今日も地球の片隅で。 作:銀匙
「おや、先日潰したあのハイエンドの記憶とそれほど差が無かったですね・・がっかりです」
入手した情報を整理したMP40はやれやれとばかりに首を振った。
「それにしても困りました。積み荷はほぼ売り終えてましたけど・・」
MP40は黒焦げになった自分のバギーをチラリと見て、深々と溜息をついた。
「折角お気に入りだったのに・・あっ!しまった!」
MP40はバギーに駆け寄りかけたが、すぐにがくりと肩を落とした。
「マスター様のお写真が・・ようやく撮れた1枚が・・・くうううう」
MP40はギリギリと歯を食いしばりながらしばらく俯いていたが、やがて顔を上げた。
「決めました。私からマスター様のお写真を奪った対価を取りに行きましょう」
その笑顔は、瞳は、マスターに向けたそれとは明らかに異なっていた。
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店でステーキディナー会を開いた翌日。
店番を(無理矢理)ホワイトに押し付けた加古は、マスターをMRAPへとぐいぐい押していった。
「ほらほら、どこに多脚戦車が居るか解んないじゃん!さっさといかないと!」
「だから仕事でジャンクヤードに出かける用事がある時に少しずつだな・・おいおい押すなって」
「行くよマスター!ほらさっさとする!」
マスターは苦笑しつつ小さく手を振るホワイトに、MRAPに押し込まれながら頭を下げた。
「やれやれ」
MRAPの出発を見送ったホワイトは一人店内の椅子に腰かけ、テーブルで頬肘をついた。
こんな姿勢はアンドロイドの自分には必要ないのだが・・・
「設定変更の成果は上々だが、加古やマスターの癖が伝染ってるともいえるな」
ふふっと笑うと、そのまま思考の海に沈む。
司令官型モデルの性なのか、ホワイトは時間があれば物思いに耽るのが好きだった。
バンカーの廃墟で起動してから今日までの事。
特にこの店に入ってからの毎日は出来事に溢れていて実に面白い。
そしてふと、エネルギー残量を確認して驚いた。
「1%も・・減ってない?」
正確には1万分の数%減っているようだが、むしろ計測誤差を疑う数値である。
「ははっ・・私はいつ寿命を迎えるのだろうな」
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「居た居た居たぁー!マスター突撃ぃ!」
「バカ言うな。こっから撃て。1884m、無風」
「ちぇーっ・・ノリ悪いんだからぁ」
ターン・・タターン
「マスター仕留めた、他に居ない?」
そのマスターは真っ青になりながらインカムを握りしめた。
「喜べ加古ぉ、犬っころの群れだ!50匹は居るぞ!」
「無理!ライフル1丁でどうしろっての!?」
犬っころ。
加古やマスター、MP40がダイナゲートを指して呼ぶあだ名である。
1体は子犬並みに小さいが多数で群れを成し、その4本足で動物のように素早く走り、とびかかってくる。
銃やレーダー、自爆用の爆弾など様々なオプションを装備することも出来る。
形や動きが似ているからそう呼ばれているのだが、唯一デラはそのあだ名を聞くと微妙な表情をする。
1ブロック先に躍り出てきたダイナゲートの群れはおよそ50。
1体1体は小さいが群れで襲われると脅威である。
「掴まれ!」
マスターはミッションを後退に叩き込むと底までアクセルを踏みつけた。
MRAPのV10ターボディーゼルエンジンは8つの駆動輪で砂煙を立てながら勢い良く後退していく。
砂煙の中を猛然と突き進んでくるダイナゲートが見え隠れする。
マスターは強引にUターンを行うと、ミッションを前進に入れてアクセルを再び踏み込んだ。
「加古!餌の時間だ。ミックスをくれてやれ!」
「あいよ」
加古は荷台の隅にあった箱を開け、閃光手榴弾と破片手榴弾を同時に投擲していく。
バン!ズン!ズズン!
「いやっほぅ、犬っころが吹っ飛んでいくぜぇ!やっぱミックスに限るっ!」
「油断するな!まだ10匹は追ってきてる!」
「そーらおかわりだぁ!」
ズン!
「残りの犬っころは4匹だ。ライフルで食っちまえ!」
「あいよ」
MRAPが停車した途端、荷室の加古に向かって飛び掛かってくるダイナゲート。
「アホが・・くたばりな」
ターン ターン ターン ターン・・・
「マスター」
「なんだ」
「えっと、まさかそんなことはないと思うんだけどさ」
「ああ」
「手榴弾とかの経費って、その、報酬から差し引かれちゃったり・・する?」
「もちろん」
「ぐ。こ、今回の場合だと?」
「これぐらいの戦闘なら2回で金貨1枚だな」
「ちょっ・・・た、高すぎませんでしょうか?」
「帰るか」
「ごめんなさい解りましたその条件で良いです・・・ううぅ暴利だぁ」
マスターはMRAPの損傷がない事をモニタで確かめると、インカムに話しかけた。
「で、まだ行くのか?」
「えっ行って良いの?」
「今回は損傷なしだからな。何かしら壊れたら撤退。回収中に敵が来たら積込放棄。OK?」
「うぐ・・でもまぁそうだよね」
「頑張れエーススナイパー」
「くっ棒読みだ」
「10個集めるとステーキが待ってるぞー」
「そうだ!そうだった!そうだよね!頑張る!」
マスターは首を振った。いつまでこの手が通じる事か知らんが、せいぜい稼ぐとしよう。
MRAPは再び瓦礫の市街地へと向かって行った。
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それから2週間後。
「あれだな、今後加古ちゃんに特急で仕事を頼みたければステーキ奢ると言えば良いな」
「やめてくれデラさん、加古の舌が肥えちまう」
デラが再び雑貨屋「オリファイ」に来ている理由は1つである。
シェルターの車庫で誇らしげに多脚戦車の胴体の山を前にVサインを出している加古が物語っている。
代わりに店のMRAPが鉄屑と見まごうレベルになっている事が戦況を物語る。
「で、このポンコツMRAPに融合炉を埋め込むのか?穴だらけだぞ?」
「いや、こいつはもうダメだ。新しいのを仕入れるよ」
「別にエンジン不動車で良いぞ。どうせエンジンとミッションは捨てるんだ」
「そうか、その方が安く済むな」
「そんな都合のいい出物があれば、だがな」
「ちなみにデラさん」
「ん?」
「こいつ直すと高いかな?」
「ほぼ外装の総取り換えだぞ?フレームだって怪しいもんだ」
「だよなぁ」
「諦めて次のMRAP探してくるんだな」
「やれやれ、どこで探すかな」
「FOLME総本部の中古市にMRAPくらいあるだろう」
「次回いつだっけ?」
「開催中だ。明後日までだがな」
「うーん、コイツでFOLME総本部まで行けるかなあ」
デラはニッと笑った。
「じゃあワシので行くか?」
「デラさんの飛行機かい?あんなに大きいと思わなかったけどね」
「あれなら1時間でつくぞ」
加古がぐっと拳を握った。
「じゃあこのMRAP下取りしてもらおうよ!」
デラは肩をすくめた。
「まぁ、乗せてやれん事もない。じゃがな、今日が融合炉に変えての初飛行だからな」
「・・・リスクフル?」
「初飛行ってのはそういうものだ」
「まぁ、デラさんの技術力を信じるよ」
「なら積め、積載ゲートを開けてやる」
「加古、MRAPを外に出せ」
「あいよ・・あ、荷室に差し引きしても余る胴体2つ乗せたままだよ?」
「ついでにそいつも売ってくればいい。それほど相場は変わらないだろう」
「解った。経費分と部品取り分は車庫に転がしとくね」
「そうしろ」