テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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世界で一番おめぇほど

「ゴンベエ……ゴンベエ!!」

 

 考え事をしていたせいか、何時もなら簡単に避けることが出来る酒瓶を後頭部にぶつけたゴンベエ。

 グッタリしており、名前を呼ぶのだが返事はない。

 

「っ……血?」

 

 ゴンベエに触れるとヌルリと暖かい物を感じた。

 なんだと左手を見ると真っ赤に血で染まっており、ゴンベエの後頭部から大量の血が出ていることに気付いた。

 

「いかん、直ぐに傷を治さねば!」

 

「で、ですが私は」

 

「此処がねこにんの里で、儂がいたのが幸いじゃ」

 

 頭の傷は他の傷と違って、些細な傷でも命取りだ。

 ゼンライ殿が駆け寄り、ゴンベエの後頭部に手を翳すと出血が納まり徐々に傷も塞がっていく。

 

「治りますか?」

 

「なに、これぐらいならば治る。

頭の怪我は傷がなくなってもなんらかの後遺症になるが、ねこにんの技術や薬ならどうにでもなる」

 

「よかった……」

 

 此処で終わるのかと心配したが、傷が塞がっていくので胸をホッと撫で下ろす。

 だが緊張の糸を切るにはまだ早く、二個目の酒瓶が私に向かって飛んできた。突然の出来事に動くことは出来なかったが、ゼンライ殿が酒瓶を塵にしてくれた。

 

「やれやれ、二度目となると偶然ではなさそうじゃの」

 

「故意という事ですか!?」

 

「お前さん等、天族に怨みを……いや、その様なことはないか」

 

 狙って酒瓶を投げてきた事に驚くと三本目の酒瓶が飛んでくる。今度は来ると分かっていたので、簡単に避けることが出来た。

 

「この酒瓶、ニャバクラの方から」

 

「はて、儂以外に誰か飲んどったか?」

 

 飛んできた方向から投げた人物を推測しようとすると、ニャバクラに目が入る。ニャバクラの入口は酒瓶ぐらいなら余裕で通るぐらいに開いており、入口前にいたねこにん達は慌てている。

 

「も~しもし~♪ト~タ~ス」

 

「あれは……黒いかめにん?」

 

「あやつは確か、ダークかめにん。

千年ほど前からニャバクラに通い詰めているかめにん部長の息子じゃ」

 

 ドアが開くとサンマを握りながら歩み寄る黒いかめにんか出てきた。

 私達をねこにんの元へと連れてきたかめにんと違うかめにんで、ゼンライ殿のお知り合いの様だが……

 

「何故私達を襲った!」

 

「か~めにん~♪ト~タ~ス♪」

 

「歌っていないで、正直に答えるんだ!」

 

 穢れなきねこにんの里で、余りにも異質な存在であるダークかめにん。その異質さ故にねこにん達も下手に出だしが出来ず、ジッと動くのを見ているだけでなにも出来なかった。

 

「これはかめにんに伝わる古い歌っす。

亀のダークな呪いを込めた歌で……本当に本当に憎たらしい奴等が来たっすよ!!」

 

「憎たらしい奴等……それは私とゴンベエの事か?」

 

「お前達だけじゃないっす!!奴等もっすよ……」

 

「ま、待ってくれ。本当になにを言っているか分からない」

 

 ダークかめにんと出会うのは今日がはじめてだ。もっと言えばねこにんの里に来るものはじめてで、接点らしい接点は無い。

 

「あんた等に分からなくても、おれには分かるんすよ!!

死ぬかぁ!!消えるかぁ!!土下座してでも生き延びるか、選びやがれぇええ!」

 

「っく!!」

 

 サンマの小太刀二刀流で攻めるダークかめにん。王家の紋章が印されたナイフを取り出して攻撃を受けきるが、ナイフは刃こぼれする。

 あのサンマ、中々の名刀で戦う為に作られたのでない王家の紋章が印されたナイフでは分が悪い。槍を出そうとするのだが、槍が無いことに気付く。

 

「探し物は、これっすか?」

 

「それは!」

 

「先祖と同様、憎たらしい槍使いっすか。顔といい鎧といい、何処までも瓜二つっすね!」

 

「先祖……まさか、私達の先祖について知っているのか!?」

 

 投げた槍を盗んだダークかめにんは私を睨む。

 ずっと気にはなっているが私とゴンベエの先祖。ゴンベエは色々と心当たりがあり、情報を知る方法を私は知っているが、はっきりとした大きな情報はない。ノルミン天族の方々は知っているが、ハッキリとした情報は聞けていない。もしかすると、ダークかめにんから聞くことが出来る。

 

「ゼンライ殿、ゴンベエのポケットに袋は入っていませんか?」

 

「ん……これの事か?」

 

「それをください!」

 

 ゴンベエは色々な武器を使うことが出来る。それら全てを持ち歩いている。

 ゼンライ殿にゴンベエの武器や道具が入った袋を投げて貰い、私は直ぐに手を入れてなにか無いかと探すのだがダークかめにんは迫ってくる。

 

「今死ね!!直ぐ死ね!!甲羅まで砕けるっす!!」

 

「っく!!」

 

 咄嗟の攻撃だったが、鏡のような盾を取り出せたので防ぐことが出来た。なんて、一撃だ……まるで筋肉ムキムキな男が斧で攻撃したかのようだ。

 

「舞い踊れ、桜花千爛の魚吹雪!」

 

「王家の盾!!」

 

「ぐぅふうぉ!?」

 

「ゴンベエ!」

 

「はぁ、はぁはぁ……閻魔大王と仏4号が見えた」

 

 相手がとっておきを使おうとし、素早く私に斬り込んできた。素早い動きに翻弄されるも、ゴンベエが間に入り王家の盾で殴り飛ばした。

 

「今日のオレは紳士的だ……失せろ」

 

「お、覚えてろっすぅうううう!!」

 

 ふらふらで今にでも倒れそうなゴンベエに睨まれたダークかめにんは逃げ出す。

 

「傷が治ったとはいえ、直ぐに立ち上がりおって」

 

「え……大丈夫か、ゴンベエ?」

 

「膝かしてくれ」

 

 ゼンライ殿がゴンベエに呆れるとゆっくりと倒れるゴンベエ。

 意識は失っておらず、私が膝を貸すと目が合って傷がない私を見てよかったと微笑む。

 

「ゼンライ殿、ゴンベエは」

 

「心配いらん、傷は塞いだ。

後は寝て飯を食えば元に戻る……しかし、お前達の先祖はダークかめにんになにをしたんじゃ?」

 

「それは……分かりません」

 

 ダークかめにんがどうして私達を嫌っていたのか怒りを向けていたのか、それは分からない。ダークかめにんは逃げ去ってしまったので聞くことはもう出来ない。

 

「ヘルダルフより弱いのに、油断してた。続きをして良いか?」

 

「それは構わんが、スレイ達の事でないならばなにを知りたいんじゃ?」

 

「レイフォルクに居るドラゴンについてだ」

 

「ほぉ、奴か」

 

「エドナ様の御兄様について御存知なのですか?」

 

「まぁ、奴は色々と有名な天族じゃからの」

 

 ゴンベエが聞いたのはエドナ様の御兄様の事だった。ドラゴンになったエドナ様の御兄様のことは余り知らない。エドナ様は色々と御存知だが、恐らくゴンベエが求めている情報をエドナ様は持っていない。

 

「そいつと親交が深い天族を教えてくれ」

 

「奴と親交が深いか……妹が居ると聞いたが」

 

「妹のエドナはなんの情報も持っていなかった。

色々と放浪していたらしいから、その際に仲良くなった天族に色々と聞きたいことがあるんだ……出来ればアリーシャには聞いてほしくなかったんだけど、此処まで来た以上はアリーシャも聞いといた方が良いかもしれねえ」

 

「私に、知ってほしくないこと?」

 

「……」

 

 ゴンベエが知りたい情報は、私達の先祖についてだ。ゴンベエはその事について少しだけ心当たりがあるが、それについてはなにも教えてくれない。

 

「それは、儂では答えられそうに無い質問じゃのぅ」

 

「答えようと思えば、爺さんでも答えられる。

だが、オレは出来れば爺さんにその事について答えてほしくない……代わりに、答えてほしい事があるんだ」

 

「答えてほしいこと?」

 

「マオテラスって、知ってるか?」

 

「……」

 

 マオテラス……天遺見聞録に載っていた5大神の名前だ。浄化の力をもたらしたとも言われており、詳しいことは分からず謎は多いものの天族であることは確かだ。ゼンライ殿がご長命な天族ならばマオテラスについて御存知かもしれないが……どうしてゴンベエの口からマオテラスが出たのだろうか?

 

「すまんの。儂も長生きな方じゃが、知らない事もあっての」

 

「マオテラスは天遺見聞録に記されるほどなのですが?」

 

「爺さん、喋れないのか?喋ってはいけないのか?喋りたくないのか?」

 

 マオテラスについてなにも知らないと言うが、そんな筈はない。

 

「……すまぬの。

確かにマオテラスについては知っておる……だが、それは言いたくないんじゃよ。

我が儘なのは分かっておる。どうしてマオテラスについて聞いてくるかも予想はつく……察してくれ」

 

「嫌だ……と言いたいとこだが、質問を変える。

あんたの目論見通りにいけば最終的にはどうにかなるのか?」

 

「どうにかか。儂のしたことといえば、ちっぽけな事に過ぎぬ。

最終的もなにも目的は既に果たされておる……儂に野望があるとするならば、穢れのないこの大陸を見たいだけじゃ」

 

「狸か食えない爺さんか……部外者のオレに余計な希望を託していないか」

 

 此処でも知りたいことを諸事情で聞くことが出来なかったが、ゴンベエは満足した顔をする。

 

「さて、奴と親交が深い者じゃったの。それならば、ザビーダと言う風の天族を探すといい」

 

「ザビーダ……」

 

 アタックさん達ノルミン天族が知っていることを喋ってもいいと許可をする立会人の天族の名前が出て、目を見開く。ここでまたその名前を聞くことになるとは……と言うよりは、言えばよかった。

 

「爺さん、ニャバクラ中に呼びだして悪かったな」

 

「なに構わん……出来たら、スレイに内緒にしてくれんか?」

 

「いや、無理だろう……色々と教えて貰ったお礼といっちゃなんだが、これをやるよ」

 

 ゴンベエはポケットから金色のメダルを取り出し、ゼンライ殿に投げる。ゼンライ殿はメダルを受けとると首を傾げる。

 

「それは光のメダルだ。

災禍の顕主が何者なのかはオレには分かんねえけど、戦争を裏で操っていた。明らかに考えることが出来る奴だった。

天族を見ることが出来るのならば、何れは爺さん達にも牙を向けるかもしれない。なんかの足しになると思うから、持っておけ……」

 

「見たところ、とてつもない光の力を宿しておるが……本当に良いのか?」

 

「構わねえよ……つーか、むしろ持ってろ。

スレイは最終的に人間と天族が共存できる世界を作りたいらしい……もし、仮にスレイの夢見た世界になるなら、爺さんが天族の代表として居てくれねえと困る」

 

「そうか……スレイが夢見た世界になった時、その時に一緒にニャバクラで飲もう!」

 

「そん時は爺さんの奢りな!」

 

「ゴンベエ、ニャバクラにはいくな。ゼンライ殿もああいった所に行っては天族の代表として示しがつきません!」

 

 いい感じに纏まりそうだったが、最後の最後で台無しになった。ゼンライ殿は酔いが冷めたからとイズチへと帰っていき、私達はねこにんの里の宿で一泊することになった。

 

「とりあえず、ゴールには一気に近付いた……いや、まだ数歩か」

 

「そのザビーダ様にお会いして、私達の先祖について聞くのはいいが……聞いてどうするつもりだ?」

 

 私達の先祖が天族と深い関わりがあったことは実に興味深く、どの様な関係であった事か聞いてみたい。

 エドナ様の御兄様は世界中を旅していたとお聞きした。その時に出会ったのならば、きっと凄い冒険をしたのだろう……だが、それを聞いてどうするつもりなのだろう。

 先祖について知りたいと言う気持ちは分かるが、ゴンベエが今になってそれを知りたがるのはおかしい。

 

「どうして今になって、知ろうとする?」

 

「気になることが出来たんだ。今の今まで知らんぷりでもよかったが、ヘルダルフをシバき倒した時に知りたくなってな」

 

「マオテラスも、その時に?」

 

「ああ……そのマオテラスがなにかは知らないが、ヘルダルフと繋がっている」

 

「!?」

 

 ゴンベエの口から語られる衝撃の事実に声も出ない。

 マオテラスは神も同然の存在であり、人々に災厄を撒き散らす存在である災禍の顕主と繋がっているなんてありえない。

 

「ヘルダルフをシバき倒している最中にマオテラスさえいればって言ってた」

 

「そんな筈は……いや、まさか」

 

 神、霊、魑魅魍魎と言った姿なき超常存在を人は畏敬の念を込めて天族と呼ぶ。天響術を行使できる唯一の存在。

 5大神のマオテラスが天族で世界の殆どが穢れに満ちているならば、マオテラスは憑魔化してヘルダルフの配下となった……ありえるかもしれない。

 

「まぁ、爺さんがなんも反応しなかったしそれをどうにかするんはスレイだろう。

オレの目的はザビーダに会って色々と聞くことだ……アリーシャ、先に謝っておく。ごめん」

 

「……どうして謝る?」

 

 ゴンベエの私情で旅立つことが出来た。不思議な事だらけで、頭に?が浮かんでばかりいるがとても楽しい。謝る必要なんて何処にもないのに、ゴンベエは謝る。その理由は教えてくれない。

 

「例えなんであれ、私は大丈夫だ……」

 

「なんのつもりだ」

 

「私は、私はスレイと一緒に行くことが出来なかった。

強い霊応力があれば、スレイと共に旅をすることが出来た。穢れを浄化し、自らの手で穢れなきレディレイクを見ることが出来た」

 

 ゴンベエの手を強く握る。この手だけは絶対に離したくない。ゴンベエまでも私の前から居なくなったのなら、私はもうどうなるかが分からない。依存している、困ったらゴンベエが居ると頼りにし過ぎている自覚はある。それをどうにかしなければならないという思いもあるが、どうしても頼ってしまう。

 

「……スー……」

 

 この手だけは死んでも離さない。その思いは強く、眠った時もゴンベエの手を握っていた。ゴンベエと一緒の布団で寝ており、目覚めた瞬間に驚いて悲鳴をあげてゴンベエを殴りそうになったのだが逆にカウンターをくらった。





ゴンベエの称号


スケベ勇者

説明


ニャバクラになんの迷いもなく行こうとするスケベな男の称号。
大魔王でないのは覗きやラッキースケベを起こさず、堂々と行こうとしたからである。
オープンスケベでなにが悪い、性欲に身を任せてなにが悪い。勇者は大抵、スケベである。ボインのぱふぱふ最高!
尚、無自覚主人公では決してない。

アリーシャの称号

依存症?

説明

自分の事は自分でしなければならないと分かってはいる。
だが、それと同じぐらいに自分が弱いということも分かっており、ついつい彼に頼ってしまう。
依存している自覚はある分だけましだが、一歩間違えるとぶっ壊れる状態いると言うのは自覚していない。
ただただ頼れる人物だから依存しているが、その胸の内はいったいどうなっているのか?少なくとも、一緒の布団で眠ってもドキドキはせず、安心して眠れるらしい。

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