今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第35話

 

訪れた沈黙を破り、日向がラショルフに訊ねた。

「そういえば、着弾地点には何があったのだ?」

「鉄血の拠点管理者の拠点工場だ。クレーターになってからもアホが突っ込んでいったぜ」

「どういうことだ?」

「強襲偵察用の重装甲車両が少なくとも2部隊はクレーターに侵入していった。誰も帰ってこないがな」

「今も・・どこかに居るのか?」

「あぁ。えーと・・待ってくれ」

ラショルフはドローンに行き先を設定した。

「もうだいぶ応答が鈍くなってきやがったな・・あぁ、1台見つけた。ほら、画面端のこれだ」

「重装甲の装甲車だな。だが・・それも黒焦げでタイヤが無いな」

「炭の粒子が絡みついて燃えちまったんだろうよ」

「ハッチは閉まっているな。開けた形跡もない」

「俺っちはクレーターの中程で磁場にやられて搭乗者は死んじまったんだと思ってる」

「なぜだ?」

「こんな強磁場突っ切って生きられる訳がねぇ。あの辺は地表で平均500テスラ超えてるんだぞ?」

「・・なるほど。乗員ごと磁石の塊になったという事だな」

「そういうこった・・あぁ、もうだめだ」

ラショルフはカチャカチャとコントローラーを動かしていたが、程なくドローンからの通信が途絶えた。

「ドローンもああやって制御不能になるし、無理矢理帰還させても着磁しちまって手に負えねぇ」

ややあってから、日向は高雄の方を向き、静かに首を振った。

「高雄、我々はこの研究から手を引こう。提督に見せた時の反応が手に取るようにわかる」

「そうですね・・夕張さん、解ってくれる?」

夕張は頷いた。

「半径50cm規模でもダメとなるとねぇ・・でも実物見たかったなぁ」

ラショルフは夕張を見た。

「技術的にどうしても見たいってんなら、残った1発持ってくか?」

「えっ現存してるの?」

「おう。この間の作戦では5発のうち4発しか使わなかったからな」

「どうして?」

「使った4発はほぼ同時刻に着弾させたんだが、その映像を見たホワイトさんが一瞬で中止を決めた」

皆の視線を感じたホワイトは頷いた。

「これは後の世に影響が大きすぎると判断した。残る一ヶ所の攻撃予定地はMOABで代替させた」

日向は夕張の視線を受け止め、しばらく考えた後にラショルフを見て言った。

「その、引き取るとすれば、一式売却と考えて良いのか?」

「あぁ。制御管理システムも、ICBM積んだ積載車も図面も何もかも持ってきな。正直、持ちたくねぇ」

日向はしばらく考えていたが、ややあってから頷いた。

「一式幾らとする?」

「要らねぇと言いてぇが、物入りだからくれる分には幾らでも大歓迎なんだ・・すまねぇ」

「この車両も放棄するのか?」

「あぁ。留まり過ぎたから消磁出来ねぇと思う」

「ふむ・・」

日向はしばらく白雪とやり取りをしていたが、

「この車両での送迎と解説といった費用も込みで、金貨8千枚でどうだ?」

「へ?」

「少ないか。ではキリよく1万枚でどうだ?」

ラショルフはふるふると首を振った。

「少ねぇなんて言ってねぇよ・・・くれるってんならもらうけど多すぎねぇか?」

「実際に稼働する成果物の一切合切と考えれば安いものだ」

「そりゃありがてぇ。で、そろそろこの場所でも限界だから退却したいが、いいか?」

皆はこくりと頷いた。

 

 

「やぁ、マジか。即金で金貨1万枚って・・しばらく研究し放題だなぁ・・・」

ラショルフはテーブルに文字通り山と積まれた金貨を呆然と眺めていたが、ふいにマスターの方を向いた。

「なぁマスター」

「なんです?」

「千枚やるよ」

「頂く理由が1つもないんですけど?」

「ホワイトちゃんの判断にだよ。5発目まで撃たなくて良かったと思うからよ・・」

「何度も言ってくださったじゃないですか」

「何度でも言いたいことだからだよ。それにマスター、物入りだろ?」

「それはそうですが・・」

「そういうこった。だから金貨千枚は置いてくぜ」

ラショルフは9千枚を受け取った元のケースに押し込むと、

「じゃあな皆、また金属加工とか兵器関係で話があったら俺っちを呼んでくれよ!」

そういって立ち上がったのだが、夕張が声をかけた。

「あ!じゃあこれ私の名刺。連絡先交換しましょ?」

「おー、俺っちの名刺は豪華だぜ?驚くなよ」

「あら趣味良いわね。外骨格のスケルトンモデルを背景に置くなんて」

「おうよ。あ、電話相談でも料金もらうからな?」

「良いわよ。時間をお金で解決しなきゃいけないことはあるもの」

「おっほう。FOLMEさんは資金が潤沢で羨ましいぜ・・じゃあな」

日向は出ていくラショルフからマスターに視線を戻した。

「さて、マスターの迅速な仲介により、我々は想定の数倍の速さで目的を達成できた。仲介料は幾らだ?」

マスターはラショルフが置いて行った金塊を指さした。

「我々はあれで十分ですよ」

日向は首を振った。

「今日一日の成果はそんな安い物ではない。幾らの損害を防げたと思っている」

「ですが」

日向はマスターの目に視線を合わせて黙らせると、言った。

「ならば君達の結婚への祝儀としよう。加古、手を出せ」

「へ?はい」

加古が差し出した手に乗せられたケースは、加古をつんのめらせるほどに重かった。

日向はマスター達4人を見渡し、頭を下げた。

「本当に今日の仲介に感謝する。この店の1日も早い復興を願っているぞ」

日向が玄関に向かったのを見て、他の艦娘達も一礼し、日向を追って行った。

一行を見送った後、マスターはホワイトに話しかけた。

「ホワイトさん」

「あぁ」

「あの千枚はどうぞお持ちください」

「なぜだ?」

「貴方の判断の結果ですから」

「・・解った。ありがたく受け取ろう。で、マスター殿」

「はい」

「遅くなったが、私からもMP40と加古との結婚の祝儀をさしあげようと思う」

「え?」

「あの金貨千枚をな。包みが無くてすまないが」

「いや良いですって」

「おや、マスターは人の厚意を袖にするというのかな?」

ホワイトの茶目っ気たっぷりな上目遣いで見られたマスターは頭をがりがりと掻いた。

「あー・・いえ、そんなことはないんですが」

「ならばそういうことで」

「ええと・・では、ありがたく・・・あれ?何かおかしい気がする・・」

マスターはしばらく目を瞑って唸っていたが、ふいに顔を上げた。

「あ、加古!お前が貰った方は何枚あったんだ?」

「えっ?超重いよ?」

「重さじゃなくて数えないとダメだろ」

「えー」

それから1時間後。

「マスター・・・やっぱり何度数えても金貨が1万枚あるよ」

マスターは青い顔で頭を抱えていた。

「祝儀のレベルじゃないよ・・1枚だけもらって後は返しに行くか・・」

加古は勢いよく首を振った。

「何バカなこと言ってんの肉焼こうよ肉!あとお店だってMRAPだって要るでしょ!」

「お前肉好きだな・・・それに全部買ったって2千枚も要らないよ・・」

「新車買って注文住宅建てれば良いじゃん」

「そんな贅沢したら目がつぶれるよ・・」

「じゃあ自動運行ヘリ買ったら?デラさんに融合炉ユニットつけてもらってさ。配達楽になるよ?」

「どうして使い切る方向で考えるんだお前は・・」

「それくらい色々出来るって事だよマスター」

「いや待て。そもそもそれはお前が貰った金なんだから店の再建に使う事はないぞ?」

そう答えたマスターの肩に、ホワイトはそっと手を置いた。

「ん?なんですホワイトさん?」

「その・・差し出がましい事かもしれないが」

「え?ええ」

「恐らくその決定の先には、家が潰れる程クッションが積みあがる未来が待っているぞ?」

真顔になるマスター、頷くホワイトとMP40。

そのまま3人に見られた加古は深々と頭を下げながら金貨の入ったケースをマスターに差し出した。

結局、今後10年間、加古、MP40、そしてホワイトは毎月のお小遣いとして金貨3枚を受け取ることになった。

ただし、加古は自分の部屋に入る所までしかクッションを買わない、という誓約をさせられたそうである。

 

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