今日も地球の片隅で。 作:銀匙
「こちら司令部、こちら司令部、小隊長応答せよ」
「あいよっ、どうした司令官?」
応答があったことに内心安堵しながら、ホワイトはマイクを握った。
「状況を報告可能か?」
「あぁ。雑魚は掃討完了、現在は管理者と彼女がサシで戦ってる。他はどうだい?」
「予定通りに完了した。彼女は苦戦してるのか?」
「うーん・・苦戦というより時間がかかる策らしい。離れた場所で見張ってる」
「具体的に何をしているのだ?」
「彼女がひたすら釘を投げて、相手は近接武器で叩き落してる。延々とね」
「・・・そうか」
「タイムリミットになりそうなものがあるのかい?」
「いや、隣接エリアも潰したし、敵側が援軍を寄こす気配は全くない」
「でも夜戦になると面倒、か」
「あぁ」
「解った。じゃあ日没をリミットとして、最悪2発目でケリを付けるよ」
「最後に・・心配してる者たちに何か伝えられることはあるか?」
AK-47はふむと言って一瞬考えたが、
「彼女はやる気に満ちた目をしてるし、ケガ一つしてないよ!以上だ!」
と、答えたのである。
「・・・そう、か」
ホワイトの傍らで、マスターはAK-47の答えを聞いて頷いた。
そして加古の方を向いた。
「なぁ、加古」
「んー?」
「MP40は何をするつもりなのだろう?」
「なんだろうねえ・・」
加古は頬杖をついて天井をにらんでいたが、
「鉄血人形は・・自律人形としては単細胞なAIだからねぇ」
「ハイエンドでもか?」
「ハイエンドでも、だよ。効率最優先で意思決定するからね」
「MP40は勝てるのかな?」
「いざとなったらナイフの一刺しで終えられると思うよ?」
「そういえばそうだ。どうして通じないと解ってる釘投げに拘ってるんだろう?」
「さぁね」
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「本当ニ・・イイ加減ニ、シロ」
アルケミストはまた飛んできた釘を力任せに叩き落した。
単調過ぎて時間の感覚がおかしくなってきた。
一体幾つの釘を叩き落せば無駄だと学ぶんだ、この低級人形は!
アルケミストは歯を剥き出しにしてMP40を睨みつけた。
MP40は再び拾った釘を手にしていた。
常に10本携行するように、拾っては投げ、拾っては投げている。
同じタイミングで同じ場所を狙い、同じように叩き落させている。
無表情なMP40の瞳には、激高し、歯を剥き出しにしたアルケミストが写っていた。
ヒュッ
キン!
「貴様ァ!イイ加減ニシロォ!」
アルケミストの怒声もMP40はどこ吹く風であった。
MP40が見ている物はただ1つ、ただ1か所。
その小さな変化を見続けていた。
アルケミストは近接武器のグリップをギリギリと握りしめる。
もう、限界だ。
「死ネェェエエエエエ!ウオォォォオオオオオ!」
アルケミストの渾身の連続攻撃をかわしながら、MP40は僅かな隙をもとらえて釘を投げ続ける。
「死ネ!死ネ!死ネェェエエ!」
アルケミストの頭の中は殺意一色に染まり、何一つ余裕が無かった。
それは本来、留意すべき幾つかのパラメータの警告を無視し続ける形になった。
「テメェ!死ネ!死ネ!」
普段なら武器を振り払う先にガレキがあれば武器を庇って避けるコースに変えるのに。
「クソォ!死ネ!当タレ!」
全身の駆動を司る人工筋肉のヒートゲージに気を配っているのに。
「フッ!クッ!ヌオオオオオ!」
近接武器の同じ所で釘を弾き続ければ、その部分の刃がどうなるかに気づくのに。
・・・・プシュウウ・・・
「ギ?」
それらが同時に限界を迎えるように攻撃されているなど、普段でも気づきにくいのに。
渾身の力で振りかぶった時、アルケミストの頭の中に表示されたエラーメッセージ。
「腕部および脚部の人工筋肉がオーバーヒートしました。常温回復まで強制停止します」
そして、
・・・・ピシッ!・・・パキン!
今の今まで使っていた近接武器が、真っ二つに折れた。
長釘を弾いていた箇所からのひび割れによって。
「ギ!?ギ!?」
アルケミストは必死に体を動かそうとするが、首から下はピクリとも動かない。
全身から立つ激しい湯気が、冷却までの時間を雄弁に示していた。
「・・・さて、ポンコツになった気分は如何ですか?」
MP40はゆっくりと立ち上がり、服の埃を払いながら語りかけた。
アルケミストは顔を真っ赤にしながら、食いしばった歯の隙間から声を漏らす。
「貴様・・・貴様!コ、コンナ、コレシキ」
「ほら、貴方の大好きな釘ですよ?」
ヒュッ・・ヒュッ・・ヒュッ
「ギヒイィ!グギィィ!ガアアアアア!」
「おやおや、クールダウン中の方が痛みが強いんですか。これは良い情報を得ましたよ」
アルケミストは唐突に襲われた激痛で頭がどうにかなりそうだった。
どうして・・圧倒的に優位だったはず・・どこで・・いつ・・
「ほうらポンコツさん。低級人形がつまらない釘なんかで攻撃してきますよ?」
「ヤメ・・・ヤメ・・ロォ・・・」
「おやおや、止めて欲しいモノが示す態度ではないですねぇ」
ヒュッ・・ヒュッ・・ヒュッ・・
「ガ!グゲ!ギャィィィイ!」
「ほら?何というんです?」
アルケミストの思考は痛みと混乱に塗りつぶされ、抵抗する意思はあっけなく崩壊した。
「ヤ、ヤメテ・・クダサ・・イ・・」
ふいに、興味を失ったかのようにMP40が手に持っていた残りの釘を地面に放り投げた。
「?」
その行為が何を意味するか解らず、アルケミストはただ茫然としていた。
「じゃあ、そうしましょうか」
「ナ・・ニ?」
「止めてくださいと頼まれましたから、止める事にします」
「・・・ハ?」
なんだ?この戦術人形は究極のアホなのか?
理解できない。一体なんだというのだ?
そもそもあの爆発以来、経験しているあらゆる事が訳が分からない。
これは現実なのか?違うのか?
「では私はこれで。あ、最後にお伝えしておきます」
「?」
「ここから見て西側と北側のエリアは管理長もろとも、鉄血側の基地はすべて消しました」
「消シ・・タ?」
「はい。ここを中心として50km圏内に居る鉄血は貴方一人です」
アルケミストはじんわりと事態を理解すると、自分の視界が絶望で黒く塗りつぶされていくように感じた。
「それと、ここの敷地をわざと東半分だけ消したのはどうしてだと思います?」
「・・エ?」
「以上を踏まえて、私にここまで歯向かえた貴方に、今後の身の振り方を考える機会をあげましょう」
「?」
「ここにデジタル無線機があります。数字のキーがついてますよね」
「ア?アア」
「ここに置きますね」
「・・何ノツモリダ」
「これに6桁の認証キーを打ち込めば、今いる西半分の敷地は消し飛ばないでしょう」
「!?」
「満身創痍の貴方が、周囲に誰も味方が居ない状況で選ぶのは死か救いか、どちらなんでしょうね?」
「・・・・」
「あぁ、認証キーは921643です」
「エ!?」
アルケミストはますます混乱した。救われたければ自分で認証キーを探せと言うと思ってたのに。
一体全体どういうことなんだ?
解らない・・・解らない解らない解らない解らない解らない!
私に何をさせたい!?何が目的なんだ!?何が起きるんだ!?
「制限時間は10分くらいですかね。ではスタートです」
「・・マ、待テ」
「さようなら」
「マテ!認証キーヲ打チ込マナカッタラドウナルンダ!答エロ!答エテクレ!」
アルケミストの絶叫を無視するかのように、MP40はゆっくりと立ち去って行った。