テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

72 / 212
特に意味もなにもない番外編です。


番外編 転生者ができるまで

「え~っと、何処や?」

 

 目を覚ますと、全く知らない場所にいた。

 んだ、ここ?

 

「さっきまで……あれ、なんだっけ?」

 

 さっきまで何処に居たのかが思い出せへん。

 昨日食った晩飯とか、通ってる高校の名前とか自分の名前とか家の住所とかハッキリと覚えとるけど、今日の記憶が曖昧やった。なんやこれ?新手の誘拐?素人ドッキリ的なのか?

 

「落ち着け、落ち着くんや……どっかの公園じゃなさそうやな」

 

 辺りを見回して見るけど、なにもない。

 何処かの山っぽくてあるのはなんか分からない木とか岩とかで家の近所にはこんな場所はない。いったい、何処なんやろ?

 

「ん、なんか人が並んどるな……すみません、コレってなんの列なんですか?」

 

 なんかやたらジジババが並んどるな。

 

「……お若いのに可哀想に」

 

「え?」

 

 声をかけたジジイは涙を流しながら合掌する。

 人を見ていきなり哀れむとか舐めてんのか、死期がはやいのはどっちかっつーとテメーだろう。

 

「深夜に徘徊してる老害達、か?」

 

 てか、これなんの列だ?

 先頭に行けば若い誰かが居るかもしれないと奥の方に行くとメガホンを持った和服の男性がいた。

 

「押さないで、押さないで。

別に渋滞を起こすとかそんな事は無いから、あ、そこの若いの、ちゃんと列に並んでくれよ!」

 

「あの、これなんの列なんですか?」

 

「並んでたら分かるから」

 

 なんの列かは分からねえけど、並んでいた方が良いっぽいか。オレは列の最後尾に向かい並ぶ……ほんま、ここ何処なんやろ?

 一先ずは言われるがままに列に並んで奥に進み、先頭付近に来た時にある物が目に入る。2本の円柱の木材が刺さっていて、縄で縛られている、なんか神社の鳥居っぽい感じになっており、そこから先には誰もいない。

 

「うぉっ、ワープした!?」

 

 鳥居みたいなところを通るババアがヒュンっと消えた。

 ワープだよな?あそこを通ったら、どっかに行くのか?

 

「はい、次は君ね」

 

「コレって、何処に繋がってるんですか?」

 

「三途の川だけど?」

 

 はぁ!?

 

「三途の川って、どういうことだよ!?」

 

「とりあえず、入れ」

 

 っちょ、押すな!

 よくよく見れば角がはえている鬼と思わしき男に押され、オレは鳥居(仮)を通ってしまい川原にワープしていた。

 

「……三途の川」

 

 何故かは知らねえが、橋や船を使わずに川を歩いて渡ろうとするジジババ。

 右見てもジジイ、左見てもジジイ、時折中高生ぐらいの奴はあんま見当たらなく、基本的にはジジババ、次におっさんおばはん。川の向こうには真っ白な着物を着て三角のハチマキみたいなのを巻いているジジババ……。

 

「せや、オレは……死んでもうたんや……」

 

 死後の世界とこの世の間にある三途の川。

 その名前を聞いて曖昧な記憶がハッキリとし、自分が死んだ、殺された事を思い出す……。

 

「あ、そこの君。そこでボーッと突っ立ってないで早く歩いて」

 

「鬼……」

 

 タブレット端末を持った鬼がオレに声をかける……マジの地獄なんやな。

 

「ほら、そこに船があるから」

 

「はぁ……」

 

 こうして意識がハッキリしとるから、死んだ実感が薄い。

 言われるがままに向こう岸までの船がある場所に向かうと、そこにも鬼がいる。

 

「えっと、船渡ししてくれるんすか?」

 

「向こうに渡りたければ、6文を」

 

「文って、江戸時代の金っすよね?」

 

 んなもん、持ってねえよ。

 

「ちょっと、船橋さん。

この御時世、6文銭が簡単に手に入らないから、300円で向こう岸まで送る様にこの前の会議で決まったじゃないですか?」

 

「あれ、そーでしたっけ?」

 

「そうですよ。すみません、ちょっと報連相が上手く行き届いてなくて。300円で向こう岸に送ります」

 

 地獄の沙汰も金次第って、マジなんだな。

 幸い、買い物に行ってたから金ならたんまりと……あれ?

 

「財布が無い」

 

 財布だけじゃない、スマホとかも無い。

 なんでだ?あんとき、買い物にいって、色々と考えてて……そんでオレは死んで……。

 

「あ~お兄さん、それアレね。

こっちに来るときは身一つになるから、財布とか携帯とかそういうの持ってても自動的に無くなるんだ」

 

「はぁ!?じゃあ、どうしろって言うんだよ!」

 

「遺体を火葬する時に遺体と一緒にこの国で使われてるお金、なんでも良いから300円になるように詰め込んで燃やしてくれれば」

 

 いや、滅茶苦茶罰当たりだろう!?

 遺体と一緒に金を燃やすなんて誰もやらへん……道理で、どいつもこいつも川を経由してるのか。

 まぁ、着衣水泳とか小学校の時にやったりしたし、流れが緩やかなところが──

 

「服、寄越さんかクソガキヤァアアア!!」

 

「うぉおお!?」

 

 乳丸出しの鬼のババアが現れやがった!?

 

「ちょっと、奪衣婆さん。いきなりのそういうのはダメですって、特にこういう人には」

 

「なんだい、あたしは昔からこういうやり方なんだよ。今さら変えられるかっての。小僧、ここを通りたきゃ服を寄越しな!」

 

「体格はおろか、種族が違うババアになんで服をやらなきゃいけねえんだよ!?」

 

「昔からそういう決まりなんだよ!」

 

 ババアは無理矢理服を奪おうとする。あ、ちょ、やめろ……あ~ーー!!

 

「ほら、これ着て渡んな」

 

「ババア、覚えてろや……」

 

「本当だったら、服を脱いでこっちに着替えてもらうんだけど……なんか、ごめんね」

 

 まったく、なんでこんな目にあわにゃならんのや。

 

「どうせ濡れるんやから、服は着替えへんとこ」

 

 真っ白な着物と頭に巻くやつを渡されるが、川を歩かなアカン。

 本当なら橋の上を通りたかったけど、さっきのババアがスタンバってるから通られへん。

 

「着ろや、クソガキ!!テメエの罪の重さが量れんだろ!!」

 

「るせぇ、クソババア!!未成年に淫行した自分の方が罪が重いやろが!!大体、和服なんぞ着たことねえんだよ!」

 

「システム上着てくれないと困るんだけど……とにかく、着て。ボタンでパッチン出来るように改良してるから」

 

 あ、ホントだ。じゃねえ!なんで着ねえといけねえんだよ

 

「坊主、そこの緩やか流れのところを渡りな」

 

「いや、オレの服!」

 

 雑に木の枝にオレの服をかけるジジイ。

 ホント、なんだってんだとぶつくさ言いながらも取り敢えずは三途の川を渡りきる……三途の川、思ったよりも浅かったな。

 

「っち、最後の最後まで着なかったか」

 

「着てたまるかってんだ……あっちか」

 

 さっきの鬼は向こう岸に居るから、次なにすれば良いのかわかんねえ。

 取り敢えずは白装束に着替えて三角巾を巻いて、ジジババとかが向かっている方向に歩いていくと大きな和風っぽい屋敷に辿り着き、そこにも行列が出来ていた。

 

「皆様、静かに一列にお並びくださいませ」

 

 ……列の誘導してる鬼、転スラのシオンに見える。おっぱい、揺れてる。たゆんたゆん言ってる!!

 あのデカパイ、生で見るとマジでスゲエ!

 

「日本の地獄は、自慢の地獄!

聖書、エジプト、ギリシャの地獄とは大幅に異なります!まずは、裁判を受けていただきますので罪は認めてくださいませ!」

 

 なんか凄い恐ろしい事を言ってる。けど、それよりもおっぱいに目がいく。11081や……。

 汗をかきながら列を調整するシオン(仮)のおっぱいを眺めながら、列に並んでいると段々と前に進んでいく。もうすぐ自分が屋敷の中に入るぐらい前になると意識はおっぱいでなく屋敷に向き、この後の事を考える。

 

「閻魔大王が、おるのか……」

 

 閻魔大王が天国か地獄に行くか決める。

 ドラゴンボールとかかいけつゾロリとかでそういうことをやってるシーンを見たことがある。裁判って言ってたけど、生前の事とかそういうのを知られてるんだろうな……。

 

「次の者、入るがいい」

 

 無駄に渋い声で扉の向こうから声をかけられる。

 これ、アカン。アカン奴や……。

 

「アレが、閻魔大王……」

 

 屋敷の扉が開かれるとそこには平安時代の偉い人が着ていそうな和服を着て、烏帽子を被っている髭が特徴的な男がいた。

 オレは神様の存在は信じてるけども祈らないタイプの人間やけど、こらアカン。なんというか、雰囲気が違う。閻魔の前では嘘はつかれへんとか言うけども、マジや。こんなんなんか嘘ついたらどつかれる。

 

「っしゃあ!!」

 

「……え?」

 

 何時の間にか中に入っていたシオン(仮)はガッツポーズをする。

 

「これで私の32047連勝です、秦広王」

 

「っぐ、我輩、最近鬼灯の冷徹とかで取り上げられてるのにまだ間違われるのか」

 

 忌々しそうな顔で財布を取り出し、1円玉をシオン(仮)に渡す閻魔大王……じゃない人。

 オレの方を見て大きなため息を吐く。

 

「我輩は閻魔大王でなく、秦広王だ」

 

「秦広王……如何にも閻魔大王っぽい見た目と色合いなのに?」

 

「よく見てみろ、烏帽子に秦広と書いてあるだろう。

閻魔がメジャー過ぎるせいで余り知られていないが、日本の地獄は10人の裁判員が居て我輩がトップバッターを勤め、閻魔大王は5番目なのだ」

 

「はぁ……」

 

 豆知識が手に入ったが、物凄く落ち込んどるな。

 

「もう、日本の地獄=閻魔大王のイメージが強いんですから諦めた方がいいですよ」

 

「そういうお前は化けて転スラのシオンになっとるだろう!!」

 

「この方が色々と分かりやすいですし、ちょうどいいんですよ。それと秦広王を閻魔大王と間違われる度に1円を私に渡す貯金で間もなく60年物のロマネ・コンティが買えます」

 

「待て、そんなに間違われたのか?」

 

「はい。付け加えるなら秦広王を知っていた方は大抵は鬼灯の冷徹で知ったらしいですわ」

 

「う~む」

 

「あー、すみません」

 

「あ、申し訳ありません」

 

「あ、大丈夫です。まだぐだぐだしてても」

 

 こっちの気持ちの整理もつかんわ。

 目の前にいる閻魔っぽい人は閻魔でなく、秦広王とか言う人で隣にいるシオンっぽい鬼は秘書なのか?てか、普通に転スラとか言ってたな。

 

「紫煙、お前が色々とややこしくするから動揺しているではないか」

 

「なにを仰いますか。閻魔大王じゃなかったのかで皆、一回はここで驚きます」

 

「むぅ……お主、色々と思うところはあるがこの鬼女は転スラのシオンっぽい見た目になっているだけで本人では無いぞ」

 

「あ、それはなんとなく分かります……その、そういうのを読んだりするんだなって」

 

「そりゃあ読みますよ。

最近は振り込み詐欺とか転売屋とかネタの盗作とか煽り運転とか昔は無かった罪が増えたりしましたので、現代の情報は逐一更新しています」

 

 あ、そうなんだ。

 あくまでもそれっぽい見た目になっているだけで、本人でなくそっち系の知識を持った鬼なんだと納得をする。

 

「では、お主の裁判を行う。汝は……紫煙、コレなんて読むんだ?」

 

 気持ちが落ち着くと、巻物を取り出して広げる秦広王。

 老眼なのか巻物に書いている内容が読めずに、シオン(擬き)に巻物を見せる。

 

「え~っと……秦広王、彼はお主とかお前とかでいきましょう。これは所謂、キラキラネームで」

 

「待たんかい!!それ、もしかしてオレの名前について書いとるん!?」

 

「お主の名前どころかお前が今までやった事を全部書かれておる……安心しろ、名前では呼ばん」

 

 あ、そりゃ助かる!じゃねえ!

 

「コンプライアンスとか守秘義務とかそんなんを一切無視してんじゃねえか!?」

 

「嫌ですね、ここは地獄でございますよ……コンプライアンスはおいしくいただきました」

 

 せやね!ここは地獄やね!!

 

「では、改めてお主の裁判をはじめよう」

 

「裁判……そんだけ証拠があるんだったら必要ないだろ」

 

 落とすなら、とっとと地獄でもなんでも落としやがれ。

 生前の行いを思い出しても本当にロクでもない人生で、悪いことをしている部分が多々ある。良い行いはそんなにしてねえから、問答無用で地獄行きだ。弁護士を寄越せといっても、こんなところに弁護士もいねえんだろ?

 

「お主、自分の最後を自覚してるか?」

 

「……まぁ、一応は」

 

 オレの事が書かれた巻物を読み終えた秦広王。

 嘘をつかないのか確認しているかもしれねえが、死んだ時の事は余り思い出したない。

 

「車に跳ねられて死んだ」

 

「っ、言うんじゃねえ!!」

 

 思い出すだけでも殺意が沸いてくる、マジでやめろ。

 

「アルバイトの給料が入り、携帯代等の支払いをしてコンビニで一休みをしている最中車に跳ねられた」

 

「っ……!!」

 

 死んだ時の事を言いやがる秦広王。

 ああ、そうだ。その通りだ。コンビニでジュースを買って一休みをしているとオレは跳ねられた。車がぶつかって来た。

 その際にコンビニのガラスにぶつかり、割れたガラスが刺さってオレは大出血。手の施しようが無い。

 

「コレ、バックで跳ねられてますね」

 

「こんなもん聞いてもどうこうなるって訳やないけど、オレを殺した奴は誰なん?」

 

「82歳の高齢運転手で、役所に免許返納に車で行ってそのまま帰りにコンビニに寄って踏み間違えです」

 

「っ……そのジジイはどうなるんや!!」

 

「今、現世の方で裁判中で、寿命的な意味では後、10年は生きます」

 

「はぁ!?」

 

 そんな事まで分かるのかとかそういうので驚いてるんやない。

 オレを殺した奴はまごうことなきクソジジイで、オレは本当にしょうもない理由で殺された。悪いことをしたと思える様な事は幾つもあるが、それよりも悪い事をしたジジイは更に生きる。ふざけんじゃねえ。

 

「しかも、裁判で揉めてます。

免許返納関係で踏み間違いが問題になってて、高齢で結構なボケが入ってますからワシはしてないと」

 

「殺せ!!そのジジイを今すぐに殺せ!!無理だったら化けて呪い殺す!!」

 

 ふざけんじゃねえよ!!オレを間違えて殺しておいて、無実だなんて許さねえ!!

 

「死後の世界の住人が生きてる人間を殺すのは基本的にご法度だ。精神的に追い詰めて自殺させるのは大丈夫だが、呪い殺すのはできん」

 

「っ……クソ、クソ、クソ!!!」

 

 なんだよ、なんなんだよ。

 オレがなにをしたって言うんだよ。コンビニで買ったジュースを飲んで休憩してただけじゃねえか!!

 

「落ち着け」

 

「落ち着けるか!このまま地獄に落ちるんだったら、せめてあのジジイも巻き込んでやる」

 

 悪夢を毎日見せてやる。毎日化けて出て、クソジジイと関わる奴等を苦しめてクソジジイを孤独死させてやる。路上で野垂れ死にさせてやる。

 

「お前は地獄に落ちない」

 

「なんだと?」

 

「親よりも先に子供が死ねば賽の川原と呼ばれる場所に向かう事が自動的に決まる。お前はそこで新しく生まれ変わる……所謂輪廻転生というのをする」

 

「輪廻転生……」

 

「仮に貴方が大人だとしても、コレぐらいならば私のグーパンで罪が帳消しになりますので天国行きです」

 

 暴力で全てを終わらせるのかよ……にしても、転生か。

 

「最近流行りの異世界転生じゃありませんよ。文字通り記憶も人格もリセットして、全く違う人間になる転生です」

 

「それぐらい分かるわ……」

 

 前世の記憶を持ってるとか、そういう感じのアレだろう。

 自分の今後の処遇について聞かされ、無言になる。全く別の人間になるのが怖いって感情があるが、それとはまた別の感情がある。

 

「……生きる意味を見出だせないのか?」

 

「ちゃうけど近い」

 

 キラキラネームで苛められたりして、苛めてた奴に復讐したり色々とやったりした。

 今思えばロクでもねえ人生だったが、それでも大人になった後でも酒を飲める本当の友人が出来たりして良い人生だったとは思っとる。けど……

 

「未来が見えてなかったんだよ」

 

 将来に希望を持っておらず、やりたい事を見つけていない。

 小学生の頃は勉強して良い学校に入って良い会社にってなってたけど、高校生になる頃にはその考えは大きく否定された。

 大手で儲かってる筈なのに人件費を削りまくるブラック企業、昔は英語が喋れるのが凄いとかどうのこうの言われてたが、今じゃ英語が喋れるのが当たり前。○○が出来るのスゴい!じゃなくて○○出来て当然になった。常に新しいものを求め続けて、○○出来てスゴいからの今時○○出来て当たり前のループが何度も何度も起きて求められる最低基準が年々上昇。

 なにかをやりたいと思っても、立ちはだかるのは生まれた場所や環境、そして金。どれだけ才能があってもはじめる為の支度金が無いとなんにも出来ない。

 業界のトップどもが古い考えを持っていたり、ずっと頂点に座っていて親族で幹部の席を回していたりするから、新参者は幹部の誰かと結婚して玉の輿を狙うぐらいの事をしねえといけねえ。

 会社に入ってヘコヘコと頭を下げて毎日理不尽に叱られたりしてコツコツと努力するんじゃなくて、自身で会社を立ち上げたり、自分が思う面白いことをしたり周りを気にしない発言をしたりした方が良いって証明されたりした。

 社会科担当の教師が言っていた。政治家になるにはある意味、芸能人になって知名度を上げた方がいいかもしれないって。政治家と芸能人、どっちに投票が入るかと言われれば芸能人って、皮肉にもならねえことを言いやがった。

 海外みたいに戦争らしい戦争は起きてはいないし、治安は良い。けど、それだけで……やりたいと思える事も無いし、将来の事を考えれば不安しかない。趣味はあっても夢はない。

 

「バイトをはじめたのだって金目的で、お客様の笑顔とか人と触れあいたい云々は1ミリも思ってねえ」

 

 理不尽だらけで、それが仕事だと言われても我慢は出来ても納得は出来ねえ。

 本当になんで頑張ってんだと思いながら社会を動かす歯車の1つになっている。

 

「現世は地獄よりも地獄だからの」

 

「地獄行きかどうか決める人がそんな事を言うんか……」

 

「仕方があるまい、非行に走らず真面目にコツコツと頑張り続けても無駄なのが今の現世だ。仮にこれが安土桃山時代や明治時代ならばあの手この手で政権を崩したり実力行使に出ているぞ」

 

 でも、そういう奴等が血祭りになってなんやかんやあって出来たんが今の国だろう。

 

「その賽の川原とか言うの無しに出来ひん?……ぶっちゃけ、金持ちの子供になったとしても生きれそうにない」

 

 年々税金とか色々と上がってきとるんや。

 東京の六本木とかに住めるレベルの金持ちの子供にならへんと、仮にやりたい事を見つけたとしてもどうにもならん……まぁ、やりたい事も見つからない。もうどうすれば良いのかが分からへん。最終的に手に職をつけてるタイプじゃないとアカンのかな……。

 

「賽の川原が嫌ならば、異世界転生になるぞ」

 

「……え?」

 

「あ、異世界といっても二次元の世界に限りなく似てる世界です」

 

「……あんの、そんなの?」

 

 さっき異世界転生じゃなくて別の人間に生まれ変わるどうのこうの言うてたのに、異世界転生があるってどうなん?

 

「お主、テレビで自殺のニュースを見たことはあるか?」

 

「……あっけどよ」

 

 一時期ブームかってぐらいに取り上げられてたから、嫌でも目に入る。

 そんでその理由が人間関係とかで、大体がいじめ云々。

 

「死後の人間を裁いたりしているから言えるのだが、若者の自殺は将来に希望を持てない者が多い。

昔と比べて飢えや快楽、くだらぬ戦争による死は大きく減ったものの心が絶望してしまい生きる希望や意味を持てずに死ぬ者が多い」

 

 ……まぁ、生きてたって意味が無いって時が多々あるからな。

 

「特に2000年以降、そう言った理由で死ぬ者達やくだらぬ事に巻き込まれる者達が多くなった。

幼児虐待は勿論のこと待機児童にお前のキラキラネーム、無責任に子供を産むなどを数えればキリが無く、現世は地獄よりも地獄だ」

 

「現世が地獄だから異世界転生させてくれるんか……」

 

 こっちとしてはありがたいんやけども、現世が地獄と言われ続けると異世界転生の気力も無くなるわ。

 

「ある日のこと、お主の様に自我がある奴は基本的に転生の順番が回ってくるまで石積をさせ、赤ん坊の場合は問答無用で即座に転生させるのだが悲劇は起きた……転生させた赤ん坊が赤ん坊のまま再び地獄にやってきた」

 

 ……生まれ変わっても赤ん坊のまま死んだってことか。

 

「戦乱の世、物資の運搬もままならぬ時代ではその様な事は当たり前であった。

しかし今は違う。飽食と言われても当然なぐらいに食べる物はあり、学校に通わなければならない義務が出来た。くだらない殺しあいは減った筈なのに、平和を維持する事が出来ているのにそうなってしまった事に我輩達十王の長たる閻魔大王は悲しみ、1つの決断をした……それがこちらの世界から干渉が出来るこの世界の創作物と限りなく似てたり似てなかったりしておる異世界に転生させる、異世界転生だ。お主の様な者達に勧めておる」

 

 ……重い。

 

「聞いとったけど、それって現実から物理的に逃げてるんやないの?」

 

「なにを言うと思えば、酷すぎる現世が地獄だと命を断つ者達が多くいるのだ。

無理に立ち向かえと言ってもどうにもならんし、我々としても幸せに生きてほしい……辛いのならば、逃げても構わぬ」

 

 地獄なのに優しすぎひん?

 

「ぶっちゃけ向こうの世界も地獄と大差変わらないんですけどね。

あ、でも楽しい事とか夢とか希望には満ちていますよ。お陰で私達も良い酒の肴に」

 

「酒の肴って、え、なに、見てんの?」

 

「勿論、見てますよ!暇潰したり出来ますし、原作が作れないからって安易に漫画に頼る改悪実写映画よりも面白いですし、負けヒロインがヒロインになったりしますし」

 

 うわ、趣味最悪。

 

「この異世界転生は飴と鞭でもある。

よくある異世界転生物の様にチートと思わしき力を与える一方、お前達に苦痛を与える」

 

「苦痛って、なんか呪いの武器的なのか?」

 

 こう、使えば使う度に代価を支払わないといけないやつとか鋼の錬金術師の真理の門の向こう側を見た代償を、体の一部を支払わないといけない的なのか?

 

「いや、お前がお前であり続ける事だ」

 

「オレがオレ……それのなにが問題なんや?」

 

 顔とか体格とかならばまだなんも問題ない。

 人格とかそーいうんが、記憶がリセットされて色々と違う人間になる方が怖い。

 

「はぁ……まだまだガキか」

 

 へーへー、ガキですよ。

 

「転生先で億万長者になったり綺麗な子と結婚したりするでしょ?その時に本当に報告したい人達に絶対に永遠に報告することが出来なくなるのです」

 

「……そういうのか」

 

 母方と父方、両方の祖父母は糞みたいなので人の名前をキラキラネームで勝手に提出した事は憎んでいる。

 お陰さまで苛められたりしたが、それでも両親の事は嫌いじゃない。むしろ好きだ。高校に入って出来た気の合う友人達もだ。結婚の報告とかスゴい人間になったときとか、本当に自慢したい報告したい人達に報告出来ない。

 

「それに転生先はくじ引きで決めるから行きたい世界には行けない可能性が高い」

 

 ……プラスとマイナス、あるんやな。

 

「転生するには試験を受けなければならん」

 

「試験って、学科試験とか無理だぞ!?」

 

「そういうのでなく、転生先で生きれる様に色々と鍛えなければならん……紫煙」

 

「はい」

 

 シオン(擬き)は谷間から拳銃を取り出す。

 何処になんつーもんをしまってるんだよ、よく入れる事が出来たよな……ありがとうございます。

 

「どうぞ、秦広王を撃ってください」

 

 取り出した拳銃をオレに渡した……え?

 

「コメカミ、いや、いっそのこと眼球目掛けてもいいですよ」

 

「待て、何時も撃たれるのはお前だろう!何故今回に限って我輩が」

 

「ちょっと有給が欲しいので」

 

「この前、休んだばかりだろう!!」

 

 ズシリとおもちゃの銃とは比べ物にならない重さを感じる拳銃。

 こういうのはあんま詳しく無いが、多分、本物の弾丸が入っている。コレを撃てと?

 

「さぁさぁ、秦広王の何処を撃っても構いませんよ!!」

 

「撃つなよ、ふりとかそんなんじゃなくて絶対に撃つなよ!!撃って良いのは、紫煙の乳袋だけだ!!」

 

「……」

 

──バン

 

 オレは恐る恐る空に向けて発砲する。

 おもちゃの銃とはでは絶対にありえない衝撃が腕を襲い、痺れる……マジで弾丸が入ってやがった。

 

「惜しい!けど、撃つことは出来たので合格です」

 

「え、合格?」

 

「その引き金を引くのが転生者養成所の入学試験だ」

 

 さっきまでの痴話喧嘩が嘘の様にオレに拍手を送る、秦広王とシオン(擬き)。

 オレを試していた様で、試しにもう一度拳銃を撃ってみると二発目が撃たれた……どういうこっちゃ?

 

「転生者には生半可な覚悟ではなれん、ある程度の度胸が最低でも必要だ」

 

 撃って良いのは撃たれる覚悟がある奴だけだ的なのか?

 なんだかよく分からないが、合格したことに一先ずは喜ぶ。

 

「その転生者養成所ってなにを学ぶん?」

 

「どんな世界に転生しても問題ない様に鍛える為に、色々と学ばせます。ホント、転生先ではなにが起きるか分かりませんので」

 

 拳銃の時と同じく谷間からスマホを取り出すシオン。

 今度はなんだと画面を見ると動画が流れはじめる。

 

「黒子のバスケの黛千尋?」

 

「転生した者の容姿はその者の魂で決まり、大体がなんかのキャラの容姿になる。あくまで本人でないから黛千尋でなく黛千裕という名前違いで生きている」

 

 黛千尋に似るって、結構ひねくれてんねんな。

 取り敢えず動画を見てくださいと言われ、動画を見ていると黛さん?は苛められている。

 転生先でも苛められるのかと胸くそ悪い動画を見ていると、ふと苛めている側が着ている服が遊戯王GXのオベリスクブルーの制服だと気付く。

 なんでリアルファイトやってんだよ、遊戯王の世界なら遊戯王で決着をつけろよ。

 そう思っているとオベリスクブルーの生徒が黛さんのデッキケースを奪い、カードを何枚か抜いて去っていった。

 

「カード、カツアゲしてたのか!?」

 

 なんでよりによってカードなんだよ……あ、なんか返り血を浴びてるブラックマジシャンガールが出てきた……泣きながら黛さんに謝ってる。

 

「この子、デュエルアカデミアの入学試験でAtoZ軸のユニオンデッキを使おうとしたら勝手に取り憑いているブラマジガールが自分を使ってと勝手にマジシャンガールデッキに変えて、結果的には圧勝で終わりましたがヤバい奴等に目をつけられたの」

 

 社長が嫁を手に入れる為にコレクターにマフィアをけしかける世界だからな……。

 てか、返り血を浴びとるって事はブラマジ、ブラックバーニング(リアル)をしたん!?あ、盗られたカードを返しとる。

 

「本当に転生先ではなにが起きるか分かりません、そもそもで転生先によって求められる物が色々と変わります。

食戟のソーマの世界では料理の腕、遊戯王やバトスピの世界ではカードゲームの知識を、魔法科高校の劣等生では科学の知識を、イナズマイレブンならば超次元サッカーの技術を、FAIRY TAILの世界では戦闘力を求められます。どんな世界に転生してもある程度は問題が無いように鍛えなければいけません」

 

 遊戯王の世界で筋肉を鍛えまくっても意味はない。ゼロの使い魔の世界で遊戯王の知識を極めても意味はない。

 物語には世界観があったりして、その世界観に合うスキルを持っていないとダメで……オレにはそういうスキルは無い。キラキラネーム以外は割と普通の高校生だ。

 

「でなければ、チートを渡したとしても十二分に扱いきれない。

あくまでも漫画の様な世界に転生させるだけであって、我輩やお主にとっては現実だ。未熟者を無責任に送り出すわけにはいかん、メイドインジャパンの名に相応しい転生者を送り出さなければ」

 

 秦広王はオレに巻物を渡す。

 なんだと思い開けてみると転生者や異世界転生について事細かく書かれており、最後のところに汝は異世界転生をするかと名前を記入する部分があった。契約書的なのかとオレは目を通す。

 

「養成所に入る資格は得た、最後に決めるか決めないかはお主次第。

養成所に入れば誰もが転生者になれるわけではない。途中で何百人も脱落していく……脱落者は強制的に転生させられる」

 

 そうは言うが、生まれ変わっても現実には希望なんて無い。だったら、暇潰しとか酒の肴にされようが異世界でもなんでも転生して幸せに暮らしてやる。オレは巻物に自分の大嫌いな名前を書いた。

 

「お主は養成所の16期生になる。まだ他にも若者の死者は沢山いてその者達が入るかどうか決まるまで、入学式がはじまるまでの暫くの間は待機だ」

 

「待機室はこちらです」

 

 秦広王の屋敷から去ってシオン(擬き)の案内の元、待機場所に向かう。

 待機場所は何処からどう見ても完全個室のネットカフェで、漫画は勿論の事、テレビゲームのレンタルとかがパソコン1つで出来るようになっていた。

 

「まずは、コレを読んで後はお好きに。原作知識を蓄えるのも手です」

 

 既に試験がはじまっているとかそう言う感じのは一切無いと念を押して消えるシオン。

 

「え~っと……鬼灯の冷徹、読んだことないなぁ」

 

 とりあえず、置いていった漫画を読もう。




次回、アリーシャの槍

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。