今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第22話

「やー、久しぶりに死ぬかと思った」

「・・・」

「加古、ありがとう。おかげで生きてるよ」

「・・・マスター」

「ん?」

「お店、なくなっちゃったね」

「そうだが、まぁ皆は居るからな。しかし、粉々だなあ・・」

 

そう。

迫撃弾24発は中の店ごとシェルターを粉砕した。

だが、MP40と加古は天井が瓦解する前にホワイトとマスターを抱えて脱出したのである。

MP40が店に飛び込む前に迫撃砲の発射地点と敵陣を把握していたからこそである。

だが、そのMP40は小さくなってうつむいていた。

 

「・・マスター様」

「どうした、MP40」

「私、マスター様にご迷惑をかけてしまいました」

「なんで?今まさに助けてくれたと思ってるけど?」

「多分、迫撃砲を撃ってきたのは鉄血の連中です」

「・・理由に、思い当たることがあるの?」

「はい。きっかけは私の契約先を襲った鉄血の残党を返り討ちにしたことですが」

「うん」

「その後しつこく私に報復しようとしてきた鉄血の弱っちい大隊を返り討ちにして」

「うん・・うん?」

「その時私の大切な物を壊されたので、鉄血の工場をたった3つ潰すだけで我慢したのですが」

「それ釣り合ってるの?」

「あの鉄クズども・・私に歯向かうならまだしも・・よりにもよってマスター様に・・」

「あー」

怒りでふるふる震えるMP40を見て、マスターは頬を掻いた。

 

鉄血と言えば機械生命体のテロ組織「赤のN2」と繋がりが噂される戦術人形の暴力集団だ。

腕っぷしで売ってる組織が自拠点を3つもいいようにされたらメンツ丸潰れだ。

まぁ相手は怒り心頭だろう。

 

MP40はマスターを見上げた。

「申し訳ありませんマスター様。私は・・もう・・ここに来ないようにします」

「なんで?」

「私が来たらまた襲われます。私が狙われるのはともかく、マスター様を危険にさらすのは・・」

「だから?」

「だから、だから私が来なければ・・」

「もう家が知られたんだから君が来ても来なくても、いやむしろ居ない時を狙ってくると思うよ?」

「!」

「もう、しょうがないんじゃない?」

「どういう・・意味でしょうか?わ、私の身で償えるのなら、どうぞ、これで撃ってください」

震える手でMP40サブマシンガンをマスターに差し出すMP40。

だが、マスターはからからと笑った。

「MP40」

「は、はい」

「その命、預かるよ」

「はい。もともと私の全てはマスター様のものです」

「解った。それなら今後もこれまで通り、うちに来るといい。銃は返すよ」

「ふえっ?」

「それでな・・あー、ええとなあ・・どこ行ったかなあ・・この辺が階段だろ・・」

マスターはそう言いながら、かつて雑貨屋「オリファイ」の店だった瓦礫の山に分け入っていく。

MP40と加古が、遅れてホワイトが踏み入った。

 

 

-----

 

 

「やぁ、あったあった。皆ありがとう。諦めずに探してみるもんだ」

MP40と加古が支える瓦礫の下に潜り込んだマスターは、10分ほどで小さな木箱を持って出てきた。

「これさえ見つかれば、他は後回しだ。よし、ホワイトさん」

「あぁ。それはなんだ?」

「すぐに解ります。ええと、ホワイトさんには手伝いと、後、証人になって欲しいんですが」

「証人か?構わない」

「ありがとうございます」

マスターはMP40と加古に背を向け、ホワイトと箱の中身を何やらごそごそしていた。

ホワイトは興味深そうに箱の中身を見ていたが、やがて閉じられた木箱を受け取り、小脇に抱えた。

「うおっほん!ええと、加古!」

「え?あたし?」

「うん。こっち来てくれる?」

「はぁい?」

首を傾げながら近づいてきた加古に、マスターは微笑んだ。

「今日も含めて、今までずっと、一緒に生きてくれてありがとう、加古」

「・・」

「これからも一緒に居たいと思う。だからその約束として、これを受け取ってくれないか?」

「えっ?」

加古はマスターの顔からマスターの差し出す腕に、そしてその手が持つ指輪の小箱に気が付いた。

「・・・・」

加古はしばらくぽかんとしていたが、ふいにマスターを見上げた。

「ねぇ・・これほんと?」

「ほんと」

「意味わかってる?ケッコンカッコカリだよ?しかもFOLME製の本物じゃん」

「解ってる」

「こんなのもらったら、あたしリミット効かなくなるよ?嘘だと言っても絶対離さないよ?」

「でなきゃ約束にならないでしょ」

「ぐすっ・・よりにもよって・・なんでこんな瓦礫の中で言うのさぁ」

「店だったこの場所で渡す方が俺達らしいだろ?」

「そうだけどさあ」

「ほら、受け取ってくれるなら指に嵌めるからさ」

「うん・・もらう・・ありがと」

すすり泣く加古の左手を取ると、マスターはそっと薬指に指輪を嵌めた。

金属の外観にもかかわらず、加古の指のサイズに合わせて一瞬で小さくなった。

「ほら、私にも嵌めてくれ、これを」

「うん・・・ずっと一緒だよ、マスター」

「ああ」

 

MP40はマスターの指にも指輪が嵌ったのを見て、そっと拍手を送った。

こうなる運命だった。加古は友達だし、厄種しか持ち込まない私よりふさわしい。

でも、これから辛いなあ・・

ふいに、マスターと目が合ったMP40はびくりとした。

マスターがニコニコしながら口を開く。

 

「お待たせしたね、MP40」

「えっ?」

「こっちへ来てくれる?」

「は?あっはい・・」

複雑な表情でうつむきがちのMP40を前に、マスターは真顔になる。

「君は随分と自分を過小評価するけど、私は君と知り合えて良かったと今も思っている」

「・・」

「加古とも私とも、皆とも仲良くしてくれたし」

「・・」

「今日も初対面だったホワイトさんを守ってくれたじゃないか」

MP40は恐る恐るマスターの顔を見た。

「私はMP40を預かる。その明確な証として、これを受け取ってくれないか?」

「・・・え?」

MP40がマスターの手元に目を移すと、指輪が1つ。

MP40はがくがくと震えながら目を見開いた。誓約の指輪に間違いない。

これは・・私達戦術人形にとっては贈答者との入籍、つまり正真正銘結婚するって意味なんですが・・

「ま、マスター様は誓約の指輪の意味をご存知なんですか?」

「結婚指輪だよね?」

「そっ、その通り・・です」

「解ってるよ」

「わっ!?わわわ私が来たせいでこんなことになっちゃったんですよ?」

「そうかい?」

「えっ?」

「君がシェルターを壊したわけじゃないよ?」

「そ、それはそうですけど」

「じゃあ君のせいじゃないよ」

「でもっ」

「ただし」

「?」

「私達の思い出の詰まった店と、大事な商品を壊した者達には、ふさわしい末路を与えよう」

「!」

「そのためにも、君には私と絶対に約束してもらいたいことがある」

「はい。どんなことであろうとお約束します」

「じゃあ必ず私の所に帰ってきて。自ら散る選択は許さないよ?」

「!」

「さっきも言ったように、君は私のものだ」

「はい」

「だから私が帰ってきなさいと言ったら是が非でも帰ってきなさい。いいね?」

「・・・畏まりました。全てマスター様の仰る通りにします」

「じゃあ約束だ。この指輪を嵌めるよ」

「はい」

微かに震えるMP40の手を取ったマスターは、ゆっくりと左手薬指に指輪を嵌めた。

制約の指輪は一瞬鈍く輝いたあと、MP40の薬指にぴたりと収まった。

 

パチ、パチ、パチ。

 

MP40が音の方を見ると、加古とホワイトが笑いながら手を叩いていた。

「これで一生喧嘩出来るねえ」

ニっと笑ってそう語りかけてきた加古を見返し、MP40は腕でぐいと涙をぬぐった。

「・・そうですね。ええ、もちろんです」

 

その時、1機の飛行機が低空を通り過ぎ、ゆっくりと戻ってきた。

 

 

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