「ヘルダルフの領域を抜けました!」
ゴンベエに全てを託し、切り開かれた道を突き進む私達。災禍の顕主、ヘルダルフが放つ穢れの領域を抜けたことをライラ様が私に伝えてくださった。
「領域を抜けたのはいいがライラ、これからどうするんだ!?」
「詳しくはお話しできません。ですが、私達が確実に強くなれる方法があります」
「さっき言っていたやつね」
「はい。それとゴンベエさんの言う様に風の天族を仲間にしましょう!
全ての属性を同時に発動したり、同じ属性の人と纏めて神依は無理ですが風の神依はあります!!
地水火風、四つの属性の神依を使いこなさなければ災禍の顕主に打ち勝つことは出来ません!」
走りながらも今後の予定を伝えるライラ様。
ゴンベエの言っていた通りに動くしかない……それほどまでに、災禍の顕主はヘルダルフは強力な存在だった。
「……こ、こは?」
「スレイ!」
「スレイさん!」
少しでも安全な場所に避難しなければと走っていると、背負っていたスレイが目覚める。ゴンベエが入れた一撃が余程のものだったのか、目覚めても意識が上手く覚醒せず、数秒間はボーッとしており、辺りを見回してやっと自分がどうなっているかに気付く。
「アリーシャ、おろして!!」
「ダメだ、スレイ。病み上がりの体で走るよりも私が背負った方が早い」
「そうじゃない。ゴンベエを助けにいかないと!」
「っ!」
背中の上で暴れるスレイ。
後ろを見つめており、私の背から無理矢理降りて逆走しようとするとライラ様に止められる。
「いけません!!今ここでヘルダルフと対峙しても、負けるだけです!!」
「だからって、ゴンベエを見捨てるなんて出来ない!!」
「……」
「スレイ、なんの為にゴンベエが残ったと思っているんだ!!」
「貴方が少しでも強くなる時間を稼ぐ為に残ったのよ!心配をする暇があるなら、先ずは逃げなさい」
ライラ様が言うことが本当ならばヘルダルフに対抗する力をスレイは得ることが出来る。だが、それを得る代わりにゴンベエに大きな代償を、ヘルダルフの足止めをして貰わなければならない。
「誰かを見捨てて、災禍の顕主を鎮めたとしてそれって本当、に」
「……スレイ」
「アリー、シャ?」
納得が行かないスレイの頬を私はビンタした……本当は、私がビンタされる側だ。
「君は……此処でゴンベエを犠牲にして、も行かないといけない。
私と違って、天族と対話が出来て、ゴンベエと違って宿命を背負う決意をして聖剣を抜いた君は、なにがあっても災厄の時代を終わらせないと、いけないんだ!!」
憎い、憎い。力が無いことを今日まで憎んだ事は無い。ヘルダルフと対峙して以降、足手まといで邪魔にしかなっていない。なんの役にもたっていない。弱い自分が悔しくて仕方がなかった。
涙を流しながらスレイを止めている私は別れ際にゴンベエが言った涙目のアリーシャで、真名の
「アリーシャ……っ!?」
「なんだこの穢れは……今までの比じゃないぞ!?」
説得に応じ立ち止まったスレイは顔色を変える。ミクリオ様は杖を取り出して警戒を強め、私は肌で穢れを感じる。
「まだ本気じゃなかったのね」
「スレイさん、お分かり頂けましたか?
コレが災禍の顕主の恐ろしさです。導師になって日が浅いスレイさんでは太刀打ち出来ません。
弱い自分を悔やむのならば、ゴンベエさんの犠牲を無駄にしないためにも……今は此処を抜け出し、更なる力を持っ……あれは!!」
挫けそうになるスレイを必死になって立ち上がらせようとするライラ様の目に、雷が目に留まる。
「インディグネイション……っ……」
偶然に落ちたとは思えない雷を見て、術名らしきものを呟くライラ様。大きく俯きホロリと一滴の涙を流し、拳を強く握った。
「……行きましょう、これ以上ゴンベエさんの様な犠牲を出してはなりません」
「ライラ様、それはつまり今の雷は」
ヘルダルフがゴンベエに向けたものだと、今の一撃で死んでしまったものだと……
「戦地から離れるのは良いけれど、そろそろ目的地を決めないかしら?何時までも走り続けるの嫌よ」
「君の言うとおり、目的地を決めてそこで休まないといけないがこの辺にあるのは両国の陣ぐらいで休めそうな場所は何処にも」
「導師一行、此方に来い!!」
「お前は!?」
このまま宛もなく走り続けるのはダメだとエドナ様が目的地を考えるも、この辺一体にはなにもない。
変なところで休めばゴンベエと来たときに出会ったはぐれのローランスやハイランドの兵士と遭遇するかもしれず、かといってこの近隣に村はなくあるのは両国の陣営のみ。
どうしたものかと考えていると、嘗てバルトロ大臣の屋敷に招かれた際に襲撃してきた暗殺ギルド【風の骨】の者が現れる。
「この様な時に!」
スレイの命を狙ってきたのか!
槍を出して構えるも、風の骨の暗殺者は構えない。
「此方に来い」
「なに?」
「両国どちらに行って救援を求めても無駄だ。此方側から行けば、どちらの国の兵士にも見つからない」
「信じろと言うのか!暗殺者を!」
「信じるも信じまいも、お前達次第だ……」
暗殺者は消え去る、私達に教えた抜け道を通って。
「どうする?」
「どうするもなにも、奴は何度も僕達の前に現れているんだ。信じるなんて」
「ですが、あの暗殺者が通った道……ローランスとハイランドの陣営がある道ではなさそうです」
教えられた抜け道を通るか通らないか話すライラ様達。暗殺者が教えた抜け道は確かにどちらの陣営にも行かない道だが、その先に暗殺者達が待ち構えているかもしれない。
「……行こう、皆」
「スレイ、もしかしたら」
「暗殺者の集団が待ち構えているかもしれないのは分かってる……でも、今はこれしかないんだ。
それに、もし襲ってきたとしても大丈夫だって。ヘルダルフにはやられちゃったけど、憑魔でもなんでもないなら対処することが出来る……相手はヘルダルフじゃないんだ」
「……わかった」
負けたことが思いの外、心の傷となっているスレイ。思えば導師になってから周りの人達に疑われたりはしたものの、負けることだけはなく順調に進んでいたので此処に来ての敗北は心に来たようで無理に自分を奮い立たせる。
そんなスレイに対して首を横に振ることも出来ず、頷いて抜け道を通ろうとしたその時だった。
「あの、光は……」
背後からこれでもかと言うぐらいに眩い光が放たれ、浴びる。
私だけじゃない。スレイもミクリオ様もエドナ様もライラ様も……曇りしかない空も光を浴びる。
「ゴンベエ……ゴンベエ!!」
「アリーシャ、戻っちゃダメだ!」
あの眩い光はヘルダルフでなく、ゴンベエが放ったものだ。雷にやられたとライラ様は死んだとお思いになったがゴンベエはまだ生きている。
雲しか無かった穢れた空は晴れ、胸の中にあったモヤっとしたものが消え去った。コレと似た感覚を知っている。ウーノ様がレディレイク周辺の地の主となり、加護領域を展開してくれた時と似ている。
「……なんだ、これは……」
抜け出た穢れの領域にもう一度入るも穢れは感じない。だが、ゴンベエがなにかをしたのは確かで、一つだけ目に見えるおかしなものがあった。
「コレはローランスとハイランドの兵士達……であっているのだろうか?」
よく出来た本物と見間違う程に精巧な作りの人形……と言えば良いのだろうか?
私の目の前には時間が止まったかの様にピタリと動かなくなった交戦中のローランスとハイランドの兵士達がいた。まるで絵の様だが、絵とは違い色を失っていた。
コレが人形でないのは分かる……ついさっきまで戦っていたローランスとハイランドの兵士達だ。
「スレイ達は来ないか……!」
スレイ達は追いかけてこない、暗殺者が教えた抜け道を通って両軍に襲われない場所に抜け出していてほしい。
私はスレイ達といても足手まといな事は今回のことで更に痛感した……もうコレはどうしようのないことだ。だが、それでも彼が、ゴンベエが無事かどうか見ることは出来る。スレイ達の無事を祈ることが出来る。
来た道を逆走し、別れた所にはゴンベエがいなかった……だが、倒れている兵士達の位置が不自然で隙間が一つの道の様に繋がっていた
「…あ、れは」
来た時には通って来なかった道を歩くと、見つけた。色を失ったこの場所で唯一色がある所を。
左腕が無い精巧過ぎる今にでも動きそうなヘルダルフの石像、額にはゴンベエが背負っている私の槍とは比べることすら烏滸がましい程に神秘的な退魔の光が宿っていた剣が刺さっていた。だが、今はそれすら気にしない。
「ゴンベエ!!」
その石像の下でゴンベエが寝転んでいるのだから。
「あ~……アリーシャか」
「よかった、生きててよかった……」
ひょっこりと頭だけを起こすゴンベエに飛び掛かり、抱き締めて我慢しているもの全てを吐き出すかの様に涙を流す。
ヘルダルフの恐ろしさを感じて、あの雷の音を聞いて、ライラ様の涙を見て、もうダメかと思っていたが生きていてくれた。
「アリーシャ、心配なんかしなくてもコレぐらいどうにでもなった……って、お前しか戻ってきてないのか」
「スレイ達は、行ってしまった……」
体勢をそのままにし、私はスレイ達の事を伝える。
ゴンベエの言った通り、風の天族を仲間にしてライラ様の知る方法でパワーアップをする。
「きっとスレイならヘルダルフを鎮める力を……そう言えばコレはどうなっているんだ?」
「封印した」
石になっているヘルダルフや色を失って止まったままの両国の兵士達。
私達が去っていこうとしたほんの一瞬でこんなものを作るのは無理で、聞いてみると封印をしたらしい。
「オレの剣は邪悪なものを封じ込める事も出来る。あの剣を引っこ抜く事が出来るのはオレだけだよ」
「じゃあ、ヘルダルフは二度と」
「いや、封印は解除するぞ」
「何故だ!?」
出会った瞬間から感じた吐き気もするような穢れを持つ災禍の顕主。
詳しくは語っていなかったが、戦争を裏で操っていたようで封印するならしておくべきだ。
「暴れるな」
「あ、すまない」
腕の中で暴れては邪魔だったな。
「どうして封印を解くんだ……ゴンベエもヘルダルフの穢れを感じた筈だ」
「だが、オレはスレイとそう言う約束を交わしたんだ……倒すんじゃなくて、足止めする。オレはそう言ったんだ。
封印を解除したらヘルダルフはまたロクでもない事をしでかすのは分かっている……だが、それをどうにかして食い止めるのがスレイの仕事だ。今回だけだからな、手伝うのは」
確かにゴンベエは足止めをすると言った、スレイが強くなるための時間を稼ぐためにだ。
だから、スレイが強くなったらヘルダルフの封印を解除するのは一応の道理が通るが……それでも、解くべきじゃないと思ってしまう。
「スレイを信じろ、アイツならなんやかんやする」
「……私は、スレイよりもゴンベエを信じたい……」
選ばなかった自分でなく選んだスレイを推すのは分かる。だが、スレイは導師になって間もなくイズチで育った為に情勢を全くと言って知らない。ハイランドの王の名前を聞いても答えることが出来ないぐらいだ。
大きく成長する素質と力を無闇に振るわない立派な心を持っておらず、真面目にやっていないが確実に結果を残しているゴンベエを信じたい。スレイでなくゴンベエの選択が間違いじゃなかったと信じてみたい。
「はぁ、そう言うのはやめろ。
しかしまぁ、封印を解放したら今回みたいな事をしでかさなければ良いんだが」
「私が人質か…………大丈夫だ、ゴンベエ。
もしまた今回の様に私が人質となって今度はゴンベエが戦争に行かなければならなくなるならば、戦争の道具にされるぐらいなら――」
――私は迷いなく、命を捨てる。
ゴンベエにそう言って、微笑んだ。だから、気にしないでくれ。
「……重いな……」
「あ、す、すまない」
長い間、ゴンベエに抱きついたままだった。
ゆっくりとゴンベエから降りると起き上がるゴンベエ。
「アリーシャ、持てる権限全て使って船を用意する事は出来ないか?あ、海に出る船だぞ」
「船、か。やろうと思えば可能だが、ゴンベエがいた国に行くのは無理だぞ?」
このグリンウッド大陸の海はあるところを越えると海流が激しかったり、風が全く読めない海がある。
ゴンベエの国はハイランドよりも遥かに優れた文明を持っているから、海を越える事が出来たがローランスでもハイランドでも別の大陸に向かう船を作る技術を持っていない。
「ある程度の海域に出れれば、それで良いんだよ……おらぁ!!」
ハンマーを取り出して石像となったヘルダルフを叩くゴンベエ。
「な、なにをしているんだ!?」
「どうせだからもう片方の腕を削ぎ落としておこうかなと、拳主体で戦っていたから腕を落としておけばスレイが楽に戦える……くっそ、硬えな」
「……私も手伝うよ」
なんだかんだでゴンベエは優しいな、スレイが出来るだけ楽できる様にしている。
ヘルダルフを倒すことは出来ないかもしれないが、石像を壊すことぐらいならば出来る。槍を握って、壊れそうな場所を探す。
「…見切った!!ブンブン回してぇ!大!ジャーンプッ!夢と根性の流れ星!活伸棍・神楽ッ!!」
貫くのでなく壊すならば槍術でなく棍棒の技術を使う。今、私は出来る最高の一撃を石像となったヘルダルフに叩き込むと右腕が落ちた。
「これでスレイもヘルダルフと楽に戦える」
「後はアリーシャが海に出る船を用意して、この石像を海の底に沈めてから剣を抜く」
「海の底……ああ、魚の妖精か」
「ヘルダルフは二足歩行型のライオンみたいな憑魔だ。
両腕を切り落とせば上に向かって泳ぐのは困難だ……あ~でも、穢れで水生生物型の憑魔を生み出すか。
宇宙にすっ飛ばすぐらいしかないけど、それやるには二十年ぐらいかかるから無理だよな……」
「今、完全に砕いておくか?」
「それやっても第二第三の災禍の顕主が現れるだけだ。
そうなったらもうスレイが頑張ることでオレがやることじゃない……よっこいっしょっと」
活伸棍・神楽のお陰か地面とくっついていた部分が壊れており、ゴンベエは軽々と持ち上げる。
「自動車に乗せるのか?」
「あ~そう言えば、帰りはアレだった。
アリーシャ、納税免除の件を忘れんなよ。今回頑張った一番の理由はそれで、84%はそれで出来ている」
聞きたくなかった、そんなこと。
ヘルダルフを置くと笛を……パンフルートと呼ばれる変わった形の笛を取り出して吹いた。
「まさかこんな大荷物ができるとは思ってもみなかった」
「……アレは、大きな自動車?」
煙突から煙を出しながら此方に向かって走る自動車。
私達が乗ってきた二輪の自動車よりも遥かに大きく、荷車の様な物もついている。
「大地の汽笛だよ……帰るぞ、レディレイクに」
スキット 腹が減っても戦は出来た
アリーシャ「これに乗ってグレイブガント盆地に向かったら良かったんじゃないのか?」
ゴンベエ「無理だ、大地の汽笛はオレが一度でも足を運んだことがある場所じゃないといけないんだよ」
アリーシャ「そうか」
ゴンベエ「元々、スレイ達も回収する予定だったからコレに乗せることにしてたが……あ、スレイで思い出した」
アリーシャ「今回の一件をスレイの手柄にしろ……と言うのだろう?」
ゴンベエ「ああ、そうだ……不満か?」
アリーシャ「此処まで来れたのは、ゴンベエのお陰だ……だから、なにも無いと言うのは」
ゴンベエ「サラッと税金免除の件を忘れるな!!不満があるなら飯をくれ。マーリンドを出てから口にしたの、コーラフロートだけだ。意識してなかったからそこまでだったが……腹減った」
アリーシャ「……」グ~
ゴンベエ「……今、鳴ったな」
アリーシャ「い、今のは」
ゴンベエ「恥ずかしがるな……丸一日なんも食ってないに近いんだ」
アリーシャ「そうじゃない……」グ~
ゴンベエ「潔く敗けを認めろ……腹減った」
アリーシャ「屋敷にいる給仕達に腕を振るわせるよ。なにか食べたい物があるか?」
ゴンベエ「牛カツと大根と人参の味噌汁と海苔がついた丸い形の醤油煎餅」
アリーシャ「醤油煎餅?」
ゴンベエ「凄くざっくりと言えば、うちの国のクッキーのような物だ。うるち米の粉を蒸して捏ねて薄く伸ばして鉄板で焼いたものだ。醤油味や塩味があって醤油味が旨いんだ」
アリーシャ「大好物なのか?」
ゴンベエ「ああ……全部が終わったら作ってきてやる。煎餅は、この周辺じゃ食えないからな」
アリーシャ「楽しみにしているよ」グ~
ゴンベエ「……その前に飯か」