「……あ、あれだあれ」
酒場に向かい、一つ目の報告を終えたオレ達。
馬車を襲撃しようとする奴等の撃退はまだ出来ないようで、もう一つの依頼である行方不明となった学者を探すべく最後に姿を目撃されたガリス湖道に向かうことに。
マギルゥはあのビエンフーという聖隷をどうにかしてお仕置きするからと、どっか行った。なんでも契約してたのに、逃げたらしい。
「どうしたの?」
「思い出したんだよ、これがなんなのか」
ベルベットが先を急ぐせいで一個しか手に入れる事の出来なかった赤箱の積み荷こと液体が入った瓶。
アリーシャとオレはこれを何処かで見たことがあるのだが思い出せずにいたのだが、オレはやっと思い出せた。肝心なアリーシャのパワーアップは忘れたまんまだがな。
「おぉ、そうか……で、なんなんだそれ?」
「エリクシールだ」
「なに!?」
「そうか、通りで見たことがあったんだ!」
エリクシールの名前を出すと驚くアイゼンと思い出すアリーシャ。
アリーシャも思い出したか、これがなんなのかを。
「そのエリクシールって、なに?」
「あらゆる病や怪我を治す薬で、製法は分からない。
けど、色々な本に製法は記されてないけど書かれている幻の薬……」
「製法が記されていないなら、なんであんなに大量にあったんだ?」
「たった一つでも売れば億万長者で、聖寮も国もオレ達海賊も欲しがるものだ」
「あ~説明不足で悪いが、オレとアメッカが見たのはエリクシールと偽って売ってた飲み物だ」
色々と考えるアイゼン達には悪いが、オレが見たのは本物じゃない、偽物のエリクシールだ。
「ハイランドで病に犯されている村に偶然に立ち寄った際に、これと同じものを売ろうとしている偽のどう……対魔士がいた。
幸いにも悪さをする前にゴンベエが追い払ったが、薬をエリクシールと言っていて中身は大きく異なるもので……少なくともどんな病気も治せるといった物ではなかった」
ザビーダと出会い、色々と話をする前にいた偽の導師が売り捌こうとしていた偽のエリクシール。
中に入っている液体といい、容器といい、そっくりで恐らくは使われている原材料も同じなんだろうが……エリクシールなんか胡散臭いし偽物で過去に行くし興味は無いと頭の中から消していた。
「それがなんだっていいわ」
「ベルベット、もう少し他の事に興味を持てよ」
アルトリウスとの間になにがあったかは察することは出来るが、あえて詳しいことはオレ達は聞いていない。
老婦人がさらりととんでもないことを言っていたが、聞かなかったことだと都合よく頭の中から消してはいるが、ベルベット、もう少し視野を広げろ。
「偽のエリクシールとアルトリウスの復讐とどう繋がるっていうの?」
「……汚職事件とか?
ただただぶっ殺せば人々にとってアルトリウス様を殺すなんてよくもと思うだろうし、神格化される。だから、今の間に色々と奴の汚職を調べあげて殺した後にバラして、アルトリウスのクソがぁ!と世間から蔑まれて死後も魂が報われない様にする。彼奴、絶対に見えないところで汚職してたり、汚職させた仲間を切り捨てたりしてるぞ」
「陰湿すぎる……」
オレの手口に若干引くアリーシャだが、これぐらいはまだ優しいし悪党がしているから良いんだよ。
ヤンデレとかなら主人公と別のヒロインを消して、互いの心にも思い出にも残らない様にするんだぞ。
「成る程、その手もあったわね……」
「殺して復讐は良いかもしんねえが、それだとそこで終わる。
本当なら村八分にして精神的に追い詰めて自殺させるのが良いかもしんねえけど、それは無理っぽいが少しずつ反アルトリウス勢力を作り出した方がいい」
「それで、その薬はなにで出来ているの?」
アルトリウスを出すと思いの外、乗ってきたベルベット。
こいつ割とチョロいんじゃないかと思いながら、極細の試験管に偽のエリクシール(仮)入れて中身を確認するがこの状態だとただの液体で中に含まれている物が分からない。
「遠心分離機に掛けないと分からねえな」
「遠心分離機?」
「あれだ、蜂蜜とかチーズ作る際にグルグルと回すやつだ」
「ああ、アレね……そんなもの、何処にも無いわよ」
「問題ない」
そもそもで遠心分離機なんて持ってきてない、現地の材料があれば簡単に作ることが出来る。
紐と厚紙を取り出して素早く工作を……極細の試験管を挟んだぶんぶんごまを完成させる。
「……なに作ってるのよ」
「こう言うのが意外と役に立つんだよ」
ぶんぶんごまを何度か回してから紐を思いっきり引っ張る。
すると音を鳴らしながらコマは物凄い早さで何度も何度も回転していき、数分間ずっとずっと回しっぱなしにした。
「やっぱり、ロクでもない物だな」
「おぉ、さっきまで普通だった液体が何層かに分かれている!」
遠心力により中身が分離した液体をみて、ロクロウは驚くがまだ此処で終わらない。
一番底に沈んでいる赤い粉について調べなければなにも始まらないと顕微鏡を取り出して中身を確認するが、分からない。
転生特典で大抵の事が分かる知識を貰っているのになにもわからないとなれば、考えられるのは元の世界にはなくてこの世界には存在するもの。
「なにか分かった?」
「オレの知らない素材が含まれているのが分かった」
「……時間を無駄にしたわ、いくわよ」
「ああ、すまんな」
こう、マリファナとか脱法ハーブとかコカインとか阿片とかが出てくるのかと思ったが、この世界の物が出てくるのはお手上げだ。薬の成分がなんなのか分からないまま、ガリス湖道を歩むオレ達。道中、此処等の業魔とは文字通りレベルが違う奴を見かける。
「デラボン」
そしてデラックスボンバーで一撃で倒す……そう言えば、此処に来てから穢れの浄化がされていないな。
何時もならば浄化がされている筈なのにされていない。穢れで負の感情で業魔になると知られておらず、病気扱いなら浄化の力が無い時代だから強制的に制御されているのか?背中のマスターソードなら、浄化出来そうなんだがな……。
「今のって?」
「甲種警戒業魔だが、一撃で倒したな……」
「できたら、戦いたかったんだがな……」
「あ、悪い」
ああいうのを放置していれば面倒な事になるとデラボンを放ったが、ロクロウ達は戦いたがっていた。
ロクロウ達は最終的にアルトリウスをはじめとする聖寮の奴等と戦うことになるので、力をつけないといけない。ロクロウが狙っている奴は今の業魔を一太刀で倒せるらしく、ライフィセットが知る限りは結構いるらしい。
聖寮のトップを倒すには自分達も力をためないといけないとなり今度からは全員でシバき倒す事となった。
「……痕跡も残されていない、か……」
行方不明になった学者が最後に目撃された場所に辿り着くも、痕跡は残っていない。
アリーシャは行方不明になった学者を心配している……どうして行方不明になったのかは分からないが、何となくだがアリーシャも答えが見えている。この三つの依頼が繋がっているのを。
居なくなった場所以外は手掛かりもなにもない。此処にいるのは戦うことに特化している奴等であり、探偵でもメンタリストでもない。これはもうお手上げだなと思っているとベルベットはなにかを思い出す。
「ゴンベエ、あんた、狼になれたわよね?あれって姿が変わるだけなの?」
「一応は狼になる……ああ、そういうことか」
ベルベットがなにを言いたいのかを理解し、オレは狼の姿になる。
「あんたがしたこと、無駄じゃなかったわ」
赤箱の積み荷の破壊と行方不明の学者の依頼は繋がっている事に気づいたようで、分離した偽のエリクシールをオレに嗅がせる。
目に見える物的証拠は無いが、目には見えない証拠はある。
「ワン!」
偽のエリクシールの決め手となる赤い粉と同じ匂いが直ぐ近くにある。
距離はそんなに遠くない……人の匂いもする。大分前に誰かが歩いた痕跡も残っている。
「分かったのね?」
ベルベットの問い掛けにオレはコクりと頷く。
匂いがする場所までの道案内をしようとするが、オレは立ち止まりアリーシャの前で屈む。
「ゴンベエ?」
「グゥルオウ!!」
「……もしかして、乗れって言ってるの?」
道案内をせずに吠えるオレに戸惑うアリーシャ。ライフィセットがなにを言いたいのか察してくれた。
アリーシャのフォローもアリーシャが入れないといけないフォローもオレが入れると言った。狼の姿はなにかと不便で上手くフォローが出来ないので乗って貰うことにした。
「ゴンベエに乗るのは、あの時以来だ……」
ベルベット達に合わせて歩いていると、現代での出来事を思い出すアリーシャ。
前に乗せた時は急いで家に帰る時で、全速力で走っていたな……過去に行くのは分かっていたが、後世にまで名を残す海賊達に厄介になるとは思いもしなかった。
「あの頃より、私は変われたのだろうか?」
「……」
オレが道案内する為に必然的にアリーシャも一番前にいる。
ベルベット達に聞こえない様に小さく呟く。
「港で会ったエレノアは理想の私だが……どうしても憧れやあの人の様にと思えなかった。
自分自身が変わりだしているのは自覚している。そうじゃないとどうすることもできない世界が今目の前にあるのを今、学んでいる……同情して哀れんでいるのだろうか?」
知ってて得する知らないと別に損しないことを知り、今の自分が分からなくなっているアリーシャ。
この質問にオレはなにも答えない。こういう時こそ悩んで悩んで一つの答えに辿り着く事が大事だと思う。切っ掛けは既に与えているから、後は歩くだけだ。
それよりも問題はベルベットの方だな。アルトリウスの復讐だけに固執していて、それ以外に意識を向けていない。アルトリウスがやったことは、ベルベットが憎んでいることは大体の予想がつくが、何故そんな事をしたのかを知らないといけない。
人々が業魔に苦しめられているのならば、元に戻せないなら殺るしかない。それをするのが対魔士ならばああだこうだ言わない。街に出没する熊が危険だから殺すのと同じだから。
天族が見える様になって憑魔がハッキリと見えるようになったのならば、例え浄化の力が無くてもやれることは幾らでもある。ロクでもない事をしてるんだろう。
「何者だ!!」
「人探しをしている」
「アメッカ、言っちゃダメだよ!」
「だが、正直に話した方が」
「お前達、まさか!?」
アリーシャの悩みや愚痴に付き合っていると、匂いが強いところに辿り着く。
そこには傭兵らしき二人がたっており、アリーシャが行方不明の学者について聞くと剣を構えて体から光る玉を……聖隷を出した。
「こいつら、ただの傭兵じゃねえ!」
襲い掛かるラミア型の聖隷と傭兵達。
アイゼンはラミア型の聖隷を殴り飛ばし、傭兵達が敵だと見抜き、ベルベット達は武器を構える。アリーシャに天響術がとんでくると危険なので、直ぐに身を引く。
傭兵達は尋常じゃないほどに強いというわけでもなく、マーリンドで出会ったルーカスよりも弱く聖隷達もそこまでなのであっという間に撃退した。
「コイツら、誰を見張ってたんだ?」
「……迷子の誰かさんでしょ……ゴンベエ」
「もう目と鼻の先だ、案内はいらねえよ」
傭兵達を倒したので、ベルベット達のところに戻ろうとするとベルベットに呼び出されるが薬に入っていた赤い粉の匂いは本当に近く、もう狼の姿にならなくていい。
元の姿になり、こっちだと歩いているとくたびれた死んだ目の七人の男性がいた。
「大丈夫ですか!!」
「っ、あんた達は?」
男性達の顔を見て、ロクでもない事が起きていたと察したアリーシャは声を出す。
男性達はビクりと怯えるのだが、アリーシャはよかったとホッと一息つく。
「メンディって人はいる?迎えにきたわ」
「助かった……やっと帰れる……」
大きな石を背もたれにしている眼鏡の男性が死にかけの声で立ち上がろうとするが、足がふらついておりコケそうになるがアリーシャが肩を貸す。
「こんなに窶れるまで、いったいなにをしていた?」
「アレを」
「そうか、あの赤い粉は赤精鉱か……赤精鉱を掘らされていたのか」
眼鏡もといメンディが背もたれにしている石からはえている赤い石を指差し、アイゼンはこの石を見て驚く。石から赤い石がはえている……普通の石になんらかの手を加えて、この赤い石を作っていたのか。
「ああ。これの精製法を発見したせいで酷い目にあった」
「セキセイコウ……この石、そんなに珍しいのか?」
「あ、ロクロウ、ついでだから細かく砕いてくれ」
「おう!」
赤精鉱と言われても特にピンと来ないロクロウは、手のひらに置ける大きさの赤い石を持ったのでついでだからと粉末状にしてもらうべく、ハンマーを渡す。
偽エリクシールの中に含まれている赤い粉だろうが、万が一があるから調べておく。なにかに使えそうならば、何個か持っていきたい。
「大地の栄養が結晶した珍しい石
薬になるけど、毒があって扱うのが難しい」
「正解だ」
「つまり、あんたは薬を作っていたのね」
オレ達が検査している中、なにを作っているのか聞くベルベット達。
毒にもなる薬……いや、大抵の薬の材料は毒にもなるか。ペニシリンなんて元は青カビだからおかしくはない。
「ああ、
「滋養薬を作るだけで、どうしてこんなところに閉じ込められていた?」
「赤聖水の原料である赤精鉱は強い常習性がある」
「ああ、そうだ……だから、断ったけど脅されて」
「成る程な……赤箱に入っていた液体の赤い粉はこの赤精鉱だ。このサイズで箱があの数だから……千は越えるな」
顕微鏡で赤精鉱を覗きながら、破壊した赤い箱に入っていた数を言う。
大体の予想で越えるだけであり、どれぐらいの数があるか正確に言ってはいないがそれでも千は越えている。
「アイゼン、これ何本で中毒患者になる?いや、そもそもでこれは国ではどういう扱いをしているんだ?」
「国が色々と制限をかけている。
今までは数自体が少なくて天然物しかなかったから、独占や量産はできなかった。だが、確かな精製方法が確立されたとするならば……悪いが、何本で中毒症状かは知らん」
「あの婆さんに買う……いや、たこつくな」
ハッキリとした全貌は見えないものの、うっすらと見える闇の一端。
中毒性の高い薬を教会が持っている……日本でも昔は煙草は健康にいいものとか阿片や大麻は薬とかそういう時代があった。おかしくもなんともない……とは言いがたいな。
「おっさん、これに中毒性があるのは割と有名なのか?」
「あ、ああ……普通に本に載っているぐらいだ」
「大丈夫なのか、この国は!?」
中毒性が高いんだったら、それが分かっているんだったら法律レベルで規制する。
考えようによっては吸わなければ問題ない、吸っているだけで周りに害になる煙草よりましかもしれないが、所持しているだけで無期懲役とか終身刑とかにするぐらいの事をしておかないとダメだろう。
「大丈夫じゃないから、非合法な仕事なんでしょ」
「……その話を聞く限り、赤聖水は大分……」
「かなり出回ってしまっている……すまない、遅れてしまって」
「いや、謝るのは此方だ。
赤精鉱の精製法を見つけたと喜んだのはいいが、こんな技術はあっちゃいけない……今回の件で下手に技術を見せびらかさない方が良いってわかったよ」
「うん、それに関してはオレも同感だ。オレなんて、アメッカの国から色々と狙われて泥棒に入られかけたこともあったぞ」
「お前も、なにかしたのか?」
「色々と、な……アメッカのお陰で首の皮一枚繋がっている」
アリーシャは助けるのが遅れたことを謝り、メンディも謝る。
優れた技術は時には色々なものを滅ぼしたり、犯罪に手を染めさせたり、社会のあり方を変えてしまったりする。
もしアメッカ以外に、それこそアイゼン達みたいに一応の線を引いていない腹黒い奴等に技術をポロっと言ってしまったのなら、こうなっていた……いや、違うか。
「今回は運が良かったと思っていた方がいい。
毒にしかならない薬を売っているだけで、社会を変える程の発明じゃない……思い出しただけで、胃が痛むな」
「薬ならあるわよ」
「いらねえよ」
赤聖水を指差すベルベットだが、皮肉にすらなっていない。
誰からの依頼と足がつくとややこしいので、メンディには一人で帰ってもらうことに。
「社会を変える程の発明って、そんなスゴいものがあるの?」
「ノーコメント」
フロルの風で王都に戻り、酒場に報告したオレ達。
ライフィセットはオレがチラッと言った発言が気になるようだが、はいそうですかと教えられない。
「……アレは凄かった」
だが、アリーシャは語った。
「お前な……いや、まぁ、コイツらなら問題ないけども」
少なくとも、赤聖水を量産してばらまいて金儲けをしようとしているクソッタレは此処にはいない。
アリーシャは目を閉じて、数回だけ見た大地の汽笛を思い出す。
「アレがあれば、同じものを作れない国に対して一気に優位に立てる。
ヤカンとストーブがあれば大量生産も可能で、恐らくは今までの国のあり方や考え方までも変わる」
「そんなに、スゴいの?」
「凄くざっくりと言えば、馬なしで走る馬車だと思えばいい……」
「馬の代わりがヤカンとストーブか……どうやって走る?」
「言うわけねえだろう」
それを隠すためにアリーシャと一緒に旅だったんだぞ。
蒸気機関に関してなにも教えないと聞こえるレベルの舌打ちをハッキリとするアイゼン。お前は天族だから、千年後の現代でも普通に生きているだろ。現代に戻って会うことが出来れば、マスターバイク零式に乗せるぐらいはしてやるよ。
「ゴンベエ、偽のエリクシールと赤聖水は一緒だ……その」
「問題ねえよ……帰りは一瞬で帰れて、数分間の出来事になる」
偽のエリクシールの正体はオレでも見過ごせないかなり危険なものだと判明した。
此処で赤聖水を売り捌いている奴をシバき倒したとしても、現代で売り捌いている奴になんの関係もない、歴史が変わって売っていないとかにならず、普通に売り捌いている……と思う。タイムスリップ系は4パターンあるから、どうなるかはオレにも分からん。
アリーシャは現代の事を心配しているが、時のオカリナで現代に帰ると過去に行こうと時の逆さ歌を吹いた数分後の時間に戻るだけで、中身が分かっているからお手軽遠心分離機とかで危険な薬だという証明が出来て流出を防ぐことが出来る。
「そうか……よかった」
「よくねえと思うぞ」
過去は犯人の目処がついているが、現代は誰がどうさばいているのか分かっていない。
「そういや、三つ目の依頼の王国医療団ってなんだ?」
「名前から大体わかんだろう」
残すところは三つ目の依頼の襲撃者の排除で、襲撃者が襲撃しようとしている相手を気にするロクロウ。
名前からして国の医療機関かなんかだろう。
「王国医療団はあちこちで診察と治療をする、動く病院」
「民間の寄付で活動している慈善団体の筈だ……が」
「これが関係してるってことか」
「ロクロウ、何故持っているんだ!?」
さっきの赤精鉱の採掘場からパクってきた赤聖水を取り出したので驚くアリーシャ。
なにかの役に立つかもしれんからとパクってきたらしく、ロクロウは懐にしまった……ん?
「王国医療団、なんだよな?」
「ええ、そう書いてあるわ」
民間からの金で動いている、王国の名前がつく医療団体か。
病院とかは公的と私的、両方がいける数少ない職業で……民間の寄付で活動している王国と名のつく慈善団体、胡散臭いというかなんというか……。
「今、なにか音がしたわね」
闇の深さについて考えながらダーナ街道を歩いていると、変な音が聞こえた。
荷物かなにかが崩れ落ちていったり、馬の鳴き声が混ざりあった音でベルベットは音が聞こえた方向を睨む。
「行くわよ」
「おう!」
ベルベットは音が聞こえた方へと走っていき、ロクロウが追いかけてオレ達も追いかける。
音がした方向は割と近く、辿り着くと赤いバンダナをつけている目付きが悪く……穢れを発している数名の男性と倒れている荷車と赤い箱があった。
「邪魔をするな……それは……俺たちが喰らう!!」
現れたオレ達を見ると熊だかゴリラだかよくわからん憑魔に変貌する男性達。
「それを寄越せぇ!!」
「箱の中は赤聖水、か。この憑魔達は……その……」
「完全にラリって欲望に負けた成れの果てだな」
赤い箱に向かって突撃する憑魔。
アリーシャは赤い箱に亀裂を入れて中身を確認すると赤聖水が入っており、何故奴等が憑魔になったのか理解した。
常習性、つまり中毒性がある薬を飲み続けて依存した奴等だ。ニコチン切れて煙草を吸うに吸えない奴が物凄く苛立って八つ当たりしたり凶暴化したりする奴等を更に酷くした感じだな。
「救えない、だろうか?」
「救うってなにに対してどうやってだ?」
「その剣なら、浄化を」
「可能だが、それだけじゃ救えないぞ」
トライフォースとは別に退魔の力が宿るマスターソードならこの時代に来てから出来なくなっている浄化をすることが出来るだろうが、あくまでも人間に戻すだけでそれ以上もそれ以下でもない。
「薬物依存症は心と脳ミソ両方に異常をきたしていて、治っているように見えてもほんの少しの切っ掛けかあれば、どっぷりと浸かって再発する。
治すにしてもちゃんとした医療機関を作って隔離するぐらいの事をした上で人間的環境を変えねえと薬物依存症はどうにもならねえ。中毒性のある薬物を飲んだあいつらが悪いのか、それともそれを売っている医療機関が悪いのかは不明だがな」
憑魔を浄化する力がないこの時代。
人々に危害を与える前に殺すのが当たり前で、それをするのが対魔士。浄化の力が無いならばとある程度は妥協している部分もあるアリーシャだが、オレなら救えるんじゃと期待している。
だが、薬物中毒患者を救うなんて知識はあったとしても、したくない。一個人が薬物中毒の奴を救える訳ねえだろ、行政機関とかいるぞ。
「終わったわよ」
「奪おうとした赤い箱の中身は赤聖水だ。恐らくだが常習性がある薬を飲み続け依存し、性格が狂暴となり憑魔となった」
「そう……これで三つの依頼はこなしたわ、ゴンベエ」
「分かってるが、箱を壊させてくれ……そういや、医療団は?」
「逃げていったみたいだ」
「そうか」
赤い箱を燃やしながら、オレは医療団が何処にいるのか辺りを見回すとアイゼンが教えてくれる。
もし居たら捕まえて箱の中身はなんだと自白させてやろうと思ったんだが、逃げちまったら探すのは難しい。フロルの風を使い、オレ達は王都へと戻った。
スキット 怪しくも羨ましい実験
ライフィセット「……小麦粉だ」
アリーシャ「どうしたんだ、小麦粉を舐めて?お腹がすいたのなら、クッキーが」
ライフィセット「ううん、違うよ。味がしないって、どんな感じなのかなって」
アリーシャ「味が、しない?」
ライフィセット「ベルベットは食べ物の味が分からない、それって凄く辛い事だと思うんだ」
アリーシャ「そうだな……食事は心も体も両方を癒す事が出来る数少ない事で、睡眠と同じで絶対にしなければならないことだ。味が分からないのは辛い」
ライフィセット「うん……僕も、最近やっと味が分かるように、ご飯を食べて美味しいって感じることが出来た。ベルベットは業魔だけど、業魔になる前は人間だった。同じ業魔のロクロウは心水とイモケンピが好きだって、アイゼンも心水が好きだって、ゴンベエは味噌汁が好きだって……人間も業魔も聖隷も好きなものがあって、その好きなものを食べて美味しいって気持ちを知ってたのに、無くなったら辛い……きっととっても」
ベルベット「辛いなんて、今にはじまったことじゃないわ……失ったのが味覚だけだったら、どれだけよかったか」
ゴンベエ「ベルベット、憎悪を持ったとしてもライフィセットに当たんな。余計な御世話かもしれないが、お前を純粋に心配しているんだ」
ベルベット「……それで?」
アリーシャ「それでって」
ベルベット「私の味覚がなくなって、あんた達は同情しているだけでしょ?」
アリーシャ「そんな事はない!」
ベルベット「じゃあ、なにかあるの?私の味覚を取り戻す方法……自分達も味覚が無い状態にするなんて傷の舐めあいなんてごめんよ」
ゴンベエ「思いの外乗り気だな。けどまぁ、料理とかがまずいとかじゃなくて、ベルベット自体に原因があるからな」
アリーシャ「浄化」
ゴンベエ「それはダメだ、と言うかしたとしても無駄だろう。鼬ごっこだ」
アリーシャ「それ以外に、方法は……思い付かない。ゴンベエは?」
ゴンベエ「あ~……此処とは違う世界にある新しい味覚や古い原始的な味覚を呼び起こす魚が存在してるぐらいしか知らねえよ」
アリーシャ「違う世界……異世界!?異世界には、そんな魚が存在するのか!?」
ゴンベエ「けど、何時現れるか分からねえし、そもそもであれは調理に60万年かかるからな」
ライフィセット「60万年……聖隷なら生きれるかな?」
ベルベット「知らないし、そんなに待つつもりは無いわよ」
ゴンベエ「安心しろ、異世界に行く技も持っていないからその魚は絶対に手に入らない」
ベルベット「だったら、出さないでよ」
アリーシャ「そういえば、うどんを食べた時は驚いていたが味はしたのか?」
ベルベット「したわよ。なんでしたのか、こいつに聞いてもロクな答えを言わなかったわ」
ゴンベエ「一応、ちゃんと言っているつもりだが?」
ライフィセット「他には、他には味がした時があった?」
ベルベット「……確か、パンを口に入れられた時に味がしたわ」
ライフィセット「小麦粉なら味がする、のかな?」
アリーシャ「いや、違う。ベルベット、パンを口に入れたのではなく入れられたのだろう?」
ベルベット「ええ、そうよ。無理矢理こいつに突っ込まれたわ」
ライフィセット「両方とも、ゴンベエが関係してる……でも、両方とも小麦粉を使ってる……」
アリーシャ「分からないなら、検証してみればいい。きっかけやヒントはある。何度も何度も調べればきっとベルベットの味覚も」
ライフィセット「うん……ゴンベエも手伝ってくれる?」
ゴンベエ「構わねえけど……」
ベルベット「好きにしなさい」
ゴンベエ「ベルベットが許可くれればと思ったが、よかった……で、具体的にはなにするんだ?」
ライフィセット「えっと……アメッカの持っているクッキーを食べさせる?」
アリーシャ「よし、先ずはそれを」
ゴンベエ「そういう実験をする時は先ずはメモしろ、クッキーに含まれている成分とか時間帯とかベルベットの体調とか作った人とかそういうのを書いてからだ」
ライフィセット「あ、うん……」
アリーシャ「このクッキーを作ったのは私で材料は小麦粉、有塩バター、水、卵、砂糖で特に変わった材料は使ってはいない……珍しく失敗しなかったクッキーだ……」
ゴンベエ「機械のオーブン無いから、焦がす焦がさないはあるだろうが生地の配分を間違えるってなんなんだろうな……」
ライフィセット「?……ベルベット、体調は?」
ベルベット「別に、普通よ」
ライフィセット「普通っと……これで良いの?」
ゴンベエ「まぁ、大体そんなので良い……じゃあ、先ずは一枚目から」
ベルベット「ん……なにも感じないわ」
ライフィセット「えっと、一枚目は特になにも感じない……次はどうするの?」
ゴンベエ「そこにベルベットが食べたからって、書いておけ。二枚目は……ライフィセットが食べさせるんだ」
ライフィセット「僕が?」
ゴンベエ「ベルベットが味を感じたのはオレが作ったうどんとパンだけで、此処から考えられるのは小麦粉の味だけは分かるかもしれないで、クッキーが味をしなかった事によりそれは否定された。となれば食べさせられたのが関係している可能性がある……はい、ということで二枚目はライフィセットが食べさせるだ」
ライフィセット「わかった。ベルベット、口を開けて!」
ベルベット「……味、しないわ」
ライフィセット「食べさせるでも、小麦粉でもない……ゴンベエが関係しているのかな?」
アリーシャ「うどんの出汁はゴンベエが作り、パンはベルベットの口が……三枚目はゴンベエが」
ゴンベエ「了解……はい、あーん」
ベルベット「子供扱いしないで……!……味がする……」
ライフィセット「やった!ゴンベエが食べさせたら、ベルベットが味を感じた!」
アリーシャ「あ、ああ、そうだな……」
ゴンベエ「ライフィセット、喜ぶにはまだ早えーよ。感じない味があるかもしれねえんだから。」
ライフィセット「うん。クッキーの次はこのバーニャカウダで、これで味が分かったら、野菜は食べれるって分かるよ。ゴンベエ」
アリーシャ「……つ、次は私がしても良いか?」
ライフィセット「でも、ゴンベエじゃないと味が分からないよ?」
アリーシャ「も、もしかしたら、ゴンベエがなにか条件を満たしているかもしれないから、その条件を探せば」
ゴンベエ「そういうのするとなると血液とか調べないといけないぞ」
ライフィセット「今はベルベットに美味しいって言ってほしいから、それは後にするよ。先ずはにんじんから」
ベルベット「……普通にニンジンね。いえ、そもそもニンジンを丸かじりしたことってあったかしら……」
ゴンベエ「基本的にニンジンは火を通して味付けしたりスープにぶちこんだりするからな。にんじんメインの料理もそんなにないし、切り干し大根みたいな感じのもあるし、中々ないぞ」
アリーシャ「……いいな……羨ましい」
ベルベット「何処がよ、人に食べさせて貰わないといけないなんてお年寄りじゃあるまいし最悪よ……次」
ゴンベエ「文句を言っている割には嬉しそうでよかったよ」
ベルベット「うるさいわね。ソース付けすぎでトマトの味がしないわよ!」