ヅダ開発に内海課長を突っ込んで見た【完結】 作:ノイラーテム
●企画外品
後年とある施設が作られるサイド6。
その前身となる組織は早い段階から組織され、ギレンの目を掠めるように設置されていた。
本格的な採用によって組織が肥大化し、途中で場所を変更する為に、コロニーの候補が二つあるのだとも言われている。
「一足先に
「ブルー? ボクが見た時には赤く塗り始めて居たけど」
その場所を見つめる様に二人の男が話しあって居た。
正確に言えば、密かに運用されているモビルスーツに対する論評だ。
「情報が古いぞ、リチャードらしくもないな。クルスト博士は蒼がお気に入りらしい」
「なるほどね。なら赤いのはパイロットのこだわる部分だけか」
望遠レンズを手渡され、リチャードと呼ばれた男は苦笑しながら覗きこむ。
レンズ越しにも遠目であるが、なるほど確かに蒼いではないか。
「できれば一部持って帰りたいな」
「
彼らはロボットの話をしているが、蒼いモビルスーツの事情などまるで相談して居ない。
しているのは戦利品の分配であり、それを得る仮定で得られるであろうデータの話をしている。
「お人形は酷いな。MS-06の設計図も手に入ったし……大きな工場に移れれば捗るんだが」
「戦争が始まれば招かれるさ。それまではソフトの方を中心にするんだね、テム」
二人はどこで受け渡すかを伝えあうと、言葉少なに立ち去った。
そしてリチャード……ウツミは蒼騎士に立ち向かうため、黒騎士を用意しにとある工場に向かう。
そこに彼が用意した玩具がパッケージングされている筈だからだ。
「こっちよ。このコートを着て頂戴」
「食品工場か……もっと色気のある場所で着替えたい物だねタケオ」
タケオが出迎えたのは場末の食品工場だ。
合成肉を冷凍する為の施設で、色気の欠片もありはしない。
「馬鹿な事を言わないで。タイプナインの組み立てはもう終わってるわ」
「それは素敵だ。……うん、中々にドレスアップしてるじゃないか」
コートを着こみ冷凍施設に入ると、そこには寒々とした場内にモビルスーツが鎮座して居る。
黒光りするボディに翼まで設置され、一見してモビルスーツかと疑うほどに洒落ている。
「ちゃんとサイズ調整出来たようだね。さっすがぁ~」
「……課長が不可能を可能にしろといったので相当に無茶をしましたよ? 現行のモビルスーツとは規格が合いません」
タイプ7では20mを越えた全長が、18mまでシェイプアップされている。
ウツミの褒め言葉をまともに受ける気が無いのか、技術者たちはウンザリした顔で説明を始めた。
「耐久値を保つため、これまでのように素直に引くのを止めて、太いのを足してから他を削って居ます」
「えっと。家を立てる時に、大黒柱を増やして壁を削ったようなものだと思ってください」
「支柱を増やしたって事? できればそれがムーバル・フレームだと有りがたいねぇ」
主任も副主任も一瞬だけ嫌そうな顔を浮かべた後、顔を見合わせてから説明を続けた。
相当に話し難いことなのだろうが、意を決して話し始める。
「採用しました。その代わりに、モビルスーツにあるべき何もかもを捨てましたが」
「課長はフレキシブル・ベロウズ・リム構造というのを御存知ですか?」
「と言うと……水泳部の?」
フレキシブル・ベロウズ・リム構造というのは、装甲板を蛇腹状にして伸び縮みさせる機能のことである。
水泳部と揶揄される、水陸両用型モビルスーツの開発に置いて採用された構造であった。
「そうです。アレとヅダの腕部に入れたスライド・フレームを組み合わせました」
「ヅダのはジャッキ見たいな感じで腕が伸びたっけ。アレで武器を持ち替えてたのを覚えてる」
「具体的に言うと肘に二重関節、手首に二重関節を入れて制御して居ます。代わりに本来腕にあるべきパーツが入ってませんが」
言いながら自分の手で示し、曲げたまま肘と手首を指差した。
そして軽く関節を伸ばして付き出し、先ほどとの差で長くなったかの如くイメージを伝えておいた。
「あるべきパーツって……。ハードポイントは? 銃とか仕込めないの?」
「装備できるわけ無いじゃないですか。どう考えても重量オーバーです」
ええぇ~。とウツミは大口を開けた。
車両やロボットにはハードポイントという概念があり、差し込む穴と、繋げる電極が存在しているものだ。
その穴に仕込んで電極を繋げると、肘や足がそのまま武装設置ポイントになると言う訳である。
「ちょっとちょっと。あの一杯あるケーブルは何さ? あそこを通して電極くらい通せないの?」
「あれは流体パルス・アクセラレーターのサブです。強引にフレームや装甲板の中にも通しましたが、切れると問題ですので」
「ついでに言うと、放熱板が入ってません。期待各部の飾りやあの翼がムーバル・スラスターを兼ねた放熱フィンでもあります」
物凄い無茶苦茶である。
組み立てに冷凍施設を使ったのは伊達では無く、少しでも発熱を抑えるためだ。
「本来、推進剤さえあればモビルスーツは幾らでも闘えますが、グリフォンの戦闘可能時間は最大でも1時間です」
「それも全力を起動しない場合です。アクセラレーターをメイン・サブとも使ったら、30分を切るかと」
「……アハッハハ! 結構結構コケッコウ! いいじゃないか、30分しか動かない超人マシーン! つまらない機械よりよっぽどいい」
ロクでもない説明を聞かされたのに、ウツミは本気で笑って居た。
彼としてはグリフォンで採算を取る気など全くない。
スーパーマシーンを作りあげ、大暴れすることが前提なのだ。
バランスなどクソ喰らえ。
僅かな時間、戦場で無双して、英雄的戦果を実現できればそれで良いのである。
そして、それこそが技術者たちがウツミに従う理由でもあった。
これほどまでにクレイジー。夢物語りの理論にさえ、Goサインしか出さない上司は他に居ない。
この課長あって、この技術者ありである。
●グリフォン参上!
そのころ、問題の施設では実験が行われていた。
ジオニック社製のモビルワーカー、クラブマンが無数に林立。
それらによる攻撃をかわしながら、二機のモビルスーツが順調にターゲットを破壊して居た。
「数値は相変わらずかね?」
「はい、クルスト博士。多少のバラつきはありますが、一号機のスコアはダントツです」
クルスト・モーゼスは内心で失望の念を隠さなかった。
新型のコンピューターを入れても変動は特にないらしい。
モビルスーツの方も最新型とはいうが、大いに不満が残る。
所詮ジオンという小さなバックアップではこの程度なのかもしれない。
そう考えた時、不意に二号の方も尋ねてみることにした。
普通の軍人が操り、少し前までの新型に載って居たので、いつもならば無視する所なのだが……。
「そんな所か……二号機は?」
「素晴らしい成果が出て居ます。新型コンピューターが彼にあったのかもしれません」
ほうっ……。と我知らず声に出て居た。
もしかしたら、クルスト博士は被検体の一号機よりもこちらに関心を持って居たのかもしれない。
あるいは内心、被検体に嫌悪すら抱きなんとかしたいと思っていたのかもしれもしれない。
だからこそ、続いていつも通りでは無い反応。そして職員達には、成果に見合った当然の反応を示してしまう。
「確か軍務より戻って居たシュターゼンだったか。念の為に他の者に変えて見ろ」
「了解しました。もしこれで同じ結果でしたら……新型コンピューターは世界を変えますよ!」
「おめでとうございますクルスト博士!」
キシリアから護衛に付けられたうちの一人、ニムバス・シュターゼンはエリート軍人だった。
他にも似た様な者はいるが、ナイト・シンドロームのケがある彼は幾つかの条件で精神性に反応差がある。
ジオンの騎士というイメージにぴったりなYMS-07や、守るべき被検体であるマリオンが女性であることもあって、発奮しているだけかもしれない。
だからこそ、誤差の無いデータを得る為にも、他の軍人と入れ換えて見るべきだろう。
幸いにもキシリアから寄こされた使い捨ては山ほどいるのだ。
そう思って、このタイミングで余計な指示を出してしまった。それが致命的な初動の遅れになるとも知らずに。
「搬入口開きます。何か納入される物も……いえ、失礼しました。新しいモビルスーツを用意するそうです」
「うん? そういえばツイマッドの新型は大きいと言うそうじゃないか。機材を入れるのに送ったのかもしれんな」
「そうですね戦闘するならともかく、実験機材としてはその方が助かります」
博士と助手は用意された資料をそのまま信じ込んだ。
何しろこれまではずっとそうして来たし、一番過敏に反応するニムバスは、モルモットが女性だからと面倒だから遠ざけて居る。
だからこれは職務の怠慢であり、調べ上げたウツミ達の事前調査の結果であろう。
開かれたゲートから黒い機体が入って来たのはその頃だ。
邪魔者であるニムバスが機体を離れ、別の軍人が乗りこむ為に燃料と弾薬を補充しようとハンガーに掛けられた時。
黒い機体……グリフォンは動き出す。
「まったく。……ゲートの稼働キーだけでなくこんな情報まで。どこから手に入れて来たの?」
「あー。ここの設計は下請けにアナハイムの手が入って居るんだ。それと、研究員ってのはどこもカツカツでさ」
「フラガナン博士の学閥自体が弱い物ですし、クルスト博士はその極北ですからね」
ようするに、ここが建設された当初からマークして居たと言う訳である。
正確には陰謀を秘めたキシリアと、怪しげな研究者が結び付いた段階で、糸を辿って居たと言っても良い。
「最初からやる気だったのね。まあ秘密結社なら連邦やジオニックから奪うよりもマシでしょう」
「そーいうことそーいうこと。その為に、テムに頼んで教育型コンピューターを横流ししてもらったのさ~」
タケオは皮肉の判らない男の靴を踏みつけ、無視する事にした。
ウツミ……リチャード・ウォンの名前を呼ぶ時、愛情を込めて呼んだ事よりも、怒りと罵倒を向けた回数の方が遥かに多い。
もちろんソレを口にしたら面白がってホテルにでも連れ込まれ、『朝までに逆転してやる』とでも言いかねないので黙って居るのだが。
溜息を吐きながらインカムのスイッチを入れ、グリフォンのパイロットを呼び出した。
「聞こえて居るバド? モニターしているけれど、念のためにね」
「問題ないでー。ボクもグリフォンもバッチリや!」
声をかけると黒い機体……グリフォンが手を振って来た。
間髪いれずに行った動作だが、こんな動作をマニューバーに入れて居る筈が無い。
「モーション・トレーサーは反応良いみたいね。いま時こんなの入れるのはどうかと思うけど、反動は大丈夫なの?」
「そりゃあバドはオルテガ中尉より華奢だけどね。あ、こんど見て見る?」
グリフォンの操作にはパイロットの動きをトレースするシステムを使って居る。
ジオニックではクラブマンからヴァッフ、ザクへと進化する間にサブになったモノだ。
普段はパターンを登録しておき、あとはオートバランサーやコンピューターでバランスや相互位置を合わせているモノなのだ。
なんでこんなモノに頼って居るかと言うと、命令伝達系まで省いてしまったからだ。
将来はともかく、現時点でグリフォンはバドの動きプラスアルファでしか動かない。
「という訳だ。動きの悪い軍人さんが戻ってくる前に、遊んじゃうとしようか」
「その言葉を待っとったで!」
バドは手首の関節を伸び縮みさせて、自分の動作の何がグリフォンのオプションを動かすかを確かめて居た。
羽の動かし方は最初に習って居るし、もはやゲームに挑むのに何のためらいも無い。
Aボタンで関節が伸び、Bボタンでダッシュ。両方押せば空を飛ぶ……と愉しんで居る。
そう……バドはこの戦いをゲームだと思って愉しみにしている。
ラジオ体操をグリフォンにさせて、主任に機体を温めるなと怒られたことまで良い発奮材料になって居た。
「ヅダTYPEJ9、グリフォン発進!」
「ゲットレディ! GO!!」
グリフォンは軽く身を沈ませると、一直線に飛び出した。
その動きを強化する様に、シュっとノズルが小さく噴射する。
林立するクラブマンを粉砕しながら蒼い騎士に接近するなどお茶の子さいさい。
朝飯前のゼリーだと言わんばかりに容易く突破して行った。
「何? 次の試験は格闘戦なのっ!?」
蒼い騎士……イフリートを操るマリオンは一瞬戸惑った。
鋭い感能力はあるが、いつでも発揮出来る訳でもない。
もっともバドに殺気など無いので、発揮できたとしても、そう判断するしかないだろう。
「クルスト博士! 新型機がイフリートに迫って来ます!」
「事前の連絡にはありません! 格闘戦のテストなど予定して居ませんよね?」
「敵!? 敵なんですか!?」
殆どの科学者や技術者たちは一瞬戸惑って居た。
「警備を呼びます。間に合わせに二号機を呼び戻しますか?」
「慌てるな。一号機に追い返させればいい」
しかしクルスト博士だけは、僅かに期待した目で乱入者を眺めて居る。
これまではスポンサーの手前、現段階では、不必要に出来なかったことができるのだ。
「誰だか知らんが乱入しておいて壊してはいかんということもあるまい。システムは稼働して居るな?」
「はい。現段階ではクォータードライブでマリオンのデータを追って居ます」
「心拍数に変化はありましたが、順調に反応を蓄積中」
実戦データを得られる。
博士からその事を聞かされて、他の研究員たちも呼び出そうとした警備を止めておくことにした。
二号機ハンガーへのインカムはそのまま降ろし、連絡を入れてしまった警備には手違いだとすら説明してしまう。
ある意味、この連中一味もウツミと良く似て居た。
研究データ完成の為には、ジオンも連邦も無いし、もちろんパイロット達の安否や人権等どうでも良かったのだ。
●グリフォン VS イフリート
今までのモビルスーツよりも格段に早い移動速度。
それだけならば驚くには値しない。ロケットモーター次第ではどんな機体でも可能だからだ。
実際、X-1と呼ばれたMIP社のマシーンはもっと早くに移動するだろう。
もっとも、あれはあまりにも大型過ぎてコロニー内には持ち込めないし、反応機動の問題でクルスト博士たちの興味はそそられなかっただろうけれども。
「バぁドぉ。ヅダ系の優秀さは直線じゃない。判ってるね?」
「相手のロックオンを見てから外せるちゅーことやろ? 判っとるわ!」
グリフォンは各部に設置された小形ノズルで加減速し、そして直進であれば背中の翼から噴出して高機動を実現出来る。
重元素によるエンジンは、これまでのエンジンよりも遥かに早い。
「上上下下左右左右、ABってとこや!」
「何をやって居る一号機! 手を抜いて居るのか!」
「で、でも中に誰か居るんでしょ?」
相手が牽制のために手足を狙ったからでもあるが、恐るべき加速性能だ。
グリフォンは間断無い加速と減速によって、マシンガンによる連射を避けてしまった。
「なんだ、なぜあんなことが出来る!? マリオンは確実に先読みしているのに」
「りゅ、流体パルス・アクセラレーターの性能が段違いです。ロックオンが振り切られます」
「素晴らしい加速性能じゃないか! あのモビルスーツ、欲しぃい! あれがあれば研究がもっと進むだろうに。もしやあれは連邦製なのか!?」
クルスト博士の陣営はグリフォンの驚くべき性能に色めきたった。
もちろん乗って居るバドのコントロールが抜群なのもあるが、その操作方法はあまりにもオールドタイプの典型だと言えた。
軍人達よりマシな程度、それが判るだけにハードの性能差が良く判るのだ。
一方で、ウツミ達は逆の意味で驚いて居た。
「信じられない。イフリートはYMS-07より速いとは聞いて居たけど……」
「動き出す前から避けられてるジャン」
「クルスト博士はこれまた飛んでも無いモノを作りましたね」
マリオンの感応力であるのだが、ウツミ達は絶句を通り過ぎていた。
グリフォンが掴み掛ければかわされ、ならばと高速でタックルを掛ければ、動き出す前に直線上から姿を消して居る。
「あははっ! おねーちゃん強いなあ! ボク楽しくなってきたわ!」
「なに? このモビルスーツ? 笑ってる?」
二機はまるでダンスを踊っているかのように動き続けて居た。
グリフォンはマシンガンの連射を軽く避けるし、イフリートもまたグリフォンの格闘性能を完全に殺して居る。
このままでは決着は付かない。
強いて言うならば愉しんで居るバドが嬉しいだけで、他の誰も喜ばない。
問題が無ければ次の機会に挑めば良いのだが、ウツミはともかくキシリアが再度のチャンスをくれるかどうかは判らないだろう。
そして、それは見たことのない機体を前にしたクルスト博士たちもそうだ。
もしあれが本当に連邦製ならば、亡命でもしない限りは二度と見ることができない。
いや、決して表に出せない情報部の切り札であるならば、連邦に亡命した時点で任務達成とばかりに出て来ることは永久にないだろう。
「どうしますか? 今までの研究を続けるならばこのまま時間稼ぎをすれば良いですが……」
「システムのレベルを上げる。一号機が手加減して居るのも要因だろう。EXAMが本来の性能を発揮すれば倒せる筈だ」
イフリートを動かして居るEXAMには、稼働段階があった。
レベル1では、マリオンのデータをモニターするだけ。
レベル2では、マリオンが今まで取って居た選択肢を最適化し、行動前に用意するだけだ。
これまでイフリートが先制して回避できたのも、レベル2でクォータードライブ中のEXAMが先んじて加速準備して居たから。
ならばレベルを上げて、ハーフドライブに移行してしまえば良い。
「それしかありませんね。レベルを3まで上げてハーフドライブに移行しましょう」
「レベル3は機体の負担が激しいですが、あの機体を確保できるならやる価値があります」
「うむ……」
レベル3からは、マリオンが勝つ為の行動選択肢を提示し、選ばせるものだ。
レベル4は使用を考慮されていないが、上記の行動に加えて、マリオンの能力で勝つ為の行動を予測させるもの。
即ち、ニュータイプの可能性を予測演算機に当て嵌める物であり……。
人間を機械の為の補助に置き変えるものだった。
そうすることでニュータイプの可能性を完全に調べ上げ、他の人間でも代用可能にする事。
そうすればニュータイプが戦いの道具になることもないし、人々すべてがニュータイプと同じことができるようになれば、ニュータイプが迫害される事もないだろう。
(「しかし、それで本当にアレに勝てるのか? いや、勝つだけならば簡単だろう。だがアレを手に入れ、研究を完成させるところまで辿りつけるのか?」)
クルスト博士は正直なところ、迷って居た。
ニュータイプの可能性を信じ、戦争の道具にしない為に開発を続けて居た。
だが、ニュータイプであるマリオンの能力を知り、訓練された兵士である軍人達との差を知ってむしろ恐怖すら抱いている。
ニュータイプに対抗し、ニュータイプが不要になる能力を得ること。
進まない研究にいつしか博士の心は壊れ、目的が完全に入れ変わって居たのだ。
その狂気が凶行に走らせることになった。
「うん? AMCにまで影響が出ている? 何か変だな」
「これを見てください! システムが、システムが起動して居ます!」
『EXAMシステム……スタンバイ!』
映し出されたモニターには、EXAMが起動準備に入ったと言う文言が記されていた。
既に起動して居るEXAMが改めて起動すると言う意味は無い。
それが意味するのは……。
レベル制限が課せられる前、問題が発見された本来のEXAMが起動する時だけだ。
AMC……機体を制御するアクティブ・ミッション・コントロールを、EXAMが優先して作業内容を書き変え始める。
「な、なに、これ? 普段使わないキャプチャーが勝手に……」
「EXAMシステム、フルコンタクト! マリオンにポインタとキャプチャーが取りつきました」
「博士! レベル5で起動して居ます!」
バタンバタンと音がして、マリオンをモーション・キャプチャー装置が拘束した。
本来は登録された行動以外に、随意の行動をパイロットの動作コピーする形で行うモノだ。
ようするにバドが今使用して居るシステムなんだが、これが勝手に起動して居るのが異常であった。
いや、それだけではない。視線ポインタによる視点移動での選択装置も勝手に起動し、光反応をマリオンの目から反射で得始めている。
「レベル5は機体だけではありません、被験者にも問題が出ます!」
「このままではマリオンが廃人になりますよ!」
「うろたえるな! 事故でレベル5が起動してしまった以上はもう遅い。……それにレベル5以外でアレを取り押さえられるのか?」
「い、いえ……それは……」
目に見えてイフリートの反応が良くなった。
逃げながらでありながらグリフォンと互角に戦って居たのに、今では圧倒し始めている。
それだけではない。
動きは滑らかになり、予想行動はそれ以上に、予測や予知の域に達してさえいた。
「おっ。急に動きが良くなったで。ばっちこいやー!」
「なんだ……。何かまだ隠し玉を用意してたのか? やるなあ」
「……笑い事じゃないわよ。完全にこっちの行動を演算されているわ。なんだか容赦も無くなって居るし」
これまでの段階で、手にしたマシンガンを叩き落とすことには成功して居た。
だがそれも、バドが牽制を面倒くさがり、マリオンが撃つのをためらっていたからだ。両者の意図が噛み合って、狙った様に落としたに過ぎない。
それがどうだろう?
弱装弾ながら足のミサイルを遠慮なくぶっぱなし、距離を開けた所でマシンガンを確保を狙う。
ソレを邪魔しようと出て来た所へ、ヒートサーベルを抜刀して振り回して来た。
「あかん。フレーム単位で読まれ取る。このままじゃ難いなあ。Hardモードゆうわけか!」
「バド、こっちも抜刀しなさい! 本気を出してきた以上は幾らなんでも武器無しじゃ無理よ!」
グリフォンの武装は今のところ一つだけだ。
翼に懸架したサムライサーベルX。タケオは格闘戦による決着を諦めさせ、武器攻撃での破壊を指示した。
これに対して『二人』が取った選択肢は異なる。
「しゃーないなあ。ウツミさん『使う』で」
「仕方無いよねぇ。十分でケリを付けるんだよ」
「……え?」
タケオは最初、二人が言っている意味がまるで判らなかった。
相手が武装して居るのだから、こちらも武器を使うのは当たり前のことではないか。
ワザワザ尋ねるまでも無いし、今まで使わない事を許容して居たのは、タケオが破壊活動を好まなかったからだ。本心ではこの辺で引き返して欲しいとすら思って居る。
だが決定的な所でイメージが違って居た。
何が起きて居るのか把握したのは、技術主任たちが大慌てで声を上げてからだ。
「流体パルス・アクセラレーターが正・副共に伝達して居るじゃないですか!」
「まさかBシステムを切ったんですか? これだけ温まった状態でフル稼働なんて馬鹿げている! 装甲はともかくギアが持ちませんよ!」
「まさか……。リミッター無しで戦ってるの!?」
グリフォンの動きが更に鋭くなった。
先読みの速度で敗北し、更に行動を演算予測されて何発か命中弾をもらっていた。
それがどうだろう。
超高速の動きで走りまわり、あるいは軽いジャンプで懐に飛び込んですらいる。
「こなくそ! 当たらへん。あとチョイなんやけどなあ!」
バドには最初から、サーベルで闘うと言う選択肢は無かった。
そもそも格闘戦の方が得意だし、グリフォンのスタイルに似合っていると思っている。
「素晴らしいぞ! あのモビルスーツ、またスピードが上がった。おい、パワーのゲインはどうなっている?」
「驚くべき出力です。トルクも申し分ありません。確保すればEXAMを載せ替えましょう」
「駄目、止まらない。殺したくないの、逃げてー!」
クルスト博士たちもまた、この自体を喜んでいた。
超高速で動き回る次世代機同士の戦い。
しかも、黒い機体の搭乗者は明らかにオールドタイプだ。
あくまで運動神経が良いとか、学習能力が高いというに過ぎない。
エリート軍人や、その中でもエースと呼ばれたニムバスを見て来た博士に取って、『将来、ニムバスを越えるかもしれんな』という程度の驚きに過ぎなかった。
そんな中で、マリオンだけが悲劇の中に取り残されている。
必死で動きを止めようとするが止まらないし、機体はむしろ彼女に演算をさせる為に、光を当て与圧を掛け、心拍数を測って反応を記録して居た。
反応からデータを取り、選択肢を選び、相手の行動から変化する状況を再びマリオンに見せる。
『Bシステムを起動してください。Bシステムを……』
「ノー! もうちょっとや。もうちょっとであの機体を捕まえられる。そしたら、ボクの勝ちや!」
『Bシステムを……』
機体各部が悲鳴を上げ、制御コンピューターはリミッターの再設定を促している。
そんな中で、バドは心底、戦いを愉しんで居た。
もう少しで難しいと評判のゲームを、ノーコンテニューでクリアできそうな時の気持である。
「あー!? 機体の各部に遊びが出始めて……うわぁぁ」
「で、でも凄いですね。この戦いは最先端を行ってますよ」
「いーねーいーねえ。ヒーローと悪役の戦いはこうじゃなくっちゃ」
(「どちらかというと怪獣大決戦ね。……でも速く、速くなんとかしないと」)
グリフォンをモニターするメンツも似た様なものだ。
技術主任や副主任は青い顔をしているが、まるで博打にのめり込むように数値や動きに食い入って居る。
ただタケオだけが、胃を抑えて戦いを冷静に見守って居るだけだ。
もう少し余裕はあるが、パイロットの思考活動に影響が出始めたイフリ-ト。
恐るべき勢いでダンス・マカブルを踊り続け、あと数分の戦いを愉しんで居る。
そう、この戦いはどっちに転んでもあと数分である。
グリフォンが壊れてバドが脱出するか、マリオンが廃人になってデータを吸い上げられて終了だ。
今頃はニムバスも気が付いて急いで駆け付けて居るだろうが、それよりも速く決着が付くだろう。
「博士。コンピューターが最終演算を行いました」
「120秒の差で我々の勝利です」
「勝ったな」
機体はグリフォンに、パイロットの特殊能力はマリオンに。
それらを加味すれば、お互いに互角。
だから、勝利を分けたのはただ一つの問題だった。
イフリートがミサイルを撃とうとして、膝に付けられたドリル・ニーがそれを破壊する。
グリフォンがサムライサーベルXを抜刀しようとして、イフリートのヒートサーベルが保持の甘い内に弾き飛ばす。
体当たりと回避を兼ねて、お互いが位置を交換する様にグルリと回転。
「ああ、もう……だめ。殺してしまう……殺して……」
それまで互角だった二機に、そこで明確な差が出た。
グリフォンの膝が緩み、イフリートのマシンガンを避けそこなった。
そのまま回避すべき方向から舐めるように残りの弾を使いつくし、頭を上げる所へヒートサーベルが降り降ろされるだろう。
「わたしを殺して。みんなを殺す前に……ワタシヲ……」
「うん。今はボクの負けにしたるわ。でも……まだや!」
グリフォンのスライドアームとフレキシブル・ベロウズ・リム構造が唸りを上げる。
左手の関節が肘も手首も伸び切り、本来の二割から三割も上昇した。
それで可能なのは精々ヒートサーベルを跳ね上げるくらい。
これまでに貫手で打突して来たことから、その攻撃は予測している。
だからコンピューターはむしろ、チャンスだと判断し、サーベルでバランスを取りながら蹴りを食らわせたのであった。
「こっれは……グリフォンの、勝ちや!!」
「なんだと……あそこからまだ加速した!?」
「なんて無茶苦茶な! 自爆する気か!」
種を明かせば勝利の鍵は単純だ。
バドは相手の動きが最適解だけになったことを悟ると、切り札として、誰もやらないだろうと言う無茶を残しておいた。
至近距離からのロケットダッシュ。
唸りを上げる木星エンジンに重元素を放りこみ、瞬間的な最大加速を得たグリフォンがフルスロットルでかっ飛ばした。
結果としてイフリートに体当たりどころか、接触事故に等しい速度でぶち当たったのだ。
「なっ! なんてことを! バドは無事なの!?」
「無事じゃなかったら試さないさ。……バドー? 起きてたらささとそいつのコンピューターを頂いちゃいなさい。でないと、怖いお兄さんが来ちゃうからね」
「ぁぁー。あ痛だだだ。容赦ないなぁウツミさんは。ボクも頭ぶつけてんねんで」
ウツミの声に反応して、バドは延ばした左手をそのままに、右手一本で器用にコックピットを開け始めた。
元からモーション・トレースで動くからこそだが、ロックの有るべき場所を爪でひっかいて壊し、露出した部分をこじ開ける。
「だ……れ?」
「お姉ちゃん強かったなー。今度はボクんちで対戦しよな」
フラフラのマリオンに構わず、グリフォンはコックピット周辺の機材を根こそぎ抉り出す。
もしここで判断に差が出たとすれば、マリオンに殺し合う気が無く、即座に命令をマニュアル出せなかったことだろう。
もっとも、廃人寸前のマリオンに冷静な判断が出来たか判らないのだ。
「待て! マリオンを離せ!」
「あーもう! 今更、邪魔せんといてや!」
駆け付けて来たニムバスのYMS-07が、とっさの判断で伸び切ったグリフォンの左手に組み付いた。
少ない材料ながら素晴らしい判断であり、これはニムバスの優秀さを示している。
だから、これはグリフォンの手柄であり、ニムバスの失敗ではない。
「左手のロック切り離しちゃって」
「了解です。肩から先をまるごとパージします」
「何だと!?」
ボン! と音を立てグリフォンの左手が肩から弾け飛んだ。
グリフォンはそのままウイングスラスターで飛行し、飛び去ってしまう。
全重量を掛けて居たニムバスの07は尻持ちを着き掛け……いや、付いてもなお、咄嗟にマシンガンへ手を伸ばし、マリオンの為に思い留まったのである。
「シュターゼン大尉。EXAMの本質は頭部の演算機に有る。コックピットは所詮インターフェイスとコンピューターだけだ。放って置きたまえ」
「馬鹿な! マリオンをテロリストの手に渡せと言うのですか!」
「テロリストだけに何が起きるか判りません。イフリートを確保し、逃走用の爆破物に気を付けてください」
人間をインターフェイスだと割り切る博士たちに嫌悪感を抱きながらも、この時のニムバスはまだ模範的な軍人だった。
命令の優先権と、爆薬があるかもという当然の判断に従い、諦めざるを得なかったのである。
こうして戦いはグリフォンの勝利、試合としてはEXAMの勝利となった。
と言う訳で残念ながらグリフォンが負けてしまいました。
イフリートとマリオンのペアに対し、グリフォン(欠陥付きギャン)とバドが対戦。
マッド同士の怪獣大決戦の後に、勝ったのはEXAM。
欠陥が先にきたという意味でグリフォンの負けかもしれませんが、バドがトリッキーな策を用意して、実質的には勝った感じですね。
パトレイバーにならって、一端ここで終わりますが……。
EXAMシステムをゲットしたので、次回があれば搭載することでもっと強化されるかもしれません。
その時は放熱板の数が足らないとかいうオチはなくなって、もっと強くなるかも……原作からして改良されて無いので、無理かも知れませんが。
●ヅダtypeJ9『グリフォン』
20mになってしまったブロッケンには、色々と新型装備が付いて居ませんでした。
これを残念に思ったウツミ課長は「今直ぐ18mくらいにして」と無茶振り。
ブラックな命令に対し、「なんだリミッター付けなくていいのか」と、更に無茶な設計で技術者たちは作りあげてしまいます。
重いし取りつける場所が無い?
よし、命令伝達系も放熱板も外してしまおう!
各部の装甲板がそのまま放熱器でいいだろう。どうせ1時間以内に勝負付かなかったら、俺たち犯罪者だもんな。
これも外せ、あれも外せ。動かなくなった? なら操縦レバーも外して、モーショントレースの時代に戻せばいいじゃないマリー。
網膜モニターで視点ポインターを付けるならば、モニターパネルも要らねーよな。と言う感じです。
実質、ビームの無いギャンに当たる機体なのですが……官僚のマ・クベさんだと動か無いんじゃないでしょうかね?
リアルでフェンシングしたシャアなら動かせると思いますが、ブロッケンと違って狭いので黒い三連星には無理です。
武装:
ウイングスラスター:
ノズルの群と、放熱器を兼ねた翼です
サムライサーベルx:
日本刀です。ヒート機能なんかありません
貫手:
スライドアームとフレキシブル・ベロウズ・リム構造によって、肘と手首が伸びます
指先は水泳部が作って居たクローを小型化しただけなので、頑丈です
お洒落:
放熱器の数がないので、代わりに装甲板をエッジを効かせています。
翼もそうですし、キュベレイやガズR/LNように、無用に格好良くなっています。
EXAM:
教育型コンピューターを奪うつもりでしたが、妙な演算機の子機が合ったので利用する事に
最大戦闘時間が1時間でしたが、稼働させると30分を切り、全力稼働すると10分持つか怪しい所です
・モビルワーカー『クラブマン』
嘘の様な話しですが、ジオニックが最初に提出した二足歩行マシンらしいです。
篠原製のクラブマン・ハイレッグと同じとも思えないので、サラっと流して、モビルワーカーに武装が付いているモノだと判断して居ます。
(MIP社のX-1も、本当に存在するので、レイバーに出て来たX-10を再現するのに、アプサラスやヒルドルブみたいなことをしただけです)
・テムレイ
アナハイムの職員でミノフスキー博士の弟子。オリジンに近い設定ですが、より手段は選ばなくなっています
息子さんはそのままの性格をして居ますが、バドやマリオンと先に出逢ったら、ララアに恋するかは不明です
・ニムバス
もっと悪い奴が出て来たので、綺麗なニムバスです
クルスト博士が亡命したら追い掛けるでしょうが、御姫様を助けるために奮起するでしょう
もっともナイト・シンドロームはフェミニズムよりもマッチョな思想でもあるので、マリオンは俺の嫁と考えて居るだけかもしれませんが。