テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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アイゼンの命を奪い救う事についてはベルセリアをやれば深いんだなと思える。
だが、そこまで因縁が無いのを殺るのはどうなのよ……スレイが苦戦してたりしてっけども。


過去の希望と絶望の未来

「は!?」

 

 エドナ様(幻)の登場により、意識が変なところにいってしまい緊張感や警戒心がなくなってしまっていた。

 

──バン

 

「エド……消えている」

 

「よ~、囮役ご苦労だったな」

 

「てめえ……」

 

「やっぱこういう感じになってしまったか」

 

 なんとか意識を現実に戻すと突如撃たれるエドナ様。

 上から弾が来たのを見たので、上を見るとザビーダ様がそこにはおりゴンベエがさっき言った様な展開が起きていた。

 

「アイゼン、メルキオルは何処だ?」

 

「オレ達が入ってきた入口だ」

 

「どうやら本当に見えているらしいな」

 

 何時の間に!?

 気が抜けた私はともかくベルベット達は警戒を怠っていなかったのだが、気付くことなく背後を取られていた。

 

「ジジイ、アイフリードを何処に連れ去りやがった!」

 

「ふむ……」

 

 髭を擦り、なにかを考えるメルキオル。

 すると3人の天族の方達が現れる……無論、今までの例に漏れず意志を抑制された状態で……。

 

「ゴンベエ」

 

「ちょっと、時間かかるぞ」

 

 今まで戦ってきた相手と一癖も二癖も違うメルキオル。

 シグレの様に真正面からの戦闘をするつもりはなく、天族の方達を解放する為にオカリナを吹こうにも相手を動けない様にしなければオカリナを破壊される恐れがある。あのオカリナはこの時代に来るのにも使った物、破壊されれば天族が解放出来なくなるだけではない。

 

「いんや、一瞬だ」

 

 警戒心を高め直すと、ザビーダ様は例のアレを撃った。

 自分でなく、意志を抑制されて使役されている3人の天族に対して。

 

「いったいなにを」

 

 どういう理屈かは知らないが天族に撃ち込めばパワーアップする。それを相手に撃ち込むなんて

 

「う、う……私は」

 

「ここは、何処だ?」

 

「何故、こんな場所に」

 

 意思が戻った!?

 

「意思が戻った……それもアレの力か」

 

 これもあの武器の……いや、驚いている暇はない。

 

「天族の方々、貴方達は意思を抑制されていました!今すぐに、逃げてください!!」

 

 意思さえ解放すれば、天族の方々は逃げれる。

 本物そっくりでメルキオルの幻術は幻と呼ぶには難しいが、天族との繋がりが断たれれば弱体化は免れない筈だ!

 

「意思を抑制……そうだ、私は──っがぁ!?」

 

 私の声に反応し、状況を理解しようと頭の中で意識を失う前までを思い出そうとする天族の方。

 完全な無防備で油断も隙もあり、背後から攻撃をした……メルキオルが。しかも、ただ攻撃したんじゃない。

 

「ッグゥルオオオ!!」

 

「聖隷を業魔に!?」

 

 黒く淀んだゴンベエとも私の槍とも違う闇の塊をメルキオルは天族の方にぶつけた。

 ぶつけられた天族の方は苦しみワイバーンへと、憑魔へと変貌した。

 

「まさか、そんな!?」

 

 人が憑魔になる原理を知らないエレノアは驚く……。

 

「そんなじゃない……メルキオルは、奴は……穢れをぶつけたんだ!!」

 

 まさか、こんな事が出来るなんて……メルキオルは憑魔なのか?

 でも、天族を使役しているから穢れていない……違う。憑魔か人間かなんて関係の無い事だ。

 

「メルキオル、自分でなにをしたのか分かっているのか!!」

 

 現代でなら、まだワイバーンの段階でならば浄化して元に戻すことが出来る。だが、この時代ではそうはいかない。

 この時代にはまだ浄化の力が無い。

 

「ほぅ、業魔病の正体について知っているのか」

 

 私の問いかけにメルキオルは答えない……ふざけるな!!

 

「ぬ、ぅ、あああああ!?」

 

「がぁあああ!!」

 

「っ、そんな!?」

 

 攻撃を受けていない天族の方もワイバーンになった!?

 

「死神の力が負の連鎖を起こしたか……大した力だ」

 

「逃がすかよ!!」

 

「待て!!」

 

「って、おい!」

 

 逃げるメルキオルを私とザビーダ様は追い掛ける。

 ゴンベエに制止をされるが私はどうしても追い掛けなければ、メルキオルを捕まえなければならない。

 

「今はいがみ合っている暇はありません!協力しましょう!」

 

「そいつは良いが、お守りはごめんだぜ!!」

 

 なんとしてでもメルキオルを捕まえなければならない。

 来た道を逆走するので坂道を下っていき、逃げていったメルキオルを追う。

 

「アメッカ。お前、なんか遠くから飛ばせる技はあんのか?」

 

「魔神剣という剣圧をぶつける技があります」

 

「魔神剣って、剣術の初歩的な技か……」

 

「魔神剣ではダメなのですか?」

 

「あのジジイは特等対魔士だけあって真正面から殴りあっても強えが、それよりもあの手この手を使うのが1番厄介だ。

現に今も俺達と真正面からやろうとせずに、姑息な手を……なにをして来るか分からねえ以上、何処かで不意を突いて捕まえねえと」

 

「魔神剣で何処まで不意を突けるか……」

 

 魔神剣は剣術の中でも初歩的な技。

 そこから様々な技の派生に繋がる大事な基礎ではあるものの、初歩的な技でありそこまでの期待は出来ない。

 

「って、なんだその槍は!?」

 

「特殊な素材で作って貰った槍です」

 

「槍なのに魔神剣なのか」

 

 拳ならば魔神拳で刃物を使えば魔神剣です。

 とにかく、一か八かの可能性に賭けて使うしか……確か、この槍はベルベットの剣と同じ素材を使っていて、混ぜ合わせた素材が少ないベルベットは神衣の様な姿になり炎を扱えていた。私がこの槍を使おうとした時は失敗したが……!

 

「あの技なら……」

 

「なにかあるみたいだな、頼んだぜ!」

 

 修行も訓練もなにもせず見ていただけだが、これに賭けるしかない!!

 

「闇纏・無明斬り!!」

 

 遠くにいるメルキオルに向かい、紫色の刃に黒い闇を纏わせ、槍を横一線。

 魔神剣の様に衝撃波が飛んでいくのだが、今までと異なり禍々しい闇を纏っておりメルキオルは光の球で撃ち落とそうとするが、逆に光の球を飲み込んだ。

 

詐欺師(フラウド)!」

 

 無明斬りが命中し、空中に体を浮かせるメルキオルを逃さず地面にペンデュラムを突き刺すザビーダ様。

 ペンデュラムが緑色に光ると緑色の鎖が地面から出現し、メルキオルを縛りつける。

 

「ぐっ……」

 

「苦しんでるな……コイツが本物か」

 

「気を付けてください、4人目が居る可能性があります」

 

 浄化の力関係は違うのだろうが、天族の器となるシステムは同じの筈。

 スレイはエドナ様、ミクリオ様、ライラ様の器となっているが、風の天族の協力も得なければならない。そうなれば地水火風4人の天族の器となり、スレイが出来るのならばメルキオルにも出来る可能性がある。

 

「なに、出てきたらコイツで戻せば良いんだよ」

 

「……それもそうですね」

 

 ザビーダ様にはソレがあるから、心配無用だったか。

 

「それにしても、光を飲み込む闇を纏った斬撃を飛ばすとは」

 

「一か八かの賭けでした」

 

 ベルベットの剣には火と闇のメダルという物を使われており、ベルベットは如何にも火属性な姿に変わり火の神衣を彷彿とさせる姿に変わり、今まで以上に火を扱える様になった。

 私にも同じ素材が使われているのならば、あの時、私を包み込もうとしていたのは闇だったからゴンベエが現代で剣を抜けば必ずと言っていいほど使っていた無明斬りを撃ってみた……なんとか使えた……ん?

 

「槍が使えている?」

 

 神衣の様な姿になってはいないものの、槍を使いこなす事が出来た……何故だ?

 瞑想をして心を落ち着かせたり色々としてみたがうんともすんとも言わなかったのに、どうして……いや、今は使える様になった事をよかったと思うだけにしよう。それよりも知らなければならない事が沢山あるのだから。

 

「策士策に溺れるって奴だな、ジジイ」

 

「果たして溺れたのはどちらかな?」

 

 ペンデュラムの紐にグルグルに縛りつけられ、身動きも取れないのにどうして余裕なんだ?

 

「「はっ!!」」

 

 ちょうどワイバーンとの戦闘も終わりかけだったか。

 アイゼンはアッパーをベルベットは憑魔化させた左腕で喰らい尽くす。後、1体で──

 

「なにっ!!!」

 

 ザビーダ様?

 ワイバーンにとどめをさしたベルベットとアイゼンに驚き、さっきまで見せていた勝ったという余裕の表情から怒りの表情へと変貌し、メルキオルの拘束を解いて3体目のワイバーンに攻撃しようとしたベルベットにペンデュラムを鞭の如く振るう。

 

「え……」

 

 こちらの勝ちが決まっていたのに、一瞬にして瓦解した。

 ワイバーンに向かって弾を撃ち込むと、瀕死寸前が嘘の様に甦る。

 

「あっさりと殺しやがって!!それがてめぇらの流儀か!!」

 

 なにを……言っているんだ……。

 

「業魔の力すら増幅するとは……素晴らしい、ジークフリート、求めていた力だ」

 

 拘束から解放されたメルキオルは姿を消し、ザビーダ様の背後を取った。

 両手を翳し緑色の光る弾を作り出すと、目当ての物に……ジークフリートに緑色の光る無数の光線を当てる。

 

「なに!?」

 

「なにじゃねえよ、拘束解いたのお前!」

 

「目的は達した」

 

「っち……随分と便利なスキャン機能だな」

 

「待ちやがれ!!」

 

「奴等を追うぞ!!」

 

 ジークフリートに光を当て終えると、メルキオルは逃げていきザビーダ様が後を追っていき、更にそれをベルベット達が追う……。

 

「あいつ、怒っていたな」

 

 ゴンベエ……。

 

「怒っていた……」

 

 1体は何処かに行ってしまったが、アイゼンとベルベットは憑魔となった天族を殺した。

 ザビーダ様はそのことに対し、思わず拘束を解いてしまう程に怒っていた……。

 

「現代では各地を放浪し、ジークフリートという見たことの無い武器を用いて憑魔を狩っている憑魔狩りの異名を持っている男が過去では憑魔を殺したら怒ったか……逆だな」

 

 逆……そうだ、逆なんだ。

 この時代には浄化の力が存在しない。浄化の力が無ければ、憑魔となった物や人を戻すことは出来ない。

 ライフィセットとエレノア、マギルゥとビエンフーの様に意思を抑制していない関係でも憑魔を浄化でなく殺さなければならない。

 ベルベットがあの剣を普通に使っていて戦っているのにワイバーンのままからして、この槍にも浄化の力が宿っておらず、ゴンベエはこの時代に来てから背中の剣を抜こうとはしない。

 

「アリーシャ、いくぞ……歴史を変えたりする為にここに来たんじゃない。知るためだ」

 

 遅れてベルベット達を追い掛ける。

 メルキオルが形はどうあれ自分の力となっている天族の方々を無理矢理に憑魔にした怒りも槍が使えるようになってよかったという気持ちも無くなり、頭の中に靄がかかる。

 

「アイフリードを救うならば、共に戦えばいいじゃありませんか」

 

 メルキオルは逃げきったのか、塔の前にいたベルベット達。

 ザビーダ様となにかを話しておりエレノアは共闘を提案していた。

 

「そいつは出来ねえ」

 

「どうして?」

 

「てめえ等は目的の為ならば殺せる。

俺は喧嘩屋であって、殺し屋じゃねえんだ。あのジジイは無理矢理に業魔化させた屑野郎だ。ボコボコにしてやるが、命は奪わねえ……それが俺の流儀だ。お前等がこれからその流儀に乗るんだったら協力はしてやるよ」

 

「……海賊の流儀は変えるつもりは無い」

 

 どちらも譲れない流儀がある為に、目的が一緒でも共闘を断る。

 絶対に譲れないもの……そう、絶対に譲れないものなんだ──なら、どうして……

 

「待ってください!」

 

 確かめなければならない。

 

「……その一線を越える気か」

 

「……その為にここにいるんだ」

 

「まだなにか用があんのか?」

 

 コレを聞くのは、怖い。

 聞いてしまえば最後、より非情で辛い現実を見せられて私は更なる絶望へと叩き落とされる……でも、聞かないともっと酷いことになるよ。だけど、踏み出さないと。

 

「もし、憑魔化した人間や天族を元に戻す方法が有るとすればどうします?」

 

 ザビーダ様に対するこの問いかけに最終的にどうなるのかを知っている。でも、どう答えるのかは知らない。

 

「そんなもんが有るのか?」

 

「有るか無いかでなく、有ったのならばどうしますか?」

 

「もしもの話はやめてくれよ」

 

「なら、言ってやろう。お前のそれは迷惑でしかない」

 

「あ?」

 

 ゴンベエ!?

 

「さっきのベルベットやロクロウ、ダイルの様に自我を保てている憑魔ならともかくあの天族がなったのはワイバーン。

完全に自我を失っていて、ただただ暴れるだけの獣畜生になっちまってんだ。殺しておかねえと邪魔でしかない……生かす理由は何処に有る?自己満足でどれだけ迷惑をかける?」

 

「喧嘩を売ってるなら買うぜ?」

 

 いったいなんでそんな怒らせる事を言うんだ?

 

「アイゼンみたいに三枚目も器用にこなす頭がキレる奴だと思っていたが、ただのまぬけか」

 

 心底呆れてるゴンベエ。

 段々とザビーダ様は怒りで自分を制御出来なくなっていき、ゴンベエに対してペンデュラムの鞭を叩きつけようとするが、ゴンベエは颯爽と避けて背後に回り込み膝かっくんをして転ばせる。

 

「てんめぇ……」

 

「オレは喧嘩を売ってんじゃねえんだよ、アメッカと同じ様に聞いてるだけだ。

生かす理由は何処に有る?それに対して、そもさんせっぱじゃなくて暴力で解決してるんじゃ、それこそお前もこっち側なんだよ!」

 

「違う!!俺は喧嘩屋だ!喧嘩の売り買いはするが、命のやり取りはしねえ!!」

 

「だったら、答えろ。流儀を貫く様を見せてみろ!周りに認めさせろ!

お前は見ていた筈だ!メルキオルが天族を無理矢理に憑魔化させたのを!それは己の流儀でもなんでもないのはここにいる奴等全員が理解している!理性を無くして理由もなくただ暴れるだけの存在になったのもだ!」

 

「……業魔になった奴を戻すもんがあるならよ、とっくに使ってんだよ!!

テメーは二十歳そこらの人間だからなにも知らねえが、そんな物はこの世には存在しねえ!!んなもんがあるなら、誰かがとっくに使ってる筈だ!!」

 

「……そうか、それがお前の本音か」

 

 ……それを引き出す為にわざわざ怒らせたのか。

 感情的になったザビーダ様はカッとなり口を滑らせた。本音が聞き出せたとゴンベエが満足しているとしまったと言った顔をする……。

 そうか……憑魔に、いや、業魔となった者達を元に戻す方法が有るとすれば、ザビーダ様はとっくに使っていたのか……。

 

「……ドウセナラオレガモトニモドスカラコロスナッテイエヨ」

 

 ザビーダ様の答えを聞いて、頭の中の靄が晴れる。

 裁けぬ罪を裁ける様にしようと決意をした時と感覚は似ているが、異なる。あの時は清々しい気分だったが今は真逆で、暗く沈んで鬱陶しい。

 

「めんどくせえ真似をしやがって……」

 

「そう怒んじゃねえ。こうでもしねえと、本音を語らねえだろ。まぁ、詫びぐらいは」

 

「顔面を一発殴らせてくれるのか?」

 

「オレは痛いのはごめんだ。もっと良いもんだよ……ということでペンデュラムを貸せ」

 

「っち……」

 

 ザビーダ様の答えを聞いたお詫びか、それともお礼なのか4人に分身するフォーソードを取り出す。

 前みたいに4人に分身をするのかと見守っていると、4人ではなく2人に分身して1人はバイオリンを、もう1人はタクトを取り出す。

 

「一曲、弾こうってか?俺は詩人じゃあねえんだがな」

 

 そうは言うものの、ゴンベエの演奏の邪魔をしない。

 聞き取るつもりなのだと分かっているのかゴンベエはタクトを動かし、バイオリンを弾いた。

 

「……良い曲だ……」

 

 目を閉じ、曲にのみ意識を集中して心に響かせている。

 この曲はなにかを祈り歌の様な曲で不思議と心地の良い風を連想させ、ザビーダ様は心地良さそうにしている。

 

「はい終了」

 

「今、良いとこだろう──ペンデュラムが!?」

 

 もう少し続くと思っていたが、演奏は急に終わった。

 良いとこで終わったので閉じていた目を開けたザビーダ様は驚く。バイオリンの演奏に共鳴するかの様にペンデュラムに光りが収束していき、薄いが青白く光っている。

 

「こいつは……」

 

「期間限定だが、パワーアップをしてやった……まだ顔面を一発殴りたいか?」

 

「……礼は言わねえぞ」

 

「言葉じゃなくて、行動で示してくれりゃそれで良いんだよ……無駄だろうがな」

 

「!」

 

 ゴンベエにペンデュラムをパワーアップをしてもらい、満足したザビーダ様は去っていった。

 

「さてと……お前等、先に帰ってくれ。オレはちょっと残る。港にマーキングしてるから、パッと行けるから心配しなくていい」

 

「残るって、もうここには誰も居ないでしょ?マーキングしてるなら私達をさっさと連れていきなさい」

 

「……行けっつってんだよ」

 

「っ……分かったわ」

 

 ゴンベエに威圧されたベルベットは、アイゼン達と共にワープをせずに歩いて港へと戻っていく……。

 

「はっ……ぁ……ザビーダの為に弾いたけど手が痛い。後、もう濃すぎる。

なんだよ、なんでこんな1日に全てを纏めて持ってくんだよ、おかしいだろう」

 

 ベルベット達の姿が見えなくなると階段に座り、大きなタメ息を吐いて落ち込む。

 時間にしてたった1日、いや、1時間があるかないかといったところで……それは余りにも濃かった。私達の心に大きな爪痕を残す程に。

 

「エドナの兄がアイゼン。ドラゴンになっていて声しか分からなくて、レコードの声も質がそこまでで似ているレベルになってたな」

 

「ドラゴン……」

 

「ザビーダの奴は現代でやってることと今、言ってることは真逆だしよ」

 

「ザビーダ様……」

 

「……お前、聞いてるのか?」

 

「聞いてる……」

 

 ゴンベエの話は聞いている。

 けど、頭が全然回らない……憑魔狩りのザビーダと喧嘩屋ザビーダが同一人物だと思いたくない……。

 

「膝、借りていい?」

 

「……好きにしろよ」

 

 ゴンベエから許可を貰ったから、ゴンベエの膝の上に座る。

 さっき言っていた様に、手を怪我しているから頭を撫でて貰うことはしないけど、それでも落ち着く……けど、頭の中からは消えない。別の事を考えることが出来ない。槍を使えたってゴンベエに言えないよ……。

 

「……ゴンベエ、私、この時代で強くなる事が……ううん、変わることが出来たかな?」

 

「変わったよ……良くも悪くもな」

 

「良くも悪くも……」

 

 そうだよね、変わることは出来たよね。

 自分が憑魔になるかもって感じたことがあったし、ついさっき闇を纏った斬撃を飛ばせた……それと今は──

 

「現代に帰りたいか?」

 

「……分かんない」

 

 アルトリウスの目的とかカノヌシとかまだなにも分かっていない。

 この世界の何処かにいるマオテラスや浄化の力についてもジークフリートを狙っていた理由も分かってない。単純にその理由を知りたいって気持ちもあるけど、それと同時に怖い気持ちもある。

 アイフリードは現代まで名を残しているのに聖寮なんて名が1つも残っていない。それは歴史の闇に葬り去られたもので、いったいなにをしたのか、今のところ世間的には聖寮は国の為に頑張っている組織なのにそれをひっくり返す出来事が起きるんだよね……。

 

「ゴンベエ、もしこの槍を使いこなせる様になればスレイと共に戦えるかな?」

 

「まだやらなっきゃいけねえ事が残ってるが、使いこなせればヘルダルフにも勝てる」

 

「そっか……でも、それだとダメだよね」

 

 スレイがやっていることが間違っているとは言わない。

 けど、今までとなにも変わらない……私はスレイとは異なる方法でどうにかしたい。具体的にはなにをすれば良いのかは分かっていないけど、それでも私に出来ることがある筈だよね。よし

 

「今からでもベルベット達を追いかけよう……あれ?」

 

 体が震えている……なんで?

 急いでベルベット達のところに、ゴンベエがパッと港にワープする事が出来るんだったら、皆、纏めた方が良いし、早く追いかけないといけない……なのに、どうして。

 

「気持ちの整理が色々と追い付いてないんだよ。

ザビーダの事もあるけど、アイゼンの事も……処理できてないし、なにより怖いんだろ。変わることに」

 

「変わることが怖いだなんて、そんなことは」

 

 私が槍を握ったのも、今のままではダメだと自らで変わろうとしたのが始まりなんだ。恐れていては──

 

「力を持ってる強い信念を持っていた奴が堕ちる前と後を見てもか?」

 

 無い、なんて言い切れなくなった。

 

「……なんで、なんで彼処まで立派な信念を持っている方が現代では憑魔狩りをしてるんだろ?」

 

「知らん」

 

「知らんってそんな……」

 

「アリーシャ、オレ達は今、過去を振り返ってるんだ」

 

「うん」

 

 なんで今さらな事を言うの?

 

「この旅が終われば、過去から現代に戻らないといけない。

それまでになにを見るかはオレにもまだ分からねえけど、ザビーダは現代にちゃんと生きているのは確かだ……現代に戻るまでにザビーダが変わる理由が分からなかったら、聞けば良い。いや、聞かないとダメだ。オレ達が去った後をザビーダは知っているんだから……」

 

「……旅が更に延びたね」

 

 色々と知るのと3人目が誰なのかと、ザビーダ様に空白の1000年になにがあったのかを……。

 

「ゴンベエ」

 

「はいはい」

 

 先伸ばしにしただけって言われればそうだけど、なんとかの一区切りをつけることは出来た。

 それでも見ていて心が痛くて苦しくて悲しくてどうしてこんなにも自分が無力なのかなって思っちゃう。だから、ほんの少しだけ泣かせて貰うね。




スキット 槍が使えないのに使えたのは……

アリーシャ「さっきザビーダ様に弾いていた曲なんだけど」

ゴンベエ「物凄く手が痛いから弾かねえよ」

アリーシャ「違うよ、どういう効果があるのかなって。ゴンベエが弾いたってことはただの曲じゃないんだよね?」

ゴンベエ「オレはただの曲も弾けるっつーの」

アリーシャ「ペンデュラムが光り輝いていたけど」

ゴンベエ「アレは背中の剣と同じ力を与える祈り唄みたいなもんだ」

アリーシャ「同じ力って、浄化の力を!?」

ゴンベエ「たま~に言ってるけど、オレのは浄化じゃなくて退魔の力だから」

アリーシャ「だがどちらにせよ人に戻せる……そんな力を限定的とは言え与えたら、その、歴史がおかしくなったりするんじゃないの?」

ゴンベエ「問題ねえよ……現代で会ったザビーダは既にオレ達と出会ったザビーダだ」

アリーシャ「えっと……あ、そっか。既に過去に渡った私達と出会っていたんだ!じゃあ、ゴンベエが風神の唄を弾いたのも」

ゴンベエ「現代では既に過去の出来事として起きたことになっている」

アリーシャ「……ややこしいね」

ゴンベエ「タイムパラドックス物なんてややこしいから無理に理解せずに、そうなって良かったって思えばいいんだよ。それよりも風神の唄はお前の槍を完成させる為に残っている行程の1つだから、弾ける様になれよ」

アリーシャ「あの曲が……あ、そうだ。聞いて!あの槍を使える様になったんだ!」

ゴンベエ「あの槍を……マジで?」

アリーシャ「ああ、見ていてくれ……闇纏・無明斬り!……あれ?」

ゴンベエ「それただの魔神剣じゃねえか、無明斬りは剣に闇を纏わせねえと」

アリーシャ「も、もう一度……闇纏・無明斬り!……」

ゴンベエ「魔神剣だな」

アリーシャ「そんな、どうして……あの時は使えたのに」

ゴンベエ「あの時って言うと、ザビーダと一緒にメルキオルを追っかけていた時か?」

アリーシャ「一か八かで出たから、本当に偶然に出た……でも、この槍から闇を出そうと思えば簡単に出せるのに」

ゴンベエ「そん時と精神状態が違うからじゃねえの?」

アリーシャ「メルキオルを追いかけた時は、無我夢中で……許せないと、絶対に捕まえると思ってたのに」

ゴンベエ「絶対に捕まえる……何時ものアリーシャだってそういう事を思う。けど、あん時は天族を問答無用で憑魔化させたメルキオルにカッとなってた……カッとなっていたから使えた……カッとなっていたからか」

アリーシャ「ゴンベエ?」

ゴンベエ「……作っておいてなんだが、ロクでもねえものを作り上げちまったな」

アリーシャ「?」

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