてもらった恩はある。ロクロウの様にとは言わんが義理は果たす」

 

「俺もアリーシャちゃんに着くぜ」

 

「二人共力を貸してくれるってよ」

 

「!……ありがとうございます!」

 

 なにはともあれハッピーエンドに向かおうとしている。

 アリーシャは頭を下げてアイゼンとザビーダにお礼を言うのだが2人の方がお礼を言いたいだろう……さてと

 

「この後、どうするんだ?」

 

 ベルベットはまだ眠っているが今後について決めなければならない。

 このままレディレイクに帰るのかそれとも……

 

「ローランス帝国に行こうと思う」

 

「ローランスって隣の国だろ?パスポートとかVISAとか大丈夫なのか?」

 

「パスポート?ヴィザ?」

 

「悪い。軽い冗談だ、流してくれ」

 

 この世界にパスポートとか就労ビザとかあるわけない。

 あった方がなにかと世の中便利に成るのだがそれはそれとして置いておく。

 

「ローランスにも戦争を食い止めようとしている人がいる。その人を主体にしローランス側で戦争推進派を納めてもらう」

 

「ローランスはって、ハイランドはどうすんだよ?」

 

「それは……恐らくだが問題は無い」

 

「何故そう言い切れる?」

 

「この戦争は裏で災禍の顕主であるヘルダルフが操っている。ハイランドにはゴンベエが居て、ヘルダルフは一度痛い目に遭っている。ゴンベエへの復讐を果たすかゴンベエに関わらないかのどちらかで、あの戦争での一件で両国鉾を鞘に納めようとしている」

 

 オレ、何時の間にやら災禍の顕主を抑える抑止力的な存在になってるな。

 まぁ、またヘルダルフが裏で糸を引いて戦争を巻き起こして表舞台に姿を現すのならば徹底的にシバき倒す。マオテラスを引き剥がしたらぶっ殺すのも1つの手だ。

 

「ローランスの首都であるペンドラゴへ向かう。既にハイランドから使者を送ると書状を送っている」

 

「お前、そんな事をしてたのか」

 

「私だってゴンベエに頼りきりじゃないんだ、裏で色々と頑張っている…………ペンドラゴに向かうのと同時にスレイも探す。平和な世の中を作る為には心の拠り所を、導師の存在が必要不可欠だ」

 

「そこなんだよな……湖の乙女に邪魔者扱いをされてるんだよな……さて、どうしたものか」

 

「その辺りについても一度真面目に話し合いたい…」

 

 話し合いで解決する事が出来る案件かどうかはまた別として……アリーシャの顔を立てて、ベルベットの顔を立てて、今度はスレイの顔も立てないといけないとかめんどくせえな、ホントに。

 

「グレイブガント盆地を経由してローランス帝国に向かうぞ」

 

「だが、あそこには軍の駐屯地が」

 

「んなもんどうにでもなるんだよ…………1000年、あれから1000年経過して地図は大きく書き換わっているが一度でも歩いた事のある場所なら走らせる事が出来る」

 

「……まさか」

 

「ああ、そのまさかだ……大地の汽笛でローランスを目指すぞ」

 

 大地の汽笛で一気に駆け抜ける。今まで使うことがなかったアイテムを今ここで使わせてもらう。

 ハイランド側はあんまり文句を言わねえだろう。なにせ大地の汽笛という蒸気機関すらまともに無いこの世界だ。ローランス帝国側からは黒船並に未知の存在になっているだろう……ハイランドの戦争反対派は大地の汽笛を走らせる事で国が豊かで優れた技術力を持っている事を見せつけてほしいという富国強兵の思想をもっている。ならばそれを生かすに越したことはない。




スキット 時を越える大罪

ザビーダ「そういや、お前に渡しそびれたもんがあったわ」

ゴンベエ「なんだ?」

ザビーダ「コレだよ。オラァ!!」

ゴンベエ「っ!」

アリーシャ「な、なにをなさってるのですか!?」

ザビーダ「この野郎、結局ドラゴンになっちまった天族を元に戻せるじゃねえか!!今みたいに救えるならあの時にどうして救おうとしなかったんだ」

ゴンベエ「オレはあくまでも過去は過去として見届ける為に居たんだ。下手に歴史に介入出来ねえ」

ザビーダ「ざけんじゃねえぞ、口ではそう言ってるがアイフリードやベルベットを助けてるじゃねえか!全部、お前の匙加減1つで決めやがって、ふざけるのも大概にしろ」

ベルベット「ゴンベエを許す事が出来ないのは私も同じ気持ちよ……恨み言は沢山あるわ」

アイゼン「オレが元に戻ったのはオレだったからという可能性もある、まだ完全にドラゴンになった天族を元に戻すシステムは完成していない……ゴンベエ1人を責めるのは酷だ」

ザビーダ「……お前は時間を越える事が出来るんだろ……だったらテオドラがドラゴン化する前に浄化は」

ゴンベエ「出来るか出来ないかで言えば出来なくもない……だが、ドラゴンになる前のテオドラの前にオレやアリーシャが現れていない。コレがどういう意味か分からないお前じゃないだろう」

ザビーダ「……ああ、クソ。嬉しいんだかムカつくんだかよく分からねえ。なんだよこの胸のモヤモヤは」

アリーシャ「必死になって、それこそ時を越えるという禁忌を犯せば誰かを救う事が出来る……だが、それは本来やってはいけない事。人を助ける事が出来るとしても……どうすればいいのだろう」

ゴンベエ「時を越えて自分達にとって都合のいい歴史に改竄出来る力があったとしてもそれを行使するかしないかは、その力を持っている人次第だ。ザビーダは過去を変えたいと言う思いとあの時があったから今の自分は存在しているの2つの思いが重なっている……コレばかりはオレ達が横から口出しをしてああだこうだ言ってもどうにもならねえ。自分でどうにかして割り切らねえと」

ベルベット「過去を変える……」

アイゼン「お前もやり直しをしたいのか?」

ベルベット「……都合のいい夢はもう見飽きたわ。例えそれが理想的なものだとしても残酷で理不尽で非情な現実に私は舞い戻るわ」

アイゼン「相変わらずお前は強いな」

ベルベット「そんなに強くはないわ、泣きたい時だって泣くわよ。涙は……もう充分に流して受けとめてもらったから」


スキット 呼び方その2


ザビーダ「どんな気持ちだ。死神の旦那」

アイゼン「……元に戻してくれた事に関しては礼は言わんぞ。オレはお前に殺される覚悟は出来ていたんだ」

アリーシャ「アイゼン様、私達は私達の都合で貴方を元に戻しました。礼を言われる様な事はしていません」

アイゼン「……」

ゴンベエ「まぁ、なにはともあれお前を元に戻す事に成功した事を喜んでくれるお前の大事な奴は居るんだ……元に戻れて良かったと思っとけよ」

ベルベット「1番大事な人を1番悲しませるんじゃなくて、1番喜ばせる事になったって思いなさい」

アリーシャ「きっとエドナ様はアイゼン様を見て大喜びしますよ……アイゼン様、貴方が生きている、元に戻ったと言うだけでもエドナ様は幸せになります」

アイゼン「……」

ザビーダ「会いたくねえのは分かるけどよ、一回はどっかで腹くくらねえと……エドナちゃんはお前の為に誓約までかけてたんだぜ」

ゴンベエ「え、マジで?そんな素振りは見なかったけど」

ザビーダ「冷静に考えてみな。エドナちゃんは清浄な器があるわけでもねえのに、10年以上も穢れずにいたんだ……エドナちゃんは毎日歳の数だけピーナッツを食うって誓約を掛けてたんだよ」

ベルベット「ピーナッツを毎日って……そのエドナってアイゼンの妹は聖隷でここは1000年後の未来だから毎日相当な量を食べてきたのね」

ゴンベエ「よく飽きずにピーナッツを1000粒以上食べれたな。オレなら3日目で飽きて限界が来るわ」

アリーシャ「それだけエドナ様はアイゼン様の側に居たかった証拠だ」

アイゼン「……アメッカ、いや、アリーシャ」

アリーシャ「はい、なんでしょうか?」

アイゼン「やめろ」

アリーシャ「え?」

アイゼン「この時代では天族を信仰する文化が出来ていてお前が天族に敬意を示しているのは分かった。だが、その敬意をオレに向けるんじゃねえ」

ゴンベエ「あ〜そこ、気にするのか」

アイゼン「オレは幸福でなく不幸を呼び込む死神だ。祀られる様な存在じゃない」

アリーシャ「ですが」

アイゼン「頼むからやめてくれ……アメッカ」

ベルベット「恐怖の象徴になったりはしたけど祀られたりするのには馴れてないのね」

アリーシャ「あの時はマオクス=アメッカでしたが今はこの時代の本来の時間軸を生きるアリーシャ・ディフダです」

アイゼン「アメッカ呼びが嫌ならば1000年前と同じ様にしろ……」

ゴンベエ「ザビーダは気にしないのか?」

ザビーダ「時を越える前にお前等に出会ったからな……正直なんとも言えねえ。天族を信仰する文明になった反面、顔見知りに様をつけられて……ま、美女から様付けなんて嬉しい限りだがよ」

ベルベット「あんたね……」

ゴンベエ「アリーシャ、アイゼンもこう言ってるし前みたいに接してやれよ」

アリーシャ「だが……」

ゴンベエ「……アリーシャ様、アイゼン様もこう仰ってるのですよ。我儘を言ってはなりません」

アリーシャ「っ……分かった。アイゼン、これでいいか?」

アイゼン「ああ、それで頼む……ゴンベエも普通にしろよ」

ゴンベエ「分かってるよ……エドナが見たら驚くだろうな」

アイゼン「おい、誰に断って人の妹を呼び捨てしてるんだ。様をつけろ、バカ野郎が」

ベルベット「あんた散々会わない様にしている割にはシスコンね」

ゴンベエ「お前はブラコンだろう」

ベルベット「今はあんたにゾッコンよ」

ゴンベエ「お前マジでそういう不意打ちは勘弁してくれよ」

番外編

  • 続 異世界プルルン転生記
  • ちょっと昔のゴンベエ達(地獄)
  • ザレイズ 総力戦 決戦KCグランプリ
  • まゆゆんの貧乏くじ
  • スペシャルスキットの続き

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