テイルズオブゼ…?   作:アルピ交通事務局

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古文は現文に翻訳してもややこしい

「あれって」

 

「アステロイド」

 

 マギルゥの目当ての人物であるグリモワールと思うノルミンをマクリル浜で見かけたはいいものの憑魔に囲まれていた。

 一体だけならば何時もの様にデラックスボンバーでどうにかするけど、結構な数が居るから大きめのアステロイドをぶつけて殺る。面倒な手間はいらん。

 

「……相変わらずね」

 

 戦おうとした自分よりも早くに攻撃をしてほぼ全ての憑魔を殺ったので呆れるベルベット。

 そこで普段からしっかりと戦えと言わないのは一線を引いている証拠だと感じる。

 

「まだ大きいのが居るわ……命令よ、倒しなさい」

 

 めんどくさいのが居ないから、あっさりとしてんな。

 コレがゲームならばイベント前のちょっとしたボス戦的なので、誰がどう倒そうが関係無いんだろうな。

 ベルベットの命令を受けたので、蜥蜴の様な憑魔の群のボスであるデカい蜥蜴を分割していない塊のアステロイドで貫いて倒す。

 

「あんたがグリモワール?」

 

「ふぅ……」

 

 あ~そういうタイプか。

 

「頼みたいことがあって探したんだけど」

 

「はぁ……あんた誰?」

 

「ベルベット、魔女の知り合いよ」

 

「ああ、そう……」

 

 ついさっき憑魔に襲われていたのが嘘の様なマイペースぶりを見せるグリモワール。

 ベルベットの声に反応はしているものの耳は傾けておらずどうでもよさげだ。

 

「グリモ姐さん、ご無沙汰じゃのー」

 

「ご無沙汰でフー!」

 

「ああ、あんた達……相変わらずちんちくりんね」

 

 マギルゥとビエンフーにすら薄い反応。

 こりゃ厄介な相手だな。

 

「どういう関係なんだ?」

 

「魔女の修行をしていた頃の先輩なんじゃよ」

 

「で?」

 

「中々に興味深い古文書があっての、解読を頼みたいんじゃ」

 

「へぇ、あんたが他人に肩入れをしてるなんて珍しいじゃないの」

 

「ま、暇潰しにはちょうどよくての」

 

 マギルゥが肩入れをしている事に驚いている?

 こういうタイプの人間は使命感とか損得勘定とか道徳心で動くんじゃなくて面白いか面白くないかで決めるサイコパスに近いタイプの筈だろ?

 

「あたしはヒマじゃないのよ」

 

「そこをなんとかお願いしますでフーー!!」

 

「そういうのをやってないわ」

 

「……なんか、ゴンベエみたいだ」

 

 ちょっとアリーシャ、オレはもうちょっとお前の頼みを聞いてるぞ。

 

「なら、頼まないわ……やれ」

 

 ジャキンと剣をグリモワールの喉元に出すベルベット。

 もうちょっと何段階か踏めよ……とはいえ、通用はしなさそうだが。

 

「……殺れば?」

 

「脅しでも冗談でもないわよ?」

 

「でしょうねぇ……」

 

「……っち」

 

 諦めたか。剣を出してもすんなりといかない相手だと分かると剣を直す。

 マギルゥが姐さんと着けているだけあり、酸いも甘いも知り尽くしているのか精神が大人であり多少の事では動じない。こんな状況なのにベルベットの目を見て呆れている。

 

「あんたみたいな目をしてる子と関わるととんでもないものを背負わされるのよ。若かった頃ならともかく、この年になるとそういうのは重ったるくて嫌になるわ」

 

「この歳って、幾つなんだ?」

 

「それ以上踏み込むと、あんたのケツに花火を突っ込むわよ」

 

「応……これは失敬しました」

 

 怖いな。

 過去に聖堂が出来た時からライラの実年齢を逆算してみようとした際に軽く炙られたが、その時は別に怖くなかったが、これは怖い。ロクロウも若干ビビってる。後、今までで1番の反応だ。

 

「取り付く島も無いようだな」

 

「南の島なのに、ごめんねぇ……」

 

 さて、どうするか。

 グリモワールなら古文書の読み方とかを知っているが、それを本人はやりたがらずに力でどうこう出来ない。本人がやりたいと思ってやってくれないとダメだ。

 

「古代語、どうやったら読める様になる?勉強する本とか無いの?」

 

「へぇ、自分で勉強して読む気?」

 

「うん……僕、本が好きだし、昔の事とかしりたいし……なによりも必要なんだ」

 

「随分と熱心ね」

 

「背負いたくないなら、僕が読めるようになって……そうすればベルベットの力になれるから」

 

「ライフィセット……」

 

「授業料、高いわよ?」

 

「……金を使う種族か?」

 

 あんた完全に世捨て人な感じだよな?

 

「冗談よ……その子の健気に免じて読んであげるわ。古文書はどこ?」

 

 なんか掴みづらい人?だな。

 ともかく、オレ達を見て興味無しから協力にまで漕ぎ着ける事まで出来た。後は解読するだけだ。

 

「古代アヴァロスト語……また、厄介なものを。

本もかなり痛んでるし、所々読めないわね。これは時間が掛かるわ」

 

「さらっと片言だけじゃ無理なのか?」

 

「普通の古代語なら現代語に訳せば良いが、中には出来ないのもある」

 

「じゃあ、どうやって解読すんだよ?」

 

「その……なんとなくと勘だ……」

 

 そんな解読法って。

 いや、でも文の長さとかから逆算して文の内容を当てるやり方とかテストの時に使ってるし、否定は出来ないのか。

 

「あら、詳しいのね」

 

「一応は見て、過去に自分で勉強したりしたが……読めなかった」

 

「そう簡単に読めたら、考古学なんて発展しないわ」

 

「時間が掛かるか……ゴンベエ、船をマーキングしてるか?」

 

「してるには、してるけど……連れてくと面倒な事になるぞ?」

 

 聖主アメノチ様人形を土産屋の主人が売ってた。

 写真を見せても街の人達がそこまでピンと来ていなかったから、まだ知名度はそこまでだろうがグリモワール人形の販売を停止しなければ、アメノチ様と間違われるぞ。

 

「さっきの失言、忘れてあげる……この先にハリアって村があるわ」

 

「応、かたじけない」

 

「さっさと行きましょう、そのハリア村とやらに」

 

「そんな、怒るなよ」

 

「怒ってないわ」

 

 何処がだよ。

 すんなりと行かなかったことに若干だがベルベットは苛立っている。多分だが、カノヌシの正体が分かったりしたら今度はカノヌシをどうのうこうのでアルトリウスがより遠退くぞ。

 ハリア村の宿に足を運び、グリモワールに読んで貰うのだが解読に時間が掛かるのでライフィセットを除いて各自自由行動を取る……のだが

 

「狙って来やがったか」

 

 宿の前に金色の狼が座っていた。

 宿に入る前は居なかったくせに、居やがってからに……

 

「ゴンベエ、早く狼になれ。時間潰しには最適じゃ」

 

「へーへー」

 

 ちょうどと言うかライフィセット以外はこの場にいる。

 狼の姿になり、遠吠えで共鳴をして何時ものなにもない真っ白な場所へとやってくる。

 

「汝、力を求めるか?」

 

「そうじゃの~」

 

「あ、求めるらしいんで」

 

 何時もの骸骨が来て、何時もの問いかけが来たのだがマギルゥが焦らす空気を出していたので代わりに答える。

 

「……私にもなにか教えなさい」

 

「汝には技を授けた」

 

 前回技を授けて貰ったばかりのベルベットは技を要求する。

 

「あの技は強いわ。けれど、実用的じゃないのよ」

 

「ならば変えよ。己の手で」

 

 基本となる技は既に授けている。

 後はそれをどうやって自分の物にするのか、自分に合う技に改造するのかはベルベット次第か。

 

「なによりも汝の刃は届く。届けられる事が出来るかどうかは別だが」

 

「……そう」

 

 新しい剣はアルトリウスを殺せる武器。

 ただし殺せるかどうかは、ベルベット次第か……ところで、マギルゥになにを教えるんだ?

 今までは刃物だったが、マギルゥの武器って物凄く特殊で基本的には術での攻撃だよな?

 

「で、ワシにはどんな技を授けてくれるのかの?」

 

「汝に授けるのではない。汝等に授けるのだ」

 

 そういうとマギルゥの体が光り、ポンっと飛び出るビエンフー。

 

「バッド!?ボクも戦うのでフか!?」

 

「無論、この技は二人でしなければならない技だ」

 

 骸骨騎士は腕を交差させて胸元まで引き寄せ、弧を描く様に腕を戻した後に右手を下にして両手を重ねる。って、そのポーズは。

 

「ギデオン大司祭がいた礼拝堂で使っていた技に似ているな」

 

 アリーシャも見覚えがある動き。

 最初の構えから手を突き出すところまでは一緒だが、そっからは違っていた。あん時はアクのゼンリョクポーズを取っていたが、ここからは違った。

 両手を合わせて頭の上に持っていくと、右左右左とクネクネとまるで稲妻を表すかの様に手を動かして頭の上に左手右手と順番に持っていった後、頬をぷにぷにする動作をして最後に両手を頭の上に持っていきウサミミを作り、片足を前に出す。

 

「なにも起きんぞ?」

 

「お前もしろ」

 

「ボクもでフか?」

 

 その技はビエンフーも動きをしなければならないな。

 骸骨騎士に言われるがままにさっきと同じポーズを一緒にするマギルゥとビエンフー。同じタイミングでポーズを終えると、ビエンフーとマギルゥに目に見える程のオーラが出現する。

 

「力が、力が涌き出てくるでフ……マギルゥ姐さん!」

 

「うむ、やるぞ!」

 

「見せてやるでフよ。ボク達のゼンリョクを……あれ、マギルゥ姐さんなんで掴んで」

 

「試しに行ってこいビエンフー!!」

 

「ビ、ビエーーーーン!!」

 

 マギルゥに抱えられてぶん投げられるビエンフー。

 するとビエンフーの体から電撃が放出されていき、ビエンフーの形もあいまってか電撃の球の様な物に変化して骸骨騎士が出した大岩にぶつかり稲妻が落ちる。

 

「マ、マギルゥ姐さん、そこは七色の雷で1000万パワーな技を」

 

「お主にはこういうのがお似合いじゃよ。名付けて、必殺のビエーンシュート」

 

「シュートってまさか!」

 

「次からは、オーバーヘッドじゃよ」

 

「そ、そんな……ガクッ」

 

 マギルゥのオーバーヘッドで推進力を増した必殺のピカチュートならぬビエーンシュートか。

 なんともまぁマギルゥらしい技だな……やべえな、今です自爆しなさいを思い出してしまうな。

 

「次は、汝の番だ」

 

「あの……その前に1つだけ聞きたいことがあるのですが」

 

 前と同じく技の伝授を終えるとアリーシャに技を授けに行くのだが、待ったをかける。

 

「この槍をどうすれば使いこなせるか、私に足りない物はありませんか?」

 

 槍の力の引き出し方か……どうすればいいのか、ザビーダと共闘した時にほんの少しだけ力を引き出せた。

 その時に一時的とは言えアリーシャに足りないものが満たされていて、今は満たされておらず使えなくなっている。足りないものがなんなのか、素材を砕くことが出来た骸骨騎士なら分かっているのかと聞いてみる。

 

「……お前は何だ?」

 

「私、ですか?」

 

「狼か?猿か?蝙蝠か?鳥か?」

 

「私は人間です」

 

「では、問おう。人間とはどんな生き物だ?」

 

 修行でなく問答に入るのだが、直ぐに答えに悩む問題を出される。

 凄く遠回しに凄くややこしくしているが、アリーシャに足りない物を満たすにはちょうどいい。

 

「人間がどんな生き物……」

 

「また随分と哲学的問題じゃの」

 

「ですが、改めて聞かれれば答えるのは難解です」

 

「ただ食って糞して眠るだけの生き物なら、ごまんといるからな」

 

 どういう生物かと答えるのが答えではないと頭を悩ませる。

 見ているエレノアも考えてみるのだが、答えは出てこない。人間とはなにかと聞かれれば、誰だって答えづらい。と言うよりは、これは数学や科学の様に正しい答えがあるんじゃなくて、国語の様に答えが定まっていない問題だ。

 

「人間は醜い生き物だ」

 

 頭を悩ませ答えを一向に出せないアリーシャの代わりに骸骨騎士が答える。

 人間とは醜い生き物。その答えに対して強く反発することは出来ない。ここに来るまでに醜い物をアリーシャは沢山見てきた……。

 

「確かに人間は醜いです。困ったら天族に頼ると言った者や、己の私利私欲を満たす為に穢れていく──」

 

「人間は美しい生き物だ」

 

 それでも人間はとよくあるテンプレな台詞を言おうとしたが、その前にさっきとは真逆の事を言う。

 

「人間は馬鹿な生き物だ」

 

 今度はさっきとも最初とも違う答えを言う。

 

「人間は賢い生き物だ」

 

 そしてそれと真逆の答えを次に言う。

 そこからはアリーシャは答えずに考えることにだけ集中した。

「人間は強い生き物だ」

 

「人間は弱い生き物だ」

 

「人間は気高い生き物だ」

 

「人間は下卑た生き物だ」

 

「人間は勇気ある生き物だ」

 

「人間は臆病な生き物だ」

 

「人間は情けある生き物だ」

 

「人間は非情な生き物だ」

 

「ストップ、タイムだ」

 

 ここからはなにを言うのかが読めた。

 人間を表すなにかを言い、それと対となる次に言う。それの繰り返しであり、途中からアリーシャが理解出来なくなってきている。

 

「後はきっかけだけが有れば良いだけだ。これ以上色々と教えてたらアメッカの方がバグる……ただでさえ、コレから色々と大変な事になるってのに」

 

 字面にすれば矛盾している。言葉にすれば矛盾していない。

 全てが間違いでもなければどれか1つだけ正しいわけでもない答えだけを見れば全て人間の一側面であり、ある意味全部が間違いで正しい。それがアリーシャにとってなにを意味するかまでは分からないが、それを理解できれば心が大きく成長してその槍を使いこなせる様になるだろう。と最後に必要なのは非常に面倒な感情だけど。

 アリーシャには悪いがここで強制的に問答を終わらせて、技だけを覚えて貰った……そして普通に忘れていたが、この空間での時間の経過は皆無に等しい。暇潰しにはなったかもしれないが、時間潰しは出来なかった。

 

「古文書の解読は進んだ?」

 

 そこそこ時間を潰したが、ライフィセットとグリモワールから解読終えた報告は無いので逆にこっちから来た。つーか、ベルベットが痺れを切らした。

 

「ええ、坊やのお陰でね。この坊や、語学のセンスが抜群よ」

 

「グリモ先生の教えが良いからよ」

 

「うっ……」

 

「アメッカ、胸が苦しいのですか?」

 

「いや、なんでもない」

 

 教え方とかよりもセンス無くて読めなかったアリーシャの心は痛いだろうな。

 

「そんな風に言われると本気になっちゃいそう」

 

「は?」

 

「グリモワール、今すぐに謝るんだ。

ベルベットにはその手の冗談は伝わらない。なんだったらさっきのグリモ先生のお陰と言ってるところでジェラってた」

 

 もうなんか明らかに反応が違う。

 アリーシャと違って色々と感情を表に出してたりするから、余計に伝わる。もうなんか字にしたら恐ろしい字になってる。

 

「あらあら、若いわねぇ」

 

「っ……」

 

 くそ、どっちかと言えば悪いのはグリモワールなのになんでオレの弁慶の泣き所を蹴られなければならない。

 いや、良いんだよ。ベルベットの感情がそれで安静になったり変に焦ったりしなかったらそれはそれで……でも痛いんだよ。ダメージ皆無だけど。

 

「さぁて、坊や、読んであげて。古文書に書かれていた歌を」

 

「はい、先生」

 

 ベルベットの八つ当たりも終わり、古文書に記されている内容をライフィセットが教えてくれるが……歌か。

 

「八つの首を持つ大地の主は七つの口で穢れを喰って、無明に流るる地の脈伝い、いつか目覚めの時を待つ」

 

 ふむ……。

 

「四つの聖主に裂かれても、御稜威に通じる人あらば、不磨に喰魔は生えかわる」

 

 四つの聖主……。

 

「緋色の月の満ちるを望み、忌み名の聖主心はひとつ 忌み名の聖主体はひとつ」

 

 原文をそのまま翻訳したのだが、ライフィセットはそれ以上はなにも言わない。

 代わりにグリモワールが説明をしてくれる。

 

「カノヌシを表す図、かぞえ歌。この古文書はその意味を解読した注釈書なのよ」

 

「勿体ぶらずに、その注釈を教えて」

 

「それは言わんお約束やろ」

 

 原文じゃなくて馬鹿にでも分かる様に要点だけ纏めろとかそれは言ったらアカンって。

 

「ごめん……まだ、数え歌の歌詞しか解読出来ていないんだ」

 

「そう……あんた、なにかに気付いてるの?」

 

「なんでそう思うんだ?」

 

「あんただからよ」

 

「それ、褒めてんの?」

 

「認めてるのよ……あんたはふざけてるだけだって」

 

 なんか色々と大事な言葉を抜かしてる。

 ベルベットのオレに対する評価はなんか気になる。正直な話、どう思ってんだ?

 

「教えなさいよ。なんか気付いてるんでしょ?」

 

「……嫌だね」

 

「……なんで嫌なの?あんた、私の下僕で復讐を手伝ってくれるんでしょ?」

 

 そりゃまぁ、喜んで手伝わせて貰う。けど、教えるか教えないかは別だ。

 

「なんとなくの推測程、面倒な物は無いんだよ。

オレが今ここで考察した事を言ったらお前はそうだと思ってしまう。時間を掛ければ正しい答えがあってもだ」

 

 あの分からなんとなくの考察は出来る。だが、それが正しいとは言えない。

 そこそこ考察こそ出来てもそれで間違った行動をするかもしれないし

 

「ゴールが分かっていない」

 

「ゴール?」

 

「……アルトリウス達のゴールだよ」

 

 解読出来た部分から考えられるのはアルトリウスが現在進行形でなにをしてるかだ。

 最終的にそれを終えたらなにがどの様に変化をするのか?そこが大事なんだよ。

 

「聖寮のゴールなんて知らなくて良いわ。私がトップを殺るんだから」

 

「アルトリウスを殺してすんなりと終わるわけねえだろ、アホか」

 

 お前はいったいなにを見てたんだ。

 道中、何名かの対魔士達を殺ったがその時にそいつが使役していた天族は解放されていない。器が壊れてたら道連れで天族も死んじまう。カノヌシがなんであれとんでもない存在であり、殺してしまえばそこで終わりだ。

 

「知っている人に聞く、と言うのはどうだろうか?」

 

「……あんた、なにを言ってるの?」

 

 ベルベットに教えろと睨み付けられていると、ずっとなにかを考えていたアリーシャは口を開く。

 この本しかカノヌシに関する手掛かりはなくてグリモワールを訪ねたのに知っている人に会うって、オレ達は未来から来たからコイツら以外に知り合いは居ねえぞ。

 

「四つの聖主とは恐らく五大神、じゃなかった。

ここに来る前に聞いた聖主アメノチの事で、他にも似たような存在が3人居る。この本がなんにせよ、カノヌシが実在をしていると言うことはそのアメノチも実在をしていて、カノヌシの事についてなにか知っているんじゃないか?」

 

 ああ、そう言えばなんかそんな事を言っていたな。

 ここに来てまさかの知っている人が居るというどんでん返しだったが、それは良い案だ。

 

「残念だが、それは不可能だ」

 

「どうしてだ?聖主アメノチを信仰していたのならば、祀る神殿がある筈だ」

 

「探せばあるだろうが、そこにはいない。

オレ達が地脈から出てきた際に居たあの場所は聖主ウマシアを祀る神殿だったが、そこには聖隷の気配も力もなにも感じなかった。聖寮がアメノチの信仰を禁止にして加護もなにも無いと言うのなら、恐らくアメノチの神殿になにもいない。この四つの聖主が嘗て信仰されていた聖主ウマシア、ムスヒ、ハヤヒノ、アメノチだとすればどの神殿にも聖主はいない筈だ」

 

「更に付け加えるのならば、アメノチを祀る神殿は現在聖寮が施設として使っておるらしいぞ」

 

 おいおい、下手すりゃ聖主とやらも敵の可能性があるな。

 

「八つの首を持つ大地の主がカノヌシで、七つの口で穢れを喰っている。

喰った穢れは地脈を通じて本体に向かって……力を蓄えていったいなにをするつもりなんだ?」

 

 無理だと分かれば自分なりに考察をしてみるが、やはり最後に行き詰まる。

 そう。そこまではこの歌だけで考えれるが、最後につまる。この歌を簡単に言えばこうだ。

 世界の何処か7ヶ所で穢れを喰っていて、地脈を経由して八つ目の本体に送られる。四人の聖主がカノヌシを倒しても、カノヌシを求める人間が居れば蘇る。喰魔が変わるって言うのは、なんかの条件を満たした奴が喰魔となっていて、そいつがいなくなったら条件を満たした次点の奴が喰魔になる。

 最後の方に関しては色々と不明だが……カノヌシは大地の主で……ああ、そういうことか。

 

「カノヌシの本体は何処かは知らないが、カノヌシの一部は地脈に居る。なら、この喰魔とやらは地脈点にいる。穢れを地脈経由でカノヌシに送り込むならば地脈点が1番の効率だ」

 

「地脈点?」

 

「地脈の力が集中する場所の事じゃよ」

 

 なんか知らねえ単語がポンポンと出てくるな。

 

「この紋章って……クワブトが居たところにあったやつだ!」

 

 本に書かれている挿し絵で思い出すライフィセット。

 

「それが喰魔ですか……」

 

「そういや、そのクワガタに会う前にライフィセットはカノヌシの力を感じていたな」

 

 足りない。

 古文書の細かな内容が分かっていないから、なにをすれば良いのかがなんとなくでハッキリと分かってねえ。

 後、1つか2つなにかが填まればこれからやるべき事が向かうべき場所が見えてくる感じだ。

 

「ギデオン大司祭を暗殺しに行った時に居た業魔もカブトムシと同じ結界に閉じ込められていた」

 

「カノヌシにその穢れとやらを送り込む為に……それなら納得が、でも……それでどうなるの……」

 

 アイゼンは大司祭暗殺の際に見た大鷲を思い出し喰魔だと判明し、一先ずの納得を見せるエレノアだが、その結果が分かっていないのでまだ疑心は晴れない。

 全部をどうにかするにはこの本の内容を翻訳しなければならない。こればかりは時間の──

 

「あっ!!」

 

「どうした?」

 

「ワァーグ樹林の時と同じ感じがした!」

 

 急になにかに気付いたかと思えば、羅針盤を手にする。

 ライフィセットを中心に足元が光り、波紋が広がり羅針盤の針はクルクルと回転する。

 

「……あっちの方からだ!」

 

 ピタリと針が止まるとライフィセットは力を感じた正確な方角を指差す。

 

「この方向は、聖主アメノチを祀る聖殿パラミデス……今は聖寮の施設じゃったか?」

 

「聖殿や祭壇は霊的な力に満ちている場所に作られると聞いたことがあります。地脈点を意味しているのではありませんか?」

 

「地脈点は世界中の至るところにある。喰魔が7体だとするなら、殆どの地脈点がハズレだ」

 

「しかし、俺達にはこの本以外になにもない。

地脈点に喰魔が居るのが分かっても、何処にいるのかは書いてないかもしれんし可能性があるなら行ってみる価値はある」

 

「解読を待つ気は無いわ。ライフィセットの感覚の正体もわかるし」

 

 取りあえずは行くわよと宿屋を出ようとするベルベット……うん。

 

「ちょっと寝させろ」

 

「おお、すまんすまん。そういえばまだこんな時間だったな」

 

 さっきの技の習得とかで時間の感覚は狂ってはいるが日は沈んでいる。

 オレは24時間ぶっ通しで動くことが出来るが、アリーシャ達人間組はそうはいかない。割と寝ている時間帯だ。

 かくゆうオレも眠いか眠たくないかで言えば眠たい。

 

「……朝一に行くわよ」

 

「ああ、おやすみ」

 

「…………おやすみなさい」

 

 最後の最後でベルベットの方がデレたと思いたい。




スキット 考古学は論争

アリーシャ「四聖主は恐らく現代で言う五大神のことで、残す1つがマオテラスもしくはカノヌシ。
極々稀に聞くだけで細かな詳細が書かれた文献は一切存在しないがこの時代では、カノヌシに関する古文書がある。と言うことはカノヌシや神様と崇められていた四聖主は天族」

ゴンベエ「なにやってんだよ、明日は朝一で聖殿だぞ」

アリーシャ「すまない、起こしてしまったか」

ゴンベエ「寝る時間を惜しんでまでなにしてんだよ」

アリーシャ「かぞえ歌を自分なりに考察しているんだ、この時代ではまだマオテラスが居ない。代わりにカノヌシがいる。詳しい内容は未だに不明だが、現代で五大神と呼ばれる天族と四聖主は同一。ならば、何故カノヌシがいないのかマオテラスがいないのか……コレは私達が絶対に知らなければならない事だ」

ゴンベエ「だからって、睡眠時間は削るな。ベルベット達みたいに都合良い感じになっていねえんだ。倒れたら元も子も無い」

グリモワール「そうね、夜更かしは美容の大敵なんだから折角の綺麗な肌が台無しよ」

アリーシャ ゴンベエ「「!?」」

グリモワール「そこまで驚かなくてもいいんじゃない?」

アリーシャ「あの、何時から要らしたのですか?」

グリモワール「ついさっき……なんにも聞いてないわよ」

ゴンベエ「それを言うのは本当は聞いてるけど、大人の判断で聞かなかったやつだろう」

グリモワール「本当になにも聞いてないわよ……本当よ」

ゴンベエ「……下手に突っ込まないからそれでいいか。グリモワールはなにを?」

グリモワール「古文書の内容を考えてたのよ。頼まれて引き受けた以上は翻訳するだけじゃなく意味も理解してあげないと……けど、こういう古文書って言い方が三枚目の口説き文句並に周りくどいのよね」

ゴンベエ「まぁ、いとをかしとかワケわからん単語が出てきたりするからな」

グリモワール「それで、あんた達は何処まで理解しているの?」

アリーシャ「私はそこまでは。それこそエレノア達となにも」

グリモワール「嘘おっしゃい……穢れがなんなのかを理解しているのでしょ?それに私達の事を天族と言っている……知ってるんでしょ、加護をはじめとする様々な真実を」

アリーシャ「それは、知ってはいますが……その」

グリモワール「あんた達しか知らない、そんな感じかしら?」

ゴンベエ「言うなって釘を刺されているからな」

グリモワール「聖隷の間では言ってはならない掟の様なものよ」

アリーシャ「先程も言った様に私は詳しい事はなにも、ゴンベエはなにか分かっているんじゃないのか?」

ゴンベエ「一部だけで、アルトリウス達の最終的なゴールが分かってないし間違ってるかもしれねえから下手な事を言って混乱させたくねえ」

グリモワール「あら、考古学は推察から始まったりするのよ。そこから物的証拠を色々と集めて詰め込むものだから、そういうのは語り合うべきね」

ゴンベエ「……意地でも聞く気か」

グリモワール「こういう意見は大事なのよ」

アリーシャ「ゴンベエ、ここは言った方が良いんじゃないか?幸い、誰も聞いてはいない」

ゴンベエ「ったく……オレから言えることは2つ、だけど鵜呑みにするなよ。1つは天族、ここで言う聖隷がありとあらゆる人間が見ることが出来るのはカノヌシのお陰だ」

グリモワール「開門の日にカノヌシがなにかをしたと?」

アリーシャ「……スレイ」

グリモワール「スレイ?」

アリーシャ「私達の知り合いに、元から天族を見れたスレイと言う人がいます。ゴンベエは元から素で見えるのですが、私は見えないのでスレイの力を借りてみていたんだ。今、思えばアレも天響術の一種なのかもしれない。カノヌシが天族ならば、その術が使えてもおかしくはないのではと」

グリモワール「霊応力が高い子が聖隷術で見えない子を見える様にね……それって大分危険な事じゃないかしら?」

アリーシャ「はい……私とはもうしない様にと既に契約を…っ…」

ゴンベエ「傷口を自分で弄くってどうすんだ……カノヌシの事を大地の主と書かれているのが引っ掛かってな」

グリモワール「……大地の主、まさか」

ゴンベエ「とある天族は樹を器としている。とある天族は水を器にしている。アイゼンは大地から産出された金属を加工したコインを器にしている……だったら出来ない方がおかしい。それなら世界中の至る人物と触れあえて見える様にすることが出来る」

グリモワール「かぞえ歌の一節だけで、それだけ分かるだなんて。あんた案外、古代語の才能があるんじゃないの?」

ゴンベエ「やめてくれ。母国語以外はまともに書けないし読めねえんだよ」

アリーシャ「そういえば、何時になったらゴンベエは私の国の文字を覚えるんだ?」

ゴンベエ「もうアメッカが代わりに読んだりしてくれるから良いかなって思ってる」

アリーシャ「まったく……仕方ないな」

グリモワール「あら、若いわね……と、早く寝なさい。寝坊したらなにを言われるか堪ったもんじゃないわ」

ゴンベエ「もう一個は聞かないのか?」

グリモワール「これ以上は今の時点では踏み込まない方が得策なだけよ」

ゴンベエ「そうか……じゃ、おやすみ」

アリーシャ「お先、失礼します……」

グリモワール「……普通に一緒に寝てるわね。これも若さなのか、それとも若さ故の過ちなのかしら?」



マギルゥの術技


 必殺のビエーンシュート


 説明


 世界一有名な電気ネズミ専用のゼンリョクポーズを取ることにより、100まんボルトをビエンフーに装填。
 高く投げられたビエンフーをマギルゥはオーバーヘッドキックで蹴り飛ばして相手に叩き付ける元ネタと若干異なるものの、威力は元ネタよりも凄まじいゼンリョク技。
 言うまでもなく、体をはっているのはビエンフーで、ビエンフー的には雨雲を呼び出して7色の電撃を相手にぶつける技をイメージしていたがビエンフーごときが電気ネズミが世界一有名になった大きな要因であるアニメのサトピカ様と同じ技を使えるわけがない。

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