今日も地球の片隅で。 作:銀匙
ホワイトは自分とマスターの出会いを説明した後、デラに尋ねた。
「ところで、マスター殿は初めてデラ殿とあった時、どのような反応をしたのだ?」
「おはようって、言われたよ」
「おは・・よう?」
「あぁ。わしの顔を見ながら普通にな。わしは信じられなくてポカンとしてしまったよ」
「・・」
「そしたらマスターは困った顔をしてな、もし邪魔ならすぐに去るよと言ったんだ」
「・・」
「わしは必死になってどうして固まったか説明したよ。しどろもどろで下手糞な説明をな」
「・・」
「マスターはじっと聞いてくれた。そしてわしをこの店に誘ってくれた」
「そうか」
「良く冷えたコップ1杯の水を渡された時には泣いてしまってなあ」
「あぁ、わかる」
「解るか」
「私も、マスターに話を聞いてもらって、優しくしてもらって、涙が溢れそうになったからな」
「わしが居ても良い、そう言ってもらえた気がしたよ」
「うむ。まさにそれだ」
「それから今まで、加古ちゃんは怖がるんで、わしからは30日おきにしか訪ねないようにしている」
「なぜ30日なのだ?」
「人間の頃の癖なんだが、月に1度、というペースがあってな」
「月というのは、西暦の1ヶ月の事か?」
「その通りだ。忘れ果てるほどではないが、ちょっと距離を開けるのに良いペースだ」
「色々気を使っているのだな」
「マスターに迷惑をかけてはいかんし、折角仲良くしてくれた友人を失いたくない」
「良く解る」
「そうか」
「先程は本当に失礼した。申し訳ない」
「いや、初対面でこんなに話してくれたのはマスター以外にはホワイトさんしかおらんよ」
「・・」
「さて、わしは帰るとするよ」
「マスター達が帰ってきてないが?」
「折角加古ちゃんが待ち望んでいたステーキだ、わしを見ながら食べることもあるまい」
「マスターが悲しむぞ。せめて加古に聞いてからではどうだ?」
デラはホワイトを見つめた。
「わしが見えたら飯がまずくなるだろう・・・」
「それを加古に聞けばいい。思い込みは誤った判断をする元凶だ」
「・・・それはそうじゃがの」
ホワイトは表に顔を向けた。
「ほら、二人のMRAPが帰ってきた」
デラは少し怯えたような表情で、ホワイトと同じ方角を見つめた。
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「ぃいっただっきまあああっすっ!!!」
「加古、声が大きすぎる。どんだけ期待してるんだ」
「間宮さんレシピ通りだよ!1秒も狂ってないよ!絶対美味しいに決まってる!」
「解った解った・・さぁホワイトさん、デラさんもどうぞ」
「う、うむ。ご馳走になる」
「あぁ、頂きます」
そう。
MRAPを降りてきた加古に、デラは恐る恐る同席の可否をたずねたが、加古はキョトンとして
「へ?だってデラさんの分買ってきたよ?」
と、普通に受け入れたのである。
デラは努めて普通の振る舞いで、ステーキにナイフを入れていた。
だが、ホワイトを含む皆は、デラが肩を小さく震わせていることも、鼻を啜っているのも解っていた。
解っていたが、誰もその事には触れなかった。
「美味し~いぃぃぃぃい!!」
「まぁ・・・美味しいけど、この贅沢に加古が慣れるのが怖いなぁ」
加古を見て眉を顰めるマスターに、ホワイトがとりなした。
「まぁまぁマスター殿、ひとまず今夜は楽しませてあげればよかろう」
「そうは仰いますがねホワイトさん、加古は味をしめるのが早いんですよ・・」
加古が満面の笑みでマスターを見た。
「こんなおいしいステーキが食べられるならまた頑張って狙撃しちゃうよ!」
マスターは肉を刺したフォークを口に咥えたまま加古を見た。
確かに、あの面倒な狙撃手順をこなせるのは加古だけだろう。
まだいくつか取ってもらわねばならないし、仕方ないか。
「じゃああの部品があと10個まともに取れたら、また肉を焼こう」
「ほんと!うわーい!」
無邪気に喜ぶ加古を見た後、ホワイトとデラは顔を見合わせた。
「ええと、今のオーダー」
「うむ、その、かなり過酷なオーダーじゃの」
「やはり気のせいではなかったのだな」
「マスターは、なんというか、優秀な経営者じゃからな」
「主に支出抑制の意味で、だな?」
「うむ」
二人は苦笑してから、再び肉にナイフを入れていった。
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「今夜は、こんなものですね」
MP40は掌中の錆びたボルト数本を、軽く宙に放り投げてはキャッチしていた。
興味なさげに見回した周囲には、壊れて火花を散らせる鉄血人形や燃え盛る多脚戦車が山のように転がっていた。
「たかだか大隊1つで力押しとは舐められたものです。さて」
「ヒッ」
MP40がゆらりと、唯一意識の残る、指揮を執っていた鉄血製ハイエンド機であるエクスキューショナーへと向き直った。
意識はあるが、既に全ての兵装は失われ、関節を幾つも壊され、戦意はとうの昔に喪失していた。
「あぁ、話す必要は何もありませんよ?」
「・・エッ?」
ヒュッ
「・・ガァァアァアァ!」
エクスキューショナーは自らの右胸に深々と刺さる錆びたボルトを、強烈なエラーデータと共に認識した。
配線同士が短絡し、何度も火花が散る。
「通信アンテナが壊れました。もう貴方は鉄血の一員ではありません」
エクスキューショナーは震え始めた。どうしてここに通信アンテナがあると知ってる?
しかも今まさに全周波数、全チャネルを使って救援要請を送ろうとしていたのに。
「ア・・アアア・・」
「通信が失われると鉄血の工場では別個体を生成し始める、あなただとPW06Gの工場ですね」
「ナ・・ナゼソレヲ」
「どうですか?生きたままKIAになった気持ちは」
「ヤメ・・ヤメテ・・クレ・・」
「あなたはそう言われて止めてきたのですか?」
ヒュッ
「グギイイイイ!」
「右足の全機能がロストしましたよ。次は左足です」
もう嫌だ。怖い。逃げ出したい。どこでも良い・・助けて・・死にたくない
「ヤメテクレ!ナンデモ!オフラインナラ何デモ本当ノコトヲ話ス!ダカラ・・・ギャアアア!」
「言わなくて良いんですよ。何も」
MP40は微笑んで続けた。
「後でコアを剥ぎ取って、強制アクセスすれば良いだけですから」
「ア・・アアアア・アアアアア」
エクスキューショナーは目を見開いた。恐怖の更に上、絶望という感情を理解したのである。
弾薬は尽き、動く事も出来ず、SOSも求められず、取引すら許されず、じわじわ殺される。
義体の寿命より先に発狂しそうなほどの恐怖が押し寄せる。
こんな戦術人形一匹に・・・なぜ・・
悪夢・・そうだ。これはAIの記憶部がエラーを起こして見せた幻影だ。そうに違いない・・・
あはは、なんだ、早く目覚めてよ・・
「あぁそうだ、言い忘れてましたけど」
「?」
謎の振動が止まらないエクスキューショナーの顔を見ながら、MP40は言った。
「あなたの記憶と感情はまだ工場にはフィードバックされてます。非常通信チャネルは生きてますから」
「エッ・・サッキ・・壊レタッテ」
「あぁ、えっと、作戦通信アンテナは、と、言うのが正解でしたね」
「ソンナ」
じゃあ・・今考えていたことが・・工場に・・全部・・えっ待って
「次の貴方の個体は、今の記憶まで引き継いで生まれますよ。良かったですね」
うそだ・・こんな記憶を持ったら・・起動直後にAIが恐怖で狂ってしまう。
まさかこいつ・・・最初からそれを狙っ・・・
「査問会はさぞ疑ってるでしょうね。それなりのポジションにいた貴方が何を喋ったのかって」
「ア・・アア・・」
待って・・・違う・・誰か聞いて・・・・これは
「では、謎は謎のままにしておきましょう」
「エッ」
ヒュッ
・・・ピー
ガクリと首を垂らし、エラー音を吐いて停止したエクスキューショナーに近づいて行くMP40。
その体に無造作に手を突き刺し、コアを引き抜いたその顔は、全くの無表情だった。
「ついでにネットワークウイルスも送りつけておきましょう。工場で一花咲かせてください」
無理矢理命令を次々に送り込まれたコアはありったけの情報を吐き出すと、次第に火花を散らし始める。
「・・それっ」
MP40が空中に勢い良く投げると、ややあってからコアは木端微塵に爆散した。