今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第21話

マスターが一人で出かけた日から数日後。

 

「ねぇマスター」

「なんだ?」

「洗いざらい吐いちゃいなよ。隠し事してるでしょ?」

「なんのことやら。ほら、皿とってくれ」

「むーっ!」

 

マスターは受け取った皿に刻んだ野菜を乗せながら思った。

いつも眠たそうにしているか寝ている加古が、ここのところ毎日規則正しく起きてくる。

そしてずっと先程のやり取りが続いている。

私はいつも通り店の前を箒で掃き、店を開け、客が来れば応じ、帳簿を付ける。

ほらいつも通りだ。何もおかしなことはない。

部屋の秘密の引き出しに入ってる箱の事やMRAPに置いてあるアレは知られてない。

同時に渡す事は決めてるし、日向さんに聞いて準備はばっちりだ。

だが何かの拍子にバレてしまう恐れはある。

誤魔化せるのもあと数日だろう。

早く来てくれMP40。

 

加古は調理をするマスターをじとりとした目で見つめていた。

マスターは絶対何か隠し事をしている。

ここ数日、とにかく落ち着きが無い。

そしてあたしが寝てたり違う所を見てるとマスターの強い視線を感じる。

なのにあたしが見るとあからさまに目を逸らす。その繰り返しだ。

あれで普段通りを装ってるなら大根役者も良い所だ。

昨日ホワイトさんと話したけど、ホワイトさんもマスターの様子がおかしいことに気づいてた。

マスターが出かけた時に家中探したけど変な物は見つからなかった。

なんだろう。

なんか次にあのダメ人形が来た時にロクでもない事が起こりそうな予感がする。

こうして毎日起きて最大級の警戒を続けるのもそろそろしんどい。

早く来やがれダメ人形。

 

 

-----

 

 

ぶるるっ。

「今、物凄い悪寒がしたんですが・・なんでしょうか」

MP40は給油と仕入れを済ませた時、周囲を見ながら身を震わせた。

気のせいだろうか。

 

装甲車に乗り込んだMP40は気持ちを切り替えた。

仕入れた直後、一番豊富で物資が新鮮な時にマスター様の元に向かう。

それはMP40にとって息をするように自然な決定事項だった。

自分が手に入れられる一番良い物は、全てマスター様が望むままに捧げたい。

対価なんて本当は要らないが、支払いをマスター様が望まれるから受け取る。

マスター様の決断は私にとって唯一かつ絶対だから、口を差し挟むなどありえない。

「さて、急ぎましょう。少しでも新鮮なうちにお水を届けないと」

満タンに燃料を蓄えた装甲車は、マスターの店に向かって発車した。

 

「・・・・」

装甲車が通り過ぎた後、街角で会話していた2人組の片割れが通信を始める。

残る一人は小さくなっていく装甲車をずっと見つめていた。

花売りの少女はその二人組にちらりと視線を向け、そのまま歩いて行った。

 

 

-----

 

 

「!」

向き合って昼食を取っていたマスターと加古だったが、ふいに加古が鋭く顔を上げた。

マスターはその仕草を見て内心深く深呼吸をした。ついに来たか。

ガタッ。

加古がゆらりと立ち上がったので、マスターは努めて普段通りに話しかけた。

「食事中だぞ加古、どうした」

「・・マスター」

「なんだ?」

「1つだけ答えて」

「何を?」

「あたしを・・見捨てない?」

「は?それは私の台詞じゃないか」

「え、なんで?」

「だってお前は一人でも戦えるだろうが、私は1体の機械生命体にさえ勝てないんだぞ?」

「・・・」

「なんだ?どうしてそんなげんなりした顔をする?」

加古は肩を落としながら深々と溜息をついた。そうじゃない。

「・・あのさぁ、MP40に何か尋常じゃない用事があるのは解ってるんだよ?」

「は!?いいいいいやそんんあことととはないじょ?」

「バグった言語システムみたいだよ?」

「ぐ」

「あたしに言いたいけど言えない、そんなそぶりも解ってるよ」

「そう・・か・・」

加古は立ったまま俯いた。

「もし、もしさ、マスターが私と・・さよならして・・MP40と旅に出たいならさ」

「は?」

加古の頬を1筋の光るものが流れた。

「ずっと、こんな楽しい生活をくれたマスターには恩があるからさ」

「・・」

「だから笑顔で行ってきなよって言うべきなんだろうけどさ」

「・・」

「あっ・・あたし・・マスターが思うほど強くないよ」

「・・」

「マスターが居なくなった後の1日を想像しただけで・・眠れない」

「・・」

「かっ、悲しくて、寂しくて、一人ぼっちで、寒くて、何の意味もない時間なんだよぅ」

「・・加古」

「マスタぁ、私、笑顔で送り出せる良い子になれないよぅ・・行っちゃ嫌だよぉマスタぁ」

そこまで言い切った加古は棒立ちのまま泣き出した。

がたり。

「・・・ふえ」

マスターはそっと加古を抱きしめた。

「違うよ、加古。大丈夫だよ。加古を置いていくつもりなんて微塵もないよ」

「・・ほんとぅ?」

「あぁ」

「・・ほんとぅのほんとぅ?」

「約束だ。変な心配をかけてすまなかった」

「・・・ううん、いい。それならマスターを信じる」

「二人に、同時に言わないといけない事なんだよ」

加古が青い顔をしてマスターから離れる。

「えっまさか」

「なんだ?」

「ホワイトさんと結婚するの?」

「どうしてそうなるんだよ」

「だってもうホワイトさんすっかり馴染んでるし」

 

そう。

 

二人が食事を取ってる間、店先ではホワイトが規則正しく店先を箒で掃いていた。

アンドロイドは元々超長期に耐えるエネルギーを内包しており、基本的に食事を取る必要はないのである。

エプロン姿があまりにも店に馴染み過ぎて、もはや店主の風格さえ備わってきている。

 

そんなホワイトを窓越しに見ながら、加古はつぶやいた。

「ホワイトさんスタイル良いし、大人だし、かっこいいし、交渉上手だし、お客さんからも評判いいし」

「まぁ完璧だよな」

加古が涙目でマスターをにらむ。

「嘘でも否定しようよそこはさぁ!」

「すまん、つい経営者としての本音が」

「やっぱりマスターはああいう人が良いんだ・・」

マスターはちょいちょいと加古を手招きした。

「?」

怪訝な顔で近寄った加古に、マスターは囁いた。

「たしかに性格良いし、スタイルも良いよ。でもだからこそダメなんだよ」

「なんで?」

「ええとな、彼女達アンドロイドの標準体重を覚えてるか?」

「へ?」

「ホワイトさんは細い方だけど、多分150kgはあるんだよ」

「あぁそっか、ソファのオーダーの時に一人200kgで計算してほしいって話あったね」

「まぁ中身はぎっしり詰まった金属パーツだから仕方無いんだけどさ」

「えっそうなの?MP40とかと一緒かと思ってた」

「MP40の場合は人工筋肉で駆動してるけど、アンドロイドは純粋な機械だからね」

「でもおっぱい柔らかかったよ?」

「なっ何で知ってるんだ?」

加古は一気にジト目になった。

「・・・鼻の下伸びたよ?」

「まぁいい。でな」

「誤魔化した」

「その・・・な」

端切れが悪くなったマスターを首を傾げて見る加古。

「夫婦の営みをするとするだろ?」

ボンと音がするくらい、加古の顔が一瞬で真っ赤になった。

「なっ・・・」

「その時、150kgに乗っかられたら、もたん」

加古は顔を真っ赤にしたまま想像した。

「自分の・・・腰の上にって・・・言いたい?」

「かいつまんで言えばそういうことだ」

加古はマスターをひとしきり睨んだ後、深い溜息をついた。

「どーしてそんなとこを判断ポイントにするかなあ。ホワイトさんに嫌われるよ?」

「あのな。あそこまで美人で器量良しな奥さん迎えて、そういう事がそういう理由で出来ないんだぞ?」

「はぁ」

「あまりにも蛇の生殺しで気が狂う。絶対」

「マスターのって蛇並なの?」

「どんな蛇を想像してる?」

「こう・・こんなかんじ?」

「そっ、その手つきはちょっとロコツだからやめろ」

「ばっ!?ちっ違うから!そっちじゃなくて蛇の胴体の太さの説明だから!」

「そこまで細くないけどな」

「えっ何か言った?」

「言ってない。ともかくホワイトさんとどうこうの話じゃないから」

「ふうん」

 

MP40はシェルターの入り口から中を窺い、入るタイミングに迷っていた。

店の奥の窓際で、マスターと加古が桃色な会話をしている。

唇の動きで解る。二人とも顔真っ赤だし。

あ、ま、マスターのって、あれより太いんだ・・へぇ・・って違う違う違う。

それと多分・・・表に居る人がホワイトさんなんですね。

掃くフリしながら徐々に二人ににじり寄ってますし、思い切り聞き耳立ててますから・・

 

MP40がまずはホワイトに声をかけようかと思ったその時。

「!!!!!!!」

MP40は恐ろしい気配を察知し、一瞬振り向いた後、大声で怒鳴りながらホワイトに飛びかかった。

「加古ぉぉ!マスター様を守れぇ!上だぁ!」

 

即応した加古がマスターの上に覆いかぶさったその瞬間。

店の外を守るシェルターに迫撃弾の1発目から8発目が同時に着弾した。

 

 

-----

 

 

「アッハッハ!アーッハッハッハッハ!ザマーミロー!」

 

デストロイヤーと呼ばれる鉄血製ハイエンド機は、火の海に沈むシェルターを指差して笑っていた。

ハイエンド機専用生産工場を3つも壊滅させられた鉄血陣営はプライドより実を取った。

同盟組織である「赤のN2」に協力を仰ぎ、あの憎たらしいMP40の情報を入手した。

そこで定期的に買い付ける卸の店、さらには雑貨屋「オリファイ」の者と親しい事を知った。

目には目を、歯には歯を。

我らが同胞を殺されたのだから親しい者を目の前で殺してやる。

作戦は決定され、執行役に選ばれたデストロイヤーは満面の笑みで引き受けた。

デストロイヤーは思った。

MP40は想像以上に馬鹿な奴だった。

こうして網にも簡単に引っかかったし、迫撃弾の飛翔に気づいてから着弾点に飛び込んで何が出来るのだ。

面白過ぎて、あんなちっぽけなシェルターに24発も撃ちこんでしまったじゃないか。

もうMP40の義体なぞ欠片も残ってないだろうし、これ以上発射しては査問会に招集されてしまう。

そもそも弾を節約しろなんてのがケチ臭い命令だが、命令違反で営倉行きなんてごめんだ。

 

「鉄血ニ喧嘩ヲ売ルトコウナルノダ。ガラクタメ」

 

デストロイヤーは上機嫌で装甲車に戻ると、そのまま走り去っていった。

 

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