「さて、薬屋は何処だ?たしか、サレトーマとか言う薬なんだよな」
一悶着あったものの、レニード港に辿り着いたオレ達。
ロクロウは薬屋は何処かと辺りを見回す……ん?
「正確にはサレトーマの絞り汁だ。そのまま食ったら治るには治るが下痢を起こす」
「おお、それは別の意味で水分を持ってかれるな。じゃ、ちょっくら買ってくるわ……薬屋は何処だ?」
「薬屋はここにはない」
「はぁ?」
自身が憑魔で病気にならないからか率先して行動してくれるロクロウ。
見知らぬ港だからアイゼンに薬屋の居場所を聞くが、薬屋が無いってどういうことだよ?お前がこっちまで進路を変えたんだよな?
「薬屋はここから少し歩いた小さな村にある」
「壊賊病に効く特効薬なのに置いてねえのかよ」
「サレトーマの絞り汁は高熱を治す時に用いられますのでなにかと重宝しているんです。それにここは港ですので潮風に晒されると傷みます」
「高熱にって、インフルにも効くんか!?」
「インフル……どんな病気ですか?」
「……」
インフルと言われ、インフルエンザと考え付かないエレノア。
周りにいる奴等もなんだそれといった顔をしておりキョトンとしている……そうだよな、風邪は風邪だよな。インフルとかそういうのじゃねえよな。
でも、絞り汁を飲ませて治すってことはジャンルで言えば漢方薬とかだから、壊賊病はやっぱ不健康が原因で起きたんだろうな。
「ところで、私達が出歩いても大丈夫なのか?」
「そうです!感染した者が街に出れば広まってしまえば、サレトーマの花が足りなくなる可能性が」
「なに心配するに及ばんよ、壊賊病は不思議な事に海の上でしか移らんのじゃ。
空気中の塩分濃度が関係しているとも海水に潜む微生物が関係しとるとも言われておる」
「微生物ねぇ……」
マギルゥが適当に言っているのか、それとも本当なのか微生物の概念があるのに抗生物質は無いのか。
「真相はどうあれ海の上だけの病気で、陸で広まった話は0だ」
「……本当に奇病ですね」
「その辺りは時間を掛ければ医者かなんかが解明してくれるだろう。
今はまず、薬を手に入れる……アメッカ、一応感染してるかもしれないからヤバくなったら即座に言えよ」
陸の上で感染しないだけで、海の上では感染する。
既にここにいる奴等は病気を貰ってる可能性は大きく、アリーシャもその一人。
「そういうゴンベエも、船に乗ってから1度も狼の姿になっていないが大丈夫なのか?」
「……大丈夫じゃねえの?」
アリーシャもオレも普通にピンピンしてる。なんか体調悪いなーとかそんなのはない。
やっぱアレか。食生活と不規則な生活で体調管理が出来ていないから引き起こすタイプの病気か。
「そうやって油断をして倒れたら迷惑よ。とっとと狼の姿になりなさい」
「それはそれで構わねえけど、アメッカと一緒に船に残るぞ?」
「……そのアメッカが壊賊病に掛かってるかもしれないんだから、来なさい」
「じゃあ、この姿のままいくぞ」
「……あんた、そんなに狼になりたくないの?」
「ちげえよ、コレだよコレ」
ベルベットに両手を見せる。両手には包帯が巻かれている。因みにだがこの包帯はベルベットの左腕の包帯だ。なんかくれた。
アリーシャとベルベットの武器を作るために怪我した手は火傷だけじゃなく、金槌で叩かれたりもした。泣かない様に我慢しているが動かすだけで痛い。
「狼になったら四足歩行になるだろう。そうなると手の部分が前足になって歩くのスゲエしんどいんだよ」
結構我慢してるが、いってえんだよ。ライフィセットの術でポンっと治らないし。
「……狼になりなさい」
「んだよ」
「いいから」
ベルベットがそういうので仕方なく狼の姿になる。
4本の足で体を支えて立つと前足に不可が掛かるのでオレは2本の足で立つ。が、割としんどい。
たま~に2本の足で歩く犬を見たりするが、アレって結構頑張ってんだな。
「ワ、ワフ……」
言われた通りなったぞ。
「……思ったよりも、大きいわね」
オレもベルベットの色々な部分を見たが、コレはすごい。
狼の姿になって下から見るベルベットの姿は絶景であり、中々に良いものが見れる。ホント、絶世の美女だよなベルベット。
「それでゴンベエに狼の姿になってもらってどうするつもりなんだ?」
「別にどうもしないわ。この姿の方が──っ!」
「キャン!?」
ちょ、痛い!?
突如オレを抱えようとしたベルベット。
残念な事に抱えた位置が悪かったのか、マスターソードに阻まれてしまいその際に起きる衝撃波的なのが背中にヒット。
「ベルベット、なにをしてるんだ!?憑魔はその剣に触れたら阻まれるだろう!」
「ち、ちが──」
「大丈夫か、ゴンベエ?」
「ワン!」
突然の事に驚いたが、なんにもない。
「その剣、外しなさい。抱えるのに邪魔よ」
「……ワン!」
マスターソードを外すとこの姿と人間の姿の切り替えが出来なくなる。
ベルベットには悪いが、ここはアリーシャに抱えて貰おう。
「改めて、こうして触れるがフワフワした毛並みだ」
オレが抱っこしろと言っているんだと分かると抱えてくれるアリーシャ。
ここぞとばかりに頭を撫でてオレの毛並みを確かめる。
「薬はオレ達が買ってくる。お前達は残っていろ」
「了解です!」
ベンウィック達を残し、港を後にする。
「そういえば、サレトーマの絞り汁が効くらしいが、どれぐらい必要なんだ?」
「コップ一杯分だ。アメッカ、お前は良く知らないから先に言っておく……吐くなよ」
「吐く!?」
吐くって……そういう感じか。
「……サレトーマの絞り汁は、この世の物とも思えない程に不味いのです」
苦虫を噛み潰した顔で、物凄く嫌だなと言うのが分かる声で語るエレノア。
「それこそ業魔も泣くほどに」
「そんなにか!?」
物の例えだとしても、そんなにまずいのか。
いつぞやアリーシャが作ったダークマターと比べて、どっちがまずいのか気になる。アレ、本当に糞まずかったな。
サレトーマの味についてマギルゥやエレノアが色々と語っており、よく知らないアリーシャは顔を青くする。飲まなければ死ぬとは言え、死ぬほどクソマズい。こう言うときにこの姿は便利だ。
「サレトーマの花はあるかしら?」
道中憑魔に襲われると言ったことは特になく、港を出て直ぐの村に辿り着いた。
薬屋の場所を村の人に聞き、薬屋を訪ねる。
「珍しい物を欲しがるね。もしかして、壊賊病かい?」
「ああ、最初の奴が熱を出して数日経つ。早いとこ手当てをしてやりたい。いくらだ?」
オレ達を見て、特に怪しむ事もない店主。
なんでその薬をとあっさりと話を理解してくれ、金なら弾むと財布を取り出すのだが店主は渋い顔をする。
「売ってやりたいのは山々なんだが、生憎切らしてしまって」
「切らしただと?今は花が咲く季節の筈だろ」
「それがサレトーマの咲くワァーグ樹林に業魔が出たんだ。
それで聖寮が樹林を立ち入り禁止にしてしまって、入ることが出来ないんだ」
「立ち入り禁止……退治をしていないのですか?」
「なんでも100回に1回ぐらいしか見ないんだとよ。
退魔士達に頼もうにもしかも見た奴は帰ってこなかったらしくて……他の街から取り寄せようにも数日じゃな」
「……そうか」
特効薬のサレトーマはここにはない。
それが分かるとアイゼンはすんなりとこの場を後にするのだが、ベルベットは動かなかった。
さっきサレトーマが無いと言われた時と同じ反応を店主がしており、ベルベットは直ぐに諦めてこちらに来る。
「なにを話していたんだ?」
「バカにつける薬はないかって聞いてきたのよ」
「そうか……ゴンベエの火傷を治す薬は無かったか」
「っ、なんでコイツのことを」
「ゴンベエの事じゃないのか?」
本人を抱えたまま、首を傾げるアリーシャ。
こんな姿だから鼻と耳は良くなっているから、聞こえたがベルベットは火傷に効く薬は無いのか訪ねていた。店主は薬を作れるらしいが、肝心の材料がワァーグの樹林にあって手元には無いと言っていた。
「……仮にコイツの事だとして、文句あるの?」
「何故ゴンベエの事で文句を言わなければならない?こうなってしまったのは私達が原因なんだ」
おい、手で遊ぶな。
こうクイクイッと手を動かして怪我をしましたよアピール的なのをするな。
「分かってるわよ……」
「お前達、人で遊ぶな」
「あっ!」
どさくさ紛れに頭を撫でようとするベルベット。
完全にペットの犬扱いだと元の姿に戻るとアリーシャは残念そうな顔をする。こいつ、この状況を楽しんでいたな。
「お前達、さっさと来い」
「お前等のせいで怒られたじゃねえか」
ぐだぐだとやっているとアイゼンに怒られたので早足でワァーグの樹林へと向かう。
道中にビエンフーが如何にゲスなのかとかアイゼンの死神の呪いがどれだけ恐ろしいのかとか色々と聞き、ワァーグの樹林に辿り着くとマギルゥからサレトーマの花がどんな花なのか聞いて探す。
あくまでもここにあるだけで、何処にあるか正確な位置が分かっていない。どうにかして見つけ出さないといけないのだが、厄介な事に憑魔がいる……んだが
「普通、だな」
「ああ、手応えがあるわけでもないが、かと言って無いわけでもない中途半端な感じだな」
割と普通だ。
オレは色々とぶっ壊れて強いから感覚がおかしいが、ロクロウ達からしてもここにいる憑魔は特別に強い訳じゃない。
シグレの方が何万倍も強く感じて、今まで戦った聖寮の奴等が束になればどうにかなる筈のレベルだ……1体を除けばだ。どうも1体だけ変な憑魔の気配を感じる。それが薬屋の店主が言っていたのだろう。
「ゴンベエ、この辺りにもサレトーマの花は無かった」
樹林と言うだけありそこそこ広い。
何処にあるか分からないので、オレが憑魔をシバいている隙にアリーシャに探して貰うも見付からず、この樹林の地図を取り出してチェックを入れる。
どちらかと言えば入口側は大体探し尽くしており、後は奥の方。
「お前達、ここでなにをしている!」
「それはこっちの台詞よ!」
樹林の奥の方に進むと聖寮の対魔士がいた。
エレノアやシグレの様に顔を出していないフルアーマーなモブとも言うべき対魔士でベルベットが新しい剣を出し、相手の槍を一刀両断。すかさず蹴りを入れて気絶させる。
「これでいいんでしょ」
「ん……ああ、そういうことか。そうしてくれるとありがたい」
ベルベットは殺さずに気絶させた。
この前はオレがボコったりしていたが、今回はベルベットが気絶させた。ベルベットにとって、聖寮は敵でアルトリウスを殺すためにも殺っておいた方がなにかと得なのだが、それでもアリーシャを気遣ってくれた。
「ゴンベエ、オカリナを」
「いや、槍の方に笛の機能を付けといたからそれを試してくれ」
オレからオカリナを借りようとするので、槍の事を伝える。
時のオカリナ以外にも時間移動する方法はあるが、流石にコレを壊されたりすると本当に洒落にならない。それに何時も何時もオレが居るわけじゃないんだ。もしなんらかの状況で現代でオカリナの力が必要になった時、槍の笛が代わりをしてくれるかどうかついでに確かめねえと。
「槍……」
禍々しいオーラを纏った槍を手に取るアリーシャ。
「……」
「…………しゃあねえな」
「あ、いや、吹く。直ぐに吹くぞ」
「いや、そういう展開は省略したいからとっととこっちで吹け」
アリーシャの槍を持つ手が僅かだが震えており、口を付けるところに近づける素振りすら見せねえ。
一回やらかしちまったせいかビビってやがる。今回は槍を使って戦うんじゃなくて笛の機能を使うから、その心配は無いとは言えない。笛を吹こうとしたら今度は別のナニかが起きるかもしれないと思ってやがる。
「やれやれ、滑稽じゃの」
「……本気になってる奴を馬鹿にすんなよ」
「馬鹿にはしておらん、ただ面白いからそう言っただけじゃよ」
オカリナを吹いているアリーシャを見て、面白そうなものを見る目をするマギルゥ。
底知れない主人公を一方的に試そうとする主人公に既に追い抜かされているけれどもそこそこ強い奴が向ける視線が大嫌いなんだよ。もし、主人公が調子に乗ってるとか試してやろうとかで舐め腐った真似をしてきたら全力でシバき倒す。もう本当に完膚なきまでに叩きのめして、縁を作らないようにする。
「ずっと求めていた力を得た筈なのに今までと変わらんどころか恐れを抱いている。
それは求めていた当人に問題があるのか、求めていた力に問題があるのか、はたまた求めていた世界に問題があるのか。少なくともあの槍はアメッカに無い戦う力を得るには十二分過ぎる物。同じ素材を使っておるベルベットは目に見えるパワーアップを果たした。しかしアメッカはむしろ逆、パワーダウンをしておる。コレを面白いと言わずなんと言う?この先の事を考えればわくわくが止まらんじゃろう」
「……なんかあんのか?」
そんな事を言えるってことはパワーアップできる方法を知っているのか?
「無関係なワシを頼ってどうする。
あの槍は本物であることには違いない。後はアメッカがなにかあればどうにもなる……良くも悪くもの」
それを人は行き当たりばったりと言う。
アリーシャの槍を使いこなすのにアリーシャに足りないものは分からねえ。あいつはちょっと変に抜けてたりするが、性格も顔も良い。反吐が出るレベルの善人だ。
最初の一歩を踏み出す勇気とそれが本当に正しいのか疑う心を持っていて、挫折に近いものも知っている。つーか、天族と出会ってからあいつ絶望してばっかだぞ。
「終わった……その」
「ゆっくりで構わない。今はそれを使いこなす事よりも色々と見るのが優先だ」
「……すまない」
んな、今にでも泣きそうな顔をするんじゃねえ。
お前につけられた名前ってそぞろ涙のアリーシャじゃなくて笑顔のアリーシャだろう。美女は笑え。
「さっきの対魔士、明らかにここを調査しようとしていなかったな」
「奥に来て欲しくないって感じだったよね」
奥へと進みながらさっきの対魔士について話すロクロウとライフィセット。
確かにあの対魔士達はここにいる憑魔を倒しに来たんじゃなく、ここに来る人を通さない様にしていた……。
「憑魔が強すぎるから閉じ込めたか、聖寮が表沙汰に出来ない事をしてるパターンだな」
「表沙汰って、聖寮はそんな事を」
「神殿を作るための裏金」
「するわけは……わけは……」
「ものの見事に粉砕されたのう!……ま、鬼が出るか蛇が出るかは見てみねば分からん」
とにもかくにも前に進もうぜ、どうあがいたって現実だけは変わらないんだから。
聖寮の事を強く否定されてなにも言えないエレノアを他所に歩き出そうとするのだが、何故かライフィセットが発光する。
「……え、お前、なにやってんだ?」
まだ日が登っていて、周りは明るい。
明かりが必要な時間帯でも場所でもなく、懐中電灯は持ってきているのでわざわざ光らなくても良いんだぞ?
「ち、違うよ!急にこうなっちゃって……」
「大丈夫なの?」
「……大丈夫?かな」
なんで疑問系なんだよ。
急に光り出したライフィセットに心配するが特になにも起き……いや、起きている。
ライフィセットが持っているやたらと大きな羅針盤がグルグルと周り出している。富士山とか日本の一部の地域では方位磁石が使えないがそれなのかと自前のコンパスを確認するが正常だ。
「なんか変な感じがする」
「変な感じ?」
「うん、地脈に居た時と似たような感覚」
「つまりカノヌシの力に近い……奥に居るのはただの業魔じゃなさそうね」
「カノヌシに繋がる業魔もいいが、今はサレトーマの花だ」
話を元に戻すアイゼン。
なにが居るか調べるにしてもタイムリミットがあるので、そっちを優先しようと更に奥に進むと紫色のラフレシア並に大きな悪趣味な花があった。
「あ、紫色の花が咲いてる!」
「あれがサレトーマの花だ」
目当ての物が見つかり一先ずはホッとするアイゼン。
サレトーマの花を見て興奮したライフィセットは近付こうとする――って、まずい!!
「ライフィセット、ストップ!!」
「え、うわぁああああ!?」
「「ライフィセット!!」」
ライフィセットの直ぐ側に憑魔が居た。
昆虫型の憑魔だがベルベットの左腕の様に変身することが出来る憑魔でカブトかクワガタか分からない手乗りサイズから一気に人間並に大きくなりやがった。
「薬屋が言っていた業魔はこいつか!!」
「滅多に出会わないと言うのに……これが、死神の呪い」
「こんなもの、序の口だ!」
直ぐに臨戦体勢に入る一同。
此処等に居る憑魔よりは遥かに強いが倒せない相手じゃないと思っていると、昆虫型の憑魔は何処かに行こうとするのだが弾かれる。結界が昆虫型の憑魔を閉じ込めている……。
「またあの結界!」
「あの結界は……」
ベルベットとエレノアはあの結界に心当たりがある。
と言うことは偶然にも貼られた結界とかでなく、閉じ込める結界か。
「なんにせよ空飛ぶ虫を倒さねばサレトーマの花は手に入らんぞぉ」
「ちょうどいい、コイツがカノヌシに繋がるなにかなのは確か。新しい力も試させてもらう!!」
新しい神衣的な力の試運転で憑魔をぶっ倒してサレトーマの花を手に入れる。一石三鳥な事だ
「ストップ、お前、それはアカン」
だから止める。
炎の渦に包まれて服装を若干変えたベルベットを止める。
「虫は燃やすのに限るわ」
「お前、本当に物騒だな……ありゃ、殺しちゃアウトなものだ。それだと強すぎる」
「どういうこと?」
「カノヌシがなんなのか分からなくて、それを知ろうとしているんだろう。
目の前に居る虫はなんにせよカノヌシに繋がっている、殺してしまえば取り返しのつかないことになるかもしれない……形はなんであれカノヌシは天族の様な存在なのは確かだ。間違ったやり方だと結果的に世界消滅とかもありえる」
遠回りしまくっていてまだ分かっていないが、カノヌシは確かに存在している。
そしてジャンルで言えば虫や魚でなく天族の様な、所謂オカルト的な存在であり、そういうのは世界の均衡だか調和だかを保っている。簡単に殺せたとしても殺すと大変な事になる。
殺しても問題無いのか、その辺りを考慮しておかなければならず、ベルベットのそれは強すぎる。確実に殺す。あの昆虫、そこまで戦闘力無い。
「第一、サレトーマの花の直ぐ近くにあるんだぞ。如何にも火属性な見た目のそれで戦闘してみろ……確実にアイゼンの死神の呪いと連鎖して燃える」
もうオチが読める。
「……分かったわよ」
人命には変えられないと元の姿に戻るベルベット。
「アメッカの命も掛かってんだから、オレも本気でやる──」
「ゴンベエ、終わったぞ」
あ……そうか。
ぐだぐだとやっていたせいで気付けば戦いは終わっており、ベルベットから白い目を向けられる。
オレは関係ねえだろう。
「……ねぇ、ベルベット」
倒したことにより、小さいクワガタだかカブトムシだか分からない姿に戻った昆虫憑魔。
ライフィセットはそいつを手に取りベルベットの顔を見る……あっ……。
「連れてっても、いいかな?」
上目使いでおねだりをするライフィセット。
その姿はまるで母親に頼む子供のようである……まだ、子供なんだけどな。
「……ちゃんとあんたが世話するのよ」
「……うん!」
「それ絶対にお母さんが世話するパ」
「なんか言った?」
「オカンが世話するパターンだなと」
「誰がオカンよ!」
「お前以外にありえないだろう」
もう完全にライフィセットは保護者としてみてるぞ。
エレノアじゃなくてお前の方を保護者として……いや、エレノアも保護者として見ているのか?そうなるとライフィセットはどちらを優先するんだろう……ベルベットが嫉妬の炎を燃やす展開は見えるな。
「あんた、なに考えてるの?」
「ベルベットは何だかんだで人間らしい人間なんだなと」
「人間らしい人間って、どういう意味よ?」
「喜怒哀楽がちゃんとあるってことだよ」
「……それ、馬鹿にしてない?」
「逆だ、逆……ベルベットはちゃんとした人間だって感じてんだよ」
「……」
オレの言葉になにかを思ったのか、早歩きになったベルベット。
マギルゥがなにかに気付きちょっかいをかけにいくと、それはもう見事なまでに綺麗なドロップキックを決められて沈められた。
スキット 私の戦いはなに?私の敵は誰?
アリーシャ「ベルベット、ありがとう」
ベルベット「どうしたのよ、急に」
アリーシャ「先程の対魔士達、手加減をして気絶させてくれたのだろう。そのお礼をと思って」
ベルベット「別に礼なんて要らないわ。聖隷を解放すれば邪魔になるアルトリウス以外の対魔士を倒す時に役立つと思っただけよ」
アリーシャ「それでもだ……私には、気絶させる事すら不可能なのだから」
ベルベット「……」
アリーシャ「ベルベットの復讐については色々と思うところはあるが、復讐相手のアルトリウスは黒なのは確かだ。
色々と知らなければならない状況となった今、少しでも役にたてればと思っているのに……私はなにも出来ていない」
ベルベット「別に役立たなくていいわ。これは私の復讐よ。弟を殺した以外に裏でどんな悪行をしていたとしても、あんたにはやらせない。ゴンベエにもよ」
アリーシャ「そうか……」
ベルベット「だから、あんたはあんたの戦いに集中をしなさい」
アリーシャ「私の戦いに?」
ベルベット「マギルゥはともかく、ロクロウもアイゼンも聖寮と戦う理由はあるわ。
でも、あんた達は違うでしょ。あんた達は知りたい事を知るために私達と一緒なんだから、それが終わった後の事を、戦わなきゃいけない相手が居るんでしょ」
アリーシャ「戦わなければならない相手……」
ベルベット「その時までに槍を使える様になっておきなさいよ……いざという時、力が無いとなにも出来ずただただ絶望するだけだから」
アリーシャ「……槍を使える様になったとして、私が戦わなければならない相手はいったい誰なのだろう?
戦争を裏で手引きしている災禍の顕主のヘルダルフ?悪政で私腹を肥やし続けているバルトロ大臣の一派?……どちらも民を傷付ける悪で、この槍の力が必要になる時が来る……だが、それだと今までと同じことの繰り返しだ。スレイよりもずっと前の導師も国も似たような事をしている……今はベルベット達と旅をして、色々と見て考えてみるしかないか」