今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第13話

マスターはふと、ホワイトに尋ねた。

「あの、よろしければ教えて頂きたいのですが」

「なんなりと」

「私や加古、戦術人形等は人間の食べ物を食べますが、アンドロイドに食事の概念はないですよね」

「食事からエネルギーを取ることも可能だが、基本的にはブラックボックスに直接補充を行う」

「嗅覚はあるのですか?」

「匂いを測定するセンサーはあるが、それが貴方達と同じ結果をもたらすかは解らないな」

「では、今お持ちの液体は紅茶というのですが、その香りは如何ですか?」

ホワイトはそっと鼻を近づけた。

「・・うむ、害は無さそうだし、何というか、拒絶するものではない」

加古が口を開いた。

「気持ち良い香りとか苦手な香りとかは?」

ホワイトは首を振った。

「匂い成分のデータだけだから、そこに喜怒哀楽の感情は乗っていない」

「ふうん。それはずっとそうなの?」

「いや、今は匂いと結びつく記憶が無いだけだ。記憶が増えていけばそういうこともあるだろう」

ホワイトは小さく微笑んだ。

「さしずめこの香りは、優しさへの感謝とほろ苦い記憶、かな」

加古はニッと笑った。

「ホワイトさんて結構詩的だよね」

「詩的?」

「まぁいいけど、もうちょっと本性出していいと思うよってこと」

ホワイトは顎に手をやり、しばらく物思いに耽っていたが、やがて顔を上げた。

「私の基本設定に、ヨルハ部隊として感情を持ってはいけないという禁止事項があるようだ」

「へぇ」

「だが、もはやヨルハ部隊も何もない。関連制約を解除してみよう・・すまない、少し時間を頂く」

ホワイトはそういうと目をつぶり、座ったまま動きを止めた。

マスターと加古は頷いて立ち上がった。

「多分再起動プロセスだ。数日かかるかもな」

「とりあえずMRAPを車庫に戻さない?」

「そうしよう。荷物は入れたままにするか」

「デラさんちまで運ぶことになるだろうしね」

「あぁ」

「デラさんいっつも手で持ってくるからねぇ・・輸送車無いのかな」

「さあな。じゃあ始めよう。加古、後退の案内を頼む」

「まっかせなー」

 

 

-----

 

 

「こんにちは。MPL宅配です。お水をお持ちしました・・どなたか居られますかー?」

MP40は配達先の敷地に降り立ち、状況を確認した。

建物内に動体反応なし、建物の損壊甚大。至る所に大口径の弾の跡がある。

MP40は記憶している顧客リストからこの住所と契約を消去しつつ溜息をついた。

このお客さんも鉄血に襲われたのか。

先週は結構取引先が増えて喜んでたのに、今週減った分でほぼトントンになってしまった。

戦域の方が良い値段で契約を結べるのですが、安定しないのが困り物ですね。

MP40はゆっくりと、足元に転がっていた鉄筋の欠片を拾った。

そしてその方角を見もせず、立ち上がりながらひょいと投げつけた。

 

「ガッ」

 

MP40はゆっくりと、投げつけた方向へと歩き始めた。

そして木の上で今まさに機能停止しようとしている狙撃型鉄血人形をちらりと見上げる。

投げた鉄筋はスコープの真ん中から鉄血人形の頭部へと貫通していた。

やがて、鉄血人形の手から滑り落ちてきた狙撃銃をMP40は真下でキャッチした。

そしてこれまたその方角を見もせずに数発発射した。

 

「グゲッ」

「イッ」

「ガハッ」

「・・バカナ」

 

あっという間に物陰で包囲網を敷いていた鉄血人形達が動きを止めていく。

MP40はマガジンが空になった狙撃銃を振りかぶり、真正面に思い切り投げつけた。

 

ドン・・ズズン!

 

建物の陰から姿を現そうとしていた大型多脚戦車の迫撃砲ポッドに狙撃銃が直撃。

迫撃弾が爆発し、戦車の燃料タンクへと誘爆、あっという間に鉄屑と化したのである。

 

「さて、次の配達先に行きましょう」

 

MP40はバギーに乗り込むと、何事もなかったかのように発進した。

 

 

-----

 

 

「こんなに早く望みの物が手に入るとは思わなかったなあ」

「ジャンク街に探しに行く途中で加古が仕留めてくれたんだ」

「ほう。例のパーツが無事だといいなあ」

「さ、こっちだ」

 

マスターの連絡を受けたデラは、数日経った昼過ぎに現れた。

そして挨拶もそこそこに、MRAPの荷台に横たわる多脚戦車の胴体とご対面したのである。

デラは嬉しそうに目を細めると、綺麗に多脚戦車の外装を外していく。

 

「やぁ加古ちゃん、ナイスだ。このパーツが欲しかったんだよ」

「それならカメラを正面からピンホールショットするので良かったの?」

「んー、この辺りが燃料パイプだからなあ、弾が突き破って引火しなければいいんだが」

「ほら見ろ、あやうく獲物が全滅するところじゃないか」

「へーへー、マスターの言う通りでございますよぅ」

「一体何で加古ちゃんはムクれてるんだ?」

「狙撃の難易度が高かったらしいんだよ」

「ほんっとーに面倒くさかったんだから」

デラは胴体の破壊と汚れ具合をじっと見て、頷いた。

「横から狙撃してレンズ、その後で脚の関節を撃ったのか?」

「で、倒れる前に機銃のチャンバーに1発、迫撃砲の制御信号ケーブルに1発」

「そりゃ面倒だ。だがそうでないと危ないか、なるほどな」

「コア撃てれば1発で済むのにさー」

「すまんな、こいつはコアに重なっとるからなあ」

「設計不良だー」

「図を引いたのはワシじゃないが、すまんすまん、ちょっと色を付けよう」

「えっ」

「マスター、この部品だけで良い。幾らだ?」

「それだけかい?ほかの胴体部は?」

「要らんよ。鉄屑屋に売れば小遣いになるだろう」

「コアユニットまで要らないのかい?エネルギーユニットとして使えるじゃないか」

「それがあるほうが金になるだろ」

マスターは加古の頭をこつんと叩いた。

「さっきの加古の話は気にしなくていいよ。必要な物を取ってくれ」

「いや、本当にいらん。コアユニットは幾つか手持ちもあるし、自作出来るよ」

マスターは肩をすくめた。

「それだけならお代は要らないよ、残りを鉄屑屋に売れば普通に値が付くし」

「バカ言っちゃいかん。コイツは本当に入手しづらいんだ」

「それは一体何なんだい?」

「潤滑油精製機だ。正確には大気中の酸化した潤滑油を抽出し、蘇生させる」

「へぇ」

「軽油を燃料とするなら潤滑油成分を軽油から分離すれば良いが、融合炉の場合そうもいかん」

「だね」

「潤滑油の為に軽油を買うのもバカらしいし、良質の潤滑油なぞ手に入らん」

「うん」

「だから空中から潤滑油を生成してくれるコイツがどうしても必要なんだ」

「この多脚戦車は融合炉駆動なのかい?」

「いや、単純な軽油だが、潤滑箇所が多過ぎて軽油分離では燃費が悪くなりすぎるんだ」

「なるほどねえ」

「だからこういうユニットが積まれてる。それはそれは凝った仕掛けでな、自作は無理なんだ」

「でも、それがあれば潤滑油がタダで仕入れられるってことかい?」

「目を輝かせてる所悪いが、丸1日駆動してせいぜい5ccだぞ?」

「えっ」

「まぁ軽油100Lよりは安い電気代だろうがなあ」

「えっ電気代?」

「装置だからパワーは必要だ。だから有り余る電力を生み出せる融合炉との相性が良いんだ」

「そっか」

「そんな話は置いといて、こんなもんで足りるか?」

デラはマスターの手のひらに金貨を3枚置いた。

 

 

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