今日も地球の片隅で。 作:銀匙
初めての方は初めまして、覚えておいでの方はご無沙汰です。
原作3作品をミックスするのはあまり例が無いと思いますが、お楽しみいただけたら幸いです。
シリアス成分少な目で、ゆるゆると、穏やかに始めましょう。
「行けぇぇっ!2Bィッ!」
彼女は飛行ユニット離発着エリアとのゲートを封鎖し、自らを格納庫に閉じ込めた。
バンカーのシステムはウイルスに冒され、融合炉はいつ爆発するかもわからない。
一人格納庫に残った彼女は、その直前まで、ホワイト司令官と呼ばれていたアンドロイドである。
人類軍の反抗の切り札であるヨルハ部隊の総指揮を、衛星軌道上の基地であるバンカーから執っていた。
しかし、バンカーも、搭乗していた部下達も、機械生命体のウイルス攻撃にあっけなく陥落してしまった。
ホワイトのリソースもまた、徐々にウイルスに冒されていく。
「侵食率19%・・20%・・私は・・最後に何が出来る・・考えろ・・まずは」
バンカー内部から格納庫にアクセスするエレベータにアクセスし、制御プログラムを丸ごと消去する。
これで暴走したアンドロイドの残党は格納庫へ侵入できない。
基地のそこらじゅうから軋み音が聞こえてくる。
「・・・待て、墜落地点はどこだ?」
ヨルハ部隊やレジスタンスの多く集まる地域にバンカーの残骸が直撃すれば何もかも御終いだ。
予測結果を演算したホワイトは舌打ちをした。このままでは彼らのド真ん中に墜落してしまう。
「機械生命体らしく、嫌らしいほどパーフェクト、か」
既に自分のウイルス侵食率は30%を超えた。視界に嫌なノイズが走り始める。
「こういうことはS型の方が向いてるが・・真似事くらい私にも出来る」
その時、2つの飛行ユニットが離発着エリアを飛び立つ音がした。
「2Bと9Sは送り出せた・・よし、最後の勝負はチキンレースといこうじゃないか・・」
ホワイトは立ったまま目を閉じ、自らの正常なリソースを全てバンカーの姿勢制御システムへと注いだ。
やがて、バンカーの片隅にある補助姿勢制御装置の1つが急速に噴射出力を上げ始めた。
それはほんの僅かずつ、バンカーの軌道をずらしていく。
理想は海上・・それが無理ならせめて無人地帯に・・
想定外の姿勢変更に耐えきれなくなったバンカーは、ついに骨格部が瓦解し始めた。
「コノ期ニ及ンデマダ抵抗スルカ!出来損ナイノアンドロイドメ!余計ナコトヲ!」
バンカーのあちこちから響く機械生命体の声には焦りが感じられた。
司令官は目を閉じたまま、フッと笑った。
「私の・・勝ちだ・・人類ニ・・エイコウ・・アレ」
ついにバンカーの融合炉が爆発し、衝撃でホワイトは吹き飛ばされ、その機能を停止した。
バンカーは瓦解しながら大気圏へと突入していった。
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太陽が本格的に空へと登り、じわりと熱くなり始めた頃。
マスターは自分の店である「オリファイ」の玄関先を箒で掃いていた。
掃除もほぼ終わりを迎えた時、玄関のドアが小さく軋み音を立てながら、ゆっくりと開いた。
玄関のドアノブを持ったまま、その娘は大きく体をしならせて欠伸をした。
マスターはちらりと玄関に視線を投げ、いつも通り手を腰に当てた。
「マスタぁ・・ぉはよぅ」
「おはよう加古。何度も言うが店先に下着姿で出てくるな。腹を掻くな。着替えて寝癖を直してこい」
「はぁい」
「・・・ふむ。ということは、今日は騒がしくなりそうだ」
マスターは洗面所に向かう加古から「外」へと目を向けた。
外。
空は舞い上がる砂で覆われ、一面に白茶けた景色が広がっているのがこの地域の姿である。
砂は細かいガラス質で、店の商品にかかると傷がついてしまう。
ゆえに店は建物ごと、分厚いコンクリート製のシェルターで覆っている。
入り口を狭く、かつ店の玄関まで長細い通路にしてあるのは砂の侵入を防ぐためである。
代償として店内からシェルターの外はほぼ見えないが、見えた所で白茶けた世界でしかない。
ふと、その入り口を覆う影が1つ。
狭い通路を身を縮めるようにして進んできたそれは、大きな包みを大事そうに抱えていた。
マスターが声をかける。
「やぁデラ、ちょっと予想外だったよ」
店先にそっと包みを下ろしたデラは首を傾げた。
「そうか?私はいつもオリファイには30日ごとに来てるつもりだが」
「違うんだ。ついさっき加古が起きたんでね」
デラは大きく頷いた。
「あぁ、MPのお嬢ちゃんか。私は見なかったぞ」
「じゃあ加古予報は外れだな」
「それならまたすぐ寝るだろうよ」
「ところで、飲み物はいつもの水でいいか?コーヒーも冷やしておいたんだが」
「いや、水の方が良い。一杯頂けるかな」
「解った。荷物と一緒に中に入って待っててくれ」
マスターは玄関のドアを大きく開いて招き入れた。
店に入ったデラはその長身をカウンターの椅子に預け、マスターは冷蔵庫から水のボトルを取り出した。
カウンターの上に置いたグラスに注ぐと、グラスの周りがあっという間に結露する。
注がれる様を見ていたデラは目を細めた。
「あぁ、まさに砂漠のオアシスだ」
マスターはグラスをデラの前に置くと、にこりと微笑んだ。
「ゆっくり飲んでくれ。一息ついたら話そう」
その時、店の奥から加古が姿を見せた。
「マスター、ちゃんとし・・・うわあっ・・あ、な、なんだデラさんか」
数十cmは飛び跳ねた加古を見て、デラは悲しげに目を伏せた。
「加古ちゃんは相変わらずだなぁ」
加古はがりがりと頭をかいた。
「いやぁごめんごめん。ミュータント見るとびっくりしちゃってさぁ」
「まぁ私だって見慣れないミュータントが居たら警戒するがね。そろそろ覚えてもらえないかね?」
「がんばる・・うん、がんばる」
「頑張らないとダメか・・」
そう。
デラはいわゆるミュータントと呼ばれる存在である。
その昔、地球全土を覆ったELIDという病気は人を異形、すなわちミュータントへと変えた。
ミュータントになると凶暴化するというのが一般常識である。
実際、ミュータントの大多数は凶暴であり、相手が誰であれその怪力をふるう。
デラのように凶暴化しない個体はごく一部であった。
そして悲しい事に、狂暴なミュータントと異なる外見上の決定的な特徴が無い。
ゆえに加古の反応が普通で、むしろ平気な顔をして迎えているマスターの方が珍しいのである。
デラはグラスの水を美味しそうに飲み干すと、マスターに頭を下げ、グラスを手渡した。
マスターが受け取って洗っている間に、デラは持ってきた包みを解いていった。
「今回はなかなか大物だね・・もしかして例のソファかい?」
「最優先だと言われたからな。しかし、このオーダーは苦労したよ」
加古がデラの肩越しにひょいと覗くと、そこには2人掛けのソファが姿を見せていた。
「へぇー!旧世界でいう本革のソファみたい!すごく格好いい!」
デラはニッと笑った。
「皺の加工を工夫してみたんだ。耐荷重も余裕を見て600kgにしてある」
加古は眉をひそめた。
「こんな狭いソファで600kgもいらないんじゃない?」
グラスを仕舞ったマスターが答えた。
「機械生命体とアンドロイドのカップルさんだ。それぞれの体重を考えると、な」
加古はげんなりした顔をした。
「えぇ・・っていうか手触りとか解るの?」
マスターは肩をすくめた。
「さぁな。旧世界の洋室にあわせたいというオーダーだからな」
加古はデラを見た。
「確かに無茶なオーダーだね」
デラは頷いた。
「単に素材で受け止めようとすると重さに負けてしまう。電源不要の油圧制御を仕込むのは大変だった」
マスターはそっとデラを見た。
「それでその、予算内で収まったのかい?」
デラは頷いた。
「一から作ったのは外装位だ。その方が安いし故障しても修理が利く」
加古は首を傾げた。
「そんな無茶な重さに耐えるソファ向けに都合の良い物なんてあるの?」
「鉄血人形の下半身を流用した。重武装ユニットの脚はコンパクトで丈夫だからな」
「えっ・・じゃあこの中って」
「大雑把に言えばロボットの腰から下だよ」
マスターと加古はなんとなくその様子を想像した。
微妙に知りたくなかった気もする。
「・・外見って大事だね」
加古の呟きに、マスターとデラは頷いた。
え?ドルフロの世界観がメインじゃないのかって?
デラさんが居るじゃないですか(きっぱり)