甘いわ!ベルセリアはゼスティリアみたいに甘くは無いんだよ……本当に甘くは無いんだっ!(モアナはあの姿の方が萌えるんだよ!女の子状態も可愛いけど、それでもあっちの方がいいです(変態))
「捕まえろ絶対に殺すんじゃねえ……ちゃんと説明するからそうしろ。でないと、更に余計な手間が掛かる」
大きく笑ったゴンベエは凄く冷静だった。
今目の前で起きている現実を予見していたからかは分からない。だけど、怒っているのは確かだった
「ロクでもねえことしやがって」
目の前に居るのがアメノチの巫女の娘のモアナ。
宿の娘が捜索をエレノアに依頼されていて、確かにパラミデスに居た。変わり果てた姿で。
聖寮に対して色々な疑いを持っていた私の頭には最悪な事が過りゴンベエはその通りだと冷たい目をする。
少し前までは親娘はハリアの村にいて、居なくなったかと思えば聖寮が管理している聖殿に閉じ込められているとなると
「違います!!」
「なにが違うんだ?」
「アレは業魔で、モアナではありません!
モアナは業魔に喰われて、それでマヒナが業魔病にかかって……きっとそうに違いありません!」
「それだと色々と矛盾してたりおかしな事があったりするが?」
最悪な答えがエレノアにも過り、強く否定する。
だがそれだと幾つか腑に落ちない点や矛盾していたりする点が多々ある。目の前に居るのがモアナでない喰魔ならば、それこそワァーグ樹林の時の様に立ち入り禁止にして最初から入れない様にしている。ここに入るには私達が入った入口しか無い。
「とにかく、事情を聞かねえとなんの話にもならねえ……手加減出来るかどうか怪しいな」
ワァーグ樹林にいた虫はある程度、傷付ける事により憑魔の姿から元の姿に戻った。
目の前に居る樹木の憑魔の姿になっているモアナをある程度、傷付けたりすれば元に戻る可能性がある……絶対の保証は何処にも無い。
「浄化だ……浄化をすれば」
「アカン」
「分かっている……だが、それでも!!」
この場を切り抜ける最善の手は浄化の力を使うこと。
この時代には浄化の力がなく憑魔となった者達を斬らなければならず、ゴンベエはこの時代に合わせてか意地でも抜こうとしない。マオテラスがまだ居ないからか無闇に浄化してはいけないと一線を引いている。
だが、それでも浄化をするしかない。聖寮がカノヌシに穢れを送り込む為に喰魔を閉じ込めているというのならば浄化をして元に戻せば全てが終わる。助け出せる。
「それをすればモアナは助けれるが、見知らぬ誰かを不幸に叩き落として負の連鎖がはじまる」
「負の連鎖だと……」
まだ、なにか分かっているのか?
「……古代の文字が使われていた時代に、モアナはいないんだぞ」
本当に当たり前の事を言うゴンベエ。
なにを意味しているのか考えようとするも頭は働かず、私は理解できない。
「喰魔が生えかわるって、もしかして!!」
「誰かが喰魔になるということだ」
「どういう意味だ!?」
ライフィセットは分かったようだが、私には分からない。
「あの本に記されている喰魔はモアナの事か?」
「それは……そういうことか……」
ゴンベエの言いたいことをやっと理解した。
古代に関する書物は色々とある。例えば古代の文明等の考察が書かれた本。これはあくまでも考察であり、もしかしたらの予測が書かれており本と実態が異なるということがある。
ライフィセットが手に入れた古文書はそれとは別で、古代の人が書き記した実際に起きた出来事等を纏めた書物だ。まだ全容は不明だが、かぞえ歌に喰魔のことが載っていた。
古代アヴァロスト語が使われていた時代にはモアナは生きておらず、喰魔は生えかわる……かぞえ歌に出てきた喰魔と目の前にいる喰魔は同種だが、同一個体ではない。それはつまり
「……浄化をすれば、別の誰かが喰魔になるというのか!!」
背中の剣を抜いて一振り。
ゴンベエが少しだけ真面目になりたったそれだけのことをやればモアナを元に戻すことが出来る。
結界をベルベットが壊すことが出来てモアナを助け出すことが出来る……それをすれば最後、私達が会ったことも無い人が代わりに閉じ込められる。
「あくまでも、可能性の話だがな」
ゴンベエが色々と気付いていて、なにも言わなかった理由がよく分かる。事前に聞いていれば余計に場を混乱させていた。浄化をすればどうにかなるという希望が心の中にあったがその希望は無くなった。
「誰かを犠牲にしなければ助け出せないのか」
悔しい、情けない。
浄化の力さえあればと甘えていた自分が情けない。この場にいる誰よりも弱い自分が悔しい。
もっと力があれば?違う。これはそういったことじゃない。なにをすれば良いのか、なにが正しいのかなにが悪いのかが分からない。
「アメッカ、危ない!!」
「!?」
胸の中の蟠りのせいで周りの警戒心を反らしてしまった。
その隙を狙ってか入って直ぐに遭遇した憑魔と化したマヒナさんが私に向かって襲ってきた。
「大丈夫!?」
「ああ……油断をしていた。すまない」
咄嗟の出来事で攻撃をくらいそうになったものの、左手の盾が攻撃を防いだ。
ライフィセットに無事だと立ち上がり、モアナとマヒナがいる方を振り向く……っ!!
「喰魔と業魔……いや、どちらも業魔か。普通に見ればただの化物じゃが、見方を変えれば親と娘じゃの」
私達の目に写る光景を言葉で表すマギルゥ。
樹木の憑魔の前に出て私達に威嚇をする狼の獣人型の憑魔。今までならば誰かが憑魔にといったところだが、今はそんな風には見えない。私の目には娘を守ろうとする母親の姿にしか見えない。
「ダイジョ──モ、アナ」
「喋った!?」
手を出さない私達に警戒心を緩めたのか、背を見せて喋る。
ハッキリと言った、自分の娘の名前を。穢れて憑魔になり理性を失ったとしても、大きく姿が変わろうとも娘は娘だと歩み寄ろうとすると
「喰魔が……業魔を食べている……」
モアナがマヒナを食べ始めた
「ゴッ……ベン……ネエ……」
「ゴンベエ!」
「任せ……ダメだ」
「なにをしているんだ!早く、剣を」
喰魔となったモアナを元に戻すか戻さないかの矛盾の決断を出来ない。
けど、せめて憑魔のマヒナさんをと思いゴンベエを見るが、ゴンベエは一度だけ剣を掴んだだけで抜くことなく離した。
「ごめんね……」
「これは……」
喰われていくマヒナの姿に異変が起きる。
獣の姿から段々と人の姿に変わり、姿だけでなく声までも人間になっていく。その代わりなのか、身体中からこれでもかと穢れが溢れでていてまともに近寄れない。
「喰魔が食べた……穢れって、業魔のことなんだ!」
「業魔を喰らう……だから、喰魔か」
かぞえ歌の一部が分かり、納得をするライフィセットとベルベット。
「戻った時点でオレにはなんも出来ない……知ってるだろ?オレはそれだけは出来ない」
ゴンベエは極稀に勇者だと言っており、剣を使って戦える。槍を使って戦える。斧を使って戦える。弓を使って戦える。鎖を使って戦える。牙を使って戦える。武芸百般だけでなく天響術とは異なる魔法も使える。
それだけでなく古文書の内容を誰よりも理解する理解力や薬や大地の汽笛をはじめとする様々な道具を作る知識もある……たった1つを除いて出来ない事は無いと言っていい。
「喰われた時点で、もう手遅れだ」
モアナが穢れを肉体ごと喰らった。
そうなってしまえば傷を回復させる術を持っていないゴンベエにはどうすることも出来ない。
「……お母さん……お母さん」
「喰魔が女の子になった!?」
「ちげえよ……女の子が喰魔になっていたんだ」
マヒナを食べ終えると樹木の姿から人型に変わるモアナ。
ベルベットの様に何処から見ても人間の姿、とは言い難くロクロウの様に一部が豹変している訳でもなく全体的に人に似ている姿をしていてライフィセットが変貌に驚くがゴンベエが訂正をする……そうだ。この子は女の子で喰魔になっていたんだ。
「なんでお母さんはモアナを置いて居なくなっちゃったの?」
「!」
「……」
私達に目もくれず、さっきあった出来事が記憶に無いのか泣いている。
自分の事をモアナと言うモアナを見て、ゴンベエの言っている事を否定していたエレノアは手で口を覆う。
「モアナが悪い子だから?弱かったから?ごめんなさい……ごめんなさい……」
「……こんなのって……」
いったい、この子にモアナにどんな言葉を掛ければいいんだ。
起きている出来事を受け入れきれないエレノアの手は震えており、目は怯えていた。残酷すぎる現実にだ。
「モアナ、頑張って強くなったから……聖寮の人が強くしてくれたから……だから、帰ってきてよぉ、お母さん」
「聖寮がモアナを強くした?」
「喰魔にした……ということかの?つくづく生け贄の必要な連中じゃて」
「そんな……じゃあ、最初から娘を救うために!!」
「……これが、これが聖寮のやり方か!!これの何処が救世主だ!!これの何処が導師だ!!」
モアナは泣いている。母に会えないことを悲しんで苦しんでいる泣いている!
スレイは……いや、違う。
「こんな事で世界を救える筈がない……こんな事をしなければ世界が救われないなら、救わなくていい!」
「落ち着け、アメッカ……聖寮に関して文句を言うのは後だ。先ずは、モアナをここから連れ出すぞ」
「喰魔に手を出すことは許さない」
「お前はっ!!」
港で偶然に見かけた対魔士。
騒ぎを聞き付けてやって来たようだが、喰魔とハッキリと言った。
「オスカー!聖寮はなにをしようとしているの!!お願い、教えて!」
喰魔とハッキリと言った為に何もかもを知っていると分かり問い詰めるエレノア。
「エレノア、君は知らなくていい」
「よくない!!この娘は、モアナは!」
「例の業魔を喰らったか……君が気に病むことはない。全ては世界の痛みを止める為に必要な犠牲なんだ」
「……業魔じゃない!!」
エレノア……
「あの人は母親だった!!たった一人の娘の親で──お母さんだった!」
世界でたった一人、何処を探してももう一生見つかることはない。
そんな大切な命を大切な者が奪ってしまったことを、気に病まない理由が無い。必要な犠牲ではない。
エレノアの叫びを聞き、私達と目を合わせないオスカー。
「だとしても、強き翼を持つものは──がぁ!?」
「女の涙には気を付けなさい」
「もっと言えば、女の怒りは男の怒りよりも怖いぞ……強さを理由に強要してんじゃねえ、優等生」
喋っている最中に攻撃をし、油断していたオスカーを蹴り飛ばすベルベット。
私の様に感情を大きく出していないが明らかに怒っている。
「てめえに日本式の拷問をしたところで、つまんねえからな……オレのストレスの捌け口としてこれだけで勘弁してやるよ」
「がっ、あっ、は、な……」
「るせえよ」
バキボキと一本ずつ手の指の骨を折っていくゴンベエ。
抵抗しようとするオスカーの左胸に強い蹴りを入れて気絶をさせると今度は身ぐるみを剥がしだす。
「殺るのはオレにとっては簡単だからな……水路があったから、落書きをした後に全裸で流してやる。その内、死んで苦しみから解放されたいと狂わせてやる」
筆を取り出し、ゴンベエは全裸となったオスカーに落書きをはじめる。
「うう……お母さぁん……」
「……今の弱い私に出来るのは、これだけだ」
私の槍はアルトリウスにはまだ届きすらしない。
モアナを閉じ込めている結界を壊すことは今の私ならば出来る。私は結界に向かって槍を振るうと結界は硝子細工の様に粉々に壊れた。
「僕はライフィセット。モアナ、ここから一緒に出よう」
「……お母さんは?一緒じゃないと寂しいよ……」
「寂しくないですよ。離れていても、お母さんはずっとあなたを見守っていますから」
「どうして分かるの?」
「……私のお母さんも、そうですから」
「行こう、モアナ」
「……うん」
「お前はいかなくて良いのか?」
モアナの側に歩み寄るライフィセットとエレノア。
私はモアナの側に歩み寄ることはせずに、ゴンベエの元へと近寄る。
「私には、エレノアの様にモアナにかける言葉が無いんだ」
「……そういえば、まともに見たことねえな」
家族の大切さを頭では理解している。だが、心ではイマイチだ。
ディフダ家はハイランド王家の分家で、父はその当主で、母は父が市井で一目惚れをした女性。言い方を変えれば一般人、庶民だ。
これが恋愛小説ならば素晴らしい恋愛譚なのだろうが現実ではそう上手くいかず、結婚したのはいいものの色々と冷えきった関係になってしまっている。家族らしい事をしたのかと思い出を駆け巡って見るが特に見当たらない。ここ数年、まともに顔を合わせた記憶も無い。
「ゴンベエはどうなんだ?」
「オレは……親子がどうのこうのと言える立場じゃねえ。
今の自分に成る為には前までの自分を捨てなきゃいけねえし、なによりも
「私と同じ、なのか?」
「いや、下手をすればお前よりも酷い。全部を捨てたみたいなもんなんだ」
ゴンベエにも人に言いたくない事はあるか。
それを聞いて、ますますと親近感が沸いてくる……似た者同士だな、私達は。
「ゴンベエ、この戦いを私の戦いにしていいだろうか?」
モアナを連れて来た道を歩きながら、心に決めた事を言う。
ここは過去での出来事で、私達はあくまでも知るためにこの時代にやって来た。だから、無闇に関与してはいけない。そうなってしまえばなにが起きるか分からない。
でも、もうそんな事を気にしている場合じゃない。私はモアナを見て、聖寮を許す事が出来なくなった。
「お前の腕だと、あの片目包帯にすら届かないのにか?」
「……関係無いよ」
弱いから下がるとか、もうそんな事は関係無い。
今までは見ているだけだったけど、もうそんな自分をも許すことは出来ないんだ。
「やりたきゃ勝手にしろ……オレもある程度は好き勝手にする……ん?」
「どうかしたのか?」
パラミデスを抜けて、少しずつハリアの村に戻っていく私達。
ハッ!このままだと喰魔に変えられてしまったモアナと村の人達が遭遇してしまう。世間では業魔になることを病気の1つだと教えられていて、モアナの姿を見た村の人達がなにかを言ってしまうのでは!
「ゴンベエ、あの粉だ!あの粉を使えば」
「いや、そっちじゃない……なんだこりゃあ」
「?」
なにかを感じたゴンベエ。
私にはなにか分からずハリアの村に通じる門を開くとゴンベエがなにを感じていたのかが分かった。
「これは……」
「あんた達、さっきからなにを言ってるのよ?」
「分からないのか……いや、そうか。ベルベットは感じないか」
ハリアの村のそこら中から穢れが溢れ出ている
黒い靄の様なものが地面から噴出していて、村の人達の意識が虚ろになっており、宿の娘も私達が帰って来た事に気付いていない。
「グリモ姐さん、どうしたんじゃ?解読でなにか分かったのかえ?」
そんな中で私達に歩み寄ってきたグリモワールさん。
「違うわ。急に穢れが強くなって、宿屋で本を読んでいる場合じゃなくなったのよ」
「……急に穢れが強くなった?」
「なんで私を見るのよ?」
「ああ、そっちじゃないわ。あんた達が来る少し前によ」
ヘルダルフやドラゴンは穢れの領域を持っていた。
日に日に強くなっているベルベットがそれを無意識の内に展開しているんじゃないかと思ったが、そうではなかった。
1日泊まっただけで詳しい実情はまだ分からないが、飢餓や疫病に苦しんでいるといった穢れを生み出しそうな事はなかったのに、何故急にこれほどまでの穢れが?ベルベット達が来たからでもない……。
「ぐ、がぁっ!?」
「これは、まずい!!」
急に苦しみだす村人達。
自身が出した穢れとは別の穢れに飲み込まれていく。
これはグレイブガント盆地で起きた戦争で見た、強い穢れに当てられて憑魔となっていった各国の兵士達と同じ現象に見回れていく。
「大丈夫だ」
ゴンベエはそう言うと、鞘ごと背中の剣を抜いて大きく一振りした。
「わた、しは……」
意識が虚ろとなっていた宿の娘は意識を取り戻す。
宿の娘だけでなく他の村人達もなんでここに?と驚いてはいるものの、意識を取り戻しておりなんとか憑魔化する前に穢れを祓えた。
「お主、今、穢れを……!」
「……やべえな、こりゃあ」
「貴女達は……うっ、ぐっ……」
「大丈夫ですか!?」
穢れを祓った筈なのに、また苦しみ出した宿の娘。
なにかの病気かと慌てると足元から黒い靄が……穢れが出現していく。
「ぐあああっ!!」
「業魔病!?」
「剣を」
「ダメだ……焼け石に水だ」
私達から遠い位置にいる村人を皮切りに、憑魔と化していく村人達。
剣を鞘から抜けば元にとゴンベエを見るのだが、ゴンベエは諦めた目をしていた。
「村人達が、突然どうして!?」
「これは……大地その物が強い穢れを放っている!?」
黒い靄が地面の中から出てきている。
これだとゴンベエが、いや、憑魔化した人を誰が元に戻しても、直ぐに憑魔化してしまう。この大地から溢れ出る穢れを──大地の主
「あんた達、なにを……この黒い靄が業魔病の原因だって言うの?」
今まで憑魔となる人は見てきたものの、純粋な穢れを見るのははじめてなのか驚くベルベット。
「業魔病とは……業魔とはいったい、なんなのですか!?」
穢れについて知らないエレノアは私達に詰め寄る。
「待て……その件に関しては、オレから」
「まだ遠くにはいっていない筈だ!探しだせ!」
「くそ、オスカー様をこんな面白い……酷い姿にしやがって!!」
「……業魔が対魔士達の足止めをしている間に港に戻るぞ」
「待ってください!」
「港に着いたら話す」
アイゼンはそう言うと港に向かって走り出す。
聖寮の対魔士達が追いかけていることもあってベルベット達も港に行くことを優先してアイゼンを追い掛けていく……。
「あいつら、オレが船をマーキングしてんの忘れてんな……アメッカ、先に回るぞ」
私はゴンベエの魔法で、先に船へと戻る……
「あの穢れは大地から溢れ出ていた」
地の主が居ない土地を幾度となく足を運んだが、ここまで酷く穢れた場所は早々になかった。
あれと同じぐらいの時はヘルダルフの様な強い穢れを持っている憑魔が原因だったが、あの場にはいない。
「カノヌシが原因なのか?」
大地から穢れが放たれているのを見て、かぞえ歌を思い出す。
かぞえ歌には大地の主という単語が出てきてそれがカノヌシであり、カノヌシは地脈点を通じて穢れを喰っている。ならば、大地にいるカノヌシがなにか関与しているかもしれない。
「それを知るために頑張ってるんだ……あ、帰って来た」
走って港に戻ってきたベルベット達がやって来た。
「あんた達、何時の間に」
「いや、オレ、マーキングしてるつっただろ……」
「そうだったわね……話してもらうわよ」
私達が先に戻っていた理由に納得をすると、直ぐに穢れについて訪ねるベルベット。
アイゼンは海を見て、なにを話すべきか真剣に考える。
「あんた、聖隷の禁忌を破るつもり?」
「……これから先に進む上では絶対に避けては通れない道だろ?」
「聖隷の禁忌?」
「事は業魔だけの話じゃないわ、この世界の仕組みと言っていい真実。下手に知れば、人間そのものの足場が崩れるかもしれない程のね……だから、聖隷はこの事を人間に語るのを禁忌にしていたのだけれど、何故か知っている子も居るみたいね」
私達を見るグリモワールさん。
現代では導師や天族にまつわる文献はごまんとあるが、穢れと言う言葉は出てこず災厄と言った曖昧な言葉で記されている。
「……それでも知りたいか?」
「……知らないままで、自分を誤魔化し進むことは出来ません」
エレノアは残酷な現実を受け入れる覚悟を決めた。
「……業魔病という病気は存在しない」
そこからはアイゼンの口から語られる。
人間はなろうと思えば誰だって憑魔に、いや、業魔になれることを。心の闇、負の感情や業から生み出される穢れを。
殆どの人間が穢れを生み出しながら生きていることを。憑魔こそが真の姿なのかもしれないと皮肉を交え、その真実を世間に伝えていることを。
「嘘です!!だって開門の日には業魔なんていなかった!」
「エレノア、それは違う……憑魔はちゃんといた。ただ私達が見えていなかっただけなんだ」
今の私達には憑魔が当たり前の如く見えているが、本当はそう見えない。
天族と同様にある程度の霊応力を持っていないと憑魔も竜巻等の通常ではありえない自然現象や理性を失うほどに怒り狂った人にしか見えない。
マギルゥやアイゼン達もその通りで、獣人化や悪魔憑きと呼ばれていた病気も実は業魔となった人だと言う。
「なんで見えるようになったんだ?」
「さぁ……カノヌシのせいじゃないの?遠いところだと、聖隷を見えない人の霊応力を底上げして見えるようにする危ない術があるらしいし」
「おい、それ言わない約束だろう!」
「そんな約束、した覚えはないわ……とにかく、カノヌシがなにか関係してあるわ」
「ったく……その辺りは難しく考えずに大体の事はカノヌシのせいにしておけばいい」
モアナが喰魔となったのも、ハリアの村の人達が憑魔化したのも、ベルベットの弟が殺されたのも、全てがカノヌシのせい、か……。
「八つの首もつ大地の主は七つの口で穢れを喰って……喰魔は穢れを吸収してカノヌシに送る。でも、僕達が喰魔を地脈点から……」
「坊は賢いのぅ。吸収されなくなったから穢れが溢れたのじゃ」
「つまり、こいつのせいね」
「でも、こうしないとベルベットがアルトリウスを殺れなくなる。全てはベルベットの為だ。つまりベルベットのせいだ」
「……私がこうなったのはアルトリウスのせいよ」
「そのアルトリウスはカノヌシを使っているってことは、だ」
「カノヌシが全て悪いわ」
巡りめぐってやっぱりカノヌシが悪いと分かった。
人柱の様な事をしなければ救えないなんて、そんなのは間違っている。
「……古文書の記述が信用出来るものだと分かったわ。
地脈点から喰魔を引き剥がす。カノヌシの力を削ぎ覚醒を阻止する為に」
「でも、喰魔を奪ったらどんどん業魔になっちゃうんじゃ……」
「やらなきゃアルトリウスは殺せない」
例え他の人が憑魔になろうとも、それでもやってやると強い意思を見せる。その姿にライフィセットは強く言えない。
「げに、恐ろしい女じゃの~」
「真実を知って進むか……いいだ──」
「喰魔もいいが、聖主も探さないか?」
真実を知った上で覚悟を決めるベルベットになにかを言えるほどの人間ではない。
でも、それでもなにかが出来るだろうと聖主の事が頭に浮かび上がった。
「聖主が天族なら信仰すれば加護を与えてくれる。
天族の加護領域ならば穢れの力も大きく弱まり、憑魔化も防げる筈だ」
そうすれば喰魔を引き剥がした後の事を心配する必要がなくなる。
「それは難しい話よ」
「その聖主とやらをオレ達聖隷ですら見たことは無い。
仮に居るとしても、さっきまで居たところはその聖主の一人、アメノチを祀る神殿だ……そこに居ないとなれば、何処にいる?」
肝心のその聖主が何処に居るのかが分からない。
人々に天族が見えたとしても、信仰すべき対象が居なければ話にならない。一番居ると思わしき聖殿に加護の様なものを感じなかった。
天族の方々に頼もうにも、世界中に聖寮の根が這っている為に地の主となっても捕えられる……ダメか。
「……四聖主探しは頭の片隅ぐらいには入れておくわ」
「!」
「覚醒していない状態であれだけの力、喰魔を引き剥がしてどれだけ弱くなるかは分からないわ。古文書の記述通りなら、四聖主も使えるわ」
「……そうか」
何時もならゴンベエが解釈するが、なにも言わない。本当についでぐらいと思っている。
このまま進んでいけばアルトリウスやカノヌシと対峙しなければならず、頭の隅に入れてくれているだけでもありがたい。
「……どうすれば、いいのだろうか」
空を眺めて私は一言呟いた。
ベルベットの事か、アルトリウスがやろうとしている事か、自分が戦えないことか、天族と人間はどの様にすれば共存出来るのか?どれに対してかは分からない……違うか。どれに対してもか。
スキット 喧嘩するほどイラッとする(見てる側が)
ゴンベエ「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ふっ」
ベルベット「なに長いため息をついてるのよ」
ゴンベエ「いや、頭では理解していたけども、いざ目の当たりにするとな」
ベルベット「……それがアルトリウスのやり方よ。あいつは個より全を選んだ」
ゴンベエ「あ、そっちじゃない。と言うよりもそれは矛盾してんぞ」
ベルベット「……どういう意味よ?」
ゴンベエ「全だったら、その個も全の内の1つの筈だ」
ベルベット「じゃあ、なんだって言うのよ?」
ゴンベエ「個と個に決まっているだろう。数字の0の概念は存在しているが、概念だけで実態は無く、世の中はプラスとマイナスで出来ていて0は存在しねえ……誰かの幸せは、誰かの不幸によって成り立っているんだ」
ベルベット「なによ、それ」
ゴンベエ「美味い肉を食べて幸福に満たされている奴は、肉となった生き物の死と言う不幸で出来ている。幸せになっている奴等が居るのと同時に不幸になっている奴等が居る……だから、個と個なんだ」
ベルベット「……ここにいる奴等は、ライフィセットのお陰で……っ……」
ゴンベエ「その怒りの刃は今は置いておけ、一度酷い目に遭っただろ」
ベルベット「……分かってるわよ」
ゴンベエ「幸せだけが存在しない、不幸だけが存在しない……個を全部選べば全になるなんて言葉遊びでしかない奴がいるならば思いっきり殴る……ああ、そうだった……はぁ」
ベルベット「結局、なにが理由でため息を吐いてるのよ?」
ゴンベエ「いや、分かってた事だけどよ……アルトリウスとカノヌシをぶっ殺して、はい、終わりの事態じゃねえだろ?」
ベルベット「……は?」
ゴンベエ「その気になれば、何時でも殺せる。あん時感じた力には驚異も畏怖も感じねえ。ベルベット達がやろうとしているから線引きをしているがアルトリウスとシグレとメルキオルを同時に相手にしても余裕で殺れる」
ベルベット「どんだけ強いのよ、あんたは」
ゴンベエ「でも、殺ったら最後、余波がエグい……世界をこんな風にしているのはよくも悪くも聖寮なんだ」
ベルベット「国の中枢が死ねば、そうなるわ」
ゴンベエ「殺れねえとなると……オレは使い物にならねえポンのコツだ。
主に暴力で物事を解決する時、その時ほどオレは動けるけどもそうでないとなればオレは糞の役にもたたん。オレは暴力超特化の戦闘タイプ。暴力によって全てを解決出来る……ああ、こうなると本当に頭が痛い」
ベルベット「あんたは変わった物が作れるじゃない」
ゴンベエ「それはちょっと反則染みた方法だから無しだ。オレから戦闘能力を取ると本当になんも無くなっちまうから、頭の痛い話だ」
ベルベット「……別に、強いだけがあんたの良いところじゃないでしょ」
ゴンベエ「そうは言うけど、オレ、お前並に良いとこねえぞ」
ベルベット「探せば1つぐらいあるでしょ」
ゴンベエ「おいこら、1つぐらいってなんだ1つぐらいって!
巨乳!料理上手!姉!スケベ衣装!絶世の美女!性格良し!戦闘力有り!なんでも御座れだからって憐れむんじゃねえ!」
ベルベット「なっ、そこまで言ってないでしょ!」
ゴンベエ「じゃあ、言ってみろ!戦闘力と知識を除いてオレの良いところを!やべえな、なんか涙が出てきた」
ベルベット「その……顔は、いいわよ。結構イケメンよ」
ゴンベエ「顔
ベルベット「じゃあ……アレよ!あんたは私の食事係よ!それだけでも充分に利用価値はあるわ!」
ゴンベエ「お前、そんな事を言ってるけど毎回毎回人の料理にケチつけたりするじゃねえか」
ベルベット「当たり前よ。私が作った方が……」
ゴンベエ「お前の方が料理上手じゃねえか」
ベルベット「じゃあ──」
ロクロウ「なんだアレは……口喧嘩をしてるのか?」
ビエンフー「殺意の波動に目覚める場所で、何処からどういう見ても、イチャついてるだけでフよ!!」
スキット 次回予告は忘れずに
アリーシャ「魔神剣!月閃光!霧氷烈火!絶氷刃!葬炎雅!」
黛「おい……」
アリーシャ「逆雲雀!熱震集気法!……よし、破邪聖獣球!」
黛「……聞いてるのか?」
アリーシャ「きゃああ!?……あ、貴方は確か」
黛「さっきから声をかけているってのに、無視しやがって……」
アリーシャ「すみません、気付かなかったもので……その、何時の間に」
黛「最初からだ……まぁいい。次回予告しなきゃいけないのに、それをせずになにをしている?」
アリーシャ「槍術の訓練を、少しでも強くなるために」
黛「無駄な事だ、やめておけ」
アリーシャ「無駄ではないです。こういった日々の訓練を怠れば」
黛「後ろに下がる事は無いが、前には進まないぞ」
アリーシャ「っ!!!……じゃあ、どうすれば強く」
???「ちょっと何時まで待たせるつもりなの!」
アリーシャ「えっと、この前来ていた……あ、それは次ですか」
???「全く、貴重な次回予告を無駄な事に使うんじゃないわよ」
アリーシャ「無駄……」
???「当たり前じゃない。ただの小娘が頑張っただけでどうにかなるほど事態は甘くないのよ。大体、ベルセリアってゼスティリアをやってたらあれこれどういう感じの心境で終わりなんだってモヤモヤに」
黛「その辺のメタい話はするな……次回予告だ」
アリーシャ「あ、はい次回!【サブイベント 姫騎士アリーシャと導かれし愚者達 その2】……どうすれば強くなれるんだ」
???「そんなの簡単よ」