今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第10話

「やー、ほんと面倒臭い狙撃だったよぉ」

「加古が難しいオーダーをクリアしてくれたおかげで、多脚戦車の胴体がタダで手に入ったな」

「デラさんに幾らで売るの?」

「ジャンクヤードの買取相場位だろう。世話になってるからな」

「欲が無いねマスターは・・あ、そっち持って」

結局加古は3体とも仕留めたが、胴体が傷つかなかったのは1ユニットだけだった。

その1体を二人がかりでMRAPの荷室に押し込み、ロープで固定している時だった。

 

「すまない。その、教えてもらいたいことがあるのだ」

 

マスター達が振り向くと、両手を上げたアンドロイドと思しき女性が立っていた。

加古はじっとアンドロイドの目を見ていたが、急に興味を失ったように作業へと戻ったのである。

「ん?私の顔に何かついてたか?」

マスターは首を振った。

「違います。以前、ウイルスに冒されて目を赤く光らせたアンドロイドに襲われまして」

「えっ」

「怪力を振り回されて酷い目にあったのですよ。失礼をお許しください」

「いや、それなら仕方ない。そのアンドロイドは・・」

「我々はウイルス駆除の術を持ってないので、破壊しましたよ」

「そうか・・」

「気分の良い話ではなかったですね。ところで、こちらで何をなさっていたのです?」

「ここに用はない。レジスタンスキャンプに行こうと砂漠を徒歩で移動していたのだ」

「輸送車はどうしたんです?」

「それはその・・長い話になるんだ、とても」

その時、加古がひょいとマスターの脇に着地した。

「おまたっせー、固定して幌かけたよ」

「よし、良い子だ」

加古の頭をワシワシと撫でながら、マスターはホワイトに顔を向けた。

「じゃあええと、お嬢さん」

ホワイトは自分の事だと気づかず、思わず後ろを振り向いてから向き直った。

「えっ?その、お、お嬢さんとは、私の事か?」

「お名前を存じないので」

「あ、あぁ、すまない。その、私はホワイトという」

「ではミスホワイト、車の中でお話ししましょう」

ホワイトが一瞬で顔を真っ赤にした。

「ミ、ミスホワイト!?」

「失礼、ご結婚されているのですか?」

「いや、そうではない、が・・・その・・あう」

マスターがどうしたものかと困った表情を浮かべているのを見た加古はぽつりと言った。

「ホワイトさんで良いんじゃないの?」

ホワイトが何度も頷いたので、マスターは頬笑みを浮かべた。

「ではホワイトさん、ここらは放射能汚染が酷い地域なので、車内へどうぞ」

「あ、ありがとう・・ございます」

加古はジト目になった。これはフラグが立ったルートに入ったぞ。

元々アンドロイドは人間に好意的に振る舞うように出来ているらしいし。

てことはあのダメ人形の時と同じ・・あーあ。

まぁ関わるって言った時から予感はしてたんだけどさぁ。

 

 

-----

 

 

「そういうわけなのだが、約5600kmを移動する手段はないだろうか」

 

ホワイトはMRAPの後部座席で砂漠に降り立ったところからの経緯を一通り説明した。

ただ、バンカーの正体や自分の所属などは慎重に避けた。

長くなると断っていたので、マスターは話が聞こえる程度の速度でMRAPを走らせている。

加古は首を振った。

「コイツで5600kmドライブするなんてありえないからね、マスター」

マスターは肩をすくめた。

「解ってる。そもそも海を渡れないしな」

「おまけに荷室作るために兵装捨てたし」

「どうせ軍用の弾薬なんて手に入らないからな」

「買えるけど、予算上の問題でしょ?」

「そうともいうな」

ホワイトは両腕を組んだ。

自分が走ったとして25km/h・・いや、砂に足を取られるから20km/hだろう。

冷却時間を4時間として1日400km、陸地だけでも14日間か。

海は泳ぐとして時速何km出せるだろう?

エネルギー的には問題ないが、なかなかタフな案件だ。

とりあえず頼める範囲を確定させよう。

ホワイトは口を開いた。

「難しい事は分かった。行きたい方向はこっちなので、可能な所まで乗せてってもらえるだろうか」

マスターは肩をすくめた。

「いや、私達には手が無いというだけですよ、知り合いに聞いてみましょう」

「知り合い?」

「さっき仕留めた戦車を注文したオーダー主で、機械に詳しい方です」

加古も頷いた。

「鉄血の元エンジニアだからねえ、デラさんは」

「あぁ」

ホワイトは首を傾げた。

「気持ちはありがたいが、私は機械を買えるような対価となるものを何も持って無いのでな」

マスターは首を振った。

「聞いてみるだけですし、うちはこの方角にまっすぐです。一休みしていってください」

「すまない・・失礼ついでにもう1つ伺いたいのだが」

「なんでしょう」

「あなた方は、その、人間、なのか?」

ホワイトは数少ない基本情報には、既に人間は絶滅したとされていた。

だがこの二人は機械生命体には見えないし、アンドロイドにしては質量が軽すぎる。

マスターは首を傾げた。

「難しい質問ですね。加古は艦娘ですから違います。そうだな?」

「んだね」

「で、私は・・改造されてますからねぇ」

「改造・・元は?」

「人間ですよ。旧世界ではサラリーマンだったようですが」

「なっ!?しっ、失礼いたしました!人類に、栄光あれ!」

ホワイトはピンと背筋を伸ばして敬礼を行った。

「は?」

視線を後ろにやるわけにもいかず、マスターはバックミラー越しに見て驚いた様子だった。

加古は顎に手をやった。

「んー?それ、ずっと前に来た客が言ってなかったっけ?ヨルハ部隊とか人類軍とか」

「遺跡の話か?」

ん?

マスターの一言にホワイトは戸惑ったような表情になった。

加古が頷いて続ける。

「ていうか、なんかアンドロイドって元々は人類の為にって頑張って機械生命体と戦ってたとかなんとか」

「古代戦乱期の話か?それがどうした」

「いやなんか人類に栄光を~ってフレーズを言ってたような気がして」

「そうだっけ?」

ホワイトは恐る恐る声をかけた。

「あ、あの、マスター殿」

「はい。すいません話の途中でしたね」

「いや、その、また確認なのだが」

「ええ」

「今は・・西暦何年なのだ?」

マスターと加古は思わず顔を見合わせた。

マスターは再び困ったような表情のまま前を向いた。

「んー・・西暦・・西暦ですか」

加古が両手を後ろに組む。

「ずーっと前にデラさんが西暦2万年だかなんとかって言ってなかったっけ?」

「それ何百年前の話だ?」

「忘れた」

ホワイトのこめかみを嫌な汗が流れた。

「ええと、つまり、少なくとも西暦2万年を超えてるのか?」

「デラさん家のサーバーが正しければね」

「そ、その、機械生命体とアンドロイドの戦いはどうなったのだ?」

加古が唸りながら目をつぶった。

「えーっとねぇ、アンドロイド側は人類軍代表、機械生命体側はなんだっけ、ポピーだっけ?」

「パスカルじゃなかったか?」

「それ。なんかそんな人達が戦うの馬鹿らしいよねってお終いにしたんだよ」

「は?」

唖然とするホワイトをバックミラー越しに見たマスターは溜息をついた。

「加古、説明が雑過ぎる。人類軍と機械生命体の代表同士で和平協定が結ばれましたよ」

「そもそもそれって西暦1万5千年より前じゃなかったっけ?」

「そこまでは覚えてないなあ」

ホワイトは頭を抱えながら唸るようにつぶやいた。

「そう、か」

どうやら私はとんでもない時間、コールドスリープモードで過ごしていたようだ。

その間に何らかの理由でバンカーは墜落し、機械生命体とアンドロイドは停戦したという事か。

では、もはや私は・・

 

 

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