「お待ちどうさま!」
宝のありかが記された書物を手に入れた次の日、バンエルティア号で私達は星の形をした島に向かった。
上空から見れば星の形をしているのだろうが、船に乗っているので見えない。ざっくりとした島の形が書かれた地図には星の形をしている。
「お宝があそこにあればいいのだが」
「この辺の海域にお宝が眠っていると言う噂は前々からあった」
折角、お宝を求めて来たのだからなにも無かったと言うオチは避けたい。
心配する私に信憑性はあるとアイゼンは教えてくれる。
「よし、それじゃあ艀船に乗り換えて島に行くか」
「どんなお宝が眠ってるんだろっとと」
何時もの面々が艀船に乗るのだが、思ったよりも揺れるのかバランスを崩しそうになるライフィセット。
直ぐにベルベットが近付いて、ライフィセットを支える。
「バランスを崩しやすいから、気を付けなさい」
「う、うん」
気のせいか柔らかく優しくなっているベルベット。
ライフィセットに甘いというか、なんというか全体的にツンツンしていたのが納まっている。
「人のことジロジロ見て、なによ?」
「いや、ライフィセットが転ばない様に支えてくれ」
視線に気付いたのかめんどくさそうな顔で私を見るベルベット。
理由はよく分からないが、何時もより柔らかくなっていることはいいことだと深くは考えずに見守る事にする。
「じゃあ、オレ達は監獄島に戻ってます。副長達がここにいる間、向こうの守りは任せてください!」
「まぁ、聖寮がわんさかやってきてもあやつが残っとるから問題無いじゃろ」
「いやいや、オレ達も結構やるからな!お前等が相手にしてるのがそれよりやベーだけだから!」
遠回しにベンウィック達だけでは聖寮は無理というマギルゥ。
もし監獄島に聖寮が襲撃してきたら、数で圧倒されてしまう……そう考えれば、ゴンベエが残ってくれてるのはありがたいのかもしれない。
「それに、アイツが電波の調整がどうとかで船になんか乗せるって言ってたし」
「いったいなにを作っているのでしょうか……凄まじく気になりますね」
「本当ならオレ達も宝探しをしたいんですけど……それじゃあお宝に期待してますね!」
ベンウィック達は監獄島に戻っていき、私達を乗せている艀船は星の形をした島に上陸をした。
「……雰囲気はあるな」
スレイと出会った遺跡とは異なるが、この島は独特の雰囲気を醸し出している。
「先ずは宝箱が隠してありそうな場所を探す」
「宝箱を隠してそうな場所……」
「……宝箱はその辺に幾らでもあるんじゃないのか?」
こう、普段からベルベット達がポンポンと開けているのを見るぞ。
「アレはねこスピよ。宝とは無関係なもの」
「ねこスピ?」
「まぁ、酒の勢いで色々とあったんだ」
言葉を濁すロクロウ。
アレはいったいなんなのか気になったが、それは今は関係無いと頭の隅に置いておいて宝が眠っている場所を思い浮かべる。
「洞窟の入口や土が盛り上がった塚があればそこが宝の手懸かりだ」
「じゃあ、先ずは島を探検だね」
なにをするにしても、先ずは歩かなければ。
ライフィセットの言うとおり、島を探検することになるのだが思ったよりも草が生い茂っている。
「草がボーボーじゃの」
「こうやって掻き分けながら進まないといけませんね」
「……よし、此処は刈り取りながら進もう!」
太もも辺りがチクチクとして地味に痛い。
奥に進むのに手間が掛かっていて、あまり遅くやっているとベルベットに怒られる。
「刈り取りながらって、この量だよ?」
「燃やすにしても真ん中辺りだから、ワシ達に被害が出るぞ?どうするつもりじゃ」
「ちょうどいい技がある」
私は槍を取り出し、自分を中心に円を描くように草を刈り取る。流石は色々と凄い素材を使って出来た槍だ。軽く振るだけで草は刈り取れていく。片手を伸ばした状態で槍を持っても草に触れない程に刈り取ると一旦手を止め、腰を沈めて意識を集中させる。
「おい、まさか」
「でやぁあああ!!」
なにをするか気付いたアイゼンを他所に私は回転する。
槍が抜けない様に強く握ったまま竜巻の様にグルリグルリと回転し、草を1本も残さない勢いで切り取っていく。心なしか何時もよりも槍が扱えている気がする。このままいけば刈り取れ━━うっ!!
「気持ち、悪い」
吐きそうだ……。
「そりゃそうだろ」
「あんなに回転してたら気持ち悪くなって当然でフよ」
気持ち悪くなった私に呆れるロクロウとビエンフー。
前に植物型の憑魔の群れをゴンベエが一掃していた時に使っていた技だが、予想以上に頭が痛い。
「見よう見まねでゴンベエの技を試したのが、ダメだったか」
「あんたね、アイツと同じ事をそう簡単に出来るわけ無いでしょ」
「っく……」
ふらつく足元、揺れる視界、体は思ったように動かない。
だが、草は刈り取れて道を作ることは出来た。これで更に奥に進めると頭痛を乗り越えようとする
「あ……ちょうどいい」
のだが無理だった。
足を滑らせてベルベットの谷間に頭を入れてしまった……柔らかい。
「そこは真似しなくていいから」
「はっ、す、すまない!」
ベルベットに軽く小突かれ私は起き上がる。
ゴンベエが来ていたらやりそうな事を私がしてしまうとは……いや、逆によかったのかもしれない。ゴンベエが来ていたらベルベットの胸に顔を入れる事は無かったから。最終的にベルベットに殴られるのはなんとなく分かるが、見たくない。ベルベットになにかをしているゴンベエを見ると胸が痛い。と言うよりはなぜゴンベエはベルベットの胸に向かうんだ?確かにベルベットの胸は魅力的だ。綺麗な女性で胸元が開いている格好をしている。
自分の胸に手を当てて、自分の胸の大きさを確認する……ベルベットとは言わないが私も脱いだら結構あると言われる位にはある……。
「さっさといくわよ」
ベルベットと私の胸の違いに真剣に考えているとベルベット達は先に行こうとしていた。
かなり大事な事だが最優先すべきはお宝を見つけ出す事だと気持ちを切り替えて私が文字通り切り開いた道を歩いていると遺跡の様な場所に出た。
「明らかな人工物……かなり古い物だな」
柱に触れながら、何時の時代の物なのかを考える。
触れた瞬間に砂粒の様な物が指についたことからかなりの年月がたっていて尚且つ誰も触れていない……この時代で別の大陸となると本当にかなりの年月が経った遺跡だ。
「ふむ……ふーん、成る程。どうやら地面深くに続いてる様じゃの」
「そこが入口か?」
「そうみたいでフね」
はぐれない程度にそれぞれでこの如何にもな遺跡を探索していると入口を見つけるマギルゥとビエンフー。
他を調べている面々を呼んで入口が見つかったことを言うとアイゼンが入口に触れる。
「ふん!……簡単には開かないか」
「じゃあコレを使おう」
閉まっている入口に触れて開けようとするが開かない。
力押しでビクともしなかったのでゴンベエから貸してもらった腕輪を使って中に入ろうと提案をするが嫌そうな顔をする。
「それを使うのは最終手段だ」
「何故だ?」
「……お前は推理小説をネタバレした状態で読みたいか?」
「それは嫌だが……」
推理小説は誰が犯人かミステリーを自分で解決しつつ読むもので、いきなりのネタバレは嫌だ。
「ゴンベエの道具を頼るという事はそれと同じだ」
「他人の力を借りてお宝を勝ち取るより自分の力で勝ち取りたいもんな」
アイゼンの意見に納得するロクロウ。
ゴンベエから借りた腕輪を使うのは最終手段で何処かに他の入口はないかとまだ探索をしていない場所を探したりしてみるが最初に見つけた閉じている入口しか無かった。
「栄華を極めし大竜、大海に落ちた星の元、翼を休めん。小竜を操せし大竜の顎は開かれん。欲望に溺れた末に3つの翼を倒りしものに全てを譲らん。翼の1つは青き瞳と共に、1つは赤き瞳と共に、1つは緑の瞳と共に」
「コレが本当に宝のありかを示してるとするなら」
「大竜の顎とやらが入口をさしているのだろうが……竜なんて何処にもないぞ?」
古文書に書かれていた事を口にするライフィセット。
口にした内容を考察して入口を考えるロクロウとエレノアだが、内容がそのままの為に分からない。
「こういう遺跡には、何かしらの仕掛けがある筈だ」
レディレイクの地下にも遺跡があって、仕掛けがあったとスレイは言っていた。
種類は違えども遥か昔に作られた物でアイゼンの怪力でも開かないとなれば力で開けるのでなく、なにか正しい手順で開けなければならない。大竜の顎が入口なら小竜を操せしがの部分が鍵だと仕掛けがないかと探す。
「大変です!向こうからワイバーンの群れが!」
仕掛けを探していると慌てた声を出すエレノア。
「なんでこんな所にワイバーンの群れが居るんでフか!?」
「そういえば言っていなかったな。此処は強い魔物の群れが居ることでも有名だ」
「それを先に言いなさい!!」
「ワイバーンは竜の一種じゃ。小竜とはあやつ等の事では?」
「いや、ワイバーンは飛竜で小竜じゃない」
竜の一種だが、小竜とは言わない。ドラゴンパピーを小竜というのが一番しっくり来る。
「そうなると小さいドラゴンかの」
「ドラゴンをあやすんですか!?」
「無理だよ!!」
「いや、ものは試しだ。やってみる価値はある!」
此方に向かってくるワイバーンの群れに向かったロクロウ。
「とーとととととと」
「戦うわよ。アメッカ、アイツが居ないから自力でどうにかしなさいよ!」
ロクロウの行動を見て剣を出すベルベット。
案の定と言うべきか、ワイバーンはロクロウに対して怒り、私達にも怒りを向けてくる。
「ゴンベエが居なくても、ワイバーンの群れぐらいならいける……多分」
「ぬぅお!?やっぱ無理があったか!」
きっとこの槍ならいける筈、十中八九で勝てる……そう願いたい。
ベルベットが戦う姿勢だと分かると私達は武器を取り出してワイバーンに向かって攻撃を仕掛ける。
「ウィンドランス!」
「風迅剣!!」
風の槍をワイバーンに飛ばす術をアイゼンが撃ち、すかさず風を纏った突きを決めるロクロウ。
「ほぉれ、爆発しろ!エクスプロード!!」
「蔓落!」
光を一点に凝縮し爆発を起こすマギルゥ。
槍を使って高く跳んだエレノアは爆発で吹き飛んだワイバーンの上を取り、踵落としで叩き落とす。
「炎牙昇竜脚!」
「セイントバブル!」
炎を纏った足で蹴りあげるベルベット。
練り上げられた先には大きな泡があり触れると爆発を起こしてワイバーンを水が飲み込む。
「百花繚乱!!」
他の皆が戦っていると私も負けじと槍を振るう。
槍の周りから無数の桜の花びらが出現して舞い、ワイバーンを切り裂いていく……のだが、途中で消え去る。幸いにも最初の攻撃で倒せたが、この槍を使いこなせていないので技が完璧に決まらない。完璧に決まれば無数の敵を倒せる筈なのに……どうしてなんだ?
「ひぇ~この数を相手にするのわ堪える!」
「言っている暇があるなら1体でも、と言いたいところですが」
「多すぎるよ!」
1体だけを相手にするならば、直ぐに終わったが相手にしているのは群れ。どれだけいるか分からず、楽にとは言えないが普通に倒せる敵を倒し続けるのには限界があった。
この中で一番体力の無いマギルゥが息を荒くしている。アイゼンが言っていることが確かならワイバーンの群れ以外にも魔物の群れが他にもいて何時襲いかかってくるか分からない。
「一旦逃げましょう!」
「それは賛成じゃが、いったい何処に逃げ場がある?此処を離れても、他の魔物の群れに襲われるだけじゃぞ」
「だったら、私に掴まってくれ!」
「なにかあるの!?」
「説明は後だ、早く!」
此処を離れても一緒なら、此処を離れずにワイバーンの群れから逃れるしかない。
私の言葉を信じ私の肩に手を置いたり槍を握ったりしてくれるベルベット達。私は遺跡の壁に触れて叫ぶ
「エバラのゴマだれ!」
「ビエーーーン、ボクを忘れないでくださいでフー!!」
しまった!?
時間が無かったが為に最後の確認をしなかった事が仇となり、ビエンフーが乗り遅れてしまった。
「あそこにちょうどいい感じの穴があるよ!そこに入って!」
「わ、分かりましたでフ!!」
ビエンフーなら入れそうな窪みをライフィセットは見つけ、そこに誘導する。
ビエンフーは必死になって飛び込むとカチリと音が聞こえてゴゴゴゴとなにかが開いていく。
「この音、まさか」
「ビエンフー、絶対に動いてはいけませんよ!」
音の正体を考えるアイゼンだが、それよりもとビエンフーに忠告するエレノア。
ワイバーンの群れは私達を完全に見失ったのか、何処だ何処だとキョロキョロと辺りを見回して探す素振りを見せるが私達に攻撃する事はしなかった。
「なんとか去ってくれたね」
「ビエンフー、もう大丈夫じゃぞ」
「ふぅ、危うくワイバーンのエサに……ビエエエエ、絵!?」
いい感じの窪みから抜け出たビエンフーは驚き叫ぶ。
何度も何度も下から上まで確認するように見て何度も何度も叫ぶ。
「絵、絵、えええええ絵!?」
「僕たち、どうなってるの?」
今の自分がどうなっているかよく分かっていないライフィセット。
あの時は牢屋から抜け出すだけで、じっくりと感じている暇は無かったが、今改めて感じると違和感が少ない。
「え~と、なんて言いましょうか」
「勿体ぶらずに言え」
「……え、絵でフ」
「……絵?どういう意味ですか?」
「ですから、その皆さんが絵になってるでフ」
「意味が分からん」
「ビエンフー、お主、鏡かなにか持っておらんのか?」
自分達の状態を一言で現すのだが、イマイチ掴めないエレノアとロクロウ。
マギルゥに指示されたので帽子の中から手鏡を取り出して私達に向けるとそこには綺麗に描かれた私達が写っていた……ゴンベエの時と違う?ゴンベエはもっとこう口が3になっていて二頭身だったが、私達は普通に上手い絵描きが描いた姿だった。
「僕達、絵になっちゃってるの!?」
「成る程、これがゴンベエから託された腕輪の力か。アイツの事だ、なにが飛び出てくるか分からんと覚悟はしていたが……まさか絵になる日が来ようとは」
「ちょっとこれ元に戻るんでしょうね!!」
「だ、大丈夫だ!」
前に使っていた時にもちゃんと戻れた。
ベルベットに急かされて、元の立体的な姿に戻る。体におかしな事が起きていないか念のために確認をするが特におかしな事にはなっていない。
「まさか絵になる時が来るとはな。ゴンベエからカメラを借りてくりゃよかったな」
「あんた、自分の絵を保存しておきたいとか恥ずかしくないの?」
「なにを言っている、自画像は大事だろう」
「僕もちょっと欲しいかな……カメラに聖隷は写らないけど、絵ならいけるかも」
私もちょっと自画像は恥ずかしい。
だが……皆で写った写真は欲しいかな。
「あの~皆さん、絵になった事で盛り上がってるところ申し訳ないでフが、入口が開いてますよ」
「そう。なら、さっさと行くわよ」
何時の間にか開いていたのか。
「バッド!?あの、ボクが開いた功績とかそういうのは」
「なーにを言っとるんじゃ。偶然じゃ、偶然。最悪、壊したりゴンベエから貰った腕輪で攻略したんじゃから」
「まだお宝もなにも見つけてませんし、此処で喜んでいてはいけません」
「ビエーーーン!!ボクの苦労は無かったんでフか!!」
苦労らしい苦労はあったのだろうか?
私達は偶然に開いた入口から神殿の内部へと足を踏み入れた……。
「ゴンベエから、電球を借りてくればよかった」
あの明るさを知ってしまえば松明やランタンだと暗く感じてしまう。
アリーシャの術技
百花繚乱
説明
槍の素材に使われた森のメダルの力を引き出した技。
槍の刃を中心に無数の花びらが刃となり舞い散り敵を切り裂く。多対一の相手の数がとにかく多い時に使う木属性の奥義。
アリーシャが槍を完璧に使いこなせないので花びらが途中で消えるものの、この時点で並大抵の憑魔or業魔は一掃出来る。使いこなせば花びらを遠隔操作可能で無数の敵を一度に倒せる。
ゴンベエの術技
大回転斬り(真空円斬)
説明
剣や槍等の刃物を片手で持ち、手を伸ばした状態で渦を描くかの様に回転しながら切り裂く奥義。
周りにいる敵を一掃するだけでなく草木をもあっという間に切り裂く反面、回転しているので普通に酔ってしまう。
風を刃に纏わせる事により竜巻を発生させて相手に強烈な風の刃の渦を飛ばす事も出来るが、更に気持ち悪くなる。
それぐらいしないとヤベー相手が中々に居ないので草木を刈り取る以外には滅多に使わない。言うまでもなくふらついてベルベットのおっぱいに向かっていく。
木属性に関しては次の話のスキットで説明をします。
因みにアリーシャ達がラヴィオの腕輪で絵になったら公式のイラストになるけど、ゴンベエが絵になったらワールドトリガーのカバー裏の二頭身二宮になる。