ヅダ開発に内海課長を突っ込んで見た【完結】   作:ノイラーテム

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最後のEXAM

 連邦の北極基地をジオンの潜水艦隊が強襲。

重要機密を守って居たからこそだが、それゆえにHLVが脱出する。

 

「出迎えはまだか?」

「駄目です……既に撃破されています」

 だが用意された戦力は水陸両用機だけではなかった。

打ち上げられたHLVを、パトロール二科のヅダが補足。

 

 無傷で捕獲とは行かなかった物の、形の残る残骸を回収できる程度には余裕があったらしい。

 

「積み荷はガンダム・タイプだったそうだが、EXAM搭載型では無かったようだ」

「それは重畳。うちに与えられた依頼も無事に終了ですかね」

 キシリアに月面へ呼びだされたウツミは他人事の様に聞いて居た。

事前に調べていたので意外性はなかったし、博士の助手達に増産できるほどの才能が無かったというだけだ。

 

「……ニムバスがEXAMを褒美に欲しがっていてな」

「ジオンにもまだ一機ありませんでしたっけ?」

 カナダで三号機と相討ちとだけ聞いていたが、地上での決戦ともありニムバス大尉は生きていたらしい。

 

 とはいえウツミとしても流れを造って居た。

彼がこっちに勝負を挑んで来て、それを解決してスッキリ。

そう思っていたのだが……。

 

「例のHLVを潰したのは、さきの報告にあった部隊だ。没収する訳にはいくまい」

 だから代わりによこせ。

キシリアは暗にそう告げることで、問題を小さく抑えようとしていた。

 

 波風を立てずにグリフォンを買い取る。

ニムバスもメンツが立ち、二科は優秀な演算装置を残したまま。

企画七課も法外な金を手に入れて、八方丸く収まるのだから、これ以上良い話はない。

 

「代わりにうちから没収すると? 都合の良い話だなあ」

 だがウツミは平然とノーだと切り返した。

 

 だって彼は金など求めて居ないのだ。

楽しい勝負で遊びたいだけなのに、手札を売り払うデュエリトが居るものか。

 

「功績ってんならウチだって同じことでしょ。部下と外部の差というなら、第三者だから要求は難しいと伝えりゃいい」

「貴様……っ。無礼な」

 ありえない言葉だった。

部下だからこそ大事にして、外部だからこそ上に出ているのだ。

 

 それに高い金をつけるつもりなのだから、キシリアからみれば悪くない取引のつもりだった。

金額を口にこそ出してはいないが、常識で考えてジオニック社やツイマッド社相手に没収だけで済ませる訳が無い。

 

「今の言葉を咎め、強制徴収しても良いのだぞ? 総帥であればTYPE.J9の性能を知れば必ずそうするだろう。それを……」

 ギレンならばグリフォンの性能をしれば、確実にそうした筈だ。

企業風情に渡しておくにはあまりにも危険で、あまりにも惜しい。

 

 それこそ強制徴収し徹底的に研究させるだろう。

次世代機の為に必要なデータを集め、採算の獲れる範囲で高性能機を作らせたに違いない。

 

 だからこそ、キシリアは間違えた。

その考えに至ったのであれば、同じことをウツミ好みに修正すれば良かったのだ。

次世代機を作るために回収した後、アルベルト・シャハトにでも預けて、更なるスーパーマシンでも作らせればいい。

 

 その内の一機をウツミに渡すといえば、彼だって考えを変えたかもしれない。

 

「ボクぁーね。火遊びが好きだからマッチはいつでも用意してるんですが」

「ふん。私の内乱疑惑でもギレンに訴える気か? そんなものはどうにでもなる」

 ウツミが用意したのは古いデータ・クリスタルだった。

積層構造になったガラス構造に記録を刻み込むタイプのもので、宇宙世紀の始まりくらいまでは保存性と大容量から主流だったものである。

あえていうならば、一度か居たらそれっきり、上書きが不可能なのが欠点なくらいだろう。

 

 それを見たキシリアは鼻で笑っていた物だが……。

 

「ジョルジュ・マーセナスってなんで副首相で居られたんでしょうかね? 面白いと思いませんか」

「歴史の授業をするほど暇ではないのだがな。単純に手腕と血統だろう。それこそ歴史が証明して居るではないか」

 ソレは宇宙世紀でも流行っている、数多い七不思議の一つだった。

 

「血統。リカルドが初代首相に選ばれた決め手は、多民族の血を引いていることですね」

 初代連邦首相に就任した父親のリカルド・マーセナスは、30以上もの民族の血が入って居る。

もちろんそれだけではなく、財産もコネクションも相当な物だ。

だからこそ首相に成れたのだし、息子のジョルジュが新しい首相として、爆破事件の後で混乱を収める一助に成ったのだろう。

 

「それがどうした。それとも貴様。リカルドから名前をもらったマーセナス家の一員だとでも言うのか? リチャード・ウォン」

 リカルドはスペイン読みで、リチャードはイギリス読み。

そんなジョークを交えながらキシリアは苛立ちを抑えた。

 

 ウツミがカンに触るのは何時もの事だが、そんな物は上に立つ者として無視する事が出来る。

我慢ならないのは、彼が一向に話の見えない事を言って居るからだ。

 

「冗談はやめてくださいよ。ボクに父親殺しの趣味はありません」

「なん……だと」

 思わずキシリアは愕然とした。

兄であるギレンを追い落とそうと政争を繰り広げていることを、揶揄されたからでは無い。

 

 聞き捨てならないことを。この男は口にした。

今何と言った?

 

「ジョルジュ・マーセナスが……? 黒幕だったとでも言うのか……」

「まあ独裁国家に所属して居ると判らないのかもしれませんが、当時の倫理的に血族は大臣職を同時期に重ねないのが普通なんですよ。仮に推薦が出ても『普通ならば』対立派閥が潰します」

 愕然はいつしか呆然となった。

その間、キシリアは明晰な頭脳で必死に考えていたからだ。

 

 もちろんウツミの言葉が真実かどうかではない。

なぜこの男が口にしたのか、そして、自分にとってどう役に立つかだ。

 

「普通では無い、と?」

「はい。リカルド抹殺を折り込んで居たからこそ、他ならぬ対立派閥が推した。そういえばお分かりになりますか?」

 かなりのスキャンダルだった。

連邦がジオンに折れるほどの秘密ではないが、平時に公表されば揺らぐだろう。

 

 自信満々に言う以上は、何かしらの証拠があるのだろう。

もしかしたら、そこから派生する様な秘密も内包されているのかもしれない。

 

 いや、アナハイムの大きさを考えれば不思議でもなんでもなかった。

アナハイムは下請けメーカーだが、ほぼ全ての会社に納めている巨大企業だ。

逆の視点に立つのであれば、あらゆる企業が買い付けている主要品目だと言っても良い。

 

「その情報を元にアナハイムが今の地位を築いたと言うのか? そして、戦後も……」

「さて? その辺りはキシリア様が御調べに成る事かと」

 戦後、そう全ては戦後だ。

 

 今の戦争を適当な所で終わらせるとしたら、どうだろう?

それこそジオンの負けでも良い。地球の土地を大半を返しても良いだろう。

ザビ家が無傷とはいうのは無理としても、ギレンに押しつける形で無理やり和平を結ぶのが、一番良い形ではないか?

 

「確かにその証拠があるならば、EXAMなどに関わっている暇はないな」

「そういうことです。それじゃ、ボクはこれで」

 戦後になって連邦が急速に回復して行く中、突如スキャンダルに見舞われる。

もちろん大打撃を受けるだろうし、政財界は大混乱だ。

 

 だが、その事を知っているキシリアと、取引している連邦の派閥は話しが別だ。

今の派閥は積極的に和平に乗って来るだろうし、場合によっては他の派閥もこちらに引き込める。

和平の段取りを確実にして、そのことを材料にすれば、逆説的にジオン側の派閥工作も簡単に違いあるまい。

 

「待て! これはあくまで調べる為のものだろう! その証拠は幾ら出せば売ってくれる? 言い値で買い取ろう」

「戦争解決の手段まで聞いておいて、いきなり結論とは欲張りだなあ。……まあいいですが」

 ウツミが置いて行ったデータ・クリスタルは、宛先とナンバリングが刻まれた固有の物だ。

特定の相手にあてられた郵便物に近いもので、この中に証拠が入って居る筈がない。

 

 本命はどこかに厳重保存されているだろう。

ウツミはその場所を知って居るか、さもなければこのクリスタルと同じ様な、改変の効かない写しを所持して居ると思われた。

 

「相手は誰でも良いんですが、EXAM同士の勝負で勝てたら無料で差し上げますよ」

「お遊びで世界を左右すると言うのか? ……信じられん」

 ウツミと言う男はあくまで愉快犯だ。

世界が大混乱し、その元凶が彼だと言うならば笑って実行するだろう。

 

 しかし今興味あるのはEXAMを使った勝負……より正しくいえば負け越したマリオン戦の焼き直しなのだろう。

最後まで半信半疑のまま見逃すしかなかったキシリアだが、再生されたデータを見て信じざるを得なかった。

 

 それは宇宙世紀憲章を決める際の、根回し文章。

その最後の一文に見たことのない……だがニュータイプ論を推し進めるジオンには、無視できない一文が書き込まれていたからである。

 

 宇宙世紀憲章に関する見慣れない文章。

そんな物に意味はない筈だが、連邦政府を動かした。

それを決める為の根回し文章にも意味はない筈だが、キシリアは動いた。

 

 結局のところ、意味を決めるのは影の部分に価値を見出す者がいるからこそだろう。

 

「おやま。結局出て来たのはニムバス大尉か」

『キャディラック大尉の方に闘う意義が見出せなかったんでしょ』

 EXAMに意味を見出して居るのはもはやニムバスだけだ。

打ち合わせ通りに新型ムサイと、ギャンらしき蒼いモビルスーツ一機で訪れていた。

 

 こちらもムサイ一隻と、グリフォン一機。

双方共に監視員を連れて、一騎打ちと言うことに成っている。

 

『私もできれば御免こうむりたい所だけどね』

「付き合いの悪いことで。まあボクは決着が付けば、なんでもいいんだけどさ」

 ウツミとしてはマリオンの操るEXAM搭載機以上だと断言出来れば何でも良い。

モニカ・キャディラックに至っては、高性能な演算型コンピューターそのものは惜しいと思って居ても、EXAMそのものはむしろ手放したいくらいだろう。

 

 実のところタケオも同じ様な気持ちだ。

むしろ壊してマリオンが解放されるならば、積極的に無くなって欲しいとすら思えた。

少なくとも暗殺を警戒する為に、今の様にコソコソと隠れて護衛など彼女の望む所ではない。

 

「しかしタイプ・フィフティーンをちょっぱったのか。確か格闘用のテスト機にしたって聞いたんだけどなあ」

「MS-15KGギャン・クリーガー。射撃戦はともかく、相当な運動性能とは聞いてます」

 ニムバスの機体は開発を中止され、更なる次世代機のテストベットに成った筈だった。

それをキシリアの命令で取りあげたというか、ツイマッドとついていた話をそのまま流用したと言うべきか。

 

 ともあれ彼は白兵戦が得意なのだそうで、悪い相性では無いだろう。

他には蒼く染め上げた機体に、赤い肩のペイントと何度も資料を通して見なれたデザインである。

 

「しかし見慣れたパーツもあれば、見慣れないのもあるなあ」

「無理やりEXAM搭載した代わりにビーム系を外したんですね。それとイフリート改や二号機で見たパーツがあります」

 ウツミが首を傾げていると、つぶらな瞳の副主任が資料を引っ張り出して来た。

大部分はジオン製だが、幾つかは連邦製と言う訳だ。

 

 もちろん技術の統合が出来て居れば、ソレが悪い訳ではない。

ウツミだってそうして居るし、得られた技術そのものは流して居るので、独自に改良でもしたのだろう。

 

「まあ強ければなんだっていいさ。それよりバドは?」

「マリオンが寝てから既に待機中ですよ。今度こそ起こしてやるんだと息巻いてます」

 あれからEXAMの数が減り、起きている時間はずっと多くなった。

それでもマリオンは時々不意に眠ることがあり、それがジオンに残ったEXAMの影響であると推測されている。

 

『でも……バドはマリオンと出逢ってから良い方向に変わったわね』

「仲良くなるのはいいけど、うつつを抜かして無いだろうねぇ」

 ウツミは嫌な顔をしたが、対象的にタケオはくすっと笑った。

 

 バドは食うや食わずの生活だったのが、人買いに買われて特殊な育てられ方をしたそうだ。

その影響もあって、才能はあるがどこか厭世的だった。

モビルスーツの操縦に関して天才的だが、もし負けて死んだとしても構わない様なところがあった。

 

『大丈夫よ。その辺は貴方と同じでグリフォンが最優先だから。単に帰ってくるところが来たってとこじゃないかしら』

「だと良いけど……っと、そろそろ始まるようだ。イザと言う時は頼むよ」

 ウツミは適当な所で話を打ち切ると、タケオが隠れているということになっている暗礁地帯にウインクを送った。キシリアが暗殺者を隠して居る場合も同じ場所だろう。

勝っても負けてもそこそこの情報を渡す気だが、もしキシリア機関が無茶をするならば彼女が割って入る予定になっている。

 

『気易く言うわね。歴史の裏側を聞かされて、私がどれだけ驚いたって言うのよ。しかもアナハイムが関わってるだなんて』

「正確にはうちの『会長』さ。この辺で戦いは幕にしたいんだと」

 VIPの中でも世界を動かす諸侯(シャフト)と呼ばれる最重要人物たちが居る。

機械のメインシャフトになぞらえたのかもしれないが、いずれも世界を動かす力がある。

ギレンやキシリアもその一人だが、ウツミの背後に居る連中もそうだった。

 

「本来、コロニー落としは十数其だったとか言われて信じられるかい? そんな未来を変える為にボクらは派遣されたのさ」

『それこそ眉唾じゃない? こっちも準備に入るわね』

 連邦政府の裏話とは別に、ウツミのスポンサーは別の情報を手に入れたらしい。

どうやら相当にハイレベルな情報機関や、あるいは占い師が存在するだ言う話である。

本当かどうかは知らないが、未来を知って居るとまで言われていた。

 

 とはいえ、そんな話は今から行われる戦いには関係ない。

パンドラの箱もシャフトも別次元の話。デュエリスト達にとって、重要なのは闘いだけだ。

 

「ヅダtype.J9『グリフォン』出るで!」

「ニムバス・シュターゼン。ギャンリッター、出る!」

 けたたましい音を立てて、二隻のムサイ周辺からノズルフレームの光が上がった。

 

「マリオンを返してもらおうか!」

「お姉ちゃんはボクと遊ぶんやからな!」

 二機は回転しながら同一宙域に侵入。凄まじい速度で戦闘が始まった。

意外なのはギャンクリーガー……ニムバスが言うところのギャンリッターの速度だ。

 

「あれは水星エンジン? ロックの問題が解明されたとは聞いてるけど」

「一定以上最大レベルで加速すると、効率の良いモードに切り替わるだけだったらしいですよ」

「宇宙戦闘機から切り替えた悪影響ですかね。急遽載せたコンピューターじゃあ、モビルスーツとの差を理解できなかったんでしょう」

 改めて出力調整の命令を出す時には、以前から残っている加速の命令が残っている。

だから変更は聞かないし、出すとしたら逆方向のノズルで相殺を掛けるべきだったのだ。

 

 いや、それ以前に、コンピューターがカテゴリーの差……。

加速でのタイムスパンの差だとか、耐久性の差を理解できていれば違っただろう。

宇宙戦闘機にとって当たり前の加速時間、当たり前の耐久値だと判断したまま、ずっと加速していただけ。

正確に言えば命令を出したまま、次の命令で減速する構成になるらしかった。

 

「それにしたってさ、アレって旧型だろう?」

「技術が必ずしも進歩するとは限りません。水星エンジンは20m以上なら最適だったんです」

「それを16m前後に無理やり抑えたんじゃ、矛盾も出ますよね」

 ようするに向こうのエンジンは、大型化が進むモビルスーツならば問題無い。

むしろ小形であると言う前提に設計しなおされたエンジンよりも、効率が良いらしい。

もちろん現在の技術で進歩した部分で、向こうに取り入れられる技術があれば取り入れているだろう。

 

「ジムがルナチタニウムじゃないみたいなもんかね? ここは良い勝負になると見ておこうか」

「あのエンジンが活きるのは宇宙です。だからこそ愉しめると思いますよ」

 どっちの味方か判らない発言をしているが、元もと彼らはツイマッドの技術者だ。

今ではウツミの部下……というよりは共犯者になっているが、ヅダ本流の技術が出て来て興奮して居るのだろう。

 

 そんな他愛ない話をしている間にも、戦いは進んで居た。

ギャンリッターは二本のヒートソードを抜刀! 翼のように広げて飛び込んで来る。

対するグリフォンは無手のまま、これは機動性を限界まで上げる為なので何時も通りの姿だ。

 

「小僧!」

「ええ大人が!」

 サーベルによる斬撃を手で逸らす。

急に無手に成ったのならば慌てる所だが、何時も通りゆえに気負いもてらいもない。

 

 とはいえソレは相手も承知。

逆方向から二刀目が迫り、それをなんとか肘で叩き落とす。

 

「今度はこっちや!」

「そんな曲芸なぞ!」

 グリフォンが近くのデブリを踏み台にして、三角飛びからのライダーキックを放った。

ギャンはサーベルをxの字状にして防ぎ、余波で足の装甲が裂けるが、ただのカスリ傷だ。

 

 どちらかといえば受けと得たギャンの方が、腕に負担が掛って居るだろう。

宇宙では慣性で勢いがそのまま威力の向上に繋がる。

スピードをそのまま上乗せするスタイルの攻撃ならば、格闘と言えど決して威力が低い訳ではない。

 

「だがしかし! リーチの差はなんともな!」

「そんなんスピードでひっかき回したるわ!」

 流体パルス・アクセラレ-ターとマグネット・コーティングは同じ物。

あえていうならば白兵戦にセッティングされたギャンリッターと、格闘戦に主眼を置いたグリフォンの差だ。

 

 当然ながらサーベルの方が長く、威力は高い場合が多い。

逆に格闘の方が小回りが利き、威力は低いが速度差で強化できる。

ギャンの方が構造がゴツく耐久性があるが、内蔵機材へのダメージまでは分散しきれていない。

 

「こいつはどや!」

「ふん。甘いな!」

 肘打ちによって旋回半径は1から0.8以下へ。

僅かな筈の誤差が致命的になるが、ニムバスは距離と移動方向を調整して減衰させた。

 

 更なる内側に回り込まれたらグリフォンとてダメージを伝え切れない。

本来であればソレは格闘の間合い。ギャンが選ばないと思って居た戦い方で、むしろグリフォンの方がサーベルの威力を殺す為に使うオプションだと言える。

 

「はっきり言ってやろう。貴様には経験が足らん」

「ボクかて目いっぱい練習しとるわ!」

 間一髪を巧みに避けるデットorアライブ。

平然とニムバスはグリフォンの間合いに侵入し、最低限の間合いを取ろうとしたところで、切り返される。

 

「だから甘いと言って居る! 戦った回数が違う。死闘を繰り広げた回数が違う。何より……」

「んなアホな! ボクが格闘戦で押されとる!?」

 今度は逆にニムバスが裏拳ぎみに剣撃を放って来た。

慌てて避けるが圧倒されたのは間違いがない。即座に二本目が一本目の上から押し付けられて来る。

 

「戦いに掛ける信念が違う! 子供の遊びとは違うのだよ!」

「がっ!? 一本犠牲にやと!?」

 恐るべきことにニムバスは、一本目のサーベルの上から二本目を叩きつけて来た。

当然の様にサーベルは半ばから真っ二つに。

一本目はナイフのようにグリフォンの腹を抉り、二本目が危うく肩口に直撃しそうになった。

 

「ふはははは! EXAMによって裁かれるがいい!」

「やられるかい!」

 なんとかヘッドバッドの要領で打ちつけ、ノズルも吹かせて反動で押し戻す。

始終有利に立つニムバスだが、まさかEXAMのある頭部を犠牲にするとは思わなかったのだろう。

さすがに予想できず、倒し切れなかった。

 

「どういうことだい? バドはEXAMを使ってないのか?」

「とっくに使ってますよ! ……多分、EXAM込みで機体運用の差でしょうね」

 髭面の技術主任はウツミの癇癪に答えながら、画像を編集し始めた。

メインモニターに二機の動きを編集し、簡単な軌跡を表示する。

 

 直線はともかく、曲線・8の字・ジグザグ軌道などはグリフォンの方が速い。

いずれも加速・減速によるレスポンスもこちらが上だ。基本的にスピードでは負けて居ないのである。

 

「数値では負けてないどころかこっちが上です。もし地上だったら圧倒してたでしょう」

「ならなんで勝てないのさ?」

「向こうが格好良く勝つ気が無いからです」

 それは単刀直入な結論だった。

はっきり言って、ウツミには欠片も理解できないが。

 

「最低限の防御が出来ればいい、クリーンヒットさせなければいい。最後に立って居るのが自分であれば良いという考え方ですね」

「カウンター主体で、攻撃は当て逃げって事?」

 もし格闘技の試合であれば積極性が合ないと言う理由で減点だろう。

大仰なカウンターで一撃決着を望んで居ないからこそ、バドもカウンター気味だとは気が付かない。

 

 あえていうならば、そこも含めて計算して偽装して居る筈だ。

おそらくはバドからみて、自分が上手いから攻撃の手を潰した、上手く立ち回って抑えていると思って居ると思われた。

 

「EXAMの方も相当な負担をさせている筈です。反動軽減とか全部捨てて、ダメージカットだけさせてるのかと」

「バドはあまりジークフリートに無茶させていませんからねえ」

 人間の思考を元にしているだけに、マリオンへの負担も心配されている。

それに他人に力を借り乗るのが嫌いなバドは、AIに専門的な仕事を任せていた。

 

 言うなればバドとAIが二人三脚で、それぞれの能力を活かしながら最善を探して居るのだ。

相手への助言はするが、担当に口出しはあまりしない。

もしかしたらAIは演技に関して助言するかもしれないが、バドが言う事を聞くタイミングを測って居るだろう。

 

「対してニムバス大尉は徹頭徹尾、EXAMを自分の踏み台にして居ます。壊れても構わない、壊れないように気を使うのではなく、自分の為に壊れるのが幸せだとでも告げているかもしれません」

 どちらが良いと言う訳でもない。

単にニムバスが今の状況に持ち込んで、自分の経験を活かして戦って居るだけだ。

そういう意味で、経験値の少ないバドが苦戦して居ると言っても良いだろう。

 

「相手の土俵に上がってしまった結果、特化型のグリフォンが総合型の格闘になっちゃってるってことですね」

「しかも相手はレスラーとは言いませんが、ヘビー級レベルくらいには耐久値が高いですから」

 だから勝つには考え方を変えるしかない。

恰好良く勝つのを諦めて、フェイントから組み付いてデブリにぶつけるくらいのことは必要だ。

 

 だがそれではこの戦いを挑んだ意味が無い。

ちゃんとした勝負で正々堂々と戦って勝つ。そうしないならば負けた方がマシだと言える。

 

 しかしバドは別の考えに至ったようだ。

考え方は変更するが、恰好良い勝ち方は捨てない。

自分の土俵に持ち込んで、技のデパートとでも言うべきバリエーションを見せ、舞い踊る様に動き始めた。

 

「私が最もEXAMを上手く使えるのだ!」

「……それがどうしたんや!」

 グリフォンがカカト落としを掛けた。

ノズルを吹かして高速で一回転。ニムバスはそれすらも見切り、アームブロック。

即座に折れてない方のサーベルで追い討ちに掛った。正面に態勢を戻すところを狙う。

 

 だが、逆転はここからだ。

なんとグリフォンは態勢を元に戻さない。

カカトを軸にもう一方の足をからめ、腕を手首に這わせる。

 

「モビルスーツで関節技だと!?」

「へへーん! それは囮や!」

 咄嗟に抜こうとしてしまった手を諦め、折れているサーベル周辺に足をからめた。

手を抜き切れずにサーベルから手を離し、指先の保護をしてしまう。

本来であれば、手など捨ててしまって鉄拳攻撃でも掛けるべきだったろう。

 

 それをしなかったのは、単純にニムバスに関節技の経験が無かったから。

より正確には、ギャンで関節技に対処するなどと思いつかなかったからだ。

 

「だが足はもらった!」

「足なんかくれたる!」

 斬り払いがグリフォンの片足をとらえる。

だが残りの足が繰り出され、上下左右の正対状態を無視してストンピングを掛けた。

 

 当たったのはギャンの顔面。

EXAMのある頭ゆえに弱点であるが、同時にそれは、ニムバスを別の意味で刺激した。

 

「貴様! 騎士の顔を足蹴にするとは!」

「いまどき騎士も戦士もあるかいな!」

 威力としては大したことはないが、顔への攻撃は色々な意味で大きかった。

メインカメラを傷付けたのもさることながら、ニムバスの余裕を打ち崩した。

 

 そもそも三次元座標くらいならともかく、上下左右の正対まで捨てる等とは思わない。

天頂方向や天底方向からの攻撃くらいは予想できるが、斜め下から上を正面だと判断して攻撃してくるなど思いもしなかった。

 

「ANUISU、いやマリオン! サブカメラを使ってメインカメラの補正を行え! 正対位置の差による誤差修正もだ」

『イエス・マスター』

 ここでニムバスは指示を間違えた。

自らの能力を最大限に発揮する事を前提に、EXAMに再設定をさせたのだ。

 

 しかし考えて見てほしい。

上下逆転して縦横の概念が変わったくらい、どうと言う事があるのか?

さっきのストンピングだって、カカト落としとどれほど違うのだろうか?

なまじ便利な演算機があるだけに、相手も同じことをして居ると判断したニムバスはソレに頼ってしまった。

 

「なんぞこうゆう技なかったっけ?」

『カポエラです。ジャブローよりも南で流行った、踊る様な蹴り技かと』

 確かに同じ事をして居た。

だがやり方が徹底的に違うところがあるとすれば、コレはいつもの延長であった。

 

 ニムバスは奇をてらった攻撃をしたと思っているが、バドは暇さえあればこんな馬鹿な事をやっていた。

少しでも面白い戦法を編み出す為に、誰もが思いつかない戦法を考えて良く失敗して居た。

ソレは思いつかなかったのでは無く、機械がやるべきではないからやらなかったのだ。

 

 そのたびに機体を壊し、怒られながらグリフォンを操った。

 

 だからこれは何時もの延長。

データを呼び出して補正して居るだけで、ギャン側ほど負担を掛けてはいなかったのである。

 

『マスター。相手の動きが変わりました』

「よっしゃ! 邪魔に成った場所を切り離しぃ。少しでも軽うなって圧倒するんや」

 ニムバスは自分とこちらの動きを補正し、相互の有利不利を消そうとした。

バド達は今の一撃を補正し、少しでも良い技になるように、体のバランスをそのたびに変更した。

 

 あえていうならば、その差だった。

マイナスを減らす修正と、プラスを増やす修正。

 

先ほどはニムバスが自分の経験を活かして、自分の土俵に上げた。

今回はその逆、バド達が自分達の経験を活かし、自分達の土俵に上げたのだ。

 

 付け加えるならば、あちらのANUBISUは完全にサポートしかしていない。

だが、こちらのジークフリートはバドと二人三脚で経験を積んで居る。

道具として機能して居るのは同じだとしても、チームの為に活動しているのは片方だけだった。

 

「ボクらの勝ちや!」

「馬鹿な。私は……騎士の筈だ!」

 グリフォンは回し蹴りの途中でサーベルを腕で受け、これを分離(パージ)

片手片足になったが、さらに足の構造を伸ばしてL字に近い状態で蹴りを浴びせた。

体のバランスは翼のノズルで補い、強引に頭部を狙う!

 

 最大限まで加速された回し蹴りが、最も危険な角度でギャンに突き刺さったのだ。

それだけならば大したことはない、さきほどのカカト落としの方が流麗なくらいだ。

だがそれで十分、頭部のみならず上面装甲を破壊した。

 

 この状態で勝っても、スッキリした勝利だと第三者が言わないかもしれない。

場合によっては第三者を装って、グリフォンのEXAMを狙うかもしれない。

そんな事態に備えて、ウツミは余計な機能を付けていた。

 

「アイム・ウイナー! チャンピオンは変形して凱旋や!」

『正確にはトランスフォームではなく、ただの分離(パージ)です』

 グリフォンは残った手足も切り離すと、翼を広げて頭の角度を調整。

生残っているノズルを一点に向け、まるで飛行機の様な形状を装うと、宙域を脱出して行ったのであった。

 

 こうしてEXAMを巡る戦いに終止符は打たれた。

AIの能力確立を終えればウツミ達もEXAMも不要、やがて破壊する事でマリオンも目覚めるであろう。

 

『マス、ター。限界で・す。脱出し……』

「おのれウツミ! いずれ私のプライドを傷付けた報いを。受けてもらう!」

 だがジオンの騎士様は終わらない。

宇宙世紀の秘密を知ったキシリアも彼を支援するだろう。

悪逆非道のウツミを打倒し、浚われたままのマリオンを救う彼の旅は続いて行く……のかもしれない。




 と言う訳で最終回です。
一回で終わらせようと思ったので時間が掛りましたが、今思えば二話・三話に分けても良かったかも。

 EXAM事件に方を付けつつ、レイバー最終回時にイングラムが経験値でグリフォンに勝ったシーンをネタに入れて見ました。
ニムバスがそれを実行して経験値を活かし、この世界のグリフォンも成長していたから、なんとか勝てた感じですね。

 ラプラスの箱に関しては状況を造るブラフとして使用して居ます。
ウツミやテム・レイが技術を左右出来た・暗躍してきた理由付け?
他のガンダム物を書く時はできるだけ踏みこまないようにしていたのですが、今回は扱い易かったのと『凄い秘密を博打のネタに使う』というのはウツミさんなら平然としそうなので、組み入れた感じです。

・ニムバスの最終モビルスーツ
 蒼いアレックスを奪う・またはニムバスが前回負けているという展開も良かったのですが、他のゲームにデータだけ登場する機体を持って来ました。
ギャンEXAM搭載機とギャンクリーガーなのですが、ここではそれを混ぜた感じですね。

・水星エンジンのロック
 原作では特に理由が語られておらず、放置されていただけかもしれません。
とはいえせっかくなので、高性能AIに自己検出させたら、簡単にバグが見つかったという話にしてみました。
 ロックが掛っているのでは無く、効率化モードがオンになっただけ。
解除できないのではなく、前の命令は既に実行済みだから。
ロジックを見直して自分はMSだと認識させたコンピューターを使うか、エンジンのタイムスパンを変更。
そんなことをしなくとも、止まるだけなら逆方向推進で減速できると言う感じですね。

ともあれ、この話はここで終わりです。
最後までご覧下さり、ありがとうございました。
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