「勇者だと?」
「勇者だよ。
大空でも大地でも風でも時でも黄昏でもなんでもない名無しの勇者だ」
ライオン、伊達に災禍の顕主と呼ばれていないな。
穢れが多すぎるからか、マスターソードは何時も以上に青白く光っている。
「ライラ、勇者って」
「導師は過去様々な呼び方がありました。
対魔士とも呼ばれている時代もあったのですが……勇者と言う呼び名ははじめてです」
「ゴンベエは、この国の人じゃない……別の国の人間か。
さっきの光も、あの剣も俺やライラと全く異なった方法で出来ているのか」
ゆっくりと立ち上がるスレイ。
ライラに勇者について心当たりがあるのか聞くが、聞いたことはない。
「言っとくが、ノリで勇者って言ったが違うからな。
あくまでもオレは勇者が使っている道具とかを使えるだけであり、時でも風でも大地でも黄昏でもなんでもない、名無しの権兵衛だ」
勇者になんてなってたまるかよ。
導師が目の前にいるんだから、そいつに押し付ける。
「四人も勇者が居るのか?」
「時代によって現れるんだよ。
その昔、神々の力が眠ると言われた緑豊かな王国があったがそれを悪しき者に目を付けられ神々の力を奪われてしまい、王国は闇に包まれてしまい、世界は滅ぼうとしていた。
だが、滅ぼうとしたその時緑衣を纏った若者がどこからともなく現れ、退魔の剣を振るって悪しき者を封印し、王国に光を取り戻した。 人々は時を越えて現れた若者を「時の勇者」と呼び称え、彼の活躍は後世に語り継がれていった。
しかし時の勇者の活躍が伝説として語り継がれるようになった頃、王国に再び災いが起きた。 時の勇者に封印されたはずの悪しき者が蘇ってしまった。人々は時の勇者が再び現れてくれることを信じていたが、勇者が現れることはなかった…その後、王国がどうなったかは誰も知らない……これが時の勇者の伝説」
「それが、貴様の国に伝わる勇者の伝説と?」
「オレの国って言うか任天堂に記されてるものだ。
一から順に追っていくと、大空の勇者からになるが……お前に話す義理は無いな」
オレは剣に闇を纏い、闇纏・無明斬りを放つがヘルダルフははたき落とす。
闇、だから邪悪な存在で穢れの塊のヘルダルフには相性が悪いか?
「……ライラ」
「あ、はい!」
「オレは導師でも従士でも天族でもなんでもない異国の民だ……ぶっちゃけ、オレの存在は邪魔か?」
ライオンをぶっ倒そうと思えば、何時でもぶっ倒せる。
と言うか、オレを巻き込んだから一回はオレの手でぶっ飛ばす。コイツをぶっ倒せば災厄の時代の終わりが一気に近付く。
「な、なにを仰っているのですか?」
「正直に答えろよ、オレの存在が邪魔かどうか」
「邪魔って……確かに君は破天荒だが、悪では」
「おこちゃまね、ミボは。
善とか悪とかじゃどうにもならない話が世の中にはあるのよ」
ライラとミクリオは慌てるがエドナはオレの質問の意図を理解した。
「スレイがヘルダルフを倒すのと、ゴンベエがヘルダルフを倒すのでは大きく意味が異なるわ」
スレイが災禍の顕主を倒せば、明確に見える悪を明確に見える正義が倒したことになる。
だが、オレが倒せば正義でもなんでもない倒した後のアフターケアもなんもしない奴が倒しただけで、本当にそれだけだ。
悪を倒しただけで、それ=世界を救うとかそう言う感じじゃない。
「だから、正直に答えろ。
オレの存在が、邪魔かどうかをな」
「…………ゴンベエさんの事は、正直邪魔です」
「ライラ!?」
「ライラ様!?」
「スレイさん、アリーシャさん、勘違いしないでください。
邪魔な存在かどうかと聞かれれば邪魔なだけで大嫌いや死ねば良いなどと言う悪意の感情は一切御座いません。
スレイさんが導師として成長し自らの答えを出して欲しい、そう私は思っています。ですが、ゴンベエさんが居ればスレイさんは導師として成長できない可能性が大きくあります。ゴンベエさんは導師の道も従士の道も歩まないのならば、見守るだけにして欲しいと思っています」
ライラの言っている事には一理ある。
やるならやる、やらないならばやらないで一線を引いていて欲しいと思うのは当然だ。
オレみたいなたまたま自分が巻き込まれたから動く受動的な人間は動かずにスレイの様に誰かに言われなくても選択する上条さん型の人間が動いてどうにかして欲しいと思うだろう。
オレもどちらかと言えばそっちの方を選ぶ……第三者的な立ち位置だったらな。
「もう一つ聞く。
スレイが……いや、導師御一行がパワーアップする方法は本当にあるよな?
理論上とかそんなんじゃない。走るのが一秒早くなったとかそんなのでもない、神依の様にハッキリと分かるパワーアップって出来るか?」
「あります」
「なら、答えは決まった」
前に聞いたが、念のためにともう一度聞いた。
オレがコイツをぶっ倒すのは色々と迷惑の様だ。
「輝け、我が手に宿りし勇気の証!今一つの力となれ!」
「この輝き、貴様もまだまだ本気を出していなかったと言うことか!」
「ワールドワイド、海を越えし者が勇気ある者の一蹴!!ブレイブゥ!!ショォオオット!!」
青白い光の球を作り、オーバーヘッドを決めるとライオンとは別の方向に一直線へと飛んでいく。
ライオンが、災禍の顕主がいるからか憑魔は近付いてこないが一応はいる……そいつらを一気にはね除けて光は飛んでいく。
「ついでにお前の方もだ!!」
「ぐぶぅ!?」
道を切り開く事が出来た。
後は余計な感情とかオレがやるんだと言う責任感に邪魔をさせないだけだ。
スレイの腹をおもっくそぶん殴って、立てないようにする。
「ゴンベエ、なにを」
「アリーシャ、スレイを連れてけ。
従士契約をしていないとはいえ、眼鏡があるから一度ライラ達と一緒に逃げろ!!」
「それはわかったが、君は」
「オレは割とどうにでもなる。
今、ブレイブショットで道を切り開いたんだ。一直線に走れば戦場からは抜け出せる」
「見捨てろと言うのか!?」
「違うな、準備期間を与える。
ライラ、確か天族は大まかにわければ火水風土と光がいるんだろ?」
「はい、私は火の、ミクリオさんは水、エドナさんは土、地の天族です」
「だったらなんとかして、風の天族を仲間にしろ。
てんこ盛りは無理かもしれねえが四属性全ての神依が出来るようになって、お前が知っているパワーアップをしてこい。
この野郎とまともに戦えるぐらいに強くなるまでの時間は作ってやる……走れ!!」
「ゴンベエさん……分かりました」
「……すまない、ゴンベエ」
「行くわよ」
今のままではスレイ達は逆立ちしても災禍の顕主に打ち勝つ事は出来ない。
戦った本人達がそれを一番理解しており、走り去っていく。
「アリーシャ、お前も行け」
「ゴンベエ……」
「バルトロの方はお前をなんやかんやで釈放するつもりだから、レディレイクに帰れる」
今にでも泣きそうな顔をするアリーシャ。
弱くなにも出来ない事を悔やんでいるのか、はたまたオレが死亡すると思っているのか……
「マオクス=アメッカ」
「え?」
「スレイがお前につけた真名だ。
そんな状態じゃ、真名を涙目のアリーシャに変えられるぞ」
古代語、全く知らないけど。
オレが喋れるのは日本語と関西弁だけで、英語は無理だ。
「……また、後で会おう」
「ああ……それと時間を稼ぐのは構わないが、徹底的にシバき倒してしまっても構わんだろ?」
「ああ、やってくれ!!」
何処ぞの弓兵の死亡フラグを建てると、アリーシャは走っていった。
「……んで襲わない?追いかけない?」
今の今まで待っていてくれるライオン。
ライラ達が走り去っていくのを気にせず、攻撃する素振りも見せない。
「何れ導師達は我が元にやって来る。問題は貴様だ、ナナシノ・ゴンベエ」
「おいおい、さっきまでの会話を聞いてなかったのか?
ライラは自分やスレイがパワーアップする方法を知っていて、更には風の天族を仲間にする。
今はお前を倒すことの出来ない相手だが、確実にお前の喉を切り裂く程に強くなるぞ?」
倒さないといけない相手なのに、そう言う慢心をしているから負けるんだ。
想定外の一手を踏まれない様に至るところに仕掛けを作るのは良いかもしれんが、最後の最後にものを言うのは力だ。
その力をつけてくるってのに、傲慢が過ぎるぞ。
「……アリーシャ達は行ったか」
「よそ見をしている暇が、あるのか!!」
ライオンとは別の方向を見ると殴ってきた。
「あるぞ」
「なに!?」
今度はさっきとは違う。
戦うつもりだから、盾で受け止める。
「アステロイド」
「それは我には効かん」
「+アステロイド……ギムレット」
さっきとは違うんだ。さっきのは威嚇であり、戦闘じゃない。
アステロイドを二つ作り出し、無理矢理合成して徹甲弾の形にしドリルの様に回転させながらライオンに撃ち、貫く。
「貴様、まだ本気でなかったのか!」
「さっきまでは戦うつもりが無かったからな。今は違うが。
お前を徹底的にシバき倒す……なんでオレがわざわざお前と交渉してやったと思ってんだ?ハウンド+メテオラ……
最初から勝とうと思えば勝てる相手だから、あんな交渉をしたんだ。
異なる性質を持つ二つの弾を合成して放つと避けようとするライオン。
「それは追尾機能持ちだ」
無数の弾を巧みに避けるが、それは追いかける。
飛んで避けた先に誘導炸裂弾が飛んできてライオンは爆発する。
「災禍の顕主と言うのがどれ程のものかと思ったが、この程度か……」
爆発の煙が晴れると体の一部が貫かれ、焦げているライオン。
ただただ光をぶつけているだけで、剣技を見せていない。
「粋がるな!!全力を出していないのは我も同じよ!」
いったい何処からそんな声が出るのか聞きたくなるぐらいに大きく吠えるライオン。
今まで力を抑えていたと言わんばかりに穢れを体から噴出させ、穢れの領域を深く重く強くする。
「なにを言い出すかと思えば……オレが今出してるのは本気だ、全力じゃねえ」
剣を両手で握り締め、何時も以上に闇を纏う。
「災禍の顕主に闇が通じるものか!!」
「勘違いすんじゃねえ…ぶった斬るのはてめえじゃねえ。世界だ!!」
オレとの間合いを一気に詰めるライオン、いや、ヘルダルフ。
大きく腕を引いて獅子戦吼を決めようとするが、此方の方が早い。
「闇纏・次元斬り!!」
マスターソードを全力でふり降ろし、ヘルダルフの左腕を肩から次元ごと切り落とした。
スキット 姫様の呪い ※一部ネタバレあり
アリーシャ「……」
ベルベット「アメッカ……ナニ、それ?」
アリーシャ「ベ、ベルベット!?な、なんでもない」
ベルベット「なんでもないじゃないでしょ。真っ黒焦げのものを持って、ゴミはちゃんとゴミ箱に入れなさいよ」
アリーシャ「ゴミ……そう、見えるか…ははは……はぁ……」
ベルベット「?」
アイゼン「おい、調理場が片付けられていないんだが誰が調理した?」
ザビーダ「オレとコイツはちげえし、ゴンベエは今掃除中だから御二人のどっちかだろ?」
アリーシャ「あ!」
ベルベット「はぁ……アメッカ、料理はするだけじゃなくてちゃんと片付けて初めて一つなのよ」
アリーシャ「すまない」
ザビーダ「お、なになにアリーシャちゃんの手料理?一口ちょーだい!」
アリーシャ「あ、あのコレはお出し出来るものではなく失敗作でして」
アイゼン「口調、敬語はやめろ。オレ達は天族だ人間だ関係無いただの友人だろう……真っ黒焦げだな」
ザビーダ「見事なまでに炭だな……」
ベルベット「アメッカ、料理下手だったっけ?あの時は普通に料理出来ていた筈だけど……」
アリーシャ「ゴンベエが見守っていて、少しでも手順を変えたりアレンジしたりしようとすれば拳骨を落として修整していたんだ」
ザビーダ「拳骨って、アイツDVなのか!?」
アリーシャ「ザビーダ様、じゃなかった。ザビーダ、アレは私がリンゴの芯を断鋼斬響雷で纏めて取ろうとしたのが悪かったからゴンベエに罪はない」
ザビーダ「アリーシャちゃんの槍術でもかなり強力なのじゃん!」
アリーシャ「もしあのまま断鋼斬響雷でリンゴの芯を取り除いていたら、船を破壊するところだった」
アイゼン「荒波に飲まれたのならまだしも、調理場の爆発で船が沈むのはごめんだぞ」
ベルベット「それ以前に包丁を使いなさいよ……で、それはなに?」
アリーシャ「皆に甘いものを、日々の疲れを癒すには甘いものが一番だと思って……捨ててくる」
ベルベット「待ちなさい」
アリーシャ「?……ベルベット、それは食べたらダメだ!!」
ベルベット「ん、ぐぅ……これは、まず……」
アイゼン「成る程……なら、オレも……む、ぐぅ……」
ザビーダ「お前等にだけはカッコつけさせねえぜ、いただきます!!ぬぅぉおおお……ぐぅ、むぅ……」
アリーシャ「ダメだ、黒焦げで味なんてしない……」
ベルベット「安心しなさい、糞不味いわ」
アイゼン「ああ、かなりの不味さだコレは」
アリーシャ「分かっているのに、どうして!」
ザビーダ「けど、一番大事なものがこのお菓子には入ってるんだよ……愛情って言う、最高のスパイスがな」
アリーシャ「愛情?」
アイゼン「そこまでのものじゃない……でも、そう言うものがこのお菓子には入っている」
ベルベット「誰かに食べて貰って元気になって欲しい真心や思いやりが入っている……次からは、私と一緒にするわよ」
アリーシャ「え?」
ベルベット「私も最初は失敗続きだったけど、セリカ姉さんがついてくれた……代わりになるかどうかは分からないけど、教えれることは教えてあげるわ」
アリーシャ「ベルベット……」
アイゼン「不安になる必要は何処にもない。死神の呪いを受けた状態でもオレは料理を覚えたんだ、お前にも出来る!」
ザビーダ「味見役は、このザビーダ兄さんに任せな!」
アリーシャ「……ありがとう」
ベルベット アイゼン ザビーダ 「礼はいらない」
ゴンベエ「いやー、やっと終わった。っておい、アリーシャ、料理するなとは言わないが後片付けぐらいしろよ」
アリーシャ「すまない」
ゴンベエ「もうオレがやったから良いけど……どうせ今回も失敗だろ?」
アリーシャ「それは……」
ベルベット「誰にだって失敗はあるのだから、落ち込むよりも次にどう生かせば良いのか考えた方が良いわよ」
アイゼン「失敗は成功の母だ」
ゴンベエ「……で、なにを作ったんだ?」
アリーシャ「お菓子に挑戦したが、ゴンベエの言うとおり失敗してしまった」
ゴンベエ「お菓子が欲しいなら、オレが幾らでも作ったのに……黒炭で、相変わらずマジいな、っぺ!!」
アイゼン「っ、おい!!」
ベルベット「……だったら、それの成功品を食べさせてあげるわ」
ゴンベエ「ん?ベルベットが作ったら意味ねえだろう」
ベルベット「作り方を教えるわ……だから、そう言う言い方はやめなさい」
ゴンベエ「……」
ベルベット「アリーシャ、材料を買ってきなさい。ちゃんと作り方を教えるから……コイツを見返してやるわよ!」
アリーシャ「……ああ!完成したアイスキャンディーでゴンベエをギャフンと言わせてみせる!!先ずは最上の材料を買ってくる!!」
アイゼン「ふっ、災禍の顕主を怒らせたのが……なに!?」
ベルベット「え?」
ザビーダ「ちょ、コレってアイスキャンディーだったの!?」
ゴンベエ「なんだ気付かなかったのか?」
ベルベット「いや、でもこれ炭よ?ジャリジャリするわよ?砂糖感一切無いわよ?」
ザビーダ「そもそもアイスキャンディーって冷やすもので焼くものじゃねえじゃん!?」
アイゼン「アレだ、アイスクリームに酒をぶっかけて燃やすフランベを」
ゴンベエ「アイスキャンディーつっただろ……オレもこんな事を言いたくないんだぞ。
アリーシャの手料理を食べてみたいと言う邪な考えはちゃんとあるんだ……だが、食った瞬間に意識を失って目覚めればベッドの上にいる料理は食えんよ。頑張って料理のやり方を教えても此方の方が効率が良いって槍を取り出したり、もう少しスパイシーな方が活気がつくって余計な調味料入れたり……もうオレが作ってやった方が良いってなって」
ザビーダ「にしても、アイスで暗黒物体を作るってどうなってんだ!?」
ベルベット「私が聞きたいぐらいよ!クッキーかなにかだと思ってたのに……」
アイゼン「最早、一種の呪い……姫様の呪いだな」
ゴンベエ「うまくねえよ……アリーシャ、本を読むタイプなのになんで料理の本とか読んでねえんだ……」