「ふんんんん……はぁ、はぁ……ダメだ、抜けない」
「お疲れ様です、コーラをどうぞ」
聖剣祭がはじまり、湖の乙女……ライラ様が宿ると言われている聖剣を抜こうとする者がやって来る。
だが、抜くことは誰にも出来ない。あの聖剣を抜くことが出来るのは、ライラ様を肉眼で捉えてライラ様と契約して導師になる者のみ……のはず。そう言う風にしているのに何故かゴンベエは抜けたとのことで、詳しいことはわからない。
「ありがとう……ふぅ」
聖剣を抜こうと挑戦した者達に私はコーラを配る。
私におかえしとタダで貰ったコーラと氷は私一人では使いきれない。
おかえしと貰ったが、本来ならば私は貰う側じゃない。眼鏡を修理した上に貰うのは貰いすぎだ。
せめてなにかに出来ないかと考えた結果、コーラを配ることにした。聖剣祭はハイランドの人達がレディレイクに集う、此処でコーラを飲んで貰えればコーラの噂が広まる。そうすれば買い手が増えてゴンベエの商売も繁盛する……私が出来るちっぽけな恩返しだ。
「未だ、ライラ様に気付く者はいないか」
何処にいるかは分からないが、恐らくこの聖堂内にライラ様はいる。
そのライラ様を肉眼で捉える事が出来る者こそ、あの聖剣を引き抜くことが出来るだが、そんな人は何処にもいない。
「アリーシャ様」
「どうした?」
「ナナシノ・ゴンベエの使いらしき人物が裏口から来ていますが、その」
「ゴンベエの使い?」
次のコーラを入れていると警備をしていた衛兵がやって来た。
ゴンベエからの使い、そんなのは今まで一度も見たことがない。この街と家の往復しかしておらず、物を売りに来るのと食材の買い出し以外は基本的にこの街に来ないのならばゴンベエの名を騙って裏口から入ろうとする者か?
「……実は、その物が眼鏡を持ってきていまして」
「っ、その者は何処だ!?」
「ハッ、裏にいますが、それが?」
「連れてきてくれ」
警備の衛兵は私の命を聞くと、裏に向かう。
ゴンベエの使いが誰なのかは知らないが、眼鏡を見せたと言うことはあの眼鏡を直してきた。
「姫、どうかしたか?」
「ゴンベエからの使いが、来たそうで」
「あの男のか?……名を騙っている者ではないのか?少なくとも、姫以外と親しき者と一緒にいる光景を見たことがないが」
「それは……」
もしかしたら、偽者かもしれない。そんな不安が過ったが、直ぐにそれは消えた。
「アリーシャ!」
「スレイ!?」
ゴンベエからの使いは、スレイだった。
「よかった、やっと会えた」
手を振りながらやって来たスレイは一息つく。なにやら焦っているようで、私を見るとホッとしている。
「姫、こちらは?」
「彼は……」
「俺はスレイ……え~っと、そう。アリーシャが旅してる時に出会ったんだ」
「そ、そうです。彼は森で迷った私を助けてくれたのです」
スレイについてどう説明しようと考えていると代わりにスレイが答えてくれた。
師匠に対して嘘をついている事は苦しいが、あそこで起きた出来事は全て喋らないと誓った故に喋れない。
「そうか、感謝する」
「この方はマルトラン卿、この聖剣祭の実行委員長で私の槍術の師だ」
「俺はスレイです、よろしく」
「よろしく、スレイ殿」
「スレイ、どうして此処に?聖剣祭に参加しに来たのか?」
「ああ、そうだった。取り敢えず、先にゴンベエのおつかいをすませないと。はい、アリーシャにお届け物」
此処に来た理由を聞くと箱を取り出す。私はそれを受け取り、中を開くと眼鏡が入っていた。
「ほぅ、あの男、姫に贈り物をするとはな」
「っ、マルトラン卿!違います、これは決してそういうあれではありません!!」
眼鏡を見てニヤニヤと笑う師匠。だが、これは男性が女性に気持ちを現すものでなく天族が見える便利な眼鏡で、それ以上でもそれ以下でもありません。大体ゴンベエがそう言う気の利いた物を私に渡すはずがない。本人が損得勘定で生きている部分があると言っているぐらいですよ。
「そういうあれって?」
「す、スレイは気にしなくて良い!!」
「え~……あ、それって前に言ってた眼鏡か!」
見えない誰かと会話をしているスレイ。
それを見て私は冷静さを取り戻し、届けられた眼鏡をつけるとスレイの隣にミクリオ様が立っていた。
「見える……」
「レンズの色以外は何処にでもある普通の眼鏡なのに……伝承にもそんな眼鏡は登場しないのに彼はいったい何処でこんなものを」
まじまじと私のつけている眼鏡を観察するミクリオ様。
この眼鏡についてはなにも分からず、一先ずはゴンベエのおつかいは終わる。
「どうして、レディレイクに?」
「此処だとあんまり言えないから、裏でいい?」
「……余程のことか」
あの場所を出てまで此処にやって来たのならば、かなりの事が起きたと考えられる。
スレイの言う通りに聖堂の裏に向かい、人を払ってなにが起きたかを……私を狙って暗殺者がやって来たと、その裏に大きな誰かがいると教えてくれた。
「アリーシャ、もし心当たりがあるなら教えてよ。俺達が調査して証拠を見つけてアリーシャの暗殺を依頼した奴を捕まえる!」
「スレイ、気持ちは嬉しいがそれは無理だ」
「スレイ殿、恐らく姫の命を狙ったのは高官の者だ。この国で地位のある者故に犯人を特定する前に揉み消される可能性が、いや、既に消されたかもしれない」
心当たりは決して無いわけじゃない。だが、スレイと普通の人には見えないミクリオ様が調べてどうにかなる相手ではない。
暗殺者に狙われる危険性があるのに身を呈してまで此処にやって来て教えてくれたのは、本当に本当に感謝している。
「暗殺者が居ると分かっていても、狙われていると分かっていてもビクビクと怯えるわけにはいかない」
「けど、アリーシャ」
「心遣い、感謝する。だが、臆すわけにはいけない。間もなく、聖剣祭の締めの【浄炎入灯】が行われる……此処まで来たのならば、最後まで見ていって欲しい」
浄炎を祭壇に捧げる儀式で、聖剣祭は終わりを迎える。
だが、浄炎と言うが浄化の力は一切宿っていない……真実を知っているだけに、心苦しい。ゴンベエと出会う一年前に浄化の力等の真実を知り、なんどあの剣が抜ければと思ったのだろうか。
「アリーシャ、すごいね」
「為政者の覚悟と言うものなんだろう」
「ところで、その眼鏡を渡した奴は何処に?」
「教会に行きたくないって言ってて、多分、街の何処かにいると思う」
「何処かとなると、今から探しても間に合わないか……これはこれでよかったのだろうな」
師匠はゴンベエが居ないことに少しだけ安堵する。
「ゴンベエ、なにをしたんだ?」
「私は直接見ていないが、奴はあの聖剣を抜いてもう一度突き刺して帰ったそうだ。神父達は当時は導師だと驚いていたが……スレイ殿は彼が伝承で伝えられている導師に見えるだろうか?」
「見えないな、彼が導師なんて何かの間違いか世界の終わりだ」
師匠、ゴンベエは口や性格は酷い時がありますが本当はいい人です。それとゴンベエはこの少しの間でいったいなにをしたのだろう。ミクリオ様が嫌悪感を出している。色々と聞きたかったが、今は聞く暇はなく聖堂に戻って聖剣を引き抜く者がいないか見守る。
「ライラ様が寝ている……そうですか…この場には、いないのですね」
見守っていたら、ライラ様が寝ていることに気付く。
この聖剣祭の催しである聖剣を引き抜く剣の試練、それを抜ける者は何処にもいない。だから、ライラ様は寝ている。
剣を抜こうと挑戦しに来た者達では誰も抜けないと気付いているから。もしかしたらという思いはあったが、儚い希望はあっさりと砕け散る。誰も抜くことが出来なかった。
「レディレイク、そしてハイランドの人々よ!」
聖剣に挑むものは消え、浄炎入灯の儀がはじまる。ここ数年飢饉が続き、何時戦争になるか分からない。穢れが生み出した憑魔が原因で異常気象などが起きたりしている。そんな時に祭事と思うがだからこそしなければならない。改めて、天族への祈りを捧げなければならない。その思いを声にし私は免罪符を祭壇の炎に捧げようとするとライラ様が目覚める。
「湖の乙女よ、我等の憂いを罪を汝の猛き炎で浄化したまえ!!」
「アリーシャさん……」
体をゆっくりと起こすライラ様は申し訳なさそうな顔をする。
分かっております、祭壇の炎はなんでもない極々普通の炎で、浄化の力が宿っていないのを。私は炎に免罪符を捧げ、振り向いた。
「レディレイクよ、ハイランドの人々よ!この祭りを我々の平和と繁栄の祈りとしよう!!」
この聖剣祭を切っ掛けに、天族への祈りと感謝の念を取り戻して欲しい。
そう強く願うと石が飛んできた。
「祈りがなんだってんだ!!これで俺達の仕事が戻ってくるってのか!!」
石を投げたのはこの街の住人……聖剣祭をよく思っていない者達で我慢していた不満が爆発した。
何時大きな戦争になるか分からない、そのせいで武具や作物の通称権が制限されている。石を投げたのは、その制限で仕事を失った者だ。
「俺達はこんなご機嫌とりに誤魔化されねえぞ!!」
「貴様、祭りの邪魔をするな!!」
「やめないか!!」
衛兵が槍を向けるが、その槍は民を傷つける者ではない。誰かを守るためにあるものだ!!
私の言葉が届いたのか、衛兵は槍を向けるだけでなにもしないが代わりに別のところから石が飛んで衛兵に当たった。
「へへ。ざまあみろ!」
「っ!!」
他の誰かに石を当てられキレた衛兵は槍を振るった。
街の人達に槍の刃は当たらなかったが、尻餅をつき衛兵は歩く。一番最初に石を投げた男を無視して、何処かにいく。
「アリーシャ、この騒動、仕組まれたんだ!!」
衛兵は感情に任せて槍を振るうことなく何処かに消え去った。端で見ていたスレイは直ぐにさっきの衛兵はわざと攻撃したと気付く。
「あの衛兵は、大臣の手の者かもしれぬ!!」
「っ、民までも利用して勢力争いをするのか!!」
此処で暴動が起きれば怪我人が出れば、私の責任になる。
そうすれば私の地位や権限、立場が危うくなり大臣はより強い力を手に入れれる。私が邪魔なのは知っている……だが、だが、ここまで堕ちたか!!
「皆の者、落ち着け!!」
「何時だって法は民を守らねえ!!誰のお陰で飯が食えてると思ってるんだ!」
師匠の言葉は誰にも響かない。街の人は私に襲い掛かろうとするが、間にスレイが入って投げ飛ばす。
「アリーシャ!」
「スレイ、危険だ!」
この場には沢山の街の住人達がいて、怒りの矛先を私達に向けている。このままだとスレイにまで向いてしまう。
「いけません、敵意に、負の感情に身を任せては!!このままでは穢れで憑魔が生まれてしまいます!!」
ライラ様も暴動に慌てるが、スレイと私以外には声は届かずなにも出来ない。そして
「人間が憑魔になった……」
邪心が悪意が怒りが生み出した穢れに飲まれて、熊のような憑魔へと変貌した。
私とスレイ以外には憑魔として見えておらず、眼鏡のレンズを通さずに見ると白目を向いて理性を失ってる人が暴れていた。
「湖の乙女、どうにかならないの!?」
「君は浄化の力を持っているんじゃないのか!?」
「天族?それに、貴方は私が見えているのですか!?」
この状況を唯一どうにか出来るライラ様にスレイとミクリオ様は助けを求める。だが、ダメだ。
「スレイ、ライラ様は浄化の力を持っているのではない。ライラ様と契約した者が……ライラ様の器となり剣となり導師となった者が浄化の力を扱える!!だが、ライラ様の器になれるのは天族を肉眼で捉えられるゴンベエだけで」
「天族を肉眼で捉えられれば、強い霊応力があればいいんだな」
「スレイ、避けろ!!」
今ここにゴンベエはいない。ゴンベエが此処に居てくれれば、どうにかなるかもしれないと思っていると狼の憑魔が暴動の中で飛ばされ祭壇の炎の中に入り、火種がそこかしこに飛んでカーテンや垂れ幕に燃え移る。
「炎の色が!」
燃え移るだけでなく、更には炎の色も変わった。
「ミクリオ、この炎を消して!!」
「無理だ、スレイ!普通の炎ならまだしも、あの紫色は穢れを纏っていて憑魔と変わらない!!僕がどうにか出来るのは普通の炎だけだ!」
「ああ、分かっている!だから!」
「スレイ……まさか!!」
スレイは聖剣を握った。抜いた者こそが導師となる剣を握ったと言うことはスレイは導師に、ライラ様の器になるのか!?
「お待ちください!!貴方が私の声を聞き、姿が見えるならばそれは可能です!!ですが、導師になると言うことはコレから先に様々な困難が待ち構えています!ただ凶暴な憑魔を打ち倒し穢れを浄化するだけではすみません。強すぎる力ゆえに人々とから警視され続けるかもしれず、恐らく貴方が思っている以上のものです!!過去にゴンベエと言う方がいましたが、その御方はそれを理解し導師になる事をしませんでした!!」
「スレイ、ライラ様の言うことは確かだ!過去に私はとてつもない憑魔に……ドラゴンに出会った!!もし、君が導師になると言うことはいずれあのドラゴンと対峙しなければならない!」
導師の力がどのようなものかは詳しくは知らない。
穢れを浄化し常人では出来ない事を簡単に成し遂げて超常現象を引き起こせると言われているが、それでも危険がついてくる。エドナ様の御兄様の様にドラゴンになった方とも戦わなければならない。
「ドラゴン!?スゴいな、外の世界は。えっと、ライラだっけ?俺、古代の遺跡を探検したいんだ。古代の遺跡には人と天族の繋がりが眠っていると思う。俺は人と天族が共存して互いに認識しあって幸せに暮らす遥か昔みたいになればいいなって夢見てる……この剣を抜けば、君の器になれば夢へと近付く。人と天族、皆を救える!!」
「スレイ、分かっているのか!これは取り返しのつかないことだ!!確かに君ならば立派な導師になれるかもしれない。だが、考えもなしに行動したらダメだ!!ついさっき」
「でも、放っておけないよ……ライラ、俺の覚悟は出来ている」
スレイは剣を強く握る。この場にいる者を救う為だけでなく、コレから先起きる導師の宿命を背負う覚悟が出来ていた。ライラ様はスレイの言葉を聞くと強く決心し、スレイの隣に立った。
「私は待っていました、私の器となる穢れを生まない御方を!」
ライラ様がスレイの左手に触れると、スレイは燃え盛る炎の様なオーラを身に纏う。
付けている導師の手袋がキラリと光るとライラ様はスレイの手を離した。
「スレイさん、剣を!!」
「ああ!!」
スレイは掛け声と共に聖剣を抜く。
誰一人、動かすことすらままならなかった聖剣をゆっくりとゆっくりと引き抜くとスレイは眩く光った。
「スレイ、君が……災厄を終わらせる導師だったのか」
「っく、スレイ!君が覚悟を決めて、導師になった事はもうなにも言わない!だが、そろそろ此方も限界だ!!」
「っ、何時の間にこれだけの憑魔が……」
ミクリオ様が色々としてくださったが、気付けば憑魔が増えて限界が来た。
人が変化しただけでなく地面からも沸き出るかの様に出現し、どうしようもない状況かに見えた。
「お任せください!!」
だが、そんなどうしようのない状況かは一瞬にして変わった。
ライラ様は札を取り出して穢れを纏った炎に向かって札を飛ばすと穢れの炎をかき消した。
「俺も!!」
それを見て、襲いかかってきた憑魔をスレイは斬り飛ばす。すると、憑魔は浄化されて元の人の姿に戻っていった。
「すごい……っ」
これが浄化の力、これが導師の力。
災厄の時代を終わらせると言われるほどの力は凄まじく……如何に自分が無力だったのかを思い知らされる。
足が早いが料理が下手、足は遅いが料理が上手い。足も遅く料理も下手だが、代わりに勉強が出来る人がいるように才能は人によって異なる。どうして自分じゃないという思いではなく、その才能が無い自分を悔やむ。
「アリーシャ、余所見をするんじゃない!!隣に憑魔が!」
「っ!」
余計な事を考えていた為にミクリオ様に言われるまで、隣に憑魔が居ることに気付かなかった。
10歳ほどの子供ぐらいの大きさの憑魔が私の隣に立っており、槍を持っていた。
「この憑魔は」
直ぐに戦闘体制を取り、槍を構えて距離を取ったのだがおかしい。
狼の様な憑魔とも熊の様な憑魔とも、おたまじゃくしの様なカエルの様な憑魔とも違う。皮膚が木々を思わせる色で、蛸の様な顔をしており他の憑魔と違い、緑衣を着ている。
「!」
「槍か、来るなら来い!!」
体格と合わない青白い光を放つ槍を取り出した。
そちらがそのつもりならば私も戦う……例え導師でなくとも浄化の力がなくとも私にも出来る事はある!!私も槍を取り出して、構えると
「……え?」
木の憑魔は私に槍を差し出した。
「ど、どういうことだ?」
コレは受け取っていいものなのだろうか?
そう戸惑っていると木の憑魔は光る槍を地面に置いて、炎を纏う槍と冷気を纏う槍と雷を纏う槍を取り出して差し出す。
「アリーシャ、それ憑魔じゃない!!」
「憑魔じゃない?」
何処からどう見ても憑魔に見える蛸のような木の憑魔(仮)。
だがそうでないとスレイがいうので、どういう事かと試しに眼鏡のレンズを通さず、肉眼のみで見ると……蛸の様な木の憑魔がいた。
「肉眼で、見える?」
憑魔を憑魔として見るには天族を見ると同様に強い霊応力が必要になる。
穢れに穢れまくったドラゴンならば別だが、それ以外は普通の人の肉眼では見えない。肉眼で見える木の憑魔はドラゴンの様に強い穢れを放たず、あの時と同じ感じがしない。
「!」
「私に使えと言っているのか?」
四本の槍を私に掲げる木の憑魔。
敵対する意思も攻撃する素振りも見せておらず、試しに聞いてみると頷いた。
「この槍は……確か、確か」
一番最初に差し出された青白く光る槍を手に取った。
青白い神秘的な光を刃に宿す槍だが、何処かでこれと似たような物を見た記憶があるのだが、思い出せない。
「アリーシャ、危ない!!」
槍に意識を取られていると狼の憑魔が襲いかかる。
スレイの声で気付いた私は避けて、光る槍を構え
「飛燕月華!!」
下から斬り上げて、打ち上げてから更に蹴りあげる飛燕月華を使った。
「アリーシャさん、いけません!!貴女が憑魔を倒しては浄化、が!?」
「ぐ、ぅううう!!」
私が攻撃した狼の憑魔は苦しんでいる。穢れである黒い靄が表に出ており、時折人の姿に戻ろうとしている。
「穢れが、打ち払われています!?」
「まさか、この槍が?」
浄化の力を持っていない私は憑魔をどうすることも出来ない。
仮に出来ることがあるとするならば、命を奪うことだけであんな事は出来ない。そうなれば、憑魔がああなっている原因はこの槍しかない。この槍を差し出した蛸のような木の憑魔の様なものは何処かと探すと余っているコーラを飲んでいた。
「教えてくれ!この槍を使えば穢れを浄化する事が出来るのか!」
青白い光を何処で見たかは思い出せない。だが、紛れもなくこの槍は普通の槍でないのは確かで聞いてみるのだが、知らないのか両手を肩があるところまで上げて首を傾げる。あの木の憑魔(仮)も詳しくは知らない、と言う事なのだろうか?
「ぐ、ぅるぁああああ!!」
再び襲いかかる狼の憑魔。
先程よりも動きが鈍くなっているのか寸でのところで簡単に避けることが出来て、もう一度と技もなにも使わずに攻撃をしてみた。
「う、うう……」
「穢れが出ていっている?」
狼の憑魔は穢れが抜け出て、徐々に徐々に人の姿へと戻ろうとしている
例えるならば穢れを浄化しているのではなく穢れを祓っている。それに近かった。
「……!」
それに近いだけで、まだまだ未知な部分が多い。
他になにか知らないかと聞こうとすると、木の憑魔の様な者は私の前に立ってシャボン玉を口から吐くと、飲んだコーラをも吐いてシャボン玉に纏わせ、シャボン玉を蹴り飛ばして憑魔にぶつけるとシャボン玉が勢いよく弾けて憑魔は吹き飛び、元の姿――人へと戻った。
「……大丈夫だ、気を失っているだけで大きな怪我も無い」
ミクリオ様が元に戻った街の住人を確認してくださった。と言うことは、今の攻撃も穢れを打ち祓う一撃だったのだろうか?
「君は、いったい……」
今、倒した憑魔が最後の憑魔で騒動は一先ずは納まった……が、目の前に憑魔でないナニかがいる。
「は、ライラ様!」
もしかすればライラ様ならば御存知かもしれない。聞いてみようとするとライラ様は武器を構えていた。
「アリーシャさん、危険です!離れてください!」
「ライラ、あれからは穢れを感じないよ?」
「だからこそだ、スレイ!例え憑魔じゃなくても、あんな生物見たことも聞いたことも無い!」
ライラ様とミクリオ様は危険だと感じ、構える。
スレイも御二人の言葉を聞いて警戒をしており、周りの人々はゴクリと息を飲み込み緊張の糸を走らせる。
「ライラ、森にあんな感じの憑魔は」
「植物の憑魔も存在しておりますが、あの様な憑魔ではありません。一部の例外もありますが、あの様な姿の憑魔ならば穢れを感じます。しかし穢れを感じません、もしかすれば穢れを内包する新種の憑魔の可能性があります。幸いにも植物の憑魔…火が弱点の場合が多いです」
「フー」
ミクリオ様とライラ様は襲ってくるかもしれないと警戒をするが、木の……人の様な方は呆れていた。
全くと言って御二人に興味を持たず、私が受け取らなかった雷、炎、氷を纏った三つの槍を回収する。
「この槍も」
私の持つ光る槍を返そうとするが受け取らない。
手を差しだして、どうぞどうぞと私に槍を譲るという動きをした。
「貰っていいのか?」
この槍をくれると言うのならば、大事に使わせて頂く。
槍を返すのをやめると頷くのだが、次に首を横に振った……えっと
「貸して、くれるのか?」
そう聞くと縦に何度も何度も頷く。この不思議な槍を暫くの間、貸してくれる。それはとてもありがたい。
「ありがとう」
彼に感謝を述べる。それと同時に分かる。見た目こそ憑魔の様だが、彼は絶対に憑魔ではないと。私が槍を改めて持つと彼は右手の親指をあげてサムズアップした。
「ップ!」
「!?」
槍を受け取ると彼は口から木の種を吐いた。
吐いた木の種が地面につくと眩い閃光を放ち、光が消えるとそこには彼の姿はなかった。
「あ、あそこに!!」
彼は一瞬の間に逃げ去り、子供が逃げた彼に気付き追い掛けようとし、私も追いかけようとするが出来なかった。
「静まれ、静まれい!!」
追いかけようとすると、バルトロ大臣がタイミングよく現れた。
ゴンベエの術技
ファイアレモネード・スプラッシュ
説明
炭酸水を纏わせた魔法のシャボン玉を蹴り飛ばし相手にぶつけ、シャボン玉を弾けさせて相手も弾けさせる技。
デクナッツのお面をつけてデクナッツになった時しか使えない。
アリーシャの装備
不思議な槍
説明
刃が青白い光を放つ不思議な槍
邪悪な物などには強く反応し、光が強くなる。
邪悪を打ち祓う力を持っており、その光は何処かで見たことがある。