「ゴンベエ、エレノアを背負うんだ。ベルベットは私に任せてくれ」
「……はい」
女対魔士改めエレノアを一撃で倒し、脳震盪で気絶をさせた。
これにより決闘はオレが勝った事になり、エレノアはライフィセットの器としてベルベットに死ぬまで従う事になったのだが、アリーシャが怖い。いや、堂々とセクハラをしていたと知られれば怖くもなるな。
「ワシらの知らぬところでちちくりあってたとは意外じゃの。ゴンベエにはアメッカが」
「ゴンベエの名誉や、ベルベットの女としての威厳もあるから言っておくがアレはそんなんじゃない。
胸骨を圧迫し血液を無理矢理循環させるもので、性的な事は一切していない。それどころか、物凄く慌てていたんだ」
ベルベットの心臓が止まってると分かるとオレは慌てた。
アイゼンは直ぐにライフボトルさえあればどうにでもなると道具が入った袋を取り出すのだが何故か穴が空いており、ライフボトルだけが失くなっていた。
段々とベルベットの血の気が無くなって来ているのを感じたオレは直ぐに心肺蘇生法をした。
「アイゼンがレイズデッドとかいう便利な術が使えた癖に、使おうとしなかったのが悪い」
「……すまん」
心肺蘇生法の結果は心臓は動き出したのだが、暫くすると止まると言う喜べない事態。
AEDがあれば蘇らせることは出来たのだろうが、そんなものはこの世界の何処を探してもなくオレも作っていないので、どうしようもなかった。諦めずに心肺蘇生法を繰り返すも、心臓が時折動くだけでベルベットの意識は目覚めず、よくよく考えればそんなにしなくても良い人工呼吸をしている際にアイゼンがレイズデッドを掛けてベルベットが生き返った。
「最悪のタイミングで使いやがって」
人工呼吸をしている際にレイズデッドを使ったので、空気を送ってる時に目覚めた。
ベルベットは直ぐにオレを殴り、なにをしていると叫び自身の乱れた服装を見て、殺しにきた。
「アイゼン、謝る相手が違うわよね?私に謝るのが道理よね?」
「……悪かった」
「……今日はそれで勘弁してあげるわ。それよりも大丈夫なの?」
「軽く脳震盪をしてるだけだ」
「そいつじゃないわよ、ライフィセットよ」
エレノアを指差して安否を聞いてくるので、容態を答えたのだがエレノアの安否を一切していない。ライフィセットの事だけを心配している。
「あの子は力になるわ……此処で死なれたら、困るのよ」
「っ、ベルベット!ライフィセットは君のものじゃ」
「アメッカ、違うぞ」
「?」
「あの子は私なんかの為に必死になってくれたのよ。死なないで欲しいわと言ってるんだ!」
「お前は死ね!!」
ベルベットの素直な気持ちを代弁してあげただけだ。
口ではああだこうだ言ってはいるが、ライフィセットを心配しているのが丸分かりだ。
「僕は大丈夫だよ、ベルベット。ゴンベエ、下ろして」
「ん、了解」
ベルベットの素直な気持ちが分かるものの、ライフィセットの安否が分からないと思いきや発光して動き出すエレノア。
口を動かしておらず光からライフィセットの声が聞こえ、なにをしているのかなんとなく分かったのでエレノアを降ろす。
「ライフィセット、なの?」
「うん、そうだよ」
「エレノアの体を操ってるのはなんとなく分かるが、スゴいことになってるぞ」
「え!?」
白い目でエレノア(ライフィセット)を見つめるロクロウ。
どういうことかとマギルゥが鏡を取り出してライフィセット(エレノア)に見せると、口からヨダレを垂らし、白目を向いているエレノアが写っていた。
「脳ミソ揺らしたから、無理に動いたらダメだ」
「ご、ごめん……」
「別にそいつがどうなろうと構わないじゃない」
「ベルベット、なにを言ってるんだ?
器となる人や物が穢れれば、器としている天族も巻き込まれてしまうんだぞ?」
「なんですって!?」
エレノアを雑に扱うベルベットに、器だという事を忘れていないかとアリーシャが補足する。
詳しい説明をアイゼンはしていなかったのでベルベットは強くアイゼンを睨むのだが、器になればそれで終わりと言う都合の良いことなんて無いだろうと自身が器にしているコインをコイントスをした。
「ベルベット、生きてくれてありがとう」
「……あんたこそ、無事なんでしょうね?」
「今、外には出れないけど大丈夫だよ。多分、僕よりもエレノアの方が重症だと思う」
「やりすぎたか……」
「いんや、違うの。人間が聖隷の器となれば、体調が悪くなる」
「マギルゥ姐さんの時もそうだったでフね」
「そういえば、スレイの時も三日ほど意識を失っていたな。ベルベット、君の体調のこともある。一度、遺跡に戻ろう」
器となるエレノアや胸骨圧迫で肋をやっているベルベットの体調を考慮し、来た道を逆走するオレ達。
遺跡内部の憑魔は出てくる前に倒しているので、安心して休むことが出来る。外に何時でも出れる大きな場所につくと、今日は休むことにし野営の準備をする。
「お前等は寝ておけよ」
一応の為に、ベルベットに釘を刺す。
ベルベットも寝ないとダメな容態だからな。
「エレノアの隣に並べないでよ……」
「じゃあ、焚き火を間に挟むか?」
「もういいわ」
諦めろ。諦めることは諦めないことと同じぐらいに大事なんだ。
ベルベットとエレノア(ライフィセット)を寝かせると、薪を拾い、木屑をファイヤーピストンで着火し、火を炊く。
「業魔に聖隷に魔女にわけわからん奴に続いていて対魔士か、旅は道連れと言うが随分と厄介なものを引き込んでしまったな」
皮肉ってもカッコよくねえぞ、アイゼン。
「それで、これからどうするつもりだ?」
周りに敵もおらず場の空気も暖まり、アリーシャが今後について聞く。
「決まってるじゃない。アルトリウスを殺す」
「……そうか」
ベルベットの目には諦めるというものは無く今まで通り憎悪の念を燃やす。
アリーシャはやっぱりかと納得をしたのだが、ベルベットは更に続ける。
「だから、カノヌシの正体を、なにをしようとしているのかを知るわ」
「!……そうか」
憎悪の念を燃やし続けていたベルベット、アルトリウスに負けたことやライフィセットのこともあるのか変わろうとしている。いや、逆か。憎悪の念を燃やすのを止めて素に戻っているか。
暴れるだけの感情を抑制する姿を見て、アリーシャは一先ずはホッとする。
「しかしカノヌシとはいったい、なんなんだ?書物で少しだけ名を見たことはあるが、詳しいことは載っていない」
「オレにも分からん……が、少なくとも並の聖隷ではないのは確かだ。
本物の聖主かどうかも分からないし、それを紐解くことが最初の一歩となる」
「じゃあ、こいつに聞けば良いのね」
熱に魘され、汗を流すエレノアを見る。
あの神殿に居た対魔士は数人で、エレノアもその内の1人。なにか重大な情報を持っている……とは思えないのはオレの気のせいだろうか?
「こいつなら、色々と知ってる筈よ」
「知っててくれないと困るな。
アルトリウスはまだしも、カノヌシは姿を現していない。流石に姿を現さない奴は斬れん!」
威張って言うことじゃない。
エレノアとライフィセットが起きるまでは話が進まないと、この話は終わりとなりこれ以上は考えないと休むことになるのだが、アリーシャが無言で見つめてくる。
「……」
「言いたいことがあるなら、言えよ」
「ゴンベエは、ベルベットのはじめてを奪ったのか?」
心肺蘇生法だと何度も説明をしたのに掘り下げるアリーシャ。
泣きそうな顔をしており、目がうるうると揺れている。
「ノーカンでお願いします」
ベルベットははじめてだと言っているが、ノーカンでお願いします。
心肺蘇生の際に使う道具を作っていなかった事を激しく後悔し、アリーシャと目線を合わせないでいるとアリーシャが距離を縮めてくる。
「胸を触ったと言うのは?」
「胸骨を圧迫しただけで、揉んでない」
「それはつまり触ったり見たりしたんでフか!?」
「お前は黙っていろ!!」
言葉遣いが酷くなっているぞ(よくやった)
ビエンフーを蹴り飛ばすとアリーシャは胡座をかいているオレの足に寝転んだ。
「どうした?」
「……疲れた」
「疲労の度合いで言えば、お前が一番楽な筈だが」
「私が一番苦労した。ベルベットが思っていたよりも重かった……今日は色々とありすぎて、精神的に疲れた」
ゆっくりと瞼を閉じるアリーシャ。思えば今日は大変な事だらけだ。
過去のザビーダに会うし、当時の導師を暗殺しようとするし、危うく死にかけるし、ベルベットは死ぬし、わけのわからないところに出るし、アリーシャが怖くなるし、大変な事ばかりで、訓練してるオレはまだしもアリーシャの心労はとてつもないだろう。
甘やかすのもどうかと思うが、それでもとオレは動かずアリーシャの髪が絡まない様にする。
「あの二人、平然とあんなことをして出来てないんでフよ」
「マジか……何処かの国の姫様とチンピラが駆け落ちしたんじゃないかって思ってたけど違うのか」
「魔女でも限界なくらいに、胃が甘ったるいわ。はよ、くっつけい」
「……ちょっと待っててくれ」
ロクロウ達のこそこそ話が聞こえたアリーシャは立ち上がる。
今の間に足を入れ換えておかないとエコノミー症候群的なのになるかもしれないとどういう向きにしようかと足を動かしているとベルベットと目線が合う。
「あんた、なにやってんの?」
「なにやってんだろうな」
なんでこんな事になったんだろうと今更なことを思った。
「?」
左手の人差し指をクイクイとするベルベット。
普通ならば挑発をしてるのではと思うのだが、動くに動けない状態なので近くに来いと言う意味だと思い近付き、正座をする。
「なんで正座をするのよ?」
「まだ怒っているかと思いまして」
事情はちゃんと説明をしてはいるものの、アイゼンのレイズデッドで蘇ったのでなんとも言えない。
オレよりもアイゼンを怒るのが道理じゃないかと思ったが、先に手を出したのはオレでありなんも言えん。グーパンかナイトメアクロウか、それとももっと酷い一撃をくらうのかと覚悟を決めていると、ベルベットは大きなタメ息を吐いた
「あんたとアメッカはなにかを知りに此処に来たんでしょ?」
「ああ……お前達と一緒に居るお陰で色々と見れる」
天族が見れて当たり前の時代。
スレイの様に天族の力を使っている人達が組織を作っていて、天族は感情を奪われるどころか人権すらなく崇められていない。
元いた災厄の時代よりも繁栄をしていると言われれば、そう見えるかもしれないが、実際のところは大きく異なっている。
オレとアリーシャ以外の三人目が誰なのかがまだ分かっていない。いったい、誰なのか?その人物にレコードは届けねえと。
「残りなさいよ」
「?」
「私に最後まで付き合いなさい。今日からあんたは私の下僕1号よ」
「……ん?」
色々と低血圧なのか、色々と言っていることがおかしいベルベット。
最後まで復讐に付き合うのは分かるのだが、下僕1号なのはよく分からない。
「人の胸を揉んだり、勝手にキスをしたり、責任を取りなさい。とりあえず、オカリナを吹きなさい」
「唐突だな、おい」
こいつ、オカリナを吹いて貰いたいからこんなことを言ってるのか?
低血圧で頭痛が激しいのか、右手で頭を抑えて痛みに苦しむのだが、直ぐに納まりなにかを思い出して無言になる。
心臓とかが痛むのだろうかと思うが、ベルベットは無理をしているといった気は感じない。ベルベットにしか分からないなにかがあったのだろうと深く追求しない。
「ゴンベエ、なにをしてるんだ?」
顔を真っ赤にしながらも、戻ってきたアリーシャ。
マギルゥが満足げな表情をしているのを見ると、確実に煽られたな。
「血圧が低くて色々と辛いみたいだから、落ち着く音楽を」
「そうか。だが、正座だと足が辛くなる、さっきみたいに胡座で座った方がいいぞ」
なにか言ってくるかと思ったが、割と平静としているアリーシャ。
何時までも正座をするわけにはいかないと胡座に変えると足を枕代わりにして、寝転び目を閉じた。
「おやすみ、ゴンベエ」
「ああ、おやすみ……♪」
髪の毛を絡まない様にするとすややかに眠るアリーシャ。
とても心地良く眠っている姿に♪のようなものが見え、リラックス出来ているのが分かる。
「ねぇ、ゴンベエ」
「ん?」
「その状態じゃオカリナは吹けないわよね?」
「あ~……」
足を枕にして寝ているアリーシャ。
オカリナを吹けば大音量で聞こえてしまい、五月蝿いと怒られる。寝ている奴の間近で五月蝿くすんのはぜってー、嫌だ。
「アメッカ、ちょっと退きなさい。そこだと喧しくなるの。寝るならばエレノアの横に行きなさい」
「……ヤダ…ぐ、ぐー」
体を揺すり、起こそうとするのだが狸寝入りをするアリーシャ。
普通に嫌だとオレの膝を掴んで離さないようにし、不動を貫く。
「グ,グー悪いとは思っているが先に頼んだのは私の方だ。
ゴンベエと関われば色々と驚いたり怒ったりすることが多い。血を失い低血圧のベルベットにゴンベエは毒だ。だから、私がこうして動けないようにしているグ,グー」
「寝言になってないわよ。ゴンベエ、ご主人様からの命令よ。アメッカを退かしなさい」
「……ご主人様?」
「今日からこいつは私の下僕になったわ」
「!?」
火に油を注ぐんじゃねえ!!
アリーシャがクワッと目を見開き、オレを睨んでくるのでオレはどうすべきかと必死になって考える。
このままいけばアリーシャが暴力系ヒロインの様なことをしてしまう。それだけは困る。耳に噛み付かれる以上の酷いことを、遊戯王の墓守の一族的なことをされる可能性がある。
どうすべきかとアリーシャの顎を猫の顎を撫でるかの様に撫でて、その場を凌ぐのだがベルベットが早くしろと目で訴えて来ている。
「間をとってこうするか」
二人の間を取る方法を思い付いた。
アリーシャには申し訳無いが、ベルベットと少しだけ距離を開いてもらい、ベルベットとアリーシャの間にオレが寝転び、右手でベルベットの左手を、左手でアリーシャの右手を掴む。
「なによ、これ」
「二人の間を取った結果がこうなった」
二人の間を取ったというよりは、二人の間に寝ただな。
ベルベットはジト目でオレを見つめてくるので、右手を離してみると強く握ってくる。
オカリナを吹けと文句は言わないのか?と聞けば、色々と言われそうなのでなにも言わずに強く握るとベルベットの握る力が弱くなった。
「ライフィセット、表に出れるようになったらベルベットの右手を握ってやれ。
ずっと握り続けると大変なことになるから、苦しそうな顔をしている時に数分間だけ握ってやれ……疲れた、眠る」
オレはゆっくりと瞼をおろし、眠りにつく。
「……どうしてこうなるのかしら?」
「嫌ならば、手を離せば良いじゃないか」
オカリナを吹かせる筈が、川の字の様に寝ている状況になんとも言えないベルベット。
アリーシャはこの状況に不満も違和感もなく、何時もの様に距離を詰める。
「別に、嫌じゃないわよ……ただ、間違えて喰い殺さないか心配なだけよ」
「その割には調子が悪そうじゃないか」
オレが居るせいで、色々と調子が狂うベルベット。
脅迫ネタを手に入れて手綱を握り都合良く利用してやろうと思えば一瞬にして形勢逆転されてしまう。
オレに心の内側を見透かされているのか、優しくされるのに馴れていないのか、それとも心の傷を癒したいのか、どれなのかは分からないが、ベルベットは仮眠を取っている間、オレの手を離すことはなく、悪夢には苦しめられなかった。
ゴンベエの称号
災禍の顕主の下僕1号
説明
その名の通り、災禍の顕主の下僕1号。心肺蘇生法をセクハラとされ、恐喝された末に成った。
災禍の顕主の心臓が止まっており、ライフボトルも切れていたので心肺蘇生法で頑張ってたら死神がレイズデッドを使ったので、胴体裸に加えてキスをしている際に目覚めちまった。
心肺蘇生法を全くといって知らない彼女は、目覚めた瞬間にキスをされて何事かと思い、状況を確認すれば上半身は丸裸で、大怒り。とりあえず、死神と勇者には拳骨を一撃与えた。
しかし、女を捨てて復讐鬼に成り果てた災禍の顕主の乙女心に大打撃を与えた。尚、心臓が止まっていたので心肺蘇生をしたと知ったのでノーカンとカウントせずに、お前に対して心を許しているぞ