今日も地球の片隅で。 作:銀匙
店の跡地の傍に着陸した機体から、ぞろぞろと見慣れた面々が顔を出した。
「おーい、マスターは無事かぁ?」
「うわひでぇなこりゃ」
「やっぱりコンロと食料持ってきて正解じゃない」
「それよりも今晩から寝る所どうすんだよこれ」
一行の姿を見たマスターが目を見開いた。
「あれれ?皆さんどうして?」
「あれれじゃないわよ、爆撃の音がうちまで届いたのよ」
「マスターん家が襲われたって聞いたしよぉ、通信はつながらねぇしよ」
「だからデラさんに飛行機出してもらって文字通り飛んできたんだよ」
そう。
デラを始めとして、降りてきたのは職人の立場でマスターと付き合いのある面々である。
ミュータント、妖精、機械生命体、アンドロイドと様々である。
ホワイトはその一団の中に居た女性型アンドロイドに駆け寄った。
「すっ、すまない!君はアンドロイドだな?」
「え?はい、そうですよ」
「わ、私はホワイトという。私もアンドロイドなのだが、その、この世界につい最近来たのだ」
「私はリーリャって言います。よろしく。でも・・ホワイトさん誰かに似てる・・」
アンドロイドは小首を傾げた後、ポンと手を叩いた。
「もしかして、ジャッカス師匠と近い世代の義体です?西暦12000年頃ですけど」
ホワイトは目を見開いた。
「ジャッカスだと?アネモネ配下のジャッカス情報分析担当官の事か?」
「あ!そうですそうです!私、最終戦争で重傷を負った所をジャッカス師匠に直して頂いたんです」
「では、ジャッカスも健在なのか!?できれば会いたいのだが!」
リーリャは寂しげな眼になると、小さく首を振った。
「いいえ。ジャッカス師匠は停戦前にエネルギー寿命が来たのですが、更新しないと仰って・・」
「えっ」
「機械生命体の存在理由になど加担したくない、だから私は更新しない、と」
ホワイトは俯いた。
「存在理由・・か。そうか。まぁ、彼女があのリポートを作ったのだからな」
リーリャはホワイトの手を握った。
「ホワイトさんはその言葉の意味が解るんですか?」
「あぁ・・知っている」
「教えてください!私、何度訊ねても教えて頂けなかったんです!」
ホワイトは濃い戸惑いの色を瞳に見せた。
「・・ジャッカスの気持ちも解る。あれは・・とても辛い真実だ」
「でも!私知りたいんです!ずっとそう思ってきたんです!」
「・・・少し、時間をもらえないか?」
「わ、わかりました」
リーリャ達の横ではデラがマスターに声をかけていた。
「マスター、皆のケガの程度は?必要ならすぐ医療機関に搬送してやるぞ?」
「いや、皆大丈夫だよデラさん。ただまぁ、焼け出されてしまったね」
「見事に基礎から作り直しだな」
「だね。しかし困ったよ」
「資金か?住まいか?いくらでも手を貸すぞ」
「その前に、襲った連中の具体的な情報がないんだよ」
「気持ちはわかるが、そこの辺はわしらではなあ・・」
ふと、マスターは服のポケットに入ってるものに気が付いた。
取り出したのは、日向がくれた名刺だった。
「こういうことも相談していいのかなあ・・デラさん、通信機貸してくれる?」
「ほれ」
デラが投げた通信機を受け取ったマスターは、日向に向けて発信した。
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「・・むしろ、よく無事だったなという状況だな」
マスターの連絡を受け、事情を聴いた日向が一言目に発した言葉である。
「私達を襲った相手の情報を知りたいのですが、解らなくて」
「ふむ、そういうことならその方面に詳しい者を送ろう」
「いらっしゃるんですか?」
「あぁ。少し内部手続きがあるので、すまないが店の地点で待っていてくれるか?」
「解りました」
「ところで、そんな有様だと指輪は無くなってしまったな。代わりを用意するか?」
「いえ、無事発掘出来たので先程渡しました」
「そうか・・まぁ、そんなタイミングだが、だからこそ渡した方が良いのかもしれないな」
「ええ」
「復興は我々も手を貸そう。気をしっかり持つようにな」
「ありがとうございます」
通信を終えた日向は、ぽんと肩に手を置いた艦娘を見上げた。
「これで、良いのだな?」
「ええ、あとはお任せ~」
「本当は我々が直接介入したいところだが・・」
「FOLMEの名前が表に出ると色々面倒だから、我慢してね~」
「解っている。後は頼む」
「は~い」
スーツケースを手に歩き始めた艦娘に、日向は声を投げた。
「この件、提督には?」
「今の状況ならお耳に入れるレベルじゃないと思うけどなぁ」
「解った。私の所で留めておく。ただし直接火の粉が降りかかりそうな場合は打ち明ける」
「それで良いわ。お願いね~」
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複雑な表情で通信機を返してきたマスターに、デラは首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「FOLMEから情報提供してもらえそうです」
「そうか」
「・・これから、とんでもないことになるかもしれません」
「すでになっとるよ」
「いや、店は惨憺たる有様なんですが、別の意味での予感です」
「解っとるよ。そもそも、わしらも思う所はあるんじゃぞ?」
マスターはデラに頭を下げた。
「そうでした。売り物のサンプルをお預かりしていた身として、台無しにしてしまって申し訳ありません」
「違う」
「?」
マスターが顔を上げると、珍しくムスッとした表情のデラが居た。
「わしらの大事なマスターの居るこの店を、こんなにしてくれた礼はさせてもらう」
職人達が頷いた。
「その通りだよデラさん!よく言った!」
「そうよそうよ!どれだけ心配したと思ってるの!」
「わしらの思い出の詰まった店を台無しにしおってからに!いてこましたるわ!」
「よーし、あたしとっておきの兵器出しちゃうよ!」
「リーリャちゃんがアレ出すならうちも出しちゃおっかなぁ」
「それなら俺っちも便乗するぜ!どこの馬の骨か知らねぇが盛大な花火あげてやろうぜ!」
「どっちかっていうとキノコ雲じゃないの?」
「稲妻付きのな!あっはっは」
マスターの隣に加古が寄ってささやいた。
「確かにとんでもないことになってきたね・・」
「大手を振って悪戯できるチャンス到来、だからなぁ」
「妖精さんこういうの大好きだからねえ」
「まぁ、店もサンプルも1つ1つ丁寧に作られてたからね、怒るのも無理はない」
「皆の怒りの理由はそっちじゃないと思うけどなあ」
「?」
一方。
MP40の傍にはホワイトが近寄っていた。
「ゴタゴタで挨拶がまだだったな。私はホワイトという。先程の貴君の勇気ある行動に御礼申し上げたい」
「あっ、えっ、い、いえ。私はMP40といいます」
「よろしく」
「・・はい」
MP40ときゅっと握手を交わしたホワイトは、にこやかな笑みを浮かべた。
「それと、結婚おめでとう」
「まだ全然信じられません。でも、私はあの時からずっとマスター様をお慕いしてきたので・・」
「それは、聞いても良い事か?」
「はい。マスター様にも申し上げていますし」
MP40はデラ達と話すマスターを見ながら続けた。
「私は以前、民間軍事会社の所有する戦術人形でした」
「・・」
「訓練や実戦は良かったのですが、日に日に酷くなる辱めに耐えきれなくなってしまって」
ホワイトの眉がピクリと動く。
「保護対象の人間に、撤退行動中に凌辱されそうになったとき」
「は?」
「つい、その手を払いのけてしまったんです」
ホワイトは苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、状況を理解したようだった。
「・・処分されたんだな?」
「はい。敵陣営に被検体として、同じような事をした同僚達と共に鉄血に売られました」
「売られただと?」
「売ってKIA扱いにすることを日常的に行い、不正な蓄財を重ねていたようです」
ホワイトは歯を食いしばった。
「腐れ外道が・・っ」
MP40は目を細めた。
「鉄血が多勢で取り囲む市街地の廃墟の中で、こっちは少数で武器もろくにありません」
「・・」
「あっという間に弾が尽きて、その時の私はこのMP40しか使う事を許されない規制がかかってて」
「・・」
「でもどうしても、ここで倒れたくないって泣いて」
「・・そうだな」
「かなり強引に、自分で規制を解除したんです」
「ほう」
「今でもどうやったか覚えてないんですけど、それで廃墟の中を逃げ回って」
「うむ」
「落ちてたボルトや鉄筋、古釘を投げて反撃して」
「よくそれで勝負になったな」
「今でも役に立ってますよ?」
「あぁ、話の腰を折ってすまなかった。それで?」
「何日か飲まず食わずで戦ってたら、いつのまにか何の反応も無くなってて」
「・・」
「どっちへ行ったら良いのかも分からず、ただまっすぐに砂漠を歩いていたんです」
「ほう」
「そしたら、砂漠のど真ん中で、遥か遠くから輸送車が来るのが見えて」
「・・」
「エネルギーがほぼ枯渇していた私は、そこで砂に足を取られて倒れてしまいました」
「・・」
「やがて輸送車が近くで止まって、足音が聞こえて」
「・・」
「マスター様が私の顔にかかった砂を払いながら、呼びかけてくれたんです」
「・・」
「でも私はシャットダウン寸前で返事も出来なくて、マスター様は行ってしまって」
「えっ」
「死んだと思われたんだと諦めたんですけど、すぐに水と携行食を持ってきてくれて」
「・・」
「私を抱えて、顔を拭いてくれて、お水を飲ませてくれて、携行食を食べさせてくれて」
「・・」
「輸送車に乗せてくれて、このお店に連れてきてくれました」
「・・」
「私は2日くらいスリープモードに入ってしまったそうです」
「それだけ過負荷をすればな。後遺症はなかったのか?」
「使用兵装の制約が切れたままという事くらいですかね」
「そんなことは放っておけばいい。それで?」
「起きてすぐにマスター様に謝りに行ったんです。ご迷惑をかけてすみませんと」
「・・」
「でもマスター様は仰ったんです。私も幾度も助けられた身だからお互い様だよって」
「・・」
「私は存在すら消された身なのに、マスター様は当たり前のように助けてくださった」
「籍を置いていたこともか?」
「はい。後日、所属していた会社にアクセスしたら在籍していた記録すら残ってませんでした」
「・・常習犯だな」
「恐らくは。でも良いんです。私はマスター様にこの地球の片隅に居て良いと認めて頂いた」
「・・」
「だからご迷惑にならないように自分で働いて、マスター様の必要なお水をお持ちしてるんです」
「・・砂漠の中での水は人類にとって欠かすことが出来ないからな」
「はい。ほんのささやかな事ですが、マスター様の命をお支えする覚悟で臨んでいます」
ホワイトは頷いた。
「MP40、ならば私達は同志と呼べるはずだ」
「同志?」
「私も砂漠の真ん中で、鉄血の多脚戦車に襲われていた所をマスター達に救われた」
「・・」
「私は数千年前に終結した戦争の、当時の司令官型アンドロイドの予備個体でな」
「・・」
「何かの弾みで目覚めたのだが、その時点ですでに私の役割などどこにも無かった」
「・・」
「それでも、マスター殿はその説明を聞いてもなお、ここに居させてくれる」
「・・」
「地球の片隅に居ても良いと認められた者同士、仲良くしてくれないか?」
MP40はきょとんとしていたが、やがてくすっと笑った。
「はい。でもマスター様を独占してはダメですからね?」
「ほう、では独占しなければ良いのだな?」
「私は仕事で離れることも多いですし」
「あぁ、そういえばその仕事なのだが」
「はい」
「マスターが命じたのか?」
「いいえ。でも私は沢山お金をためて、いつかマスター様が必要な時に支援したいのです」
「支援?」
「はい。今回もシェルターやお店の再建に少なからず対価が必要だと思います。そういう時に差し上げたいと」
「そうか。そのように自分で決めたのだな?」
「はい」
「解った。だが、もう少し立ち寄ると良いかもしれないぞ」
「ダメです」
「な、なぜだ?」
「これ以上マスター様といると、24時間365日抱き着いてしまいそうなんです」
「極端だな」
「私にとってマスター様は、唯一であり絶対であり全てなんです」
「ふむ・・深く深く、愛しているのだな」
「でも、こんな愛し方は重すぎるという自覚はあるんです」
「止められないから自ら離れる、か。いじらしいな」
「自分を上手に操れたらいいんですけどね」
ホワイトは苦笑した。
「大切な相手であるほど、無理だろうな」
「ホワイトさんでもですか?」
「あぁ。正直今はだいぶ落ち込んでいる。何故か解るか?」
「・・・あっ」
ホワイトは頷いた。
「アンドロイドと人類の間には、MP40にとっての誓約の指輪のような存在自体がないんだ」
「そうなんですか」
「もしマスターとそういう契りを結べる日が来たら、その時は証人になってくれないか?」
「私で良ければ喜んで」
「では頼む。同志よ」
二人は先程よりもさらに固い握手を交わした。