今日も地球の片隅で。 作:銀匙
「ごめんくださ~い。オリファイ雑貨店さんはこちらで良いのかしらぁ?」
日が暮れてきたため、皆でデラの飛行機に退避しようと瓦礫から使える荷を積み込んでいた時。
いつの間にかひょっこりと現れた艦娘を一目見た加古は目が釘付けになった。
マスターはそんな加古の姿を見て、加古の耳元でささやいた。
「どうした?大丈夫か?」
「あ、あんな化け物見たことないよ」
「化け物?」
「あの艦娘、た、タダモノじゃない。あたし、足がすくんで動けないよ」
「そうか、それじゃあ」
ちゅっ。
「いっ、いきなりこんなとこで何チューしてくれてんのマスター!?」
マスターはいたずらっ子のような目をして答えた。
「愛する女房にキスをして何が悪い」
「にょっ!?」
「それにほら、動けるだろ?」
「あ・・うん」
「じゃ、行くぞ」
加古は頬を染めたままマスターについて行った。
これをショック療法とするか、記念すべきファーストキスとしてカウントするか悩みながら。
「お待たせしました。私がオリファイのマスターです」
「FOLMEの龍田だよ~。日向さんから状況は聞きました。散々でしたね~」
「ええ。それでその、調べる方法はありそうですか?」
「調べる方法といいますか~」
龍田は手にしていたアタッシェケースを軽く持ち上げ、もう片方の手で指折り数えていく。
「今回の攻撃作戦の決定者と実働部隊長に関する顔写真含めた詳細情報に~」
「白地図に決定者が管理する勢力圏と、各拠点と、各兵力を記した物でしょ~」
「各部隊が今後2週間で何をするかの予定表もいれてあるよ~」
「拠点の資材補給タイミングと巡回ルート、襲撃に適した地点もマーキングしたし~」
「念の為、隣接区域の管理者と各拠点の広域地図も用意したよ~、こんなので良かった~?」
マスターは恐る恐る訊ねた。
「え、ええと、管理者の詳細情報・・というのは?」
「性格、仕事での判断傾向、お気に入りの部下、スリーサイズ、趣味、下着の色、後はね~」
「あ、もう充分です」
マスターは心の底から、この龍田という艦娘が味方で良かったと思った。
手際が良すぎる。そしてこの瞳はあまりにも多くの事を見てきた色だ。
加古が怯えるのも無理はない。
その時。
飛行機から降りてきたデラは、龍田に気づかずマスターに声をかけた。
「おおい、そろそろ外は寒いだろう。機内に暖房を入れた。入ったらどうだ?」
声に何気なく振り向いた龍田がデラを三度見したので、マスターは素早く声をかけた。
「彼は味方です。絶対に撃たないでください」
龍田はデラを数十秒、固まったように見つめていたが、ふた呼吸するとマスターに振り向いた。
「マスターさぁん?」
「はい」
「交友関係がちょっと広すぎないかなぁ~?」
「はぁ・・そうですね」
「・・詳細は中で説明しますね~」
龍田はもう一度深い溜息をついてから、飛行機に向かって歩き始めた。
やがてデラの隣で立ち止まった龍田は、デラの目を見ながら言った。
「大人しいミュータントは四方八方敵だらけと聞きましたけど~?」
「その通りだよ」
「本当に戦う意思が無いミュータントさんは珍しいわぁ。私もさすがに経験が無いかなあ」
「珍しいだろうよ。皆殺されたからな」
「お仲間さんに、ですか?」
「あぁ。ミュータント、正規軍、アンドロイド、艦娘、戦術人形、機械生命体に、な」
「・・なるほど。それで~、今回の作戦にご協力は頂けますか?」
「もちろん」
龍田は頷くと、飛行機の中に進んでいった。
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「皆揃ったのかしら?はぁい、じゃあ説明始めるね~」
デラの航空機の貨物室で、作業台に広げられた書類を指さしながら龍田は説明していく。
その口ぶりは要領よく説明する事に慣れた者のそれであり、澱むことなく続いた。
時間にして15分ほど経った時、龍田は全員を見渡した。
「えっと、ここまでで引っかかった事がある人、今のうちに何でも聞いて~」
職人の一人である妖精が手を挙げた。
「はぁい、どうぞ~」
「ってことはだ、管理エリアとやらは簡単に言えば大体この50km四方なんだな?」
「ええ。その薄い青の線よ~」
「この隣はまた別のアホンダラが居るんだな?」
「そういうこと。でも東側は居ないわぁ。南は海だし、奴らは海は支配下に置いてないみたい」
「鉄屑連中は西と北から攻めてきてるって事かい」
「そういうこと~」
「お隣のアホンダラはどこまでが支配エリアなんだ?」
「この破線よ。西も北も50km四方ってとこね~」
「ってことは、そっちも片付ければしばらく手ぇ出してこねえって事か?」
「相当完膚なきまでに叩きのめせればね。中途半端にやると却って大群が来そうよ?」
「歯向かった報復ってか?」
「ご名答~」
「ふ~む」
ふと、龍田は腕を組み、じっと地図を見つめるホワイトに話しかけた。
「何か思う所がおありですか~?」
ホワイトはひょいと龍田に視線を投げ、照れくさそうに首を振った。
「いや、その、司令官モデルとしての性だろうな。どう攻めるかという事をあれこれ考えていたのだ」
龍田はポンと手を打った。
「あらぁ、じゃあ采配を振るってみませんか?」
ホワイトは龍田を、そして周囲を見た。
「しかし、私の戦術は西暦12000年頃のものだ。今ではもう古典だろう」
MP40は首を振った。
「いえ、その停戦以降に新たな大戦はありませんし、高度な戦術資料は歴史に消えました」
「・・そうなのか?」
「はい。鉄血等のテロリストは今も戦闘を行いますが、数の暴力に頼ったローラー作戦です」
「だが・・」
ホワイトから上目遣いで見られた龍田はにこりと微笑んだ。
「それでは一通りホワイトさんが立案してみて、皆さんが納得されたらって事で如何ですか?」
ホワイトは皆をぐるりと見まわした。
「それで、良いか?しゃしゃり出るなと言われても仕方ないと思うのだが?」
妖精の職人がニッと笑った。
「俺ら職人は物作りは好きだが戦略なんぞ知らんしな」
加古が頷いた。
「他の人が立てる戦略って興味あるし、やりたいようにやったら?」
マスターが頷いた。
「とっさの判断や捌き方については店で見ていたし、信じられる手腕だと思うよ」
ホワイトは皆を見回してから咳ばらいを一つすると、キリリとした表情に改めた。
「解った。それでは幾つか知りたいことがあるので聞かせてくれないか?」
皆が頷いたのを見て、ホワイトは職人達を見た。
「まずは、先程の話に出た、今回出しても良いという兵器はどのようなものだろうか?」
ホワイトが話し出したのを見て、龍田はそっと持参した飲み物を口に運んだ。
今回は出来ればFOLMEは目立ちたくないのよね。
情報提供のみなら漏洩したとかハッキングされたとか幾らでも言い訳ができるし・・
追跡をまくために空路一直線ではなく陸路と徒歩を併用して来たから大丈夫でしょ。
大陸由来のパワーバランスは複雑だし、FOLMEの今後もあるし~
とはいえ、私達の関係者や仲間を見殺しにするなんて提督に叱られちゃうからねぇ・・
どこまで手を貸すことになるかしら・・
崩壊液の濃い海域は伊58ちゃん嫌がるし、外海から打てるSLBM1~2発くらいかなぁ。
使用期限が近い核弾頭の廃棄処分兼ねちゃえば実質支出もないし・・
一方、最初にホワイトと視線があったリーリャは顎に手をやりながら言った。
「こういう感じなら広域型の方が良いんでしょうねぇ」
「基本は面制圧型の方が良いだろう。ただし地下にも施設が疑われる個所がある」
「これとか、この辺りとか?」
「あぁ。特に作戦決定者、つまり地域管理者の居る工場は敷地も広く建物の階数が高い」
「化石かもしれないけど、MOABとバンカーバスターならあるわよ?」
「それは良いな。威力半径は?」
「半径ならどちらも2km位・・2.2kmは確実よ」
「投下方法と保有弾数は?」
「IRBMに積んでるわよ。数はどちらも100発ずつ」
「そうか」
ブフッ!
音に驚いた面々の視線を浴びつつ、龍田は激しくむせこんでいた。
MP40が優しく背中を叩きながらティッシュの箱を差し出す。
「大丈夫ですか?これで拭いてください」
「ゲホッ・・ごっ、ごめんなさいねぇ、話の腰折っちゃって」
妖精の職人がニッと笑いながら声をかける。
「ゆっくり飲みな、FOLMEの姉ぇちゃん」
「え、ええ、ありがと~」
龍田は泣き笑いの顔で返事をしつつ、咳き込みながら思った。
待って。
IRBMなんて個人で持つものじゃないし、それに100発ずつってどういうこと?