テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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第一部 完

「ある程度は口裏を合わせてくれよ……でないと、えっらいめんどくさいことになる」

 

「……大丈夫なのだろうか?」

 

 レディレイクの外壁が見え、大地の汽笛と呼ばれる乗り物の速度を徐々に徐々に落としていくゴンベエはこの後の事を考える。

 バルトロ大臣を中心とした戦争推進派に嵌められて拘束された私達。全てはスレイを意のままに操り、戦争に勝つためであり、このまま脱獄していた方が良かったではないのかと少しだけ思ってしまう。

 

「大丈夫もなにも、アリーシャは帰らないといけないだろ。

オレは最悪逃げれば良いが、アリーシャは逃げるにしても色々と準備してからにしないと」

 

「私は逃げるなどと言ったことは絶対にしない」

 

「辛く苦しくてもか?オレはアリーシャに逃げたいなら逃げて良いぞとだけは言っておくぞ」

 

「……」

 

 王族だが王位継承権も無いに等しく末席の私は力がない。とにかく弱い。

 たった数日でそれを酷く思い知らされた。天族を肉眼で捉える事は出来ず、従士になればスレイの足手まといになり、中から変えようと思った矢先にバルトロに嵌められてスレイの足枷になってしまった。

 辛くて苦しく、ゴンベエの言うとおり、逃げ出したい気持ちもある。

 

「スレイはきっと強くなる。ライラ様が知っているパワーアップをしてくるはずだ。

そう簡単にパワーアップなんて出来ない。きっと私が想像する事が出来ない厳しい試練が待ち構えている。

スレイはそれを乗り越える。ならば、私が逃げるなんて真似は絶対にできない」

 

 挫けそうな気持ちは、逃げ出したいと言う気持ちはある。だが、逃げてはなにも始まらない。

 

「そうか……やっべえな、疲れがドッときた」

 

「大丈夫か!?」

 

「問題ない……仕込む事が出来る時間はある」

 

 眠たそうな顔をするゴンベエ、ヘルダルフの封印やスレイ達の退路を開くのは容易でない事が今になって深く実感する。

 大地の汽笛はレディレイクの出入り口である橋の前で止まり、まだ眠るわけにはいかないとゴンベエは歩くが足取りがおぼつかない。

 

「一緒に、歩こう」

 

「……報酬は負けんからな」

 

「そんなものは必要ない……」

 

 もう充分すぎる程に君からは色々と貰った。

 ゴンベエに肩を貸し、ゆっくりと大地の汽笛から降りるとレディレイクに残っていたハイランドの兵達が私達を囲む。

 

「ア、アリーシャ殿下!?」

 

「全員、武器を下げてくれ……」

 

「ですが貴女はローランスの進軍を手引きした疑いがあります……脱獄をしたという事は、罪を認めたも同然です」

 

「私の容疑は何もかもがでっち上げだ、調べれば簡単に裏がとれる」

 

「では、その間、身柄を拘束させていただきます」

 

「っ!」

 

 この兵がバルトロ大臣の息が掛かっているかどうかは分からないが言っている事は間違っていない。

 当事者で本当に無実な為に怒りが涌き出て叫ぼうとすると、ゴンベエが私の手を弾いて強く兵士を睨む。

 

「そんな事を、そんな事を言っている場合じゃないだろう!!」

 

「そんな事だと?進軍を手引きしたのは国家反逆罪も同然なのだぞ!!」

 

「今、今、グレイブガント盆地がどうなってんのか知ってるのか?導師の逆鱗に触れてしまったんだぞ!?アリーシャ、お前は見ただろう」

 

「え、あ、ああ……両国の兵士が……」

 

 こ、これで大丈夫なのだろうか?

 色を失い真っ白になった両国兵士達はゴンベエが封印したもので、スレイは一切関係無い。だが、封印された兵士達についての説明を利用すれば私達の容疑はなくなり、スレイを利用するものは減る。

 

「両国の兵士達がどうかしたのか!?」

 

「恐ろしくてなにも言えねえよ。自分で行って確かめろ。

今回、スレイが戦争に参加したのはあくまでもオレとアリーシャが無実の罪で拘束されたからだ……だから、オレ達は助かった。戦争なんてロクでもない事をしでかし、それに賛成する奴等には裁きがくだる。まぁ、甘い奴だからやり直す権利は与えてくれるが……争うんだったら、どっちが美味い飯を作れるとか美女コンテストとか凄い発明品を作るとかにしろよ……アリーシャ、肩を貸してくれ」

 

「調子が悪いのに、無茶をしないでくれ」

 

 スレイ、すまない。君をこんな風に利用しては、私もバルトロ大臣と同じ穴の狢だ。

 罪悪感を抱きながら私はゴンベエにもう一度肩を貸して兵に顔を向ける。

 

「ゴンベエが言ったように、急いでグレイブガント盆地に向かった方がいい。

それまでの間、私達は決してレディレイクを出ていかない。グレイブガント盆地で起こった出来事を君達が知るまでは……」

 

「お、おい!」

 

 私達を囲んでいた兵のリーダーらしき男が慌てて隣にいる兵になにかを指示すると隣にいた兵は走り出す。

 此処から最速の馬に乗って走り、馬の休憩、道中の憑魔の事を考えれば一日あれば余裕で伝えられる。

 

「入らせて貰うぞ」

 

「ど、どうぞお通りください」

 

 兵のリーダーはすんなりと道を開けてくれ、私達はレディレイクに帰ることが出来た。

 

「しまった。大地の汽笛についてなにも言っていない」

 

「アレはオレしか運転できないからなんも問題ねえよ……それよりも問題はこの後だ」

 

「私達の無実を証明した後でなら何時でも船を用意できる」

 

 流石に別の大陸に向かう船は出せないが、遠漁や小さな島々を移動するのに使われている大きな船はある。それを用意してヘルダルフを海の底に沈める作業は数日あれば出来る。

 

「問題はそこじゃねえよ。

ヘルダルフの奴は戦争を裏で操っている」

 

「バルトロ大臣との繋がりか……大地の汽笛が危ない!?」

 

「それに関しては問題ない。

マスターソードを抜けるのはオレだけで、人質を取ろうにもアリーシャは直ぐ隣にいる。

ヘルダルフよりも強い奴が襲って来ない限りはどうにでもなる。問題は誰が裏で通じているかだ」

 

「バルトロ大臣じゃないのか?」

 

 ある程度の地位を持つ人間ならば、国の事情を知っているものならばバルトロ大臣について知らない者はいない。

 戦争推進派の中核であり、ハイランドを支配しようと裏で様々な事をしている。ヘルダルフと繋がっている者が居ると言うならば私は真っ先にバルトロ大臣を思い浮かべる。

 

「アリーシャ、将棋、は無いんだった。チェスは知っているか?」

 

「知ってはいるが……」

 

「なら、話は早い。

クイーンの駒やナイトの駒だけでチェスは出来るか」

 

「そんなのは無理に決まって……そうか」

 

 バルトロ大臣は目立っているだけで、あくまでも氷山の一角に過ぎない。チェスに必要な駒がクイーンとキングだけでなく、ナイト、ビショップ、ルーク、ポーンも必要な様に他にも色々な者がヘルダルフと繋がっている可能性がある。

 

「偉いさんは基本的に現場では働かない。

だから、現場で働いている此処ぞと言う時に確実に成果を上げる奴…とかが、怪しい。

それと戦争反対派の派閥にも潜り込んでる可能性もあるし、国の重役クラスを暗殺出来る奴とかも怪しい」

 

「周りは敵だらけじゃないか……」

 

「一人だけ絶対に安心出来る奴が居るだろう……事情を話しておかないと」

 

「一人……そうか!!」

 

 右も左も敵かも知れない状況で、ただ一人だけ絶対に敵でないと言える御方がいる。

 その御方の元に向かう前に一度屋敷に戻ると、屋敷前でメイドが掃除しており窓に写った影を見て驚き振り向くと私と目があった。

 

「アリーシャ、様……」

 

「すまない、心配をかけてしまった」

 

 メイドに謝ると涙を流し、歩み寄ってくる。

 私の無実を信じてくれて、帰ってこないかもしれないのに屋敷を何時も通りにしてくれていた。

 

「よがっだ……よがったです。

進軍を手引きし拘束されたと聞き、更にはグレイブガント盆地にも向かったと……もう、もう帰ってこないのではと」

 

「私もそう思っていた……ついさっきまでは。

皆には秘密だが、全てゴンベエがしてくれたお陰なんだ」

 

 本人は手柄が必要ないからとスレイに押し付けているが、全てゴンベエのお陰だ。

 仮に一人で脱獄し、グレイブガント盆地に向かったら私はヘルダルフに殺されて終わりだった。

 

「……コイツがですか?」

 

「邪険にしないでくれ」

 

「ですが、彼は……本当に税を納めていないらしいのですが」

 

「……そ、それぐらいは私がなんとかしてみせる!!」

 

「っ!いけません、いけませんよアリーシャ様!

その男は自分でちゃんと働いて稼いでいるのですから、自らで支払わせなければ……大体、アリーシャ様が支払う必要は何処にもありません。その男とは距離を取っておいた方がいいです。その内、ヒモの如く執着するに違いありま」

 

「ゴンベエを客室で寝かせておいてはくれないか?」

 

「……わ、わかりました」

 

「それと、眠っているがゴンベエに失礼な事を言うな……」

 

 

  そんな事は絶対にしない。そう言うことは二度と言うな。

 

 

 ゴンベエをメイドに託し、私は屋敷を出ていき聖堂へと向かう。

 何処に敵がいるか分からない、誰が味方なのか分からない。だが、一人だけ敵でないと言える御方がいる。

 

「ウーノ様!」

 

 レディレイクの地の主たる天族、ウーノ様。この御方は絶対に災禍の顕主の味方をしない。

 聖堂に祀られている聖水に声をかけると光の玉が出現し、ウーノ様へと変わる。

 

「アリーシャか。

話は聞いている……人の欲とは醜いものだ。安心しろ、お前が導師を利用しているなど私は思っていない」

 

「ありがとうございます」

 

「だが、余り弁護は出来ん。

人が生み出す穢れは……特に政治関係の穢れは恐ろしく醜きものだ、下手に介入はすることはせん」

 

「ウーノ様、御話がございます。

色々と順を追いたいのですが、先ずはレディレイクの出入り口たる石橋の前にある大地の汽笛を見てはくださりませんか?」

 

「大地の汽笛とな?」

 

「それを見てから、全てをお話し致します」

 

 大地の汽笛には石像となったヘルダルフがいる。それを見てくださればきっと、ウーノ様の協力を得られる。

 ウーノ様は光の玉となり、聖堂を出ていきレディレイクの外へと向かっていき……数分すると戻ってきた。

 

「なんだあれは?車輪がついていたが見たことのない乗り物で、国の者達が確認をしていたぞ。乗り込もうとした者は追い出されていたがな」

 

「アレは大地の汽笛と呼ばれる乗り物です。

私とゴンベエがグレイブガント盆地から帰還する際に乗ってきたのですが……積み荷を御覧になりましたか?」

 

「ああ、不気味な石像だったが」

 

「アレは此度の災禍の顕主を封じ込めた物です」

 

「なに!?」

 

 石像の正体について語ると驚くウーノ様。

 天族の目から見ても、ただの剣が刺さった石像でしかない。それほどまでに穢れを封じ込めているのか。

 

「アレが此度の災禍の顕主か……となれば導師は成し遂げたのか!」

 

「いえ……その……アレはスレイでなく、ゴンベエがしました」

 

「ゴンベエ、か……私を浄化した上に封印とは……導師であれゴンベエであれ封印をしてくれた事に関しては本当に感謝しなければ。災禍の顕主を封じ込めたのならば、後は各地の大きな憑魔を浄化し、地の主となる天族を用意すれば穢れを退けられる」

 

「……その封印は後で解除します」

 

「なんだと!?」

 

 ヘルダルフを封じ込めた事を褒めるウーノ様に、残酷な一言を告げる。驚いたウーノ様は私の肩を掴み一気に詰め寄った。

 

「分かっているのか!?災禍の顕主はそこらの憑魔ではない。

過去にスレイの様に強い霊応力を持った者が導師となり浄化の力を得て、神依の力を振るった。だが、それでも勝つことが出来ずに見るも無惨に殺された時が何度もあったのだぞ!!」

 

「分かっております……封印する前の災禍の顕主に、ヘルダルフと出会いました。災禍の顕主は、余りにも恐ろしく……スレイですら手も足も出ませんでした」

 

 ウーノ様が災禍の顕主を恐れるのは無理もない。あれを見れば、誰でも恐れる。人々の希望たる導師が、スレイが敗北するほどの相手だと知れば絶望へと叩き落とされる。

 

「ゴンベエは何処だ、今すぐに封印を解除するなと言わねば」

 

「それは不可能です……災禍の顕主を封印したのはスレイとの約束を守るためであり、スレイとの約束がなければゴンベエは倒していました」

 

「どういう意味だ?」

 

 ウーノ様にグレイブガント盆地で起きたことを全て話す。

 災禍の顕主の封印はスレイが強くなる時間を稼ぐための封印であり、鎮めて世界から穢れを無くす為のものではない。その事をお教えすると呆れてしまうウーノ様。

 

「馬鹿か奴は……導師スレイは確かに成長望ましい逸材だ。

だが、それでも確実に災禍の顕主に勝てる保証など何処にもないと言うのに……」

 

「御言葉ですがウーノ様、スレイならばきっと」

 

「よい、導師の話は風の噂で聞いている。

ゴンベエがそれに賭けたと言うのならば最早なにも言うまい。教えてくれたこと、感謝する」

 

「あ、いえ、実はまだ残っているのです」

 

「?」

 

 ヘルダルフはローランスとハイランドの戦争を裏で操っていた。

 この事をお教えするとすんなりと納得するウーノ様。穢れを一気に増やすには争わせる事が一番であり、戦争は打ってつけのものだと知っており、裏で操っているのも納得できる。

 

「戦争推進派の中核とも言えるバルトロ大臣が一番怪しいのですが……恐らく、それ以外にもヘルダルフの手の者が忍んでいるかと思います。ですが、それが誰なのか分からず」

 

「手伝ってくれと言うのだな」

 

「はい……申し訳ありません。

誰が味方で誰が敵か分からない以上、頼れるのはウーノ様だけで」

 

「これ以上、災禍の顕主の好き勝手に世界を穢されてしまえば導師ですら太刀打ちは出来ん。

間者についてだが、幾つか心当たりがある。最近は信仰する者も増えて加護が強まり、弱い穢れは祓える様になったのだが、幾つかの強い穢れは祓えん。恐らくはその内のどれかが間者なのだろう。アリーシャ、お前が動けばまた無実の罪で拘束されるやもしれん。私が調べておこう」

 

「っ、ありがとうございます!!」

 

 ウーノ様の協力を得ることが出来た。これでまた一歩、平和への道が近付いた。

 ゴンベエにこの事を伝えようと急いで屋敷に戻るも、ゴンベエは寝ており報告はできない。メイドが叩き起こしましょうかと聞いてくるが、その様な事はしてはいけないと注意し、寝ている間に色々と準備をする。

 ゴンベエが納税をしなくてもいい手続きにヘルダルフを沈める為の船、今回の一件を世間や上流階級の者達にどう伝えるのか、やることは思ったよりも多かったのだが全くといって苦ではなかった。

 確実に平和な世の中へと進んでいってると感じ、大体の準備が終わる頃にはグレイブガント盆地で起きた出来事を両国は知り、終わることはなかったものの戦争は一時休戦となった。

 

「じゃあ、オレは帰る」

 

「ああ、また会おう」

 

 一時休戦となり、マーリンドの出来事等を証拠に私の進軍の手引きや国政の悪評の罪はなかったことに。と言うよりは元々無かった。

 後は恐ろしい程に順調に進んだ。ゴンベエが大地の汽笛を海辺まで走らせて、港町までは台車で運び、ヘルダルフを用意した船に乗せ、海の底に沈めて封印を解いた。

 これで本当によかったのだろうかと思うところもあるが、そう言う約束でそれ以上はなにも言えない。今はこの一時の平和を永遠の平和に変える努力をしようと決意する。

 

「……下手したら、アリーシャと次に会うのが最後になるな……」

 

 こうして私達の戦いは終わり、スレイ達に託した。後は何時もの日々が戻ってくる……そう思っていた。

 本当はただの序章に過ぎなかった。





此処まではヴェスペリアで言うバルボス倒したところで次からの話をシンフォニアで例えればテセアラ編。
スレイ達は今、真の仲間と出会っています。ゲーム通りになりそうです。

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