「ねぇ、なにか聞こえない?」
ゴンベエが帰ったあと、スレイとミクリオ様は戦った。
スレイが勝てばミクリオ様がレディレイクの地の主に、ミクリオ様が勝てばライラ様の陪神となり導師の旅についていく。互いに譲れない信念の元戦い、引き分けた。
「音楽、ですね」
引き分けたスレイとミクリオ様は笑いあい、最終的にはミクリオ様が陪神になることに。
ただ、私の様に真名を用意すれば良いものではないようで、導師と天族が一つとなり強力な力を発揮する神衣をする為の神器が必要だった。その神器はレディレイクの北東にあるガラハド遺跡にあり、更には天族の器になりうる清らかな滝の水もそこにあり、向かった。
「これは琴の音色だろうか?」
遺跡の内部には憑魔が住み着いており、浄化しながら進むと不思議な音が聞こえる。
この辺りも加護領域ではない筈で穢れを感じるのだが、その音は清らかだった。ミクリオ様はその音がなんの音色なのかを考える。
「琴の音色ですが、弾く速度が早いですので恐らく他の楽器かと思いますわ」
「確かに、言われてみれば凄く早い!」
「……いったい、誰が弾いているんだ?此処で祀られていた天族か?」
「いえ、前に此処に来た時には天族の方々は一人もいませんでした」
「じゃあこの音楽はいったい……」
「もしかすれば、過去に此処で祀られていた御方がやって来たのかもしれません!!皆さん、音のする方に向かいましょう!」
前に来た際に憑魔以外誰もいなかったこのガラハド遺跡、音楽を得意とする憑魔も見たことない。
音の正体は謎で、もし天族の方ならばこの音楽は救援信号かもしれない。急いで音の主に会うべく走り出す。
「うわぁ、憑魔の群!?」
音がする方向へ走り、段々と聞こえる音が大きくなりハッキリと聞こえるようになっていく。
もうすぐだと曲がり角を曲がると憑魔の群が行進していた。
「憑魔にも色々と種類はありますが、その大半が別の生物です。この遺跡に住み着く事ができる生物が憑魔と化したなら私達の様に音を聞き取れます!」
「スレイ、ライラ、アリーシャ。音はこの憑魔の群の直ぐ奥から聞こえる!」
「お下がりください、ミクリオ様!私達が!」
まだ陪神契約を行っていないミクリオ様に浄化の力は無い。私は木の妖精から貰った浄化の力が宿っている不思議な槍を取り出し、スレイはライラ様と共に神衣をした。
「燃ゆる孤月!」
「葬炎雅!」
スレイは大剣となった聖剣に、私は槍に炎を纏わせ憑魔達を薙ぎ払う。
薙ぎ払い、飛ばされた憑魔達は浄化されて元の生物に、虫に戻っていく。
「もう一回!」
大剣を振るったスレイはその勢いをつけたまま一回転し、憑魔を切り裂く。
「スレイ、上だ!」
「サンキュー、アリーシャ!」
上からも虫の様な憑魔が私達を狙っている。
スレイは上を見上げると、ライラ様が使役する紙が舞い、スレイは光り、天族のみが使える天響術を使う。
「炎舞繚乱!!ブレイズスウォーム!!!」
舞い散った紙に炎が宿り、熱風が巻き起こり天井にいる憑魔に当たり、落ちてくる。だが、まだ浄化しきれていない。
「魔神剣・焔!!」
何時もの魔神剣に炎を加えた一撃を放つと浄化した。
「くそ、まだまだ憑魔が……ライラ、こうパーっと一撃で倒す方法は無いの!!」
「私のこの火の神依ではそう言う事は出来ません。もし出来るとするならば、水の神依で」
斬っても斬っても減らない憑魔。
いや、減ってはいるが雀の涙ほどの量でしかなかった。このままでは此方の根気負けしてしまう。
「水の神依か、それならば!」
「ミクリオ様、危険です!」
後方に下がっていたミクリオ様は走り出す。この奥にあると言う水の神依に必要な神器を手に入れれば、この憑魔達をどうにかすることが出来る。危険な憑魔達の隙間を探し、奥へと出ようとするが危険すぎます!
「危険なのは僕じゃなく、戦っている君達の方だ!なにもせずにただただジッと甘えてくださいと言われて、はいそうですかと言えないよ!」
「でも、ミクリオ!」
「スレイさん、なにか飛んできます!!」
ミクリオ様を心配し、制止しようとするスレイだがなにかが飛んできて、地面にぶつかった。
「コレは弓?」
飛んできたのは大きな弓で、矢らしき物は何処にもない。
確かに弓ならば威力もあり距離を取って攻撃することが出来るものだが、矢が無い。矢も飛ばされたのではと辺りを探すが見当たらず、代わりにスレイが神依を解除してライラ様と分かれる。
「ミクリオさん、この弓こそが水の神依に必要な神器です!アリーシャさん、今からミクリオさんと陪神契約を行います!時間稼ぎをお願いします!スレイさん、準備はよろしいですね!」
「わかりました」
「ああ、俺の方も何時でも準備万端だよ!」
ミクリオ様が陪神になるまで時間を稼がねば!スレイの神依が解除されて、やや不利になったが水の神依になればこの場を切り抜けられる。気持ちを強くすると、それに答えるかの様に槍の輝きは増していく。
「信念と共に……罷り通る!月旋槍・雷鳥!!」
槍で旋風を起こし、打ち上げた敵を一閃で貫く技、月旋槍・雷鳥を放ち浄化する。
「ライラ様、まだでしょうか!!」
「あともう少し、詠唱は長いので以下省略です!」
「そんなのありなのか!?」
陪神の契約を一瞬で済ませるライラ様。
驚くミクリオ様と共に姿を消したかと思いきや、ライラ様は私の隣に、ミクリオ様はスレイ様の隣に立った。
「スレイさん、後はミクリオさんの真名を!」
「真名なら」
「とっくに知ってるよ!」
「『ルズローシヴ=レレイ!!』」
「まぁ!」
ライラ様との神依とはまた別の姿に変わるスレイ。
埃を被っていた弓の神器も色鮮やかになり、周りから何処からともなく水が出現する。
「『全てを貫け!蒼穹の十二連!』」
矢を持たず弦を引き、十二の水を放つスレイとミクリオ様。
十二の水の矢は一体一体の憑魔に命中し、一度に十二体の憑魔を浄化する。
「蒼天裂天!アローレイン!!」
続いて空に放つと、水の矢を雨のように降り注ぐ。
「アリーシャ、一体だけ射ち漏らした!」
「ああ、足音が聞こえる!」
降り注ぐ矢の雨から逃げた一体の足音がする。
この場をスレイ達に任せ、私は奥へと走り曲がり角に逃げていった憑魔を追い掛ける。
「逃がしはしない、此処で浄化を……光が消えた?」
曲がり角を曲がると、今までいた虫の様な憑魔とは違う魚人間の様な憑魔がいた。
槍を向けて、浄化しようとするが槍から放たれる光が弱くなっていき最終的には消えてしまった。
「……えっと……」
「アリーシャ、こっちは終わったって、まだいる!!もう一度、蒼天裂天!アローレイン!!」
光が消えたのでこれは襲って良いものではないのかと槍をとめるとスレイ達が追ってきた。
ミクリオ様との神依を保ったままのスレイは魚男を見ると、水の天響術を放つのだが
「あ、いたぁ!?」
あっさりと避けられ殴り飛ばされた。
「スレイ、大丈夫か!」
「スレイさん、スレイさん!……ダメです、気を失っています」
殴り飛ばされたスレイと分かれたミクリオ様とライラ様はスレイの身を心配するが白目を剥いて返事をしない。幸いにも体がビクンビクンと動いているので、命に別条はなく生きている。
「よくも、スレイを」
「ミクリオ様、待ってください!」
「だが、これはどう見ても」
「……あら、穢れを感じません?」
「憑魔……じゃないのか!?」
「あ、はい……一切、穢れを感じません」
杖を取り出して構えたミクリオ様だが、ライラ様が穢れを感じない事を伝えると手を止める。
魚男の方もスレイを殴り飛ばして以降、攻撃する素振りもしておらず私達を見つめている。
「っ、なにか取り出したぞ!」
「コレは……水が入った瓶ですね」
腰布の中に手を入れると水が入った透明な瓶を渡してくれた。
中に入っている水は何処にでもある極普通の綺麗な水で、それ以上でもそれ以下でもなんでもない。
「アリーシャさん、それを少し」
「あ、はい……なにか特別な水なのでしょうか?」
「恐らくですがこの遺跡の奥にある清らかな滝の水です」
まじまじと瓶の中身を観察するライラ様。瓶に入っている此処に来たもう一つの目的である、清らかな水だと言うと魚男は頷く。
「この水を使えと?」
ミクリオ様の質問に、魚男は頷く。スレイが気絶してしまった為、これ以上此処に長居をするのは危険だ。もう一つの目的である天族の器となる清らかな水を此処で手に入れる事はとてもありがたい。
「もしかして水の神器を投げたのは貴方でしょうか?」
ライラ様の問いかけにも頷く魚男。
「貴方が投げてくれなければ、水の神衣が出来ませんでした。ありがとうございます」
「……すまない、憑魔と勘違いし、てぇ!?、な、なにをする!!」
「……瓶を返せ?」
感謝と謝罪をする御二人に殴りかかる魚男。
なにも入っていない瓶を取り出してミクリオ様と交互に指さした。瓶を返して欲しいと言っている気がした。
「ミクリオさん、瓶の中に入っている水を凍らせてください」
その通りだと言わんばかりに頷く魚男。
ミクリオ様が瓶の中の水を一部凍らせて取り出し、瓶を魚男に返した。
「コレで目的は達成しましたね」
「ライラ、その魚男に心当たりは?」
「ありません。この様な憑魔?を見るのははじめてで」
成すべき事を終えた私達。後はスレイを連れてレディレイクに帰るだけなのだが、視線が来た道ではなく目の前にいる魚男に向いてしまう。憑魔でもなければ天族でもない不思議な存在、何処となく聖堂で出会った木の妖精に似ている。
「ライラ様、もしかするとコレは魚の妖精なのかもしれません!」
「まぁ、魚の妖精ですか!」
「待て、ライラ、アリーシャ!妖精と言うのはもっとこう、小さい感じの生き物で如何にも魚の様な見た目をしてい、いた、いた。ちょ、痛い!」
「ミクリオ様、ダメです。妖精さんをバカにしては!」
妖精さんが怒っているではありませんか。怒る妖精さんの拳をなんとか抑えてもらい、ミクリオ様は謝った。
「ミクリオさん、魚男さんに関しては気になる事は沢山あります。ですが、瓶に入っている氷が水になり穢れる前にレディレイクに持っていかなければなりません。それにスレイさんのことも」
「っ……仕方ない」
「スレイは私が」
「いや、僕が背負うよ」
気絶してしまったスレイを背負おうとすると、ミクリオ様が背負った。やれやれと言った顔をしているミクリオ様だが、何処か手馴れており微笑ましかった。
「スレイは、大丈夫なのだろうか……」
それほどまでの一撃ではなかったが、かなりビクンビクンしていた。
「ミクリオさんが陪神となった為に、スレイさんと言う器に負荷が掛かりました。恐らく、それと魚男の拳が重なったのかと……御安心ください、数日眠れば元通りです」
「そうですか。よかった……ん?」
ホッと一息したのも束の間、妖精さんに肩を叩かれる。
なんだと振り向くと妖精さんは楽器を……魚の骨で出来たギターを手に持っていた。
「そうか、妖精さんが鳴らしていたのか」
妖精さんがポロロンと軽く音を鳴らすと、先程聞こえた音と同じ音が聞こえた。
改めて聞くとその音色はとても心地の良く、妖精さんの姿も相まって海を連想させた。
「御礼に弾いてくれるのは嬉しい……だが、私達は先を急がないといけない」
ギターの調節をしているところ、本当に申し訳ない。きっと素晴らしい曲なのだろうが、今はレディレイクにこの氷を持っていかなければならない。妖精さんに謝り遺跡の入口に戻ろうと振り向くのだが、回り込まれる。
「どうしても聞けと言うのか」
「まぁまぁ、よろしいじゃありませんか。氷が溶けてなくなっても奥の方に行って滝の水を汲めば良いですし」
曲を聞かないと此処を通してくれないと座るお二方。
不謹慎かもしれないが、私は妖精さんがどの様な曲を弾くのか気になっており、聞けるのはとても嬉しい。お二方の様に座ると妖精さんは頷き、ギターを弾き始める。
「ん?リズムや速度以外、全て一緒じゃない、これは!?」
「な、なんですのこれは!?」
「鳥の翼が、背に!!」
妖精さんの音楽を聴いていると、私達の背中から鳥の翼がはえる。
「おい、いったいなに、うぉ!?」
「きゃあ!?」
「いったい、なにを!?」
妖精さんの音楽で翼がはえたと立ち上がると、翼が私達を包み込む。
これはいったいなんなんだと槍を出そうとするが上手く出せず、暗闇に閉じ込められた……と思えば一瞬で光が宿る。
「此処は……」
「ア、アリーシャ姫!?それに、つい最近剣を抜いたという導師!?」
「お前は……何故、此処にいる?」
「いえ、此処は自分の仕事場です!アリーシャ姫が何処からともなく現れたのですよ」
「なに?」
気付けば何時もゴンベエと揉めたりしているレディレイクの入口で門番をしている衛兵がいた。
どうして此処にと驚くが向こうが逆に驚いており、辺りを見渡してみるとレディレイクにいた。
「ガラハド遺跡に向かったと聞きましたが……」
「あ、ああ……確かについさっきまでガラハド遺跡にいた……」
物凄く遠いわけではないが、それでも距離はあるガラハド遺跡。
あの視界を奪われた一瞬ではどう考えてもレディレイクに辿り着く事は出来ないのに、今こうしてレディレイクの入口にいる。
「そうだ、妖精さん!」
「妖精?変な魚みたいのなら、先程湖に飛び込みましたが……」
「湖か……もしまた見掛けたのなら、教えてくれ」
追い掛ける事が出来ないと分かり、落ち込む。
「あの魚男、いったいなにをしたかったんだ?」
「分かりません……ですが、聖堂の木の憑魔と思わしき方と今回の魚の憑魔と思わしき方は繋がりがあるのだと思います」
「違います、アレは木の妖精と魚の妖精です。木の妖精は私に武器を、魚の妖精は水の神依に必要な神器、器に必要な水、更にはここまで運んでくれました」
「運ばれたのか、僕等は……」
「ですが、アリーシャさんの言うとおり助けてくださりましたね……いったい、何者なのでしょうか?」
「この湖に飛び込んだそうです。スレイを寝かせた後、探してみませんか?」
「そうだ、スレイだ。アリーシャ、今すぐに宿に!」
魚の妖精さんの事は一先ず置いて、スレイを寝かせに宿へと向かう。
怪我ではなく疲労や負荷による昏睡だったので、暫くすれば起きるようで湖に飛び込んだ妖精さんを探してみるも、何一つ見つかることはなかった。
アリーシャの術技
魔神剣・焔
説明
通常の魔神剣に炎の追撃を加えた魔神剣・双牙
ゴンベエの称号
妖精さん
説明
冗談半分で言ったらアリーシャ、マジで信じてしまった。
妖精と言うかそういう感じの生き物であり、ドワーフとかエルフとかに近い。
「妖精っつーか、妖精が導く勇者なんだけどな」byゴンベエ