今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第30話

 

「・・リポートハ以上デス」

「解ッタ。下ガッテ良シ」

「失礼イタシマス」

 

広い執務室にドアの閉まる音が響いた時、エージェントと呼ばれる鉄血製ハイエンド機体は溜息をついた。

 

この短期間に侵攻制圧専門部隊において、4体分ものAIが失われた。

ハンターとアルケミストは無気力状態に陥ったまま、呼びかけに一切応じなかった。

エクスキューショナーは完全に発狂していた。

スケアクロウは唯一状況を知る中では会話が成立したが、その記憶は随所に酷い混乱が見られた。

見もせずに投げた金属片で狙撃手をカウンタースナイプされたと真顔で言われても苦笑を返すしかないではないか。

ゆえに査問会は得られた結果を破棄し、4機のAIを初期化すると早々に決定した。

それは今までの記憶や学習を一切捨て去る、つまりAIにとっての死刑宣告だが、あれでは仕方ない。

ゼロからの学習プロセスに放り込んだから4体はしばらく使い物にならない。

更に問題なのが支配地域の後退に加え、事故原因が解らない事だ。

アルケミスト、ウロボロス、イントルーダーの管理していた地域は完全に支配権を失った。

ウロボロスとイントルーダーは、拠点で仕事してたらいきなり義体がシャットダウンしたと言う。

遊撃大隊を率いていたデストロイヤーも移動中にいきなり義体がシャットダウンしたと口を揃える始末。

何がどうなっているのか全く分からない。

事件発覚後、強襲偵察部隊を4回も送ったが、当該地域に入った途端に連絡を絶ってしまった。

解析班は強い磁場を放つ隕石が落ちて来たのではないか、そんなとんでもない仮説を立ててきた。

使えない奴らめ。

証拠もないままそんな仮説を理事会に持っていったら私のAIまで初期化されかねない。

エージェントはがくりと肩を落とした。

査問会メンバーはこの異常な事件が私の狂言でないことは口添えしてくれるだろう。

しかし原因が解りませんの一言ではエルダーブレインも、オーナーNも納得してくれるはずがない。

そもそもあの地域は資源もなければ放射能汚染も酷く、一面の砂漠で正直全く価値が無い。

・・・そうか。

エージェントは閃いた。

全てを強い放射能汚染によるAIの暴走事故と結論付けてしまおう。

そうすれば全ての地域を等しく制圧せよという指示を出したエルダーブレインに再考を促す布石になる。

今回の事故で我々の総資産の0.75%が消失した事も説明すれば、オーナーNも味方してくれるはず。

今期の目標が収益改善という事も追い風だ。

そうと決まれば早急に説得材料を揃えねばならない。

エージェントは椅子に座り直すと、システムターミナルにアクセスし始めた。

まったく、デスクワークも楽じゃない。

 

 

-----

 

 

「同じ場所に店を作り直すのか?」

「今は口コミしか情報源が無いからねえ。移動するとお客さんが潰れたと勘違いしそうでさ」

「そりゃそうだがなぁ」

 

総攻撃から1週間が過ぎた頃。

 

マスターは仮住まいを訪ねてきたデラに復活方針を打ち明けていた。

マスターはデラを見ながら続けた。

「確かに、例えばこの仮住まいを買い上げて、ここで営業再開する方が安いんだよ」

「だろうな。この地域は竜巻の被害も少ない」

「周囲に若干だけど山林があるのも理由なんだろうね」

「住人も多く、地下水も汲めるからな」

「・・良い条件なのはその通りなんだよねぇ」

「マスター」

「ん?」

「あの場所に何かこだわりがあるのか?正直放射能汚染も強く、砂漠の只中だ。厳しい土地だぞ?」

「まぁ、今となるとちっぽけな理由なんだけどね」

「うむ」

「私が人間で、旧世界のサラリーマンとして働いてた頃に住んでた場所なんだよ」

「あんな砂漠で?」

「その頃は住宅地だったよ。最寄り駅も近かったし、そこそこ大きな町だった」

「最寄り駅、か。懐かしい単語だな」

「デラさんも人間だった時は電車通勤だったの?」

「当然だ。送迎車なんか寄こされるような立場ではなかったしな」

「・・・同じ地球の筈なのに、ずいぶん変わってしまったね」

「それはそうだ。時にはノスタルジーも大事だが、今の状況への判断を誤らんようにな?」

「・・そうだね」

「ところで、3人とは上手く行っておるのか?」

「3人?」

「MPの嬢ちゃん、加古ちゃん、ホワイトさんで3人じゃろ?」

「あぁ・・MP40と加古が毎日のようにじゃれてるからね、つい2人と考えてしまう」

「ホワイトさんも先日は司令官役で大活躍だったのだから、もう立派な一員じゃろう」

「そういえば、ホワイトさんに今後を聞いてなかったなあ」

「今後?」

「あぁ。砂漠でたまたま巡り合ってご招待したけど、別に働いてもらう理由はないんだよ」

「・・」

「もしどこかに行きたいと言うなら、今までの給金にちょっと足して送り出してあげないとね」

「・・マスター」

「うん?」

「それは本気で言っとるかの?」

「えっ?ちょっと足すのじゃケチ臭いかな?」

デラは深々と溜息をついた。

あれだけホワイトさんが頬を染めてちらちらとマスターを見てるのに気づかんのか?

加古ちゃんいわく、その方面には化石並みに鈍感らしいからのぅ・・

「まぁ、その話は本人が切り出したらで良かろうよ。追い出すような形になりかねん」

「そうか。単なる確認のつもりで聞いてるのを深読みされたら申し訳ないなあ」

「そういう事だ。それと、どうせなら今後のオリファイの事を相談してはどうだ?」

「皆にってことかい?」

「あぁ」

「そうだね・・加古とMP40とは指輪も交わしたしね」

「まぁ、マスターが決めれば反対する者も居らんじゃろうがの」

「解った。今夜にでも話してみるよ」

「そうしろ。あぁ、新しいMRAPは見つかりそうか?」

「店を優先してるからそっちは手つかずだよ」

「そうか。融合炉化の部品は揃えておいてやるから、MRAPを見つけたら声をかけてくれ」

「またステーキ奢るよ」

デラはフフッと笑った。

「工賃をステーキ1枚に設定した覚えはないんだがな」

「良いじゃない。また泊りがけで作業してくれるんでしょ」

「同じ工程だからな」

「じゃあそういう事で」

「そういえば、当座の資金は大丈夫か?」

「まぁシェルターに店、修復機にMRAPを失ったから痛い事は痛いんだけど」

「うむ」

「金庫というか、資金を貯めてた袋は発掘出来たんだ」

「ほう。そいつは良かったな」

「あと、実を言えばシェルターを建て替えたくて貯めてたんだよ」

「不具合があったのか?」

「老朽化。さすがに高耐久型の重コンクリートでも80年経つとね」

「わしらからするとコンクリートの寿命は馬鹿みたいに短いからな」

「そういうこと。どうせMRAPの出し入れとか大変だったし、ついでに広げようかと思ってたんだ」

「あのMRAPならこの庭先でも停めておけるじゃろう?」

「まぁ、ここなら後はMRAP買って看板出せば終わりなんだよなぁ・・」

「そこそこ職人も集まっておるし、そうした客の目にも止まりやすいじゃろう」

「客層は近い、か・・・うーん」

「ま、後はマスターの一家で考えればよい。ではそろそろ失礼するよ」

「寄ってくれてありがとう、デラさん」

「またな」

 

マスターに見送られ、デラは仮住まいを出た。

表に停めた自分の飛行機に乗り込みつつ、デラは一人呟いた。

「あの家はわしの物だから、あれで良ければ対価なぞ要らんのだが・・」

必要だと言われればさっさと渡すつもりだったが、迷ってるうちから話しては重荷になる。

そう考えてデラは切り出さなかったのである。

「ま、どこに住むにせよ、わしは手を貸すぞ、マスター」

この姿になってから初めてこの世に居て良いと言ってくれた友人だからな。

デラは頷いた。

 

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