テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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アリーシャの笑顔は曇っている時がエモかったりする。


アリーシャの槍

「お前等、運が良かったな。

オレ達が数十分遅れてたら聖寮の特等対魔士に血祭りにあげられてたぞ」

 

「げぇ、マジかよ!?」

 

 マジだ。

 シグレ達が完全に港から去った後、アイフリード海賊団の船は港に停泊。

 船員を代表してベンウィックが出てきたので、命拾いしたことを言う。ほんと、危なかったぞ。

 

「ミッドガンドにいる筈の副長達が何時の間にかアイルガンド領にいて迎えに来いって言われてヒヤヒヤしましたよ」

 

「オレが居なくなった時の予行演習だと思えばいい。どうだった、オレの居ない船は?」

 

「何時もより快適でしたけど、なんか物足りなかったすよ……あ、でも早く辿り着きそうになって逆にヤバくなりそうになったって考えればコレもまた副長の呪いかも」

 

 遠回しどころか結構な嫌味に聞こえるぞ。

 アイフリード海賊団達からオレ達が突然別の地方に居たことに文句を言われるのだが、軽く受け流す。

 

「それで、船長についてなにか分かったんすか?」

 

「ペンデュラム使いは、ザビーダはアイフリードについて知っていた」

 

「じゃあ、そいつを追えば船長に」

 

「早々上手く行く話じゃない、聖寮はオレ達が思っていた以上のナニかを隠している。

ザビーダを狙って追うのも1つの手だが、あいつも聖寮に喧嘩を売っていた。なら、聖寮の真の目的を探っていればメルキオルのジジイにもザビーダにも、そしてアイフリードにも辿り着く」

 

「その為にも先ずはサウスガンド領のイズルトに向かわねばの」

 

「お前等……少しは休まないとダメだろ」

 

 聖寮がなにをしようとしているかが不明で、ロクでもない事をしているのは確かで時間は残されていない。

 一刻を争う状況だが、アルトリウスにボコられて以降まともに休みを取っていない。ベルベットとアリーシャは大きく血を失っていて、ライフィセットは憑魔になりそうになり、ロクロウはついさっき武器がぶっ壊れた。

 カノヌシがなんなのかアルトリウスがなにをしようとしているのかが分かるかもしれない本を読める人に会いに行く為に別の地方に向かうってことはこれから長い長い旅になるかもしれねえ。

 限界を越える時は頑張らねえといけねえが、休める時にちゃんと休まねえと……特にアリーシャは寝たまんまだ。

 

「別に私なら問題無いわよ」

 

「んなわけねえだろうが、明らかに疲れてんだろう」

 

「……疲れてるの?」

 

「特になにも変わった様子ではなさそうですが……」

 

「アメッカは肉体的に疲れてる。けど、お前は肉体だけじゃなく精神の方も疲れている……色々とあったからな」

 

 自分一人で突き進み、ライフィセットをあんま見ようとしなかった。

 少しでも一歩でも早くアルトリウスを殺すと、殺せるきっかけを見つけて早くやるんだと焦りまくっていた。そしてオレはタコ殴りにされて、殺意をそこかしこに散らかさずにアルトリウス関係以外では頭が冷えた。

 ほんと、1日ちょっとで色々とありすぎじゃねえか?

 

「ベンウィック、少し休息を取る」

 

「了解!」

 

「オレはこの辺りの組合と話をしてくる、適当に宿を取っておけ。流石に病人を船に乗せっぱなしはできん」

 

「そうか……ロクロウ、悪いがアメッカを宿に連れてってくれねえか?」

 

「それは構わないが……良いのか?お前が連れていかなくて?」

 

「いや、誰が連れていこうが変わらねえだろ?」

 

「いやいや、お前は何だかんだでアメッカにべっとりだろう」

 

 そう言われればそうだけど、あくまでもこの時代に連れてきたりしたからだ。

 お姫様を守る勇者とかそういうのじゃない、ビジネスパートナーとか友人に近い関係性の筈だ!力が無さすぎて絶望していて甘えてきてるのを強く言えないけど、そういう関係じゃねえ。

 

「とにかく、連れてってくれ」

 

 ロクロウが宿屋へと向かうと、マギルゥも休むと後を追っていきライフィセットも向かい、エレノアもついていく。

 

「ベルベット、お前は残れ」

 

「なんで……武器ね」

 

「そういうことだ」

 

 最後にベルベットが宿に向かおうとするが止める。

 今、この場に居るのはオレとベルベット、そしてクロガネ。なにをするかと言われれば、ベルベットの新しい武器についてだ。

 

「號嵐を持ったシグレが居たし、状況が状況だけに優先してやったが、作れよ」

 

「約束は守る……だが、肝心の號嵐に勝つことは出来なかった」

 

 折れたロクロウの短刀を持ち、悔しがる。

 顔はないが雰囲気で分かる。號嵐に太刀打ち出来る最高の武器が出来たと思ったらあっさりと折られちまった。

 

「號嵐を破るには神の太刀と同等の刀だけでなく神業を持った使い手が必要になるか」

 

「言っとくが、オレはやらんからな」

 

 お前の作る刀が半端ねえのは分かるが、それはやらん。

 

「號嵐を破る事が出来るのはお前じゃない、お前には執念が無い」

 

「……まぁ、そりゃな」

 

 創作物みたいになんかやってて死んでしまって異世界に転生じゃなくて現世に絶望している人間が転生してんだから。

 

「休んだら私達は別の領地に移動する……後でアイゼンに掛け合ってくるわ」

 

「助かる……それで、お前さんとアメッカの武器だったな」

 

「コレと似た感じの大きさで、頼むわよ」

 

 手甲から出てくる剣って、ベルベットの武器って変わってるよな。

 

「そういえば、私に向いたやり方は無いの?」

 

「ベルベットに向いたやり方ね~」

 

 アリーシャには槍が完成した後にやらなければならない事があり、ベルベットはそれをしなくていい。

 そんなのがあるならば逆にアリーシャがしなくても良いが自分がした方が良い方法があるかもしれない……確かにある。

 

「あるにはあるが、それは結構危険だ」

 

「危険は承知の上よ」

 

「そうじゃなくて、こう、持ってるだけで周りを巻き込むレベルのヤバい剣になる」

 

「……なにをやらせるつもりなの?」

 

「剣が出来た後に歌を歌ってもらう」

 

「歌って……オカリナの時もそうだけどあんた変な音楽を知ってるわね」

 

「言葉や音には科学的にも神秘的にも計測できねえとんでもねえ力があんだよ」

 

 ロッキーのテーマを聞いて燃え上がる、ヘビメタを聞いてハイになる、般若心経を聞いて心を落ち着かせる。

 アニメだって、そう。処刑用BGMなんてものがあったりしてコレが流れたら勝ち確定だと思っちまう。歌詞や音に込められた意味とかそういうのにも力がある。

 

「音に力……」

 

「暑い場所でセミの鳴き声を聞いたら余計に暑く感じ、暑い場所で暑いと言われ続けばより暑く感じるだろ?アレも音や言葉の力だ」

 

 ベルベットの場合、ヤバい力を歌って込めねえといけねえ。

 憑魔のベルベットが込めるとなると嫌でも穢れ関係になって、憑魔以外には猛毒でしかない。穢れに当てられて、憑魔化したりしそうで怖い。

 

「安心しろ、素材の時点でやべえ武器になる」

 

 アリーシャの槍よりは弱いが、號嵐とやりあえるレベルの業物にはなるのは確かだ。

 

「……使うなら、この2つだけを使って」

 

「はいはい」

 

 ベルベットは闇のメダルと炎のメダルの破片を選んで髪の毛を数本抜くと、宿屋へと戻っていった……。

 

「先にアメッカの槍を作るか……逆戻りだな」

 

 ここは産出した煌鋼を輸出する港、アイゼン達、ヤバそうな裏社会の住人達の協力を得れれば工房の1つや2つ借りれそうだが炭鉱の工房に戻る。

 

「クロガネ、普段通りの刃を作るんじゃない。作る過程で血や髪の毛を混ぜたりして、完全にアメッカ専用の槍を作る」

 

「純粋な鋼を作るために余計な物をぶちとばすのが刃物を作る時の鉄則だぞ?」

 

「んなことは分かってる」

 

 混ぜる事に意味があったりする……多分。

 

「それとアメッカの槍なんだか、こういう感じに出来っか?」

 

 ドラゴンレンジャーの獣奏剣や仮面ライダーワイズマンのハーメルケインみたいに笛機能をつけてほしい。

 アリーシャが時のオカリナを吹いて効果があったのならば賢者のメダルを用いて作った笛でも効果はある。

 

「槍じゃないナニかが出来るのは分かってたが、形から別物か」

 

 笛機能はあるが、アリーシャの槍の原型は残しとるわ!

 

「やらねえのか?」

 

「まさか、コレはコレでどんな物が出来るのかが気になる……ただ、1つだけ問題がある」

 

 工房に辿り着いたクロガネは、椅子に座りロクロウの時と同じく金槌を何処からともなく取り出す。

 

「ベースとなる剣を寄越しな」

 

 そういうので、叩き折った六賢者の剣の刃部分を渡す。

 自身の頭を加工した時と同様に炎を燃やす……燃やす、燃やすと言ったら燃やす……のだが

 

「俺にはこれ以上は無理だ」

 

 真っ赤にはならない。

 

「クロガネ、お前の炎、何度だ?」

 

「知らんが、マグマ並に熱い筈だ」

 

 それは絶対に無い。

 マグマの温度は1000~1200ぐらいで、刀を作るにはもうちょっと温度が高くないと出来ない……2000℃ちょっとってところか?となると、難しいな。

 

「最低でもタングステンを溶かせる温度を出さねえと」

 

 六賢者の剣は元の世界に存在する金属で出来てない。

 アリーシャの槍に使う超合金を生み出す為には最低でも熱に滅茶苦茶強いタングステンを溶かせる温度が必要だ……

 

「そのタングステンとやらを溶かすにはどれぐらいの温度が必要だ?」

 

「マグマの約3倍だ」

 

「おいおい、どうやって溶かすんだ?」

 

 転生特典が言うには、特殊なガスや電熱とかで溶かせる。

 特殊なガスは無理だが、港に戻ればバンエルティア号に置きっぱなしにしている磁石と海水の流れを利用すれば電気を作り出し、電熱はどうにかなる……が、あくまでもタングステンを溶かせる温度でありオレ達が相手にしているのはタングステンよりもやべえ金属。

 

「ここはオレも頑張らねえと……アイツらに無茶を言いまくったんだから」

 

 何時も着ている緑の衣装を脱ぐ。

 リンクお馴染みの緑の衣装は本当にただの服で、なんの力も無い。今からすることを実行すれば燃え尽きるだけ……オレは赤の衣装に着替えてグローブをつける。

 

「クロガネ、死ぬほど熱いが我慢しろよ」

 

「熱いなんてもんは、随分昔から体に感じないな」

 

 

─────────────────────────────────────────────────

 

 

「……ここ、は」

 

「目が覚めたの」

 

「ベルベット……私は」

 

「あんた、あの後倒れたのよ。まぁ、あんだけ血を流したんだから当然と言えば当然だけど」

 

「そうか……」

 

 場所と時間は変わり、パッと目覚めるアリーシャ。

 看病にあたっていたベルベットは意識を失うまでの事を説明すると、心配そうな顔をする。

 

「安心しなさい、聖隷達の意志は取り戻せたわ」

 

「そうか!」

 

 演奏を途中で止めたことを気掛かりで、あの後の事をざっくりと語ると喜ぶアリーシャ。

 危うく自分が死にかけたのに他人の心配をしているなんてとベルベットは少しだけ呆れるが、本人が喜んでいる以上は特になにも言わない。

 

「お~目覚めおったか」

 

「起きたんだね」

 

 部屋から声が聞こえ、入ってくるマギルゥとライフィセット。

 

「体調はどうじゃ?」

 

「……スゴく快調、いや、それ以上だ」

 

 血を多く失って、ずっと眠っていた。

 多少の空腹は感じるものの意識がスッキリとしていて体が羽根の様に軽い。

 生まれてからで多分、一番調子が良い日と体を軽く動かす。

 

「丸二日飲まず食わずで眠っておったのにか?」

 

「そんなに寝ていたのか……すまない、1日でも早く向かわなければならないのに私のせいで」

 

「別に、あんたのせいじゃないわ」

 

「物資を補給したり、異大陸に偵察船を出したり色々とやったりしたからどっちにせよ数日間はここに居たよ」

 

「そうか……ところで、ゴンベエは?」

 

 自分の側に居るのが当たり前なのにオレが居ない事に疑問を抱くアリーシャ。

 

「カドニクス港に来て直ぐに炭鉱に逆戻りじゃよ。

対シグレ用に作ったロクロウの短刀は折られるし、お主やベルベットの武器もあるからの」

 

「それにしても遅いよね」

 

「ロクロウの分も含めて3つだから、仕方ないわよ」

 

「ロクロウは二刀流じゃから4つじゃよ」

 

「うーす、待たせたな」

 

 4人がオレや武器の事を話している中に、オレ参上!

 宿屋の一室の入口を足で蹴り開け、4人の顔を見る……アリーシャは目覚めている……うん。

 

「ありがとう」

 

「っちょ、抱きつくな」

 

「お礼を言わせてくれ……ありがとう。私1人では、口先だけで終わるところだった」

 

 目覚めのソナタを教えた事についての礼を言ってくるアリーシャ。

 オレに抱きついて心の底から感謝してくれるのだが、抱きつく必要はねえんじゃねえのか?

 

「アメッカ、体調はどうだ?」

 

「おかげさまで、快調だ!何時でも出発は出来る!」

 

 残念だが、アイゼン達の方が無理だから出発は出来ねえ……にしても、快調か。

 

「ベルベット、お前の方はどうだ?」

 

「……よく分からないけど、スゴく快調よ」

 

「そうか」

 

 よっしゃ。

 

「アメッカもベルベットも失った血を取り戻した、わけではなさそうじゃの」

 

 快調の理由はそれだけではないと見抜くマギルゥ。

 ぶっちゃけた話、この世界の住人の身体能力が超人的だとしてもたった数日で致死寸前まで血液を失ってからの全快以上の快調は無理だとオレも思う。

 

「……無駄にはならなかったようね」

 

 自身の髪を撫でるベルベット。

 髪の毛とか血液とか色々と採取したベルベットとアリーシャの一部をぶちこんだ結果か、2人の力が底上げされている。

 2人から感じる気的なのが少し前と段違いに上がっている……一部をぶちこむんで効果があれば良いなと思っていたがここまでだったのは予想外だが、パワーアップできて越したことは無い。

 

「クロガネ……問題ないぞ」

 

 オレは周りを見てクロガネを呼ぶ。

 なんだかんだで頭の無い鎧武者だからなにも知らない一般人に見られればなに言われるか分からねえからな、慎重にしねえと。

 

「思ったよりも苦戦したが、中々の物が仕上がった。恐らく、お前達の武器は世界の何処を探してもそれ以上の物は無いだろう」

 

 布にくるまれた武器を置くクロガネ。

 布越しでも物凄い力を持っているのが肌で感じる。

 

「ベルベットの武器は変わってるから、アレってどうなってるの?」

 

「明らかに剣と手甲の長さがおかしい……おかしな武器じゃ」

 

 お前も大概だろう。

 

「……秘密よ」

 

 ホント、どうなってんだろうな?

 ベルベットは布にくるまれている自身の新しい武器を取り出す。と言っても、形が大きく変わったとかそういうのでなく、前と色以外はなにも変わらない手甲等が中に入っている。

 

「……悪くはな──」

 

「ベルベット!?」

 

 え、っちょ、ベルベットが燃えた!?

 

「とてつもない武器が出来るのは分かっておったが、お主が燃えてどうするんじゃーい!!」

 

 直ぐに水を出してベルベットにぶっかけながらツッコミを入れるマギルゥ。

 ライフィセットも心配をしながらベルベットに水をかけて助ける……あれ?

 

「ベルベット、大丈夫?」

 

「別に熱さを感じないから……?」

 

「お主、何時早着替えを修得したんじゃ?」

 

「いや、そういうレベルじゃねえだろ」

 

 炎に包まれたベルベット。

 ライフィセット達が火を消してくれたのだが、なんか若干だが見た目に変化が起きていた。炭の様に黒くて綺麗な髪の先端が熱を帯びた鉄の様に真っ赤になっており、着ている服もそれに合わせるかの様に燃える炎をイメージする様な色になっていた。

 服自体は変わっていない。カラバリと言われても違和感が無い感じの変化で……

 

「神衣……」

 

 スレイが天族と融合する神衣ぽかった。

 ベルベットは天族と融合していないから、違うけどそれっぽいと感じたアリーシャは思わず呟く。

 

「……悪くないわね」

 

「文字通り目に見えるパワーアップをしたの」

 

 誰が上手いことを言えと……。

 

「言っとくが、パワーアップしたからってアルトリウス殺れる訳じゃねえからな」

 

「分かってるわ」

 

 力を得たことによりなんかやらかさないかと思ったが、冷静なベルベット……

 

「ところでこれ、どうすれば戻れるの?」

 

「知らん」

 

 まさかこんな事になるなんて思ってもみなかった。

 血や髪を混ぜる事でなんかパワーアップし、凄い素材で凄い武器と結構軽いノリだったんだが、ここまでとは予想外だ。

 

「あ、戻った」

 

「……コツがいるわね」

 

 元の姿に戻ったベルベット。

 自分の意志で戻れたというよりは偶然元に戻れたようで、この力をどうやって使いこなすかと考えているようだ。

 

「この槍も材料が同じだからアメッカも」

 

「多分、なんか起きるな」

 

「この素材で刀を作らなくて正解だな。これで號嵐に勝てても、嬉しくはない」

 

 ホント、断って正解だったな。

 

「私の、私だけの槍……」

 

 ゴクリと息を飲んで布にくるまれた槍を見つめる。

 ベルベットの武器に使ったのは闇と炎のメダルだけだが、アリーシャの槍に使ったのはそれ以外にもゼルダの伝説に登場する不思議な力を持ったアイテムをこれでもかと混ぜまくった槍……なんだけどな……。

 

「アメッカ、槍もいいがコイツもある」

 

「盾?」

 

 腕につける小さい盾を渡すクロガネ。

 

「材料が結構余ってな。残すのもなんだから盾にした。腕のサイズに合うかどうか確かめてみてくれ」

 

「ちょうどいいサイズだ……力が湧いてくる……」

 

 盾だけじゃ、姿は変わらないみたいだな。

 

「この野郎が余計な機能を後から注文してきて、若干だが形状が異なっている。違和感が無いか確認してくれ」

 

「余計じゃねえよ、毎回毎回オレのオカリナを借りるわけにはいかないだろう」

 

「別にゴンベエのを借りるのは面倒ではないんだが……」

 

「お前が一人立ちした時にオレはお前の側に居ないんだぞ」

 

 流石にオカリナを目の前で貸すのは良いが、貸し与えるのは無理。

 

「え?」

 

「……んだよ?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 なにかに驚き落ち込むアリーシャ。

 落ち込みながらも槍をくるんでいる布を取り外す……。

 

「……コレが、私の槍……」

 

 持った時の重さや長さ等の違和感を感じず、槍の力を感じるアリーシャ……なんだけど。

 

「禍々しいのぅ」

 

 その槍は禍々しい闇を纏っており、先端部分は紫色だった。

 穢れは纏っていないが禍々しい闇を纏っていて、本当にあんだけの材料で作った槍なのかと思わず疑っちまう。槍としては最上級で、神秘的な力を纏っている。それなのに禍々しい闇を纏った槍が出来た。

 闇=悪じゃねえから、問題は無いがあんだけの材料を混ぜ混んだのになんで……まさか、混ぜすぎて闇になったのか?

 

「これで、私も戦える」

 

「あ!アメッカの周りに闇が!」

 

 色々と考えているとベルベットの時と似たような事が起きる。

 ベルベットは燃えたが、アリーシャの周りには純粋な闇が出て来てアリーシャを飲み込もうとしている。

 

「もう周りに迷惑をかけない、もう足手まといにならない」

 

 ……

 

「凄まじい、なんて力だ……ゴンベエもスレイも関係無い、私だけの力。これなら、これならばヘルダルフと戦える!!ゴンベエを置いていかずに、見捨てずに済む!!」

 

「ちょ、ちょっと、力が湧き出るのは分かるけど、制御しなさいよ」

 

 ミシミシと立っている場所にヒビを入れるアリーシャ。

 湧き出る力に興奮してしまい制御する事が出来ない……いや、そうじゃない。

 

「制御なんてしていてはダメだ。そうだ、この力があればなんでも出来る。今までの見ているだけの私じゃない、私はもう──」

 

「闇に飲まれるっと!!」

 

 目からどんどん光を失いハイライトが0になるアリーシャに蹴りを入れて飛ばす。

 よし、アリーシャから槍を離した。

 

「なるほどのぅ、確かにこんな槍を持てば誰でも力を得た優越感に浸れるわ」

 

 床に転がる槍を拾うマギルゥ。

 槍から感じるとんでもない力を持つ事により、より強く感じてアリーシャに起きた変化に納得する……力に溺れかけた。

 今までとは比べ物にはならない文字通り目に見えるパワーアップをする事が出来る禍々しい闇を纏ったこの槍、その槍から伝わる力にアリーシャは飲まれかけた。

 

「おかしい、おかしい……こんな事があんのか!?」

 

 戦闘的な意味では弱い。

 だが、精神的な意味ではアリーシャは成長したのにあっさりと飲み込まれた。力を得た優越感に浸るなんてアリーシャらしくない。貪欲なまでに求め続けてはいるが、手に入れたからといって慢心して力に溺れる様な人間じゃない。となると、武器の方に問題がある。作った奴に問題は……多分ねえし、いったいなにが原因だ?

 

「あ、あのぅ、ちょっとよろしいデフか?」

 

「あんだよ?」

 

「ビエッ!?あ、あのですね、その槍なんでフが……その、スゴく不安定なんでフよ」

 

「……どういう意味だ?」

 

「聖隷にも力が宿しやすい武器とか色々とあるんでフ。炎の聖隷ならば紙とか、風の聖隷ならばペンデュラムとか」

 

 そういえば、煌鋼をライフィセットが見つけた時にザビーダがペンデュラムと相性が云々の説明をアイゼンがしていたな。

 

「ビエンフー、言いたいことがあるならハッキリと言うんじゃ。このままではただの失敗作に終わる」

 

「は、はい!その槍は地水火風、四属性の聖隷が使っても相性がとっても良いでフ!」

 

「当たり前だろうが」

 

 メダル以外にも大地、炎、しずく、風のエレメントも混ぜ混んでんだから。

 

「でも、そのせいでダメになってると思うんでフよ」

 

「いや、それは無いだろう。ひっくり返せばいいんだから」

 

 風が炎を、炎が水を、水が地を、地が風の良いところをぶち壊しにしているならばその逆も出来る。

 炎が風を、風が地を、地が水を、水が炎をで、スレイに四属性のてんこもりをやれつった。

 

「バランスが悪いっつーなら、ベルベット、なんか変なことは起きてないか?」

 

「強い力を感じるには感じるけど、それだけよ」

 

 闇と炎のメダルしか使っていないベルベットは特になにも起きていない……。

 

「この禍々しい闇が色々と邪魔をしているんでフよ!」

 

「あれだけの凄い素材を使って、どうしてこんな槍になったんだろ……」

 

 これだけ禍々しい闇を纏った槍を持てば心に変な影響を及ぼしそうで、アリーシャはその影響をモロに受けてしまった……最後にものを言う精神力が弱かったという事になるが、アリーシャの心は強い。

 闇の誘惑的な事をこの槍がしているとなるが、闇と炎だけでバランスが更に悪いベルベットは普通に使いこなしてる。力が湧き出ているがそれに溺れたりすることなく、ベルベットは制御してるとして、なんでアリーシャは槍で暴走をする?ライフィセットの言う様に物凄い素材……あ、ヤベ!!

 

「クロガネ、あんたなんか余計な事した?」

 

「俺よりもコイツの方が余計な事をしてきた。

材料が余れば鎧にして変形する機能をつけろだ、笛としてドレミファソラシドが出せる様にしろだ、槍じゃないなにかを作らされてる気分だった……ああ、そういえば1つだけ気になった事がある」

 

「なに?」

 

「お前の武器にも使った賢者のメダルとか言うの、関係しているかは知らんが槍を作る際に5つだったが足りていたのか?」

 

 六賢者の力が籠った剣に混ぜたメダルは5つ。

 闇、炎、森、水、魂の5つで、ゲームで一番最初に手に入る光のメダルを入れていない……光のメダルは現代でゼンライの爺さんに渡してしまっている。

 六賢者の剣は神秘的な光を放っていたが、この槍は光を放っていない。メダルが一枚足りていないから、六賢者の槍になっていない。

 

「やらかした、材料が足りなかった」

 

 現代に戻って、いや、そう簡単に会えるか?ニャバクラに爺さん居るか?

 

「材料が足りたとして同じことになっておるよ」

 

「そう、なのか?」

 

 槍を手にしてるからか闇を直に感じるマギルゥ。

 

「アメッカが力を求めるのは誰かの為であろう。求めた力を誰かの為に使うとして、その使うとはいったいなんじゃ?」

 

「……」

 

「この闇はワシ達になにかを植え付けるものでない。ワシ達が植えておる種を開花させて毒とするもの。毒も少量ならば薬となり、薬も多量ならば毒ともなる。毒を薬とするか、薬を毒とするかは使い手次第……少なくとも、この槍は毒でもあり強力な薬でもある」

 

 禍々しい闇を纏ってはいるものの、槍としてはクロガネもこれ以上は無いと認めている。

 槍の持つ闇からは禍々しさこそ感じるものの、穢れは感じない。持っているだけで人の負の感情を押し付けるとかそんなのでなく、禍々しい闇を感じるだけ……要するに、使い手の方が問題ありで武器自体は問題無い。

 この闇をどうにかできる強靭な心を持ってさえいれば、この槍を使うことが出来るわけか。

 

「……これ以上、どうしろってんだ?」

 

 アリーシャに足りないものがなんなのか、オレには分からない。

 

 

─────────────────────

 

 

 

「……!」

 

 目を覚ますとベッドで寝ていた。

 

「……そうか、私は……」

 

 一瞬だけどうしてと思うが、ゴンベエに気絶させられた事を思い出す。

 新しく作った槍を受け取ったまではよかったものの、その槍から伝わる力になんとも言えない高揚感を得て今ならばどの様な事も、それこそヘルダルフをも倒せると言う気持ちになった……ヘルダルフがどれほど恐ろしい存在なのか、十二分に理解しているにも関わらずだ。神衣でスレイが挑んで敗北したのを知っているのに、神衣の様な姿になったとしても勝てる筈が無いと頭では分かっているのに……。

 

「強い力を持てば、それに溺れて悪用する人は大勢といる……そんなわけない」

 

 私が力を求めていたのは、今の世界をどうにかしたかったから。

 世界が災厄が溢れているのは穢れに満ちているから。それを浄化して、天族を信仰し加護を得れば良いと知ってい……違う。

 

「ゴンベエがそれを否定したんだ」

 

 浄化の力も天族の信仰も、昨日今日ではじまったものではない。

 遥か昔から存在しているもので、現代にまで伝わっている……そしてその結果が災厄の時代。浄化の力や信仰による加護のシステムだとダメだとゴンベエは否定した。このままスレイがヘルダルフを倒しても50年位しか平和を保てないかもしれないと、私はその言葉を疑い否定することは出来ない。ベルベット達と出会い、よりそう思える様になった。

 

「……くよくよしてちゃ、ダメだ……頑張ろう!」

 

 気付けば気分は沈みまくっていたけど、こんなんじゃダメだよ。

 私は気持ちを切り替え、迷惑をかけた事をゴンベエに謝りに部屋を出る。

 

「ほら、早く口を開けなさい」

 

「……」

 

「一度に入れる量を、もうちょっと多くしてくんない?」

 

「ダメよ。ドカ食いなんて体に悪いんだから、ほら」

 

「目覚めたのですか」

 

「ああ、気分がスッキリとしている……」

 

「ほほぅ、槍の影響か?それともこの状況でかのぅ?」

 

 黙れ、マギルゥ。

 部屋を出て、ゴンベエに会うのだが食事時だった。

 マギルゥ達、何時もの面々が食事をしており私の体も空腹を訴えているので食事時なのだろうが……

 

「逆、じゃないのか?」

 

「安心しろ、何時も通りだ」

 

「何処がだ!?」

 

 見馴れたくはなかったが、見馴れてしまったゴンベエがベルベットにご飯を食べさせる光景。

 ゴンベエがベルベットに食べさせなければベルベットは料理の味を感じない。何故ゴンベエが食べさせたら味を感じるかは知らないが、例え空腹を感じず食事を必要としないと言えどもなにも食べないのは私達からして気分は良くない。

 ベルベット自身も味が感じる食事をすることで気持ち的にも落ち着いているが……。

 

「何故、ベルベットがゴンベエに食べさせているんだ?逆じゃないのか!?」

 

「逆なら違和感を感じないのですか!?」

 

 何故か今日は逆。

 ゴンベエがベルベットでなく、ベルベットがゴンベエにご飯を食べさせていた。

 

「ベルベットはゴンベエから食べさせて貰わないと味を感じないが、ゴンベエがベルベットにそうしてもらわないといけない理由は無い!!」

 

 むしろ行儀が悪い!今すぐに止めるんだ!!

 

「アメッカ、違うよ」

 

「なにが違うと言うんだ?アレだとただのバカップルじゃないか!!」

 

 ベルベットが女性として素晴らしく、綺麗なのは分かるがそれは禁断の恋だ。

 いずれは私達は現代に戻らなければならない……だから、別れの日がやって来るから、その……とにかくダメだ!

 

「私だって好きでこんな事をしてるんじゃないわよ……コイツの腕が治るまで、期間限定。それが終われば元通りよ」

 

「それって結果的にゴンベエがお前にやるに変わるだけじゃねえのか?」

 

「全然違うわよ!ロクロウ、いったい私とゴンベエをどういう目で見てるの?コイツは私の下僕よ?」

 

 いや、ただ単に今度はゴンベエがあーんをしているだけの気もする。いや、それよりもだ

 

「腕?」

 

 ベルベットがゴンベエの腕が治るまでこんな事をするつもりだが、なんの話だ?

 

「こういうことよ」

 

「っ……アイゼン、ライフィセット、エレノア、マギルゥ!!」

 

「無駄だ。既に試したが、コレは時間をかけて治すものだ」

 

 ベルベットはゴンベエの手を取る。

 ゴンベエの両手はボロボロに変わっていた。手にタコや豆が出来ていたというんじゃない。まるでなにかで叩いたかの様に変な風になっており、皮膚が真っ赤になっており、見るからに痛々しかった。

 コレは直ぐに治すしかないと治せる術を使えそうな4人に頼むがアイゼンが無理だと言う。

 

「色々とやってみたのですが、効果があまり……」

 

「本当か?」

 

 ゴンベエは敵だからと、手を抜いたわけではないだろうな?

 

「アメッカ、落ち着いて。エレノアの言うことは本当だよ」

 

「こやつはワシ達と使っとる力が違ったりするせいか、治りが遅いんじゃよ。

なに、天響術でちゃんと治せるレベル。暫くすれば元通りになるはずじゃから、安心してこの甘いのを見ておけ」

 

「……どうしてこんな怪我を」

 

 ヘルダルフと戦った時でさえ無傷だったのに、今は見るも無惨な両手。

 火傷となにかで殴打した様な怪我で、いったい何時こんな怪我を……まさか、今まで受けていたのを黙っていたのか?

 

「……コレよ」

 

「ベルベットの剣?」

 

 燃える炎の様な色合いのベルベットの刺突刃。

 それのなにが関係している?

 

「刃物を作るには、先ず加工しやすい様に金属を燃やさなければならない」

 

「それは知っている」

 

 その刃と私の新しい槍を作ったのはゴンベエでなく、クロガネの筈だ。

 現にあの時、クロガネが居た。今はこの場にはいないが、クロガネが作った物だ。

 

「問題はそこだ、金属は種類によって溶ける温度が変わるんだよ。

タングステンなら3500、銀なら1000、鉛は350、鉄は1500……さて、問題。アレはなんの金属でしょう?」

 

「……なんだ?」

 

 ゴンベエの言うアレとは、砕いたメダル等の事だ。

 アレの材質がなにかと聞かれれば、なんだとしか答えられない。砕くこともまともに出来ない程の硬度を持っている。

 

「メダルを含めた素材は生半可な温度じゃ加工できない。

それこそクロガネが頭を燃やした時の炎でも、どうすることも出来ず……ちょっと頑張った、っつう」

 

 痛みに耐えながら手袋をつけるゴンベエ。

 手袋から炎が出る……まさか

 

「ファイアグローブで3500℃以上の炎を出して、なんとか加工しやすくした。けど、今度は加工する台が熱に耐えきれずに……最終的に手の上に置いてやった」

 

 刃物を作るには叩かなければならない。

 加工しやすくなったマグマよりも熱い熱を持つ金属を持ったまま、クロガネの金槌を何百と受け止めた。

 

「どうして、どうしてそこまでしてくれるんだ?」

 

 槍の素材の時点で、とてつもないお宝だ。

 それをなんの惜しげもなくゴンベエは使わせてくれただけでなく、作るために手を犠牲にした……どうしてそこまでしてくれるんだ。私なんかの為に。

 

「お前が頑張ろうとしてるからだよ……頑張ってても報われないのは、ごめんだ」

 

 ゴンベエ……。

 

「槍を必ず使いこなしてみせる、絶対に……」

 

「おぅ、頑張れ……ベルベット、次」

 

「はいはい……コレ終わったら、次は私の番よ」

 

「おう」

 

 まぁ、それはそれとしてベルベット、代わるんだ。

 ゴンベエの手をボロボロにしたのは私の槍を作るのに数十の素材を燃やしたからで、ゴンベエの餌付けもとい食事の補助は私がしよう……代われ、代われと言っている!!いや、確かにベルベットも作って貰ったが主に原因は私で……ゴンベエが終われば今度は私の番だと?そんな……

 

 

 




スキット サブイベント時のみ

アリーシャ「さて、次回予告を」

???「おい」

アリーシャ「っ、何時の間に!?」

???「何時の間にじゃない。最初からここにいた」

アリーシャ「そうでしたか……失礼ですが貴方は?」

???「オレか……気にするな、次回予告風のスキットなんだろ?続けてくれ」

アリーシャ「続けろと言われましても……気のせいか、ミクリオ様と何処となく似ている様な」

???「そういう危ないのは止めておけ……この小説のタグになにがあるか知ってるか?」

アリーシャ「えっと……」

???「今回はオレが代わりにしてやる……」

?????「お、なんやもうはじまっとるん?」

???「もう終わってるみたいよ」

???「どうやら遅れたみたいですね」

???「なんじゃ、折角良い酒を持ってきたと言うのにつまらんのぅ」

???「まったく、オレも忙しい。女一人を相手にしている暇は無い」

???「一度に喋るな、ややこしい。それとお前の出番は最後で現代に戻ってから……1人、遅刻か?」

???「そもそもで私達、今日が出番じゃないわよ」

???「そうか……次回、【サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その1】」

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