「本当になんとお礼を言えばいいやら」
「いえ、気にしないでください……」
病気に苦しむ村の人達にゴンベエが作った薬を分け与えると、病気は治った。
小さな村で、若い世代が流行り病で死んでしまえば、この村は滅びる可能性がある。村を代表し、村長がお礼を言うが私はなにもしていない。薬を作ったのはゴンベエで、私はその一部を持っていただけにすぎない。
「しかし、それだけでは」
「そう思うなら、本物の導師がやって来た時になんかしてやれよ」
「本物、ですか?貴方達が導師ではないのですか?」
「噂と全く違うだろう」
ゴンベエは紙を取り出して、スレイ達の絵を描いていく。
人相画があればまたあの様な偽の導師が現れても騙されることがない。結局、あの偽の導師は捕まえる事が出来なかったので、スレイ達の人相画をハイランドに配布すれば捕まるかもしれない……家に帰ればだが。
「これが導師……」
「じゃあ、オレ達は帰るな。食料ありがとう」
「また此方にいらっしゃる時は精一杯おもてなしします」
「あ、うん……」
数日分の食料を背負うゴンベエは何時もと違うオカリナを取り出して、何時もと違う曲を吹くと竜巻が発生し私達を包み込んだ。
竜巻で視界が遮られてなにも見えなくなるが体が四方八方に吹き飛ばされる感覚は一切なく、竜巻が消えるとゴンベエの家の前にいた。
「こんな便利なものもあるのだな」
「つっても、マーキングしとかんといけねえ。
元々、レディレイクと家の往復を延々と繰り返していただけだから前はマーキングを…………」
「どうした?」
川の下流を見つめているゴンベエ。
望遠鏡を取り出して眺めた後、私に望遠鏡を差し出すので川の下流を見るとなにかを探して辺りをウロウロとしている人が数名いた。
「アレは?」
「大方、国の上層部に家を探ってこいって言われた間者かなんかだ」
「なに!?」
「大地の汽笛とかの作り方を教えてほしいって言っているのに、それとは無関係な焼土とか透明度の高いガラスの作り方を教えたのが仇となったか……ったく、簡単なんだから自分で考えろよ」
彼等が何者なのかを推測するゴンベエは苛立つが、彼等の元には向かわない。
倉庫に向かってなにか触られていないかの確認をし、特になにもなかったのでそこで終わった。
「彼等に会わなくて良いのか?」
「別に問題ねえ……と思う。
川の上流付近に家があんのにあの辺でウロチョロしてるってことは、此処まで来れない。なんか結界が貼ってあるから。
直接襲ってきたりしない限りは基本的に無視する方向だ。それよりも、貰った食材を冷蔵しねえと……家を開けてたから、汚くなってるし、掃除ぐらいは手伝ってくれよ」
「それぐらいなら、幾らだってする……いや、それ以上もしなければ」
「口動かす暇あるなら手を動かせ」
予想以上に早く家に帰ってくることが出来たものの、全くといって手付かずのゴンベエの家。
ある程度は綺麗にしてあったが、それでもと埃で床が汚くなっていたりしており私達は掃除をする。前回はコーラを飲んで一休みし、グレイブガント盆地に行ってなにをするのかと言う事に意識を向けていたが、レディレイクの一般的な家よりも遥かに物が充実しており、家の作りも違う。
「どうしてここだけ凹んでいるんだ?」
「炬燵使うのに凹みが必要なんだよ」
「炬燵?」
「暖房器具の一種だと思えば良い。冬の時期にしか使わないから、今は見せないが」
「そうか、なら冬になったら見に来るか……このレーズンが入っている瓶、腐っているのだが捨てた方が」
「それパン酵母だから捨てんな」
物一つ取っても色々と違うゴンベエの家の掃除。
埃を一ヶ所に集めると掃除機と呼ばれる吸引器に纏めて入れて、砂や塵などもなくなり綺麗になった。
「飯作るぞ、飯。
あの村、米とか栽培していないから銀シャリじゃなくてパンになるが大丈夫だな?」
「構わないが……その」
「働け、働け」
ゴンベエはボウルを取り出し、小麦粉を入れてお湯を用意し始める。
料理が苦手な私でも、パンを作ることぐらいならば出来る……かもしれない。材料を入れて、捏ねるだけだ。前にゴンベエが作った焼おにぎりと違う。変に難しいことをしなくて良いと自分に言い聞かせる。
「待て待て、アリーシャ……なにをしている?」
「発酵はある一定の温度が必要だ。
ならば、程良い熱を持つ私の鎧に被せて」
「おま、お前……お湯で濡らした布巾をボウルに被せれば良いだけだからな!?」
「そう、なのか?此方の方が良いと思うのだが」
「ちゃんとした道具を使え。レシピ通りに作れるようにしてからアレンジしてくれよ……何時か死人出すぞ」
「……私に料理の才能は無いのだろうか……」
料理をするでなくしてもらって当たり前の環境にいるので、全く料理が出来ない。
ライラ様やミクリオ様は天族で食事をしなくても良いが、料理は出来る方だった……私にはそう言ったものの才能は無いのだろうか?
ゴンベエのパン生地と比べて自分のパンの生地がベタベタとしているのを見て、余計に落ち込む。
「才能以前の問題だ。
つーか、料理は導師関係と違って、お手本を何度も見て数をこなせば良いんだ。
レシピ通りに作っていれば完璧に絶対にその味にとは言わねえが、それでもそれなりに美味い味になる……発酵させている間に他の準備するぞ」
ザビーダ様を探している間、野宿の際は基本的にゴンベエが作っていた。
サンドイッチの様に簡単に出来る料理だったが、今日はゴンベエの家なので少しだけ手の込んだ物が作れる。
ミートボールにジャガイモ、人参、ホウレン草のシチュー、アイスクリームと色々と作ることに。
「こうやって手のひらで丸めて……多少雑かもしれないが、これでどうにかなる」
「こう、だろうか?」
「そうそう」
一緒に料理を作るなんてしたことがなく、初体験だったが悪い気分でなかった。自分で作ったご飯は一段と美味しく感じて楽しかった……だが、直ぐに自分でその時間を壊した。
「聞か、ないのか?」
家にやって来てから、ゴンベエは一度も聞いてこない。
私がレディレイクに帰りたくない理由を、なに一つ聞いてこずに何事もなく何時も通りに接している。ゴンベエなりの気遣いなのか、それとも普通に聞くのが面倒なのかは分からない。
「大体予想できるから聞かないだけだ。知ってほしいのか?」
「それは……」
ゴンベエに知ってほしい……のだろうか?いや、ゴンベエは気付いている。言わなくても、大体分かっている。今の私はゴンベエになにを求めているのだろう?
「今まで自分の中にあった何かがザビーダとの一件で全て崩壊した、そんなんだろ?」
「……うん」
ゴンベエに出会う前は自分を変えて世界を変えるんだと騎士となり頑張っていた。ゴンベエと出会った後は、導師のシステムやどうすれば良いのかを知ることができたが、私は力がなくてなにも出来なかった。
スレイと出会い、スレイが導師となった事により停滞していた世界が前に進みだした。相変わらず、私は力がなくて足手まといだったが、それでも世界は良い方向に進みだした。
頼ってばかりのゴンベエに頼られ嬉しくなり、旅について行きザビーダ様と出会い……今まで自分の中にあったナニかが壊れた。
「数百年間、同じ道ばかり辿った末が今の時代……導師を頼りすぎた私達は愚かだ!!」
「私達じゃない、オレを含めるな」
「導師じゃ世界は救えない……どうすればいい?」
「いや、知らんがな」
なにも出来なかった、力を持っている人はなにもしなかった。だから、頑張った。だが、力がなかった。力を持っている人が力を分け与えてくれたが、そのせいで持っている人に迷惑をかけた。だから力を借りなかった。自分でも出来ることがあると頑張った……でも、その頑張り自体が無意味だった。一時的な物にすぎないと分かった。
「頑張っても頑張っても、諦めずに進もうとしてるのに前が見えない……なにをすれば良い?なにをしたら皆を本当に救えるんだ?」
「知らねえよ、そんなもん」
そうか……私よりも賢くて、色々と知っているゴンベエでも知らないのか。
「もう、疲れた……」
陰口を叩かれる、疫病の街に派遣される、友人を導師を政治の道具に利用される、無実の罪で投獄される、災禍の顕主と国は繋がっている。
人々の心が荒んでしまう仕方ない時代だからと必死になって耐え抜いて、頑張ってきた。ゴンベエと出会い世界の真実を知った。力が無くて悔やんだが諦めてはいけないと各地を旅した。
スレイという希望に出会った。スレイは導師という希望となり、私が求めていた力を持っていて……私にも力を分け与えてくれた。だが、そこでも私は足手まといで邪魔になった。
「もう頑張りたくない」
頑張って頑張って頑張ったけど、頑張っても報われない。希望はあると信じたけど、何処にもなかった。ザビーダ様とした会話は否定ばかりで、なんの答えもでなかった。
一時の平和に楽しむ馬鹿になりたい。なにも気付かずに立ち上がらない臆病者に、卑怯者になりたい。
疲れてしまった私はゆっくりとゴンベエの隣に座って肩に寄りかかる。
「……お酒、無い?」
「基本的に飲まねえから、ねえよ」
……飲んで全部忘れたいけど、無理か。
「ゴンベエ、わかってた?スレイが頑張っても意味無いって」
もう我慢したり頑張らなくて良いなら、無理に固くしなくて良いよね。
「まぁ、一応というか薄々というか直感というか……この国を見ればなんとなくだが分かる」
「そうなんだ……」
「……逃げたいなら逃げても良いぞ。辛いなら泣けば良い。
別に強い人間とか高貴の人間の義務とかそういうのは言わないから、辛いときは誰だって辛いんだ。諦めることも大事だ、諦めてもオレは責めないし、嫌なときは嫌だって叫んだ方が良い」
「……ありがとう」
私はそう言うとゴンベエを押し倒して泣いた。
今まで我慢していたこと、バルトロ達にいじめられたり、何も出来なくて悔しかったり、どうすれば良いのか分からなくて怖いことを言った。ゴンベエに頭を撫でて欲しいと頼むとゴンベエは撫でてくれた。
逃げるなとか諦めるなとか言う人は今までいたけど、ゴンベエみたいなのは居なかった。逃げて良いと諦めても良いと言ってくれて嬉しかった。今までそんなのはダメだって思ってたのに……ゴンベエがいっていた清く正しく完璧だと見えない世界ってこれなのかな?今まで通りだったら苦しみから解放されなかった。
「ゴンベエは苦しくないの?」
私ばかりゴンベエに頼りきりはいけない。ゴンベエはこの事に関して苦しくないか聞いてみた。
「あ~……その辺は、色々と価値観が違うから。元から予想してたし、そこまでだ」
「価値観って、どうなってるの?」
「その辺は口で説明するのは難しい。
うちの国は、まぁ、豊かっちゃ豊かだ。生活水準が高い国で……学歴社会、だった」
「だった?」
「うちの国はある年齢までは学校に行く義務がある。
勉強して良い成績を取って有名な学校に進学して、大手の商会に就職する。オレがガキの頃はそれが正しいと思ってたし、現にそういう感じの社会だったが……徐々に変わっていったよ。それがどちらかと言えば間違った考えだったかもしれないってな」
「どうして?」
「知識と知恵は違う。普段はダメでもテストで点数を確実に取る方法はある。
有名な学校に通っていても一般教養しか出来ずに人としての常識が無い奴が増えたりした。
今まで正しいと思っていた考えや指導が実は間違っていたという事実も段々と明らかになってきた。
オレは摂津の国の出身だが少し前までは出雲の国にいて色々と学んでてな……結構酷いことを言う教官が居たんだが、ある意味そうかもと思える事ばかりを言いやがる。
仕事をする理由の大半は金のためであり、やりがいがあると思っているのは一種の洗脳教育かもしれない。やる気が無いなら帰れはアホが言うこと、やる気を出させるのが指導者の仕事、今時のガキは覚えたいと思えばある程度は勝手に覚えれる。そういう道具もある。漫画はある意味一番分かりやすい説明書。
中学以上の学校はどちらかと言えば人間力を鍛える場所で勉強したければ塾や通信教育の方が良い、高校からの勉強の殆どは専門職以外では使わない。数3とか数Bは考える力を鍛えるためだけにある。
社会は二十数年周期で考え方などが変わり、その考え方とどう向き合いどう柔軟になるかが大事。社会が求めているのは新しいものを作り出す天才でなく、今あることを効率よくそつなくこなして下手に逆らわないイエスマンの秀才で、むしろ天才は今までの社会の在り方を崩壊させるので危険な存在。二十年以上現場で働かなくなった業界のトップはなにも分からない。現場には現場の苦しみがあり、上には上の苦しみがあり理解し合えない……他にもまぁ、世間や社会は理解してても言わない事をストレートに言ってくる仏だったよ」
「酷いね……」
「逆だ、そっちの方がオレは好きだった。
イオン化傾向なんて専門職以外は使わないからぶっちゃけ覚えなくても生きていくことが出来るが、今現在は覚えておかないとダメな社会だから仕方なくでも良いし意味理解しなくても良いからテストで点数とれる様に記号だけでも覚えろって妥協しろって言うやつだ。ぶっちゃけ文字の読み書きと意味を覚えるのと基本的な計算以外の殆どの一般教養は覚えなくても良いと思うんだよ~それならパワポとかエクセル覚えろって、言ってくるぐらいにとんでもない仏だ……けど、それはあながち間違いじゃない」
「イオン化傾向?パワポ?エクセル?」
「気にしなくても良いことだ。覚えなくても生きていける……まぁ、でも考える力を養うために覚えたりする……あ~でも、理科だからそこまでなんだよな……」
変わった方だね、ゴンベエの先生は。
「仕方ないと諦めて妥協するのも世の中大事だって教えられたな。
勇気をもって諦めずに前に進むのと同じぐらいに怯えて立ち止まって、第三者視点で客観的に見たりひねくれたり批判したりするのも大事だって……って、アリーシャになに話してんだ、オレは。忘れろ、今の」
「嫌よ」
口調が崩れているけど、もうどうだって良い。
逃げて諦めてしまい、穢れているかもしれない。でも、構わない。今、こうして落ち着ける少しの時間が何よりも欲しいから……。
「……なんでこんなことになったんだろう……」
今までの努力が無駄だなんて言わない。本当に無駄だったとしても、それは私が選んだ事だから後悔しても仕方ない。
だけど、どうしてこんな社会に、こんな世界になったのか気になる。歴代の導師達はなんで普通の人達に天族を見えるようにしなかったんだろう?なんで天族を信仰するんだろう?
気持ちが大分落ち着いてきたから、今まで考えなかった事を考えてみると、答えらしい答えは見つからない。ゴンベエ、は無理か。この国育ちじゃなくて、信仰を捨てた国なんだから知らないよね。
「裏の天遺見聞録なら、なにか書かれているかな?」
作者こそ違えど、私の知っている天遺見聞録と異なることが書かれている、表に出すことが出来ない歴史の闇が書かれている裏の天遺見聞録。ザビーダ様はなにが書かれているかは知らないがなにが語られているか知ってる。
結局、ナナシノ・ゴンベエもマオクス=アメッカについてもなにも聞けなかったから、今度探してみよう。
「アリーシャ……多分、それオレ達だぞ?」
「……え?」
スキット 君の前だけ
ゴンベエ「ねっみぃ、今何時って、時計持ってなかった……あれ、アリーシャいない?」
アリーシャ「……」
ゴンベエ「アリーシャ,どうした?」
アリーシャ「っ!?」
ゴンベエ「なんかスゲえ顔になってる。朝飯作っとくから、気持ちを落ち着かせとけよ」
アリーシャ「うん……」
ゴンベエ「あ~、米食いたい。適当にベーコンエッグにでもするか」
アリーシャ「……確かに、確かに精神的に疲れていた。もう嫌だって思っていた、ゴンベエの言葉は嬉しかった……ゴンベエを堂々と押し倒した。なにをしているんだ私は!!!」
ゴンベエ「うるせえ!!」
アリーシャ「あ、すまない……本当になにをしているだ私は。ゴンベエを押し倒すて、泣きじゃくって甘えて……」
ゴンベエ「え、今さら?」
アリーシャ「……今までのとは違う。ゴンベエ、昨日は見苦しいところを見せてすまない」
ゴンベエ「うん、まぁ、溜まってたもんを発散出来たなら別に問題ないが……て言うかそれってキャラ作りなのか?」
アリーシャ「キャラ作りではない……女性としてでなく騎士としてと、平和な時代になるまではと自分にしていた誓約の様なものだ」
ゴンベエ「男女差別は何処に行ってもされるから……あれ、その場合だと、あのおばはんは……」
アリーシャ「いい加減にマルトラン師匠をおばはんと呼ぶのはやめてくれ」
ゴンベエ「やだよ、あのおばはんはなんか生理的に無理なんだから……とにかく、昨日のは頭の中から消しといた方が良いか?」
アリーシャ「……ダメ……」
ゴンベエ「そうか。あんまり触れねえ様にするよ……辛くなったら泣いたり弱音吐いたりしていい。けど、そればっかだとダメだ」
アリーシャ「うん……きっと、今から行くところは今より酷いんだろうね。覚悟はしてるよ」
ゴンベエ「また崩れた」
アリーシャ「これは、ゴンベエの前だけで見せようかな……」
ゴンベエ「え~~~~~~~~~」
アリーシャ「そ、そこまで露骨に嫌な顔をしなくてもいいじゃない!」
ゴンベエ「やだよ……時折アリーシャが恐ろしく感じるから」
アリーシャ「私、ゴンベエに暴力なんてしたこと無いけど?」
ゴンベエ「……依存してくれるのはありがたいが、もし力を手に入れたりしたらオレは捨てられるんだろうなぁ……まぁ、そんなもんだろうが」
アリーシャ「?」
ゴンベエ「一応のために聞いておくが、オレ達の関係ってなんだ?恋人関係じゃないだろう。と言うか、そんなのなったらオレ、この国の偉い方にああだこうだ言われるし、アリーシャはまたなんか言われるぞ」
アリーシャ「……分からないよ。夫婦でも友人でもない……知り合いだけど、それ以上の関係だし……」
ゴンベエ「……なんか抜けてる」
アリーシャ「私にとってゴンベエは弱さを見せれる人、弱いことを認めてくれる人かな?」
ゴンベエ「笑顔が似合うな。尊いとはこの事か?」
アリーシャ「でも、ゴンベエにとって私はどういう存在なんだろう……」
ゴンベエ「若干面倒だけど綺麗な女性でなにかと縁と義理と恩がある、以上」
アリーシャ「……嬉しくない!!」