テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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眼帯でレッツパーゥイー

「ぅ……」

 

「目を覚ましたか?」

 

「ゴン、ベエ?」

 

目を覚ますと、見知った顔がゴンベエがいた。

ゴンベエは何時もと違い優しい声で私に声をかけ、ホッとしている。

 

「ここはマーリンドの宿」

 

体をゆっくりと起こすと昨日御世話になったマーリンドの宿にいることに気付く。

 

「気絶する前までの事を覚えてるか?」

 

「……憑魔は!!」

 

ゆっくりとゆっくりと意識が覚醒し、植物型の憑魔を思い出すと完全に意識は目覚める。

そうだこんな所で寝ている場合じゃない。憑魔を倒さなければ、何時までもこのマーリンドに平和は訪れない。

 

「おっさんが言ってた憑魔に関しては問題ない、スレイが浄化した」

 

「そう、か……」

 

あの憑魔を逃がしてしまえば、取り返しのつかないことになる。

倒されて浄化された事で安心するが、ゴンベエは呆れた視線を私に向ける。

 

「すまない。私達を信じてマーリンドに残ってくれたのに、こんな無様な醜態を晒してしまって」

 

「死ねばお前が見たい綺麗な物を見れなくなる。生きてるだけましだ」

 

確かにそうだが……いや、ゴンベエなりのフォローなのだろう。

 

「甲子園みたいに一度負ければ終わりなトーナメントじゃないから、お前には次があるんだ」

 

「甲子園?」

 

「気にするな。とにかく、次がある。

負ければそこで終わりなのが常だが、お前には運良く次があるんだ。

こう言う言い方は本当に良くないことだが、敗けも時には大事だ……本当に良くないことだけどな」

 

大事な事なので二度言うゴンベエ。

生きているだけでなく五体満足で、何処も違和感なく体を動かせる。

これならばまた戦える。失態を犯してしまったものの、次こそは出来る。

 

「そう言えばスレイ達は?」

 

「……」

 

声も気配も感じないスレイ達。

恐らく宿には居ないのだろうが、いったい何処に行ったのだろう?

その事について聞くと口を開いたまま黙るゴンベエ。

 

「まさか、スレイの身になにかが!!」

 

バルトロ大臣が追手を放ち、襲われてしまったのか!?

 

「いや、生きてる。

今は傭兵達にマーリンドの警備を依頼しにいってる」

 

「マーリンドの警備を?」

 

あの憑魔を浄化したのならば、もう心配ないのではないのか?

 

「今の今まで穢れてて、スレイ達がやって来て浄化して大樹への信仰が再び行われている。

これで一件落着に見えるけど、やっとスタートラインに立ったところなんだよ。凄くざっくりと言えば、まだ加護領域が弱いから、数日の間は領域の中にいる憑魔がどうにか出来ないらしい」

 

「数日間滞在すれば良いのでは?」

 

「オレもそう言ったんだけど、地の主と信仰と大きな穢れを浄化した以上は長い間、一ヶ所に留まるなって。

大臣と揉めたこともあるし、追手を放たれてなんかされる可能性があるからどうとか……まぁ、数日間此処で足止めくらうよりはとっとと地の主になる天族見つけて、器を用意して、大きな穢れを浄化して別のところに加護領域を展開した方が効率良いしスレイが納得したから良いんだけどよ……あの馬鹿、オレから傭兵雇う金借りやがった」

 

青筋をピクピクと立てて怒るゴンベエ。

 

「お金で雇ったのか?」

 

「いや、傭兵はそう言う仕事だろう?金貰うから警護してんだから、当然だろう?」

 

「……使命感や義侠心で動いてくれる者に頼んだ方が、それこそゴンベエが数日間此処に居てくれれば」

 

お金で働く者は信用できないとまでは言わない。

だが、そう言った人達にこの様な事を頼むのは納得がいかない。

浄化の力を持ち、傭兵達よりも遥かに強いゴンベエが居てくれれば、お金で解決しなくてもいいはずだ。

 

「アリーシャ、金は大事だぞ?」

 

「それは分かっている……だが、もので動くのでなく、善意で動かなければ意味が無いのでは?」

 

「綺麗な言葉で否定すんじゃねえ。

いいか、人間は色々な物を作ったがその中でも最も偉大な発明が金なんだよ。

そりゃあ50人ぐらいの集落だけだったら金は不必要だが、一万、二万の人間がいるなら金は必要なんだよ。

物流をスムーズに動かしたり、国を纏めあげたりするのに便利な道具、それが金……アリーシャの言う通りだ使命感とか善意は立派だが、それじゃ影響力は薄いんだ。金が全てと言うのは汚いかもしれねえが、金を使わないと社会は一歩も動かないのは事実だ、認めろ」

 

「論点がズレている気がするのだが」

 

「オレには頼らないスタンスだから、ライラもスレイもオレをパスしたんだよ。

かといって下手に従士を増やしたらスレイがヤバくなるし、今後ああいうのと繋がりがあった方がなにかと便利だから良い経験になったと思うぞ……20000は痛いが。利子トイチにしたけど20000は痛い」

 

確かにゴンベエの言っている事は間違っていない。

しかし、余り納得は行かないがなにも言えない。ゴンベエに頼れるのは今回だけで、次からはそう言った事をしなければならない可能性がある……?

 

「スレイがヤバい?

どうして従士を増やせば、スレイが危なくなるんだ?」

 

今、憑魔を浄化出来るのはスレイ達だけだ。

数で言えば私を含めてたったの五人で、それだけでは穢れを完全に浄化する事は出来ない。

従士を増やせば沢山の憑魔を相手にすることが出来て、今回の様に二手、三手に分かれなければならない時に対処が出来る。

 

「……話した方がいいか。

アリーシャ、お前はスレイの従士になってなにが変化した?」

 

「私の変化か……」

 

今までは感じる事がなかった微弱な穢れを感じることが出来るようになり、浄化の力を得た。

従士になった事により私は戦う術を手に入れることが出来た。だが

 

「色々とあるが、一番はライラ様達を肉眼で捉える事が出来るようになったことだ」

 

前まではゴンベエのまことのメガネで皆様を見ていた。それを手にしなければ声を聞くことが出来なかった。

だが、従士になった事によりもう使わなくてもすむ……ゴンベエから貰った大事な物なので何時もつけてはいるが。

 

「スレイと従士契約をした事により、アリーシャはライラ達天族が見えるようになった……なんでだ?」

 

「だから、私がスレイの従士に」

 

「悪い、そうじゃない。

どう言った原理でお前が見えるようになったかを聞いているんだ」

 

「原理……すまない、私にもよく分からない。ライラ様ならば、なにか御存知だと」

 

「ああ、そう言うのじゃない。確認をしただけだ」

 

ゴンベエは紙を取り出して、目盛りと数字を書いていく。

 

「まず、天族と会話するには霊応力が高くないとダメだ。

導師になる為とかじゃなく、天族と会話したり触れあったりするのに必要な霊応力を100とすんだろ?

大抵の奴等は50~80ぐらいしか持っていないから見えず、スレイは170ぐらい持っているから天族が見える。

アリーシャの霊応力は70後半ぐらいで、天族の視線ぐらいは感じるレベルで天族を認識する事が出来ない……ついてこれてるか?」

 

「ついてきている。

確かにゴンベエの言う通り、スレイと従士契約するまでは見ることが出来なかった」

 

精々視線を感じる程度のものであり、それ以上はない。

だが、今はもう違うからそこまで気にする事ではないんじゃないだろうか?

 

「100を越えないと天族と対話できないのに、どうやって70後半のアリーシャは対話している?」

 

「それはスレイの従士になったお陰で……私の足りない約30を補っているから……いや、どうだろう……」

 

特に深く気にしてはおらず、今改めて聞かれればどういう原理かは分かっていない。

100に満たないのならば100にすれば良いだけだが……

 

「アリーシャの考えは間違っていない。

70なら30足して100にしておけば良い、ただそれだけの話。物凄く簡単な話だ」

 

私の考えは間違っておらず、70の所に+30と書くゴンベエ。

つまり私がスレイの従士となった事により足りない30を入手したと言うことか。

 

「問題はその足りない30を何処から入手しているか……流石に分かるだろ?」

 

「まさか……その私の足りない30は!」

 

「そう、スレイの170から引いている。

憑魔を浄化して、気絶したお前を連れてスレイが帰って来た際に驚いた。

微弱とはいえ既におっさんの加護領域が働いてて、アタックやドラゴンパピーよりも弱い。

連戦だけど、それでもどうにでもなるレベルなのに怪我して帰って来やがった。いくらなんでも驚くわ」

 

「……すまない」

 

「謝るのはお前じゃない、スレイだ。

あんのアホ、右目の視力が低下している事を隠してやがった。

おっさんやアタックが教えてくれたが、従士が原因で負荷が掛かりまくってるらしい」

 

「!!」

 

そん、な……それだと、あの時スレイが反応できなかったのは大本を辿れば私のせいなのか?

 

「霊応力が強かったりすれば、負荷はそんなに掛からないらしいがちょっと高いぐらいの奴だと今のスレイには大分負荷が掛かる……負荷云々は事実だが、数字の方は分かりやすく説明する為だから鵜呑みにすんなよ」

 

「私が、原因で……」

 

「おい!!!」

 

「は!?」

 

スレイの視力が低下していた事に衝撃を受け、私はなにも考えられなくなっていた。

ゴンベエの大声により反応し、意識を元に戻す。

 

「話聞いてんのか?」

 

「す、すまない。聞いていなかった」

 

「なら、もう一度言うけども負荷が掛かっているのは事実だが数字の方は鵜呑みにすんな」

 

「……」

 

鵜呑みにするなと言われても、従士契約で……私が原因でスレイに起こる負荷は紛れもない事実だ。

この話が本当ならばスレイはコレから先、従士を増やせば失明する可能性がある。いや、もう失明しているかもしれない。

 

「ゴンベエさん、準備が出来まし……アリーシャさん!」

 

「起きたのね」

 

どうすれば落ち込んでいるとライラ様とエドナ様が部屋に入ってきた。

 

「ゴンベエさん、起きたのなら教えてください」

 

「悪いな。アリーシャにざっくりとスレイの事を教えてたんだよ」

 

「そう。なら、視力が落ちている事を隠してたの知ったのね?」

 

「っ……はい」

 

エドナ様の問いに頷き、俯く。

私が原因でスレイに、ひいては皆様に御迷惑をおかけした。

いや、今回はまだよかった方なのかもしれない。もしドラゴンパピーやアタックさんとの戦いだったら手遅れな怪我をおっていたのかもしれない。

 

「アリーシャさん、そう落ち込まないでください」

 

「ですが」

 

「くよくよしないでよ、穢れるから」

 

「っ……申し訳ありません」

 

「い、今のはエドナさんなりの励ましで、決してアリーシャさんを責めたのでは」

 

「おい、もうそう言うの後で良いだろう。此方もとっとと済ませたいんだ。言われた通りの物が出来たんだろ?」

 

「あ、そうですね」

 

励ますライラ様の間に入るゴンベエ。

会話は一度中断し、ライラ様は筒形状に丸まった大きな紙を渡す。

 

「……まぁ、これで問題ないか」

 

「それは?」

 

「視力検査のアレって、通用しないか。

スレイの視力が落ちているんだったら、視力を補う道具を使えば良い……片眼鏡作りゃ良いだけの話だ」

 

伸ばした紙をまた丸めるゴンベエ。

ライラ様達と共に外に出るので私も追いかける。

そうだ。視力が落ちてしまったのなら眼鏡を作れば良いだけだ。

眼鏡は高級品だが、ゴンベエは眼鏡に必要なレンズの作り方を知っている。天然の水晶や宝石類を使わなくても眼鏡を作れる。

 

「眼鏡は流石にそっこー出来ねえが、かめにんとか言うのが速達で届けてくれるらしいからアリーシャ達がオレが行った事のない街にいても届けれる」

 

「アリーシャ、達……か……」

 

スレイ達でなくアリーシャ達と言う言葉にはそんな思いが込められている様な気がした。

大樹へ向かうとそこにはスレイとミクリオ様がいて、スレイとミクリオ様に負担をかけてしまった事を謝るが、逆に謝られてしまう。

謝られる立場ではないと思っているとゴンベエに凸ピンされ、少しは前を見ろと怒られて気持ちを切り替える。

 

「はい、じゃあ視力検査な」

 

近くの家の壁に紙を貼って距離を取るゴンベエ。

ゴンベエの国では視力と言うのはこの様にして測るものなのだろうか?

 

「色と矢印の向きを言うんだ。

あの、例の黒いアレは無いから手で目元を隠してくれ」

 

「例の黒いアレ?」

 

「分からねえなら気にすんな。先ずは左目…コレ」

 

「えっと、右向きで黒色?」

 

「まつざきしげる色だ」

 

「誰よ、それ!」

 

視力検査が始まり、指定された矢印の向きと色を答えるスレイ。

一番下の小さな矢印の向きと色も間違いなく答え、左目には異常はなかった。

 

「じゃあ、次は右目だ…はい、これ」

 

「えっと……ごめん、見えない」

 

「じゃあ、コレ……」

 

「それも分かんない」

 

「はい、右目悪い!」

 

「おい!!左目の時と比べて適当すぎないか!!」

 

徐々に徐々に段階を上げて検査した左目と比べ、右目はたったの二回で終わってしまった。

余りにもあっさりと終わってしまった事にミクリオ様は抗議する。

 

「しゃあねえだろう。

左目で見えた一番下の一番小さな矢印が右目で見えないから、取り敢えず一番上の一番大きな矢印からスタートしたのに見えねえんだ。某芸人のコントみたいな事にもなる!!」

 

「某芸人……いったいどの様な御方なんでしょう?」

 

「気にしている場合じゃないわよ。

流石に一番上の矢印が見えないんじゃ、眼鏡を作ったとしても左右の視力が合わない可能性があるわ」

 

「お前、視力どんだけ落ちてんだ?

目が悪い奴みたいにピンぼけしてるとかそんな感じじゃねえのか?」

 

「えっと……本当に、本当に一部なら何となくで見えるんだ。

でも、殆どが真っ暗になっててあんまり見えなくて……ごめん、折角眼鏡を作ってくれるのに……」

 

「普通の視力低下とは違う視力低下か、ド近眼とかじゃねえなら眼鏡使っても意味ねえぞ」

 

眼鏡を必要としない、眼鏡ではどうにもならないスレイの視力低下。

流石のゴンベエも何時もの様になにかあると言えず、お手上げ状態だった。

 

「もうこれはスレイが眼帯をつけて右目なんざ使ってんじゃねえええええ!!をするしかないわね」

 

「スレイはそんな凶暴なキャラじゃないだろう」

 

「眼鏡の補助が出来ない事は残念です。

ですが、その代わりに私達がスレイさんの目となりましょう!」

 

「皆……ありがとう!!」

 

眼鏡の希望は断たれたが、それだけだ。

ライラ様達はスレイの右目の代わりとなると決心する……だが、ゴンベエは納得がいかない顔をする。

 

「大丈夫なのか?」

 

「うん、皆が俺の右目の代わりになってくれる」

 

「そう言う綺麗な感じで纏めて良い話じゃねえだろう」

 

「ゴンベエ、確かにスレイの右目は見えなくなっている……だが、その代わりに私達の右目はちゃんと見えている」

 

私達がスレイの目の代わりになってみせる。

こんな所で落ち込んではいられない。前に進まなければならない……

 

「お~い、導師」

 

「ルーカス、どうしたの?」

 

決意を新たにしていると、一人の傭兵が手を上げて近付いてくる。

手を上げていない方の手には袋を持っており、ジャラジャラとお金の音がする。

 

「この仕事、この額じゃ割に合わん」

 

「ええ、そんな!?」

 

「えっと、貴方は?」

 

「俺か?俺はルーカス。木立の傭兵団の団長、とでも言っておこうかお嬢ちゃん」

 

「傭兵……」

 

スレイに用事がある傭兵と言えば、心当たりは一つしかない。

少しの間、このマーリンドを警護する事になっている傭兵だ。このルーカスと言う傭兵、かなりの実力を持っている。

 

「ルーカス、割に合わないってさっきは依頼を受けるって」

 

「勘違いするな。仕事と貰う報酬の割合が合わない、ただそれだけだ。

お前の言った通り、異常なまでに凶暴化している野犬や狼がいるが数が圧倒的に少ない。なによりも見た目より弱い。これなら報酬は貰った額の半分で良い。要はこれは釣りだよ」

 

ルーカスはスレイに向かっておつりが入った袋を投げる。

だが、不幸かスレイの右側に投げてしまい、スレイは袋を受け取るのに失敗してしまう。

 

「ゴンベエ」

 

「ローンは受け付けてねえ。一括で支払え」

 

袋を拾い上げたスレイは、ゴンベエに返そうとする。

だが、ゴンベエは受け取らない。一括で以外は受け付けるつもりはない……のだが、まるで他のなにかに使えと言っている。

 

「トイチだから、ちゃんと利子揃えて一括で返せよ」

 

「トイチって随分とぼったくってんだ」

 

「スレイならば確実に返せると踏んでいる」

 

「はっはっは、確かに導師なら金を集めるのも簡単だな。

しかしまぁ、今回の依頼は簡単すぎて暇すぎるな。俺が動かなくても部下だけで充分過ぎるほどだ。ふぁ~」

 

気の抜けた大きなあくびをするルーカス。

本当に部下の人達だけで充分なようで、意識を緩めていて隙だらけだった。

 

「……ねぇ、ルーカス、もし暇なら俺と勝負してくんない?」

 

「スレイ?」

 

少しの間、お金が入った袋を見つめるとスレイはルーカスに勝負を挑んだ。

スレイの性格からして自らが勝負を挑むなどという事はしない筈だが、いったいどういうつもりなのだろう?

 

「おいおい、俺はあくまでも傭兵。守るのが仕事でそう言うのは専門外だ」

 

「そう言わず、もし俺に勝ったらこのお金はルーカスが好きに使ってよ」

 

「ほぉ、賭けをしようってか?

良いのか?俺はあの帝国の将軍クラスの実力を持ってると言われているんだ……例え導師だろうが、手加減しねえぞ?」

 

「うん、むしろ手加減しないで欲しいんだ」

 

「……分かったよ」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

ルーカスが剣を抜くと待ったをかけるスレイ。

私の元に近付きライラ様達を招いて、他の人達に声が聞こえないように囲む。

 

「エドナ、眼帯を持ってない?」

 

「あるわよ……つけるつもり?」

 

「うん、つけるよ」

 

「この際だからどうしてエドナが持っているか気にしないでおくが、スレイ、なにをしているんだ?

それはゴンベエから借りたお金でルーカスとの賭けなんかに使うんじゃなく大事に取っておかないと、何時ゴンベエに纏まったお金を返せるか分からないんだぞ」

 

「待ってください、ミクリオさん……スレイさんは、今の自分の力を確かめる為にルーカスさんと戦うのですね?」

 

「うん、そうだよ」

 

エドナ様から黒い眼帯を受け取って右目につけるスレイ。

ライラ様の言葉に頷き、戦う理由を説明し始める。

 

「皆が俺の目の代わりになってくれるのは嬉しいよ。

でも、それでも見えないのには変わりは無いから少しでも強くならないといけない。

天族の力を一切借りずに俺一人の力で傭兵として強いルーカスに勝てるぐらいじゃないと、何時か出会う災禍の顕主を相手には勝てないと思う」

 

何時か出会い対峙する災禍の顕主との戦いに備えての予行演習。

右目が殆ど見えないスレイはルーカスをその相手に選んだのか……

 

「ゴンベエから借りたお金、結構な額だから勝ちなさいよ」

 

「うん」

 

此処でゴンベエから借りたお金を失うわけにもいかない。

眼帯をつけ終えたスレイはルーカスと向かい合う。

 

「おいおい、ハンデのつもりか?」

 

「ええっと」

 

「スレイはこの街の疫病とかの原因の植物を除去してきたんだが、その際に花粉に右目をやられたんだよ。眼が真っ赤になるとかそう言うのがなくて分かりづらくて、本当についさっきまで隠してやがった」

 

「成る程な……怪我人相手だろうが、容赦しねえぞ!!」

 

ゴンベエが眼帯をつけている理由を適当に説明すると戦いがはじまる。

先程までの気の抜けた雰囲気と一転し、ルーカスは歴戦の強者の覇気を出している。

 

「手加減されるほど、弱くはない!!」

 

スレイも剣を取り構える……そして決着はあっさりとついてしまった。

 

「いててて……」

 

「俺の勝ちだ。約束通りこいつは貰っていく」

 

「うん、俺の負けだよ」

 

スレイがあっさりと負けてしまった。

神依や天族の方達の力を使い戦っている所もあるが、我流とはいえ狩りで鍛えた腕はそこらの一般騎士を遥かに上回っており、決してスレイは弱くはない。

戦ったルーカスと実力差はあるかもしれないが、それでも絶望的なまでの差はないのにあっさりと負けてしまった。

 

「太刀筋も速度も力も意識も悪くはない。

だが、距離感や右側からの攻撃を上手く掴めていないな。今みたいに右側から攻めれば俺の部下でも倒せるぞ」

 

「……やっぱり右側の攻撃と距離感か」

 

「導師、悪いことは言わねえ。

無理に戦おうとせずに、今は休んで目を治せ。

俺達人間は蝙蝠の様に音で空間を認識していない。犬の様に優れた嗅覚も持っていない。人間は目で世界を認識する。

生まれた時から目が見えないのなら優れた触覚や空間認識能力を持って育つが、ついさっき目に粉でやられただけだろ?だったら、無理に眼帯なんか付けずに治すのを優先しろ」

 

剣を鞘に戻すルーカスはスレイに助言をする。

至ってシンプルな助言を、目を治せと言う助言だ。

 

「此処数年色々とおかしな事が起きている。

それをどうにか出来るのが導師なのかもしれないが、そんな中途半端な状態で来られても困る。やるからには万全の状態で、右目を治してからにした方がいい。これは仕事をする者としてのアドバイスだ。大きな怪我をしている状態で依頼を受けるなんて傭兵として失格だ」

 

「やるからには万全の状態、か……」

 

「じゃあな、導師」

 

「うん……ルーカス、また別の街で会ったときは勝負してくれる?」

 

「いいぜ。ただし、負けたら酒を奢ってくれよ!」

 

「分かったよ!」

 

この場から離れるルーカスに手を振るスレイ。

するとエドナ様が傘でスレイの膝裏を突いた。

 

「良い感じに終わったのは良いけど、負けてるじゃない」

 

「ご、ごめん。けど、眼帯をつけた状態で何処まで出来るか分かったよ」

 

「距離感と右側からの攻撃に弱いか。今後この弱点を克服し、皆でカバーをしなければな」

 

「ですわね……一息ついた後、マーリンドから出ましょう」

 

……万全の状態で挑まなければならない……

 

「まぁ、なにかと大変だろうが頑張れよ。手伝わねえけど」

 

「うん。ゴンベエもマーリンドでの商売頑張ってよ」

 

「お前も頑張って俺からの借金返してくれよ。アリーシャ、私が立て替えようと言う感じのことは言う……アリーシャ?」

 

右目が見えなくなると言うのは、どの様な感覚なのか考えたこともなかった。

きっとそれだけで見ている世界が変わっている。一年以上右目が見えないのならばまだわかるが、本当に数日前までは目が見えていた。今から眼帯をつけて、距離感や右側からの攻撃に対応出来る様になるのには時間が掛かってしまう。

 

「スレイ……」

 

ルーカスが治せと言うのは最もなことだ。

だが、だが……スレイの右目は怪我や病気で見えなくなっているものではない。眼鏡を使えばいいだけの話じゃない。

スレイの目を治す方法はたった一つだ。





スキット 特殊刑事課三羽烏

アイゼン「野郎共、集まれ」

ゴンベエ「んだよ?」

ライフィセット「どうしたの?」

ロクロウ「なにかあったのか?」

アイゼン「お前達……気付いているか?」

ライフィセット「気付いている?」

アイゼン「ベルベット達の衣装に対してオレ達の衣装が圧倒的なまでに少ない事に気付いているか?」

ロクロウ「あ~まぁ、薄々は気付いていたぞ。奇術団だアイドルだ、色々とベルベット達だけの衣装があるってのは」

ライフィセット「アイゼン達の衣装は全員の衣装の時しかないよね……」

ゴンベエ「なんかすっげー危ない発言してる。本当、そう言うのバンナムさんに怒られるからやめねえか?」

アイゼン「ふっ、バンナムが怖くて死神なんぞやってられるか」

ゴンベエ「死亡フラグたてやがって……」

ロクロウ「それで、俺達を集めた理由はなんだ?」

アイゼン「決まっている、オレ達だけの衣装が完成した!」

ゴンベエ「なにやってんだ、お前……何時ぞやの海賊の時もそうだったか。で、今回はなんだ?魔法使いか?ジャージか?」

アイゼン「いや、違う。ベルベット達と対になるものだ」

ライフィセット「ベルベット達と対に……僕達もアイドルの格好をするの?」

ロクロウ「いや、それだと対にはならない筈だ」

アイゼン「ベルベット達はアイドルやら奇術団やらステージに立つ者の衣装を身に纏っている。
謂わば光り輝く花道を歩いているとするならば、オレ達は影を……ベルベット達を警備する警察だ」

ゴンベエ「お前、曲がりなりにも海賊だから警察の格好すんじゃねえよ……つーか、警察の衣装なら全員被るんじゃないのか?」

ロクロウ「確かに、警察は全員同じ制服を着ていて統一されているな」

アイゼン「その点は心配いらん。
ステージで客を楽しませるベルベット達を守るのはただの警備する警察じゃない。陸海空に長けたスペシャリスト達で、それぞれがオンリーワンな衣装だ」

ロクロウ「陸と海は分かるが、空?」

アイゼン「戦闘機と呼ばれる空を飛ぶ船に乗っている警察だから、空だ」

ライフィセット「戦闘機、どんな乗り物なのかな!!」

ロクロウ「面白そうだな、ライフィセット!一緒に空の警察になろうぜ!」

アイゼン「空の警察はちょうど二人一組のペアだ」

ゴンベエ「まぁ、戦闘機運転するの難しいからな……となると、オレは陸で良いのか?アイゼンは海を選ぶんだろ?」

アイゼン「当然だ。警察になろうともオレは海賊、海の男だ」

ゴンベエ「警察で怪盗じゃないんかいっと」

ライフィセット「海の警察って、どんな感じなの?」

アイゼン「潜水艦と呼ばれる海中を自由自在に行き来する乗り物に乗って海の犯罪者どもを追いかけ、調教したイルカに爆弾を投げさせたり、とにかく海のエキスパートだ」

ゴンベエ「ん、んんん?なんか聞いたことあるぞ」

ロクロウ「取り敢えず着替えてみようぜ!!」




~~~~~~お着替え中~~~~~~


ベルベット「ゴンベエ、ライフィセットを見なかっ……」

ゴンベエ「やっぱコレか……」

ベルベット「ゴンベエ、なに水着に着替えているのよ?あんた、水中でも呼吸出来るんでしょ?」

ゴンベエ「色々とあったんだよ。でもまぁ、オレがこれでよかった」

ベルベット「?」

アリーシャ エレノア 「いぃいいいいやぁああああ!!」

ベルベット「っ、今のはアメッカとエレノアの悲鳴!」

ゴンベエ「あ~、オレのが一番インパクト薄いからな……ははは」

アイゼン「全く、オレの姿を見て悲鳴をあげやがって」

エレノア「そ、そりゃあげたくもなりますよ!!」

アリーシャ「なんなんですか、そのへ、変な格好は!!」

アイゼン「海を愛し、正義を愛する。誰が呼んだかポセイドン。ドルフィン刑事(デカ)とでも呼んで貰おうか?」

ゴンベエ「言っちゃった、遂に言っちゃったよ」

ベルベット「アイゼン、あんたまでなに変な格好をしてるのよ」

アイゼン「なに、妹やお前達を守る警察に……ゴンベエ、いや、海パン刑事、ネクタイをちゃんとしろ。アメッカ達女に失礼だろう!!」

ゴンベエ「あ、やっぱネクタイは大事か」

アリーシャ「ゴンベエ、どうして海パン姿に」

ゴンベエ「陸に事件が起きた時、海パン一つで直ぐに解決するからだ」

エレノア「此処は船の、しかも海の上ですよ!」

マギルゥ「ぎょぇえええええ!!」

ビエンフー「ビ、ビェエエエエン!」

ベルベット「今度はマギルゥとそれにビエンフー!?」

ビエンフー「目が、目がぁ!!」

エレノア「なにがあったのですか!?」

マギルゥ「あ、あれはメルキオルのジジイの幻よりもキツい」

アリーシャ「マギルゥが此処まで苦しみとは……いったいなにが」

アイゼン「事件の匂いがする。調査するぞ、海パン刑事!」

ゴンベエ「いや、もう犯人が分かってるから」

ロクロウ「おい、どうした皆、叫んで」

エレノア「ロ、ロ、ロクロウなんて格好を。それは明らかに女性ものじゃないですか!」

ロクロウ「いやなに、満月の夜のみしか出動しない空の警察はこの格好をしなければならないらしいんだ」

ゴンベエ「w違和感しかねえw」

マギルゥ「いくらなんでも、途中で着るのをやめるじゃろい!!」

アリーシャ「その様な格好では、下着が見えてしまいます!!」

ベルベット「死ね」

ロクロウ「お、おう……思ったよりも辛口だな。俺は動きやすくて良いんだが」

ビエンフー「ビ、ビエーン!目が穢れるでフー!」

アイゼン「ロクロウ、いや、美茄子刑事。お前の役目はアシスタントだから、月光刑事の仕事を余り奪うなよ」

ロクロウ「おう!」

ベルベット「月光刑事って、あんたらまさかフィーにまでこんな変態染みた格好をさせたわけ!?」

ゴンベエ「アイゼンが全てやりました!!女性陣だけDLCが多いのに不満を持って独断と偏見でやりました!!」

アイゼン「海パン刑事、情報を横流しするな!!」

ゴンベエ「いやだって、お前……流石にこの格好はダメだろう。オレでももうちょいましなの用意するぞ」

アイゼン「ならば、次はお前が用意してみろ!」

ゴンベエ「よし、覚えとけよ。お前のよりスゴいのを用意してやるからな」

アリーシャ「二人の事はともかく、ライフィセットは何処に行ってしまったのだろう?」

マギルゥ「なに、先程から背後に視線を感じる、それが坊なのじゃろう」

ライフィセット「っ、バレてた!」

ベルベット「フィー、コイツらのばか騒ぎに付き合わなくても……」

エレノア「まぁ、とてもよくお似合いですよ。御人形の様で可愛いです」

ライフィセット「恥ずかしいよ、こんな格好」

アイゼン「ライフィセット、いや、月光刑事。その格好にはちゃんと意味がある。パンチラで犯人を悩殺し、大きな隙を作る為のものだ!!」

ゴンベエ「w違和感仕事しねえw」

アリーシャ「パンチラ……子供にそんな事をさせてはダメだ!」

ビエンフー「そうでフ。どうせならばアメッカさんやエレノア様みたいな清楚な方のパンチラを」

マギルゥ「アイゼン、このままだと保護者達からのクレームが来るぞい。それとビエンフー、格好があれなベルベットはまだしもワシを省くとはどういう了見じゃ?」

ビエンフー「つ、つい口がうっかりと!」

アイゼン「……仕方ねえ。だが、最後に口上だけは言わせてくれないか?」

エレノア「はぁ、一回だけですよ」

ゴンベエ「……え、これオレもやる流れなの?」

アイゼン「勿論、お前からだ」

ゴンベエ「…………股間のモッコリ伊達じゃない。 陸に事件が起きた時、海パン一つで全て解決!特殊刑事課三羽烏の一人、海パン刑事只今参上!!」

アイゼン「タ~リラリラ~♪海を愛し、正義を愛す。誰が呼んだかポセイドン。タンスに入れるはタンスにゴン。お茶目なヤシの木カットは伊達じゃない。オレがアイフリード海賊団副長。特殊刑事課三羽烏の一人、ドルフィン刑事只今見参!」

ライフィセット「華麗な変身伊達じゃない!月のエナジー背中に浴びて、正義のスティック闇を裂く!空の事件なら任せて貰おう!月よりの使者月光刑事、ただいま参上!!」

ロクロウ「同じく美茄子刑事もよろしく!」

ビエンフー「お、終わったでフか」

ゴンベエ「なんか大事なものも終わった気がする。おい、もう着替えるからちょっと……ベルベット、そこにいたら邪魔だ」

ライフィセット「ベルベット?」

ベルベット「最近は顔も知られているし、その格好もありよ。その格好をしていればバレないんじゃないかしら?」

ライフィセット「は、鼻血が出てるよ。拭かないと」

ベルベット「大丈夫、なにも問題ないわ!」

アイゼン ロクロウ 「ベルベット、現行犯で逮捕する!!」

ベルベット「は、離せ!!離しなさい!!私はなにもしていないわよ!」

ゴンベエ「……最後の最後で仕事したな、うん……一時のテンションに身を任せてアイゼンと衣装を作る約束したが、どうすっかな……」

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