今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第15話

 

ホワイトが先に口を開いた。

「デラさんと言ったな、先程は大変失礼した。挨拶がまだだったな。私はホワイトという」

デラはゆっくりと頭を下げた。

「ご丁寧にどうも。ここで頼まれた品を作っている職人の一人だ。その、こんな外見ですまない」

ホワイトは首を振った。

「ELIDによるものであることは聞いた。その、少し話をしてもいいだろうか」

「あぁ。ワシは後ろを向いているよ。その方が幾分気持ち悪く無いだろう」

「いや、その必要はない。こちらを向いていてくれ」

「いきなり無理をすることはない。加古ちゃんだって話しかけてくれたのは半年後だった」

「・・あの加古が?」

「あぁ。MPの嬢ちゃんは出会い頭に32発撃ってきた」

「銃で撃たれたのか!?」

「全弾キレイに当たったよ。人間だったらハチの巣だ」

 

マスターはホワイトの横顔を見て頷くと、そっとMRAPへと歩いて行った。

 

 

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「マスター、大丈夫かな?」

走行するMRAPの助手席で、ずっと無言だった加古が心配そうに声をかけた。

「あぁ。ホワイトさんは対応出来ると思う」

「無理してないかなあ」

「そこは解らないが、司令官型アンドロイドと言ってたからな」

「どういうこと?」

「戦場では、常に想定外があるだろ?」

「うん。想定通りに行かない方が普通だよ」

「予想外の事態で強いプレッシャーに晒されても、冷静に判断を下さなきゃいけない」

「・・そうだね。司令官が取り乱したら部下は死ぬ」

「その司令官に特化したアンドロイドなら、自分をコントロールする能力は高いと思う」

「なるほどね」

「あとは、デラさんが気を使ってるってこともある」

「・・うん」

「加古も怖がらないでやってくれ。彼は本当に良い人なんだよ」

「・・ホワイトさんが慣れたら、手伝ってもらおうかな」

「そうするといい。鉄屑屋に着いたら起こしてやる」

加古はようやくいつもの仮眠の姿勢になった。

「うん。出来るだけ高く買ってもらわないとねぇ」

「欲張りすぎて拒否されないようにな」

「解ってる。口出ししないよ」

 

 

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店ではホワイトがデラの腕に視線を移していた。

「ミュータントになると皮膚構造が変わるのか?」

「詳細は解らないが、鋼鉄並みに硬くなり力が増す。固定されたM10ボルト位は手で簡単に回せる」

「ふむ。痛覚は?」

「あまりないな。だからうっかり手を溶接しとったことがある」

「熱も感じないのか」

「あぁ。だから昼夜問わず外に出ていてもなんともない」

「私達でさえ夜中の冷え方は行動に支障が出るほどなのだが」

「アンドロイドは大気圏外でも平気だと聞いたが?」

「そうだ。だが大気圏外では大気中の水分が刺さってくることは無いからな」

「ダイアモンドブレードか。氷の結晶が剃刀の雨ように降ってくるからな」

「あれはダイアモンドブレードというのか。先日行軍中にそれに見舞われて散々な目にあった」

「先日というと5日前頃か?あの夜はここらでも氷点下60度を記録したからな」

「さすがに明け方まで物陰に避難した。頑張って避けたが服の裾がズタボロになってしまった」

「どこを歩いておったんだ」

「マスターが眠っていたという市街地だ。放射能汚染が強い地域、だったか?」

「あそこか。旧副都心の辺りならマイナス80度近かったろう」

「うむ。外気温センサーはマイナス85度を記録した」

「それじゃ軍用燃料すら凍りそうじゃな。よく越せたの」

「宇宙空間では絶対零度もザラだからな。待機するだけなら不都合はない」

「おぬしの燃料は核融合じゃったか」

「そうだ。詳しいな」

「時間だけはたっぷりあったんでな。古代資料を戯れに読んでいただけだ」

「資料があるのか?」

「長い事集めているが、断片的でまとまったものはない。紙ですら風化する歳月がたっているからな」

「そうか。デラ殿はその、ELIDパンデミックの時からずっと生きているのか?」

「そうなる。生きてられたのはELIDのおかげでもあるんだ」

「?」

「わしは元々、あのMRAPに積まれてた兵器を作っていた会社に勤めていた」

「あれは・・私を襲撃してきたんだ」

「すまないのう。あれも元々は人の戦争を肩代わりする自律兵器だったんだが」

「そうだったのか」

「ELIDパンデミックよりずっと前に、わしはELIDに罹ってしまった」

「・・」

「治療という名目で隔離施設に放り込まれたんだが、あっという間にこの姿だ」

「・・」

「やがてELIDが蔓延しだした頃、会社がテロリストに襲われてな・・テロリストはわかるか?」

「大丈夫だ」

「テロリストに抵抗する為に社員が会社のAIを無理矢理起動したせいで兵器達が暴走してしまってな」

「・・」

「テロリストどころかその場に居た人間は全て兵器に殺された」

「・・」

「それだけでは止まらず、AIは勝手に兵器を増産し、その全てが人の形をしてるものを敵とみなしておる」

「・・」

「じゃからアンドロイドにも、戦術人形にも、艦娘にも、改造された人間にも攻撃を仕掛けるんじゃよ」

「デラ殿は何の関わりもないことではないか」

「まぁの。じゃがわしは鉄血工廠で自律兵器の設計をしていたエンジニアだ。責任は感じるよ」

「・・」

「わしはやがて見張る人間が居なくなったので隔離施設から逃げ出したが、その後の方が酷かった」

「何があったのだ?」

「他のミュータントはいきなり襲い掛かってくるし」

「えっ」

「人間の軍隊に会うとミュータントだーと恐怖にひきつった声で叫ばれてRPGが飛んでくるし」

「・・」

「戦術人形や艦娘やアンドロイド、それに鉄血の兵器からは無言のまま発砲される」

「・・」

「誰も居ないところに逃げ、生き延びるために必要な機械を自分で調達するしかなかったよ」

「・・そうか」

「この体は恐ろしく燃費が良くて頑丈じゃが、決して嬉しくはなかったなぁ」

「・・」

 

 

-----

 

 

「へっへーん。ラッキー」

「そんな・・・肉の・・特売日だと・・・うそだろFOLME・・・」

勝ち誇る加古、FOLME食品店の柱に放心状態でぐったりと寄りかかるマスターという構図である。

店員である、間宮と名札を付けた艦娘はマスターを横目に見ながら加古に話しかけた。

「え、ええと、A5和牛ステーキ肉、1ポンドを4枚で良いんですよね?」

「そうだけど・・なんかマズい?」

「んー」

間宮は少し頬を掻きながら、加古に尋ねた。

「失礼ですが、厚切りのお肉は食べ慣れていますか?」

「ううん、1000年ぶり」

「えっ」

「多分それくらい」

間宮はそっとショーケースを指さした。

「それなら、こっちの段のお肉の方がおいしいと思いますよ」

「えっ、だってA5和牛より格段に安くない?」

「むしろA5和牛が高すぎるんですけどね」

「でも高いならA5和牛の方がおいしいんじゃないの?」

「肉は、白い所が脂身で、赤い所が肉なんですけど、A5のお肉というのは」

「・・・真っ白だね」

「ええ。A5肉は肉より脂の方が多く、脂と肉が細かく混じってるんです」

「で?」

「つまり、脂のおかげで十分柔らかい肉も楽しめますが、基本的に脂は溶けるので」

「・・なくなっちゃう?」

「それもありますし、これは肉を食べ慣れた人が脂を楽しむ為の特殊なお肉なんです」

「えー」

「ですからステーキとして誰でも楽しめるという意味では、こっちのサーロインかフィレがおすすめなんです」

「へぇー」

加古はちらりとマスターを見た。

まだ今日のセールのせいでA5ランク牛肉4人分が金貨1枚で買えてしまうショックから立ち直れていない。

加古は間宮を見た。嘘をついてる風ではないし、ちょっとマスターが可哀想になってきた。

ややあって、ため息交じりに加古は間宮に告げた。

「えっと、簡単に焼けて、肉を食べ慣れてない面々にとって一番美味しいと間宮さんが思う肉はどれ?」

「召し上がる方の種族は?」

「私、この人、ミュータント、アンドロイドかな」

「ず、ずいぶんバラエティ豊かですね・・」

「うん」

「・・ではフィレ肉で如何ですか?美味しい焼き方とピッタリのソースもご案内しますよ」

「サーロインより?」

「今日のラインナップで言えばサーロインよりフィレですね」

「じゃあ任せる。お腹いっぱい食べたいんだ」

「普通はお一人200gなんですけど、じゃあ1ポンドで4枚切りますね。付け合わせはどのようなものを?」

「ううん、肉オンリー」

「オンリーですか?少し違うものがある方が口直しになってより美味しくなりますよ?」

「そっか・・何が良いのかな」

「簡単な物なら粉吹芋か、炒めたトウモロコシか玉ねぎ、少し凝ってにんじんのグラッセですかね」

「炒めるだけなら簡単だね。じゃあトウモロコシと玉ねぎを買うよ」

「粉吹芋も簡単ですよ。作り方をお教えします」

「じゃあジャガイモも」

「・・・では、肉以外の材料はこのメモ、作り方はこのメモをどうぞ」

「ええと、全部で金貨1枚で足りる?」

「十分お釣りが来ますよ」

加古はにっこり笑った。

「じゃあお願いします!」

 

 

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