「ずーだらら、ずーだらら、お!」
家に帰った次の日、炭酸水が出来たので今日も今日とてコーラを売りに行こうと川を下っているとアリーシャを石橋で見かける。
「遂に穢れを浄化する旅に出たか」
「ああ、この方です!」
「あ?」
別れの挨拶ぐらいはしてやろうと近付くと、橋職人の一人がオレを指差す。
アリーシャが振り向くとやっぱりかと言う顔をしていた。
「やはり、ゴンベエだったか」
「なにがだ?つーか、スレイは?」
「スレイは今ここにはいない。
それよりも問題はマーリンドとレディレイクを繋ぐこの石橋だ」
「石橋って、一時的な補強はしてやったぞ。
少なくとも、数日間はどうにかなるからその間に土台だけ作っておけば」
「その補強が壊れたんだ!」
「んだと?」
金田一と違って雪を使っていないが、ヘビィブーツで飛び跳ねてもヒビ一つ入らないぐらいの氷橋にしたはずだ。
橋職人のおっさんに連れられ石橋に向かうと、橋は壊れていた。
「あの後、土台を作ってたんだが急にカラスが襲ってきたんだ!」
「いや、カラスがぶっ壊せるレベルじゃねえだろう」
「魔法使いの兄ちゃん、もういっぺん橋を凍らせてくんねえか?
導師様、どっか行っちまったし頼れるのは魔法使いの兄ちゃんだけなんだ」
「別にそれぐらいは構わない……つーか、スレイは何処だ?」
「ゴンベエ……話がある」
橋職人の話が確かならば、ついさっきまでスレイはいた。
アリーシャがいるのが一番の証拠だが、本当に何処にいやがる?
「ここじゃダメなやつか」
人気のない木陰で話をしたがるアリーシャ。
オレの言葉にコクりと頷いたので、余程の事かとオレは耳を貸すことにした。
「実は、ゴンベエが帰った後…………」
聞けばバルトロ大臣という偉いさんから食事の御誘いがあったスレイ。
確実に裏があるのと善人ではないから行かない方が良いと薦めたが、穢れが気になるしと向かってバルトロ大臣の元に向かった。その後はテンプレと言うべきか、スレイをインチキ扱いしており、政治でアリーシャが有利になるために動いていると思っており、此方側に来ればそれなりの待遇をするという何処の魔王だと言うべき展開になった。
勿論、スレイは断ったがその後に暴動が起きて、風の骨と呼ばれる暗殺ギルドに助けられてどうにか屋敷を抜け出した。
「おーおー、逃げて帰って正解だったな」
「っ、ゴンベエ!!」
「喧しい。忠告を受けていたのに向かったスレイが悪い。
つーか、レディレイクじゃなくても天族なんか導師なんか存在しない!!って思っている町や村はあるだろう。
そう言う奴等にインチキでなくて本物なんですっていって巡業するのも導師の役目だろう」
日本じゃあんま聞かないけど宗教の人達、全員そうやってるはずだ。
神の子も目覚めた人も一回、言葉にして話し合っていて一人一人に信じてもらったりしているんだ。
「それで、その後は?」
「私は疫病が蔓延っているマーリンドに派遣される事になって、スレイもついてきてくれることに。
だが、ゴンベエの作った氷の橋は鳥型の憑魔に壊されていて、スレイと従士の私はミクリオ様の力があれば向こう岸に渡れるのだが……」
「他の奴等は渡れないし、ほっとけないってか。
けど、どうすんだ?確か天族とかには五つの属性があって、ライラは炎で、ミクリオは水。
ミクリオが川の流れを緩やかにするならこの場にお前は居ないだろうし……」
「地の天族の力を借りて、石橋の土台を作ることにしたんだ」
「……この辺に天族って、居たっけ?」
アリーシャもこの場でちんたらしていられねえ。
街に向かわないといけないから、地の天族を連れてくるにしても短期間の間だ。
「スレイ達は……レイフォルクに向かった」
「成る程、エドナか」
協力してもらえるかどうかは別として、此処から近い場所にあるレイフォルクには天族が、エドナがいる。
ライラとの知り合いみたいだし、エドナが話題に出ると言うことは地の天族だろう。だが
「あそこ、ドラゴンいるはずだろう。止めなかったのか?」
ドラゴン化したエドナ兄があの山にはいる。
山から降りてこないし、エドナがやめろと言っているから斬ってねえぞ。
山から降りて逃げさえすれば、追いかけてくることは絶対にないが……エドナ絡みだとヤバイな。
「私も彼処にいるマーリンドに薬を届けようとしているネイフト殿も危険だと言ったのだが……天遺見聞録に載っていないから大丈夫と、自分よりもエドナ様の方が危険だと」
そー言えば、あいつよく生き残ってるよな。
エドナの兄は襲わないとしても、あの辺は穢れまくっている。
いったい何時からドラゴン化しているかはしらねえが、少なくともこの一年の間はドラゴンのままだ。
ウーノみたいに憑魔にならないとは物凄いな。見た目は威厳とかないただのロリBBAなのに。
「カッコつけて、アホだな。
だがまぁ、コレから先、様々な困難や試練がスレイを待ち受けている。死地に活路ありなとこもあるだろう」
何だかんだで主人公だから、帰ってくるだろう。
「スレイは自分の意思で選んだんだから、後は知らねえ」
「だが」
「オレは何時も通りコーラを売りにいく」
「待ってくれ!」
約一年ぐらい会わなくなるかもしれないがじゃあなと別れようとすると台車を掴むアリーシャ。
「オレにこれ以上どうしろってんだ!」
「違う、そうじゃない。ゴンベエも狙われているんだ!」
「?」
「バルトロ大臣はスレイを奴と同じく偽の導師だと言っていた……その奴は恐らく、ゴンベエのことだ」
オレ、散々導師じゃねえって言い続けたんだけどな。
アリーシャとあのオバハンの前でしか戦っていねえし、魔法とかもこの橋を凍らせる際にしか使ってねえしなんでそうなるんだ。
「スレイで無理ならゴンベエを……もし、ゴンベエが政治の道具にされたら」
「まぁ、面倒だな…………ッチ、しゃあねえ。脱ひきこもりするか」
「え?」
「バルトロがどんな奴かは知らねえが、大臣なんだろ?おいそれと、首都を出てお忍びなんて早々に出来ない。だったら、アリーシャがいるマーリンドでコーラを売ったらいいだけだ」
あんまり、他の街に行きたくないんだよな。
国の首都が水力を利用している街だとすると、他の街がどんなのか想像が出来ない。
病気とかも怖い。薬草を煎じての世界で、抗生物質の概念がまだないんだよな。
「ゴンベエ……」
「取り敢えず、スレイの様子を見てくる。自転車置いてくから、コーラを盗まれない様に頼む」
「ああ、任せてくれ!」
アリーシャは真名の通り、綺麗な笑顔になりオレから自転車を受けとる。
そしてオレはそのままレイフォルクに向かって走っていった……かの様に見せた。
どうせスレイが帰ってくんだろうから、下山した際に合流したかの様に鉢合えばいい。
「え~っと……今回はコレでいくか」
氷の橋でどうにか出来ると思っていたが、そこまで上手くいかなかった。
しかし地の天族で土台を作ると言う方法があるのならば、スレイには悪いが利用させて貰う。
「ぐ、ぬぅ、おおおおおおおおおお!!……!」
ゴロンの仮面を取り付け、オレはゴロンリンクに変身する。
はじめての変身なので無駄に長い喘ぎ声を出さないといけないのが難点だが、思ったよりも悪くはない。
だが、相変わらずの如く言葉は出せない。
「!」
丸くなり、来た道を逆走ならぬ逆回転する。
目が回ると思ったが、そこまで回らない。それと何故かは知らないが今どのへんを転がっているのか位置が分かる。
どこ転がっているのか分からないんじゃと思っていたが、よかった。
「た、大変だ!!岩が転がってきた!!」
ゆっくりと転がるオレを見かけた橋職人が叫ぶ。
ガヤガヤと声が聞こえ、避けようと逃げはじめるのでオレは止まる。
「と、止まった?」
「みたいだ……これ、よくよく見れば岩じゃないぞ」
オレが止まり一安心し、冷静になる職人達。
岩じゃない事に気づき、近寄ってくるのでオレは立ち上がった。
「ひぃい、ば、化物!?」
「水神様に続いて、今度は山神様か!?橋を作るなってことなのか!?」
この見た目だと、恐れ後退る橋職人達。
お前等には興味ない。オレは石橋に向かって歩き出すと、薬をマーリンドに届けないといけない爺さんことネイフトが立ち塞がる。
「お、お待ちください!!どうか、どうかこの石橋を壊さないでくだされ!!」
「……」
冷や汗をかきながらもオレに頼み込むネイフト。
足は震えているが、目はオレをちゃんと見ており覚悟を決めている。
しかし、そんな覚悟は必要ない。そう言う感じの事はしにきていない。
「なにかあ、憑魔!?」
騒ぎを聞きつけ、自転車をどっかに置きにいったアリーシャは戻ってきた。
オレの事を見ると憑魔だと驚いて槍を構える。
「全員、下がれ!!あれは穢れが生み出した……?」
槍を構えたアリーシャは橋職人を避難誘導させながらオレを睨む。
かと思いきや視線は上の方を向いている。
「その帽子は……」
ゴロンリンクになった際に被った覚えは無いのに被っていた帽子を見るアリーシャ。
ゾーラリンクの時は無かったがデクナッツリンクの時は被っており、それをアリーシャは覚えていた。
覚えていたのならばちょうど良い。この姿だと武器をちゃんと使って戦えない。
「この帽子……」
オレは帽子を差し出すと、アリーシャは受け取って観察する。
その間、橋職人達は岩や木々の影に隠れておりコッソリと此方を覗いている。
「木の妖精や魚の妖精さんとお知り合いですか!!」
木の妖精はまだしも魚の妖精とはなんぞやと思うが一先ずは頷く。
「レイフォルクから来たから、山の妖精さん!」
「……」
もうそれで良いです、はい。
アリーシャの言葉に適当に相槌をうち、オレは石橋に向かって歩く。
「あれは、災厄の化物では無いのですか?」
「いえ、違います。アレは恐らく山の妖精です」
「妖精……随分と大きい妖精ですなぁ」
「ええ……ですが、此処に来るまでに私は木の妖精と魚の妖精に出会い、そのお二方は力を貸してくれました」
「では、今回も?」
「はい、力を貸してくれるはずです」
唯一隠れていないネイフトに山の妖精だと話すアリーシャ。
一応の警戒心は解いてくれたが、疑心暗鬼なネイフト……及び橋職人達。
この姿ならば別に見られていても構わねえが、アリーシャ達と暫くは一緒にいる可能性があるなら、何れはバレる。
「あれは……コンガですな」
「魚の妖精さんはギターを持っていて、不思議な力を持っていました。恐らく山の妖精さんも」
「成る程、音楽になぞ……ち……Zzzzz」
「ネイフト殿!?こんな所で眠っては風邪をひいてしまいます!!」
いや、気にするところはそこじゃねえだろう。
オカリナもといコンガを出し、ゴロンのララバイを奏でるとネイフトや隠れている橋職人達は眠りについた。
が、何故かアリーシャだけは眠っていない。オレの槍が原因か、それともスレイと従士契約を結んでいるのかどっちかは原因で効果が無い。
「いったいなにを……」
アリーシャに効果が無いのならば、それはそれで構わない。
オレは袋からサンドロッドを取り出して、石橋に向かって振ると川底から岩や砂の塊が盛り上がった。
「これは、石橋の基礎となる土台?」
石橋の基礎となる土台はコレで完成した筈だろう。そう思いたい。
アリーシャがまじまじと石橋の土台を見ているので、今がチャンス。
「え、きゃあ!?」
川に飛び込んで逃げる。
ゴロンリンクは重いので、息を止めている極僅かの時間で仮面を取ってゾーラリンクに入れ替え。
石橋の土台となる岩や砂の塊に問題ないか確認した後に川の流れに逆らい上流を目指し、ある程度泳いだら抜け出る。
「くっそ、RTAやってるんじゃねえんだぞ!!」
とにもかくにも時間が無いと、後で考えればなんでこんな事をしてんだとオレは思ったが今は焦る。
素早く移動できる様になるスマブラでもお馴染みのウサミミを装着し、全速力でレイフォルクへとかける。
「あ、ゴンベエ!」
「割と近くにいたぁああああ!!」
「あんた、喧しいわよ」
「後、エドナもいたか!……ふぅ」
もうすぐレイフォルクだなと思えるぐらいまで走るとスレイ御一行に遭遇する。
正確に言えばスレイとミクリオとライラ……そしてエドナと遭遇した。
「久しぶりの再会なのに、もっと喜び崇めなさいよ」
「なんで、そんなことしねえといけねえんだ」
「えっと」
「ゴンベエさんは前にアリーシャさんと一緒にレイフォルクに行ったらしいんです。その際にエドナさんと」
「そうなんだ」
オレとエドナが知り合いな事に困惑しているスレイに説明するライラ。
直ぐに納得するのは良いが、アリーシャはその辺の事を説明……いや、磁石の事もあるからダメか。
「スレイ、ゴンベエにあの事を」
「バルトロ大臣の事だろ?大体は聞いている。
オレを庇ってくれるアリーシャが暫くはレディレイクにいないのならば、オレも厄介者だろう。
暫くはマーリンドの方で物を売っておくことにして……地の天族の力が必要だからレイフォルクに向かったって聞いて追いかけてきたんだが……よく、動く気になったな」
昨日今日でエドナの兄はドラゴンになったわけじゃない。
最低でも一年以上はドラゴンになっているのに、危険だと分かっているのにレイフォルクから離れないエドナ。
今更危険だぞと言われても兄と共に死ぬならばとか言いそうだし、よく連れて来れたな。
「あら、私がタダで動くとでも?そこの天族の坊やに一年間お菓子を献上させる契約よ」
「坊やって、僕のことか!?確かに坊やだがって、違うだろ。そんな約束をした覚えはない」
「ドラゴンになったエドナのお兄さんを元に戻す方法を見つける。それを条件に来てもらったんだ」
「因みに今言ったのも条件に追加ね」
どんまい、ミクリオ。
スレイはありふれた事を言ってエドナを連れてきたのかよ、主人公力高いな。
「まぁ、取り敢えずくたばってねえならちゃっちゃと帰るぞ。
わざわざ足が早くなるウサミミ使ってまで走ってきたのに、骨折り損じゃねえか」
ウサミミを外し、スレイ達と歩幅を合わせて歩く。
それっぽい感じの台詞を言って、骨折り損感を出しておけば騙せるはずだ。
「お~い、ってあれ皆、眠ってる?」
「スレイ、無事だったか。よかった」
「オレ、全力で向かったけど骨折り損だったぞ」
スレイの帰還でホッとするアリーシャ。
エドナを見つけるとペコリと頭を下げて、御挨拶をしエドナは軽くおちょくるが軽くなので本気ではない。
「んだ、こりゃあ?
さっきまでどうしようって困ってたりサボってたりしていた橋職人、全員、寝ちまってるじゃねえか。
アレか?川の流れは変わらないからこれ以上はどうしようもないしスレイもなにもしないし、諦めたってか?」
「導師だけに、ですわね」
今、一応は真面目な会話をしている所だからそう言うのやめてくんない?
眠らせた張本人だが知らぬ存ぜぬふりをし、寝ている奴等を見渡す。
「実は、ゴンベエがスレイを追ってレイフォルクに行って直ぐに山の妖精さんが現れた」
「今度は山の妖精さん!?」
「なに、それ?」
「ああ、エドナは知らないんだったっけ。
実は憑魔でもなんでもない、俺みたいに天族が見える人間じゃなくても普通に見える妖精と何度か出会ったんだ。
ライラがいたレディレイクの教会では木の妖精、ガラハド遺跡には魚の妖精がいて……山の妖精もいたんだ」
「ふーん」
適当に聞き流しながら、お前だろうとオレを睨むエドナ。
「見ろ、スレイ!石橋の土台が出来ている」
「あ、本当だ!!」
石橋の上にたつミクリオはスレイを引っ張り、石橋の土台を指差す。
アリーシャはそれは山の妖精さんがしてくれた事で、橋職人達が眠っているのも山の妖精さんの力と語る。
「あれ、貴方でしょ?」
「……じゃあなんで堂々と言わない?」
スレイ達が石橋の土台に意識が向き、一人になったエドナはオレがやったか聞く。
無理に隠し通してもエドナがポロっと溢すかもしれねえから、否定せずにスレイ達にその事を伝えない理由を聞いた。
「別に、教えるほどの事でもないわ」
「オレを見て、憑魔とか驚いていたのにか?」
「ええ。少なくとも、私はドラゴンになったお兄ちゃんをどうにかするのを条件に来たのよ。
貴方が何者なのか気にならないと言えば嘘になるけれど、私達に害意のあるものでもなんでもないのならそれ以上気にする必要はないわ。貴方も気にしない方が良いわよ。はげるわ」
一言多いな。
エドナは特に気にする事は無く、言っていないのならばそれで良い。
「う、う~ん……」
エドナの事が終わると徐々に徐々に目を覚ましていく橋職人達。
すぐ近くにいるネイフトも目覚め、ゆっくりと目を開く。
「お、爺さん、起きたか?」
「あ、ああ……どうやら、寝てしまったようだな」
「どの辺まで覚えてる?」
「確か……山神が降りてきた辺りだったかの。ところでお主は?」
「ナナシノ・ゴンベエ。
レディレイクの物価が上昇したり導師誕生したりと色々とあるので、商売先をマーリンドに変える者だ」
「マーリンドに……商魂逞しいのはいいが、マーリンドは今」
「大体の事情は知っている。んでもって、スレイがどうにかするだろ」
「導師殿が?」
石橋にいるスレイを指差すと驚くネイフト。
ゆっくりと腰を上げて、スレイの元に向かうと驚く。
段々と流れが弱くなっていくものの今はまだ強い川の流れにも耐えうる石橋の基礎となる土台が出来上がっていたのだから。
「おお、導師殿!!我等とマーリンドを繋ぐ石橋を築く基礎を作ってくれたのですね!」
「え、いや」
「爺さん、黙れ。
こう言う超常的な事を出来るやつをありがたやと祈れるほど、今の世の中甘くねえんだ」
ネイフトが勘違いをしてくれたので、オレはそれをそのまま利用させて貰う。
スレイが石橋の基礎を作り上げたと喜ぶが、あえて黙らせる。努力すればなんて世界じゃない凄い力を持っている人間は目をつけられやすい。と言うか既につけられている。
「し、しかしこれは導師殿のお陰で感謝せねばならんことだ」
「えっと、これは」
「そう言う見返りを求めるのは商売であり、導師の仕事じゃねえよ。
つーか、チンタラやってていいのか?アリーシャから聞いたけど、薬を届けないといけないんだろ?」
「お、おおそうだった……じゃが、基礎が出来ただけでまだ歩くには」
「安心しろ、オレが運ぶ。オレがするぞ、文句はないな、スレイ?」
「それは構わないけど……良いのかな?」
スレイはなにもしていないのに手柄を得た事に罪悪感を抱いている。
頬に汗を流して、右手の人差し指でポリポリと撫でるのだが、そんな事は気にしても問題ない。
「文句があるなら、その妖精に直接言えってんだ。
それとも、お前は自分でやりましたとかそういうのが欲しいから導師になったのか?」
「違うよ!天族と人間が共に暮らせる世界を知りたくて作りたくて、その為の一歩になるならって導師になったんだ」
「だったら、手柄がどうこうとかそう言うのは深く気にすんな。無償の正義を貫け。頼れる正義の味方になる為に知名度だけはあげとけ」
「なんか色々と矛盾してる気がするんだけど」
無償の正義なんて矛盾だらけ。道を貫いた先は地獄、理想を抱いて溺死する未来だ。
正義とか悪とかそんな難しいもんを考えるなんてオレはやりたくないが、スレイは自ら選んで取ったんだ。
例え
問題ないかどうかは別だが、逃げても見捨ててもよかったんだからな。
強い力を持っている人間はあくまでも選択出来る権利を持っていて、それを選択しなければならないと言う義務はない。あったとしても精々、他の人は無理だが自分はそれを選択出来ると言う事を自覚する義務ぐらいだ。
「さてと、爺さん背中に乗りな」
妖精本人が現れないんじゃ仕方ないとこれ以上はこの事について触れず、マーリンドに向かうことに。
従士のアリーシャはともかくそうじゃないネイフトはミクリオ達のサポートを受けれないのでオレは前屈みに腰をおろす。
土台の基礎が出来上がったとはいえ、健康体なマッスルか導師じゃないと向こう岸に渡れない。
「ゴンベエ、大丈夫?
土台があるとはいえ、向こう岸にネイフトさんを連れていくのは難しいんじゃ」
「もし無理ならば、薬だけ届けてくれて構わんぞ?」
「爺さん一人ぐらい、運べるっつーの。
つーか、オレが本当に運ばないといけないの……アレだからな」
今じゃなくても良いと、とにかく薬を届けたいネイフト。
これぐらいなら余裕で次が問題なんだよとどっかに置いていたチャリヤカーに乗ってアリーシャが戻ってくる。
「あっちの方が運ぶのめんどいんだよ……ほら、この通り簡単に向こう岸に渡ったぞ」
「き、気のせいか?今、空を歩いていたかに見えたが?」
「気のせいじゃねえよ」
向こう岸に渡ると目を見開くネイフト。
土台をSASUKEの様に跳んで渡ったのではなく空中を歩いたことに驚いており、オレは来た道を空中を歩いて戻る。
「ゴンベエ、今のって」
「ホバーブーツ。少しの間だけ空中を歩ける様になる靴。
他の道具と一緒に使えば、空を蹴って跳んだりすることが出来る優れもの」
どうやってやったのか興味津々なスレイ。
オレは片足を上げ、ホバーブーツを見せる。
「凄いな、少しの間だけ空を歩ける靴だなんて。
天遺見聞録にも載っていない、ライラは知っているか?」
「いいえ、知りません。
ゴンベエさんはこの大陸の人でなく海を越えた遥か先にある異大陸の方です。恐らくそこの物かと」
「おい、もうそう言うの良いからとっとといくぞ。よいしょっと」
ミクリオとライラをよそに、チャリアカーを両手で持ち上げてもう一度向こう岸に渡る。
「……売る商品とか色々とあるけど、まぁいいか」
リヤカーに乗せている物はレディレイクで売る予定だったものと念の為にと持ち運んでいるもの。
マーリンドがどんな所なのかは知らんが、レディレイクで売る予定だったものが売れるかどうか心配だ。
取り敢えずスレイが向かうから穢れが原因系は大体どうにかなるだろうし地の主も見つけてくれるだろう。
「爺さん、後ろに乗れよ」
「いやいや、そこまで世話になるつもりは」
「良いんだよ。一度やるって言ったんだから、最後までやりきらねえと……それに歩いて疲れるよりも恐ろしい事があるし」
「?」
穢れの原因は、まぁ置いといて確実に憑魔はいる。
地の主ならぬ穢れの主的な……穢れの領域的なのを張っている奴をぶっ倒さないといけないのは確かだ。
んでもって、穢れの主的なのはウーノが憑魔化した時みたいにエドナの兄みたいに人間も見る事の出来るものなんだろうな。
「乗り心地は……まぁまぁね。72点よ」
「72点って、随分と好評価の気もするが」
「なにを言っているのよ、誰が何時100点満点と言ったの?200点満点よ」
「おい」
ネイフトに続いてさも当たり前の如くリヤカーに乗るエドナとミクリオ。
誰が乗れと言ったと問答無用で追い出す。
「なによ、歩けって言うの?」
「いや、歩けよ。そこまでの距離じゃねえだろうが」
「も、もしやそこに天族の方がおられに!せ、席をお譲りいたします!」
「あーーもう!!全員、乗れ!!」
「ゴ、ゴンベエ、私は歩いていくから」
「もういいよ。面倒だ、全員乗りやがれ!!」
ネイフトが席を譲ろうとしたのでギブアップ。
積み荷は大抵は木箱でその上に座れば良いし、なにも置いていないスペースもそれなりにある。
アリーシャは断ったが、もう誰か一人を乗せるなら全員を乗せないといけない展開になってしまったので全員を乗せる。
エドナはリヤカーに乗る際に計画通りと汚い笑みを浮かべるが、もう知らん。マーリンドについたら働け。
「ぐぅうううう!!」
「がんばれーがんばれー」
足にパワーリングを装備しているとはいえ、地味にきつい。
木製の自転車なのでヒヤヒヤとしながら必死にペダルを漕いでオレは思った。
マーリンドに先回りして、マーリンドで起きてるゴタゴタを解決しとけばよかった。と
スキット 不可能は愚か者に
ゴンベエ「あーくそ」
アリーシャ「すまない、ゴンベエ」
ゴンベエ「謝るよりも形を誠意を、具体的に言えばマーリンドで商売する為に必要な手続き省いたり代理でしてくれよ」
アリーシャ「それぐらいなら、御安い御用だ」
スレイ「それにしても色々と積み荷があるな」
ミクリオ「スレイ、勝手に触るんじゃない」
エドナ「と言っている貴方もさっきからチラチラと見ているじゃない」
ミクリオ「それは君もだろう」
ライラ「ゴンベエさんは色々な物を作って売ったりしていますから、色々と独創で不思議なものも多いんです」
スレイ「あ、コレってもしかして紙芝居!」
アリーシャ「っ、スレイ!ダメだ、その紙芝居を見ては!マーリンドの子供達と共に見なければ!私達だけ先に見てしまうのは」
ゴンベエ「いや、そもそも紙芝居しねえからな」
スレイ「え、そうなの?」
ゴンベエ「レディレイクでやる予定だったのが急遽マーリンドに変わったから、商品がマーリンド向けじゃない。紙芝居
もレディレイクでやってた奴の続きだ。取り敢えず紙芝居はせずに商品を赤字覚悟で売っておいて顔を覚えて貰ってマーリンドで売れそうな物をリサーチするんだよ。疫病が流行ってるらしいし、石鹸は売れるな、うん」
アリーシャ「石鹸か。確かに売れそうだが、一般の人達が買えるだろうか?」
ゴンベエ「……え、もしかして石鹸って高級品?」
アリーシャ「ああ、そうだが……ゴンベエの所では違うのか?」
ゴンベエ「貝殻の粉と油と海草だけでどうにかなる…………逆に聞くが、他の高級品ってなんだ?」
アリーシャ「やはり眼鏡……は、作れるのだったな」
ゴンベエ「それも貝殻の粉で出来る」
エドナ「羅針盤、高かっ」
ゴンベエ「天然の弱い磁石一個あればアホほど作れる」
ライラ「では、火薬で」
ゴンベエ「木炭はこの辺の木々で、硫黄は温泉や火山地帯で取れて、硝酸は白銀から無限に作れる。なんだったら白金で硫酸作って、硝酸と混ぜてもっと洒落にならん物作れるぞ」
スレイ「洒落にならん物?」
ゴンベエ「それに関してはマジで教えねえよ。製造中に死んだら笑い話にもならねえ」
ミクリオ「製造中に死ぬって、なにが作れるんだ!?」
ゴンベエ「秘密。安心しろ、土木作業の道具だ」
アリーシャ「ゴンベエには作ることが不可能なものは無いのだな……」
ゴンベエ「……オレは愚か者だから、不可能って言葉はちゃんと存在するんだけどな……つーか、忘れた頃にやって来るな、中世っぽいとこ。肉とか市民が普通に食ってたりするけど、やっぱ高い物は高いんだな」