「なんだ…」
背筋も凍るなんて例えがある様に背筋がゾッとするオレとアリーシャ。
周りにはなにもいない…一つだけおかしなことがあるとするならば、オレは太陽の歌を吹いたのに太陽が出ていない事ぐらいだ。
「ゴンベエ!」
「分かってる、油断はしない」
「違う、そうじゃない!」
気を引き締め直すなんてしなくても良いぐらいに集中している。だが、アリーシャはそうじゃないと別の事を伝えたい様でアリーシャを見てみるとまことのメガネがアリーシャの足元に置いてあった。
「私はコレを持っていないとなにも感じないし、聞こえない…だが!」
今まさに異質ななにかを感じ取っている。
まことのメガネを使った影響で敏感になって、この異質な気配を感じ取っているんじゃない。
これは……逆だ。天族とかさっきの奴等みたいな霊的な存在に疎いつまり、霊感が無いアリーシャですら感じる事の出来るヤバいのが居ると言うことだ。
「っ、空が暗くなった!!」
時刻は夕暮れだった筈なのに、何時の間にか夜を思わせるかの様に暗くなる。
アリーシャは空に原因があるかと見上げるので、オレも見上げる……
「THE・ファンタジーのド定番中のド定番が出やがったか!!」
「グゥオオオオオオオオ!!」
薄暗い雲の中から現れたのはドラゴンだった。
ドラゴンに関する伝承がどうのこうのと言っていたが、本当に出てきた。
東洋の龍じゃない、西洋の伝承とかでよく見る蜥蜴に翼がついた感じの竜が現れておりてくる。
「逃げるぞ、アリーシャ!」
オレ達の目的はもう果たしたんだ。
これ以上は此処にいる必要は何処にもないし、あんなのを相手になんかしてられない。アリーシャもオレの意見に賛成の様で、返事をする迄もなくドラゴンに背を向ける…が
「グルゥオオオオ!!」
ドラゴンは走って追いかけてくる。
翼で飛ぶか滑空した方が速い気もするが、それでも速い…つーか、シンプルにデカいのでオレ達の数歩がドラゴンの一歩。
響く足音や呼吸音は小さく聞こえず、徐々に徐々に大きく聞こえていく。
「逃げ切れない…こうなれば!」
ドラゴンから逃げ去る事が出来ない感じ、振り向いたアリーシャは槍をドラゴンに向ける。
「私が出来る限りここで食い止める、ゴンベエは逃げるんだ!」
「おう!逃げさせてもらう…じゃねえ!
てめえ見捨てて帰ったら、確実にオレ打ち首確定だろうが!!よくて、国外追放だ!!」
ドラゴンとの格差を感じないほど、アリーシャは馬鹿じゃない。
明らかに格上な相手を前に自分を犠牲にしてまで、誰かを救うと言う考えは立派だが…ただの、自己満足だ。つーか、見捨てたら本当にヤバいんだから出来るか!
「ったく…四の五の言ってられねえか」
オレも逃げるのを止めて、アリーシャの隣に立つ。
「コレだけは使いたくねえんだけどな」
背負っている剣の柄を握り、構える。
如何にも邪悪の化身の様な雰囲気を出しているドラゴンには退魔の剣、最強じゃないけどゼルダの伝説で度々出てくる邪悪な存在をどうにかする剣ことマスターソードが有効…と思う。青白い光を刀身に纏っているし、やろうと思えばなんかビームを出せるし…最悪、封印すれば良い。
「ゴンベエ!」
「どちらにせよこんな狂暴なのが近所に居る時点で逃げても無駄だろうが」
自分は構わないがお前は逃げろとオレの名を叫ぶが逃げない、逃げれない。
こんなやり取りをやっているせいか、ドラゴンはオレ達との距離を詰めてきて何時でも殺せる距離にいる。
「…ドラゴンなのに炎を吐かねえ?」
ドラゴンの定番とも言うべき咆哮がさっきから一切来ない。
強靭な体で攻撃するのが威力があるかもしれないが、逃げる相手には飛び道具でいくのが一番だ。
「ゴンベエ、援護を頼む!」
「いや、オレも刃物!つーか、剣だから!」
アリーシャは槍を持って突撃する。リーチ的には槍を持ってるアリーシャの方が上だから、援護はどちらかと言えばアリーシャだが、あのデカさだから通常攻撃が範囲の全体攻撃になって、気絶させるとか一本取ったら勝ちじゃない問答無用なら援護も糞もあるか。
「剣での援護つったら、コレぐらいしかねえけどな!!」
マスターソードを大きく振ると、刀身に纏っていた光が斬撃となって飛んでいく。
よくある斬撃を飛ばすアレ、剣で出来る遠距離攻撃と言えばコレしかない。
「あ?」
飛んでいったのが良いが、前に使った時よりも光が弱い。アリーシャの胴体回りよりも太い木をスパンと綺麗に切った際の光と比べると脆く淡い。ドラゴンの体を切り刻むのには、出力が足りない…やっぱ刃物だから直接斬らないといけないか。
「ゴンベエ、それじゃあダメだ!光の矢を!」
「アレはポンポン射つもんじゃねえ…なによりも、効くかどうか怪しい」
ドラゴンらしく空を飛んで咆哮する事をしないドラゴン。のろまなのか、振りかぶる前足をアリーシャは器用に避けていき
「魔神剣!」
槍を大きく振って目に見える衝撃波の様なものを飛ばす。ああ言うのは魔法の一種じゃねえのかと言いたいが、此処じゃ当たり前なんだよな。
アリーシャの言う通りに光の矢を使っても良いが、アレに効くのか…それ以前に光が弱い原因…
「天候パのキーマンと同じか」
ドラゴンが来てから感じるおかしな空気。光を遮らんと言わんばかりの黒い雲は闇と言うのに相応しい。このドラゴン、ポケモンで言うひでりやゆきふらし、あめふらしと同じ特性を持ってやがるな。
「タネが分かれば、こっちのもんだ!!オレは清らかな神様じゃねえ、闇の力も平気で使うんだよ!!」
剣を強く握ると、青白く発光する。
だが、今求めているのは光じゃない、黒くて禍々しい闇…相手が自分に有利なフィールドを作る天候パなら弱点はある。
一つは天気を味方につけて効果を発揮する前にボコる、もう一つは此方が天気を変えるか天気が終わるかのパーティー、最後は自分も全く同じ天候パ。
「闇纏・無明斬り!!」
今度は光でなく、闇を纏った斬撃を飛ばす。
アリーシャがカッコよく技名を言ったので、闇の斬撃を飛ばすと言えばコレだとオレも技名をつけてみる。
しかし、試してみるもんだな。退魔の剣だから、邪悪な物はNGかと思ったが…いや、善悪の区別は人次第だから、トライフォースが悪人の手に渡ったりするように純粋な闇と光は関係ないのか?
「やった!!」
木を切った時にやったのよりも大きく早く威力のある無明斬り。
ドラゴンの前足に命中すると、光の斬撃の時ではつかなかった傷がついてアリーシャは喜ぶが
「あ…」
「普通、そこは血だろう!」
傷口から黒い靄みたいなのが出て来て、それの出てくる圧にアリーシャは押されてしまう。
なんでそこでドラゴン汁ぶっしゃああああじゃねえんだよとオレは纏っている闇を伸ばして断崖絶壁に落ちそうなアリーシャの服の襟の部分に突き刺して引っ張りあげる。
「ありがとう、助かった!」
「礼は言わねえでくれ…ついてこいと言ったのはオレなんだから」
「だが、あのままだと確実に落ちて死んでいた」
「このままだとドラゴンに殺されそうだがな…くっそ、坂道戦いづらい!」
相手は飛べる、デカい、遠距離攻撃しようと思えば出来る(多分)に加えて戦っている場所は坂道、しかもオレ達が下の方で重火器類はなしであるのは刃物のみ…更にはアリーシャもいる。
「はぁ…はぁはぁ…」
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、だ…高地は空気が薄いから、呼、吸が乱れやすいだけで整えれば」
「明らかにそう言うんじゃねえだろ」
黒い靄みたいなのに飛ばされたアリーシャは息を荒くしている。
登山での疲れが今此処に来たんじゃなく、普通の人間が邪悪ななにかをぶつけられ体力削られて息が荒れている。
「長期戦はアリーシャの体に負担が掛かるな……山、ぶっ壊れねえよな?」
草木がはえておらず、ドラゴンがブレスをしてこない。
そのお陰でオレ達は戦う場所を、足場がある…氷の矢で凍らせるとか爆弾を腹の中に入れるとか戦う方法は色々とあるが、それやったらこっちが歩けなくなる可能性が、下手したら土砂崩れが起きる。
「ちょーっと、力を貸せよトライフォース」
本気を出すしかないとマスターソードを強く握ると手の甲にトライフォースが浮かび上がる。
トライフォースの影響かどんよりとした空気はなくなっていくが、ドラゴンから感じる邪悪ななにかは残ったまま。傷口から黒い靄が溢れている。
「ぶった斬ると、汁じゃなく靄がぶっしゃああああとなりそうだな」
そうなるとアリーシャがやばい。
無闇に剣でぶった斬るのはダメだとオレはマスターソードを鞘にしまうと、ドラゴンは両前足をあげた
「っち、ただの蜥蜴じゃねえか!!」
向こうは飛べるが、此方は飛べない。
圧倒的な火力で攻めることをドラゴンは確実にオレ達を殺すために前足を地面に叩き付けて足場の崩壊を狙おうとする。
「流石にそれをやられると、困るんだよ!!」
二足歩行のドラゴンじゃない。四足歩行で動くドラゴンなら、後ろ足だけで立っているのはキツい筈だろう!
大振りなドラゴンの腹に拳を叩き込むと、バランスが保てなくなり背中から倒れた。
「流石に心臓をぶっ刺したら死ぬよな?」
ドラゴンの腹の上に乗り、マスターソードを抜く。一撃で仕留めさえすればこの黒い靄をそこら中にバラまかなくていい…んだが、相手はドラゴン。神話には特定の方法で無いと倒せない化物がいるように、こいつもその手の類いだったらどうしよう。邪悪なものをぶっ倒すのに毎回使われているマスターソードなら確実に倒せるよな?
「待って!」
どの辺に心臓があるかと探していたらエドナが現れた。
「このドラゴン、どう見ても危ない奴だろう!アリーシャを見てみろ!」
槍を杖代わりになんとか立っている。だが、顔色は優れない…高山病とかそんなのじゃない。この靄とかが原因だ。
待ってもなにも無いと剣を強く握るのだが、エドナとのこの少しのやり取りが待ってだったのか、ドラゴンはもがく。ドラゴンの腹を足場にしているからこのままだと落とされると、ドラゴンの腹から降りてエドナの近くに移動する。
「ぐぅううおう……」
殴ったダメージがあるのか、先程よりも吠えないドラゴン。
マスターソードで刺しておけば、確実にとどめをさせていたんだがな…
「…お兄ちゃん」
エドナが余計なことをと少しだけ睨むが、オレには目もくれない。見ているのはオレじゃなくドラゴンで、悲しそうな目で小さく呟いた。
「お兄ちゃんね……なんかやらかしてドラゴンになったのか?」
「貴方、天族が見える癖になにも知らないの?その口ぶりだと、穢れが多い生き物や植物が憑魔になることすらしらない子供なのね」
「生憎だが、ああいうのはうちの国じゃ見ないし神様は捨てたも同然の国なんでな……だがまぁ、人間とか神様が化物になるのはよくある話だ」
日本でも、人を憎んだ末に龍になった女がいるからな。だが、これで色々と分かった。エドナが止めに入ったのはドラゴンになった兄を殺されたくないからだろう。危ない存在、ヤバいやつだと見なくても分かる存在…だが、それでもエドナの兄には変わりない。口ではなんとでも言えるが、何処かで殺されてほしくないとかそんな事を思っているんだろうな。
「…襲ってこねえな…」
ドラゴンの次の手を見てから攻撃しようと待ち構える…のだが、なにもしない。
「……エ、ドナ……」
「!」
代わりに喋った。渇いた声で、出ないのに無理矢理出してエドナの名前を呼んだ。
ドラゴンになっていても、妹の事はちゃんと覚えている。攻撃しちゃいけないとか本能的に思う…兄妹の絆的なアレなのか?そう思っていると別の方向を、アリーシャがいる方を見る。
「ア…メ…ッカ…」
「!?」
「?」
アリーシャを誰かと勘違いしたのか、何処かの誰かの名前を呼ぶ。
「ゴ、ン…ベ…エ」
「あ?」
今度はオレの方を見て、オレの名前を呼んだ。
オレはあのドラゴンの、エドナの兄の名前をしらない…そもそもで転生したばっかで会ったことすらない。なのに、あのドラゴンはオレの名前を知っている。オレがエドナの兄の言うゴンベエにそっくりな可能性があるかもしれないが…明らかにオレを見て、反応している。
「つい…き、た…こ、日……グゥオオオオオ!!!」
なにかを伝えたかったいのか感涙しているのかよくわからんエドナの兄。急に黙り出したと思えば、大きく吠えて飛んでいった。
「…なんだったんだ、いったい…」
ドラゴンが見えなくなると、ホッと一息。手の甲に浮かび上がらせていたトライフォースの光を消してみるが、違和感とか不快な感じはしない。
「アリーシャ、大丈夫か?」
「ああ…問題な、い…」
「どこがだよ」
ドラゴンが消えて、緊張の糸が途切れたのか意識を失う。
脈拍や呼吸音は荒いがとても健やかに寝ており、限界まで体力を使い果たして寝たと言った感じだ。
「磁石作るだけなのに、とんだ目に遭った…とっとと帰るか」
「待ちなさい」
「んだよ、此方は色々と疲れてるんだぞ」
「そいつ、マオクス=アメッカって名前じゃないの?」
「マオクス=アメッカ?なに言ってんだ、お前に自己紹介しただろう…街の住人もアリーシャって、呼んでたぞ?」
とっとと帰りたいが、引き留めるエドナ。名前を確認してくるがアリーシャはアリーシャで、そんな名前じゃない。
アリーシャの名前が偽名の線もありえるが、それは限りなく0だ。
「アリーシャの先祖かなにかが、マオクス=アメッカって名前なんじゃねえのか?」
「それだと貴方がナナシノ・ゴンベエなのがおかしいわ…貴方の名前は継承するものなの?」
「んなわけねえだろ…」
そもそもで名無しの権兵衛で、ナナシノ・ゴンベエじゃねえ。
和風っぽい名前は珍しいだろうが、探せば見つかるだろうし…やっぱり人違いかなんかか?
「……まぁ、いいわ。ついてきなさい」
なにかを知っているエドナはオレ達と一緒に下山すると思ったのだが、来た道とは違う道を通る。
山頂に続く分かれ道までは一緒だったのだが、山頂に続かない道に行く。
「おい、なにがあるって言うんだ」
行き止まりまで連れて来られたが、なにもない。
「分からないわ」
「は?」
エドナは傘を閉じ、傘の先で地面をつくと地面は盛り上がる。
「大きいのと小さいの、どっちが良い?」
地面が盛り上がると、箱の様なものが出てくる。
しかも2つ、大きい箱と小さい箱で…なんかどっかで聞いたことあるお伽噺みたいだ。
「箱…っつーか、これは土器だよな……」
取り敢えず重いのかどうか確認する為に箱に触れる。
感触は綺麗な模様が描かれた壺…じゃなくて、土偶とかに近い。土で出来た箱とか聞いたことねえんだがな…
「で、なんだこれ?」
「だから、分からないわ」
「もっと細かく説明してくれ」
「昔、頼まれたのよ。何時になるかは分からないが、ナナシノ・ゴンベエと言う男とマオクス=アメッカと言う女がやって来る。もしやって来たらこの箱を渡してくれって。だから、この箱がなんなのかは分からないわ」
「昔って、何時だよ?」
「大体、千年ぐらい前よ」
「アリーシャが親の腹の中にいるとかそんな次元じゃねえんだが…」
親の金玉にいるとかそういう次元ですらない。
千年となると数十世代もたっている…だけど、いや、だからこそエドナの兄が言うナナシノ・ゴンベエがオレの可能性もある。
「でも、貴方達に反応をしていたわ。持ってって」
「中身について聞いてないのか?」
「聞いていないわ…けど、明らかにおかしかったわよ。お兄ちゃんはお宝や大事な物は自分でちゃんと管理するのに、コレだけは私に託した。私へのお土産じゃない、絶対に未来に残しておかないといけないもので持ち歩けないって、わざわざ此処まで一人で運んできたほどに…」
持ってきた事が余程の事だったのか、思い出しているエドナ。
中身は金銀財宝…じゃ、ないよな…それするぐらいならば妹のエドナに渡している。妹にすら中身を教えていないとなると、余程のものが入っている…ん?
「取り敢えず、小さい箱だけを持って帰って良いか?アリーシャの事もあるし、流石に大きい方を持って帰るのは無理だ」
「好きにしなさい、コレはもう貴方達の物なのだから…盗まれても責任は取らないわよ」
箱を受け取る事が分かると傘を開いた。中身がなんなのかは知りたいが、今はアリーシャの方が大事だ。小さな土の箱を腰にくくりつけるとオレは狼の姿になった。
「貴方、憑魔だったの?」
エドナの質問には答えず、オレはアリーシャを背に乗せて下山した。
術技
闇纏・無明斬り
剣圧で衝撃波を飛ばしたりする所謂、飛ぶ斬撃に闇を纏わせたもの。
纏っている闇はあらゆるものを吸い寄せて消す性質を持っており、衝撃波や炎を飛ばしてかき消す事は出来ず触れれば衝撃波の傷がつく。決して魔法ではない
闇纏 旋空新月
オーラとかエネルギーを操り刃に纏ったり刃にしたりする技の闇属性版。
剣に闇を纏わせることにより闇が刃の代わりになり、太刀筋が急激に延び、予想外の所からの攻撃を受ける。
要は旋空孤月だが、落ちそうなアリーシャを救ったりと使用用途は色々とあるがトリオンは消費しない