テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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生き方を教えてもらった地

「先手必勝だ、こらぁ!!」

 

 ワァーグ樹林を抜け出ようとすると、またまた聖寮の対魔士がいた。

 取りあえずはと問答無用で不意打ちをくらわせて気絶させる。

 

「コイツらも探そうとしていなかったわね」

 

「余程、このカブトムシが大事なようだな」

 

 さっきの対魔士と同じく探す素振りを見せていなかった対魔士達。

 この虫が実はカノヌシでしたってオチはねえだろうし……カノヌシの分霊的な、全てを集めたらカノヌシ(完全体)が出てくるパターンか?

 

「そもそもで、結界に閉じ込める事がおかしいよな。

俺達が脱獄したけど、業魔を閉じ込める為の監獄は存在してんのにわざわざこんな所にコイツだけ閉じ込めるなんてよ」

 

「この虫は、特別だからだよ」

 

「ワシは余り興味が無いから無視する虫じゃが、なにか特別かの?」

 

「そりゃやっぱ三本角の珍しいクワガタ」

 

「バカか!コイツは三本角の新種のカブトムシだ!!」

 

「お~い、ワシの渾身のギャグは無視か!!」

 

 そんなに面白くねえからだよ。

 ライフィセットが連れ帰った虫がカブトムシかクワガタかで言い争うアイゼンとロクロウをガン無視して、この対魔士達に意識を奪われている天族を目覚めさせる。

 

「……あの」

 

「なんだ?ベルベットの情報を聞き出そうとしてるんだったら、オレよりも他に当たれよ」

 

「ち、違います!情報を聞き出すのではなく純粋な興味です……貴方達はこことは違う異大陸の住人との事ですが、その業魔病について詳しいのですか?」

 

 ベルベットが倒した憑魔が元に戻る(死んでるけど)のを知り、ふと思い出したかの様に聞いてくるエレノア。

 穢れ云々を一切語ってはいないものの、人がどうして憑魔になるのか知っている素振りを今まで見せている。穢れ云々を知らないので疑問に思ったエレノアはその事について聞いてくる。

 

「……覚悟は出来ているか?」

 

「覚悟ですか……やはり、業魔病の事を?」

 

「知っている……だが、その、薬の様な物が」

 

「アメッカ、それ以上は言うな」

 

 言うべきかと悩んだ末に、アリーシャはエレノアの覚悟を確認するもアイゼンから待ったをくらう。

 現代ならば浄化の力の救済システムがあるが、この時代では憑魔なったらそれで終わりの様なもの。強い心を持っている人間が折れた時ほど絶望が強いとかよく言うが、今語れば大変な事になる。

 

「お前達は知っているなら分かる筈だ。ベラベラと語って良いものじゃない」

 

「言ってしまえば、きっと大変な事になるのは分かっている。

だが、カノヌシの事をこれから知っていく上では1番知らなければならない事じゃないのだろうか?」

 

 ライフィセットの持つ虫を見るアリーシャ。

 あれがなんにせよカノヌシに繋がる憑魔であることは確かで、今からそのカノヌシの事が書かれた本を読める人に解読をしてもらう。そうなれば嫌でも憑魔になる理由云々が出てくる。

 ベルベット達もよく知らないので、その事について事前に説明していても……問題はねえだろう。

 

「少し待て……少なくとも、今は語るべきじゃない」

 

「……わかった。すまない、教えるのは少しだけ待っていてくれ」

 

「え、ええ。教えていただけるのでしたら、少しぐらいならば……」

 

 この濃いメンツならば、穢れ云々を言っても問題ないか。

 それをどうにかする方法も未来では見つかっているし、どうにかなる……なんて考えてたらダメだ。

 

「よ~、元気かい!」

 

「ザビーダ!!」

 

 サレトーマの花は取れたので、とっとと戻ろうとしているとザビーダと再会する。

 アイゼンはザビーダを見た途端にさっきまでアリーシャに穢れ云々を言うなと言っていた大人な雰囲気から一点、感情的になり襲い掛かろうとするのだが、拳銃を向ける。

 

「喧嘩の相手はまた今度だ。デートの相手を待たせてるんだよ」

 

「……それは、アイフリードの」

 

「アレは……」

 

 ザビーダが向けている銃にアリーシャは見覚えがあった。

 現代で色々とザビーダについて聞き込みをしていた際に天族達が言っていた見たことの無い武器で、自分に弾を撃ち込めばパワーアップをする死ぬ気弾的なのを撃つ銃とかだったはず。

 

「何故、てめえが持ってやがる」

 

「拾ったんだよ、どっかで」

 

「茶化すな喧嘩屋。力ずくで聞いても良いんだぞ?」

 

「生憎、今はお前には用はねえんだ……用があるのは、お前だ」

 

「私!?」

 

 ザビーダが用事があるのはまさかのアリーシャだった。

 この時代に来て、出会ったには出会ったものの深い接点らしきものはない……いったいなんだ?

 

「ちょっと礼を言いたくてな、ありがとよ」

 

「……なんの事ですか?その、お礼を言われる様な事はしていない気が」

 

 ザビーダに対してなんかやったっけ?てか、若干敬語になっとんぞ。

 

「したさ……さっき、ワァーグ樹林から出てきた奴に聞いたぜ。対魔士達から聖隷を解放してんだろ。

ここだけの話、オレも昔はその1人でな、思い出すだけでもムカつく。オレはこうだが、他の奴等は捕まったままだ。どうにかしてやりてえんだが、オレもオレで忙しくてよ」

 

「……お礼を言われる事はしていない、天族を無理矢理捕らえる事が間違っている。

人間には出来ない事が出来たとしても、人間の様に笑ったり泣いたりしている。それなのに無理矢理捕らえて意思を奪うのは間違っている。もし本気で世界をどうにかしたいと思っているのなら、共に歩まなければどうにも出来ない……筈だ」

 

 お礼を言われる様な事をアリーシャはしているつもりはない。

 そもそもで意識を奪ってる時点で天族云々を置いてもアウトなんだよ。

 

「……筈、ねえ」

 

 最後の最後で揺らいだ事を気にするザビーダ。

 双方の力を合わせて頑張ろう!とした結果が現代にいる最後の導師であるスレイなので、なんとも言えない。

 

「まぁ、とにかく礼は言った。これからも対魔士達から聖隷を解放してくれよ」

 

 アリーシャの背中を後押しすると銃口を頭に向けるザビーダ。

 

「なにを……」

 

「問題ねえよ」

 

 バンと頭に弾を撃つザビーダ。

 オーラ的なものが見えないが、纏っている空気とか雰囲気が変わりザビーダは明らかにパワーアップをしていた。

 

「来い、今ここで決着(ケリ)をつけてやる」

 

「悪ィな!!アゴヒゲのおっさんとデートの待ち合わせているんだよ!!」

 

 あ、逃げた。

 ここは戦う流れなのかと思いきやザビーダはすたこらさっさと逃げていき、この場を後にした。

 

「てめえ、待ちやがれ!!」

 

「アイゼン、薬は!?」

 

「お前に任せる!!」

 

「おまっ、一応副長だろう!!」

 

「船長の方が大事だ!」

 

 逃げたザビーダをアイゼンは追いかけていった……。

 

「本来の目的からどんだけ変更すんだよ……」

 

 カノヌシについて書かれた書物を読める奴を訪ねに行こうとすれば、壊賊病に掛かり進路変更。

 薬屋には壊賊病に効く薬は置いておらず、自力で取りに行かないと駄目でその結果、カノヌシに繋がる虫をゲット。

 かと思いきや今度はアイゼンがザビーダを追いかけてどっかに行ってしまった。

 

「アゴヒゲ……」

 

「どうしたライフィセット?」

 

 ザビーダが言っていたことを気にするってことはなんかあんのか?

 

「ザビーダはアイフリードに会いに行ったんじゃないかな?

ベンウィックがアイフリードはアゴヒゲが特徴的って言ってたし、アイゼンも船長の方が大事だって」

 

「……さっさと船に戻るわよ」

 

 ベルベットのその一言に誰も反論しない。

 アイフリードがどんな目に遭ってるかはしらねえが、生と死の境界線にいる。そしてそれは今、船で寝込んでいる面々も同じでアイゼンは船を預かる身として船員か船長かを選ばなければならず、船長を選んだ。

 ライフィセットにサレトーマの花を届ける事を託して。それならば、その任を果たしてから追いかけるのが道理だ。

 

「サレトーマの花よ」

 

 急いで戻り、ベンウィックにサレトーマの花を渡すベルベット。

 

「助かったよ。っと、そうだ副長!……あれ、副長は?」

 

「ペンデュラム使いの聖隷を追いかけてビュ~っと消えおったぞ」

 

「な!?なんで追いかけねえんだよ!」

 

「アイゼンが僕達に持っていけって花を託してくれたから」

 

「それでもだよ!!」

 

 おめー、自分が比較的に無事だからってそれはどうなんだよ。

 

「聖寮を相手にしてる商人から聞いたけど、ロウライネでメルキオルって対魔士がザビーダを捕まえようとしてて」

 

 メルキオルと言うと、片眼鏡のクソジジイか。

 アリーシャの幻影を見せてオレを邪魔しやがった……。

 

「そんな所に飛び込んだら副長もただじゃすまない!」

 

「そこに飛び込まなきゃ肝心の船長に関する手掛かりが無いだろう。

ザビーダは船長であるアイフリードについてなにかを知っているが、一緒にいたり、居場所を知ってたりしねえ」

 

 この時代で最初に出会った時、その時にはザビーダは1人で聖寮の対魔士達と戦っていた。

 ザビーダが天族を助け出す為に対魔士達と戦っていたなら、最後に天族を解放していたがそんな事はせずにさっさとどっかに行ってしまった。あいつも船長のアイフリードを探しているんだろう。

 

「罠を張って待ち構えているのなら、最初から無視をすれば良い。わざわざ引っ掛かりにいく馬鹿は居ない。それが罠だと分かっていても、行かなきゃならねえ理由がそこにある」

 

 そう。ザビーダもアイゼンも血の気が多くて一時のテンションに身を任せるタイプではあるが、馬鹿じゃない。

 例え罠だと分かっていたとしても居場所が分かるなにかに切っ掛けがあるならば、それを確かめる。こんな世界じゃ、ただ闇雲に探しても見つかる筈がねえんだ。

 

「副長と船長が戻ってきたら、直ぐに船を出せる様にしておきなさい。こう何度も何度も目的地が変わってたら一生辿り着かないわ」

 

「え~翻訳すると、アイゼンとついでにアイフリードを連れ帰るかぁっ!?」

 

 ちょ、左手のグーパンはあきませんよ!

 オレ達がアイゼン達を迎えに行くというと任せてくれるベンウィック。サレトーマの花の一輪をアリーシャとエレノアに渡して船へと戻っていった……。

 

「コレはどう飲めばいいんだ?」

 

「握れば勝手に汁が出るから、それを啜れば良いんじゃよ」

 

 どんだけ大雑把な飲み方なんだよ。

 

「早く飲んで、アイゼンを追い掛けねば……エレノア?」

 

「……アメッカ、お先に」

 

「早くしなさい、時間が無いのよ」

 

 腕を組んでるベルベットの右手の人差し指がトントントンと動いてて、明らかに苛立ってるから早くしろよ。

 

「……あぐぅっ!?」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 苦々しい顔をしてサレトーマを絞り、出た汁を飲むとぶっ倒れるエレノア。

 薬を飲んでぶっ倒れるのは予想していなかったのかベルベットは慌ててる。

 

「サレトーマの花、そんなに苦いのか……」

 

「お前、飲まなくていい立場で良かったな」

 

 エレノアがぶっ倒れたのは、サレトーマの花の絞り汁の味が酷すぎたから。

 タンの様な香ばしい匂いがする癖に洒落にならないほど苦く、匂いと味がミスマッチであの手この手を加えても不味いらしい。

 

「ア、アメッカ、人体に害は、ありません」

 

「ほ、本当なのか?明らかに弱っているように見えるのだが」

 

「口の中がなんとも言えない感じで、暫くすれば元に……うぷっ」

 

 ゲロを吐くなら、海でしろよ。

 

「チューブあるけど、そっちを使うか?」

 

「チューブ?」

 

「ゴムの管で、鼻に差して直接、胃に流し込む」

 

 薬が飲めない体調の時とか老人とかに使う奴はあるぞ。

 

「いや、エレノアも飲んだんだ。私だけ楽な道を選ぶ訳にはいかな───っ!?」

 

「アメッカ……あ~硬直してやがる」

 

 チューブを拒み、絞り汁を飲んだアリーシャの表情は固まった。

 白目を向いていないところ、まだ意識は吹っ飛んではいないが……これより不味いのが乾汁か……。

 

「後はマギルゥだけね」

 

「ワシはビエンフーを経由してサレトーマの絞り汁の効果のみをいただ──」

 

「ダメだ」

 

 自分だけ楽しようとすると、それ相応の報いを受けるんだな。

 

「アメッカ、何故ワシの肩に手を置くんじゃ」

 

「エレノア、すまないが足を抑えてくれ」

 

「構いませんよ……貴女だけ、楽はさせません!」

 

 上半身をアリーシャが、下半身がエレノアに抑え込まれるマギルゥ。

 

「は、離せ!!ワシはあんなもんを飲むのはごめんじゃ!!」

 

 ジタバタと暴れるが、近距離で戦うアリーシャとエレノアの力に敵うわけなく抜け出ないマギルゥ。

 

「ビエンフー、出てこい!ワシの代わりにサレトーマの絞り汁を飲むんじゃ!」

 

「マギルゥ姐さん……世の中は諦める事も大事でフ!」

 

「一度ならず二度もワシを裏切るのか!!」

 

「さっさと、飲みなさい!!」

 

「ぎょえええええええええ!?ま、まずぅいいいい!!」

 

 うわ、ダイレクトだ。

 エレノアとアリーシャは絞り汁だったけど、マギルゥ、サレトーマの花をダイレクトに食わされた。あれ、下痢とか起きるんじゃねえのか?

 ピクピクと虫の死骸の如く痙攣を起こすマギルゥに合掌をし、オレは飲まなくて良かったと心からこの転生特典に感謝をする。

 

「それで、ロウライネって何処なの?」

 

「ウエストガンド領の北方にある対魔士の訓練をする塔です」

 

 サレトーマの絞り汁の苦しみから抜け出して落ち着くと、アイゼン達が向かっているであろう場所についてエレノアが教えてくれる。

 

「きっと対魔士達が沢山いる……アイゼンは大丈夫かな」

 

「そこらの対魔士にやられる奴じゃないだろう」

 

「むしろ、死神の相手をする方が大変じゃよ」

 

 港から今度はロウライネに向かう。

 レニード港を出て直ぐの街に戻り、ワァーグ樹林じゃない方を出て歩く……。

 

「……ザビーダとアイゼンは、目的が一緒なのにどうして協力出来ないんだろ?」

 

「確かに、どちらもアイフリードを探しているならば情報交換をして協力をすればより早く見つかると言うのに、どうして協力をしないのだろう」

 

「くだらん男のプライドじゃよ。

どっちも良い歳をしていて大人なのに、いや、大人だからこそ譲ろうとしない」

 

「否定しづらいな」

 

 ザビーダとアイゼンが協力すれば、効率は良いかもしれねえが無理だろうな。

 

「ベルベットの復讐と同じだと考えろ」

 

「ベルベットの?」

 

「自分がやらなきゃならない、自分以外の誰かにやらせたくない……例えそれが非効率的でもな」

 

 ザビーダとアイフリードの関係性は知らねえが、なにかあったのは確かだ。

 アイゼンとアイフリードにも色々とあって、アイゼンもザビーダもアイフリードに対してなんらかの恩義があり、だからこそ助け出したい。そう言った感情があり、それを他の誰かに取られたくない。

 

「不思議だな、目的が同じでも協力する事が出来ないとは」

 

「不思議でもなんでもねえよ……答えは同じでも、それまでの道のりが違うんだ」

 

 譲れない誇りや信念なものを持っていて、その信念に従って生きている。

 オレの様にあんまそういうのがないのほほんと生きている奴よりも生きている。

 

「それでも、目的が同じな事には変わりない。協力が出来れば良いと私は思う」

 

「……僕もそう思う」

 

 まぁ、そっちの方が効率も良いしな。

 けどあれなんだよな。ああいうタイプって、大事な人の命とプライドを天秤に掛けるぐらいに切羽詰まらないとダメなベジータ的な感じなんだよな。

 オレと同期の奴が地獄の養成所で、自身の道と相手の道が交差しなければ力を合わせる事など永遠に不可能だって言ってたな。

 

「船の連中にサレトーマの絞り汁を飲ませたか?」

 

「うん」

 

「そうか、礼を言う」

 

「お前は礼を言ってくれたけど、薬が必要なベンウィックはお前を追い掛けなかった事についてキレたぞ」

 

「……すまん」

 

 ロウライネ、ではなくその間にある対魔士達の駐屯地と思わしき場所に辿り着くとそこにはアイゼンがいた。

 追い掛けてきたオレ達に頼んでいた事をしてくれたのか確認をするので、嫌味の1つだけは言わせてくれ。怒られるのは理不尽だから。

 

「これはアイゼンがやったのか?」

 

 そこかしこに倒れている対魔士達を目にするアリーシャ。

 よく見ればまだ息があり、ワァーグ樹林でベルベットが手加減をした時と同じようにアイゼンが気絶させたのか?

 

「オレが来た時にはこうなっていた。ザビーダの野郎がやったんだろう」

 

「1人も殺さない流儀、か」

 

「……」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、少し違和感の様なものを……」

 

「違和感?」

 

 誰1人死んでいないので、ザビーダは誰も殺さない流儀と呟くがアリーシャは違和感を感じる。

 ザビーダは現代では浄化の力を用いずに憑魔になった奴を殺してる。浄化が出来ないらしい実体を持ったドラゴンはまだしも、まだ戻せる憑魔に対して浄化の力という元に戻す事が出来る力があんのに使わずにいる。殺すことで救える命があると思っていて、割と殺さなくても救える命を結構奪ってたりすると天族達から聞いた。

 

「余程、聖寮はザビーダを捕まえたいんだな」

 

「あいつもコレが罠だと分かっている……分からんのはオレを巻き込んだ理由だ。

手を組む気も、情報を教えるつもりも無いのならアイフリードの居場所を仄めかす必要は無いはずだ」

 

「分からねえなら、本人に聞いてみるのが1番だろ……ハウンド」

 

 青白く光る正方形の立方体を出し、5×5×5×2に分割して空に向かって撃つ。

 弾は空中で綺麗にUターンし、直ぐ近くのテント裏に向かって矢の雨かの如く降り注ぐ。

 

「おまっ、なんてもんをぶつけんだ!?」

 

「追尾弾」

 

「そういうのを聞いてんじゃねえよ!」

 

「お前っ!」

 

 割と直ぐ近くで聞き耳をたてていた。

 言っても出てこなさそうなので、力技で焙り出させてもらった。

 

「俺としてはどうしてお前がそこまでアイフリードに固執するか聞きてえな。同じ船に乗っているからだけじゃねえんだろ?」

 

「……確かめるためだ」

 

「確かめる?」

 

「アイフリードは死神の呪いを解こうと躍起になっていたオレにこう言った。『無駄な事はやめろ、呪いの力を持って生まれたなら呪いごとお前だ』『自分の意志で舵を切れば、死神だって立派な流儀になるはずだ』……ってな。だから、バンエルティアに乗った」

 

 どういう状況でその言葉を言ったのかは分からない。

 だが、人生のターニングポイントの様な事をアイフリードがしてくれて変わる事が、受け入れる事が出来たのか。

 

「アイフリードはアイゼンに生き方を教えてくれたのか……」

 

「……確かめる必要がある。

例えアイフリードが死んでいても、あいつの意志を──流儀を貫いたのならそれでいい。だが、そうでないのなら、あいつの流儀を踏みにじったのなら、誰が相手であろうと許さない……ただそれだけだ」

 

 譲らないプライド、生き方、流儀、ね……オレには縁の無い話だな。

 

「生きる流儀ねぇ……」

 

 アイゼンの話に納得するザビーダ。

 

「ザビーダは、アイフリードを助け出したいの?」

 

「いや、借りた物を返すだけだ」

 

「だったら、僕達と一緒に行かない?アイフリードが居るかどうかは分からないけどこの先は、罠だよ。それもザビーダを捕まえる為の」

 

「お、嬉しい誘いだね……だがそいつは」

 

「「ケジメをつけなきゃ手は組めん!」」

 

 はい、交渉決裂。

 アイゼンとザビーダ、どっちも似たような性格をしているせいか絶妙なまでに馬が合わない。

 同族嫌悪をしているというよりはこれはどちらかといえば、似ているが似ていない部分のせいで噛み合わないと言った感じだ。

 

「っち」

 

「ま、そういうこった……ああ、そうだ。1個、頼みがあったわ」

 

「なんでお前の頼みを」

 

「お前じゃねえよ……対魔士に捕まってる聖隷を解放してくれ。この状態じゃどうすることも出来ねえんだ」

 

 この状態って、こうじゃなかったら解放する事が出来るのか……。

 ザビーダはアリーシャに対魔士に捕まっている天族の解放を頼むと一足先に進んでいった。




スキット 助けるといえば

ゴンベエ「あ~」

アイゼン「なんだ、そのめんどくさそうな声は」

ゴンベエ「今、向かってる場所が塔で捕らえられてるのがアゴヒゲのおっさんだと思うと少しだけな」

アイゼン「嫌なら船に戻ってろ」

アリーシャ「ゴンベエ、例えアイフリードがアゴヒゲのおっさんであろうともなにか特別な理由で捕まっている。助け出さなければ」

ゴンベエ「分かってるけど、塔に閉じ込められてるのがアゴヒゲのおっさんってなるとモチベーションがな」

アイゼン「アイフリードが、何処かの姫……いや、待て。悪かった」

ライフィセット「自分で想像して自分で自滅してる!?でも、ゴンベエの言っている事はなんとなく分かるかも。城に捕らえられているお姫様を助け出す物語とかいっぱいあるし、そういうのを想像しちゃうよね」

アイゼン「今回は城ではなく塔だ、確か【ドルアーガの塔】という話があったな」

ライフィセット「あ、それ知ってる!」

ゴンベエ「……ん?」

ライフィセット「神様が授けた杖のお陰で栄えていた国が隣の大国に襲われて、神様が授けた杖を奪ったんだ。
栄えていた国の人達は奴隷の様にこき使われ天にも届く塔を作り上げ、神様が破壊しようとしたけどもう手遅れでドルアーガって悪魔が復活したんだよ。復活したドルアーガは杖を奪って、取り戻そうとした巫女が逆に囚われてしまって、栄えていた国の王子様が黄金の鎧を纏ってドルアーガが居る塔を登るお話」

アイゼン「最上階である60階制覇をし、助け出したと思えば今度は降りる冒険もある。かなりの名作だ」

ゴンベエ「……バンナムのな……でまぁ、話は元に戻す、いや、戻して良いのか?
囚われの身であるアゴヒゲのおっさんを形はどうあれ助けに行かなければならんとなるとモチベーションがな……そこそこの力は貸す」

アイゼン「……そこでめでたしめでたしとはいかんがな」

ライフィセット「そうだよね。お伽噺とかならお姫様と結婚してハッピーエンドで終わるけど、これはお話じゃなくて現実……本来の目的地に向かうだけだよね」

アリーシャ「助け出されたお姫様と結婚……出来ていないな」

ゴンベエ「いや、実際そうなったらそれはそれで困るだろう。
お互いの事をよく知らないのに結婚って……2、3年したら絶対に浮気関係の不祥事を起こすぞ」

アリーシャ「……ゴンベエ、夢が無いぞ」

アイゼン「だが、否定は出来ない。助けてくれた事に関しては感謝しきれないが、結婚に発展するのはおかしい。
そいつの事を信頼できて全てを捧げる心意気は見事だが、そいつの事を本当によく知っているのか?囚われの身である姫は外の情報を遮断されている筈だ。互いの事をよく知らなければ恋愛もなにもないはずだ」

ライフィセット「実は幼馴染みとか、そういうのは」

ゴンベエ「現代において幼馴染みとか一番付き合いが長いとか言うのは完全な甘えであり、マイナスのステータスだ。距離感がイマイチ掴みづらいんだよ」

アリーシャ「うぐっ!?」

ライフィセット「そうなの?」

ゴンベエ「そうだ。考えてみろよ、恋愛物で幼馴染みが登場する場合は……いきなりでなく、第2のヒロインと言う名の負け犬的登場だ。こう、最初のヒロインと変な出会いしてからの登場がパターン化してるだろ」

アリーシャ「話の都合上、そうなるとはいえ言われてみれば……いや、違う。現実と小説は違う。
確かにベルベットとはなんとも言えない形で出会っているが、そういう感じではない筈だ……その理論でいけば私が第2になる。何故、負けヒロインに、こう色々と私にもイベントの様なものが」

アイゼン「なにをぶつぶつと言っている。とにかく、アイフリードがむさ苦しいおっさんであろうともロウライネでは力を貸せ」

ゴンベエ「一番使える力を貸してやるよ……でも、むさ苦しいおっさんか」

アリーシャ「……助け出すならばベルベットの様な綺麗な女性の方が良いのか?」

ゴンベエ「モチベーションが上がるだけだ……第一、オレはお前を助けたりするのに忙しくて他にあんま構ってられねえよ」

アリーシャ「ゴンベエ……」

ゴンベエ「それにベルベットだと自力で城から脱出してきそうだろ」

アイゼン ライフィセット アリーシャ 「「「確かに!」」」

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