ヅダ開発に内海課長を突っ込んで見た【完結】   作:ノイラーテム

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その機体の名前はブロッケン

●X-10

 企画七課に常務の一人が怒鳴り込んで来た。

軍から要請と言う名の命令を受けた、重工業同士の提携に関する担当のはずだ。

 

「あちゃー。その様子だとうちでザクを作れって言われちゃいました?」

「それもだが……。ウツミ! 貴様が知らんかったとは言わせんぞ!!」

 常務が投げつけて来たのは今時珍しい、紙媒体の資料だ。

閲覧後は薬品焼却する筈なので、受け取ったその足で持って来たのだろう。

 

「これはX-1を改良したX-10でしたっけ。なんか見なれた頭が付いて居るなぁ」

「MIP社との提携は我が社が先に申し出ていた筈だろう! なのになんでジオニックに持っていかれているんだ!」

 その資料には当然ながら写真がある。

それはトライアルでも見たことがあるMIP社製の戦闘ポッドX-1の上に、ザクの頭部が添えつけられて居た。

 

「どうせ今の段階で無理に提携しても、どうせ形だけですよ。これだってセンサー類がマシだから載っけてるだけだし」

「そうは言うが出し抜かれたのは確かなんだぞ? この期にMIP社の技術まで持って行かれたらどうする!」

 問題なのは軍の要請ではあるが、必要以上に技術提携を進めようとする勢力どこの社にも居ることだ。

挙国一致体制のロマンに踊らされて、余計な技術まで流出させようとしている。

 

 ……まあ、それを煽ったのは目の前に居る男なのだが。

 

「我社の予算を使わずに改良してくれるなら良しとしましょうや。……それに常務がお望みの物は既に完成しちゃってますし」

「っ!? まさかもう完成したのか」

 信じられないと言った風情で、常務がウツミに目を剥いた。

彼が望んでいるのは爆発しないエンジンと、それを使用したマシーンだ。

 

 こんなに短期間で本当に完成するのか?

それに完成で来たのだとしたら、なぜトライアルにソレを提出しようとしなかったのかが疑問である。

 

「常務の疑問は想像できますよ。それに関しちゃ、現場の人間から説明してもらいましょ。記録媒体なんで、御無礼はすみませんが」

「実機の前には言葉飾りなんぞ不要だ。とっとと写し出せ」

 なんのかんのといってツイマッドの幹部はこだわり派が多い。

職人気質の頑固さを理解していた常務は、鼻で笑って無礼者のお目見得を許した。

どうせウツミで慣れて居る。いまさら一人二人増えた所で、大したことではないだろう。

 

『ちゃんと映ってる? あーあー。課長のお許しが出たんで必要な事以外は全部捨てて実現させました』

 ガサゴソと音がした後、工場の一角が映し出される。

その後ろにはザクとヅダが並べられ、少し離れた所に一回り大きなシルエットが見え隠れした。

 

『最終形をタイプ9として、まずはタイプ7ですが……ご覧ください』

「なんだ? 随分と大きいが耐久値を上げる為か? それでは推進剤が保つまい」

 常務はサイズが大きいことによる弊害を口にし、技術に明るい所を見せた。

宇宙は無重力なので一度動き出せば地上より効率が良いが、それでも大きさに消費は比例する。

 

『ヅダtype7。ブロッケンです。見ての通り20mを越してしまいました』

「ちなみにブロッケン現象から名前を取ったんでしょうね」

「そのくらいは知っとるよ。確か現物より大きく見える幻像現象だったか。しかしな……この大きさでは……」

 文字通り最終形であるタイプ9へ向けて、一回りも二回りも大きくして実現させる為のテストベットということである。

17m強であった全長が20mを越えている、ブロッケンと呼ぶには言い当て妙だろう。

 

 だが巨大ならば完成させられると言う事なら、以前の技術者でも実行して居たはず。

それをやらなかったのは大きな問題があると言う事であり、コレは解決したと言う事だろうか?

 

『機体構造はMIPのを参考にしていますので見た目ほど重くありません。AMBAC系はジオニックから引っこ抜いたので推進剤も思ったよりは』

「二社の技術を搭載する為に強引に大きくしたのか。思ったよりも……ならもう一枚切り札があるのか?」

「御明察です。背中のアレを見れば直ぐに納得できますよ」

 重量を軽くしつつ耐久値を保つ努力は、MIP社が先行して居る。

X-1で試し、将来を知る者が居れば、ビグロに至るまでに開発する中抜き装甲やジョイントフレームである。

古くはF1レースからミニ四駆まで行われたレース用のテクニックだ。ヅダでも同じことをやっているが、サイズが大きい分こちらの方が効率が良い。

 

 そしてソレを補うのが、稼働型の補助腕である。

補助腕が稼働する事で反動を付け、先に有る小形ノズルが補助ブースターになる。

 

『それでも戦闘時間が短くなりましたので、シンプルに増槽を付けて解決しました』

「なるほど。装備を懸架する場所にプロペラントタンクを付けたのか。武装は惜しいが……まあ技術検証機だしな」

 背中に取りつけられたエンジンは、四つの懸架ジョイントが存在して居た。

その内の二つ、下部に向いた方へタンクが取りつけられている。

切り離せば軽くなるし、突入前までに使い切れば爆発なんかしないので、ローコストな増加装備だろう。

 

『それと機体各部に新型のアクセラレーターを付ける予定だった分が、まるまる空いて不要なスペースができてしまいました』

「ジオニックに見せる手前、コピられるとヤバイ装備は外させました。空き場所どします?」

「それだけ空いているならそれこそ燃料か弾……。いや、小型化を前提とするなら駄目だな。適当に何か付けておけ」

 内部に燃料や弾丸を積むと被弾時に爆発してしまう。

それでなくとも他社に見せる時は新型のアクセラレーターを抜いて提出するが、生産する時は取りつけて小型化を目指す。

ならば余計な物を取りつけるよりも、いつでも取りかえられるモノの方が良いだろう。

 

 その判断を想定して居たのか、ウツミは笑って企画書を提出した。

 

「そうおっしゃると思って二・三検討しました。宇宙用はこちら、地上用はこちらでよろしいでしょう」

「対放射能隔壁をそのまま防塵処理に差し替えるのか? 地上の汚染はそこまで酷いと思えんが……まあ間に合わせならこんなもんだろう」

 資料のタッチパネルを弄ると、機体各部に遮断用の薄い隔壁を張ると書かれていた。

地上侵攻を考えるほどジオンが圧倒出来るとも思えない。とはいえ一時的な処置なので常務はこれを認める。

 

 本当の所はゲリラ活動を支援して居た時に、最新機器が良く故障したのでその経験なのだが……。

珍しく勤勉な所を褒められず、さりとてそんな背景を説明できないので、苦笑せざるを得ないウツミであった。

 

●新規発注

 他人を手玉に取るウツミだが、全て渡って思い通りになる訳でもない。

もちろん反対意見があるのは予想して対処しているが、その逆があるなどとは想像もして居なかった。

 

「へっ? 採用?」

「貴方でもそんな顔をする事もあるのね。上は早くアレをタイプ9として完成させろって」

 ウツミはその報告を聞いた時、思わずズッコケタ。

ずれた眼鏡を直しつつ、念のために聞いてみる。

 

「本当に本当かいタケオ? なんでまた急に」

 ウツミは本当に信じられなかった。

アレの何処に採用される余地があるのだろう? だって今までの方針と違い過ぎるじゃないか。

 

「なんでも見学に訪れたドズル閣下が気に入ったそうよ。良かったじゃない予定より早く受注が成功して」

「嘘……だろ。本当にそんなつまらない理由で……」

 サイズが大きく暴力的なフォルム。

それを手放しで称賛され、納品までトントン拍子に決まってしまったのである。

 

 確かに逞しい外見は敵を脅し、味方を鼓舞するには向いて居るだろう。

しかしながら、スペックの方は問題だらけだ。

 

「どうしたのよ? せっかくトントン拍子で決まったのに。何が不満なの?」

「不満も不満。大ありだよ!」

 ウツミは両手を広げて大仰なポーズを決めた後、近くにあったタオルで顔面を覆いながら泣き崩れた。

もちろんそんな仕草を誰も信じてはいない。

 

「だってアレは専務や常務を納得させる為のもので、爆発しないだけのヅダなんだよ?」

「だけって……。今までの人達はそれができないから困ってたと思うんだけど……」

 苦笑せざるを得ない。

どこか目的を履き違がえて居る部分が合ったが、まさかこれほどとは。

 

「流体パルス・アクセラレーターは元より、色々と旧型のまま。ムーバル・フレームだってヅダと同じスライドフレーム以外は試してないし……」

「ムーバル・フレームって……呆れた。あの子の言ってたことを真に受けたのね」

 このムーバル・フレームというのは、外骨格であるモビルスーツを内骨格に変更する概念だ。

M・ナガノという少年の発案によるもので、上手くいけばAMBACを含めて機体性能を大きく底上げすると言う。

 

 性能を底上げするといえば良い響きに聞こえる。

しかしながらまだ素案の状態であり、本当に能力が向上するかどうかも怪しい。

この場合の向上とは、理論そのものは正しいが、費用や設計変更の時間に見合った性能という意味だ。

やってみたは良いが期待通りの数値には達しないことなど良くあることだ、思いつきで試して良いことではない。

 

「夢物語は諦めて少しでも仕上げることね。その方が後の発注に繋がると思うわよ」

「そんな~」

 タケオはウツミを慰めると言うよりは、余計な事をさせない為に仕事に取りかからせた。

しかし、これが嘘から出た誠になり、キシリア機関との長い付き合いになるとは思いもしなかったのである。

 

●性能試験と……

 そして大型輸送船サングリア号を拠点に、テストを開始が決まった。

テストベットであるタイプセブンを元に実機がでっちあげられ、大急ぎで儀装まで完了させて行く。

トライアルに核弾頭なんか飛んで来ないから、各種モニターを仕込んでおけと、無数のカメラを追加。

 

「テスト開始」

「ヅダtype7、ブロッケン発進!」

「タイプセブン出ます。タイプセブン発進!」

 重元素を燃料にした木星エンジンは景気の良い爆音と共に加速した。

ビリビリとした振動が出るのは最初だけ。順調な仕上がりを見せている。

 

「第一巡航速度到達まで増速。テスト宙域に到達次第に増槽を切り捨てろ」

「第一巡航速度まで加速よろし。プロペラントタンク切り離します」

「プロペラント分離。木星エンジンはアイドル状態へ」

 宇宙では一度加速するとそのまま飛ぶことが出来る。

地球の重力圏でも無い限り、追加の加速は必要ない。

追加で吹かすのは、更に加速したい時だけである。

 

 だが、それは同時に燃料さえあればどんな機体でも似た様な速度が出せると言う事。

もちろんヅダがそうであるように、サイズの問題で空中分解してしまうのだが。

 

「友軍機を発見。これよりトライアルを開始します」

「おっ。マジでこの機体はX-10と同じ速度ってことかよ。コックピットもでかいし俺は気入ったぜ」

「あまりはしゃぐなオルテガ。テストは始まったばかりだぞ」

 彼方に表示されるのは三角形。

MIP社製のX-10が表示され、特徴的なザクヘッドがカメラに映し出された。

 

 相対速度を計算する場所には、X-10と並走して居ると表示されている。

オルテガと呼ばれたテストパイロットが言う通り、ブロッケンの移動力は相当な物だ。

しかしソレは、この機体……いや木星エンジンの真価ではない。

 

「宙域に入ると同時に戦闘速度へ。回避機動を取りながら目標を潰せ」

「了解。エンジンが改良されてるってところを見せてもらうぜ」

「タイプセブン、戦闘機動に入りました。今のところ戦闘速度は安定」

 軽くAMBACとノズル噴射で右回り。

それだけで大きく円運動を起こすが、そこからは小刻みに噴射してジグザグの軌道を取る。

 

「X-10の射撃試験、およびタイプセブンの回避試験を開始します」

「X-10が弱装弾で射撃開始。オルテガ中尉注意してください」

「誰に物を言ってやがる!」

 バシュバシュとノズルを吹かす度に、瞬間的な減速と加速がおきる。

その都度に強烈なGが掛るが、大男であるオルテガならば耐えられるレベルだ。

ともすればデブリにぶつかりそうになる速度だが、この男は厳つくとも教導団所属。容易く立て直して外見に見合わぬ滑らかな軌道を見せた。

 

 X-10より飛来するロケット弾を次々回避。

主砲のメガ粒子砲より遅いとはいえ、全て回避する事に成功した。

 

「ターゲットを出せ。射撃実験開始」

「ターゲット出ます。対空射撃はオートで実行中」

「タイプセブンが対艦ライフルを構えました」

 出て来たターゲットは旧式の宇宙船だ。

廃船にするしかないのを、対空砲座や装甲板を追加してある。

戦闘用には使えないが、標的としては十分だろう。

 

 X-10の方も別の場所にあるターゲットに向かって居る。

ここから先は宇宙船の破壊を目的とした試験だ。

 

「おらよ!」

「初弾命中。ターゲットは小破」

「まだだ。あれだけ近づいてこれではな。X-10の方はメガ粒子砲だから掠っただけでも簡単に壊せるぞ」

 高速機動中に当てるだけでも凄いのだが、教導団の中でオルテガは白兵系だ。

射撃は得意と言うほどでは無く、当てただけで直撃しなかったのだろう。

 

「オルテガ、反動制御(コイルキャセンラー)を使って見ろ。その後にライフルからマシンガンに変更する」

「了解。ムーバル・スラスターを起動するぜ」

「タイプセブン、補助腕を起動。反動制御(コイルキャンセル)・モードに移行します」

 ブロッケンの背中にあるエンジンから、補助のアームが伸びる。

その先には小さなノズルが付いており、細かな姿勢制御を担当して機体のブレを補正した。

 

「ようし、これなら!」

「再び命中弾。ターゲットは中破」

「タイプセブン、武装をマシンガンに変更。即座に射撃を開始しました」

 回避機動中にも関わらず、ブロッケンの射撃姿勢は先ほどより安定して居る。

ムーバル・スラスターによってマイナス補正が打ち消され、二度目の命中だ。

更に対艦ライフルによる射撃を切り上げてマシンガンに持ち替えるのだが、ライフルの反動があったとは見られない。

 

「ターゲット沈黙」

「一時試験終了。次は模擬戦の続きだな」

「おう! 推進剤の補給に戻る!」

 流石に対艦用・対要塞用のX-10には火力で負けて居るものの、近距離を維持しての戦闘では負けて居ない。

模擬戦でもより大型でより高級機なはずのX-10と互角に戦い、デブリの漂う空域では優勢ですらあった。

 

 こうしてタイプ7は次期生産機として有力な候補に挙げられることになったのである。

そして……。

 

「見事な物だな。コロニー内の戦闘では同じくテスト中のYMS-07を圧倒したそうではないか」

「キシリア閣下には申し訳ないのですが、まだまだですよ。サイズが大きいからですし、圧倒では無く比較にならない程度でないと」

 映し出された画像に手を叩いて見せたキシリアは、憮然とした表情で返す。

自分の部隊にも寄こせと言うつもりで、褒めてやったのだ。

 

「ほう……これほどの性能でまだ足りないと。どれほどの性能を企図しているのだ?」

「そうですね。ニュータイプが操る次世代マシンを、完膚無きまでに叩き潰す程度には」

 不機嫌そうだったキシリアの頬がピクリと動いた。

形ばかりの笑顔はそのままに、目線だけが鋭くなる。

 

「貴様はジオンの国是がニュータイプへの革新。アースノイドより上に立つことを理解して居るのか?」

「でも見て見たくないです? 軍人たちがこりゃ勝てないと口を揃えて言った化け物を、バリバリの旧人類が打倒する所」

 今度こそキシリアの表情が険しくなった。

ウツミが口にした事は、内々にキシリア機関で行った実験結果だからだ。

ニュータイプが操る次世代マシーン。それと演習したエリート軍人達の言葉。

 

「ブロッケンではまだサイズもですが、OSに不満が残ります。できれば実戦をさせて見たいんですが、どこかに人体実験でもして居る悪い連中でも居ませんかね?」

「……知らんな。私は何も知らん。だが成果があれば教えて欲しい物だな、アナハイム?」

 ウツミが言って居るのは、パルプコミックに載って居る様な悪の秘密結社だ。

だがキシリアは意味の通らない言葉で返した。

ただ、お前が秘密にしている事など、自分もお見通しだと。

自分の掌の上でなら、好きにして良いとだけ伝えたのである。

 

「ふふふ。グリフォン対イフリート。こりゃ世紀の対決ですよ、キシリア閣下」




 と言う訳で第二回。
Type7ブロッケンというか、ドムモドキの登場です。

 ヅダの欠点を20mにすることで克服。
機体耐久値を大きく底上げして、燃料消費を別の形で補いました。
最終的には18mまでシェイプアップする感じですね。
本当はM・ナガノ博士が専務を怒らせるレベルで延々と喋る予定だったのですが、混ぜ過ぎると良くないので割愛しました。

パトレイバーの方だとブロッケンが暴れて、グリフォンが重MS倒すのですがこれを修正。
ビグロモドキと一緒にトライアルして、次回にイフリートと闘う事になります。

●嵐のじぃかぃぃよこくゥゥ!
「なに? このモビルスーツ? 笑ってる?」
「あははっ! おねーちゃん強いなあ! ボク楽しくなってきたわ!」
「EXAMシステム、スタンバイ!」
「と、止まらない? に、逃げてー!」
「おっ。急に動きが良くなったで。ばっちこいやー!」

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