今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第34話

 

「マスターは人望が厚いのだな」

「たまたま良い人に巡り会えてるだけだと思いますよ」

「ふふ。私の傍にも同じような事を言うお方が居るが、そういえば似てるかもしれないな」

「?」

 

望月達が艦娘用の修復機を設置しに来た翌日、マスター達の仮住まいをFOLMEの艦娘が訪ねてきた。

日向、高雄、夕張、そして白雪である。

マスターはすぐに応接間に通し、ここに住んでいる経緯を説明。

それに対する返事が、先程のやり取りという訳である。

日向は小首を傾げるマスターに軽く手を振った。

 

「ところで、それは前置きなのだ。早速だが今日の要件に入って良いか?」

「ええ、どうぞ。どういったご用件でしょう?」

「先日の対鉄血戦は見事な物だったと、龍田から耳にした」

「はい」

日向は同席しているホワイトに目を向けた。

「特にホワイト殿が、複数個所の戦火を同時並列的に確認しながら次々と指示を飛ばす手腕に驚いたそうだ」

ホワイトは首を振った。

「私は一応司令官として機能するよう作られたアンドロイドだが、今から思えば初陣とはいえ不手際も多かった」

加古が肩をすくめた。

「あれで不手際が多いってんなら、あたしの元司令官なんてポンコツだよ」

マスターも頷いた。

「職人の皆さんも指示が明確で解りやすかったと仰っていたじゃないですか」

ホワイトは少し頬を染めて俯いたので、日向は続けた。

「それと、今話に出た職人の方々が供出した兵装についても、大変興味を持った、とな」

マスターは苦笑した。

「龍田さんは今にもラショルフさんに掴みかからんばかりの勢いでしたけどね」

「ラショルフ殿とは?」

「ええと、機械生命体の方で・・・あれ、ええと、HBでしたっけ?ホワイトさん」

「ん?HCB・・重収縮弾頭のことか?」

「あぁそうですそうです。それを積んだICBMを提供してくれたんですが・・」

HCBという単語を聞いた途端、夕張がしゅんと落ち込んだ。

「まさか同じ仕組みを考えてる人が居て、しかも15年も前に完成させてたなんてね・・あはは」

高雄が優しく夕張の頭を撫でる横で、日向は続けた。

「正直に言おう。我々はどうしてもHCBの技術が欲しいのだ」

「んー・・」

マスターが曇った表情で顎に手をやって考え出したので、日向は一旦言葉を切った。

MP40がそっと手を挙げたので、日向は視線で発言を促した。

「えっと、その後の事はご存知ですか?」

「その後というと、投下された地域の、という意味か?」

「はい」

「実は今日はその視察もお願いしたいと思っててな」

MP40は小さく頷いた。

「御覧になった方が良いと思います。あれは、凄まじいですから」

日向は眉をひそめた。

「どういうことだ?」

「ご覧頂いた方が良いと思います。あと、ラショルフさんに解説してもらった方が良いと思います」

マスターはMP40に向かって頷いた。

「そうだね。まずはあれを見てもらって、配備の是非を考えてもらった方が良いだろう」

「はい」

マスターは日向に向き直った。

「よろしければこれから視察にご案内しますが、よろしいですか?」

日向は頷いた。

 

 

-----

 

 

「ラショルフさん、こんにちは」

「おう。あのHCBに興味があるんだって?珍しいなあ」

「良ければ視察時に解説をお願いしたいんですけど」

「構わねぇよ。あれが何でまたお蔵入りになったか一発で解るように説明してやるよ」

「お願いします」

夕張がそっと声をかけた。

「あの、ラショルフさん」

「あん?」

「また、お蔵入りになったってことは、前にも実用化されてたのかしら?」

「ああ。元々はエイリアンの技術だ。西暦5000年頃に地球に持ち込まれたトンデモ兵器さ」

「へぇ」

「だが、そのエイリアンさえ最後まで使わなかった。だから実戦で使われたのは先日のあれが初めてさ」

「何か重大な後遺症があるのね?」

「そういうこった。マスター、偵察ドローンはまだ在庫あるかい?」

「すまない。この前の砲撃で皆壊されてしまったよ」

「あー、じゃあ俺っちの持ってきてやるよ。上から見ねぇとな!あとAMAも持ってきてやるよ」

「お手数かけます」

「気にすんな!じゃ、あとでな!」

 

小1時間の後、日向達艦娘勢とマスター達4人組は、ラショルフが乗ってきた装甲車に乗っていた。

夕張が助手席でしきりにラショルフに話しかけている。

「これ凄いわね!もとはNBC用装甲車でしょ?」

「あぁ、だが今のコイツはそれよりヤバい物から俺達を守ってくれるぜ!」

「さっきAMAって言ってたわよね?何の略なの?」

「Anti Magnetic force Armed car、つまり磁力線対策車ってことよ!」

「磁力線?」

「あぁ。1ヶ所見ればすぐ解るぜ!」

 

 

-----

 

 

砂丘を1つ、また1つと超え、着弾地点に近づくにつれ、天候が悪化していく。

上空には稲妻が光り続ける真っ黒く分厚い雲がはるか上空までそびえている。

雨こそ降ってはいないが、時折強い突風が吹き荒れ、視界を失わせていく。

そんな中、アラーム音が鳴動した時にラショルフはAMAを停止させた。

夕張はレーダーを見ながら言った。

「ねぇラショルフさん、着弾地点はまだ25km位先でしょう?」

「おうよ」

「じゃあもうちょっと行かないと見えないわよ?」

ラショルフは首を振った。

「これ以上は無理だ。そして見るためにコイツに犠牲になってもらうのさ」

ラショルフは箱を開けて偵察ドローンを1セット取り出すと、射出機に装填する。

「ドローン?」

「そうさ。もう2度と帰ってこれない片道切符のな。あのモニタ見とけよ」

 

 

「・・・なんということだ」

日向は次第に爆心地に近づいていくドローンの映像に釘付けになっていた。

そこに映るのは、ただひたすらに黒く深いクレーター、そして中心から立ち上る黒い雷雲であった。

ラショルフが説明を続けている。

「・・つまりブラックホールが出来た8ミリ秒の間、ここにあった物は全て爆心地に引き寄せられたのさ」

「加速度は光の速度の数倍に達したし、その速度では動くだけで摩擦熱で溶けちまう」

「さらにおっそろしい密度で押し固められる時に、一部は無理矢理エネルギーに変換されちまった」

「クレーターが黒いのは炭の粒子に覆われてるからさ。風で舞い上がり、他の粒子と擦れて発火して灰になる」

「そうした諸々のエネルギーがあの鳴りやまない雷雲を維持してる。爆心地はまだ解析出来てねぇ」

「あと、こんな車で来たので解ると思うが、クレーター内はEMP砲も真っ青な強磁場空間になってる」

「俺達が足を踏み入れたら一瞬でデータはオシャカ、義体は燃える。電子レンジの中に放り込まれるようなもんさ」

「解析の結果、少なくとも雷雲が消えるのに20年、磁力喪失もほぼ同じくらいかかるようだと推定してる」

「人類は放射能汚染を恐れて核兵器の行使を最後まで手控えたってきいてるけどよ」

「HCBも長期間土地が使えなくなるという意味では似たり寄ったりだ」

「俺っちは技術的な興味で最強の非核兵器であるHCBを再現したんだけどさ・・」

ラショルフは俯きがちに首を振った。

「こいつはさすがに誰も持たねぇ方が良いって、今は思うぜ」

夕張は一言も話さずにドローンの映像を見つめていたが、ふいに呟いた。

「確か、今回使ったのは半径15kmってことだったわよね」

「あぁ」

「もっと小さくても一緒かしら。ええと、手榴弾クラスとか、そんなイメージ」

ラショルフは首を振った。

「俺っちの最初の実験は50cm四方の空間を1cmに圧縮したんだが」

「それで?」

「その後、実験をした辺りの野原だけは、なぜか雨が多くなったぜ?」

「たった50cm四方の圧縮で天候に影響するレベルって事ね?」

「今から思えばな・・・」

 


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