「……!?……そうだった」
目を覚ますとゴンベエの顔が間近にあり、驚き思わず叫びそうになるのだが直ぐに顔が間近にある理由を思い出す。
色々とあり疲れた私がゴンベエの膝を借りて寝ようとしたらベルベットに奪われて、最終的には3人で寝た……私、今、思い返せばとてつもなく恥ずかしい事をしてる。
「場所が場所だけに寝相が悪くなる」
何時もはもう少し距離がある筈なのに、今日は思わず叫びそうになる程に距離を詰めており寝る前に握っていた手を離している。
私自身の寝相がどういったものなのかはわからないが、これからの事を考えればゴンベエがちゃんと眠れない。ゴンベエがちゃんと眠れるなにか良い方法は無いかと体をゆっくりと起こし、ベルベットの方を見る。
「包帯……」
左腕を憑魔化させていない時に何時も付けている包帯を巻き付けてゴンベエの右手を固定しているベルベット。
この手があったかと思ったのだが、これはベルベットにしか出来ない手段で一瞬だけ手錠をつければと誘惑されるが、投獄された苦い思い出があり、それはやめようと踏み留まる。
「……ベルベットの方が大きい」
ついでにベルベットの胸元に目がいってしまう。
現代でも中々に見ない破廉恥な格好であり、度々ゴンベエも触れている大きな胸。あれがゴンベエを誑かせる悪の象徴……ベルベットは色々と気にしていないが、何時になったら普通の格好をしてくれるのだろうか?今後のことも考えて言って……いや、ダメだ。普通の格好をしろと言えば、ゴンベエと買い物に行く。そういう約束だ。
「ウー……」
「アメッカ、起きてるの」
「ラ、ライフィセット!?」
「僕、だけど……どうかしたの?」
どうすれば良いのかと考えているとライフィセットが声をかけ、驚いて体を跳ねあげる。
幸いにもベルベットもゴンベエも眠ったままでホッと一息つく。
「もう、体の方は大丈夫なのか?」
「うん、もう大丈夫だよ。僕もエレノアも」
ライフィセットにそう言われ、寝ているエレノアを見る。
スレイはライラ様の器となった際は数日間熱を出して気絶していたが、たった数時間で治るなんて、スゴいな……器にすらなれない私とは大違いだ。
「ん……」
「「!?」」
自分と比較していると、目覚めるエレノア。
起きていることは悪い事ではないのに、何故か私は寝ているフリをしてしまい、ライフィセットはエレノアの中に戻ってしまう。
「……ここは、遺跡の内部です、ね」
辺りを見回すエレノア。
此処が何処か分かると、意識を失う前までの出来事を思い出して苦い顔をし、寝ている私達に視線を向ける。
「未熟……なんたる未熟!!」
導師を殺そうとした賊との戦いにあっさりと破れ、殺されもせずに解放された己を恥じる。
私達は敵であり倒さなければならない相手だ。憎むべき敵とも教えられていると考えれば、解放されたことは屈辱的なものであり、顔に出ているのか顔を隠す。
「……」
「!」
槍を手に取り立ち上がるエレノア。
私達の方へ近づいてくる……まさか、寝ている私達を闇討ちで殺すつもりなのか!?
「っ……」
そうはさせないと止めようと起き上がる前に踏み留まるエレノア。
「決闘を持ち掛けたのは、私です。そして負けたのも私です。
勝ったのは彼等であり、負けた私は従うのは道理……闇討ちをすれば、それこそ私は荒れ狂う業魔も同然です」
自分は違うと否定するエレノア。
「……お許しください、アルトリウス様!」
「っ、なにをしているんだ!!」
刃を自身の首元に向け、自決しようとするエレノア。
それもダメだと起き上がり止めにいくのだが、間に合わない!このままだと、命を断ってしまう!!
「ダメ!!」
止めにいくのが間に合わず、首を斬ろうとした瞬間、エレノアが発光する。
正確にはエレノアの中に入ったライフィセットがエレノアの動きを抑制している。
「なにをしているんだ!!
ゴンベエに負けて介抱されたことが屈辱的なのは分かる。闇討ちをしようという気持ちを踏み留まったのに」
「あ、貴女、起きていたんですか!?」
「起きていた……ライフィセット、そのまま動きを抑えてくれ」
「うん」
「なにを」
「危ないものは取り上げさせてもらう」
エレノアの服に手を入れ、隅々まで探る。危険なものがあれば、取り上げる。そうじゃないと死のうとする。
「ど、何処を触っているんですか!?」
身体中の隅々まで調べるが、命を断てそうなものは槍しかなかった。
「これは取り上げさせてもらう」
「っ……分かりました」
「ライフィセット、もう解除してもいいぞ」
エレノアから槍を取り上げ、ライフィセットにエレノアの拘束を解除させる。
「……聖隷が、人を操るだなんて」
「……ん?普通、じゃないのか?」
「普通じゃありません!」
動きを抑制されたことに驚くが、普通なんじゃないだろうか?
神衣という天族と一つになる技術があり、ライフィセットは天族で今はエレノアの中にいる。
「天族は私達人間よりも遥かに優れた力を持っているんだ。
ライフィセットは聖寮とやらがA級と定めている強い力を持っている。それぐらいは、できるんじゃないのか?」
「天、族?」
「聖隷の事だ。私達のじ……じ、地元では、そう呼んでいる」
危うく時代と言いかけたものの、なんとか上手く誤魔化す。
「熱は、納まったみたいで良かったよ」
「器に死なれては困るからですか?」
キッと私を強く睨むエレノア……そう、なるな。うん、頑張らないと。
「違う。私やライフィセットは純粋に心配をしているんだ」
ベルベットはゴンベエやエレノアを便利な道具扱いをしているが、私は違う。
導師を殺そうとした者達に加担したと言われれば、その通りだと言うしかないが、とにかく違うんだ。
私の言葉に共鳴するかの様にライフィセットがエレノアの中から出て来て、良かったと微笑む。
「……何故、貴方達は業魔と一緒に居るのですか?」
「僕は、ベルベットと一緒に居たいから一緒に居るんだよ」
ライフィセットがベルベット達と一緒に居る理由を聞くと、驚く。
「業魔、ですよ?」
穢れた末に至る存在、業魔。
ベルベットはそんな業魔で、ライフィセットは穢れに弱い天族。本来ならば一緒に居てはならない存在である。
「分かってる……でも、関係無いよ。
僕はベルベットに死んで欲しくなかった。だから、テレサ様の命令に逆らったんだよ」
ベルベットといればどうなるか?
最後は私にも分からないが、少なくともこれから色々危険な目に遭い、ロクな事にはならないのは分かっている。それを分かった上でライフィセットはベルベットと歩む。
その気持ちに嘘偽りはなく、戸惑いを隠せないエレノアは私に視線を向ける。
「私は色々と知るためだ」
「色々、ですか」
「ああ……例えば、導師アルトリウスがなにをしているか」
何故、今の時代まで負の連鎖は続いているのか、他にも色々とあるが今はそれを知りたい。
戦っていない私だが純粋な剣技だけでも規格外の強さを持っている。ベルベットは家族の命を奪った憎むべき存在だが、なにも知らない人から見れば優れた人格者に見える。無知だった頃の私が見れば、きっとそう見えただろう。
「それは、その……」
私の質問に答えれず、言い淀むエレノア。
「それは答えたくないのか?それとも答えられないのか?」
私とライフィセットがどうしてと思うエレノア。
嫌悪感を向けてこないものの、敵同士であることには代わりは無い。
「私に答えられなくても、後でゴンベエやベルベットは聞くぞ?」
あのカノヌシがなんなのか知るところからアルトリウスへの復讐をベルベットは再開し、ゴンベエはそれに付き添う。
……違う。そう、アレだ。偶然とはいえゴンベエはベルベットの胸を揉んだりしたから仕方なく付き添っているだけであり、ベルベットと一緒に居たいとかそういうのじゃない。悲しいことだが、最後には皆と分かれて元の時代に戻らなければならない。
「……」
今度は目線を合わせずに俯くエレノア。
「なにをしようとしてるの?」
ライフィセットが真下から目を合わせに行くが、顔を反らす。
「答えたくない、ではなく答えられないのか……」
「……ハイ」
観念したのか小さく呟くエレノア。
「あの場所に居たのは退魔士、とやらの中でもかなりの精鋭の様に思えたが」
「確かに、あの場に居たのは退魔士の中でも特に選りすぐりの精鋭です。
ですが、アルトリウス様がなにをしようとしているかは知らされておらず御存知なのは、メルキオル様かと」
「……」
エレノアが言った答えに私はどう反応すべきか悩んでしまった。
反則だが、未来から来ている私はマオテラスが浄化の力を与えたということだけは知っている。故にカノヌシが浄化の力を天族に与えて器となる人に浄化の力を振るわせる……とは、考えづらい。
もしそうだとすれ。カノヌシの名前が後世にまで残り、天遺見聞録に記されているマオテラスのことが全て嘘となる。
「なんで知らないの?」
なにも知らないエレノアに素朴だが答えづらい質問をライフィセットはぶつける。
「なにも知らないというわけではありませんよ。
カノヌシの力を使えば、世に蔓延る業魔を打ち倒し業魔病を治すことが出来ると聞いております」
「……」
「どうやって?」
ますますおかしい。
業魔病、つまり人が憑魔になるのを病気としているならば治す薬は浄化の力で、それを使う。そうエレノアに伝えれば良い。ただそれだけだ。
人が憑魔になるのは穢れを多く発したが為で、その穢れを生み出すのが人間の負の感情だ。負の感情が原因で人は憑魔になると、天族も憑魔も見えるのが当たり前なこの時代で伝えれば混乱するだろうが、少なくともそうならないような人物には真実を伝えるべき、ましては憑魔になるのをどうにかしようとしてるならば尚更だ。
それなのにエレノアはなにも知らない。ライフィセットのどうしてという問いかけに、なにも答えることは出来ない。
「どうして、なにも知らないで平気なの?」
「それは……」
「痛いのに辛いのに、ベルベットはそれでも前に進もうとしていたのが僕は分からなかった。
でも、ベルベットはちゃんと知っていた痛くても辛くても前に進む理由を……僕はその事を知って、
僕はあの時、余り攻撃を受けなかったけど、とっても胸が痛かった。ベルベットが傷付くのを見て、傷つけられるのを見て、とっても」
自分が知ったことにより起きた変化や心境を語るライフィセット。
「だから、教えて。どうしてなにも知らないで平気なの?答えられないなら、胸の中に変なモヤモヤはあるんじゃないの?」
「……」
なにをしているのか分からず、かといってなにも知ろうとしないエレノアとなにかを知って、なにかを知ろうとするライフィセット。対となる二人の話し合いはそこで終わった。
胸のモヤモヤがエレノアにあるのかどうかはエレノアにも分かるかどうか怪しいもので、エレノアはなにも知らないという事に少しだけ疑問を抱き、膝を抱えた。
「僕、変な事を言っちゃったのかな?」
「それは私にも分からないことだ」
ライフィセットが言ったことが変な事だったかどうかは、誰にも分からないことだ。
「エレノアやベルベット達は立場は違えども当事者達だ。
私とゴンベエは居てはならない部外者達だ。そんな部外者から見てもおかしいのは確かだ。どうにかして、真実を知らなければならない」
ここからはその為の旅になる。
「……!…少し、失礼します」
「何処に行くの?」
「……顔を洗いにいきます」
「じゃあ、僕も行くよ」
「別に逃げたりしたりはしません」
「疑ってるんじゃなくて、僕も顔を洗おうかなって」
「っ……その、貴女」
「アメッカだ」
「出来れば、聖れ……ライフィセットを」
「……!あ、ああ、そういうことか」
モジモジと足を擦り合わせるエレノア。
顔を洗いに外に出ようと言うのは真っ赤な嘘で、なにをしたいのか察した。
「ライフィセット、エレノアはその、花を摘みにいく」
「花?……!」
「その、そういうことです」
どういう意味なのかと理解し、顔を真っ赤にするライフィセット。
「ご、ごめんなさい!!」
「いえ、ハッキリと言わない私の方にも問題があるかと……申し訳ありませんが、いかせて貰います」
エレノアは両手で顔を隠しながら、外へと向かった。
「あの様子だと逃げることはしないだろうな」
「アイゼンさ……アイゼン、何時の間に!?」
エレノアが外へと出ると姿を現すアイゼン。
「なにを驚いている?オレ達は昨日、この遺跡で休んだだろう」
「そうだったな。姿が見えなくて、つい忘れていた」
「ロクロウとマギルゥは?」
「あの二人ならば、外の空気を吸いに出てる……オレはお前達が起きるまではこの遺跡の中を調べていた」
「そうか……」
この場に居ない面々の事を聞き、冷静になる。
「全く、オレが遺跡について説明をしてやろうと言うのに逃げやがって」
「あの二人は、そういうのには余り興味は無さそうだから仕方ない。ところで、ベルベット達は起こさなくて」
「とっくに起きてるわよ……コイツの変な寝言のせいで」
何時ぐらいに出発するかを聞くと、ひょっこりと体を起こすベルベット。
意識がぼんやりとはしておらずハッキリと目覚めており、外に出る道を見つめる。
「あんた、なに外に出してるの?」
「此処でしろというのか!?」
「そうじゃないわよ!!あんなの嘘に決まってるでしょ!!」
「そう、なのか?」
「ええ、そうよ」
「外に出て、どうするつもりなんだ?」
エレノアの武器となる槍は取り上げている。
エレノアが憑魔とまともに戦う為にはライフィセットの力が必要となり、ライフィセットが力を貸そうとせずに拒もうと思えば何時でも拒める。ここの正確な場所は私にも分からないが、人里離れた遠い地なことだけは分かる。
外に出ても、なにが出来る?
ベルベットに聞いてみるも、ベルベットは答えなかった。
「……なんか、感じる」
「どうした、ライフィセット?」
「よく分からないけど、地面からなにか伝わってる気がするんだ」
ベルベットが私の疑問に答えを出さないでいると、ライフィセットはなにかを感じる。
「地脈を経由してなにかが伝わってるのを感じているのか!?」
アイゼンはライフィセットが感じているものがなにか教える。
この遺跡と地脈は密接な関係を持っていると昨晩、アイゼンは解説していた。それをライフィセットが感じている。
「お前等、あの女を追い掛けるぞ!!」
「エレノアは、トイレに」
「んなもんは、嘘だ!!」
「じゃあなにを」
「地脈を経由して聖寮と連絡を取ってやがる!!」
「どういうことだ!?」
「細かな説明は後だ。とにかく、追い掛けるぞ!」
よく分からないが、大変なことにしてしまった。
エレノアを追い掛ける為にアイゼンは走って外に出ていく。
「あんた、本当に余計な事ばかりして」
「っ……ごめん、なさい……」
ベルベットの言葉になにも言えない、言い返せない。
これで導師アルトリウスが大量の退魔士達を引き連れて私達を襲撃してくれば、全て私のせいだ。簡単に騙されてしまった私のせいだ……。
「ゴンベエ、あんたも何時までも狸寝入りしてないで起きなさい!!」
「……グー……」
「ゴンベエは本当に寝ている」
「あんた、危機感が無いの!!早く、起きなさい!!」
「おかん、うちは私服やから、今から300数えるからそれまで待ってって何時も言ってんだろ。意識を叩き起こすから、はい1、2」
「誰がおかんよ!!」
今の姿は主婦みたいだ。
寝たフリをしておらず本当に寝ていたゴンベエは寝惚けており、このままだとエレノアが聖寮と連絡を取ってしまう。私達はライフィセットにゴンベエを託してエレノアを追った。
スキット 不思議な不思議な夢
ゴンベエ「ふ、ぁ……眠い、もうちょい寝るか」
ライフィセット「ダメだよ!」
ゴンベエ「この時……ベルベットと出会ってからあんまり睡眠を取ってないんだぞ」
ライフィセット「そうなの?」
ゴンベエ「そうだ……けどまぁ、なんか面倒くさいこと起きとるみたいだから……って、アカンアカン。寝惚けてる」
ライフィセット「ゴンベエって、時折おかしな喋り方をするよね」
ゴンベエ「一応の矯正はしてはいるが、今みたいに寝惚けたりしてると戻ったりする……方言を喋るのはおかしいから極力すんなって言われてるんだがな」
ライフィセット「なんでダメなの?」
ゴンベエ「方言は住んでる土地とかがバレるからだ……まぁ、この世界じゃ関係無いだろうが」
ライフィセット「?……ところで、なんの夢を見ていたの?」
ゴンベエ「なんで夢を見てたって言える?」
ライフィセット「夜中に寝言で魔鏡技!って叫んでたよ。ベルベットはそれで目覚めてた」
ゴンベエ「……ん?」
ライフィセット「どうかしたの?」
ゴンベエ「その魔鏡技ってのはよく分かんねえぞ。夢の内容と一致しねえ」
ライフィセット「どんな夢だったの?」
ゴンベエ「女から逃げる夢だ」
ライフィセット「……なにをしでかしたの?」
ゴンベエ「待て。何故、オレがやらかした前提なんだ?」
ライフィセット「ゴンベエってなにかする度にアメッカとベルベットを怒らせてるから」
ゴンベエ「いや、オレに非は……まぁ、それなりにはある。
けど、それとは全く異なる夢なんだ。ベルベットでもアメッカでもない女から逃げている夢だ……念のために言っておくがな、オレが逃げるんじゃないぞ?オレは逃げている奴を笑って見ていただけなんだ」
ライフィセット「夢だとしても、酷いよ!?」
ゴンベエ「そう思うだろ?でも、これが案外酷くもなんとも無いんだよ」
ライフィセット「どういうこと?」
ゴンベエ「よく分からんが、逃げてる奴は追いかけてる女に好かれていたみたいだ」
ライフィセット「よく分からないのになんでそんなことが分かるの?」
ゴンベエ「最終的に女が男を捕まえる事に成功して、鎖がリード代わりになっている鉄球がついた首輪をつけてたからだ。アレは自分のモノだと言い張ってるも同然の証で、物凄く大事に抱き締めたりキスしてたりしたな」
ライフィセット「そうなんだ……変わった夢なんだね」
ゴンベエ「全くだ。なんか分かんねえけど、顔とかは見えなかったが金髪のスタイルの良い女が逃げようとする男を捕まえようとあの手、この手を……他に変な寝言を言ってなかったか?」
ライフィセット「ヴァイスって言ってたよ」
ゴンベエ「う~ん、分からないな。これはその内、首輪的なのを付けられるという予知夢なのか?」
ライフィセット「ゴンベエに首輪を?ゴンベエは人間、だよね?」
ゴンベエ「キョトンとしないでくれ……後、十数年すればその意味が分かる様になるから」