テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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裁くのは拳だ

 ギデオン大司祭がいる礼拝堂の入口前まで来た私達。既に後戻り出来ないところまで来ているのは分かっているが、緊張の糸が走る……私だけだが。

 

「遺書残すとしても、筆跡鑑定される可能性がある。

こういう時は本とかの一文を切り抜いて繋ぎ会わせたら文章になる怪文書にしておく。

その際に切り抜く本になんらかの統一性を持たせるのはダメだ。名探偵はたった一つのヒントで真実を見抜くからな」

 

「だが、そうなると文章を作り出すのが難しいぞ」

 

「そこを暗号にすれば良いんじゃないかな?アナグラムは難しそうだけど、なんらかの統一性を持たせた文章ならいけるよ」

 

 暗殺で足跡を残すのは危険だと密室殺人を考えるゴンベエ、アイゼン、ライフィセット。

 あの手この手を考えてはいるものの、密室トリックを作る時間は何処にもない。だが、どういうトリックを作るかと言う談義で盛り上がっておる。

 

「やれやれ、聖寮に名探偵がおっても知らんぞ」

 

「そういう時は名探偵を一刺しだ」

 

「……それやっても普通に生きてそうな気がするのはワシだけじゃろうか?」

 

「知らないわよ……ロクロウ、あんたが殺る時は背後じゃなくて腹にしなさいよ。背中だと確実に他殺だと足がつくわ」

 

「自殺だと思わせる切り口か、中々の難易度だな」

 

「……」

 

 本当に誰一人として殺すことに悩んだり苦しんだりしない。

 人じゃないから?いや違う、それは違う。少なくとも天族は人の様に笑い、考え、時には苦しむ。ベルベットとロクロウは元々は人間で、何かしらの事情があって憑魔へと変貌した。元々は人で、心はちゃんとある。

 生殺与奪について深く考えることも出来る……イズチに迷い込んだ際に帰り支度をする際にスレイは生きるためと山羊の命を奪った。私は守るためにと槍を握っているが、食うために殺すと言うのをしてこなかった。

 そう考えると、ある意味家畜を育てている農民は私よりも覚悟が出来ているな。

 

「あんたがギデオン?」

 

 色々と考えたりしたが、密室トリックは無理なので堂々と入る私達。

 礼拝堂に一人居るギデオン大司祭であろう人物にベルベットが声をかける。

 

「祈りの途中だぞ、何者だ」

 

「漬け物です」

 

「……先に質問をしているのは私よ」

 

「無礼な。だが、業魔なら当然か」

 

「!!」

 

 後ろを振り向いていないのに、顔も見ていないのにベルベットが憑魔だと当てたギデオン大司祭。

 

「そこまでです!!」

 

 どういうことかと驚いている間もなく女退魔士のエレノアと操られている天族の方々が現れる。

 

「マギルゥ占い、大当たりじゃ!」

 

「待ち伏せか」

 

「これも死神の呪いか?それとも、婆さんに売られたのか?」

 

「違うわ……調べたのね、そいつが赤聖水の元締めだって」

 

「そう……貴女達が起こした事件の数々を調べ、ギデオン大司祭に辿り着きました」

 

 此処にいる理由を言い当てると頷くエレノア。

 最初の仕事以外は細心の注意を払っていたが、気付かない内に大きな足跡を残してしまった……だが、だが。

 

「赤聖水の大本である大司祭をどうするつもりだ?」

 

「……貴女達を倒した後に、聖寮で処罰するつもりです」

 

「そうか……よかった……」

 

「え?」

 

 本当によかった。

 色々と制限をしている国の大司祭となれば、相当なコネと権限を持っている。

 ただただ罪を告発したとしても揉み消される。今の私にはどうすることも出来ないが、彼女ならばどうにかすることが出来る。エレノアの出現は私にとっての救いに近かった。

 

「エレノア、油断をしてはいけない。

今からが本番だ、きっと大司祭はあの手この手を使って逃げようとする。先ずは赤聖水で儲けた資金を抑えて、賄賂による口止めを阻止するんだ……私はそれで逃げられたことがある。それと出来るだけ権限の強い人を味方にするんだ。権力に対抗するには悔しいが権力しかない。今の地位から少し降格するが無罪放免は普通にしようとしてくる」

 

「今まさに暴力による解決をしようとしてんだがな……」

 

「……心遣い、ありがとうございます。

御安心ください、聖寮は権力などには屈しません。証拠はもう抑えてありますので、確実に裁くことが出来ますが……先ずは貴女達を裁きます」

 

「処罰だと!!何故私が処罰されねばならん!!」

 

 自身が処罰されると分かると、怒り叫ぶギデオン大司祭。

 自分が有実の罪で裁かれる事を不満に思っているが、それはお門違いだ。

 

「悪いことをしたのなら、裁かれるのは当然だろう!中毒性のある薬を量産、製造方法を知っている人の拉致監禁、飲んでしまった者達は中毒患者となり、憑魔……業魔化し暴れまわっている!」

 

「な、業魔化!?」

 

 もしかしたら、何かしらの理由があって赤聖水を作っていたかもしれないと言う線もあった。致し方なく犯罪に手を染めてしまう人達は、私達の時代にも何人もいた。ブルーノ司祭の様な善人も金を受け取り、酒で心を誤魔化さなければならない時代だったが……ギデオン大司祭は違った。バルトロ大臣の一派と同じく私腹を肥やしている者だった。

 

「ふざけるな!私がどれだけ聖寮に便宣を図ったと思っている!」

 

「おい、聖寮権力に屈してんぞ。赤聖水の売上金で、被害者に支払われる賠償金とか賄えるかこれ……」

 

「そもそも赤聖水を増やしたのは、お前達聖寮の為でもあるのだぞ!」

 

「どういう意味ですか!」

 

「神殿建立の費用が必要だと言われ、金を集めるために赤聖水の量産を」

 

「神殿建立……そういうことね」

 

 ポロポロと大司祭の口から溢れ落ちる言い訳と聖寮の深い闇。

 ベルベットは大司祭が赤聖水で大儲けしたお金が何処に行ったのかを見抜いた……聖寮も闇は深かった。かなり、深かった。

 

「聖寮も既に結託している可能性がある……正しい処罰をくだせるのか?」

 

「揺れるな……そう言った筈だぞ」

 

 今のエレノアと自分を被せてしまった。

 此処で私達の撃退を成功しても、ちゃんと処罰をくだすことが出来るのだろうかと思った。過去に似たようなことがあり、揉み消されたことがあった。既に聖寮も買収されている。エレノア一人でどうにかすることが出来るのだろうか?もし出来ないとなると、戦える力を求めても無駄になる。

 

「ベルベット、そやつを追い詰めてくれたら良いことが起こるぞ~」

 

 これ以上言葉を交わすつもりは無いと構えるアイゼンやロクロウ。戦いを感じたマギルゥは攻撃が当たらない範囲まで逃げていく。

 

「こいつを捕まえたところで、あんたはただの退魔士よ。それでも守るの?」

 

「……殺させるわけには、いきません!」

 

「で、どうすんだ?」

 

 エレノアとの戦いが始まる中、ゴンベエはなにもしていない。

 正確に言えば飛んでくる攻撃を何時も背負っている盾で防いで私を守っているだけで、自ら攻めようとしない。私がなにをするのか、どんな答えを出すのかを待っている。

 

「どうすれば、どうすれば……」

 

 エレノアが捕まえても、ギデオン大司祭は裁ききることが出来ないかもしれず、下手をすれば無実扱いでよくて多少の痛手しか負わせられない。赤聖水の流出は食い止めることが出来る。製造方法を知っているメンディを助けることは出来たが……それで本当に良いのだろうか?受けなければならない罰をギデオン大司祭は受けなければならない……殺すことは違うが、少なくともなにかしらの罰は必要だ。

 

「うぅ……あぁ……」

 

 頭が割れるかと思うような激痛が私の中に走る。

 それと同時におぞましい穢れも感じる……これは、私の中にある穢れだ。今まで、必死になって頑張ったけどなにも出来ない自分が悔やんだりして生み出した穢れだ。

 

「業魔病!?」

 

 エレノアが私を見て、驚いている。ああ、そうか……憑魔になっていくのか。

 ゆっくりと自分の意識が消えていくのが分かる。ベルベットやロクロウの様に自分を保って憑魔になることは出来ないのか……私には強い意思も覚悟もなにもない。

 

「ベルベット、手は止めるな……さて、此処が正念場だぞ」

 

「……どうしろと言うんだ。

きっと彼女が捕まえたとしても、逃れる術を持っている……もしかすれば、殺して口封じをするかもしれない」

 

 ゴンベエは私と向き合ってくれるが、もう無理だ。

 もう、力が無いとかそう言うのじゃない。なんとなくだけど、力とか関係無い気がする……もう、どうでもいいけど。

 

「……はぁ……」

 

「ゴンベエ、浄化はしなくていい……疲れた」

 

 大きなため息を吐いて、背負っている剣を握るゴンベエ。

 その剣で私を斬れば私の穢れを浄化することが出来るが、意味なんて無い。頑張ればと頑張るほど、どうしてそうなったと知ろうとすれば知るほど、絶望に近付いていった。諦めなければと必死になって前を向いたけど、もう前を向いて歩くのが辛い、とっても辛い。ゴンベエでなくスレイが浄化の炎で私を燃やしても、きっと直ぐに穢れてしまう。

 

「浄化はしねえよ。それは自分で乗り越えないといけないもんだろうが」

 

「乗り越える……無理だ、いったい何時何処にゴールがあると言うんだ?」

 

「あるだろ、ずっとずっと目の前に。

本当にこう言うのは自力で考えねえとダメなんだぞ?と言うか、それらしい答えを出してるだろうが」

 

「目の前……?」

 

「時間が無いから、手っ取り早く色々と言うぞ。お前を導くなんて本当は嫌だからな。

法律は壁じゃなくて線だと考えるんだ。世の中には越えるのは余り良くなかったり絶対に越えてはならない線が沢山ある、法律は絶対に越えてはいけない線で、権力者はその線の位置を若干ずらす事が出来る……越えてない様に見せられる」

 

「ははは……面白い例えだな」

 

 ゴンベエらしいが、とっても分かりやすい例えだ。確かに越えてはいけない一線を権力者は弄くることが出来る、揉む消す事が出来る。その逆も、越えてはいけない線を増やしたり、縮めたりも出来る。良い例えだ。

 

「アメッカ……アリーシャ、お前にはもう色々と見えている筈だ。

越えちゃいけない一線とか、見えなかった世界とか、そうしないとどうにもならないこととか……なら、一つぐらい答えは出るはずだ……なんの為に悪を知った?裏と闇を見た?」

 

「殺せ、と言うのか?」

 

「違う……答えは目の前と言うか自分の中にあるはずだろう。

法律は壁とか守って貰うものじゃなくて、越えちゃいけない一線……後は考えるんだ」

 

 どうするか最後の最後まで私を見守ろうとしているゴンベエ。ここまで期待しているなら、答えを出さないといけないがなにを出せというんだろう……。

 

「殺すのは間違っている……汚いことをしないと見えない世界がある……越えてはいけない一線……」

 

 ゆっくりと意識が薄れていっていたのに、ゴンベエと話をしていたり答えを考えているとむしろ意識がハッキリとしてくる。それと同時に自分の中にある今まで学んだことや持論が少しずつ少しずつパズルのピースの様にくっついていく。

 

「法律は越えてはならない一線、権力者は越えてはいけない一線を消したり伸ばしたり出来る、今回の事はベルベット達についていかなければ分からなかった……法律で裁いても、苦しんだ人は救われない。遺族にとっては殺したいほどに憎い。だが、遺族には殺すことすら出来ない」

 

「……その場しのぎのごめんなさいはうちの国じゃよくあるぞ。

命とか大怪我をして本当に手遅れなレベルになってやっと悪いことをしたと自覚し反省するクソッタレが社会にはいる。

悪ふざけだって暴力だってしたことの無い人間はいない。でも、それは絶対に越えてはいけない線を越えるもんじゃねえ。そういうことをしている奴等でも最低限の一線は理解している。それは越えることはよろしくない一線で、お仕置きされる……裁くのは法律じゃない、お前だ」

 

「私が裁く……自分の舵は自分で取る……」

 

 消えて行こうとした意識がゆっくりと元に戻っていく。最後のパズルのピースが埋められるのが、本能的に分かった。

 

「おい、数が増えてきた。そろそろ此方にも手を貸せ!」

 

「ああ……って、マギルゥ、何時の間に前に」

 

「なにぃ!?ワシの口上、全部聞いておらんかったのか!?」

 

「すまない、また後で聞かせてはくれないか?」

 

「いや、恥ずかしいじゃろう!こういう時に言うから意味があるんじゃ」

 

 気付けば聖寮の退魔士達が増えている。

 何時の間にか戦えるようになっていたマギルゥだが、数からして此方の方が不利でゴンベエに戦えとアイゼンは言ってくる。

 

「ゴンベエ、もう大丈夫だ」

 

 最後のパズルのピースが填まると、頭痛も無くなった。なにをすべきかという決意もした。

 ゴンベエに守って貰う必要は……まだまだあるかもしれないが、今は問題ない。戦うことを優先してほしい。

 

「ただ一つだけ、頼みがある。ギデオン大司祭までの道のりを作ってくれないか?」

 

「どうするとは聞かないし、止めるつもりはねえ。だが、これだけは言っておく。止まるんじゃねえぞ」

 

「ああ」

 

 もう迷いを捨てた、覚悟は決めた。後はやるだけだ。

 

「業魔病が治った!?」

 

「ふっ、どうやら自分の舵をしっかりと握ることが出来たようだな」

 

「すまない、アイゼン。穢れは天族にとって毒だ。辛いものを撒き散らしてしまって」

 

 もう覚悟は出来た。憑魔になったとかなってないとか、そんなのはもう関係無い。私は私の選んだ道を行く。

 

「人の身で業魔に味方をするとは、恥を知りなさい!」

 

 私もゴンベエも戦うと分かると今以上に警戒を強めるエレノア。

 確かに、この様なことに力を貸すのは間違いだ。だが、そうじゃないと見えてこない世界もある。そうじゃないと出来ない世界もある。

 

「なら、こう言おう。人が無理矢理天族を従えるとは……恥を知れ!!」

 

「皮肉かそれ……ベルベット、ちょっとデカいのするから退いてろ」

 

 ギデオン大司祭までの道のりはゴンベエが作ってくれる。

 これほどまでに心強いことはなく、私は走り出して逃げようとしているギデオン大司祭を追いかける。

 

「させません!」

 

「たまには悪らしい技を出してみるか」

 

 追いかけようとすると立ち塞がるエレノアだが、ゴンベエが先に動いた。

 

「なんじゃ、そのポーズ?」

 

「ズルい悪がイッヒッヒと笑うゼンリョクポーズだ!さぁ、たまには悪の深淵を見せてやる!!」

 

「っ、離れるわよ!!」

 

 悪らしいと言うよりはまるで熊が吠えている様なポーズを取ると、若干だが赤みがかかった黒い頭ぐらいの大きさの球が出現する。ベルベットはその球を見た途端、危険だと察知して一気に距離を取る。

 赤みがかかった黒い頭ぐらいの大きさの球は、徐々に徐々に渦を描いていく。それと同時に段々と体が引っ張られていき、髪の毛が風に当てられたが如く浮いている。それだけじゃない、礼拝堂にある椅子や蝋燭を立てる蝋台も徐々に徐々に引っ張られていく。

 

「ブラックホール・イクリプス!」

 

「なんて、おぞましい闇!きゃあ!?」

 

「全力の悪に飲み込まれろ」

 

 エレノアを筆頭に一気に吸い込まれていく退魔士達。

 ロクロウ達も吸い込まれない様に必死になって耐えると、吸い込みは納まり渦が爆発を起こした。

 

「お、のれ……」

 

「お前一人でもベルベット達をどうこうすることが出来なかったんだぞ?

お前よりも実力の低い奴等を幾ら束ねようが、お前より弱い時点で足止めにすらならないのを理解しとけ。もう少し強いやつを……ああ、無理か。そいつら、赤聖水を売った金を貰ってるんだからな」

 

「そんな、わけ、ありま…せん……」

 

「お前、強いよ。

アレをしてきたら、ベルベット達だけだと負けていたかもしれない……生きてるけど、どうする?」

 

「放っておきなさい」

 

「そうか」

 

 ギデオン大司祭を守る退魔士達はもう何処にもいない。

 一番強いであろうエレノアは、ゴンベエのブラックホール・イクリプスによって倒されてしまった。彼女より強い退魔士は……恐らくだがこの場所には居ないだろう。導師アルトリウスがいる聖主の御座にいる。

 

「もう守る者はいない……いや、最初から貴方を守ろうとするものはこの場には居ない」

 

 あくまでもエレノアは殺させまいと守ろうとしていたが、それだけであり私達が来なければ実力を行使してでも大司祭を捕らえようとしていた。此処には何処にもいない。

 

「ま、待ってくれ!確かに薬の製造量を増やしたのは悪かった!だが、全ては聖寮の為なんだ!話し合おうじゃないか!な、な!神殿建立の費用に使ったが少しばかり金なら残っている」

 

「っ、言いたいことはそれだけか!!」

 

 此処まで来ても、全くといって反省の色を見せない。それどころか、私達まで買収をしようとする。

 何処まで腐れば気がすむ。何処まで堕ちていけば理解する?私は槍を取り出して喉元に突きつける。

 

「元を正せば、アルトリウスが悪い。

奴はちゃんと知っていた、今の聖寮にどれだけの金があるのかを、それなのに神殿建立等といいだして、私に援助を求めおって!」

 

「……そうか」

 

「あ、ああ、そうだ。

あの若造は救世主面をしているが、裏では何度も賄賂を受け取ってい、ぐヴぉあ!?」

 

「……もう黙れ……違う、黙らせる」

 

 私は槍を投げ捨て、ギデオン大司祭の顔を掴んだ。

 

「お前を裁くのは、怒りと法律の二つだ」

 

 顔に拳を入れる。次にお腹に拳を入れる。最後に金的を蹴りあげる。

 私は三回ギデオン大司祭を殴打して、ゴンベエの所に戻ろうとするとゴンベエはなにも言わなくても、私がなにを求めているのか分かっているようで赤聖水を投げた。私はプルプルと震えているギデオン大司祭の横に赤聖水を置いた。

 

「赤聖水、アレの痛みは治るのか?」

 

「絶対に治らん……アレを蹴られた痛みは自然に身を任せるしかない」

 

 前屈みのロクロウとアイゼンは少しだけ顔を青ざめさせている。蹴りあげたのははじめてだが、くらっていない二人が怯えるなら余程の効果があったようだ。

 

「ふぅうう、ざけるなぁあああ!!」

 

「なに!?」

 

 顔と腹を全力で殴った挙げ句、金的を蹴りあげたのに起き上がったギデオン大司祭。お腹を殴った際に腹筋の固さは全くといって感じられなかった。普段から鍛えている人なら起き上がってもおかしくはないが、ギデオン大司祭は鍛えていない人だ。

 

「こんなところで、終わってたまるかぁあああ!!」

 

「いかん!!」

 

 怒りの叫びと共に強い穢れを発すると、蜥蜴の様な姿の憑魔になるギデオン大司祭。放つ穢れがとてつもなく大きく、その際に発生した強風が吹き荒れる。

 

「アイゼン、ライフィセット、無事か!」

 

「これぐらい、日常茶飯事で問題ねえ」

 

「大丈夫だよ……ギデオン大司祭は?」

 

 穢れに飲み込まれる事なく無事なライフィセット。辺りを見回し、ギデオン大司祭が何処に居るのかを探すが見つからない。代わりにドアが閉まる音が聞こえた。殺されまいと必死に足掻いていたから、全力で逃げ出したのか。

 あの状態のギデオン大司祭を野放しにするわけにはいかない。ベルベット達と共に逃げた大司祭を追いかける。

 

「こいつは……なに!?」

 

 ギデオン大司祭を追い掛けると、大きな広間に出た。

 そこにはまるでお伽噺にだけ出てくるグリフォンの様な憑魔がいた。

 

「あれは、ギデオン大司祭……穢れを食べている?」

 

 ギデオン大司祭がいたのだが、時既に遅かった。

 グリフォン型の憑魔に食べられており、死んでしまったが私の意識はそこには向かずグリフォンの方に向く。グリフォンはギデオン大司祭を食べているが、ギデオン大司祭よりも穢れを食べており、ギデオン大司祭が元に戻った。

 

「業魔が人に戻った!?」

 

「お前、地味にしぶといな」

 

 蜥蜴の様な憑魔になっているギデオン大司祭の沢山の穢れを食べ続けるグリフォン型の憑魔。憑魔になってしまう原因はただ一つ、穢れでその穢れは浄化しなければならないが、ギデオン大司祭を穢れごと食べていたのならば結果的には穢れが消えるので元に戻るのはおかしくはない。

 浄化の力がないこの時代、一度でも憑魔になったらその時点でもう終わりだとされており、殺すしかない。槍を杖代わりにして追ってきたエレノアにとってそれは常識で、この事に驚いていた。

 

「それに……この業魔は?」

 

 グリフォン型の憑魔を見て、驚いている。

 

「どうにかして穢れを消す方法を、実験をしているのではないのか?」

 

 このグリフォンは、穢れを食べていた。

 この時代では穢れをどうにかする術は無い……だが、未来には浄化の力が存在している。と言うことは、これは浄化の力の元となるなにかではないのか?

 

「穢れを消す……貴女はなにを言っているのですか?」

 

「……」

 

 穢れの事を全くといって知らないエレノア。エレノアは聖寮の退魔士で、この事を知っていてもおかしくない筈なのに穢れの事を知っていない……。

 

「アメッカ、後ろよりも前だ!」

 

 エレノアが穢れについて知らない理由を考えていると、グリフォン憑魔は空を飛ぼうとする。このグリフォン憑魔はとてつもなく強い。もし此処で暴れられたりすれば、城が崩壊するかもしれない。急いでどうにかしないといけないと思ったが、直ぐにグリフォンは飛び立ち墜落する。飛ぼうとした際に光る線のようなものが出現し、飛ぶのを拒んだ。

 

「結界が……閉じ込める結界がはられている」

 

「聖寮がこいつを捕まえてるってことか!?」

 

「この結界、前にも……」

 

 憑魔を倒す組織である聖寮が閉じ込めている……エレノアはその事については全くといって知らなかった。辺境な地ならまだしも、此処は王城で結界が……。

 

「いったい……いったい、なにをするつもりなんだ?」

 

 浄化の力を開発しているわけではなさそうで、何故ここに捕らえられているのかが分からない、アルトリウスがなにをするのかもだ。一つの決意をしてもまだまだ謎は深まるばかりで、どうしてこんなことをしていると考えるも分からない。

 

「なにはともあれ、依頼は果たせたの。結果的じゃが」

 

「……そうね、報告しに戻るわよ。ゴンベエ」

 

「あいつ、どうすんだ?」

 

 もうこれ以上は此処には長居をする必要はないと帰ろうとゴンベエに指示するが、ゴンベエはエレノアを親指でさす。

 

「聖隷が居ない以上、もうなにも出来ない。どうだっていいわ」

 

「了解」

 

「大司祭になにを……それに、この業魔はいったいなんですか!?」

 

「知らないし、興味も無いわ」

 

 エレノアの問い掛けを無視するベルベットは、ゴンベエによりワープさせられる。

 順を追ってロクロウもライフィセットもアイゼンもマギルゥも送られ、残るは私とゴンベエだけになる。

 

「大司祭になにが起きたか知りたいのならば、探せばいい」

 

「探す……貴方達は、知っているのですか?業魔病の原因を、この業魔を!」

 

 これもゴンベエが狙ってしたのだろう、本当にゴンベエはなにもかもお見通しのようだ。

 エレノアはなにも知らない、知らされていない。憑魔になる原因を、穢れについて知らない……私はエレノアに知ってほしいと思う。少なくとも、今回の一件だけで導師アルトリウスが裏で色々としていることが分かった。

 私はエレノアに探せとだけいい、詳しいことはなにも言わずにゴンベエと一緒にワープした。

 

「少し遅いからって置いていきやがったな、あいつら……ま、そっちの方がいいか」

 

 ワープした先にベルベット達はいなかった。何度も何度も使っている王都の路地裏で、先に酒場に向かったようだ。

 

「……アレがお前の答えか?」

 

「斬ることや奪うことは出来ない、命を奪うことだけは間違っている。ならば、殴ることが私の答えだ。

被害者自身も法律でも裁くことが出来ない相手を、私が代わりに殴る。殴って、どれだけ辛いのかどれだけ痛いのかどれだけ悪いことなのかを身で味わってもらい反省して貰う。

証拠が無いと言うのならば、今回の様な事をして証拠を見つけ出す。それでもないというのなら、証拠を作り出す。法律と私が裁く。だから、殴る」

 

 悪いことをしたという自覚を持たせないと、変わらないのならば私はよろこんで殴る。

 殴って心から反省し、罪を償ってもらいたい。一歩間違えれば、風の骨と同じ暗殺者の道を通るかもしれないが、今の私にとってこれが答えだ。

 

「元の時代に戻れば、私はバルトロを裁く方法を探す……その時は、手伝ってくれるか?」




アリーシャの称号

 罪殴り代行業

説明

殺すことはよしとしない、だがそれぐらいなことをしないといけないまでの外道は世に蔓延る。
悩みに悩んだ末に辿り着いた一つの答え、それはシンプルな暴力、殴ることである。
人間、一度酷い目に遇えばかなりの反省をするのでその効果は実に絶大であるが一歩間違えれば、真の仲間と同類である。
殺さず生かし、殴って反省させる。罪を罪だと自覚させ改心させ、法的手段を持って裁く。その為に殴る。その為には正義では見えない出来ない方法で証拠を集めたりでっち上げたりもする。裁けぬ悪を裁けるようにする覚悟を決める。

「称号と説明のとこ、おかしくないか?」byゴンベエ
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