今日も地球の片隅で。 作:銀匙
・・・ザッ
自分の正面に現れ、殺意に満ちたその姿を見て、MP40は目を細めた。
「どちら様ですか?」
「貴様ガ・・・アイツヲ狂ワセタ悪魔カッ!」
「何の事です?」
「トボケルナ!アイツガロールアウト直後カラ暴走シタオカゲデ、工場ハコノ様ダ!」
「・・」
ハンターと呼ばれる鉄血製ハイエンド機体は、歯を剥き出しにし、わなわなと拳を震わせていた。
「アイツノ思考ヤ記憶ハ壊レテ再起不能ダ。友人ヲ、コノ手デ撃ツ気持チガオ前ニ分カルノカ!」
「・・」
「6218年分ノ記憶ト経験ガ水ノ泡ニナッタノダ!」
「たった?」
「・・・ナニ?」
「失われた経験は、たったの6千年ちょい、それも1体分だけですか?大したことないですね」
ハンターは兵装を一気に展開し、それは低い声で唸った。
「殺ス・・・代償ヲ払ッテモラウ・・」
「それはこちらの台詞です」
「ナニ?」
「私から写真を奪ったんですよ、お前達は」
ハンターは訝しげな顔をした。
「写真?何ノ?」
MP40はくすっと笑った。
「お前達に教えるつもりもありません。それから通信はもう無駄です」
「ジャミングデモシタトイウノカ?命乞イノ交渉カ!」
「してませんよ。通信出来てるでしょ?でも無意味って事です」
「?」
「ネットワークで群れて行動することしか能のない鉄血なんて怖くありません」
「IOP人形ノ中デモ低級ノオ前ガ、私ニ勝テルト思ウナ!」
ピシ・・
「グガ!」
「じゃあ早速やってみましょう。ほらほら、私は真正面に居ますよ?さぁ戦いましょう?」
ピシ・・ピシピシピシ・・
銃すら構えず、MP40はつまらなさそうに指で古釘や鉄筋を次々と弾いていく。
しかし、それはことごとくハンターの体に、致命的な部位へと突き刺さっていく。
「グゲ!ギャウ!ハ!ヒギィ!」
「恐怖の感情を送り込まれることに、どこまで貴方のリソースは許容出来るんでしょうね?」
あっという間に兵装の制御を失い、背後の壁に磔にされていく自分の義体。
次々刺さってくる金属塊とショートした電流が飛ばす火花が、まるで自分の叫び声のように聞こえる。
いや、自分は・・叫んでるのか?
解らない・・どうして・・準備万端で・・こいつの前に・・出たはず・・・
こいつ・・データと余りにも違ウ・・コワイ・・誰カ・・ダレカ・・タスケ・・・・・
ドズズン!
弾薬に引火し、ハンターの義体もろとも爆散したのを見たMP40は舌を打った。
「あんまり恐怖の情報を再生工場のリソースに送り込めなかったですね。コアも爆散してしまいましたし・・・」
燃え盛る炎に建物の壁まで瓦解し始めたので、MP40は踵を返した。
「ハイエンド専用の生産工場3ヶ所程度の壊滅では全く釣り合わないですが・・また今度ですね」
MP40が敷地の守衛所に到着するのと合わせるように、すべての建物が崩れ落ちた。
火の勢いは留まるところを知らず、そこだけ夕日のような景色だった。
MP40は守衛所の脇で急停止した装甲車に側面から回り込むと、運転席のドアをこじ開けた。
慌てて銃を構えようとした自律人形の体に腕を突っ込み、強引にコアを引き抜く。
火花を散らせる自律人形を引きずり出し、代わりに装甲車の運転席に滑り込んだMP40は計器を見た。
「良いですね。燃料満タン、弾薬満載。これでマスター様の元に帰れます」
MP40はアクセスコネクタを手で握ると、鉄血側ネットワークにウイルスを送り込み始めた。
同時に自らが乗る装甲車の位置情報を攪乱させる情報を仕込んでいく。
「こんなものでしょう。では出発」
MP40の操作により、装甲車はディーゼルエンジンの出力を駆動輪へと伝え始めた。
鉛色の空からは、いつしか雪が降り始めていた。
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「おやマスター、いらっしゃいませ。ご無沙汰してますね。何かお探しで?」
「まず、そういうものがあるかどうかから知りたいんだ、相談に乗ってくれないかな」
「もちろんですとも。おかけください」
デラが改造してくれた融合炉を動力源とするMRAPの試験走行だと言って、マスターは一人で店を出た。
辿り着いた先はアクセサリ専門の職人の工房である。
マスターを迎えた職人は、笑顔でマスターを接客室へと案内した。
「ふむ、戦術人形と、ですか」
「艦娘向けにはこんなものを手に入れたんだけどね」
「失礼・・あぁこれはFOLMEの正規品ですな。相当高かったでしょう?」
「まぁちょっとした伝手でね。で、さっきの話題なんだけど」
「これと同じような、という意味では誓約の指輪というのがありますよ」
「やっぱり高いのかい?」
「それほどでもないですよ。今も普通に製造されてますし」
「金貨で言うと?」
「5枚・・・いやいや冗談ですよ。そんな絶望したような顔をなさらないでください」
「本当は?」
職人はくすくす笑った。
「マスターは良い表情されますなあ」
「からかうのはよしてくれ。この分野じゃ君を一番信用してるんだから」
職人はふうと息をつくと答えた。
「実は金貨5枚が本当に正規の値段ではあるんです。大陸からの舶来物ですからね」
「えっ」
「ですがマスターにはお世話になっている。今回だけ2枚でお分けしましょう」
マスターはかりかりと頬を掻いた。
「どうして私が金貨2枚なら頷くと知ってるのか教えてくれないか?」
「長いお付き合いですからね。なんとなく、です」
「そういう能力が欲しいよ・・はい2枚」
「確かに。同じようなケースに入れましょう」
「これと色を変えてくれないか。間違えてはいけない」
「では白色で。どうぞ」
「ありがとう」
職人から受け取った箱をポケットに入れたマスターは、すっかり軽くなった布袋をさすりつつ溜息をついた。
「また稼がないと年が越せないよ」
「毎度ありがとうございました」
職人は丁寧な物腰で、ゆっくりと頭を下げた。
マスターは職人にぺこりと頭を下げるとMRAPへと小走りに向かう。
あと数ヶ所は寄らねばならない。