今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第19話

「あー、夕張聞いてる?・・鉄血製多脚戦車の胴体って興味ある?・・そうそう」

マスターと加古が首を傾げていると、ふいに背後に強い殺気を感じた。

びくりとして振り返ると、青筋を立てた背の高い艦娘が息を切らしていた。

「この・・バカ提督・・もう逃がさないぞ。大人しく縛につけ!」

二人は青い顔で背後の会長に振り向いたが、会長は小さく肩をすくめただけだった。

「おや、早いじゃないか長門。だがちょっと待ってくれ。こちらのお二人と折衝中なんだ」

会長はインカムを指さし、再び会話に戻っていった。

長門はジト目で会長をにらみつけると、インカムをつまんだ。

「こちら長門、ターゲット確保。第7狙撃中隊は私の周囲を警戒・・まったく」

会長は幾度か頷くと、マスターに話しかけた。

「すいません。売り物なんですが、シリーズ名か型番は解りますか?」

加古がニッと笑った。

「全部Mシリーズ多脚戦車だよ」

「現物はすぐ見られますか?」

マスターが頷いた。

「乗ってきた飛行機の傍に出してあります。お越し頂ければ」

「なるほど。えっと、夕張。Mシリーズ多脚戦車で現物見せてくれるって・・うん」

会長は再びマスターの方を向いた。

「よろしければ、うちの艦娘に見せてやってもらえませんかね?」

「ぜひ」

ずっと待っていた長門は、提督の言葉に眉をひくつかせながら口を開いた。

「解ってるだろうが、提督は戻るんだぞ?良いな?それからお二人にはご迷惑をかけた。すまなかった」

長門がマスター達に頭を下げると、会長は肩をすくめた。

「やれやれ。解ったよ。では私はこれで。日向、すまないが夕張と待ち合わせを頼む」

マスターと加古が会長の視線を追って見た先には、いつのまにか艦娘が一人立っていた。

「あぁ。私が同行する。夕張は現地で追いつくだろう」

加古はひやりとした。この距離まで近づかれたのにまるで気づけなかった。

これが噂のFOLME第1艦隊か。

だが・・

立ち去りながら会長に説教を始めた長門と、謝る姿の会長を見た加古はくすりと笑った。

「会長さんて長門さんの尻に敷かれてるんだねぇ」

「こら、失礼だぞ」

加古を叱るマスターに、日向は首を振りながら答えた。

「事実だから気にしなくて良い。では案内してもらえるか?」

「ええ、こちらです」

 

 

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「レンズユニットの喪失が惜しいわね!けどコア周辺が良い状態ってのはポイント高いわ!」

「この状態で捕獲する苦労解ってくれる?」

「もっちろん!コア撃って停止させるのは簡単だけど、そうするとこの辺吹っ飛ぶもんね」

「そうなのそうなの!そうなんだよぉ」

「レンズも無傷だったら金貨6枚で引き取ったんだけどなあ」

「無理」

「だよねえ・・でもまぁこの辺りじゃサンプル手に入らないし、金貨3枚でどお?」

「レンズ無いだけで半分に減るの!?」

「だってコア撃ち抜いた個体でもこの個体でもレンズだけは手に入らないんですもの」

「とほほ・・・じゃあ2体で6枚ね?」

「あら、2体で3枚じゃないの?」

「潤滑油精製機が要らないならいいよ?」

「げげっ」

多脚戦車の胴体を前に、夕張と加古は延々と交渉を続けていた。

これらの売り上げは食べられる肉の枚数に直結するので加古の目の色が違う。

少し離れた所からマスターと様子を眺めていた日向は、マスターに声をかけた。

「あの加古は、なかなか鍛えているな。仕草で分かる」

「私に付き合ってくれる家族みたいなものですよ」

「そうか。あれだけ感情豊かで高練度の艦娘は今はそういない。どうやって鍛えたのだ?」

「私は何も。出会った時には既に強かったですし、彼女は勝手に訓練してますよ」

「ほう。それにしては加古は貴方に随分懐いているようだが」

「どうでしょう。寝室と食事を提供してるからですかね」

「それだけではないと思うが・・そうだ、指輪は持っているか?」

「指輪とは?」

「艦娘の能力制限を解除する、ケッコンカッコカリという行為に必要な物だ」

「存じませんでした」

「ふむ・・・」

そういうと日向は、自らの懐から小さな箱を1つ取りだし、マスターに差し出した。

「ほらこれだ。ペアで入っている。貴方と加古それぞれ身につければいい」

「えっ?頂いて良いんですか?」

「あぁ。我々の同胞を幸せにしてくれた礼だと思ってくれればいい」

マスターは濃い青色の小さな箱を開けた。中にはリングが2つ。

「どちらがどちらでもいい。サイズは嵌めた指に合わせて調整される」

「便利な物ですね」

「いつか加古と交わしてやってくれ」

「ありがとうございます」

「それと、これは私の連絡先だ。何か困ったことがあれば相談に乗ろう」

「・・例えば、渡し方とかですかね?」

「そうなるな」

マスターは箱と名刺を懐に仕舞うと、日向に深々と頭を下げた。

日向は小さく頷いた。

 

 

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「いやに早かったな。めぼしい物が無かったのか?」

デラは飛行機を始動させながら、格納庫に入ってくるMRAPを見た。

マスターが席のシートベルトを締めながら首を振った。

「程度の良いMRAPもすぐに見つかったし、胴体も売れたよ」

デラは上機嫌で格納庫に入れたMRAPから降りてくる加古を眺めながら言った。

「なんで加古ちゃんは上機嫌なんだ?」

「外で売る3倍の値段をふっかけて成功したんだよ」

「さすがはFOLME総本部の中古市だな」

「ついでに手榴弾も何箱か仕入れておいたよ。だいぶ使ってしまったからね」

「何に使ったんだ?」

「犬っころの駆除」

「ダ、ダイナゲートのことだな?あれには閃光手榴弾と破片手榴弾の同時投擲が一番効くが」

「その2つが安かったから仕入れたんだよ」

「少し分けてくれ。うちも少し持っておきたい」

「良いよ。3箱ずつ買ったし」

「ところで、新しいMRAPは・・・もしかして同じ車種か?」

「同じ車の方が扱いやすいからな」

「まぁそれはそうだが、どうせ出力は変わるぞ」

「どうなる?」

「大幅に増える」

「体感的には?」

「設定次第で加減速は暴れ馬にも大人しくも出来るが、トルクは何倍も太くなる」

「おっほう。砂丘位登れそうだな」

「調子こいて転がるなよ」

「解ってる。デラさんの作業時間は?」

「大まかに言って3日だが、出来れば泊まり込みにして欲しい」

「もちろんだ。客間を準備するさ。食事も一緒に食べてくれ」

「ありがとう。じゃ、帰るぞ」

デラは加古がシートベルトを締めたのを確認すると、管制室に離陸許可を申請した。

 

 

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ガラン・・・ゴン・・・

 

炎で溶けたトタンが根元から千切れ、音を立てて地面に落ちた。

MP40は燃え盛る、かつて工場だった建物群の中をゆっくりと歩いていた。

「ウイルスはそれなりに良い仕事をしたようですね」

いまだ動く機械には道端で拾った釘やボルトを容赦なく投げつけ、停止させていく。

それはまるで、子供が水きりのために石を投げるような牧歌的なモーションだった。

鼻歌交じりで歩いていたMP40は、ふいに足を止めた。

 

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