「……?……牢屋か」
目を覚ませば、船の牢屋らしきところにいた。
時のオカリナの時のさかさ唄を吹いた筈なのにどうしてこうなった?そもそもなんで海の上にいたんだ?千年前に地殻変動であの辺が出来たと言うには無理あるぞ。日本みたいな火山地帯とか、資源の量はともかく質は最上級で石油も取ろうと思えば取れるとか言うわけじゃないだろう。
「……脈も臓器がずれたとか骨が逝ったとかないか」
隣で寝ているアリーシャを見つけて、何処かに異常が無いかを確認する。
大砲の弾に当たったのはオレでよかった。アリーシャなら下手すれば死んでいたかもしれねえな……
「情報収集したいなら、少しだけ待てよ」
「!」
扉の向こう側から気配を感じる。オレ達を見ておけと頼まれた奴だろう。
今、この船の船長を呼びに行ってもアリーシャが意識を失ったままでなにも出来ない。此処が何処とか言われても、その辺に疎いオレはなにも分からない。こういうときに傷を治したりする魔法が無いのは苦しい。
「……前よりはましか」
前に牢屋に入れられた時よりも厳重に閉じ込められている。ご丁寧に腕輪や靴も奪っており、逃げたり暴れられない様にしている……前に捕らえてきたバルトロの一派よりは頭が回るか。
「あんた達、何者?」
「ただの一般人だよ」
「くだらない事を言わないで。
今、自分がどういう状況に置かれているか理解しなさい」
「でも実際、一般人だぞ?
水車を利用して作った物を売ってて生計建ててるんだ。騎士になるとか偉い学者とか医者でもねえからな」
扉の向こう側にいる奴は女だったか。
かなり危ない発言をしているものの、身ぐるみをぶんどってポイ捨てする様な奴じゃなくてよかった。一応の話し合いが通じる……更に言えば、アリーシャと一緒の牢屋に入れているのが幸いだな。どっちかの無事が分からない状態で精神的に揺さぶられるとゲロを吐く可能性がある。
「一応聞くが、殺すつもりなのか?」
「知らないわよ、そんなこと。そう言ったのはこの船の面子が決めることで私には関係無いわ」
「ふーん、つまりお前はこの船の船員じゃない何らかの事情で乗ってるのか」
「つ!」
「そんな謀ったなって舌打ちしないでくれよ。
ぶっちゃけ、オレも状況が理解できない所が多いんだから……アメッカが、女の方が目を覚ますまで待ってくれ」
「……分かったわ」
割と話が通じる女性でよかった。声が某アイドルに出てくる運営の手先に似ているから少しだけ心配だが、よかった。
「う……此処は」
「起きたか……とりあえず、起きたぞ」
「そう」
アリーシャはやっと目覚めた。これで本題に入ることが出来る。
女はドアを開いてオレとアリーシャの顔を見て、なにも言わずに背中を見せる。どうでもいいけど、えっらいスケベな格好をしているな。ドスケベ礼装よりもエッチだな。
「ついてこいって、ことか。アメッカ、行くぞ」
「……なんで名前じゃないんだ?」
「偽名は大事なのと、もしこの時代でアリーシャの先祖がそこそこの役人とかだったら迷惑かけるだろう」
アリーシャはマオクス=アメッカと名乗らせる。真名は大事かもしれんが、命の方がもっと大事だ。と言うか、オレなんて名無しの権兵衛だぞ。
「とにかく、右も左も分からねえんだから慎重にだ」
「なにしてるの?早くついて来なさい」
あ、やばい。チンタラしているオレ達にイラッとしたのか女は睨んでくる。
これはまずいぞと少しだけ急ぎ足で女を追いかけると船長室らしい所に入ると船長っぽいのと子供と魔女っ子と侍っぽいのが……
「統一感0かよ!」
「ゴンベエ?」
「悪い、なんか魔女とか侍とか色々とツッコミたいの居たから……サーカス団かなにかかよ」
「いやはや、溢れんばかりのオーラは隠せんか。そう、ワシ等はマギルゥ奇術団じゃ!お前さんを連れてきたのは見習いでハトマネしか出来ないベルベット」
「マギルゥ、少し黙れ」
「というか殺すわよ?」
「折角盛り上げようとしたのに、つまらんのう……」
「けどまぁ、この男の言うとおり、この面子だと統一感一切無いからワケわからんのも無理はない」
魔女がボケると威圧する船長っぽいのと女。子供はビクりと怯えており、侍らしき男はそりゃそうかと笑う。
なんだこの面々は、人の事を言える義理じゃないけどもわけがわからねえな。
「オレはアイゼン……どうした、なにかついているのか?」
「い、いや、そうではない……少し知り合いに似ていて」
あ~確かに誰かに似ているなこの男。声も姿も似ている……だが、人違いだな。アリーシャ、素で見えてるし。
「オレに似た奴だと……まぁ、良い。オレはアイゼン」
「それさっき聞いた」
「……こう言うのは形から入らないと気が済まん」
んだよ、面倒だな。
「オレはアイゼン、アイフリード海賊団の副長をしている……この意味が分かるか?」
「……そこは船長じゃないのか?」
溢れんばかりのオーラとかそういうのを除いても船長っぽい男アイゼン。船長っぽく見えるだけであり、本当は副長。何故にドヤ顔が出来ると恥ずかしくなったのか顔を手で隠して数分間なにかを考える。
「オレはアイゼン、わけあって不在の船長に代わってこの船を率いている」
「もうとっとと進めなさいよ。あんたが船長でも副長でもどっちだって良いじゃない」
「そう言うわけにはいかん。アイフリード海賊団のイメージと言うものがある。アイゼン海賊団……確かに悪くはないが、それでもアイフリードがこの船の船長だ」
「なんか、ごめん……」
今度からはその辺を気を付ける。アイゼンの自己紹介から全然進まずに苛立つ女もといベルベット。
これ以上アイゼンに任せるとグダグダになると感じたのか会話の主導権を握る。
「あんた達、何者なの?なんで空から降りてきたわけ?」
「そうだな、その辺を教えないといけないな。オレはナナシノ・ゴンベエ。こっちは……アメッカ?」
「アイフリード海賊団……」
やっと話が進むと一番最初の自己紹介をするが固まり目を見開くアリーシャ。
アイフリード海賊団、その名前に心当たりがあるのかオレの言葉を聞いていない。アリーシャが知っているって事は後世にまで名を残す海賊か……最初に出会った人物がとんでもない奴等だったのか。
「ふっ、そうだ。あの泣く子も黙る、天下のアイフリード海賊団。オレは副長のアイゼンだ」
「お前、何度も言うんだな……コイツはマオクス=アメッカだ」
「……随分と疎いな」
怯えるアリーシャに喜ぶアイゼン。
海賊やっててよかったとかそんなの思っているのだが、オレはアイフリード海賊団なんて聞いたことないので特に驚きもなく、ホゲェとしている。その事が気にくわないのかムッとする。
「仕方ねえだろ。
オレはお前等の活動地域よりも遠い国の住人なんだぞ?」
「……お前は異大陸の住人なのか?」
「まぁ、お前達風に言えばそうなるんじゃないのか?
少なくとも、お前達が住んでいる大陸とは違うところの住人だから……あの、あれだ。鞄とか袋とかあっただろ?中に色々とあっただろ?それで証明できるはずだが……取り上げた際に中を見たか?」
「ああ、強力な磁石が入っていた。羅針盤を作るのに使う磁石とは比較出来ない程に強力な磁石だ」
「そうか……よかった」
あの磁石が無いとなにも出来ない、科学の根底である電気が使えなくなるのは本当に痛いので磁石が残っていることを知ってホッとする。
海賊とはいえ考えることが出来る比較的に話が通じる奴等でよかった。無闇矢鱈と欲望に突っ走る奴だと今頃は海の藻屑だった。
オレ達が異国の住人だと分かったものの、アイゼン達には疑いの眼差し等はまだある。未来から来たと言っても信じてくれないので、取り敢えずはなんとかして警戒心を解かないといけない。
「どうやら、聖寮の者じゃなさそうだ」
「聖寮?」
「ミッドガンド聖導王国の教会の対魔部門。
正式名称はミッドガンド国教会・対魔聖寮 理を貫く事で秩序と平和をもたらすという思想の下、王国の政治を主導し、対魔士を王国各地に派遣している……本当に知らないのか?」
「ミッドガンドは聞いたことはあるが、そう言うものは全く。
私はハイランドと言う国からやって来たのだが、聞いたことはあるだろうか?」
「ハイランド、ハイランド……う~む、さっぱりだ」
アリーシャ、上手いな。
無意識でしているのだろうが、ハイランドを知っているか知っていないかで此処が本当に1000年前なのかを確認している。侍擬きの男性はハイランドについて考えるが全く心当たりが無い。
「ハイランドなら聞いたことはあるよ。
ハイランド神聖王国、遥か昔にドラゴンの怒りを買ってしまい滅んだとされる国だって本に載ってた」
だが、子供の方は知っていた……が、それじゃない。似た国か?
「あ、いや、それじゃない……少なくとも、そっちの方ではない…」
心当たりがあるのらしいが、違うとアリーシャは首を振る。
「因みにオレはその出身でもアメッカの国でもなくて摂津の国の出身だ……自己紹介や腹の探りあいはもう良いか?」
あくまでも自己紹介しかしていないオレ達。
どうして空を飛んでいたのか、どうやって空を飛んでいたのか、なにをしにやって来たのか、他にも聞きたいことは山ほどあるだろう。色々と手順を踏んで懐柔して聞くのも一つの手だが、互いに時間は残されていなさそうだ。
「ああ、もう構わねえ……お前達はなにをしに別の大陸までやって来た?」
「アメッカ」
アイゼンの質問に答えるのはオレじゃない。
なんでこうなったのかどうしてと思う疑問はあるが、アメッカ程じゃない。だから、答えるのはアメッカに任せる。
「私は知りたい。
この世界で起きている、世間や社会が隠そうとしている事を、闇を知りたいんだ。
先人や国の上層部が揉み消そうとしている全てを……私は、気付かない内に正しくない選択をしてしまった。
その事については後悔はしていない、私の意思で選んだことで……後悔はしたくはない。正しくない選択をしたと気付いた時、私の中にはどうしてなんでと言う素朴だが誰も答えられない疑問が幾つも出来た。……真実を知れば、わかるかもしれない。どうしてこんな世界になってしまったのかと。だから、ゴンベエの力を借りて此処までやって来た」
「特権階級の人間が楽して暮らせて凡人が安い給料でこき使われて、演劇や小説なんかの娯楽を生き甲斐にして世の中の理不尽とか不公平に気付かずに上司に媚びへつらって流れるように生きたくないらしい。世界の仕組みに関して知りたいんだよ」
「世界の仕組みか……それを知って、どうするつもりだ?」
「それは……まだ決めていない!」
「なに?」
「私はまだなにもわからない、正しいことも間違っていることもなにもだ。
だからこそ、知って自分の中で答えを見つけ出したい……もしかすると、その答えはアイゼンにとっては残酷すぎる答えになるかもしれないが、それでもだ」
ちなみにだがオレは知りたいだけで、知ってなにかをすると言うのは特にしない。
仮になにかをすると言うのならばヘルダルフをシバき倒すぐらいだぞ。彼奴、倒しておけば数十年はなんとかなる。シバき倒したら何時も通り……は、難しそうだがそれでも発明品とかそういう感じのを作ってアリーシャ経由で国に売る。電球ぐらいなら売っても問題ない。レディレイクは水路があるから水力発電するのに申し分ないしな。
「……今のミッドガンドは、いや、聖寮は余りにも多くの事を隠している……通常の方法では絶対に知ることが出来ず、仮に知ったとしても消されるだけだ」
「それでもだ」
「ふっ……自分の舵はしっかりと握っている様だな。
暫くこのバンエルティア号に乗船させてやる……真実を暴き闇を知るには」
「正々堂々普通の手段ではダメ、なのだろう?世間や社会が隠そうと言うのならば、反社会的な存在でなければ知ることが出来ない……」
「ああ、そうだ。理解をしているようだな」
「ああ。前にゴンベエが教えてくれて、実戦済みだ……よろしく頼む」
アリーシャの知りたい心が気に入ったアイゼンは乗船を許可する。
その事についてアリーシャは喜ぶが、海賊の力を借りなければならないとは……オレ達が思っていたよりも、遥か昔に起きた出来事の闇は深いと言うことか。
「ところで私の眼鏡は何処に?
私達が何処の誰かか分からないから、槍を取り上げたのは分かるが……」
「眼鏡に槍?そんなもん、引き上げた時には無かったぞ」
「なっ!?」
「安心しろ、槍ぐらいなら船にある。最悪、デッキブラシでも戦える」
「ち、違う。そうじゃない……ゴンベエ」
「材料持ってきてねえし、取りに行くなんて出来ねえぞ」
再びと言うか今回は完全に何処かに行ってしまったアリーシャの眼鏡。
まことのメガネのレンズの粉末を眼鏡を作る際に混ぜれば出来るが、粉末は家に置いてきた。と言うか工房がねえだろう。
「あの槍と眼鏡がなければ……天族との対話も儘ならない」
「最悪オレが通訳するし、筆談すれば良いんだが……」
「その天族って、なに?」
「え~っと、地水火風の人型の精霊的な存在でノルミンとかわけわからんのもいて……どうした?」
少年の小さな疑問を答えると一同は首を傾げてしまう。なにかおかしな事を言ったのだろうか?
「それは恐らく此処で言うオレやライフィセット……つまりは聖隷だ」
「聖隷……天族ではなく?」
「ああ、そうだ……なんで頭を下げる」
「い、いえ、まさか天族の方だとは思わずに無礼な真似を」
「やめろ、オレはそう言う人に祈りを捧げて貰う聖隷じゃない……むしろ、人に災厄を撒き散らす死神だ」
「死神……私は天族を見るほどの霊応力が」
「ああ、もう終了。
アメッカ、これ以上は余計なことを今は考えないでおくぞ!!オレ達の常識と違う!」
天族を天族と呼ばずに聖隷と呼んでいる。今の今まで天族が見えないのに天族が見えるようになったアリーシャ、更には海賊をやっている天族、聖寮と呼ばれる組織。
アリーシャが全くといって知らないことは歴史の闇に隠されていたことであり、恐らく裏の天遺見聞録に載っていることだろう。
「一度に今までにない情報が入ってきて、頭がこんがらがって来た。
つーか、アリーシャの眼鏡と槍が無いんだったらオレの剣とかは何処にあるんだ?アレないとやばい。」
「それなら」
「副長、大変です!」
もし剣……いや、オカリナがなくなっていたら大惨事だ。
骨をこの時代に埋めなければいけないし一から素材集めとかしないといけない。また水車小屋を作らないと……いや、今と大差変わらんか。
とにかく武器とか何処かとアイゼンに教えてもらおうとすると、前歯が欠けているしたっぱっぽいのが入ってきた。
「ベンウィック、なにかあったか?」
「何時の間にか無風帯に入ってたんすよ。直ぐに指示を」
「わかった、直ぐに行く……武器や道具はちゃんと返す。少し待っていろ」
したっぱっぽい人と共に船長室を出ていったアイゼン。
副長もなにかと大変だが、船長はなにをしているんだと考えていると無愛想な女が口を開く。
「無風帯って、なに?」
「無風帯はその名の通り風が吹かないところだよ。
向こう岸に渡るだけの渡し船なら手で漕いだり水の流れを利用すれば良いんだけど、島を渡ったりする大きな帆船は、風の力を利用して進むから……無風帯だと進まない!?」
「おぉ、ナイス反応」
少年もといライフィセットの説明により、船が進まない事に気付く一同。
このままだと目的地に着くことは出来ないとアイゼン達を追いかけるので、オレとアメッカも追いかける。
ライフィセットの反応、よかったな。
「アイゼン!」
船の上に出ると船員達と話し合っているアイゼン。オレ達を見るとお前達も来たかと納得するが残念そうな顔をする。
「来たのは良いが、なにも出来ない。ムカつくぐらいの晴天で、雲の流れも読めない」
「あ~、晴れはむしろ敵か……」
海で遊ぶのには最高な雲一つない晴れ渡る青い空。
海を航るのには最悪な天気で風を読むのは難しい。と言うか暑い。
「風とか起こすこと、出来ないの?」
「オレは地の聖隷だ。そういった事が出来るのは風の聖隷だ」
無愛想な女もといベルベットはアイゼンの天響術を期待するが、アイゼンはなにも出来ない。ライフィセットもなにも言わないということは、ライフィセットも風を操ったりは出来ないのか。
「安心しろって。
無風帯なんて今まで来た嵐や雪、それに雷と比べれば屁でもねえぜ!数日間の足止めはくらうけど……目的地にはちゃんとつくさ」
前歯の欠けたしたっぱもといベンウィックは気楽にいる。
こう言うときはポジティブとネガティブを使い分けないといけず、今みたいに少しでもポジティブにいないと鬱になるから、この気楽さは羨ましい。と言うかメンタル強いな。
「数日……そんな暇はないわよ」
「じゃが、泳いで行くわけにも行かんぞ」
「なら、空を飛べば良いじゃない」
「?」
まさか既に空を飛ぶ技術があるのだろうか?いや、気球は割と簡単に作れるからそれか?
別に地の天族だからって炎の術が絶対に使えないと言うわけではないから、アイゼンが燃料の代わりをしてくれれば燃やせるか?
「あんた、空を飛べるでしょ?」
「は?」
ベルベットはオレに近付いて、鋭く睨む。空を飛べるって……ゼルダはマリオとかドンキーとかと違って、空を飛べない。たぬきスーツなんて便利な道具は持っておらず、スコークスとかコークスとかの頼れる相棒もいない。
「隠しても無駄よ。あんな所から降りてくるなんて、空を飛べないと無理でしょ?」
「炎を出したりは出来るが、空は飛べない。
噴出口とか風を利用したりして……あ、アレがあった」
なにをしに行くかは知らないが、ベルベットには時間がない。生憎な事にゼルダは空関係はと気球の作り方でも教えようかと考えると、全く使っていない道具でこの状況をどうにかする道具を思い出した。
「アイゼン、オレ等の荷物は何処だ?」
「海水で濡れていたから、船頭で天日干ししている」
「そうか」
海水で濡れてたか……爆弾とか湿気て使い物になら無いとか言うオチは無いよな?
ここが海賊の船なら金銀財宝が、プラチナがあるだろうからそれを使って硝酸作って黒色火薬を作れば良い。いや、硝酸作れるなら、ニトログリセリン……ああ、ダメだな。船の上で作ったら爆発しそうだ。
「ええっと、オカリナじゃなくてハープでもなくて何処だ?」
船頭に置いてあるオレ達の荷物。
下着泥棒や制服を集める変態が捕まった際にテレビでよくやる、これだけの下着が盗まれましたと並べるかの様に武器や三角フラスコ等が並んでおり、目的の物はない。
「接着剤に解熱鎮痛剤アセトアニリドはあるけど……サルファ剤は落としたか」
それどころか、何個か足りない物がある。
硫酸を作るのに必要な硫黄はこの時代でも余裕に手に入れれるし、硫酸を作るのに必要な蒸留器のガラス細工は残っているが、薬や熱に強い鉱石等、一部が無くなっている。
「あんた、なに探してるの?」
「この状況を打破できる物だ……おい、これだけか!?
オレの剣とか盾とか置いてないだろう。まだまだあった筈だが?」
追いかけてきたベルベットはオレがなにを探しているか聞くが、それとほぼ同時にそれが此処には無いとオレは気付く。
もっと色々と持ってきたのに船頭で干されている物だけしか無いのはおかしいと船員に聞いてみると数が多すぎて全部干せず、干し終えた物なんかは鞄に戻したと教えてくれる。
オレは直ぐにその鞄を受けとり武器とか爆弾とか入っている袋を取り出し、中に入っていた風のタクトを取り出す。
「それなに?」
「なにかと言われれば、よく分からん。
使い方は知ってはいるものの、使い道が無かったから使わなかったが……今が使うときみたいだ」
タクトを構え、上に左に右に振るう。
「どの向きの風が欲しいんだ?」
演奏は終わった。
ベンウィックに欲しい風向きを聞くとアッチだぞと船の後ろ方を指差すのでタクトを船の後ろに向けると風が吹いてきた。物凄く強いわけでも物凄く弱いわけでもないこの船にとってちょうど良い風が吹いてきた。
「……あんた、何者なの?」
風が吹いてきた事により、動き出す船員達。
アイゼンとライフィセットを除くオレ達から情報を聞き出そうとした三人は動かない。と言うよりはなにをすれば良いのか分かっていない。
ベルベットは風のタクトやオレを変な目で見てくる。と言うよりは疑っている。
「ただの名無しの権兵衛だよ、オレは」
何者かと聞かれればオレは名無しの権兵衛でしかない。
爵位もなければ大手の会社の地位もなにもない、勇者の力はあるが勇者として邪悪な存在は倒さない。どちらかと言えば、オレが邪悪な存在に近いな。残念なものを見る目で見るなよ。
風は海賊というか海を航るものにとって命であり、それを操る事が出来るオレは海賊達に感謝される。一応はこれでそれなりの信頼を勝ち取った……アイゼン達は若干疑ったりしているが。
スキット 新米姫海賊
アイゼン「と言うことで、今日から暫く乗船するマオクス=アメッカとナナシノ・ゴンベエだ」
アリーシャ「アメッカです……船に関しては知識しか無いですが、よろしくお願いします」
ベンウィック「いやいや、こんな美人が乗船してくれて華があって嬉しいって!」
アリーシャ「美人だなんて、そんな」
ゴンベエ「転校生を紹介するノリだな、ナナシノ・ゴンベエだ」
ベンウィック「……変わった名前だな?」
ゴンベエ「先生、凄い男女差別をされました。これはいじめですか?昨今問題になっているキラキラネームは親がつけたもので子供がどうこうすることは出来ません」
アイゼン「誰が先生だ……しかしまぁ、変わった名前と言えばアイツもだろう」
ロクロウ「ん、呼んだか?」
アイゼン「変わった名前だと話していたところだ」
ロクロウ「そうか?俺は六男だからロクロウだが……おっと、自己紹介がまだだったな。俺はロクロウだ!」
アリーシャ「アメッカです、よろしくお願いします」
ロクロウ「そう固くなるな、無理せずに普段通りしてくれ」
アリーシャ「だが、世話になる身で」
アイゼン「船での上下関係こそあるが、そこまで厳しくはない……お前」
マギルゥ「喋り方といい身なりといい、そこそこのお嬢様じゃのう。お主」
アリーシャ「えっと……」
マギルゥ「ワシはマジギギカ・ミルディン・ド・ディン・ノルルン・ドゥ。長いからマギルゥと、隣の客はよく柿食う客だの柿食うと同じイントネーションで呼んでくれ」
アリーシャ「わ、分かった」
ゴンベエ「しかしまぁ、お前達だけなんか変だな」
アリーシャ「ゴンベエ!」
マギルゥ「いやいや、事実じゃ。ワシ等は別にアイフリード海賊団でもなんでもない」
ロクロウ「たまたま意見ややりたい事が一致して一緒にいる。協力関係であって仲間でもなんでもない」
アイゼン「そう言うことだ。ところで、アメッカは何処かの令嬢か?」
アリーシャ「えっと……」
アイゼン「隠しても無駄だ、オレの目は誤魔化せんぞ。歩き方は鍛えた騎士だが所作の一つ一つが洗練された貴族の様だ」
ゴンベエ「お前、下手したらセクハラだぞ。アメッカは……まぁ、良いとこのお嬢と言えばお嬢だが……聞くか?」
アイゼン「いや、それが聞けただけで充分だ……アメッカの国の政治は腐りきっている。そんなところか」
ゴンベエ「まぁ、大体そんなんだ。導師だか対魔師なんだか知らんが、ちょっと厄介なのがいてオレもアメッカも巻き込まれて無実の罪で投獄されたりして……最終的に色々と分からなくなった」
ベルベット「!」
アイゼン「だから、全てを知りたいのか。知らなくても良い知ったところでどうにもならない事だとしても」
ベンウィック「この国が隠してるもの、マジでヤバいぞ?船長以外は見ることが出来なかった副長を見れるようにしたりとかしたし」
アリーシャ「天族を普通の人達に見れるように!?」
ゴンベエ「それってプラスか……いや、マイナスか……」
アイゼン「オレとしては、お前の方が謎だらけだがな」
ゴンベエ「名無しの権兵衛だっつってんだろ」
ベルベット「……彼奴等も、あの男と似たような奴に……」
アリーシャ「……すまない、スレイ」