「アリーシャ、今なんて……」
「もう一度言う……私は、此処に、残る」
アリーシャは弱々しい声でマーリンドに残ることをスレイに伝えた。
ルーカスとか言うおっさんにあっさりと敗北したスレイを見て、気持ちが揺らいでしまったか。
「だか、ら……従士契約を解、除してくれ。そうすれば君の右目の視力は元に戻るはずだ」
スレイの右目の視力が悪くなったのは思いの外、やばかった。
ルーカスと戦った際に導師としての力を一切も使っていなかったが、あっさりと負けたのはマジでまずい。
昨日今日でバカみたいに視力が低下しちまっていきなり右目を使わなくての戦闘なんてオレでも難しい。
アリーシャはちゃんとした戦闘訓練を受けているから、視覚が奪われた状態での戦闘がどんだけヤバいかスレイ以上に理解している。
「アリーシャ、そんな、いた!?」
「察しなさい。アリーシャの苦しみを、現実を」
そんな気遣いはいらないとこのままで良いと言おうとするスレイだが、エドナが傘で突いて黙らせる。
ミクリオやライラはアリーシャが残る事についてなにも言わない。止めようとしない。
口では右目の代わりになってやると言えても、さっきの惨敗を見れば右目の視力は取り戻せるなら取り戻さないといけない。三人ともそう感じている。無論、オレもそう思っている。前々から眼帯キャラならば問題ねえが俄の眼帯キャラならば死角を確実に突かれる。
「も、勿論、スレイが心配だからだけじゃない。
ロハン様を正式に祀る者が必要で、この事をレディレイクに報告したり、またスレイがバルトロ大臣に襲われない様に内部から……」
「……分かったよ」
マジの泣き顔をしているアリーシャに首をふるスレイ。
ライラが間に入って手を繋いで赤く光りを放ち、恐らくだが従士の契約を解除した。
「本当、なら君と、皆様と一緒に世界を巡りたかった。災厄の時代を終わらせて、美しい世界を見たかったが……すまない」
謝る必要は何処にもないのに、なにを謝ってるんだか。
スレイの顔を見ることが出来ないアリーシャは段々と声が弱々しくなっていく。
「スレイ」
「……うん」
「さようなら、スレイ」
これ以上一緒にいると互いに苦しめあうだけ。
ミクリオは空気を読み、スレイを別の場所に連れていった。
「アリーシャさん、お元気で」
「くよくよしないの……別に今生の別れじゃないんだから」
ライラとエドナも去っていく……が、その声は届かない。
今のアリーシャは涙を拭くために眼鏡を外しており、天族の姿を見ることも声を聞き取ることも出来ない。
「ゴンベエ、頼みがある」
選んだのはアリーシャだ。
それならば下手に顔をつっこむわけにもいかないし、そろそろ家に帰ろうとすると服の裾を掴まれる。
後ろを振り向きアリーシャを見ると、服を掴んでいないもう片方の手に槍を……オレがあげた槍を握っていた。
「ゴンベエは、肉眼で天族が見える。
それだけでなくライラ様とは別の浄化の力を得ている……妖精さんから貰ったこの槍を使って、スレイの旅を助けてやってくれないか?この槍と浄化の力があれば……スレイの足枷にならない、共に同じものを感じられる真の仲間に、君ならば」
「やだ」
「っ!!」
アリーシャの頼みを断る。
何度も何度も言ってんだろ、導師とか穢れ浄化して世界救うとかそう言うのはしたくないって、パスだって。
確かにアリーシャが足枷になってスレイが弱体化したからアリーシャは従士をやめるって言う決意は苦しいだろうが、それとこれとは話が別である。
「ゴンベエ!」
「そう言う展開か!まぁ、そっちの方がシンプルでいいがな!!」
槍を構えるアリーシャ。
敵意は向けていないが明らかにオレと戦うつもりで、オレは背中の盾を握る。
勝ったらスレイの元に行ってこいって言うあれだな。ならば負けられん。
「王家の盾!!」
アリーシャの槍の突きを避け、間合いを詰めて盾で殴り飛ばす。
「鋼で殴ったが、鎧でダメージ軽減してるしこれぐらいで気絶するほど柔な鍛え方してねえだろ」
「ぐぅ、う」
アリーシャは槍を杖代わりにして立ち上がる。
軽減されたとはいえ、王家の盾のダメージは確かにあるのに、まだオレと戦うつもりだ。
「戦いでは勝ってたけど、根気負けしてオレの負けだなんてぜってー言わねえからな」
「あ、あ……君を倒して、スレイの、元に。今の私に、出来る一番のこと、だ!!」
槍を持って突撃するアリーシャ。
素早い突きを数回やった後に大きく凪ぎ払うが、オレは全てを避ける。
「どうした!!避けているだけでは、勝つことは出来ないぞ!!剣を抜くんだ!」
背中のマスターソードを抜かず、避けるだけのオレに苛立つアリーシャ。
「お前、今とんでもない顔になってんぞ」
「私の顔なんて、どうだって良い!!さぁ、剣を抜くんだ!!」
「……じゃ、ちょっと真面目にやるか」
穢れてはいないが焦ったりして、色々とおかしくなっているアリーシャ。
オレは盾を背に戻し、デクナッツの仮面を取り出す。
「これ、なんだと思う?」
「!?」
「こういうことだ」
今のアリーシャにこれは効くだろうと思ったが、案の定効果は絶大だった。
槍の速度は遅くなり、突きの洗練さもなくなった。
「ゴンベエが、妖精さん」
デクナッツの仮面をつけてデクナッツリンクに変身すると攻撃の手を止めるアリーシャ。
デクナッツリンクの状態で出来る攻撃は限られているのでゴロンリンク、ゾーラリンクと変身して更に揺さぶると槍を手から放す。
「どうした、オレを倒すんじゃなかったのか?」
「……なさい……」
「?」
「ごめん、なさい……ごめんなさい……」
アリーシャは膝をついて泣きじゃくる。
槍を握る力……強い意思的な意味での槍を握る力はなくなった。
「なんで謝るんだ」
「ゴンベエが……ゴンベエがくれた、この槍を。
力が無い私に、眼鏡も槍も与えてくれたのに……こんな、こんな醜態しかさらせない。スレイにも迷惑を負担をかけて、私は、私は!」
「落ち着け、本当にヤバい顔になってんぞ」
言葉を上手く出せないアリーシャ。
鼻水をジュルジュルと流しているので、鏡を取り出すと少しだけ落ち着く。
「なんで、なんで私は……」
「そう落ち込むな……と言っても無理だな。
確かにスレイと共に戦うことは出来ない……だが、それだけだ」
「なにが、それだけなんだ!」
「…………結局、スレイがやってるのは自然災害を起こさない様にしてるだけだ。
地球温暖化をどうにかしようとしているだけであり、あくまで経済をどうこうするとかそう言う感じじゃないんだ」
「地球、温暖化?」
スレイは確かに憑魔を浄化する事が出来るし、天族と対話できる。
だが、その代わりにスレイに出来ないことは沢山ある。この国の事情とかあんまり知らない。
如何に優れた土地であろうともある程度は正しい内政をしないと、天然資源等は枯渇したりするし社会は発展しない。
それをすることが出来るのは、少なくともアリーシャだけだ。
「スレイが導師として世界を巡りやすくする、それがアリーシャの出来ることだ……その槍はもうお前の物だから、返さなくて良いぞ。そしてオレは基本的にはスレイを手伝わない」
「……少しだけ、良いか?」
「ッチ、今回だけだぞ」
スレイを手伝わない事に関してこれ以上はなにも言わない。
代わりに思う存分に涙を流す。今の今まで溜まっていたストレスを、不安を吐き出すかの様に泣く。
此処で拒むとアリーシャが穢れそうな気がするので、今回だけはアリーシャに胸を貸して、今回だけは支えになる。
「すまない、恥ずかしいところを見せてしまって……」
「別に気にしてねえ……それよりも今後どうすんだ?」
「スレイにも言ったように、マーリンドの一件を報告する。
それと、ゴンベエの言ったようにスレイが世界を巡りやすいように……ゴンベエも行きやすい様にする」
「オレ?」
「結果的には助かったが、ゴンベエは本来はマーリンドに来る予定はなかった。
バルトロ大臣が君まで利用しようとしていたから、マーリンドに避難してきたが、元々はレディレイクに行く予定だった。またレディレイクで商売が出来るようにする」
「それは嬉しいが、爺さんに此処で商売するって言ったからレディレイクとマーリンド交互で売るよ」
「そうか……今回の件のお礼をしたい、一緒にレディレイクに来てくれないか?」
「なに言ってんだ?この街を救ったのは導師様でオレはなにもしてないぞ?」
割と今回はマジでなにもしていない。
スレイを運んできただけであり、雑魚憑魔を殴り飛ばしたりしただけで大きな穢れをどうこうしていない。
なにもしていないのに礼をされるのは流石にと思うと何故かアリーシャはクスリと笑う。
「とにかく、一緒に来てくれないか?」
「まぁ、レディレイクで商売出来るようになった方が楽だから良いけどよ」
一先ずは今回の件を報告する事にしたアリーシャについていくことにした。
スレイ達にはなにも言わず、ロハンとアタックにだけ別れを告げてマーリンドを出ていく。
「しかしまぁ、従士が下手に作れないとなるとスレイは更に努力しないといけねえな」
契約解除して視力戻ったのは良いが、その分人手が減ってしまった。
これから先、増やさないといけないのは導師としての力もあるが天族を認識できる人だが、そんな都合よく天族を認識できる人はいない。天族がコイツ気に入ったと人に憑いてたりすれば見えてたりするが、アリーシャが色々と歩いて色々と見たが最後しか天族が居なかったから無理っぽいか。殆どが憑魔化してるやつだな。
「ス、スレイならば」
「あ、悪い」
話題のチョイスをミスした。
スレイに関する事はこれ以上は追求するとアリーシャはまた泣いてしまうから、なんか別の話題を出さねえと……そうだ。
「マオクス=アメッカの情報、なんか掴めたか?
アタックがオレとアリーシャを何度も交互に見ていたが、あいつなんも言わなかったんだ」
「その事なんだが」
「いたぞぉ!!」
「ん?あれって、確かこの国の騎士だよな?」
モブ……と言うのは悪いのだが、そうとしか言えないこの国の兜を被って素顔が見えないこの国の騎士達。
十数人ぐらいがオレ達を円形に囲み、槍を向ける。
「これはいったいなんの真似だ!!」
「アリーシャ殿下、貴殿は導師を利用し国政を悪評にした流布とローランス帝国進軍を手引きした疑いがある!」
「進軍って、おい、それはつまり!」
「ああ、そうだ。間もなくローランスとハイランドの戦争がはじまる!!」
「マジかよ……あ、オレは関係ないんで帰って良い?」
アリーシャが戦争を反対している純粋な人間なのは知っている。
大方、バルトロ大臣とやらが罪をでっち上げて動きを封じるつもりだ。
オレは手を上げ、関係が無いので帰らせてもらう。巻き込まれるのはごめんだ。
「ナナシノ・ゴンベエ!貴様、ハイランドに1ガルドも納税をしていないだろう!」
「待て、それはなにかの間違いだ!!
私は悪評も進軍の手引きも、ゴンベエが1ガルドも納税をしていないのも全てでっち上げだ!!これは誰かが」
「ごめん、アリーシャ……未納だ」
「え?」
うん、本当にごめん。
この騎士達の言う通り、オレは1ガルドも納税していない。バレない様に頑張ってたんだけど、無理だったか。
「くそ、スレイに金貸すんじゃなかったな」
此処で賄賂を渡して黙らせておけば、オレは帰ることが出来る。
だが、金はスレイに貸してしまったから残念ながら遠慮の塊ぐらいしか持っていない。
「二人の身柄を拘束させてもらう」
「……アリーシャ、無闇矢鱈と動けば国家転覆とか国家反逆の罪で指名手配犯になる。悪いが、オレは手を上げさせて貰う」
やっぱ権力持ってる奴はつえーよ。
オレは両手を上げて自転車から降りて、拘束を受け入れる。
「さぁ、アリーシャ殿下も!さもなくば我等は貴女を力付くで拘束致します!」
槍をクイクイっと突くモーションをする騎士。
この騎士は本気でアリーシャが悪評や手引きをしていると思っているな。
「アリーシャ」
「……っく、殺せ!」
「いや、それ今言う台詞じゃねえだろ」
こんな屈辱を受けるぐらいならばと思っているかもしれないが、それは今言う台詞じゃない。
オレとアリーシャは武器を取り上げられ、騎士が持ってきた手錠に縛られレディレイクへと連行された。
ゴンベエの術技
王家の盾
説明
剣や槍は勿論、炎、氷、魔法弾、光の化身が放つ攻撃を防ぐ最強のハイリアの盾。そんな盾を片手に大きく振りかぶり、相手を殴り飛ばす。鋼で殴っているのでかなりの威力があり、相手からの遠距離攻撃を防ぐことが出来る。
決してGKの必殺技じゃない。