テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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世に言う全員と会話しないとストーリーが進めないあれである。


鶴は千年、亀は万年もいきれない

「というわけだ」

 

「ふ~ん」

 

「聞いているのか?」

 

「アイフリード海賊団が現代にまで名を残した奴等だって事ぐらいしか耳には入れない」

 

「はぁ……」

 

 色々と疑われたりはしているものの乗船員として認められたオレ達。

 目的地には明日に到着するようで、アリーシャはその間に此処が本当に過去の時代だと今の時代との違いを照らし合わせる。オレはそれを聞きながら、無くした物がなにかを確認する。

 

「今のハイランドよりも前のハイランド、それがハイランド神聖王国と呼ばれている」

 

「その辺の授業はいらねえよ。この時代に関する事は無いか?」

 

「千年も前となれば、あまり」

 

「滅びと再生繰り返しまくってるな、この大陸」

 

「それなんだが、これを見てくれ」

 

 何処かから持ってきた地図を広げるアリーシャ。

 地図をチラリと見るが、見たことのない大陸の地図だ。

 

「この国の地図だ」

 

「……こんな島々じゃねえだろう」

 

 オレの記憶が間違いじゃねえなら、グリンウッド大陸は島々に囲まれてんじゃなくて一個の大きい島だ。

 小さな孤島があったりするのならば分かるが、千年でこんなにザックリと変わるか?地図を作る技術が大幅に進化した?いや、違うな。

 

「大陸が変わるのは地殻変動、地震や火山の噴火が原因とされている。

様々な説はあるものの、学者達の間ではそれが一般的な考えとされているんだが……問題はそこじゃない。今、私達はここにいる」

 

 地図の海辺のところを指差すアリーシャ。

 そりゃ船の上なんだから海辺の方にいないとおかしいだろう。

 

「ゴンベエの家はレディレイク周辺。

そこがこの時代で海だったとしても、明らかに距離がある」

 

 未来ではレディレイクがあるところを指でなぞり、円を描く。今いるところを中心に円を描くと、互いに全く被らない位置にあることが判明する。

 

「過去に遡ると言うだけで大それた事だが、どうして全く違うところに来てしまったのだろうか?」

 

「なんだ、不満なのか?」

 

「……海賊、と言われてイメージしていたものと彼等は違う。

だが、現代にまでその名を残す海賊達と一緒にならなければならないと思うと少し……ベンウィック達が気の良い人達なのは分かるが……」

 

「出来ればこの時代の導師とかそんなのに会いたかったのか?」

 

「ああ」

 

 オレの言葉にゆっくりと頷くアリーシャ。

 確か、この時代に世界で最初の導師が誕生したとかどうとかウーノが言っていたが……

 

「多分だが、これは不慮の事故とか偶然とかそんなんじゃないと思う」

 

「海の上に出たのは、なにかがあったからと?」

 

「ああ……」

 

 右手の甲に宿る三つのトライフォースを見て、考える。

 

「オレ達は此処に来る決意も覚悟もしていたが、宛なんて一つもない旅だ。

歴史の闇に葬り去られる出来事を知るのは予想以上に難しい、後世ではそう語られているけど実は違っているなんてこともある……多分、導いてくれたんだよ」

 

 数の少ないドラゴンボール擬きでもあるトライフォース。

 オレ達の隠されている出来事やなんでこうなったかを知りたいと言う願いに反応した可能性がある。

 アイフリード海賊団と共にいれば消される歴史の闇を知ることが出来る。

 

「導いてくれたか……海賊達と過ごせば色々と知ることができるか……」

 

「そして今、一つだけ分かったことがある」

 

「?」

 

「……大事なもの、海に消えやがった」

 

 一応納得したアリーシャにオレ的には残酷な現実を突きつける。

 どれだけの旅になるかわからないし、過去で流行った病気もあるからと色々と持ってきたんだが殆どが海に消えていった。

 

「サルファ剤消えたのは痛いな」

 

「サルファ剤と言うと、病気を治す薬か……」

 

 残っているのが鎮痛剤と接着剤と固まる前のフェノール樹脂とかで、大事なものがない。

 木炭を粉にしたものとか、蒸留水とかアルコールが無くなったのはキツいな。よく使うもの程、失うとめんどい。

 並べられていた物を鞄に詰め込んで、背負う。天日干ししていたお陰か乾いているのでべとっとしない。

 

「空いている部屋は無いか?」

 

 鞄を背負い、部下達に指示を出しているアイゼンに声をかける。

 

「あるにはあるが、どうする気だ?」

 

「お前等に撃ち落とされたせいで、色々とどっかに行ったんだよ。怪しい薬とか怪しい液体とか怪しい粉とか蒸留水とか」

 

「最後以外は全部怪しいが」

 

「……その、ちょっとアレかもしれない。だが、効果は保証できる」

 

「あ、アンモニアはアリーシャので」

 

「ゴンベエ!!」

 

「アンモニア?なにを作るか分からんと、流石に部屋はそう易々と貸せんな」

 

「商売上手め」

 

「異大陸の住人に会える機会なんぞ、早々にない」

 

 部屋を貸す代わりに技術提供を要求するアイゼン。

 世話になるからある程度の技術は提供するつもりだったから良いんだが……何処まで教えて良いんだ?

 海賊だが、何処かの偉いさんと繋がっている可能性が高いからな……

 

「安心しろ、口外するつもりはない。

広めて良い技術と広めてはいけない技術があることぐらいはこの船にいる奴等は知っている」

 

「そうか……因みにだが、この辺の国でこれは作れるのか?」

 

「いや、作ることは出来ないが……そもそもこれはなんだ?」

 

「灯りをつける道具」

 

 電池と電球を取り出し、電気をつけると驚くアイゼン。

 1000年前の時代だから、オーパーツ的な感じで電球が作られている……と思ったが、作られていないか。船が蒸気でなく帆船だから……下手したら現代と同じレベルの文明の可能性があるな。

 

「動力源が消えなければ2000時間以上ぶっ通しで使えるぞ」

 

「2000時間だと!?」

 

「るせえぞ!!耳元で騒ぐな」

 

「すまん……だが、2000時間以上もか……」

 

 マジマジと電球と電池を見つめるアイゼン。

 壊したり分解したりするなと釘を指してから渡すと空いている部屋を教えてくれる。

 

「ゴンベエ、アレは2000時間も使えるのか?」

 

「どうした?」

 

 顔がスーーっと青ざめるアリーシャ。

 そう言えば前に貸したんだったな、使った形跡は無かったが。

 

「蝋燭やランタンだと火があるから読書に向いていないから貰えないだろうかと思っていたのだが……2000時間……」

 

 電球の価値と言うかスゴさを知って驚くアリーシャ。

 2000時間も使えて凄いと思っているが、電球のスゴさはそこじゃない。この世界じゃ無理な24時間営業を可能とするところが、夜に打ち勝つところが凄い。

 アイゼンから貰った部屋に辿り着いた。

 

「お、ここにいたか」

 

「ロクロウ、どうした?」

 

 荷物を並べているとロクロウがやって来た。

 なにをしに来たんだと思っているとロクロウの手に槍が握られていた。

 

「その槍は?」

 

「いやなに、槍を無くしたそうじゃないか。

どんな槍かは知らないが、かなり大事な槍のようだからな……代わりと言ってはなんだが用意した。

大事なものが、特に武器がどっかいっちまうのがどれだけのことかは十二分に理解している……使っていた槍よりは質が落ちるかもしれんが、中々の上物だ」

 

 アリーシャに槍を渡しに来てくれたロクロウ。

 槍を受け取って刃の部分を見るが、しょんぼりと落ち込んでしまう。

 

「ダメ、か……」

 

「いや、この槍が悪いわけじゃない。

二つ前の槍よりも上質な槍だが……ゴンベエから貰った一つ前の槍と比べれば」

 

「ほう、お前は槍も使うのか」

 

 オレが槍を使えることを知るとニヤリと笑うロクロウ。面白い玩具を見つけたか子供のような笑みで、襲いかかって来ないだろうな……あ、そう言えば

 

「オレの剣は何処にある?」

 

 天日干しにされている物の中にマスターソードが無かった。

 アレも無くなってたらやばいぞ。恐らくこの時代にも憑魔がいるから、それに対してマスターソードが一番有効だ。フォーソードで戦えない訳じゃないが……マスターソードの方が良い。

 

「あ~あるにはあるんだが……」

 

「刃溢れでも起こしてたか?

安心しろよ、アレは自動修復っつー便利な能力を持っている。剣の柄の部分さえ残ってればどうにでもなる」

 

「便利だな!じゃなくてだ、どうもあの剣は俺には持てん」

 

「見たところ、ロクロウの背負っている剣の方が重そうだが?」

 

 如何にも剣士ですって見た目をしているじゃねえか。なんでマスターソードを持てないんだよ?アリーシャでも簡単に持つことが出来る切れ味抜群だが重さは普通の剣だろう。

 

「よく分からんが、剣に触れようとすると拒まれる。

アイゼンにマギルゥにライフィセットは触れて、俺とベルベットだけ触ることが出来なかったから恐らく業魔には触れない剣だと思う」

 

「業魔?」

 

 憑魔のこの時代の呼び方か?

 それとなく聞こうとするとロクロウは髪で隠れている顔の右側を見せる。

 

「ダイルも堂々と出るのはって思ってて引きこもってるし、俺やベルベットは一目見て業魔だと分かりづらいからな……俺は業魔だ」

 

「憑魔……」

 

 ロクロウの顔の右半分は、禍々しかった。

 顔にボディペイント的なのが入っていると思っていたが違う、目は文字通り赤色の人間じゃない目をしておりアリーシャは固まる。

 

「憑魔……お前達のとこではそう言うのか。ああ、安心しろよ。

別にお前等を斬り殺すつもりなんてない……お前達が知りたいのは世界の真実で、別にあいつを斬りたいわけじゃない。きっとお前達が探しているものは、あいつも握っている……その時は俺があいつを斬り殺す。その邪魔さえしなければ他の奴等を斬るのを手伝うぜ!」

 

「おい、お前の世界に入るな」

 

「おおっ、すまんすまん。

とにかく剣の方はマギルゥに任せてあるからな……今度手合わせしようぜ」

 

ロクロウは槍を渡し、マスターソードのありかを教えると出ていった。戦闘ジャンキーだな、あいつ。

 

「……ロクロウは憑魔……」

 

「ああいうの、はじめてだな」

 

 今の今まで憑魔と言ったら如何にもモンスターですよと言いたい生物ばかりだ。

 人間が元の憑魔もリザードマンみたいな感じになってた時もあるし、彼処まで人間成分が残っている憑魔は善悪という点を除けばヘルダルフぐらいだ。

 ロクロウが憑魔だと言われても違和感を感じるぐらいに人間感があったので、アリーシャは驚きを隠せない……最後の斬るとかの発言は憑魔と言うよりは善悪の境界線が無い感じだったがな。人のことを言えないけども。

 

「しかしまぁ、ベルベットも憑魔なのか。

オレ達のところもロクロウやベルベットみたいな奴等だったら……あ~どうだろう」

 

 ただただ獣のように暴れる方がましかもしれん。シバき倒すだけで済むから。

 

「浄化は……」

 

「しても無理っぽいぞ。

ロクロウはオンオフが出来るタイプの人間で、敵には容赦ないとかそんな感じ……サイコパスに近い。ベルベットの方は……なんだろうな?とにかく、戻してもまた元に戻る、根本的な部分をどうにかしないとその場しのぎにしかならない」

 

 何時もみたいにシバき倒して元に戻した方が良いっちゃ良いかもしれない。

 しかしまぁ、シバき倒したところで地の主……は、アイゼンがなれるな。だが、ああなった原因を知らない。

 ただただ何時もの憑魔みたいに暴れまわるんじゃなくて、なにか目的を持っている。浄化するにしてもそれを知らなければなんも始まらん。暴れているなら無理矢理力でどうにか出来るがああいうのは厄介だ。

 

「ロクロウも後回しだ。

それよりも、その槍で……大丈夫か?一応、似た効果の剣はあるが」

 

「問題ない。ゴンベエに貰う前に使っていた槍と比べればかなり」

 

「それは何処まで行っても普通の槍だぞ……」

 

 なんの力も宿っていない恐らくだが、現代でも金をかければ手に入る上物の槍。

 オレが貸した槍は邪悪な物に強えがその槍は普通の槍だ。

 

「……そう言えば、前にアタックさんがゴンベエがなんとかしたと言っていた。

マオクス=アメッカが私でナナシノ・ゴンベエがゴンベエだとすれば、まだなにかあるんじゃ」

 

「なにかって……武器の素材ならあるが……」

 

 使っていない武器は沢山ある、マスターソードは貸せないけどフォーソードなら貸すことが出来る。

 アタックが出会ったアリーシャはなんらかの形で力を得ているが……どうやって力を得た?夢幻の剣を作る素材は持っているが、あくまでも上質な鋼であって武器じゃない。

 

「悪いけど、それに心当たりはねえよ。

オレはあくまでも勇者の力を使ってるだけであって勇者でもなんでもねえただの名無しの権兵衛だ」

 

「いや、気にしないでくれ。

ゴンベエばかりに背負わせたくない。この槍で憑魔とも渡り合える様にしてみせる」

 

「無理っぽいならフォーソードを貸す……」

 

 マスターソードと比べれば劣るけど、邪悪な物を打ち倒す事の出来る剣だから役立つ筈だ。

 荷物の整理も終わったので、マスターソードを持っているマギルゥを探すと割とあっさりと見つかった。

 

「なんで、こんな煤まみれに……しかし、まぁ、ボロボロじゃのう」

 

「いや、撃つなっていったのに撃って暴発させて、その上でもう一発アメッカ達を撃ち落とすのに使ったのお前だろう」

 

「おい、お前だったんかい」

 

「ん、おぉ、ちょうど良いところに来たの!」

 

 煤で顔が汚れているマギルゥ。

 サラッとベンウィックが言っていたが、お前がオレ達を撃ち落としたのかよ。

 

「ほれ、預かっておった剣じゃ」

 

「サンキュ……じゃねえよ。なんで撃ち落としたんだよ」

 

「な~にを言っとるか、空飛ぶ存在など怪しいじゃろう」

 

「私としては、マギルゥの方が怪しいのだが」

 

「魔女は怪しいから魔女じゃ……しかし、なんの用があって此処まで来た?」

 

 ボケていた雰囲気を一瞬にして変えるマギルゥ。こいつもオンオフを使い分ける事が出来るタイプの人間か。

 

「なんの用もなにも、色々と知りたいと」

 

「確かにその気持ちは分かる。じゃが……お主等はこの国の人間では無いはずじゃ」

 

 中々に勘が鋭い女だこと。

 アリーシャが言っている事は嘘ではない、だからこそおかしな点が幾つもある。恐らく、アイゼンもそれとなーく疑問を持っているだろうが、アリーシャの気持ちは本物だからと敢えて触れなかった部分を触れる。

 

「今の世は偽りだらけで、それを作った奴等もいる。

しかし他所は他所、自国は自国(うちはうち)というもの。アメッカの様な正義感丸出しの小娘が、わざわざ外国のしかも異大陸まで来るとは、いやはや聖寮は異大陸まで手を伸ばしたのか」

 

「おい、それ以上の詮索はすんな。ロリババア」

 

「だーれが、ロリババアじゃ。魔女といえ魔女と。

まぁ、これ以上は下手に聞かんよ……全てを知れば自動的に分かるんじゃからの」

 

「……言い触らすんじゃねえぞ」

 

「酷いのぅ、魔女は契約を守り口が固いんじゃぞ?」

 

「いや、お前撃つなって言って大砲を暴発させただろう……聞かなかった事にする」

 

「悪いな」

 

 ベンウィックはマギルゥとの会話を頭の中から消す。

 気遣いが出来ることに感謝しながらオレはマスターソードを確認する。切れ味抜群で使いやすいが一応は剣だからな。海水に浸かったら錆びる可能性がある。刃溢れとか起こしていたら叩き折って自己修復させる。

 

「問題ないな」

 

「は~、業魔を拒む剣って聞いたけどスゲエなそれ」

 

「どういう意味で凄い?」

 

「剣としてもお宝としても凄いって事だよ、それ見た目こそ新品だけどかなりの年季が入ってるだろ?」

 

 中々に見る目があるなベンウィック。マスターソードは新品同然で汚れらしい汚れがない聖剣なのに目が良いな。

 

「使っている素材からして、私達の武器と大分違う。その剣はどうやって作られた物なんだ?」

 

「アメッカ、前にこれ退魔の剣だっつったよな?」

 

何度かチラッと言った気がするぞ。

 

「……言ったか?」

 

「……ごめん、覚えてない。

とにかく、大空の勇者のために神様が何度も何度も鍛え上げた剣で同じものを作ることは出来ない」

 

「ほぅ、勇者とな……ならば、邪悪な者を斬るのかえ?」

 

「明確に見える悪がオレの前に立ち塞がるならな……少なくとも、此処に斬らないといけない奴はいない」

 

 後、これ神様から貰ったものじゃなくてどちらかと言えば仏様から貰ったものだ。

 これ以上此処に居るとなんか余計なことをベラベラと喋りそうなので、部屋に戻ろうとすると子供が、ライフィセットが部屋前に立っていた。

 

「なにをしているんだ?」

 

「あ……えっと、色々と見たことの無い物ばかりだなって」

 

 アリーシャが声をかけるとすんなりと答えるライフィセット。

 オレが持ち込んだ物に興味津々で、入口の隙間からコッソリと覗いていた。

 

「そうか、ゴンベエの作る物は色々と見たことの無い物が多い。

中には危険な物もあるから、入る際には許可を貰ってから入らないとダメだぞ」

 

「うん……入って良い?」

 

「別にまぁ、危険なのはないが今から薬作るから、あんまり説明できないぞ?」

 

「薬?なにを作るの?」

 

「ペニシリン」

 

「ペニ、シリン?」

 

 なんだそれと首をかしげるライフィセット。この時代にも抗生物質は存在しないか。

 

「青カビで出来る薬……らしい」

 

「ええ、青カビで!?そんなの本でも見たこと無いよ」

 

「私もだ。作り方を教えると言って、何だかんだで教えてくれたことは無いが……どうするんだ?」

 

「なにをするにしても素材集めだ。

ライフィセット、見るのは良いが他人に教えるんじゃないぞ?これ、安定して製造出来ない欠点があるから誰にも言うな」

 

「うん、わかった」

 

 本当に頼むぞ。

 電気が当たり前の文明になってからじゃないとペニシリンをはじめとする医薬品や医療技術は発展しない。王政+電気文明なんてやったらこの世界がどうなるかオレにもわからん。バカだから。

 先ずは素材の確保だと青カビが無いかを探す。無いなら無いで酢酸水とかアルカリ液とか水酸化ナトリウムを製造する。

 

「なにやってんの、あんた達?」

 

「あ、ベルベット……な、なんでもないよ!!」

 

 青カビを探しに厨房に行くのだが、ベルベットと遭遇した。

 さっきから色々とうろちょろしているオレ達と一緒にいるライフィセットを気にしたのか声をかけてきて、ライフィセットはビクッと反応する。

 

「なんでもないって」

 

「それよりもベルベットはなにをしているんだ!?」

 

 露骨に話題をそらすアリーシャ。お前等、もう少し演技出来るようになってくれ。息を吐くかの様に嘘をつけとは言わないが、大分酷いぞ。ベルベット、露骨にそらしたなって眉を寄せてるぞ。

 

「掃除……この船、男ばっかのせいか汚いのよ。見なさい」

 

 ベルベットは手に持っていた袋からオレ達が探している物を……腐ったミカンもとい青カビがはえたミカンを取り出す。

 

「青カビだ!」

 

「ええ、そうよ……腐ったミカンが一つでもあったら腐っていないミカンにまで繁殖するわ。彼奴等、その辺のこと理解しているのかしら?」

 

 どうでもよさげに語るベルベットだが、野郎の代わりに掃除をしていてくれている。無愛想だが、根は良い人間……ロクロウもマギルゥもベルベットもなにかしらの事情で船に乗っている。これ、予想以上に重たいものを抱えてそうだ。

 

「ベルベット、そのミカン頂戴!」

 

「こんなの食べたらお腹壊すわ。さっさと海に捨てるか燃やすかで」

 

「そうじゃない、その青カビで薬を作ることが出来るんだ……あ!」

 

「アメッカ、言っちゃダメだって!」

 

「す、すまない……」

 

「この船の奴等には嫌でも知られるから、そこまで気にしていない」

 

 うっかりしすぎだろう。ライフィセットはともかく、アリーシャは此処までポンコツだったろうか?

 

「青カビで薬……聞いたこと無いわよ、そんなの」

 

「僕も聞いたこと無いよ」

 

「私もだ」

 

「安心しろ、オレも作るのはじめてだから」

 

「……」

 

 ベルベット、ゴミを見る目で見ないでくれ。一部の変態には今のベルベットはご褒美だが、オレにそっちの趣味は無い。

 芋の煮汁と米のとぎ汁あるかと聞くとあるらしいので、それを混ぜた物にカビを移して培養する。

 

「海草の煮出し汁と海水を酢をベースとした酸性水を……」

 

 壺とかの器はアホみたいにあるし、簡単に手に入る。

 炎と氷を使って上手く温度や湿度を調節すれば青カビの培養はできる……どちらにせよ陸路を歩く事になるから、道中雑草を拾って、水酸化ナトリウムとかで煮込めば簡単な紙になる。

 

「アルカリ液、植物油、酸性水、紙、活性炭、青カビ、寒天……ブドウ球菌……」

 

「本当にそんなので薬になるのだろうか……」

 

「問題ない。江戸末期でも作れる薬だ」

 

 なんだかんだやっているが、結局のところは仁で出てきた方法でペニシリンを作る。

 その上で粉末化させて飲み薬にしたりして…………。

 

「最終的にアメッカが頑張らないといけないんだったな……」

 

「?」

 

 普通にペニシリンを作ろうとしているのはいいけども、最終的にはこれをアリーシャが覚えないといけない。

 技術を伝えて、今まで治らないと思っていた病気が治ったならばハイランドはローランスよりも優れた技術を持っていることになり、政治的にも有利になる……多分。

 作っておいてなんだが、アリーシャは大変だなと思いながらもオレはライフィセットとアリーシャになにをするかの説明をした。途中からアイゼンも入ってきて、説明を聞いた。

 

「信じられんな……異大陸では既に微生物をどうにかする薬が出来ているのか」

 

 後、すごく今更なんだが微生物の概念があるんだな。

 ペニシリンという言葉はカビの学名なんだぞと教えて話は終わり、飯を作ることに。と言うか作れとの指示があったので、うどんを作ることに。

 

「足で踏んで腰を出すんだ!」

 

 アリーシャ一人に作らせると死者が出そうなので、手伝う。

 数が数なのでアリーシャには足で踏んでうどんを作らせる……衛生管理はちゃんとしているから問題ない。むしろ管理していない方が需要はありそうだが。

 

「おい……汁が薄いぞ」

 

「なに言ってんだ、うどんと言えばこの出汁だろう」

 

 余っていた保存食でトッピングを、米でおにぎりを作り全員に配る。

 

「こんぶを数分間だけ煮込んだ出汁。色は薄いかもしれんがしっかりと旨味がある」

 

「いや、かつおを一時間は煮込んだ出汁の方がうまい」

 

 アイゼンは西の方でなく東の方のうどんが好みだったのかふて腐れる。しかし、ロクロウは西の方だったので喜ぶ。

 

「うどんなんてはじめて作ったが、大丈夫か?」

 

「うん、とっても美味しいよ!」

 

「ワシとしてはさっぱりした冷うどんが良かったんじゃが、まぁ、これはこれでイケるのぅ」

 

「そうか!」

 

 はじめて作ったうどんを誉められて喜ぶアリーシャ。

 よかったな……粉の量とかそう言うのはオレがしたが、捏ねるのはアリーシャがやったからちゃんとした手作り……足作りだな。

 

「いやぁ、かつおの出汁も良いけど、こんぶの出汁も悪くないな。アメッカ料理上手だな」

 

「ああん!!」

 

「ひぃ!?」

 

「ベンウィック、黙っとけ。それ以上その手の会話をすると身を滅ぼす。と言うか出汁とか作ったのオレだからな」

 

 ロクロウとアイゼンは似ていたりする部分はあるが、きのことたけのこの様な関係だから触れないようにするのが一番だ。そんなこんなと言い争っているのを微笑ましくみていると

 

「私になにをした!?」

 

 左腕を化物みたいに変化させたベルベットに体を掴まれた……過去に来てから、踏んだり蹴ったりだな。




スキット 隠し味は心

ベルベット「……」

アリーシャ「……ギリッ」

ベルベット「悪かったわよ……」

アリーシャ「私に謝るのは間違っているゴンベエに謝れ」

ベルベット「……分かったわ」

アリーシャ「……」

ロクロウ「おい、凄い顔になってるぞ」

ライフィセット「アメッカ、落ち着いて!」

アリーシャ「問題ない……ゴンベエが許せばな」

ロクロウ「ゴンベエならきっと許すだろう」

ライフィセット「それよりも、なんでベルベットはあんなことをしたんだろう?」

ロクロウ「やっぱ、あいつも鰹の出汁は嫌だったのか?」

アリーシャ「ロクロウ!」

ロクロウ「冗談だ……材料になにか問題があったのか?」

アイゼン「それはありえんな。彼奴が使った材料はオレ達のだ。海を生きるオレ達が用意した材料の保存はちゃんとしている。うどんのトッピングに使ったものもちゃんと香辛料で保存が効くようにしている。昆布は干した昆布だ」

ライフィセット「それに食べた僕達になんの異常も無かったよ?」

アリーシャ「ベルベットにだけ効くなにかが入っていたのだろうか?」

アイゼン「尋常じゃなく美味いものでも、気絶するほどクソマズい物でもなかった」

ライフィセット「……ベルベットの味覚がおかしいとか?」

ロクロウ「ん、どういうことだ?」

ライフィセット「ベルベット、雪の中でもあの格好で平気だよね?」

ロクロウ「ん、ああ。業魔になると腹もすかんし、暑さも寒さも感じない」

ライフィセット「だったら、ベルベットは味も感じないんじゃないかな?」

アリーシャ「味が感じない……だから、怒ったのか?」

ロクロウ「いや、待て。俺はアイツにリンゴを渡して、食べるのを見たぞ。その反応はおかしい」

アイゼン「なら、逆だ……恐らくだが、アイツは味を感じたからゴンベエにかかった」

ライフィセット「それだとどうしてリンゴの時はなにも感じないんだろう……甘いのだけが感じなくなってるのかな?」

アリーシャ「だが、それだと甘い部分だけ感じずうどんの出汁がおかしくなる……味覚そのものが無いのだろうか?」

アイゼン「真相は闇の中、か……」

ベルベット「……あんた、なにをしたの?」

ゴンベエ「彼奴等の会話、聞こえなかったのか?材料は此処にあったもんだぞ?甘いのを感じれない味覚障害じゃないのか?」

ベルベット「……此処数年まともな食事はしていないわ。けど、食べたのはあの味は昆布をベースとした出汁だった。味覚障害なら、それすらも理解できないわ」

ゴンベエ「まともな食事をしていないか……味覚そのもの崩壊しているのか?」

ベルベット「そうだけど、なに?」

ゴンベエ「いや、原因が分かっただけだ。ベルベットが味を感じたのはオレのせいだよ」

ベルベット「っ、なにをした?」

ゴンベエ「別に特にこれといった事はしていない、左腕を構えるな……自分の分だけじゃないから、ただただ願っただけだ。美味しくなれってな」

ベルベット「ふざけてるの?」

ゴンベエ「ふざけてねえって……でもまぁ、良かったんじゃねえの?美味いものが食べれるようになったんだから」

ベルベット「笑わせないで、あの程度の出汁で美味いなんて思わないわ。私が作った方が美味しいわよ」

ゴンベエ「じゃあ、作ってくれよ……お前がなにを腹に溜め込んでるかは知らんし、基本的に文句は言わねえが関係の無いことで当たるのはやめてくれ。オレだからケロッとしてるけど、アメッカだと流血沙汰だからな」

ベルベット「……大事なのね、アメッカが」

ゴンベエ「まぁ、なにかと世話になってるからな……じゃあ、うどんを楽しみにしてる」

ベルベット「……あんたのも美味かったわよ、それなりにだけど」

ゴンベエ「否定しないつーことは作ってくれるのか……美味しくなれと心を込めた、美味しくなれと願った。だからトライフォースが反応したのか?」

アリーシャ「なにか大変な事が起きている気がする……」

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