今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第14話

マスターは手のひらに置かれた3枚の金貨を見て顔をしかめた。

「これじゃ多すぎる。胴体丸ごとの買取値で金貨1枚ってとこだし」

「じゃあ残りは加古ちゃんに臨時ボーナスって事で良い」

「待ってくれ。残った胴体は鉄屑屋に売れるんだ。1枚で十分だって」

デラは押し付けられた金貨2枚を見てくすくすと笑った。

「おかしな店だ。いつも客に釣りを少しでも多く渡そうとする」

加古は自分の瞼に指をあてた。

「マスターが無欲なせいで貧乏から抜け出せないよぅ。ごちそう食べたいよぅ」

「お前さっきグラタンコロッケバーガー2個も食ってただろうが」

「5日前につくったシチューが手を変え品を変え出てくるんじゃん!」

「寸動鍋で一気に作ってアレンジして出す方が食費の節約になるんだ」

「デラさぁ~ん」

デラは渡された金貨2枚をマスターに押し返した。

「良いからこれで加古ちゃんにごちそう食わせてやれ」

「はぁ・・じゃあ次の仕事の時に色を付けるよ」

「今回は加古ちゃんのお手柄なんだ。FOLMEでステーキ肉でも買うといい」

「ステーキ!千年ぶりくらい!?」

途端に目を輝かせる加古をジト目で見たあと、マスターはデラに頭を下げた。

「本当にすみません。では、ありがたく」

「こちらも助かった。これがあれば輸送機はもう燃料要らずだからな」

「輸送機?」

「あぁ、言ってなかったか。わしは最近、輸送を車から飛行機に変えたんだよ」

「へえ」

「空を移動する方が襲われにくいからな。そして融合炉方式なら燃料不要じゃから長距離も簡単だ」

「なるほど。海の外のお客さんもいるって事か」

「あぁ。大陸のこっち側だし、数えるほどだがな」

「ちなみにそいつはまだ欲しいのかい?」

「そうじゃな。まぁ壊れた時の予備、外販として輸送車に融合炉を組み込む際にも使える。あって損はない」

「あー」

マスターはちらりと自分のMRAPを見た。

たしかにこれが燃料不要、潤滑油不要になると凄くありがたいな・・

「なぁデラさん、こいつに積めるかなあ」

「融合炉をか?まぁこのパーツがもう1つあればやれん事はない。融合炉も余っとるしな」

「お幾らで?」

「部品を現物か、対価なら金貨2枚。工賃は新品の燃料フィルタ3枚って所かな」

「デラさん」

「なんだ」

「・・・ステーキとすき焼きならどっち食べたい?」

「・・・工賃を肉で払うつもりか?」

「どうせ買いに行くからね」

「わしは別にどちらでも。加古ちゃんに選ばせればいい」

加古がマスターに飛びついた。

「ステーキ!」

「そうか。よし、合成肉のサイコロステーキな」

「ステーキぃぃぃ!合成肉とかサイコロとか付けなくていいからぁ!」

「解った解った!まったく、チキンステーキなんて贅沢な物を」

「牛肉!ビーフ!サーロイン!」

「あんまり贅沢が過ぎると目が潰れるぞ!」

「金貨1枚あれば余裕で4人分買えるでしょ!」

「1食で金貨1枚使うだと!?おおお眩暈がしてきた・・・」

「んもぉおおおおお!」

デラは首を傾げた。

「ん?4人という事はMPの嬢ちゃんも居るのかね?」

マスターは涙目で自分を揺さぶる加古からデラに視線を向けた。

「あぁいや、ちょっと今アンドロイドが同居してましてね」

「アンドロイドが肉好きなのか?」

「いや、色々経験をね。まだこの世の記憶が少ないみたいだから」

「アンドロイドに魚類はNGだと聞いた事があるが」

「あぁ、アジを食べると体液が固まって死ぬってやつでしたっけ」

「そうだ。だがまぁ、肉は聞いた事ないな」

マスターは加古を引き剥がすとジト目で加古の目を見た。

「これっきりだからな。1度だけ!1度だけだからな!」

「やった!牛サーロインA5クラス1ポンドステーキ!」

「そんな高級品FOLMEにある訳ないだろ」

「あったら?あったら買っていい?」

「同じ物4人分、ステーキソース込みで金貨1枚までなら認めよう」

「クッ・・なんか微妙に足りない予感がする」

「そーかー?」

「マスターが余裕の表情するってことはきっとそうなんだ!知ってるんでしょ!?」

「さあなあ」

「汚い!汚い大人がいる!」

マスターはMRAPのドアを開けた。

「ほら、鉄屑屋に売りに行ってからお買い物だから早く行くぞ」

「えー鉄屑屋は明日で良いじゃーん」

「こんな大きな物いつまでもMRAPに積んでおけないだろ。早く乗れ」

デラは肩をすくめた。

「わしは店に入って良いのか?」

マスターはハッとしたようにエンジンを始動するのを止め、MRAPを降りた。

「待ってくれ。彼女に紹介する」

「そうしてくれ。いきなりアンドロイドにレーザーでも撃たれてはたまらん」

 

「・・・・」

「と、いうわけで、こちらが先日言っていたデラさんです」

「・・あー、初めまして。デラです」

「・・・ひ」

「?」

「・・・ひぃぃぃいいぃいいいいい!」

悲鳴を上げながら全力でキッチンの柱の陰に隠れたホワイトを見て、デラは溜息をついた。

やっぱりそうだろうと思ったよ。

恐怖で真っ青になり、ガチガチと震えるホワイトに、マスターは近づいていった。

「あの、本当にデラさんは紳士ですし実力のあるエンジニアさんなんです」

ようやくホワイトがマスターに視線を寄こしたが、ガチの涙目で震えている。

「少しお話して頂ければすぐに分かりますから」

「えっ・・ま、ままままマスター殿は?」

「これから買い物があるので少し離れますが」

「そんなっ!?」

「本当に、本当に大丈夫ですから」

ホワイトはマスターの袖をがっちり掴むとぽろぽろと涙をこぼし、小さく小さく囁いた。

「頼む・・・置いていかないで・・」

デラがそっと声をかけた。

「わしは今日は帰るよ。食事にはまた今度誘ってくれ」

マスターが振り返った。

「えっ、いや、彼女も解ってくれるよ。大丈夫だって」

「折角のご馳走を恐怖の思い出と共に覚えては可哀想だろう」

「そんなに自分を悪く言うなよデラさん、私まで悲しくなってくる」

ホワイトは震えながらもデラとマスターのやり取りを耳にしていた。

声だけ聴く分にはデラがまともな事を言ってるのは解る。

解るのだが、あの外見は怖い。一瞬で記憶に焼き付くくらい怖い。

そりゃあミュータントが感染してない人を見て恨むのも解る。

だが、自分がこれでは大恩あるマスターの顔に泥を塗ってしまう。

ホワイトは深呼吸を3度すると、きりっとした顔でマスターを見た。

「マスター殿」

「えっ?あ、はい」

「・・・信じるぞ」

「え、ええ」

ホワイトは更に一呼吸おいてからデラに向き直る。

そしてゆっくりとした歩みでデラに近づいていく。

一方でデラは困ったような表情を浮かべながら半歩下がった。

マスターは二人の様子を後ろの方からそっと見ていた。

 

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