今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第18話

「着陸する前に言っておくが、わしは機体から下りないからな?」

操縦桿を握っていたデラがインカムでマスターに告げると、マスターは苦笑した。

「うーん、残念だけどそれが賢明かなぁ」

「わしが外に出た途端、警備役の艦娘に主砲ぶっ放される未来しか見えんからな」

「中に居れば見えないのかい?」

「あぁ。窓はミラーだし、ミュータントレーダーも回避するシステムが入っておる」

「さすがだね。解ったよ」

「世の中にもう少しマスターのような理解者が居てくれたらとは思うがね」

「そうだね」

やがて着陸許可と案内に従い、デラ達を乗せた飛行機は高度を下げていった。

 

「・・うーん」

マスターが1台のMRAPの前で足を止めると、加古はくすっと笑った。

「なんだい?」

振り返ったマスターに加古が頷いた。

「絶対そのMRAPが気になると思った」

「俺の好みはそんなに分かりやすいか?」

「今乗ってるやつだもん。あれに決める時も即決だったし」

「そうか」

 

「いらっしゃい。どうです!お安くしときますよ?」

 

二人の会話を聞きつけたのか、店員らしき男が寄ってきた。

加古がニタリと笑う。

「えー、お安くってどれくらーい?」

屈んでサスペンション等を調べ始めたマスターを見ながら店員は加古に答える。

「それはもう、スパッと決めて頂ければこっちもスパッと値切っちゃいますよー?」

「1/3くらいになる?」

「それは無理」

「ぶっちゃけどれくらい?」

「下取りとかありますか?」

「あるよ、これと同じの。兵装は外してるけどね」

「輸送車としてお使いですか?」

「そういうこと」

「それなら元々兵装の無いあっちの方が良いんじゃないですか?」

店員が指さしたのは民生用のピックアップトラックだったので、加古は首を振った。

「ダメ。不発弾多いんだもん」

「あー、本格的なヘビーユースなんですね」

「そういうこと」

「じゃあ下取り車の査定させてもらっても良いですか?」

マスターはタイヤの陰から顔を出した。

「加古、ほらキーだ。店員さん、すまないがうちのは正直程度が悪い。でもどうにか交渉成立させたい。頼む」

店員は頷いた。

「お客さんは冷やかしじゃないようだし、ちゃんとお話ししましょう」

 

「ということは、買う方のMRAPにも機銃は要らないのですね?」

「あぁ、アシストAIも今までのを使うよ。どうせ設定が面倒だ」

「なるほど、じゃあその辺を下取りに上乗せ出来そうですね」

マスターと店員が事細かな話をしている頃、加古はのんびりとまどろんでいた。

小難しい話はマスターに任せるに限るし、今日肉が買える訳でもない。

表では多種多様な品が並べられ、次々と交換が成立している。

・・そういえば。

「マスター」

「なんだ?」

「胴体どうやって売るの?買取?フリマ?」

店員が怪訝そうな顔をした。

「何の話です?」

「あぁ、MRAPの下取車に鉄血製多脚戦車の胴体を乗せてきたんだ」

「もし部品単位にバラせるならフリマの方が高く売れるみたいですよ」

「でも、虫食いみたいにパーツが売れると残りを買い取ってくれなくなるからなあ」

「そうですね。面倒が無いのは買取ですね」

「どの店が良いとかあるのかな?」

「んー、鉄血製多脚戦車ならトレイルズかなあ。ただ」

「ただ?」

「今日はフリマで客が多いから、外で売るより足元見られるかも」

「じゃあ持って帰るか」

「どうです、新しいMRAPで気持ちよくお帰りになられては?」

マスターは店員を見ながら懐から布袋を取り出した。

「私が首を縦に振れる値段を出してくれるかは、貴方次第ですよ」

「なるほど。んー」

店員はパチパチと電卓を叩いては唸っていたのだが、

「あー、それマスターが最終交渉でもったいぶってる時と同じポーズだ。あははっ」

と、加古が笑ったので、店員は真っ赤になって頭を掻いた。

「いやぁ、お見通しですか」

「あ、いや、うちのがすいません。こういう値段をつける時に迷うのは解ります」

「たはは・・じゃあ勉強させていただきましょう。これで如何?」

マスターは電卓の表示を見て頷いた。

「金貨と鉛のインゴット、どちらが良いですか?」

「鉛は市場レートと一致してるんですが、金貨は市場よりえらく高くなっちゃってますねえ」

加古がニッと笑った。

「良いのおじさん?それなら金で払っちゃうよ?」

「本部の設定だからね、私がどうこう出来ることじゃない」

マスターが訊ねた。

「具体的な換算表を見せて頂けますか?」

「こちらで」

「ふーむ。これ本当です?10倍近くありませんか?」

「確認したんですが、それでいいと。集めたいんですかね?」

「なら後でトラブルになる事もないと。すると差額は・・・」

ひとしきり悩んだマスターは、金貨70枚を机に置いた。

「これで」

店員はすいすいと数を数え、真贋測定器に入れた。

「すいませんが規則でしてね」

「当然でしょう」

全て問題なしの表示を見て軽く頷いた店員は、店の奥に声をかけた。

「おーい、右から3台目の8輪MRAP、改造と納車整備を頼む!」

「はいよ・・あい、いらっしゃいませ。毎度あり」

返事を返して店に出てきた職人は熊のような大男だった。

職人にぺこりと頭を下げつつ、加古はポケットからメモを取り出した。

「マスター、じゃあ他に必要なパーツも買わないと」

「そうだな・・改造にどれくらいかかります?」

「3時間見といてくだせえ」

「解った。じゃあその頃にまた来ます」

「ごゆっくり」

 

 

「マスター」

「なんだ?」

「見つかって良かったね」

「そうだな。割と程度も良さそうだ」

「気に入ってたもんね」

 

マスターと加古の二人は、ゆっくりと中古市の会場内を歩いていた。

FOLME総本部の中で開かれるだけあって、外とは売られている物量が違う。

自分が持つ不要品を持ち込み、下取りや交換等の取引で望みの物を手に入れていく。

もちろんFOLME自らも新鮮な食料や資材、製品等を安値で並べている。

その日の目玉商品があっという間になくなるのはいつの世も変わらない光景である。

 

ふと、マスターは前方に武装した艦娘の集団を認めた。

加古がマスターの後ろから、その肩に自分の顎を乗せた。

「マスター、どったの?」

「多分会長さんの視察じゃないか?」

「んー?」

「ほら、あの集団」

 

周囲を固める艦娘達は別に砲門をこちらに向けているわけではない。

むしろ静かな表情で歩いているが、隙のない仕草が手練れのそれを感じさせる。

 

「やっぱ重要人物なんだろうねえ」

「そりゃそうだ。1代でこんなコンツェルン作ってしまったんだから」

「いやいや、私は助けてもらってばかりで、むしろ艦娘達の功績なんですがねえ」

「へぇ、そうなんだ・・・えっ?」

ぎょっとした顔で加古とマスターが横を見れば、いつの間にかそこには中年の男が一人。

真っ白な海軍の第2種軍装をきちんと着こなし、茶目っ気たっぷりの表情で口に人差し指を当てた。

「しーっ。長門にバレちゃいますからね」

「もしかしなくても会長さんですよね」

「まぁ、そういう事にしておきましょう。楽しんで頂けてますか?」

「ええ。おかげでMRAPを1台買う事が出来ました」

「随分大きいお買い物ですね。何を下取りに?」

「くたびれたMRAP1台と金貨で」

「なるほど。他に売り物はないのですか?」

加古が肩をすくめた。

「鉄血製多脚戦車の胴体を持ってきたんだけど、あんまり良い値段がつかないって聞いてね」

「ほう・・・」

会長は顎に手をやった後、そっとインカムをつまんだ。

 

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