今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第29話

 

アルケミストは内部モニターを確認した。

人工筋肉はじわじわ冷えており、唯一壊されなかった左腕の回復には推定で後7分もかかる。

「・・・・」

一人残されたアルケミストはもがくのをやめ、思考に集中することにした。

何かはともかく、先程東半分の敷地を灰燼に帰したアレがくるのはほぼ間違いない。

だが、これだけ満身創痍の状態で生き残るより、再生成に期待すべきではないのか?

改めて内部モニターを確認する。

右腕、下半身、兵装は故障中。

左腕はオーバーヒートの冷却中。

まともに機能しているのは思考部と通信機能、コア制御系のみ。

今更空爆要請をしてもMP40を攻撃出来る保証がない以上は却下されるだろう。

その時、視界の隅に無傷の資源保管エリアに気が付いた。

うぐ・・くそ・・西端にあるから資材類は被害を免れたのか・・・

侵攻にしろ運営にしろ資源は不可欠だ。

下手に空爆を依頼すれば、無傷で大量にある資材をなぜ巻き込んだのかと責任を問われてしまう。

しかし、生き残ったとして、近隣が全滅した以上、救援は絶望的。

現に自分の通信機能は生きているが、近隣のどの拠点にコールしても一切応答が帰ってこない。

アルケミストはごくりとつばを飲みこんだ。

最終手段だが・・・本部に・・本部に救援を要請するか?

現状を一言でいえば判断ミスの連続だ。

増援もしくは空爆要請をどうして行わなかった?

たった数名の地元ゲリラになぜ壊滅させられた?

こんな僻地1つ管理出来ないのか?

相手の気まぐれで満身創痍のまま放置されたことに甘んじたのかね?

そんな査問会の嫌らしい質問に何十時間も延々と晒されることになる。

こんな事を一体どうやって予測出来るのか言ってみろと叫びたいが、そんな言い訳が認められるはずもない。

嫌だ・・あんな・・あんな屈辱にもう1度晒されたくない・・でも・・

 

ピーッ!

 

左腕のオーバーヒートが解除されたことを示すアラームが鳴った。

アルケミストは壊れ行く思考のまま地に伏せた。

「ガハッ!」

そのまま左腕一本でガレキの上を這い始める。

それは生存本能か、それとも思考からの逃避だったのか。

腕1本でただただ重い体を引きずっていく。

10cm、また10cm。

「ンンヌウウウ・・・クアアアアア!」

無線機まで後、30cm。

MP40が去ってから既に9分が過ぎていた。

10分・・いや・・10分ぐらいと言いやがった・・・本当はあとどれくらいなんだ・・

だが、このまま帰っても、壊れて再生成されても、いずれにせよ査問会が・・・

誇り高きハイエンドである私が、どうしてこんな目に・・・

私はどうすればいいんだ!どうやってもどうにもならないのか!?

「クソッ・・クソオオオオオオオッ!」

 

アルケミストの絶叫が、やり場のない怒りが天に届いたのか。

それは遠くから、地を揺るがすかのような響きが始まった。

 

ゴゴゴ・・・ゴゴゴゴゴ・・・ゴォオオオオオオ

 

アルケミストは周囲を見回す。瓦礫が地響きによってパラパラと崩れ始める。

「!」

その時、アルケミストの正面上空に1つの光る点が見えた。

白い尾を引くそれは、遥か彼方の空からまっすぐこちらに向かってくる。

 

「これに6桁の認証キーを打ち込めば、この西半分の敷地は消し飛ばないでしょう」

 

あれが到達すれば、もろとも吹き飛ばされる。

左手が無線機を掴んだが、アルケミストは光の点から目を離せなかった。

想像をはるかに上回るスピードで光の点は迫り、白い尾が太くなってくる。

「ミサ・・イル・・・?」

 

人類の大戦史という資料でしか見たことが無い、ミサイルという兵器。

だが、特徴は全て符合している。

アルケミストの体が震えだす。

自分どころか敷地にある全ての物を破壊しつくす死神だ。確実にここへ向かってくる。

低級人形一匹ごときに、この私が・・・査問会が・・再侵攻計画が・・資材が・・

あらゆる選択肢を並列でシミュレートさせた未来予測結果は全てネガティブと出た。

「モウ・・ドウデモイイ」

一切の表情が消えたアルケミストの頭がガレキに突っ伏した時、MOABが起爆高度に達した。

 

 

-----

 

 

「なぁ、MP40」

「はい、小隊長殿」

「どうして無線機を置いてきたんだい?」

「あれにコードを打ち込めばミサイルを阻止出来ると言ってきたんです」

AK-47は首を傾げた。

「そんなことは無理だよ?」

「はい。無理です」

「じゃあなんで・・」

「面白いじゃないですか。ミサイルを目の前に涙目で無線機をポチポチやってるなんて」

「あー・・」

「仮に死の覚悟を決めたとしても、目の前に手段があると錯覚すれば大いに迷って苦しむでしょうからね」

「なるほど、な」

AK-47は肩をすくめた。

MP40は徹底的にアルケミストの精神を叩き壊すためにすべてを行ったのだ。

どれだけ旦那への攻撃に激怒しているか良く解る。

それにしても鉄血は最大級のドジ踏んだね。

100km四方に展開する部隊を丸ごと消し飛ばされたんだから。

おお怖い怖い。味方で良かったってね。

「ところでMP40」

「はい」

「飲み物売りはまだ続けてるのか?」

「はい。これからも続けたいのですが、バギーも装甲車もなくなってしまって」

「装甲車なら工場正門脇の守衛所に1台あったぜ。どうせ誰も使わないんだし持って帰ったらどうだ?」

「あ、そうですね!良いこと教えてくださいました!ありがとうございます!」

「んでさ、週イチでアタシのとこにウオッカ持ってきてくれよ。5ケースくらい!」

「ごめんなさい。私の懇意にしてる卸さんはアルコールを扱ってくれないんです」

「えー」

MP40はそう答えたが、ふりむきざまに後ろを歩いていたDP-28と目が合った。

DP-28はニコっと笑ったので、MP40は引きつった笑いを返した。

 

「隊長にアルコールを渡さないでね。酒に浸り過ぎると仕事しなくなるから」

 

DP-28から以前そう頼まれた。さらに続けて

 

「でないと貴女の秘密、大切な人にうっかり喋っちゃうかも~」

 

という一言が今なおMP40の不安を煽る種である。

マスター様の横顔を隠し撮りしたことでしょうか?

マスターがお使いになった箸を自分用に再利用してることでしょうか?

あれかな・・いやあれか・・あぁあどれも致命傷・・致命的です!

MP40は頭を抱えた。全部自業自得ではあるのだけど・・・

そんなMP40の肩を、AK-47はポンと叩くと囁いた。

「ところでさ、今回のギャラは?頼みがあるんだけど」

「あれ?依頼時に振り込みましたよ。DP-28さんに言われた口座に」

「えっ・・おま・・先にアタシに相談しろよ・・」

AK-47は恐る恐るDP-28の方を振り返る。

「ボスの取り分からツケのお金は引いておきますからね?」

DP-28はにっこりと笑い、AK-47はがくりとうなだれた。

SVT-38は頷いた。我が財務大臣の意向には誰も逆らえない。

 

 

一方、その頃。

 

「よし、デラさん、小隊のピックアップ地点に向かってくれ」

「解った」

大空でゆっくりと旋回し始めたデラの機体の中で、ホワイトは長い深呼吸をした。

味方の損耗無し、相手の殲滅完了。

それぞれの兵器の威力が事前情報より強かったから、計画の4割程度の消費で済んだ。

途中、幾つかの決断を迫られたが、初陣としては最善の結果に出来たと思う。

「・・・」

ホワイトは一瞬だけ、リーリャの横顔を見た。

あのことを話すべきか、そうでないのか。

「教えてくれジャッカス・・私はお前の弟子にどう対応すべきなんだ?」

ホワイトは小さくつぶやき、小さく首を振った。

 

 

-----

 

 

「ありがとう、ありがとう皆。いくら感謝してもしたりないよ」

その夜。

作戦を共にした面々は、職人達が用意した仮住まいの家へと案内されていた。

天然の洞窟をシェルターとして、内側に数軒の家が立ち並んでいる。

仮住まいの家はそのうちの1つだった。

リーリャがにこりと笑う。

「私の家は2つ向こうのあれだから、何か困ったら来てね」

「ありがとう。しばらく頼らせてもらうよ」

「とりあえず、晩御飯にしましょ」

「そうだな。皆お腹すいてるだろうし」

「近くにFOLMEの支店があるのよ」

「それは良いなあ。じゃあ早速場所を教えてくれるかい?」

「もちろん」

「あ、あたしも行く!」

「ボス~?今日の分のお酒はもう飲んだでしょう?」

「作戦が終わった日くらい勘弁してくれても良いじゃないかよぉ」

「ダメです」

「そんなぁ」

涙目のAK-47を置いて、マスターと加古、そしてMP40がリーリャについていった。

 

買い込んだ品々を持ち帰ると、マスターはBBQパーティの支度を始めた。

「これ、後でどうぞ」

火起こしを手伝ってくれたAK-47に、マスターはウオッカの瓶をそっと手渡した。

AK-47は驚きつつも素早くポケットに入れた。

「どうしてあたしの好きな銘柄が解ったんだい?」

「MP40から聞きました。感謝の印ですから」

「手が足りなかったらいつでも呼びな。地の果てでも助けに行くぜ!」

AK-47は目を潤ませ、両手でがっしりとマスターの手を握りしめた。

少し離れた所でその様子を見ていたDP-28は肩をすくめた。

色々な意味でボスは酒に弱すぎだ。

 

 

宴もたけなわとなった頃、そっとホワイトはリーリャの肩を叩いた。

 

「・・どうしても、聞きたいんだな?気持ちは変わらないか?」

「ええ」

「・・解った。まずこれは、既に数千年前に終わった話だ」

「ええ」

「昔、我々ヨルハ部隊が戦列に加わる前から、アンドロイドと機械生命体は代理戦争をしていた」

「代理?」

「ああ。アンドロイドは人間の代わり、機械生命体はエイリアンの代わりだった」

「・・」

「しかし、形勢は徐々に機械生命体側に傾いていったのだが、奴らはこう考えた」

「?」

「機械生命体はエイリアンの代理だが、仮にアンドロイドを全滅させた場合」

「・・」

「自分達機械生命体の存在意義がなくなって、エイリアンから消されるのではないか、と」

「・・それで?」

「そこで機械生命体は、わざと我々を生き延びさせる作戦を取り始めた。生かさず殺さずのギリギリをな」

「・・」

「つまりアンドロイドは、機械生命体の存在意義を持たせるために飼い殺しにされていると彼女は考えた」

「・・」

「リポートを出すまで、ジャッカスは人類軍の中でも有望株だったが、それを境に変わってしまったのだ」

「なるほど。だから師匠、時々すごく寂しそうな眼をしてたんだね・・」

「そうか・・」

リーリャは肩をすくめると、ホワイトに頷いた。

「ありがと。師匠のこと、また1つ知れた気がする」

「うむ、そう言ってくれたらこちらとしても助かる」

「私が頼んだことだしね。それにしても師匠らしいわぁ」

「確かにな」

「他にも師匠のエピソードとかない?」

「幾つかある。ええとな」

 

ふと、マスターはホワイトとリーリャが楽しそうに話してる様子が目に入った。

マスターは微笑むと、すぐに元の会話に戻っていった。

 

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