テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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恐れず一歩前に進む勇気と怖がり一歩立ち止まる臆病さ

「なんだろうな……」

 

 現代ではローランス皇国の中枢であるペンドラゴがある場所へと向かう私達。

 ゴンベエは離すまいかと私の手を強く握り、引っ張ってくれる……本人は無理矢理歩かせているつもりだが、そんな些細なことでも私には嬉しい。

 

「さっきから、なにを考えている?」

 

うーんうーんと頭を捻るゴンベエを気にするアイゼン

 

「いや、オレ自身が素で気付いていなかったり忘れてたりする事があるようななかったような……」

 

「物忘れしたって、こと?」

 

「ライフィセット、その言葉は痛い」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 なにかを必死になって思い出そうとするゴンベエにライフィセットの言葉が突き刺さる。ゴンベエが物忘れ?……あるだろうか?

 

「忘れていることを忘れていたら、もうボケが始まっている。今のうちに発明品の作り方をメモしておけ」

 

「おう!って、そういう感じのボケじゃねえよ」

 

 アイゼンにノリツッコミを入れるゴンベエ。そういう感じの物忘れじゃないとはどういう意味だ?

 

「オレはオレ自身の力を把握しきれていない。持っている物の使い方も使い道もだ。

凄く分かりやすく言えば、プリンに醤油掛けたら雲丹の味になるが、何故雲丹の味になるかは分かっていないのと同じだ」

 

「プリンに醤油を掛けたら雲丹の味になるの!?」

 

「それっぽくなるだけだ」

 

 なんだか物凄く分かりにくい例えを出すゴンベエ。ライフィセットはプリンに醤油を想像するが、そこは特に気にすることではない。

 ゴンベエの力は与えられたり借りたりしているものらしく、どういう効果なのかどういう時に使うのかゴンベエ自身も分かっていないのが多いらしい。

 

「使い方がよく分からん物もあれば、風のタクトみたいに一度も使ったことのない物がある。例えば」

 

「その話は後にしなさい……検問よ」

 

 ゴンベエがマントを取り出すのだが、此処で話は中断。ベルベットがこの国の衛兵を見つけて立ち止まる。

 ベルベット達が検問で検査を受けると……ダメだ。アイゼンとライフィセット以外はすんなりと終わらない。ロクロウとマギルゥとベルベットには何がなんでも声をかけて調べなければならない。

 

「全員を調べるものじゃない。

堂々と町中に入れば、怪しまれることはない……声をかけられるな。この国は聖寮が発行する通行手形がなければ、旅することすら出来ない」

 

「……普通の人間に業魔を倒すのが難しいとはいえ、やりすぎじゃねえか?」

 

 旅をすることすら制限する聖寮と呼ばれる組織……何故、それほどの組織が後世に語られていないのだろうか?ゴンベエは聖寮の行為がやりすぎだと疑問を持ち、私はどうして現代(いま)にまで伝わっていないのかを疑問視する。

 

「やりすぎなのは今に始まったことじゃない。

船での物資運搬等も聖寮が許可をしなければままならん。船乗りを止めていいのは自然だけで、人間が止めるなんて烏滸がましいにも程がある」

 

「お、海の男らしくてカッコいいな」

 

「らしくじゃない、海の男だ……平然と行け」

 

 アイゼンはポケットに入れている金貨でコイントスをし、私達に忠告を入れてから歩きだす。

 それにつられ、他の面々も歩く。検問をしている兵士の数は少なく、殆どが誰かの検査をしている。ならば、出来る限り検問中の衛兵の後ろを歩けば視界に入らずにすむ。

 声をかけられた時点で終わりな為に手を繋いでいれば怪しまれる。ゴンベエと繋いでいた手を離してゆっくりと歩いていき、衛兵に声を掛けられることなく突破

 

「待て、そこの黒コートの女、手形を見せてもらおう」

 

 出来たのだが、ベルベットが捕まった。

 

「ちょ、おまっ!」

 

「ゴンベエ」

 

「喋るな……つーか、あのアホは……」

 

 使ったことの無いものだと説明しようと出していたマントを一緒に被る。

 こんなところでマントを被ればベルベット以上に人目が……つかない?

 

「ベルベットと一緒に立ち止まるのは悪いことじゃないが、それすれば自分達も調べられるリスクに気付いてねえのか」

 

「それ以前に、密入国だ……どうしてこうなったのだろう……」

 

 普通の人なら気軽にローランスとハイランドを行き来できるが、普通の人でない私は出来ない。お忍びや身分を明かさない時は過去に何度もあったが、密入国なんてしてはいけない事をしなければならないことはなかった。今更ながらどうしてそうなったと感じる。

 

「イカにも!ご覧の通りクセが強い者達が勢揃い……?その名もマギルゥ奇術団と称しまする~♪」

 

 衛兵に捕まったベルベットを上手くフォローするマギルゥだが、一瞬だけ間があった。何かあったのだろうか?

 

「ほれ、兵士様の不信を解くために得意のハトを見せんか!」

 

「……すみません、師匠。仕込みを忘れました」

 

「くそ、凄く面白い状況なのに写し絵の箱が使うことが出来ない!」

 

「な、な、な、なんと!

芸を志す者が仕込みをしておらんとは……」

 

「お、おい、此処でハトを出されても困る」

 

「いいや、勘弁なりませぬ!

お詫びにハトマネをしなければ気がすみませぬ!」

 

「……」

 

「ハ・ト・マ・ネ!」

 

 明らかに嫌がっているベルベットにハトマネを強要するマギルゥ。

 ジロリと威圧するも、やらなければならない空気になってしまいベルベットは仕方なくと手を口に近付ける。

 

「ポッポ……」

 

 顔を真っ赤にしながらもハトマネ?をしたベルベット。

 すると、マギルゥの手が光を放ち何処からともなくハトや紙吹雪を出した。

 

「泣く子も笑うマギルゥ奇術団!此度はローグレスの皆々様に挨拶の一席を参りました~」

 

「こ、こら!ここで宣伝をするな!とっとと散れ」

 

「おおっと、失礼。では、散るかのぅ」

 

 マギルゥが上手く誤魔化したことにより衛兵はさっていく。

 私達が奇術団の一員だという印象を残したお陰で街の人達は怪しむことなく友好的になった。

 

「ははは!中々の手口だな、マギルゥ!」

 

「あんなものは子供だまし、調べられればバレる今回限りのことじゃよ」

 

「……」

 

「おお、怖い怖いポッポ~」

 

 なんとか入れたことを喜ぶロクロウだが、ハトマネはいらなかっただろうと怒るベルベットはマギルゥを睨む。

 

「ハト、凄かった……あれ、そう言えばゴンベエとアメッカは?」

 

「ん……言われてみれば、何時の間にかいなくなってるな」

 

 さっきまでの芸を思いだし笑顔を浮かべるライフィセットは辺りをキョロキョロとする。ロクロウもキョロキョロと私達を探す……?

 

「さっきからずっと此処にいるのだが?」

 

「!?」

 

 ゴンベエと一緒にマントを被っていて、私は一歩も動いていない。

 声を出してもまだ回りをキョロキョロするので、ライフィセットの前に立つと全員が驚いた顔をする。

 

「どうかしたか?」

 

「どうかしたって、お前今、なにもない所から現れたぞ?」

 

 ロクロウにそう言われたので後ろを振り向くとなにもなかった。

 現代と大して変わらないよくみる風景でそこにはゴンベエはおらず、どういうことかと驚くとゴンベエは急に現れる。

 

「ハトマネ、良いものを見せてくれてありがとう、マギルゥ」

 

「うむ、楽しんでくれてなによりじゃ!次はイヌマネもさせてみてはどうじゃ?」

 

「見てみたいわ~……どうした、ベルベット?」

 

「それ、さっき出してたわよね?」

 

 マギルゥにお礼をいうゴンベエの左手には、さっき説明しようとしたが出来なかったマントが握られていた。

 

「ああ、マジックマントと言って姿を消せるマントふぁ……ふぁふぃふぃふぁふぁふ(なにしやがる)

 

「そう言うのは先に出しなさい!!」

 

「あべし!?な、ナイスな一撃……」

 

「ちょうどいいものが手に入ったわね。これさえあれば何処にでも侵入し放題よ」

 

「待て、それはゴンベエの……姿が消えてないぞ?」

 

 ゴンベエに強烈なビンタを叩き込み、マジックマントを奪ったベルベット。

 頭にマントを被るのだが、姿は全く消えておらず普通に赤いマントを被っているだけだった。

 

「あ~いてて、かなりどころか全力でビンタしやがって」

 

「姿が消えないんだけど、どうなってるの?」

 

「被れば誰でも使えるもんじゃねえ。オレの持つ道具の一部は動力が必要で、お前はその動力源を持ってない。アメッカの時はオレが動力を支払って動かしてるから姿を消せた」

 

 起き上がったゴンベエはベルベットに透明にならない理由を説明し、マントを取り返す。

 何時も色々と道具を入れている袋にマントを戻すとベルベットは袋を見る。

 

「……その動力源って、どうすれば手に入れられるの?」

 

「う~ん、妖精に会う?」

 

「ふざけないで」

 

「ふざけるもなにも本当にそうなんだよ……なんも聞かんなら、此方が聞くがベルベットはなにをしに此処に来たんだ?」

 

 マントで姿を消す動力源が手に入れられないと分かれば、ゴンベエに対してなにも聞かないベルベット。

 今度はゴンベエからベルベットに質問をする。アイゼンは船長のアイフリードを探している。ライフィセットはなにかと便利だからと連れてこられた。マギルゥは普通についてきた。ロクロウは誰かを斬りたがっている……ベルベットはなんの為にここに来たのだろうか?

 

「……ある男を、アルトリウス・コールブランドを殺すためにここまで来た。此処にいれば何処にいるのかの情報を……」

 

「成る程。で、具体的には何殺で?何処かに閉じ込めて毒ガス流して一酸化炭素中毒とか一ヶ月間絶海の孤島放置で餓死とか色々とあるぞ?」

 

「……」

 

「ゴンベエ……」

 

 ベルベットが旅をしている理由が、憑魔になった理由がなんとなくだが分かった。

 ベルベットは怒っている……誰かは分からないけど、とても大切な人を失った。失った原因がアルトリウスにある。だから、憎み怒り憑魔へと変貌した。

 

「復讐鬼というやつじゃのう……アメッカは止めはせぬのか?」

 

「……?」

 

 どうしてだろう?マギルゥにそう言われるまで気付かない自分がいた。

 復讐はしても今度は襲われる側になるだけで、誰かが止めなければならない争うことにより次の争いの種を残す半永久的に終わらない。何時もの私ならば止めることをしている。復讐なんてダメだと言っている……なのに何故か言う気になれない。

 頭でも心でも体でも復讐はダメだと分かっている。つい数日前に出会っただけで、物凄く付き合いが長いわけでもなく掛けてはいけない情で動くこともない。

 此処ではアリーシャ・ディフダでなくただのアリーシャ……マオクス=アメッカだから、止めない……と言うわけでもない。

 

「どうし、てだ?殺して復讐なんて間違い……正しくはないはずだ?」

 

「……なにやら厄介な事になっておるのう」

 

 どうしてなにもしないなにも言わないのかが分からなくなり、私は困惑する。

 体調に特に異変は無く、問題ないので立ち止まらず私達は奥へと進んでいくと大きな門の向こう側から声が聞こえる。

 

「「「「ミッドガンド!ミッドガンド!」」」」

 

「そう言えば、さっき式典がどうのこうのって言ってたな」

 

「見事なまでに躾られておるが、喧しいのう」

 

「この様子だと、中に入るのは無理……いや、下手をすれば顔が割れるか」

 

 レディレイクとは……ハイランドとは真逆で、国の人々達から歓声が門の向こうから鳴り響いている。

 大事な式典……恐らく王族や著名人が顔を出す式典かなにかで、今は門の向こうにいくことは出来ないとロクロウ達が足を止めるので私達も足を止める。

 

「王国民よ、ミッドガンド聖導王国第一王子!パーシバル・アスカードである!」

 

「王子が出るレベルでの式典か。

となれば各地の地位や権力もった著名人が一同に集う可能性があるな。お前等の目的も直ぐに果たせればいいが」

 

「ベルベットやロクロウはともかく、オレはそう易々といかん。あくまでも探しているのはアイフリードだ」

 

「いやいや、それをいったら俺もだぞ?

著名人が沢山いるとなれば、斬りたい奴と一対一(サシ)でやれん。他の奴等が介入したり、行くまでの道中に厄介な敵がいる……疲労困憊の状態で斬れるほどあいつは甘くはない」

 

「無駄話してる暇あるなら、何処か登れる所を探しなさい」

 

 ロクロウが斬りたい相手が誰なのか分からないまま、門の向こうの歓声が静まる。

 王子の一言で静かになり、声が聞こえるようになるが姿は見えない。向こう側でなにが起きているのか想像は簡単に出来るが、恐らく私の想像を遥かに越えることが起きている。

 

「十年前の開門の日以来、業魔病と業魔の驚異によって我が国の存亡の危機を迎えていた」

 

「……業魔病?」

 

 何処かに見晴らしのいい場所は無いかと探していると、聞いたことの無い病を語る王子。

 

「あんた、そんなのも知らないの?原因不明で治療不明の病気……異大陸では流行っていない?」

 

「業魔が憑魔で、聖隷が天族だとするならば、私達のところにもある。

薬を飲んだりして治療する病気のようなものではない……精神が病んでいると言われればそうだが」

 

「……アメッカ、お前は業魔病がなにが原因なのか知っているのか?」

 

「ああ、ゴンベエも私も知っている……」

 

 この時代では天族や憑魔を普通の人達が見ることが出来る。

 それならば、普通の人達が急に化物に変わったと驚き病の一種だと勘違いを起こすのは分かる。

 だが、なにかが引っ掛かり、アイゼンは私達が業魔病の正体を知っていることを知ると少しだけ俯く。

 

「なら、言っておく。此処では業魔病は治すことの出来ない病気として扱われている。被害が出ないように仕留めている」

 

「……」

 

 治すことの出来ない病気……現代では浄化の力を使えば、元に戻った。

 1000年前の過去では、治すことの出来ない……ザビーダ様が言っていた浄化の力が無かった時代、それが今になるのか……?

 

「だが、命が朽ち、心が尽き果ててゆかんとする地に奇跡の剣が持ちたつ者が現れた!」

 

「あった!」

 

 見晴らしの良いところを、門の頂上に誰も居ないことに気付くベルベット。

 

「登るのはいいが、流石に襲撃は無謀……なによりも、登れるのか?彼処に誰も居ないのは良いが、王子が出てくるとなると警備は何時もよりも入念に、特に狙撃対策はしてある」

 

「確かそういうときに使うものがある……人数分あったっけか」

 

「誰あろう、アルトリウス・コールブランドである!!」

 

「!」

 

 門の頂上に登るまでの道具を取り出そうとするゴンベエだったが、その前にベルベットは動き出す。

 復讐の相手であるアルトリウス・コールブランド、聞いたことの無い名前だが民衆の誰もが知っているのかアルトリウスコールが鳴り響く。

 

「待て、ベルベット」

 

 先走ったベルベットに鎖付きの錨を飛ばす道具を向けるゴンベエ。ベルベットに命中するとベルベットはゴンベエの手元に引き寄せられていく。

 

「っ、離せ!!」

 

「走るよりも、これ使った方が早く行ける。お前等の分もあるから、使ってくれ」

 

 暴れるベルベットを抑えながら、ゴンベエは門の頂上に向かって錨を発射する。

 錨は頂上の煉瓦に引っ掛かり、今度は先程とは真逆、錨を発射する道具を持っているゴンベエが移動してベルベットと一緒に一瞬で頂上に辿り着いた。

 

「中々に便利な物だな」

 

 ゴンベエが置いていった錨を発射する道具を拾うロクロウ。先程のゴンベエの様に頂上に向かった。

 

「後で他になにがあるのか、聞いてみるか」

 

 後に続くようにアイゼンも使って飛んでいった。

 私達もと続くように頂上に飛んでいくとゴンベエはベルベットを抑えていた。

 

「っ!」

 

「やめとけ、やめとけ。

今ここで襲ったところで勝てんぞ……色々と面倒なのがいるし、なによりも此処で下手に喧嘩を売れば全勢力でアイフリード海賊団+αを潰しに来る」

 

「+αとは、ワシ達のことかの?」

 

「それ以外、何処にいるってんだ……」

 

 必死になって暴れるベルベットを簡単に抑えるゴンベエ。

 アイゼン達も今ここで襲撃するのはまずいと言葉をかけて落ち着かせて一先ずは納得させるが、ベルベットは唇を噛み右手を強く握り血を流す。

 

「アルトリウスの偉業は誰もが知っている!彼は業魔に苦しむ民の救済に全てを捧げた!」

 

「でも、殺した」

 

「五聖主の一柱たるカノヌシを降臨させ、聖隷の力を我等にもたらした!」

 

「でも、殺した!」

 

「ベルベット、血が!」

 

 王子の解説と共にベルベットの拳は強くなり、出てくる血の量もましていく。ライフィセットはそんなベルベットの傷を治そうとするが、ベルベットは拒んだ。

 

「これぐらい、ライフィセットの痛みと比べたら!」

 

「ライ、フィ、セット?」

 

「おい……それは違うだろう」

 

 左腕を変化させてライフィセットを拒んだベルベットを睨むゴンベエ。空気が更に重くなる。

 

「混沌の世に理という希望を与え、今、その希望が絆となり我々を結んでいる!」

 

「でも、お前は……私の大事な物を全部!」

 

「ったく、聞いちゃいねえか……」

 

 ゴンベエの言葉にも心配をしてくれているライフィセットにも耳を傾けないベルベット。

 どうすることも出来ないと一先ずは抑え込み、街の様子を見る。

 

「今、アルトリウスの功績と献身を称え、今此処に災厄を祓い民を導く救世主の名を……導師の称号を授けん」

 

「……導師!?」

 

 この時代に来てから聞いたことのない、この時代では当たり前の用語の数々。

 私が分かるのは精々、アイフリード海賊団ぐらいで他は知らない……天族=聖隷だということは分かるが、それでも私の知っていることと異なることばかり。

 だが、今まさに私が知っている用語が、導師の称号が出てきた。

 

「この国で今まで導師と呼ばれる奴はいたか?」

 

「……恐らく、奴の為に用意された称号だろう」

 

 ゴンベエがさらりと探りをいれるとアイゼンは直ぐに答えてくれた。

 導師アルトリウスは……世界で一番最初に誕生した導師……だが、どうしてそれが後世にまで伝えられていないのだろうか?

 過去に導師が実在していたのはザビーダ様もライラ様もエドナ様も知っている……だが、誰一人として現代(いま)の導師であるスレイ以外の名を口にしない。それどころか、歴史に名が残っていない。

 導師が活躍するのは災厄の時代、その時代には常にバルトロの様な者がいる。スレイの様な事を防ぐために名を残さないのかと考えるも、それだと民衆の心を掴み、スレイと違い国が全面的に支援していて尚且つ一番最初の導師のアルトリウスならば歴史に名を残していてもおかしくはない。

 なのに、その名前を知らない……。

 

「お、出てきたぞ」

 

「ベルベット、暴れるなよ」

 

 ここから見える大きな城から出てくる中年の男性。ベルベットはその男性が出てくると暴れようとするも、抑えられる。

 

「……世界は災厄の痛みに満ちています。なのに、私は皆さんに頼まなければならなかった」

 

 アルトリウスが口を開くと民は口を閉じる。

 導師と言えばスレイが頭に過るが、アルトリウスはスレイとは違い、一般の人がイメージをする様な導師そのものと言える感じだった。

 

「理という苦痛に耐えてくれと、意志という枷で自らを戒めてくれと。

何故なら揺るがぬ理とそれを貫き通す意志、これが災厄を斬り祓う唯一の剣だからです」

 

…………

 

「アメッカ、どうして」

 

「ライフィセット、少し黙ってろ……おもろいことになっとる」

 

 アルトリウスは左腕を掲げ、一度だけ目を閉じて見開く。

 

「今ここにその剣がある!私は誓おう!我が体と命を、全なる民の為に捧げよう!

全ての人に、聖主カノヌシの加護をもたらし災厄なき世に導くことを……世界の痛みは、私が必ず止めてみせる!!」

 

 大観衆の前で宣誓するアルトリウス。

 人々にとってはその言葉はなによりも喜ばしいことで、アルトリウスコールが響く……

 

「導師、アルトリウス……離しなさい」

 

「襲いに行くか?」

 

「……行かないわ……」

 

「分かった」

 

 アルトリウスコールを聞いて、ベルベットは襲撃するのをやめた。今はだが。

 中でなにが起きているのか、ベルベットの復讐相手が誰なのかが分かった。この場所に長居をすれば面倒な事になると、立ち去ろうとするとベルベットは私を見て変な顔をする。

 

「あんた、なに泣いてるのよ?」

 

「……え?」

 

 ベルベットの一言に私は固まった。

 

「アルトリウス様が演説をはじめてから、アメッカは泣き出してたよ?」

 

 ライフィセットがそう言うと私は目元に触れた。ライフィセットの言うとおり、涙は流れておりゴンベエは小さな手鏡を取り出すと私は両目から涙を流していた。

 

「なんで、なんで泣いているんだ私は!?」

 

「いや、俺に言われても……」

 

「今の演説に感動して涙を流したのではないのか?」

 

「感動もなにも、そんなものは……あれ?……」

 

 導師アルトリウスの演説は凄まじかった。

 言葉の一つ一つに重さとなにがなんでも成し遂げてみせるという揺るぎない信念が籠っており、災厄の時代をどうにかしようとする意志を感じた。

 何時もならば素晴らしいと称賛する、私もその手伝いをしたい、災厄なき穢れなき世界を見てみたいと言う……なのに、なのに

 

「なにも、思わない?」

 

 アルトリウスの演説に対して、私は素晴らしいと思わなかった。

 私が絶望の未来からやって来たから?今はアイフリード海賊団と共にしているから?……どれもこれも違う。

 

「よかったな、アメッカ」

 

「ゴンベエ?」

 

「……お前、今、疑う心を持った」

 

「疑う、心?」

 

 私の肩に手を置いたゴンベエは冷たい声で耳元に語りかける。

 

「あのおっさんからは揺るぎない信念や意志を感じる。

だが、ハッキリとした形を持っていない……頑張れば努力すればは形ではないのと同じように、あのおっさんが語ったことには具体性を感じない」

 

「!」

 

 ゴンベエが語ったことで私は理解した。

 アルトリウスの演説は信念や意志を貫き通してみせると言ったものであり、具体的になにをするのかをなに一つ言っていない。聖隷と共に国を潤すわけでも、未知なる大陸を調査させるわけでもない。

 

「オレ達はバカでも分かる形を見たい、想像したいんだ。

恐らくだがアルトリウスはスレイの何百倍も身も心も強い……だが、なにをするのかを言っていない。

オレ達は此処に来る前に形があるものを見ようとして、何度も何度も何度も何度も何度も何度も失敗に終わっただろう」

 

「……そうだったね」

 

 綺麗な言葉で隠そうとしているが、具体的にはなにをするのかをアルトリウスは言っていなかった。

 なんでどうしてそうなったと知りたいから過去にやって来た私達だが、過去にやって来る理由が誕生したのは形を見ることも想像することも出来なかったからだ。

 

「すまない、驚かせてしまって。急いでここから離れよう」

 

 驚いたり心配したりしている皆に謝り、私達は下に降りていく。

 

「どうして、泣いてたの?何処か怪我をしたの?」

 

「ライフィセット、私が涙を流した理由は口で説明するのは難しい……いや、簡単なのかもしれない」

 

「……どっちなの?」

 

「それは私にもわからない」

 

 現代での自分と変わってしまったから、私は涙を流した。

 人を信じたり思いやる心とは別に、人を疑ったり具体性を求める心が生まれた。だから、涙を流した。

 変わってしまった自分を感じ、不思議と気分はよかった。

 

「思いやり、優しさ、友情、使命感、どれもこれも素晴らしいものだ。

だが、それだけでどうにかなるほど甘くはない。それだけを極めれば良いだけじゃない。

太陰太極図に描かれているように陰も大事なんだよ。人を疑ったりする心は大事で、理なんて面倒な事を言ってそれなりの正義を振りかざしてる奴に、なろう系とは違う転生者(オレみたい)なのに影響された奴の心には響かねえよ」




スキット 心霊ライフィセット

ゴンベエ「いやぁ、さっきのは面白かった」

ライフィセット「ハト、凄かったね」

ゴンベエ「そっちもだが、ベルベットとマギルゥのやり取りだ。ハ・ト・マ・ネと一つの言葉に威圧感を感じ、その後の恥ずかしがりながらのポッポ~、尊いとはあの姿の事をいうんだ」

ライフィセット「尊い?」

ベルベット「あんた、まだ言うの?」

マギルゥ「そう怒るでない。ワシ等の芸を褒めてくれとるじゃからのう」

ゴンベエ「そうそう……カメラに納めとけばよかったな」

ライフィセット「カメラ?」

ゴンベエ「ここ来る前に言った写し絵の箱だ、ベルベット、マギルゥ、チーズ」

マギルゥ ベルベット 「!?」

ライフィセット「箱が光った!?」

ゴンベエ「そういう風に出来てるんだ。だが、驚くのはまだ早い……ここをこうしてこうやってっと、はい、写真完成」

マギルゥ「おぉ、ワシ達がクッキリハッキリと写っておるではないか!?」

ベルベット「あんた、なにをやったの?」

ゴンベエ「暗い部屋に壁や板戸の小さな穴から光が入ると、反対側の壁に外の景色が写るのを利用した」

ベルベット「……もう一度言って」

ゴンベエ「暗い部屋に壁や板戸の小さな穴から光が入ると、反対側の壁に外の景色が写る小穴投影を応用しているんだよ」

マギルゥ「うむ、さっきと若干違うこと以外、さっぱりと分からん」

ライフィセット「でも、スゴいよ。一瞬でこんなのが出来るだなんて」

ゴンベエ「スゴいっつーか、これのお陰で、色々と便利になったからな。図鑑とか絵じゃなくて実物を色付きで載せれたりするんだから。硫黄があれば、カメラの劣化品を作れて貸せるんだが……何枚か写真を撮っとくか」

マギルゥ「では、風景をバックにワシ等を思う存分撮るが良いぞ!」

ゴンベエ「いいぞ。ライフィセットもベルベットも並べ並べ」

ベルベット「なんで私まで」

ライフィセット「ダメ、かな?」

ベルベット「……時間が無いから早くしてよね」

ゴンベエ「……はい、チーズ」

ライフィセット「チーズ?」

ゴンベエ「何故かは知らないが、これを言うのが伝統なんだ。次は個人写真撮るぞ。誰から行く?」

ベルベット「私はパスよ」

ゴンベエ「そう言うな……ババアになった頃にあの頃はって思い出せるぞ」

ベルベット「そこまで長生きするつもりはないわ……アルトリウスさえ殺れればって、なに撮ってるのよ?」

ゴンベエ「美人のそう言う顔も面白いんだよ」

マギルゥ「ほぅ、中々にキザったらしい事を言うのー。アメッカが聞くとカンカンになるぞ」

ゴンベエ「キザったらしい事じゃなくて、事実だ。お前等を含めて知り合いに美男美女腐った人向けの奴等率が圧倒的に多い……故に美女とかイケメソとかいうのもう面倒くさい。褒め方ひとつでセクハラになる時代になるから褒めない」

マギルゥ「何気に最悪じゃの」

ゴンベエ「と、んな不毛な会話をしている内に写真ができ……あれ?」

ベルベット「どうかしたの?」

ゴンベエ「……これ」

ライフィセット「右にベルベット、左にマギルゥ、真ん中に真っ白くてボヤけた人型のなにか……もしかして、これ僕なの!?」

ベルベット「そう、なるわね……」

ゴンベエ「うん……アメッカと風景以外撮った事なかったからこうなるとは思わなかった……肉眼で見えているが、霊的な存在で鏡にも写らない。だが、実在しているから空間になんらかの影響を及ぼしているからこうなった。ざっくりと言えば心霊写真だな」

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