今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第32話

「お話があります」

食器を洗い終え、キッチンから出てきたホワイトに、MP40が話しかけた。

ホワイトはちらりとMP40を見てから頷いた。

「MP40の部屋が良いか?リビングで良いか?」

「リビングでお願いします。加古も居ますので」

ホワイトは頷いた。そろそろ交渉の頃合いではある。

 

リビングのテーブルに着くと、ホワイトに向かい合う形で加古とMP40が席に着いた。

MP40の様子を見て援軍は期待しない方がよさそうだとホワイトは考え、気を引き締めた。

「それで、話というのは何だ?」

努めて軽い口調を維持しながら、ホワイトは口を開いた。

これからマスターへの役割分担に関する交渉が始まるとホワイトは考えていた。

2人でも多いと言えば多いが、MP40は長い事家を空けるので実質加古一人だった筈。

そこに割り込もうというのだから多少のダメージは覚悟しなければなるまい。戦闘は避けたいが。

 

加古はきゅっと唇を結んで俯いていたが、意を決したように顔を上げた。

「ホワイトさん」

ホワイトは机の下で拳を握った。こういうのは最初が肝心だ。

「あぁ」

「・・・その、ね」

「・・」

「みっ・・耳掃除ってどうやるの?」

ガクッ

ホワイトはつんのめりそうになりながら表情を崩した。え?そっち?

「あ、ええと、先程の奴か?」

「です!」

「・・一応確認だが、艦娘でも耳垢は解るだろう?」

「垢っていうか・・耳に埃とか汚れが詰まるよ」

「それを放っておくと不快ではないか?」

「うん」

「加古はどうしてる?」

「耳の造形イメージをいったん消去して、再構築してるよ。こんなふうに」

二人の目の前で、加古は両耳を一旦「消し」、再び構成した。

呆気にとられる二人を前に、肩口に落ちた砂粒を拾う。

「ほら、こんな感じで汚れだけ落ちるし、綺麗になるよ」

「な、なるほど・・ワイルドな処方だな」

「だってがさごそ言って邪魔っけだし」

ホワイトはごくりと唾を飲み込んだ。

「そ、それでは先程はどうしようとしてたのだ?」

「マスターだって艦娘技術で不老長寿化してるから理屈は一緒でしょ?」

「あ、あぁ」

「だからこれでスパッと」

そう言って加古はサバイバルナイフをホルスターから抜いたのである。

即座にMP40とホワイトの二人から両腕で×の字を示された加古は頬を掻いた。

「そっかー、やっぱ違ったのかー」

「マスター様の耳抉ろうとしてたんですか!?」

「そういうことかなーって思ったんだけど、なんか違う予感がしてさ」

「当たり前です。私も耳掃除知りませんけど全然違うのだけは解ります」

「どうしてさー」

「マスター様は心地よさと癒しの為にホワイトさんに頼もうとしてたんですよ?」

「あー、鼻の下伸びてたもんね」

「耳を削ぎ落される激痛に喜ぶなんてMでもレベル高すぎます」

「えむ?」

「お子様は知らなくていいです」

「むーっ!」

ホワイトは話を戻す為に咳ばらいをした。

「オホン、ええと、話を戻すぞ」

「あっはい」

「耳掃除というのはな、耳の皮膚の上を耳かきという器具を用いて汚れをこそげ取るのだ」

「耳かき?」

「こういうものだ」

ホワイトは耳かきを二人に見せた。

「なんか小さいスプーンみたい」

「ですね」

「あぁ。材質は柔らかい木で出来ているが、それでも耳よりはずっと硬い」

「うん」

「だからそっと、細心の注意を払って汚れだけを掻き出すんだ」

「・・うへー」

「そこでなぜうんざりした顔をする」

「だって苦手分野っぽいんだもん。なんで気持ち良いのかわかんないし」

ホワイトは顎に手をやった後、頷いた。

「ふむ。それなら体験してみてはどうだ?イメージがつかめるかもしれない」

「耳掃除するの?」

「逆だ。されてみるのだ」

 

「・・おじゃましまーす」

ホワイトは応接間のソファに深く腰掛け、横になった加古の頭を膝の上に置いた。

「では始める。頭を動かすなよ?」

「はーい」

 

カリ・・・カリカリ・・・

 

「ほぁ・・おはっ・・おおっ・・おふうっ・・くへぇ・・あぁあん」

MP40がジト目で口を開いた。

「加古、気持ち悪い声を出さないでください」

「いや、だってこれ、あっ・・あっそこそこそこ・・あひぃ」

MP40は完全に緩み切った加古の表情を次々とカメラに収めていた。

もはや蕩けてるといっていい程の間抜け顔は後々交渉に使える。

ホワイトは加古の耳にふっと息を吹きかけると、ポンと肩を叩いた。

「次は反対側を上にしてくれ」

「・・はぁい」

再び加古が喘ぎだしたのを見て、MP40は考えていた。

これをマスター様にしてあげたらとんでもなくポイントが高いかもしれない。

ホワイトさんの総取りにならないだろうか?

 

5分後。

 

「ほら、お終いだ」

「・・・はひぇ」

「加古、マヌケ顔にもほどがありますよ・・加古ー?」

「なるほど・・マスターの・・気持ち・・解った・・・えへへへ」

「もはや単なる屍ですね・・ところでホワイトさん」

MP40が加古から自分へと視線を移してきたので、ホワイトは見返しながら頷いた。

「あぁ」

「・・マスター様を骨抜きにするおつもりですね?」

「マスター殿が快楽や安らぎを得られるなら、私は何でもする」

「独占はNGですよ?」

ホワイトはふっと笑った。

「私は別に耳掃除を独り占めするつもりはないし、二人と交代でも構わない」

「・・」

「だが、私とて二人の間で手をこまねくつもりは毛頭ないということだ」

「・・」

「私は私で、私が出来ることでマスター殿に振り向いてもらう」

「・・それがホワイトさんの戦略なんですね?」

「恋は戦争らしいからな」

「では1つだけ」

「なんだ?」

「争う余り、マスター様に負担を強いないであげてください」

「確かに。そこは配慮しよう・・お互いにな」

MP40は頬を掻いた。

「先にばらしてしまうと、配慮はしてるんですけど、つい緩くなる時はあります」

ホワイトは頷いた。

「そもそも、マスター殿が求めるなら仕方ないしな」

「ええ、それは仕方ないですね」

ホワイトの太ももの上で安らかな呆け顔をした加古をよそに、二人は頷きあった。

 

 

-----

 

 

コン、コン、コン。

「はい、どうぞ」

「・・失礼する」

ベッドで横になって本を読んでいたマスターは、読書灯を消しながら立ち上がった。

「ホワイトさんがこの時間にいらっしゃるのは初めてですね」

「私以外には誰か来たのか?」

「たまに、加古が眠れないと言ってくることがあります」

「添い寝してやるのか?」

「ええ。頭を撫でてあげるとものの数分で寝息を立ててますよ」

ホワイトはその様子を想像した。どう考えても健全そのものだ。

「ところで、今日のご用向きは?」

「なに、食後に話していた耳掃除のことだ」

「そういえば今夜と言いましたね、私」

「その、読みたい本があるなら明日でも構わないが?」

ホワイトがマスターの手にした本を指さしたので、マスターは首を振った。

「寝る前の読書は単なる習慣ですから気にしないでください」

「では、良いか?」

「はい・・といっても、麗しき女性に膝枕で耳掃除されるなんて初めてですけどね」

「ふふ。お気に召すと良いが」

 

 

-----

 

 

「・・両方終わったぞ、マスター殿」

「・・・」

「・・寝てしまったか。そうだろうな」

ホワイトは耳かきを仕舞いながらくすっと笑った。

マスターは耳を掻かれるたびに、ふっと息を吹きかけるたびに全身をピクピクさせていた。

声を上げたりせず、最後まで大人の理性を保とうとしていた。

ホワイトは膝の上に乗る、マスターの頭を優しく撫でつつ、マスターの体に布団をかけた。

「いつか、貴方の事を旦那様と呼べる日が来るのだろうか」

ホワイトは膝の上で眠るマスターの頭をそっと撫で続けていた。

 

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